暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#16 ナニガ×ドウシテ×ソウナッタ!?

 ゾルディック家本邸はククルーマウンテンの内部にあった。

 というよりも、山そのものを家にしていた。

 

「見事なもんやな」

 

 ラミナは素直に称賛する。

 老朽化もほぼ心配ない。もちろん大地震が起きれば話は別だが。それでも周囲の樹海も含めれば、まさに天然の要塞だ。

 下手に侵入すればミケのような獣に襲われ、試しの門から進んでもゴトーを始めとする暗殺術を仕込まれた使用人達が多数待ち構えており、本邸まで来ても更に鍛えられた本命のゾルディック一家がいる。

 

 幻影旅団でも壊滅覚悟でなければ厳しいだろうとラミナは考える。

 

 正直、ずっと耐えているが首の後ろがピリピリして落ち着かない。

 流石に暗殺一家の本拠地にいて、落ち着けるわけはない。

 更に先ほどからず~っと誰かに見られているような妙な気配を感じていた。

 

(隠れて見とるっちゅう感じやない。監視カメラか何かか? それで視線を感じるっちゅうことはカメラを通して誰かが見とるってことか)

 

 眉間に僅かに皺を寄せながらゴトーの後ろを歩くラミナ。

 ふと、窓から外を見ると、すっかり日が暮れていた。

 

「今日は面会あるんか?」

 

「はい。この後、客室にご案内後にシルバ様、ゼノ様とのご会食の予定となっております」

 

「……さよで」

 

 全く喜べない。

 毒料理でないこと、そして客室に隠しカメラや暗殺道具がないことを祈るラミナだった。

 それを感じ取ったのか、ゴトーが苦笑しながら、

 

「ご安心ください。客室に変な仕掛けはございません。料理にも毒や薬などを混ぜることもありません。お客人として招いた以上、礼儀を欠くような真似を好む方々ではありませんので」

 

「信じるで、ホンマ」

 

「その時は私の首を差し上げましょう」

 

 その言葉にラミナは少し警戒を下げる。

 シルバとゼノはそうでも、他の家族がそうとは限らないかもしれないので完全に解くことは出来ない。

 イルミが似ているという母親には特に注意する気でいた。今日の食事にはいない様だが、油断は出来ない。

 

「ご滞在の間はこちらでお寛ぎください」

 

 案内されたのはホテルのスウィートルームのような部屋だった。

 ソファやテレビが置いてある10畳ほどのリビングルームに、豪華な洗面台が備え付けられた浴室。そして清潔なシーツで整えられた2つのベッド。

 

「豪華やな」

 

「旦那様より最大級のおもてなしをと」

 

「怖いわ。一度殺し合いした相手にここまでされたら」

 

「ふふっ。そうでしょうな。恐らくは以前タダ働きにされた意趣返しでしょう」

 

「ちっさ! 伝説一家の当主のくせにちっさ!」

 

「それとリッパー様。これよりはこちらのアマネがご案内とお世話を担当させていただきます」

 

 ゴトーが紹介したのは、黒髪の若い女執事。

 

「アマネと申します。なんなりとお申し付けください」

 

「よろしゅう。さっそくで悪いんやけど、スーツ一式用意してくれへん? この服と靴、大分傷んでしもたから処分したいんよ。金は口座に振り込むさかい」

 

「わかりました。すぐに着替えをご用意いたします。スーツは何かご要望はございますか?」

 

「黒はそっちと混ざりそうやから、紺色で頼むわ。んで、シャツはブラウスやなくてTシャツやタンクトップでええわ。靴はブーツでっていうか、今履いとるんと似たもんでええわ」

 

「承知しました。それではスーツだけでなく、何種類かお持ちしますので少々お待ちください」

 

「すまんなぁ」

 

「いえ、こちらも良い経験となりますので。では、失礼します。アマネ、後は頼むぞ」

 

「はい」

 

 30分後。

 他の女性使用人達が多くの衣装を持ってきた。

 その中から紺色のジャケットに紅のタートルネックシャツ。オリーブ色のスキニーカーゴパンツにブーツを選んだ。

 

「おおきに」

 

「いえ! なんでしたらご滞在中は残りの服も着てみてくださいませ。気に入ったものがあれば、そのままお譲りして構わないと旦那様からも許可を頂いております」

 

 何故か少し興奮気味に言う女性執事。

 訝しむ様にアマネに顔を向けるラミナ。

 アマネは眉尻を下げて、少し戸惑いの表情を浮かべ、

 

「ゾルディック家でそのようなファッションを好む女性の方はおりませんので……」

 

「着せ替え人形が出来て嬉しいっちゅうことか?」

 

「……恐らくは。私達、使用人は私服に着替える機会などほぼありませんので」

 

「なるほどなぁ。まぁ、あんまり派手やなかったら構へんけど……」

 

「ありがとうございます!!」

 

「……気合入れんでええで。いつまでおるんかは知らんし」

 

「しばらくは滞在してもらうつもりだと伺っておりますが?」

 

「マジで?」

 

「はい。例の……キルア様の友人を名乗る者達の様子を見るつもりとのことです」

 

 アマネの言葉にラミナは首を傾げる。

 

「ゴン達はまだ門の前におるんか?」

 

「いえ、守衛の家で泊まっているようです。なんでも『自力で試しの門を開けるために特訓する』とのことで」

 

「……なんでそうなったんや?」

 

「そこまでは……」

 

「……ゴンのことやから、堂々と入ってキルアを取り戻したいってところか? 呑気なんか頑固なんか……」

 

「試しの門を自力で開けても、ここまで来れる可能性はないと思いますが……」

 

「まぁ、そこらへんは意地で切り抜ける気やろな~。あれは暗殺者でも呆れるレベルの頑固さやでな」

 

「はぁ……」

 

 アマネは要領を得ない表情を浮かべる。

 ラミナも伝わるとは思っていないので、苦笑して肩を竦める。

 

「それにしても、随分と若い使用人が多ないか?」

 

「ゾルディック家の執事は代々仕えている血筋の者もおりますし、流星街やスラムなどから引き取ることもあります。キルア様のお母様であるキキョウ様も流星街の出身なので」

 

「ほぉ……同郷なんか」

 

「リッパー様も?」

 

「そやで。でなかったら、この歳でフリーの暗殺者なんかしてへんて」

 

「……なるほど」

 

 アマネは納得したように頷く。

 そこにノックが響き、会食の準備が整ったと告げられる。

 ラミナはアマネの案内の元、会場へと向かう。

 

「そういえば、キルアは今どうしとるんや?」

 

「っ……!!」 

 

 ラミナの質問にアマネの体に一瞬緊張が走った。

 それだけでラミナはあまりよろしくない状態であることだけは理解する。

 

「あんたらに聞かん方がよさそうやな。すまんかった」

 

「いえ……こちらこそ申し訳ありません」

 

「気にせんでええ。……キルアは嫌われとるわけやないみたいやな」

 

「それはもちろんです。キルア様を嫌う使用人など1人もおりません……!」

 

 感情を露わにして言い切るアマネ。

 それにラミナは苦笑する。

 ゴトーのゴンに対する態度と言い、アマネの今の言葉と言い、キルアへの思いは本物であることは疑いようがなかった。

 しかし、使用人故に庇うことも出来ない。それにシルバ達の愛情も理解しているのだろう。

 だから、出来る限りキルアが平穏に過ごせるように全力を尽くす。命を賭けてでも。

 

 ゾルディック家の一面が見られたことにラミナは少し満足する。

 恐らくゴトー達はキルアの葛藤やイルミの針の事も知っていたのだろう。

 それならばゴトーがゴンを強く警戒したことにも納得がいく。

 

「……難儀なもんやな。暗殺一家の使用人っちゅうんは」

 

「……」

 

 アマネはその呟きには何も答えない。

 もちろんラミナも答えを期待してはいなかった。

 

 

 

 案内されたのはターンテーブルが置かれた部屋だった。

 すでにシルバとゼノが座っており、ラミナも空いた席に座る。

 

 シルバの背後には長身でモノクルをかけた老婆の執事が、ゼノの背後には白髪をオールバックに纏めた老練な執事が控えている。

 ラミナの背後に控えたアマネが妙に緊張しているのを感じる。ラミナもこの2人に全く隙がなく、かなりの手練れであることが見て取れた。

 

「久しぶりだな」

 

「よう来たの」

 

「お招きどうも。豪華な部屋や服まで用意してもろてすまんな」

 

「気にするな。こちらも無理に呼び寄せた負い目もある」

 

 和やかに会話をするラミナ達。

 

「酒は飲めるか?」

 

「もちろん」

 

 ウイスキーを注がれて、3人はコップを掲げて乾杯する。

 一口飲んで、ラミナは目の前に置かれた料理に目を向ける。

 

 目の前に並べられているのは麻婆豆腐や酢豚、八宝菜などのアイジエン大陸方面の料理。

 

「……」

 

「どうした? 食べんのか?」

 

「……アマネさん言うたな」

 

「はい」

 

「ゴトーさん、呼んできてくれるか?」

 

「……ゴトーをですか?」

 

「約束やからな。首を斬り落とす」

 

「!?」

 

 突然の殺害宣言にアマネは目を見開き、シルバ達も目を細めて空気が変わる。

 ラミナも体から殺気を噴き出して、

 

「ゴトーはあんたらが客人の料理に毒を盛る恥知らずやないと言うとった。もし、盛られとったら首を差し出すともな」

 

「……つまり……毒が?」

 

「舐められたもんやで。なんのつもりか知らんけどなぁ!」

 

 ラミナはグラスを握り潰して怒りを露わにする。

 直後、右腕を振り、右斜め後ろに向かってスローイングナイフを投げる。ナイフは部屋の天井隅に突き刺さり、パキンとなにやら割れる音がした。

 

「いい加減ジロジロと鬱陶しいわ。で……答えてもらおか。うちを殺すために呼び寄せたんか?」

 

「……キキョウの奴め」

 

 ゼノが呆れたように呟く。

 アマネはどう動けばいいか判断できずに固まっており、2人の執事も直立したままだがいつでも動けるように備える。

 ラミナは【練】を強めて、シルバ達を睨む。

 

「別にええで? 殺し合いたいんやったら、とことんやろうや」

 

 ラミナは右手を軽くテーブルに叩きつけながら、【硬】を一瞬発動してテーブルを叩き潰す。

 シルバとゼノは跳び下がり、床に料理や皿、テーブルの残骸が散らばる。

 

「……本気か? いくら何でもここで戦えば、お主は死ぬぞ」

 

「せやろな。けど……この山を道連れに吹き飛ばすことは出来るで?」

 

 椅子に座ったままのラミナの左横に2mほどのクレイモアが出現する。

 

「こいつは【死を呼び寄せる死(グラウンド・ゼロ)】っちゅうてな。うちが死ぬことで発動する自爆装置や。この山から樹海くらいまでなら吹き飛ばせる威力はあるやろな」

 

「……壊しても駄目そうだな」

 

「当然やろ。うち以外の奴が壊せば、その瞬間に弾けるで。これを出した時点でそっちが取れる手段は逃げるか、取引するくらいや」

 

「決死の覚悟の現れという奴か。厄介じゃのう」

 

 ゼノは顎髭を撫でながら考える。

 ゼノがシルバに目を向けると、シルバは頷いて警戒態勢を解く。

 

「俺達にはお前を殺す気はない。こちらの無礼を謝罪する。すまなかった」

 

 シルバが頭を下げて、ゼノや執事達も頭を下げる。

 ラミナは数秒頭を下げるシルバを見つめ、小さくため息を吐いてクレイモアを消す。

 

「それで? どう落とし前つけるんや? スマンで済んだら殺し屋はいらんで」

 

「分かっている。ツボネ」

 

「はい」

 

 シルバは傍に控えていた老婆に声を掛ける。

 

「この料理を用意した料理人と料理を運んだ使用人を全員連れてこい」

 

「承知しました」

 

 ツボネは深々と頭を下げて、音もなく姿を消す。

 

「悪いが、ゴトーではなく料理人と使用人の首で勘弁してくれ。ゴトーは執事長でな。流石に死なれると困る」

 

「……料理人と使用人達だけで企んだと?」

 

「いや、恐らく妻のキキョウの命令だ。俺やイルミから話を聞いて、お前を試したかったのだろう。あいつにも何かしらの処分を下す。だが、キキョウに関しては少し時間をくれ。あいつが何を考えて毒を盛ったのか、聞かねば判断出来ん」

 

「あ奴は単純にお主の力量を視たかっただけの可能性があるのでな。儂らが覚えておる限りでは、お主のことを好意的に見ておったはずだが……」

 

「……まぁ、そこらへんが落としどころやな」

 

 ラミナは眉間に皺を寄せて、不本意ではあるが納得する。当主の妻を殺せと言えるほど被害を受けていないのも事実だ。

 トカゲのしっぽ切りではあるが、闇社会の組織ではよくあることだ。

 これで今後は毒を盛られたり、変なことを仕掛けられることは無くなると思われるので、ラミナはそれで良しとすることにした。

 

 【練】を抑えて椅子から立ち上がる。

 

「キルアが逃げ出したくなる気持ちが分かった気ぃするわ……」

 

「……」

 

「耳が痛いのぅ」

 

「で、キルアはどうしとるんや? また針かなんか仕込んどるんか?」

 

「アホ言え。今のキルアにそんなもん仕込めるわけなかろう」

 

「まだ念も使えんのやから、気絶させるくらいわけないやろ?」

 

「今のキルアに何かを仕込めば違和感で気づかれる可能性が高い。だから、もう同様の手段はとれん」

 

 シルバの言葉にラミナは納得する。

 

「けど、もう今のキルアは後継者にはなれんのちゃうか? 実力や才能やなくて、思想的にって意味で」

 

「そこが困っとるんじゃよ。流石にあの才能は惜しい。しかし、このままではキルアがキキョウ辺りを殺しそうでのぉ」

 

「あんたらはどうなんや?」

 

「恐らくまだ嫌われてはおらんじゃろう。儂には時々甘えてきておったし、シルバに関しては尊敬してると言っておったしの」

 

「……キルアが直接俺に反抗したことはない」

 

 どうやらキルアは母型の気質が嫌いなようで、尊敬する相手にはしっかりと敬意を示しているようだ。

 シルバとゼノは『殺しは仕事』という姿勢を明確に示している。恐らくそれがキルアにとっては共感しやすかったのだろう。それに加えて、息子というのは強い父親に憧れを抱きやすいとも聞いたことがある。

 

 そこから考えられることは、

 

「キルアは今まであんたらに言われたターゲットばっかりを殺してきたんやろ? 仕事っちゅうよりは訓練みたいな形で」

 

「ああ」

 

「それが嫌やったんちゃうか? ハンター試験でのキルアを見とる感じやと、完全に殺しを忌避しとる感じやなかったで? 自分が納得出来れば、殺すことを戸惑わんやろ。まぁ、問題は仕事での殺しが納得出来るんかっちゅうことやけど」

 

「ふむ……」

 

「今後はキルアに仕事を斡旋するだけに留めたらどないや?」

 

「そうじゃのぉ……」

 

「……今、ここを目指している友人に関してはどう思っているんだ?」

 

 シルバはゴン達について質問してくる。

 ラミナは腕を組んで眉間に皺を寄せる。

 

「そやなぁ……。ゴンに関しては難しいところやな。キルアだけに関わらず、人に影響を与えやすいタイプやな。更に価値観が非常に独特や。一般人とも、裏社会の人間ともちゃう。事実、キルアやうちにも普通に接してきよる。暗殺者っちゅう職業に嫌悪感も出さへん」

 

「……」

 

「せやけど、納得出来んことに対しては全く引かんし、妥協を知らん。例えそれで死ぬことになってもな。やから、危うい面はある」

 

「なるほど……。それは厄介な小僧じゃな」

 

「ただキルアとの相性がええんも事実や。直感的なゴンと理知的なキルアは互いの苦手な部分をカバー出来とる。ゴンの資質もかなりのもんやから、鍛えればキルアの足を引っ張ることも少なくなるやろ。後はゴンとキルアがどんな行動をしていくか、やな。それ次第で暗殺者家業を継ぐ気になるかもしれんし、やっぱり嫌やってなるかもしれん。まぁ、これはこのまま家に縛り付けても同じやろうけどな。家を継がせるなら、仕事せなあかん。仕事の度に監視付けるんにも限界があるやろ」

 

 ラミナの言葉にシルバとゼノは考え込む。

 

 しかし正直なところ、ラミナはもうキルアとゴンを無理に引き離すのは不可能に近いと思っている。

 今言ったようにキルアをずっと閉じ込めておくことも出来ない。後継者にすることを諦めれば話は別だが、それだとキルアを暗殺者として使うのは制限がつくだろう。

 

 では、一番簡単な方法は何か。

 『ゴンを殺す』ことである。それでキルアは友達を作るのを諦める()()()()()()。ただし、間違いなく家族との関係は破滅的になる。今殺せば本当に殺し合いに発展する可能性もある。これも後継者にすることは絶望的になる。

 

 現実的なのは『ゴンを説得して諦めてもらう』こと。

 しかし、ゴンの性格上諦めるとは思えない。何年かかってもキルアを取り戻そうとして、ここにやってくるだろう。 

 それをキルアに隠し続けるのも難しい。

 

 最悪は『キルアを殺す』こと。

 才能が惜しいと言っても、それを活かせないのであれば下手に放り出すのも危険な可能性がある。ならば、殺してしまう方が後腐れない。ついでにゴンも殺してしまえば、煩わしい事は減るだろう。

 と言っても、それをシルバ達が選ぶ可能性は今までの話からすれば0に近い。

 

 つまり、現状ゴンとキルアの関係を切ることは容易ではない。

 2人の関係を認めようが、引き離そうが、確実に今後のゾルディック家に何かしらの影響が出る。

 

「まぁ、ゆっくり考えるんやな。キルアとも話をして、な」

 

「……そうだな」

 

 その後、料理人と使用人達10人ほどが連れて来られて、シルバが全員の首を手刀で斬り落としたことで食事会は血塗られて終わった。

 

 話した内容もあり、「別室で」などとなるわけもなく解散となった。

 ラミナは客室で新しい食事を用意してもらって食べる。その後は入浴して、さっさと休むことにした。

 

 

 

 それからなんと3週間が経過した。

 理由はゴン達の特訓がようやく終わったからだ。

 

 その間、ラミナはのんびりしたり、ゼノや使用人達と組み手したりして過ごしていた。

 残念ながらキルアがどこにいるかも分からず、会わせてもらうことも出来なかった。

 

「なぁ、爺さんや……ズズ……」

 

「ズズ……なんじゃ?」

 

 ラミナはゼノと並んで座り、茶を楽しんでいた。

 

 ゼノとはすっかり仲良くなっていた。ツボネやアマネを始めとする使用人とも仲良くなっており、なんだかんだで休暇気分で楽しんでいた。

 ツボネがアマネの祖母というのに驚き、この前ゼノの後ろに控えていたのが祖父だったことにさらに驚く。

 ちなみにキキョウはシルバとゼノに叱られて、ラミナとの面会を禁止されていた。他にもキルアの兄弟がいるらしいが、1人はキルアに刺されたことに対して仕返しをしており、もう1人は母親の傍から離れないらしい。

 と言っても、ラミナは会う気もないのでどうでもよかったが、ゼノの孫への愚痴を聞きすぎて更に会う気はなくなっていた。

 

「うちがゴン達を待つ理由はあるんか?」

 

「ん~、あると言えばある。ないと言えばない」

 

「おい」

 

「悪いとは思うておるが、その者達が動かなかったのだから仕方なかろう。シルバも図りかねておるようでの」

 

「やから、それとうちが何の関係があんねん」

 

「……仕方ないのぅ」

 

 ゼノは観念したようにため息を吐く。

 

「シルバはキルをしばらく自由にさせる気でおるようでな」

 

「ほぉ……ズズ……」

 

 思い切った判断をしたことに茶を飲みながら感心するラミナ。

 しかし、

 

「そこでキルの面倒をお前さんに見てもらおうと思っておる」

 

「なんでやねん」

 

 速攻でツッコむ。

 後ろに控えていたアマネや他の執事も僅かに目を見開いていた。

 

「うちかて仕事や予定もあるんやぞ?」

 

「別にずっとと言うわけではないぞ? 正確にはキルに念を教えてやってほしいんじゃよ」

 

「……うちがぁ?」

 

「儂らでは今までと同じように殺しに特化した能力を教えそうなのでな。お前さんなら暗殺向けも汎用的な能力も教えられるじゃろ? 武器もまだまだありそうじゃしな」

 

「それだけか? まだなんかあるやろ。うちに頼むには理由が弱いで?」

 

 キルアの針を抜いた埋め合わせに関しては、ぶっちゃけこの前の毒料理でチャラになったと思っている。

 正直3週間も滞在させた上に、キルアに念を指導するのは少し関わらせ過ぎではないだろうかとラミナは疑問に思う。

 それに念を教えるだけなら、この3週間の間に教えれば済んだ話である。もちろん全てを教えるには全然足りないが、それでも【纏】くらいは会得させられただろう。

 

「すまんがこれ以上は儂の口からは言えん。あ奴の父ではあるが、今の当主はあ奴じゃからな」

 

「偏屈爺」

 

「かっかっかっ!」

 

 ゼノが笑って誤魔化し、ラミナがジト目でゼノを見る。

 その時、執事の胸ポケットからバイブ音がする。

 

「はい。……承知しました」

 

 執事は胸ポケットから携帯を取り出して、どこかから連絡を受ける。連絡を受け取った執事は通話を切り、携帯を仕舞いながらゼノに声を掛ける。

 

「ゼノ様」

 

「なんじゃ?」

 

「シルバ様から『独房にいるキルア様を部屋に連れてくるように伝えてほしい』と……」

 

「やれやれ。年寄りをこき使うのぉ」

 

「我々が行きましょうか?」

 

「いや、どうせまだミルの奴が暴れておるじゃろ。だから、儂に行かせる気じゃ」

 

「うちは部屋に戻るとするわ」

 

「すまんな」

 

「かまへんかまへん。ようやっと話が進みそうやからなぁ」

 

 ラミナも立ち上がって、客室に戻ることにした。

 アマネの案内の元、廊下を歩いていると、

 

「そういやぁ、ゴン達がどうなったんか分かるか?」

 

「少々お持ちください。………どうやら執事室に向かう途中で止まっているようですね。恐らく執事見習いが見張りをしているところかと」

 

 アマネは携帯を取り出して、情報を確認する。執事の携帯には簡単な連絡事項などはメールで共有しているらしい。

 

「まだまだかかりそうやなぁ」

 

「……どうやらキキョウ様とカルト様が向かったようですね。殺しはしないと思いますが……。追い返されるかもしれません」

 

「また面倒なことしよるな」

 

 ラミナはキキョウの行動に呆れるしかなかった。

 余計なことをせずにさっさと執事室か本邸にでも連れてきて、適当に相手して追い返せばいいのにと思う。それならばラミナもここを出て行くきっかけになる。正直、これでまだここに滞在させられるなら、そろそろ抗議するつもりだった。

 

 客室に戻りコーヒーを飲んでのんびりしていると、ゼノが訊ねてきた。

 

「どないしたん?」

 

「シルバの奴からお前さんに本来の目的を話すように言われてな」

 

「伝言板やな」

 

「喧しい。ならキキョウから聞くか?」

 

「勘弁してぇや……。って、なんかめっちゃ嫌な予感するんやけど……」

 

 キキョウの名前が出たことに、ラミナの頭の中で警鐘がガンガンと鳴り響く。

 

「うむ。これはシルバ、儂、キキョウの3人で決めたのじゃがな……」

 

 

 

 

 ゼノがラミナの部屋を訪ねた頃。

 

 シルバとキルアも会話を終え、『友達を裏切らない』と親子の誓いを交わした所だった。

 

「最後にキル」

 

「え?」

 

「リッパー……。ラミナのことはどう思っている?」

 

「ラミナ? …………凄い奴だと思うよ。イルミにだって負けてないだろうし……最後は助けてもらったし」

 

「そうか……。キル、お前を自由にする条件が2つある」

 

「っ! ……なに?」

 

「1つはラミナに鍛えてもらうこと。暗殺術とかではない。お前が強くなることを望むのであれば、必ず身に着けなければいけないモノだ。ラミナはもちろん、俺やイルミも使える。それをラミナに教えてもらえ。奴には親父から伝えてもらっている」

 

「……なんで親父じゃなくてラミナに?」

 

「言ったはずだ。その力は暗殺術ではない。いや、正確には使い方次第で殺しにも特化すれば、人を助けることにも特化するものだ。俺達はもちろんその力を殺しに使っている。俺達が教えるとお前の選択肢を奪いかねないからだ。その点、ラミナはそこら辺を考慮して、お前に教えてくれるだろう。お前が殺し技にするにしても、ラミナなら的確にアドバイスが出来る。もちろん殺し技じゃなくても、奴ならお前の助けになるはずだ」

 

 キルアはその『力』が何か分からず困惑の表情を浮かべる。

 しかし、シルバが嘘をついているようには見えなかったので、大人しく頷いた。

 

「……分かった」

 

「そして2つ目だ。これに関しては、俺とキキョウ、そして親父で決めたことだ。これはあくまで俺達の希望であって、別にすぐにどうこうするわけじゃない」

 

「……なに?」

 

 なにやら嫌な予感がするキルア。

 

 

 

 そして、シルバとゼノはほぼ同時に口を開く。

 

 

 

 

「ラミナをお前の婚約者にする」

 

「お前さんをキルアの婚約者とする」

 

 

 

 

「「…………は? ……………はあああああああああ!?」」

 

 

 

 ククルーマウンテンに、2つの絶叫が響き渡った。

 

 

 




何が、どうして、こうなった?
いつの間にやら2人が婚約することになったぞ?w

理由は次回にて!

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