暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
突如、キルアとの婚約を告げられたラミナは、口を大きく開けて唖然としていた。
アマネも大きく口を開けて固まっていた。アマネは一定限度を超えると感情が隠せなくなるようだ。
「婚約……? うちとキルア……が?」
「そうじゃ」
「…………なんでやねん!! 意味分からんで!?」
ラミナは叫びながら椅子から立ち上がる。
流石に冷静さを保つのは無理だった。いきなり婚約させられるなど予想外にもほどがある。
「ちゃんと説明する。だから落ち着かんか」
ラミナは顔を顰めて、椅子に座り直す。
ゼノは用意された茶を飲んで、話し始める。
「まぁ、簡単に言えば、抜かれた針の代わりをお前さんに任せたいということじゃな。これが儂らが提案する『埋め合わせ』じゃ」
「はぁ? ……ちっ」
「お前さんはあの毒でチャラにでもしたつもりかもしれんが、あれは関係者の首を斬り落としたことで落とし前をつけた。じゃから、『埋め合わせ』についてはまだ有効というのが儂らの考えじゃ」
ゼノの言う通り、ラミナはそれで納得してしまった。あの時に『埋め合わせ』をチャラにするとはっきりと言っておけば、問題なかったのだ。
しかし、ラミナは関係者の首で終わらせた。なので『埋め合わせ』については関係ないところで決着がついたと言えるのである。
これは間違いなくラミナのミスだった。
それに気が付いた故の舌打ちである。
「けど、なんで婚約者にすんねん? まだキルアは12歳やぞ」
「それは純粋に儂らがお前さんを気に入ったからじゃな。キキョウの奴も、同郷で、殺しが得意で、見た目もいいお前さんを気に入っとるぞ? 何よりお主の暗殺術の腕と才能をこのまま見逃すには惜しい。しかし、お前さんは使用人にはならんじゃろうからな。ならば、婚約者としてしまえばキルと共にいるのはおかしくないし、ゾルディック家とも繋がりを保てるというわけじゃ」
「……キルアが納得せんやろ? まぁ、うちもやけど」
「これはあくまで儂らが、ゾルディック家がそう思っておるというだけじゃ。別にお前さん達は嫌なら嫌で構わんよ。婚約じゃから解消もしやすい」
「つまりはうちやキルアに他の恋人が出来ればええっちゅうことやな?」
「キルに関しては、儂らが認められるかという問題もあるがな。お前さんに関してはそうなる。ただ、しばらくは婚約者のままでおる方がええぞ?」
「というと?」
「ゾルディック家は家族同士での殺し合いは基本御法度じゃ。婚約者もその内に含まれるのでな、イルミがお前さんの命を狙うことは一応不可能になる」
「一応、な」
「こればっかりはの。婚約者で無くすことになれば、その制約も外れる」
しかし、婚約者である限りは命を狙うことは許されない。
さらにゾルディック家の関係者として仕事を受ける事も出来る。必要ならば執事を使ってもらっても構わないとまでゼノは言い切る。
その代わり、たまにゾルディック家からの依頼も引き受けてもらう必要もある。もちろん仕事である以上、報酬はしっかりと払うとも言われた。
「……まぁ、報酬を貰えるんやったら仕事は引き受けるが……」
「婚約者に関してはキルと話し合って決めてくれればええ。どのように付き合うかはそれぞれの形があるじゃろうからな」
「……はぁ~」
ラミナは何だかんだで本人達の自由に委ねてくるゼノにため息を吐くしかなかった。
言っていた通り、この婚約はシルバ達ゾルディック家が勝手に言っていることだ。キルアとラミナが「違う」と言っても関係ない。そう言っているのだ。つまり、本人達の意思など関係ない。
それに政略結婚など闇社会では珍しくもない。
(キルアに念を教えるんは別にええねんけど……。婚約は厄介事になりそうやなぁ)
マチが怖い。
クロロは笑うだろう。他の旅団も笑って「おめ~」とか言うだろう。
マチが怖い。
ラミナは未だにマチには頭が上がらない。実力をつけた今でも精神的に逆らいにくい。
キルアとも相性がいいとは思えないので、キルアを叩きのめすイメージしか浮かばない。
「……うちがクモと仲ええんは知っとるよな?」
「うむ」
「うちがクモに所属するんは問題ないか? ちょっと団長から仕事依頼されとるし、団員の1人がうちを入団させたがっとってな」
「ふむ……。まぁ、儂らの仕事の邪魔にならなければ問題はないぞ。しかし、昔仕事で1人殺しとるし、今後も依頼が出るかもしれんが?」
「まぁ、殺され方次第やな。あいつらかて殺し合いしとって仲間殺されることくらい覚悟はしとる。納得出来れば受け入れる。そう簡単に仕返しをしにくることはないで」
「なるほどの」
「もちろんキルアを旅団に巻き込む気はないで。旅団やそっちの仕事の際は別行動するし、もしキルアが旅団に関わろうとするなら出来る限り止めたる。旅団にスカウトさせる気もない。それならええやろ?」
「ふむ……。それならば問題ないじゃろ」
ゼノの了解を得て、ラミナはホッと息を吐く。
後はキルアと話して、さっさと念を叩き込めばシルバ達の義理は果たしたことになる。
その後はキルアの好きなようにやらせて、旅団に近づいてくるなら止めればいい。
「っちゅうことは、うちもようやく解放されるんやな」
「そういうことじゃの。あのキルの友人達は執事の屋敷を目指しておるようでな。キルもこれから向かうじゃろ。お前さんも同行して、今のうちに2人で話をしておけ」
「へいへい……。ほな、アマネさん。案内してや」
「はい」
「ほなな、ゼノ爺。まぁ、仕事で一緒になったらよろしゅうに」
「元気でな。キルを頼むぞ」
「まぁ、出来る限りの事はするわ」
ラミナはゼノに別れを告げて客室を出る。アマネの後を続いて、廊下を歩く。
「アマネはどう思っとるんや? キルアとの婚約」
「え? そうですね……。驚きはしましたが、喜ばしいことかと」
「うちでええんか?」
「来られたばかりの時に言われていたら疑問に思ってたかもしれません。しかし、今はラミナ様の実力も性格もある程度把握しておりますので、特に疑問も否定もありませんね」
むしろアマネは執事達もほぼ全員、喜ぶのではないかと思っている。
ラミナは別に不必要に痛めつけることもなく、無理難題も言わないし、組み手で指導などもしていて執事達には好印象だった。
シルバとゼノから逃げ延び、イルミと互角に戦い、キルアを助けてくれたことも後押ししている。
特に女性執事達は、キキョウとはまた違うタイプのラミナに親しみを感じていた。
祖母であるツボネも「正直、キキョウ様やイルミ様より仕え甲斐があるね」と言っていた。
なので、アマネはむしろラミナとキルアを応援する気満々だったりする。
それを感じ取ったラミナはうんざりとして天を仰ぐ。
(……当分逃がしてくれそうにないなぁ)
想像以上の好感度だった。そこまで好印象になるようなことをしているつもりはなかったのだが。
ラミナは小さくため息を吐く。
10分ほど歩くと扉が見える。
扉のすぐ近くには、顔を顰め腕を組んでいる不機嫌全開のキルアがいた。
キルアの姿を捉えたアマネが慌てて、キルアの元に駆け寄る。
「キルア様! お待たせして申し訳ありません!!」
「……いいよ、別に。俺が勝手にここで待ってただけだし」
キルアは不貞腐れたままアマネに答える。
それに内心キョドるアマネだが、ラミナが怠そうな顔をしてキルアに近づく。
「ちゃんと断ったんやろな?」
「そういうそっちは?」
「ゼノ爺は『お前らに任せる』やと。後はうちらがどう思おうが、こっちはそう扱うとも言われたわ」
「爺ちゃん……。って、いつの間にゼノ爺なんて呼ぶ仲になったんだよ?」
「お前がお仕置きされとる3週間の間にや。まぁ、ゴン達がのんびりしとったんが一番の原因やけどな」
「……暇なの?」
「アホ言え。帰してもらえんかったんや。親父さんから婚約以外にも聞いとるんやろ?」
「ああ。なんかお前から力を教われって」
「そういうこっちゃ。やから、お前が出てきて親父さんと話すまで待たされたんや」
ラミナはジト目をキルアに向ける。
キルアも流石に少し気まずそうに視線を逸らす。
「はぁ。……まぁ、ええわ。とりあえず、さっさと行こか。ゴン達も近くに来とるらしいし」
「だな。お袋がまた来たら嫌だし。行こうぜ」
「おう。ほなな、アマネ。元気でな」
「はい。キルア様、ラミナ様、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
アマネが深く頭を下げる。
キルアはアマネに声を掛けることなく扉を開け、ラミナはアマネの後頭部をポンと労う様に叩いて続いて外に出る。
外はすっかり薄暗くなっていた。
「で、何を教えてくれるんだ?」
「あ~……ちょい待ち。先に色々話すことと聞きたいことがあるわ」
「あん?」
「うちは暗殺者の仕事は続ける。お前の婚約者にされたことで、ゾルディックからも依頼が来るかもしれん。それに関してはお前を関わらせる気は一切ない。ゾルディックからの仕事やとしてもや」
「……分かった。俺も仕事したくないし」
「でや。うちはお前にある程度教えたら、お前から離れる。別にお前を婚約者として扱う気もない」
「当ったり前だろ!! 俺だってお前を婚約者だなんて思いたくねぇよ!!」
「なら良し。で、次はゴンのことや。ここを出たら、基本的に2人で行動する気なんやな?」
「俺はね。他にやりたいことないし」
「まぁ、せやろな。ほんならゴンにも教えないかんか……」
ラミナは顎に手を当てて考え込む。
念を2人同時に教えるとなると、そこそこ時間がかかる。ある程度、場所を考える必要があるのだが……。
「キルア。金は?」
「……あんま持ってない」
「……なら、あそこ行こか」
「あそこ?」
「天空闘技場や。知っとるやろ?」
「知ってる。ってゆーか、行ったことある。6歳の頃だけど」
「6歳? 何階まで行ったんや?」
「200階。2年もかかったけどね」
「は? 200階で戦ったんか?」
「いや、行っただけですぐに帰った。だから戦ってない」
「なるほど。……なら、丁度ええか」
「確かにあそこなら金も貯まるし、修行もしやすいか」
「そういうことや」
天空闘技場。
高さ991m。地上251階。世界第4位の高さの建物だ。
勝てば勝つほど上の階に上がり、それに合わせてファイトマネーも上がる。戦いの聖地である。
建物内には様々なサービス施設があり、ある程度の階まで上がると個室も貰えて宿泊費が要らなくなる。
まさに強い者ほど好待遇が得られ、武骨者にとってはパラダイスのようなところなのだ。
「そこで教えよか。200階以上におる連中は、全員その力を使える。修行相手にはええやろ」
「……分かった」
「まぁ、ゴンの予定も聞かなあかんけどな」
「ゴンなら強くなれるなら来ると思うぜ。他の2人も来るんじゃないの?」
「そこまでは面倒見きれへん。本来はお前だけに教える契約なんやからな」
特にクラピカは恐らく旅団を相手にすることを想定して修行をするだろう。
流石にそこに力を貸すのは嫌だった。
旅団のメンバーとクラピカならば、ラミナは旅団を選ぶ。ヒソカならば喜んで差し出すが、クルタ族の時にヒソカはいなかったから復讐の対象になるかどうかは怪しい。
なので、ラミナはクラピカに念を教えるつもりはない。
「まぁ、とりあえずさっさと会いに行こか」
「だな」
キルアとラミナは走り出し、駆け足で執事の屋敷を目指すのだった。
執事達が住む屋敷もかなりの大きさだった。
「立派やな。これってあれか? 侵入者に勘違いさせるためなん?」
「それもあるね。けど、一番は執事に合ってるからだと思うぜ」
「そうかい……」
金持ちの道楽のようだった。
ラミナは呆れながら屋敷に近づくと、1人の執事が裏口に立っていた。
「お待ちしておりました」
「ゴンは?」
「今、応接室でゴトー達とお待ちです」
「サンキュ」
キルアは軽く礼を言って中に入り、ラミナも続く。
キルアは駆け足でゴンの元に向かう。
「ゴーン!!」
「キルア!!」
応接間に駆け込んだキルアはまっすぐゴンの元に向かう。
応接間のソファにはゴン、クラピカ、レオリオが座っており、その周囲をゴトー達が囲むように立っていた。
「ゴン!! 後え~っと、クラピカ! リオレオ!!」
「ついでか?」
「レ、オ、リ、オ!!」
「久しぶり! よく来たな! って、どうしたゴン? ヒデー顔だぜ?」
「キルアこそ」
ゴンとキルアは互いの顔を指差して笑う。
そこにラミナがのんびりと歩み寄る。
「お! ラミナもいたのか!」
「遅いねん、このドアホ。なんで特訓とか意味分からん事しとんねん。おかげでずっと缶詰やったやないか」
「うるせー! そこの執事やキルアの家族が会わせてくれねぇし、その門を自力で開けないと納得出来ねぇってゴンが言ったんだよ!」
「それでなんでゴンだけあそこまでボロボロやねん」
「言ったろ? 許可が出なかったから、そこにいるカナリアと少し揉めたんだよ」
レオリオは控えている女の執事を指差す。
カナリアの顔にも傷があり、ラミナは納得の表情を浮かべる。といっても、カナリアの傷はゴン達がつけたものではないのだが。
「ラミナは何もなかったのか?」
「まぁ、最初に毒料理出されたくらいやな」
「……そうか」
「いや~、下手したら盛大に殺し合い始めとったな! もしくはそこのゴトーの首が跳んどったわ」
「「はぁ!?」」
「あの時は大変失礼いたしました」
「もうええて。ゴトーが悪いわけやないし」
クラピカとレオリオは色々物騒な話に驚く。
ゴトーはすでに毒事件の翌日に謝罪をしているが、改めて頭を下げて謝罪する。ラミナは右手をパタパタ振る。
それにキルアとゴンも興味を示す。
「なに? 親父達となんかあったの?」
「親父さんやのぅて、お袋さんの方や。料理に毒を盛ってきてな。その前にゴトーが『そんなことはしない。その時は自分の首を差し出す』って言うてたから、まぁ一触即発やんな~」
「どうやって仲直りしたの?」
「毒盛った料理人とそれを運んだ使用人を
含まれた意味は全く違うが、ゴン達は『クビ』と勘違いして納得した表情を浮かべる。
キルアは意味に気づいたようでジト目を向けてくるが、ラミナは肩を竦めるだけで答える。
「まぁ、その後はキルアの爺さんやゴトー達使用人と組み手して遊んどったで。ゴン達が中々こっち来んかったから、キルアの親父さんが判断付かずで待ちぼうけや」
「そうだったの!? ゴメン、ラミナ」
ゴンが素直に謝る。
(まぁ、キルアの拷問も長引いとったことは言わん方がええやろなぁ)
キルアも特に何も思っていない表情を浮かべていたので、黙っておくことにした。
「それより早く行こうぜ! どこでもいいからさ。ここにいるとお袋がうるせぇからさ」
「確かにもうあの母親には会いたくねぇな」
レオリオもうんざりした顔で同意して立ち上がる。
「ゴトー、お袋が何言っても付いてくんなよ」
「承知しました。行ってらっしゃいませ」
ゴトーは頭を下げてキルアを送り出す。
ラミナがゴトーに近づき、
「まぁ、出来る限り注意しとくわ」
「よろしくお願いいたします」
ラミナは少し歩いて、
「もし、うちの子守が我慢出来んかったら……」
ラミナは上半身だけゴトーに振り返り、指で自分の額を軽く突く。
「その時はうちの頭、撃ち抜かせたるわ」
ゴトーは小さく笑みを浮かべる。
「そのようなことにはならないと期待しております」
「期待すんなや。うちは、暗殺者やさかいな」
ラミナは振り返ることなく告げて、キルアの後を追う。
その背中にゴトーは改めて深く頭を下げるのだった。
夜を徹して移動したラミナ達はデントラ地区の町に到着した。
「はぁ!? 観光ビザで来てんのか!? ハンター証を使えば観光ビザなんてなくても、ずっと滞在出来るんだぜ?」
「俺達もそう言った」
「うちは使っとるけどな」
「う~~……だって決めたんだもん。やること全部やってから使うって!」
「何だよ? やることって」
「え~っと……お世話になった人に挨拶に行って……カイトと連絡とって落とし物返したいし。でも一番は……」
ゴンはポケットから丸いものを取り出す。
それは『44』と書かれているハンター試験で使われていたヒソカのナンバープレートだった。
「このプレートをヒソカに顔面パンチのおまけ付きで叩き返す!! そうしないうちは絶対ハンター証を使わないって決めたんだ!!」
(頑固やな)
ラミナは気合を入れているゴンを呆れながら見つめる。
「ふーん。で、ヒソカの居場所は?」
「……知らない」
「「アホ」」
「うぅ……」
ラミナとキルアに呆れながら言われて、項垂れるゴン。
するとため息を吐いたクラピカが口を開く。
「私が知ってるよ」
「本当!?」
「ああ」
「……最終試験の時か?」
「それもあるし、講習会の後にも聞いた」
レオリオが真剣な顔でクラピカに訊ねる。
「ずっと気になってたんだが。何を言われたんだ?」
「……『クモについていいことを教えよう』とな。そして、講習会の後に問い質したら『9月1日。ヨークシンシティで待ってる』と言った」
「っ! (あのクソが……!)」
ラミナは殺気が漏れないように耐える。
やはりヒソカは旅団のことをクラピカに話していた。
(狙いは……あの戦闘狂からすればクロロ、次点でウボォーか。……はたまた全員か……)
一番の目的は恐らくクロロだろうと推測する。
そのためにクラピカを巻き込むつもりのようだ。
(クロロには知らせとくか? ……いや。まだクラピカがそこまでにどうなるかが分からへん。うちがマフィア側に潜り込めれば『仕事』として狙えるか……)
そして、もう1つ厄介なことになった。
(このままやとゴンはもちろん、キルアもクロロ達とぶつかりかねんか。くそっ!)
ラミナは心の中で盛大に吐き捨てる。
ヒソカただ1人に、全員がいいようにかき回されている感覚に襲われるラミナ。
ラミナが1人で考えている間にゴン達もヨークシンの話が終わったようだった。
「じゃ、私はここで失礼する」
クラピカがそう言った。
「え!?」
「キルアとも再会できたし、私としては一区切りついた。これからは本格的にハンターとして、仕事を探す。オークションに参加する金も要るしな」
「そうか。……じゃ、俺も故郷に戻るとするか」
「レオリオも!?」
「やっぱり医者の夢は捨てきれねぇ。国立大学に受かれば、バカ高い授業料もハンター証で免除だしな。これから猛勉強よ」
「……うん! 頑張ってね!」
「ラミナはどうするんだ?」
「ちょいとキルアの面倒見ろって親父さんに頼まれとるでな。もうちょっとゴン達とおるわ。それが終わったら、仕事に戻るやろな」
「お前も大変だな」
「うっさいわ」
「また会おうね!」
「そうだな。次は……」
「「「「9月1日。ヨークシンシティで!!」」」」
4人が誓い合う様に言う。その横でラミナも苦笑している。
本来なら約束する気などないが、仕事で間違いなくヨークシンシティにいるので再会する可能性は高い。
その時はクラピカとはどういう関係になっているかは、定かではないが。
クラピカとレオリオは空港で別れたゴン達。
「さて! これからどーするの?」
「どうするって、特訓に決まってんだろ?」
「ヒソカ殴りたいんちゃうんか。何十年かける気やねん」
「うぅ……」
楽観的なゴンにラミナとキルアは呆れて、ゴンは再び項垂れる。
「実はさ、ラミナが俺になんか力を教えてくれることになってんだよ」
「力?」
「ああ。ラミナ、いい加減教えろよ」
「……まぁ、ええやろ。とりあえず説明はしとこか」
ラミナは頷いて、とりあえず念について簡単に話すことに決めた。
「今から教える力は『念』っちゅうもんや」
「念?」
「そ。この力はプロハンターなら使えて当然。っちゅうか、実力者と呼ばれとる連中は基本この力を使っとる」
「ヒソカも?」
「そやで。今回の受験者の中ではうちとヒソカ、そしてイルミが念を使える。試験官達はもちろん全員使える」
「どんな力なんだ?」
キルアが訊ねた直後、キルアとゴンはラミナから異常な圧迫感を感じて反射的に跳び下がる。
ラミナは【練】を行って、2人に威圧をかけたのだ。
「似たようなもん感じたことあるやろ?」
「……兄貴」
「そや。イルミがお前らを威圧してたんがコレや」
「今のが念なの?」
「正確にはその一種や。念は奥が深いし、人によっても使い方がちゃう。やから、うちがお前らに教えるんは誰でも出来る技までや。それ以降はお前らだけで鍛えて行かなあかん。死ぬまでずっと、な」
ラミナから威圧感が消えて、ゴン達は息を整えて汗を拭う。
「念っちゅうんは『体に眠るオーラを自在に操る力のこと』や。オーラは生体エネルギーとも言う。つまり、誰でも使うことが出来る」
「オーラ……」
「生体エネルギー……」
「まぁ、地域によっては『気』とも言うけどな。念の恐ろしいところは、オーラだけで人や物を簡単に壊せることや。これを防ぐには自分もオーラを強めるしかないねん」
ラミナはゴミ箱に入っている空き缶を拾い上げる。
それを右手で持ち、下に向けてゴン達の前に出す。
2人が首を傾げたところで、一瞬だけ【硬】を発動する。
その瞬間、空き缶が勢いよく弾け飛んで、地面に勢いよく叩きつけられる。
空き缶は潰れ、厚さは1mmもない板に変わる。
ゴンとキルアは目を見開いて唖然と潰れた空き缶を見つめる。
「これを人に向けて叩き込む。念を使えん人間が今のを防げると思うか?」
2人は冷や汗を流して首を横に振る。
「やろ? お前達にこれからこの力の使い方、そして守り方を叩き込む。言うとくけど9月1日までに仕上げるんはかなりキツイで。覚悟はあるか?」
「……これはハンターなら誰でも使えるんだよね?」
「使えんとプロハンターとは認めてもらえんやろな」
「だったらやる! 親父を見つけるにも、ヒソカと戦うにも、ハンターとしてやっていくにも必要だったらやるしかないじゃん!」
「俺も兄貴に一発叩き込みたいし、やるよ」
ゴンとキルアは決意した顔で頷く。
ラミナも笑みを浮かべて頷く。
「オッケーや。ほな、その修行場所に行こか」
「修行場所?」
ゴンが首を傾げる。
「ゴン。金はまだあるのか?」
「……そろそろやばい」
「なら、やっぱうってつけだぜ」
「どういうこと?」
「鍛えることと金を稼ぐことを同時に行うことが出来る場所があるんや。その名も『天空闘技場』」
「天空闘技場……」
「とりあえず、そこに行くで。念の詳しい話はそれからや。落ち着いて長話できるようにならんとな」
「分かった!」
「おし、早く行こうぜ!」
こうしてラミナ、キルア、ゴンは、決意新たに『天空闘技場』へと向かうのだった。