暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#2 バケモノ×ノ×オテツダイ

 翌日、ラミナは気持ち早足で指定された集合場所である廃ビルの最上階に到着した。

 

「お、来た来た」

 

「早かったね」

 

 廃材や木箱が積み上げられた大部屋にいたのは、金髪の爽やかな雰囲気の青年とピンク色の髪をポニーテールに纏めている鋭い雰囲気の女性。

 ラミナは歩み寄りながら、肩を竦める。

 

「そら、ご有名な幻影旅団様のご機嫌損ねて殺されたぁないさかいな」

 

「あっはははは! 似合わないなぁ」

 

「気持ち悪い」

 

「うっさいわ。って、シャルとマチ姉だけなんかいな?」

 

 ラミナは周囲を見渡して首を傾げる。

 シャルナークは首を横に振る。

 

「いや、後シズクとパクノダも来るよ」

 

「……うちはウボォー達の代役なんやな」

 

「そういうこと。もちろん報酬は弾むからさ、仕事上がり直後で悪いけど頼むよ。団長からの御指名でもあるしさ」

 

「クロロからの?」

 

 ラミナは流星街出身なので、同じく流星街出身の幻影旅団のメンバーとは関りが深い。というか、ほぼ一緒に育った仲だ。

 幻影旅団の設立時はまだ念を覚えたばかりだったので、メンバーには誘われなかった。

 ラミナが暗殺者として独り立ちした2年ほど前から、再び関係を密にし始めて時々こうして依頼と言う形で手を貸している。

 

 今まではマチやシャルナークなどからの依頼が主だったが、幻影旅団団長であるクロロからの依頼は初めてのことで、ラミナは首を傾げる。

 

「なんやねん、急に?」

 

「さぁ? 多分、他の団員達も何かしら仕事してるからじゃないかな?」

 

「団員以外で信頼出来て、戦闘力があるって言ったらラミナだったんじゃない?」

 

「そんなら暗殺者冥利に尽きるんやけどなぁ……。随分と大掛かりな感じやないか。マフィアンコミュニティーと戦争でもする気か?」

 

 マフィアンコミュニティーと流星街は太いパイプで繋がっている。

 流星街の住民は公式には存在を認められていない。なので、情報を集めるだけでも精一杯で、足がつかない戦力として重宝されている。

 それもあってラミナや幻影旅団のメンバー達は未だにほとんど素性が知られていない。

 

 もちろん流星街の全ての者と繋がっているわけではないので、敵対することも多い。

 ラミナはフリーの暗殺者なので依頼者次第であり、幻影旅団は全く繋がっていない。

 

「かもね」

 

「かもねって知らへんのん?」

 

「まだ詳しい事は聞かされてないんだよ。とりあえず今回の相手はアタシらのことを潰そうとしてるらしくてね。鬱陶しいから潰しておけってさ」

 

「相変わらず自由なこって。まぁ、報酬払ってくれるんならええわ」

 

 鬱陶しいという理由でマフィアンコミュニティーの重役が率いるファミリーを潰そうなどと言えるのは、間違いなく幻影旅団くらいだろう。

 普通なら確実に報復戦争が始まる。それを気にもしない連中がいるとは、凡人なら思わないのかもしれない。

 マフィアと言う組織を率いていることで増長しているのかもしれないが、組織の大きさが必ずしも強いとは限らない。

 幻影旅団はその特例のトップにいる。

 

「で、相手は?」

 

「ターゲットはミエハタファミリーだ。十老頭直下の組織で、構成員は232人。念使いもそこそこ抱えてる」

 

「……うちはその念使い共の排除か? それともボスの方?」

 

「念使いの方を頼みたい。ボスはパクノダに一度見せたいからね」

 

「せやろな。……はぁ~。こら大盤振る舞いせな、ちょっとキツイか」

 

「お! 久々に見れるのかな? 【刃で溢れる宝物庫(アルマセン・デ・エスパダ)】」

 

 シャルナークが楽し気に言う。

 ラミナは肩を竦めて、全員が集まるまで適当に待つことにした。

 

 数時間ほど雑談しながら経過して、空腹を感じたのでハンバーガーを買ってきて食べる。

 もちろんマチ達の分も購入させられる。

 

「ハンバーガーくらい買いに行けや」

 

「全員でワラワラ行く必要ないでしょ?」

 

「サンキュー」

 

 マチがふてぶてしく言い返しながらハンバーガーに齧り付き、シャルナークも礼を言って食べ始める。

 ラミナは小さくため息を吐いて、自分も食べ始める。

 

「そう言えば、マチ姉。シズクじゃない方の新人の面倒見とるんやって?」

 

「あ? ……ああ、ヒソカね」

 

「どんな奴なん? 流星街の奴やないんやろ?」

 

「らしいね。気味が悪くて、よくわかんない奴だよ」

 

「今回みたいな小さな集まりを何度か無視したこともあるね」

 

「また偏屈な奴やな」

 

「アタシはあんたを推薦したんだけどね。あんた、仕事中で連絡付かなかったし」

 

「そら、すまんなぁ」

 

 肩を竦めて軽く謝罪するラミナ。

 幻影旅団のメンバーは殺すことでその番号を奪うか、死んで空いた枠に団長が選んで補充するかしない限り、基本メンバーが変わることはない。

 団員同士の殺し合いはご法度で、団長の許しがない限り仲間割れはない。なので、誰かが死なない限り、メンバーの交代はありえない。

 ラミナは幻影旅団に入るのが嫌なわけではないが、そう簡単に勝てるメンバーではないので無理をする気はない。

 

「まぁまぁ。こうして仕事を一緒にやれるんだからいいじゃないか。俺達が団員以外とつるんで仕事するなんて滅多にないし。ましてや団長が認めるなんてさ」

 

 シャルナークが苦笑しながらマチを宥める。

 そうして食べ終わって、またのんびりしていると、2つの気配が近づいてくるのを感じた。

 

 現れたのは胸元が開いた金髪の女性と、黒髪に眼鏡をかけた女性。

 

「あら、ラミナじゃない」

 

「久しぶりだね」

 

「久しぶりやな。元気そうで何よりや」

 

「ラミナにも今回手伝ってもらうことになった」

 

「それは頼もしいわね。私達は戦闘に特化した能力じゃないし」

 

 金髪の女性、パクノダは豊満な胸の下で手を組んで笑みを浮かべる。

 

「それで、どう動くんですか?」

 

 黒髪眼鏡のシズクがシャルナークに目を向けて尋ねる。

 シャルナークは立ち上がって説明を始める。

 

「俺とラミナが陽動と殲滅。マチとパクノダ、シズクは俺達が暴れている間にマフィアのボスから情報を絞り上げてくれ」

 

「重労働やなぁ。はよ、終わらせてや」

 

「努力はするわ」

 

「うん、頑張る」

 

「じゃ、さっそく作戦開始だ!」

 

 シャルナークの言葉に全員が行動を開始する。

 ラミナは鼻元までのフェイスマスクとサングラスを着ける。

 

「あれ、あんたってそんなマスクしてたっけ?」

 

「流石に暴れまわるし、顔バレの可能性は減らしときたいんよ。ミエハタファミリー傘下のところから仕事もろたこともあるしな」

 

「面倒ね」

 

「仕事はそういうもんやろ」

 

 マチの言葉に呆れながらズボンのポケットから昨日使用したナイフを取り出し、左腕を横に振ると鎌状に湾曲しているファルクス型の剣が左手に握られていた。

 

「あ、それ。ベンズナイフ?」

 

「後期の作品やな」

 

「団長も1本持ってたよね?」

 

「そうね」

 

 シズクが興味津々で覗き込む。

 団長も持っていることを思い出してパクノダに訊ね、パクノダも頷く。

 

 そして、二手に別れて、いよいよ作戦開始となった。

 

 

 

 

 ミエハタファミリーは街の郊外に屋敷を構えており、その周囲には銃を持った構成員達が見回りを行っていた。

 

「ふわぁ~……!」

 

「おい、気を抜くなよ」

 

「んなこと言ってもよ。ここに攻め込んでくる馬鹿なんていねぇだろ。俺らを敵に回せば、十老頭も敵に回すんだぜ?」

 

「……まぁなぁ」

 

 注意した者も気を抜いていた仲間の言葉に思わず同意してしまう。

 十老頭直下のファミリーを襲うことは、間違いなく十老頭にもケンカを売ることに等しい。

 そんな馬鹿な者がいるとは思えないのが彼らにとっての常識である。

 

 しかし、その常識から外れている者達が、彼らの目の前に現れる。

 

「あ?」

 

「誰だ!?」

 

 右手に鎌状の剣、左手に独特な形状のナイフを握っている紅い髪の女。

 男達は抱えていたサブマシンガンを構えて睨みつける。

 ラミナは男達に目を向けたまま、動かない。

 

 男達はそれを訝しんでいると、首の後ろに痛みが走る。

 男達は腕を伸ばして、確かめようとしたが突如意識が闇に呑まれ、二度と浮き上がることはなかった。

 

 

 

 ラミナは銃を構えたまま虚空を見つめて固まっている男達を見て、流石に同情を覚えた。

 

「相変わらずえげつないこって……。操作系の使い手って、これやから嫌やねん」

 

「これはこれで面倒なことも多いけどね」

 

 男達の後ろに携帯を握って立っているシャルナークは肩を竦める。

 

「じゃあ、俺は周りで暴れさせるよ。ラミナは敷地の中を頼む」

 

「へいへい。屋敷は少しくらい壊してもええやろ?」

 

「ターゲットを逃がしたり、殺したりしなければね」

 

「注意はしとくわ。よっ!」

 

 ラミナは柵を飛び越えて、敷地の中に入る。そして、一気に駆け出して正面玄関へと向かう。

 正面玄関への角を曲がる直前に屋敷の壁へと向きを変える。

 そして、そのまま屋敷の壁を垂直に駆け上がって屋根の上に上る。

 正面玄関前には20人近い構成員達が警戒していたが、ラミナは屋根から飛び出して構成員達の真上に移動する。

 

「ふっ!」

 

 ラミナは真下にいた男にベンズナイフを投擲して、頭頂部に突き刺す。

 

「ぐげ!?」

 

「っ!? なんだ!?」

 

「上か!?」

 

 騒ぎ出しながら銃を上空のラミナに向ける構成員達を尻目に、ラミナはパチン!と指を鳴らす。

 するとナイフを突き刺した男の頭の上にラミナが現れる。構成員達は突然移動したラミナに驚いて慌てて銃を向け直そうとするが、その前にラミナは右手のファルクス剣を振り抜きながら1回転する。

 

 直後、周囲にいた男達から血が噴き荒れる。

 ある者は首と右腕が斬り飛ばされ、またある者は左脚と鳩尾あたりで斬り飛ばされ、更には鼻から上と右脚と左肘から先が斬り飛ばされて死ぬ。

 たった一振りで20人近くの者達を最低2回以上斬りつけている。

 

 上から落ちてきたベンズナイフをキャッチして、屋敷の扉に目を向ける。

 再びファルクス剣を振ると、屋敷の扉がバラバラに吹き飛んだ。直後、屋敷の中から銃弾の雨が飛んで来たが、ラミナは横に飛んで射線上から離れていた。

 

「これで屋敷の中や近くの外回り連中がこっちに集まるやろ。反対側はシャルが暴れとるやろうし、すぐにマチ姉達が仕事を終わらせるやろうな。問題は念を使える護衛をこっちに誘い込めるかっちゅうことやが……」

 

 そう考えていると、屋敷の中から巨大なモーニングスターを肩に担いた坊主頭の巨漢が現れた。

 その後ろからは銃を構えた構成員達も現れ、ラミナを睨みつけていた。

 

「なんだぁ? どんな馬鹿かと思ったら女じゃねぇか。おい、女ぁ。ここがどこか分かってきたんだろうなぁ、ええ?」

 

「……はぁ」

 

 巨漢の言葉にラミナは呆れたように小さくため息を吐くだけで答える。

 舐められたと判断した巨漢は頭に血管を浮かばせて、顔を怒りに染める。

 

「舐めやがって……! 後悔しやがれぇ!!」

 

 体とモーニングスターにオーラを纏わせて、見た目からは想像出来ない速さでラミナに迫る。

 ラミナの目前に迫ってモーニングスターを振り上げた瞬間、ラミナがベンズナイフを手首の力だけで巨漢の顔目掛けて投げる。

 

「ふん!」

 

 巨漢は鼻で笑って、首を傾けるだけで躱す。そして、モーニングスターを振り下ろそうとした時、パチンとラミナが指を鳴らす。すると、ラミナの姿が消えて避けたはずのベンズナイフが現れ、巨漢の背後にラミナが現れる。

 

「!?」

 

「さいなら」

 

 巨漢は目だけ後ろに向けたが、直後に両肘と腰に衝撃と痛みを感じて意識を失った。

 構成員達の見開かれた目には、両肘の先が落ちて腰から上下に分かれて倒れていく護衛の巨漢の姿が映る。

 いきなり瞬間移動しただけでも理解出来ないのに、ただの見当違いな空振りにしか見えなかった一撃が、まさかの結果をもたらして構成員達は全く理解出来ずに唖然とするしかなかった。

 

 ラミナは一瞬で構成員達の目の前に移動し、また剣を一振りする。それだけで構成員達の体は2つ以上のパーツに分かれて命を落とした。

 ベンズナイフを回収しようと動こうとしたラミナだが、そこに鞭が飛んでくる。

 

「!」

 

 ラミナは後ろに飛んで躱す。

 

「なかなかやるじゃないの、あんた」

 

「けど、ここまでだがや」

 

「大人しく死んでもらおう」

 

 現れたのは両手に鞭を握る茶髪ドレッドヘアのスーツ姿の女、鈎爪を身に着けたタンクトップ短パンで裸足の男、褐色肌に坊主頭の長身でスーツの男。

 

(全員念使いか……。鈎爪はともかく、鞭と無手の方はちょっと厄介そうやな)

 

「3対1で、そっちの戦い方は今見させてもらった。そっちの不利は明確だ。諦めろ。雇い主や情報を吐くなら、少しは長生きさせてやるがな」

 

「ダス。そんなまどろこっしいことしてないで、さっさと痛めつけてやればいいのさ。死に掛ければ吐く気になるかもしれないじゃない」

 

「ゲゲッ。ミブラの姉御の言う通りだがや」

 

「黙ってろ、ミブラ、ゼルボ。まだ他にも仲間がいるようだからな。消耗は出来るだけ抑えたいだけだ」

 

「ハッ! あんたの指示に従う理由はないよ!」

 

 ミブラはダスの言葉を鼻で笑い、飛び出して鞭を振るう。

 それにゼルボも続いて、獣のように四足走法で飛び出す。

 

 ラミナは2本の鞭を躱しながら、剣を振るい鞭を斬り飛ばそうとしたが、剣が鞭に触れた瞬間に剣が勝手に動き出してラミナに襲い掛かってきた。

 

「!」

 

「はっはぁ!! 私の【下僕への愛の鞭(クイーン・ウィップ)】は鞭で叩いたものを私の支配下に置く! あんたの剣じゃ相性最悪だよぉ!!」

 

「ちっ。操作系か」

 

「ガア!!」

 

 得意げに説明されて、ラミナは舌打ちをするが、そこにゼルボが獣のように鈎爪を振るいながら突撃してくる。

 ラミナはゼルボの攻撃や飛んでくる剣を紙一重で躱しながら、後ろに下がる。

 

(やっぱコイツは強化系。ちょっち面倒やな)

 

「ひゃあ!」

 

 その時、ミブラが鞭を振るって、地面に転がっているサブマシンガンやライフルを叩く。

 サブマシンガンとライフルはオーラを纏ってガシャン!と独りでに起き上がり、ラミナに銃口を向ける。

 

「ちぃ!」

 

ババババババ!!

 

 一斉に銃弾が発射されて、ラミナは縦横無尽に動き回って躱していく。

 そこにダスが10mほど離れた場所から右腕を振ると、オーラが巨大な拳の形を成して伸びてきた。

 

(最後は変化系。昔からの知り合いっちゅうわけやなさそうやけど、嫌らしい組み合わせが揃っとる)

 

 ラミナは顔を顰めながら、オーラの拳と銃撃を躱す。弾切れを待とうと思ったが、ミブラが次々と銃を支配していくので期待できそうになかった。

 

「……しゃあない」

 

 ラミナは懐に右手を入れ、引き抜くように腕を引くと、その手にはブロードソードが握られていた。

 

「!! あの服、具現化系か? しかし、そうなると剣やナイフの能力も具現化系? いや、だったらさっさと念を解除して、回収すればいいだけのはず……」

 

 ダスは攻撃しながら考察していくが、それは中断せざるを得なかった。

 

 ラミナの剣を握る腕がブレて、銃弾を全て叩き落としていくのを目撃したからだ。

 

「「「なっ!?」」」

 

 もはや壁と言っても過言ではなかった銃弾の雨を叩き落とすという離れ業に目を見開いて固まる3人。

 ラミナはその隙を逃さず、反撃に出る。

 

 銃撃の射線上から飛び出したラミナは、いつの間にか握られていたベンズナイフを勢いよくミブラに向かって投擲する。

 ミブラは更に目を見開いて鞭を振ろうとするが間に合わず、銃弾以上の速度で飛んでくるナイフを躱すので精一杯だった。

 ナイフが通り過ぎようとしたその時、ナイフがラミナの姿に変わる。

 

「っ!」

 

「しっ!」

 

「ギャ!?」

 

 ブロードソードを握る腕が再びブレて、ミブラは頭と四肢が斬り飛ばされる。

 銃撃が止まり、操られていた剣が地面に転がる。

 

「姉御!? テメェエ!!」

 

「待て、ゼルボ!」

 

 ゼルボは目を血走らせて飛び掛かる。ダスが呼び止めるが、完全にキレていて聞く耳を持たなかった。

 ラミナはそれを無感情に見つめながら、左手に握っていた銃弾を放り投げて指を鳴らす。

 銃弾はベンズナイフに変わり、更に指を鳴らすとファルクス剣が現れる。

 

「なっ!?」

 

 ゼルボは目を見開くが時すでに遅く、ラミナがファルクス剣を空振りするとゼルボの首と右脚と左腕が斬り飛ばされる。

 ゼルボの体が勢いを無くして、地面に転がり首がラミナの足元で止まる。

 

「くっそがああ!!」

 

 ダスは叫びながらオーラの拳を伸ばしてラミナに攻撃を仕掛ける。

 ラミナはそれを片足を下げて半身になり紙一重で躱すと、一気にダスの目の前に移動する。

 

「っ! た、体術だけで……!」

 

「さいなら」

 

 ブロードソードで首を跳ね飛ばす。

 噴水のように血を噴き出して、ダスの体は前のめりに倒れる。

 

「ふぅ~。面倒やった」

 

 ブロードソードが右手から消えて、ベンズナイフが現れる。

 周囲から人の気配がなくなったことを感じると、ラミナは屋敷の中へと足を進める。

 

 屋敷の中には人の気配を感じず、戦闘音も聞こえなかった。

 

「……シャルも終わったみたいやな」

 

「そういうこと」

 

 声がした方向に目を向けると、マチが待ちくたびれたように腕を組んで壁にもたれていた。

 

「遊びすぎ。もう引き上げるよ」

 

「……人に面倒な相手押し付けといて、そりゃないやろ」

 

「ほら、行くよ」

 

「はぁ……へいへい」

 

 苦情を無視するマチにため息を吐いて、後に続いて撤退するラミナ。

 マスクとサングラスを外して、廃ビルに戻る。

 

「お疲れ、ラミナ」

 

「なんで面倒なん全部こっちに来とんねん」

 

「知らないよ。運が悪かったね」

 

 シャルナークは肩を竦めて苦笑する。シャルナークの相手は雑魚の構成員達だけだったのだ。

 ラミナは首をコキコキと鳴らしながら、パクノダに顔を向ける。

 

「情報は取れたんかいな?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

「監視カメラの映像も消して、壊してきたから修理する念使いでも現れない限り大丈夫だと思う」

 

「ほな、仕事は終わりやな。あ~……!」

 

 ラミナは伸びをして、体を解す。

 

「報酬はいつもの口座でいいんだろ?」

 

「せやな。ほな、うちは行くわ」

 

「もう?」

 

「現場近くからはさっさと出て行くようにしとるねん。特にこんな廃ビルとか簡単に踏み込まれそうで落ち着かへん」

 

「染みついてるわね」

 

「余裕ぶると死ぬだけやからな。用心深い方がええねん」

 

「だから旅団に入ればいいのに」

 

「戦闘メインのメンバー厄介な奴らばっかやないか。まだ死にたぁないわ」

 

「あははは!」

 

 気軽に言うマチに、ラミナは顔を顰めて言い返す。

 それにシャルナークが笑う。

 ラミナはため息を吐いて、手を振りながら歩き出す。

 

「ほな、また仕事出来たら依頼してや」

 

「ああ、また」

 

「野垂れ死ぬんじゃないよ」

 

「ばいばい」

 

「またね」

 

 気軽に挨拶を交わして、ラミナは廃ビルを出る。

 ラミナは適当な飛行船を選んで飛び乗り、街を離れる。

 乗った飛行船は宿泊部屋があり、到着は翌朝の予定である。

 

「到着は明日の朝やな。さっさとシャワー浴びて寝よか」

 

 ラミナは少しはのんびりできると服を脱ぎ捨てて、シャワーを浴びる。

 そして、そのまま全裸でベッドに潜り込んで、眠りにつくのだった。

 

 

___________________

 

○ラミナ・ハサン

 

 19歳。身長169cm。体重50Kg。

 血液型O型。Cカップ。

 

 紅い髪を後ろで無造作に纏め、茶色の瞳。

 

 流星街出身で、旅団メンバーとは顔なじみ。

 マチとは姉妹と間違えられるほど顔つきや雰囲気が似ており、よく一緒に過ごしていた。なので「マチ姉」と呼んで慕っている。 

 

 流星街を出られる実力が身に付いた頃には、幻影旅団のメンバーはすでに旅立っており、活動も始めていた。

 それを追う様に流星街を飛び出して、暗殺者として成長していく。

 

 関西弁なのは育ての親が関西弁だったから。

 

 ナイフや剣をメインとした戦闘スタイル。

 体術はもちろん暗殺術も仕込まれている。

 

 


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