暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
3月11日。
ラミナの初戦である。
『さぁさぁ! 今日は大注目の一戦! 破竹の勢いで勝ち上がってきたラミナ選手が早くも登場です!』
200階クラスはやはり人気があるようで闘技場もかなり広く、観客席も満席だった。
ゴンとキルアもチケットを買って観戦していた。
『対するサダソ選手はここまで6戦して、5勝1敗とまずまずの戦績を残しています!!』
サダソは口を吊り上げて卑しい笑みを浮かべている。
ラミナは両手をズボンのポケットに入れて、つまらなげに立っている。
「くくく。安心しなよ。殺さないようにしてあげるからね」
「……はぁ」
「ポイント&KO制! 時間無制限一本勝負!! 始め!」
審判が開始を告げるのと同時にサダソの靡いていた左袖が、不自然に蠢き出す。
ラミナがポケットに両手を突っ込んだまま右に跳ぶと、ラミナがいた場所の床に何かが叩きつけられたような音がして亀裂が入る。
「へぇ……」
サダソは笑みを浮かべたまま、ラミナに体を向ける。
ラミナは上半身を屈め、そのまままた横に跳ぶ。次に大きく跳び下がって、リング端まで移動する。
『さっそく出ているようです! サダソ選手の見えない左手ー!! しかし、ラミナ選手も見事に躱している、ようです!! 見えないから実況し辛い!!』
「……ゴン。見えるか?」
「うん……。なんとか、だけど……」
キルアとゴンは不慣れな【凝】をして、サダソの念の正体を見る。
オーラで形作られた歪な左手が大きさや長さを変えながら、ラミナに襲いかかっていた。
2人には昨日同様ぼんやりとしか見えず、すぐに【凝】が限界を迎えて見えなくなる。
「くそっ! あれが【隠】って奴か。俺達じゃすぐに捕まって終わりだ」
「うん……」
キルアは顔を顰めて悔し気に言うが、ゴンはどこか上の空で返答する。
それに気づいたキルアは首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「ラミナのオーラだよ」
「あいつの?」
ゴンに言われて、キルアもラミナに目を向ける。
ラミナのオーラは見事な【纏】を維持していた。攻撃を躱しながらも全く揺らぐ様子もない。
なのに、サダソの見えない左手の動きを完全に捉えている。つまり【凝】をしながら動き回っているということだ。
それだけラミナの念の技量は高い事を示している。
その時、ラミナが足を止める。直後、ラミナのオーラが強まり、右脚を振り上げる。
すると、サダソが何かに弾かれたように体がよろめく。
「まさか……【練】で蹴り飛ばしたのか!?」
キルアとゴンが驚く。
ラミナは勢いよく駆け出し、猛スピードでサダソに迫る。そして、そのまま左膝蹴りを繰り出して、サダソの鳩尾に叩き込む。
「ごぉっ!」
サダソはくの字に体を曲げて呻く。ラミナは僅かに後ろに下がりながら回転し、サダソの側頭部に左後ろ回し蹴りを浴びせる。
「ぎゃあ!?」
サダソは頭を勢いよく弾かれて、うつ伏せにリングに倒れる。
「クリティカル! アーンド、ダウン!! 3ポインッ!! ラミナ!!」
『ラミナ選手の強烈なコンボー!! しかも、まだラミナ選手は両手をポケットに入れたままー! 余裕! 余裕です!!』
ラミナはサダソから距離を取る。
(変化系の使い手。どうやら左腕以外から生やせんみたいやな。後は左手の形状をどこまで変えられるか、やな)
サダソの能力を推測して、警戒するポイントを整理する。
(大きさも変えられるみたいやが……。大きく、そして伸ばすとパワーも下がって軽ぅなる。無理に攻めんかったら問題はないけど……)
ラミナは両手をポケットから出す。
サダソは口から流れた血を拭いながら立ち上がり、ラミナを睨みつける。
「やってくれたね……!」
「退屈やねん。もうちょっとやる気出してくれへん?」
「……いいだろう。後悔しなよぉ!!」
サダソの左袖からオーラが噴き出し、巨大な左手が出現する。左手指が鈎爪のように鋭くなっている。しかし、倒すことに力を入れたからか、【隠】を使っていない。
蛇のように左腕がうねり、ラミナに襲い掛かる。
ラミナは指の間をすり抜けるように躱し、右拳を握り締めて【流】を使い、念の左手に強く叩き込む。
ドバン!!
轟音が響き、リングの床が砕ける。
ラミナはもちろん、ゴンやキルアの目には、サダソの念の左手も共に砕けたのがはっきりと映る。
「なっ!?」
サダソが目を見開いて驚く。
ラミナはその隙を逃さず、一瞬でサダソの目の前に移動する。右アッパーを鋭く放ち、サダソの顎を跳ね上げる。更に左掌底を胸に叩き込んで、後ろに吹き飛ばす。
サダソは場外まで吹き飛び、床を転がす。
「クリティカル! アーンド、ダウン!! プラス、ポインッ!! 6-0!!」
『恐ろしいパワーと鋭い攻撃ー!! 一気に6-0の大差ー!! サダソ選手まだやれるかぁ!?』
「ぐっ……!」
サダソは胸を右手で押さえ、ふらつきながら立ち上がる。荒く息を吐き、汗も大量に流れている。
「ギブアップするか~?」
「っ! ふざけるなああ!!」
サダソがラミナの挑発に簡単に乗り、【発】を発動する。しかし、オーラが途中で塞き止められて、袖が膨れ上がる。
「なっ!? っ!? なにぃ!?」
サダソが再び目を見開く。
目に映ったのは、縛られた左袖。
『な、なんとーー!! いつの間にかサダソ選手の袖がきつく縛られていたー!! これでは左腕は出せないのか~?』
「袖なんぞに拘らんかったら、中々の能力やと思たんやけどなぁ」
「っ!」
ラミナが右拳にオーラを集中して、サダソの懐に現れる。
サダソは左袖に気を取られていたことで、ラミナの接近に気づくのが遅れた。下から迫るラミナの拳に【練】を発動することも出来ず、ただただ目を見開くことしか出来なかった。
「ぶぇべぶっ!!」
サダソの顎にラミナのアッパーが突き刺さり、顎を完全に砕いて真上に高く打ち上げる。
サダソは、これまでラミナにやられた者達と同様に大きく弧を描いて観客席に叩きつけられる。
『パーフェクトアッパー!! ここでもラミナ選手のアッパーフィニッシュは健在ーー!!』
審判が大急ぎでサダソが落ちた観客席に向かって走っていく。
しかし、リング側からでは観客席へは壁が高くて登れない。すると、どこかに控えていた係員が観客席に現れ、サダソの状態を確認する。
サダソの顎は完全に砕けており、サダソは異常なほど大きく開いた口から泡を吹いて、ピクピクと痙攣しながら失神していた。
惨状を聞いた審判は頷いて、ラミナに手を向ける。
「サダソ選手、失神KO!! 勝者、ラミナ選手!!」
『圧勝です!! ラミナ選手の勢いは全く止まる気配がありません!! これは今後も見逃せなーい!!』
ラミナは全く疲労の色を見せずにリングを去る。
ちなみにサダソは、下顎骨粉砕骨折、右肩甲骨亀裂骨折(落下によるもの)、胸骨粉砕骨折、肋骨8か所完全骨折、4か所亀裂骨折、左鎖骨完全骨折、左側頭骨亀裂骨折。更に折れた肋骨が肺に刺さっており、全治7か月の重傷と診断され、天空闘技場を去ることになったらしい。
試合を終えたラミナはゴン達と合流する。
「どやった?」
「……とりあえず、まだ戦うのは早いってのは理解した」
「俺達じゃ、あの攻撃は避けられなかったと思う」
「まぁ、【凝】に慣れればお前らでも楽勝やと思うで? 厄介なんは見えんことだけやからな」
「それがムズイんだよ」
「ほな、とっとと上手くなることやな。今の試合は録画しとるから、【凝】の練習にでも使い」
そう言って部屋に戻ろうとしたラミナ達の前に、ウイングとズシが現れる。
「あ、ウイングさん! ズシ!」
「押忍!」
「元気そうで何よりです。ラミナさんも、先ほどはお見事でした」
「そらどうも」
ウイングは和やかに声を掛けながら、ゴンとキルアに目を向ける。
(……僅か3週間で別人のように見違えた……。2人とも【纏】を自然に使っている)
ウイングはゴンとキルアの【纏】を見て、内心驚きを隠せない。
ゴンとキルアは既に意識せずに、なだらかで力強いオーラを維持している。
「ズシは今、何階にいるんだ?」
「ま、まだ70階っす」
ズシもゴンとキルアの【纏】を見て、動揺している。3週間前まではオーラすらも使えなかったはずの2人が、ほぼ完璧な【纏】を使っている。
あまりの上達具合に、ズシは恐怖すら感じていた。
「……ゴン君とキルア君は今、どのような念の修行を?」
「今は【纏】【絶】【練】【凝】を20セットと、それを使ってラミナと追いかけっこして動き回りながらでも【纏】や【凝】を使える特訓だよ」
「後は【纏】をずっと使って、この状態に慣れるって奴」
「……もう【凝】まで?」
「覚えが早いでな。まぁ、【凝】は昨日教えたばっかやけど」
ラミナが肩を竦めて言う。しかし、ウイングはあまりの進行速度にめまいを感じた。
「……お2人の念を見せて頂いても?」
「構へんで」
ラミナ達はウイングとズシの家に行き、修行の成果を見せることになった。
「ほな、【纏】【絶】【練】【凝】な」
「「押忍!」」
ゴンとキルアはこれまでやってきた通りに順番に行っていく。
やはり【凝】は時間がかかり、まだまだ不安定だったが、昨日教えた事を考えれば十分だろうとラミナは考える。
一通り見せ終えたゴンとキルアは「ふぅ」と息を整える。
「やっぱ【凝】は時間がかかるな~」
「うん。長く続けようとすればするほど難しく感じちゃうね」
(……レベルが……違い過ぎるっす……)
(3週間で修めた【練】で、昨日教えられた【凝】をあそこまで……? なんて子供達だ……)
ズシとウイングは、ゴンとキルアの才能に慄くしかなかった。
特にウイングは「この2人をもし自分が教えていたら、自分は冷静に教えることは出来ただろうか?」と考えていた。
正直、この2人をコントロールできる気がしない。確実に自分ではこの才能を持て余すだろうと思った。
「……お見事……の一言ですね」
「凄すぎるっす……」
「そう? ズシはどこまで行ってるの?」
「……自分はまだ【練】までっす」
「え?」
ズシの返答にゴンは僅かに目を見開いて、ラミナに顔を向ける。
ラミナは呆れたように、
「言うたやろ? お前らは普通よりちょっと早いってな」
(ちょっとどころじゃないと思うっす!!)
ズシは心の中で叫ぶ。
ウイングは冷や汗を流しながら、ラミナに訊ねる。
「この後はどう教えていく予定なのですか?」
「あと1週間は今のを続けて行く予定やな。その後に【発】にひと月くらい。で、最後に【堅】を教えれば、後は自分達で十分やろ」
「……なるほど」
「ヒソカとはいつ頃戦えそう?」
「……せめて【発】の修行が終わってからやな。四大行の修得と説明はしとかなあかん」
「ってことは……4月の終わりか、5月の始めくらいか」
「まぁ、その前に1,2回は戦わんとあかんけどな。やから、もうちょい後やな」
「分かった」
ラミナの予定を聞いて、ゴンは納得したように頷いているが明らかに早くヒソカと戦いたくてウズウズしているのが分かる。
キルアとラミナは呆れたように、その様子を見つめていた。
ウイングはラミナが述べた予定について考えていた。
(先ほどの修行法と言い、今の話と言い……。どうやら無茶をしているわけではなく、純粋に2人の修得状況と才能を見極めた上で進めているようだ。……ならば、下手な口出しは無粋というものか)
ウイングはそう判断して、ゴン達の修行を見守ることに決めた。
ウイングの家を後にして、部屋に向かっていたラミナ達。
エレベーターを降りた所で、3人に声を掛ける者がいた。
「おや。君達は……」
現れたのは白の長髪に黄色のマントを羽織った男。
「誰?」
「失礼。私はカストロ。君達と同じく200階クラスの戦士だ」
同じクラスの選手であることにゴンとキルアは警戒するが、カストロは笑みを浮かべて首を横に振る。
「安心してくれ。私は新入り狙いなどと言う無粋な真似はしない。私も洗礼の経験者だからね」
カストロはそう言いながら、ラミナに顔を向ける。
「試合を見たよ。テレビでだけどね」
「そらどうも」
「君もかなりの使い手だね。ヒソカにも引けを取らないだろう」
「ヒソカを知ってるの?」
ゴンが警戒を解いて、カストロに訊ねる。
「知ってるも何も。私を洗礼してくれたのがヒソカさ。2年ほど前だがね」
「「!!」」
(ほぉ。っちゅうことはヒソカに気に入られたんか。確かにかなりの実力者やな)
纏っているオーラもかなり洗練されており、自然体でありながらほとんど隙が無い。
ヒソカが好きそうな人種だとラミナは納得する。
「もう少し早く君が現れていれば、ぜひ君とも手合わせをお願いしたかった」
「というと?」
「私は今9勝1敗でね。最後の1勝はもちろんヒソカへのリベンジさ。先ほどヒソカと戦闘日時の打ち合わせをしてきたところだ。それに勝てば、次はフロアマスターが相手だ」
「「!!」」
「ほぉ……」
天空闘技場の230階から250階には『フロアマスター』と呼ばれる実力者が各階に1人いる。
200階で10勝した者だけがフロアマスターに挑戦することが出来、勝てばその者に代わってフロアマスターになれる。
ちなみにクロロも地味にフロアマスターをしている。
ラミナは前に問題ないのかと聞いたことがあり、「面白い能力者がいるかもしれないからな」と言っていた。
戦ったことがあるのかどうかは知らないが。
「自信ありげやな」
「そうでなければ挑まないさ。彼に敗けてからの9戦。一度として全力で戦ったことはない。全てはヒソカに勝つための修行に過ぎない。次こそは彼に勝つ」
自信満々に言い切るカストロ。
それにラミナ達は何かしらの奇策があるようだと理解した。
「ほんなら楽しみに待たせてもらうわ」
「ああ。楽しみにしててくれ」
カストロはそう言って、去っていく。
その背中を見送ったラミナは、
(う~ん……。ちょいと自信過剰すぎる気ぃもするなぁ。ヒソカの能力を知らんから何とも言えんけど……)
しかし、カストロの能力も知らないので、それを口にすることはなかった。
ラミナはゴンに顔を向けて、
「試合、見るか?」
「もちろん。ヒソカの念も見れるかもしれないしね」
「だな」
「ほな、その日までに【凝】を完璧にするで」
「「押忍!」」
「ええ加減やめーや」
そう言って部屋に戻って修行を再開するゴン達であった。
1週間後。
ゴンとキルアはいよいよ【発】の修行へと進むことになった。
「さぁて、今日からようやく【発】の修行に入るで」
「「押忍!」」
2人はやはりやめてくれなかった。
そしてラミナは諦めた。
「【発】と一文字で言うとるけど、実際は自分独自の能力を指す。せやから、うちはもちろん、ゴンとキルアでも同じ能力になることはまずない」
「なんで?」
「念にも体術とかと同じように、人によって得手不得手があんねん。それは『生まれつきの才能』と『今まで生きてきて培った経験や環境』の2つが大きく影響する。やから音楽家とか芸術家なんかの天才と呼ばれる連中は、無意識に念を込めとることもある。音色や声、作品にオーラが込められて表現力を上げるっちゅう感じやな。けど、お前らにそれが出来るか?」
「「無理」」
「やろ? っちゅうことで、どんな能力がええんかはその人によって違う。まぁ、似ることはあるけどな。けど、そこに籠められた思いによって能力の強さも変わる。やから、基本的に全ての念能力は初見と思えや」
「だから【凝】が重要なんだね」
「そういうこっちゃ」
ラミナは大きめの紙を取り出して、壁に広げて張り付ける。
紙には六角形が描かれており、それぞれの頂点に『強化系』『変化系』『放出系』『具現化系』『操作系』『特質系』と書かれている。
「【発】の能力はこの6つに分類することが出来る。人のオーラは必ずこのうちのどれか1つの性質を持っとる。ちなみにそれぞれの位置は決まっとって、近い系統ほど相性が良くて組み合わせやすいんや」
「じゃあ強化系なら変化系と放出系と相性がいいってことか……」
「そうやな。まぁ、といっても強化系全員が変化系と放出系を同じ力量を修められるわけやない。得手不得手がここでも出てくる」
「へ~……」
「ただし、基本的に自分の系統の能力しか100%極めることは出来ん。強化系やったら放出系と変化系は最大80%。具現化系と操作系は最大で60%。特質系はちと特殊でな。基本的にどの系統であろうと0%や」
「0?」
「特質系は他5つに含まれない異常な能力全てが含まれるんや。けど、たま~に具現化系と操作系のモンが後天的に特質系に変わることがある。せやから、具現化系と操作系の間にあるんや」
「ふ~ん……」
「強化系は言葉通り『身体能力や物の働きを強くする』能力や。例えば剣の切れ味を強化したり、頑丈さを強化したりな。変化系は『オーラの性質を変える』能力。オーラを炎に変えたり、オーラに切れ味を持たせるとかが出来る。サダソの見えない腕がこれに当てはまる」
「放出系も言葉通り『オーラを飛ばす』能力。操作系は『オーラを与えた物質や生物を操る』能力やな。これはイルミが使うとる。針を相手に刺して、刺された人間を操るんや。他には銃弾を操って、追尾能力を付加するとかやな。最後に具現化系は『オーラを物質化する』能力。これがうちが使うとる武器のことやな」
ラミナは短刀を生み出す。
説明を聞いたゴンとキルアは腕を組んで唸る。
「どうやって自分のオーラの系統を調べるんだ?」
「一番広まっとるんは水見式っちゅう方法や」
ラミナはワイングラスと小さな葉っぱを持ってきて、ワイングラスに縁ギリギリまで水を注いで葉っぱを置く。
「両手を近づけて【練】を使う」
ラミナが【練】を発動して、手をグラスにかざす。
すると、グラスの底に水晶が出現する。
ゴンとキルアは目を見開いて、グラスを覗き込む。
「これが具現化系を示す特徴や。ゴンからやってみ」
「うん!」
ラミナは水晶を取り出して、水を注ぎ直す。
ゴンはグラスに手をかざして、【練】を行う。
すると、コップの縁から一筋の水が流れ出す。
「これは?」
「動いただけ?」
「いや、水が僅かに増えたんや。水が増えるんは強化系の特徴やな」
「強化系……」
「よし! 次は俺だ!」
キルアが意気揚々とゴンと変わって【練】を行う。
しかし、どれだけ待っても変化が起きない。
「……何も起きない? え……俺って才能ねえ?」
「それはありえへん。っちゅうことは……」
ラミナが水に指をつけて舐める。
キルアとゴンも真似をして水を舐める。
「……? 少し甘い……か?」
「うん。ほんのちょっと甘い」
「水の味が変化したっちゅうことは、キルアは変化系やな」
「変化系か……!」
「これから一か月。この水見式で【発】の修行や。基本的には【発】の修行を最優先で構へん。けど、ちゃんと今までやった修行もやりや。一か月後まで、うちは見にも口出しもせぇへんから。しっかりとやりや~」
「「押忍!」」
ゴンとキルアはすぐさま修行を始めるために自室に戻っていった。
(これで四大行は終わりやな。系統能力は自分らで見つけるしかないでな。後は応用技を何個か教えれば終了、やな)
終わりが見えてきたことにホッとする。
ゴン達の修行が終わるまでは、クロロの仕事をこなすための情報収集に充てることにしたラミナだった。
それから20日。
明日がヒソカとカストロの試合ということで、ラミナはチケットを購入する。
「15万ってボッタくり過ぎやろ」
なんと1枚15万ジェニー。ちなみにラミナとサダソの試合のチケットは2万ジェニーだったらしい。
明日はゴンとキルアの【発】の修行の経過を見てやる予定になっており、それは試合後に行うことにした。試合も録画する予定なので、ついでにヒソカの念を研究するためである。
時々、様子を見ていたが【纏】の上達が見てとれたので、ちゃんと修行をしているようだった。
「まぁ、あの2人がサボるとは思わへんけど……」
街をぶらつきながら呟く。
その直後、
「そう言うあんたはここで何してんだい? ラミナ」
すぐ後ろから僅かに苛立ちが込められた声が聞こえ、ラミナは体が硬直して足が止まり、一気に冷や汗が噴き出す。
ここにいるはずのない、けれど聞き間違えようのない、この世で一番逆らえないだろう人の声。
大好きだが、同じくらい恐ろしい人の声。
それが真後ろから聞こえて、ラミナは一瞬で首と心臓を握り締められたような感覚に襲われる。
いや、首に関しては本当に何かが巻き付けられており、地味~に締め付けてきていた。
ラミナは錆び付いた歯車のようにギギギと背後を振り返る。
「……マ、マチ姉……」
「久しぶりだね。で……団長から仕事を依頼されてるはずのあんたが、なんでこんなところでサボってるのか。教えてもらおうか」
僅かに据わった眼で睨み、右手でラミナの首に巻き付けられている念の糸を握っている地獄の使者が如き『姉』。
マチ・コマチネが、そこにいた。
カストロさんと戦わせようかなと考えましたが、流石に彼の設定的に難しそうなので、申し訳ないですがカストロさんは原作同様ゴン達への教材的やられ役のままとなりました(__)
そして、次回は皆様お待ちかね(笑)
『ラミナ命がけの言い訳』回です!