暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#21 チョット×マッテ×オネエチャン

 突如、現れたマチは不機嫌そうにラミナの首を絞めている念糸を更に引く。

 

「ぐぅえ!? ちょ、ちょいタンマ……!」

 

「だったら、とっとと白状しな。ハンター試験終わっても何にも連絡寄こさないで、こんなところで油を売ってるんだ。よっぽどのワケなんだろうね?」

 

「…………多分? ごぉ!? 言う言う言う言う!! ちゃんと全部話すから!」

 

「ふん」

 

 マチは不機嫌な顔のまま念糸を外す。

 荒くなった息を整えたラミナは、汗を拭って疲れた顔でマチに向く。

 

「うちの部屋行こか……。それとも、そっちの部屋でええか?」

 

「あんたの部屋でいいよ。さっさと案内しな」

 

「へいへい……」

 

 さっさと天空闘技場の部屋に移動することにしたラミナ。

 特にキルアとゴンに会わせないようにしなければならず、必死に気配を探って近くにいないことを確かめる。

 マチ相手に隙を見てメールを送るなど出来ないので、本気で会わないことを祈っていた。

 

 なんとか誰にも会わず、部屋へと戻ることが出来たラミナ。

 ソファを勧めて、部屋に備え付けられた酒を何本か出して、ツマミと共にマチの前に並べる。そしてマチの向かいに椅子を動かして座る。

 

「へぇ~。たかが闘技場なのにいい部屋だね。タダなんだろ?」

 

「勝ち残っとる間はな」

 

「あんたがそう簡単に負けるわけないでしょ。ヒソカと戦うなら、話は別だけど」

 

 マチは念糸で酒瓶の口を切り落として、直接傾ける。

 ラミナもワインを開けながら、首を傾ける。

 

「ヒソカがおるんは知っとるんか?」

 

「あいつに用があって来たからね。まぁ、なんか明日試合あるらしいから、念糸縫合も依頼されてるけど」

 

「ふ~ん……」

 

「で? いい加減あんたの言い訳を聞かせて欲しいんだけど」

 

「……」

 

 マチはソファに足を投げ出し、横目でラミナを睨みつけながら問いかける。

 ラミナはボトルに口を付けようとして固まる。

 

 ちなみにラミナは一切を隠す気はない。

 問題はキルアにマチの手が伸びないようにする言い方である。

 このまま話すと、マチはキルアを探し出して殺しかねない。そうなれば、ゾルディック家が総出で動く。それは面倒事でしかないので全力で阻止したい。

 

 下手な庇い方をすれば、マチが怖い。

 

 すでに怖いが、マチが怖い。

 

 ラミナは一口ワインを飲んで、覚悟を決めて話し出す。

 

「ハンター試験受ける前にゾルディック家に襲われたやん? マチ姉が助けてくれた奴」

 

「ああ、あれね。その時にハンター試験受けるように伝えたんだっけ?」

 

「そうそう。それで、まぁ真面目にハンター試験を受けに行ったんやけどな。そこにゾルディック家の長男と三男も受けに来とってん」

 

「へぇ……暗殺一家がねぇ……。まぁ、団長やシャルも持ってるから不思議でもないか」

 

 マチはツマミを口に放り投げながら話を聞く。

 

「それで?」

 

「長男は変装して偽名を名乗って受けとったから、その時は知らんかったんやけどな。三男の方は顔も名前も変えずに受けとって、色々と縁もあって仲良ぅなったんよ」

 

「ふぅ~ん……」

 

 少し不機嫌な声に変わったマチに、ラミナは一瞬頬が引きつる。

 誤魔化すようにツマミを放り込んで、ワインを飲む。

 

「ふぅ……。んで、まぁ……ちょっとした時にな、その三男の頭ん中に針が刺さっとることに気づいてしもてな」

 

「……針?」

 

「そうそう。額のちょい上あたりにな。本人は気づいてる様子もなかったし、場所が場所で気になってしもたから、パッと引っこ抜いたんやんよ。それが実は長男が三男を守るために埋め込んどった奴だったらしくてなぁ……」

 

「……なんで守るために頭に針を埋め込むのか意味が分かんないけど……。あんたはどうやってそれに気づいたんだい?」

 

「ゾルディックの長男とヒソカが知り合いやってん。それでその少し前にヒソカの仲介で引き合わされてなぁ……」

 

「ヒソカ? あいつもハンター試験受けてたの?」

 

「そやな。あいつも受かっとるで」

 

「……ホント、何がしたいんだか……」

 

 マチは呆れながら、変人奇術師を思い浮かべる。

 ラミナも大いに頷きながら、説明を続ける。

 

「でな。針を抜いたことが試験中にバレてしもてなぁ。長男と殺し合いになってん」

 

「ゾルディックによく狙われるわね、あんた」

 

「全く嬉しないわ。それでまぁ……その三男が後継者候補筆頭っちゅうことらしくてな。三男はまだ念を知らんかってん。その針が三男を敵意のある念から守るためやっちゅうことを聞かされてなぁ。流石に試験どころやなくなりそうやったし、ゾルディック家当主に取引を持ち掛けたんや」

 

「取引……?」

 

「そや。まぁ、余計な手出しをしたんは事実やしな。またあの当主2人が出て来て、狙われるんも面倒やったし」

 

「あんたって、時々変なところで甘いよね」

 

「……ふん」

 

 呆れながら言うマチに、ラミナは顔を逸らして不貞腐れるしか出来なかった。

 今回の騒動は事実ラミナの甘さが招いたことだった。

 

「それで?」

 

「……まぁ、その後も色々あったけどハンター試験に無事に合格して、クロロの仕事を始めようと思たんやけどな。ゾルディック当主から連絡が来て、ゾルディック家に行くことになったんや。取引した以上逃げるわけにもいかんから、そのままゾルディック家に向かったんや」

 

 ラミナは緊張を誤魔化すようにワインボトルを傾けて、ツマミを口に放り込む。

 マチは新しい瓶に手を伸ばし、瓶の口を切り落として傾ける。

 

 ラミナはいよいよ婚約させられたことを話さねばならない。

 ここが正念場なので、嫌でも緊張する。

 

「で……まぁ、何だかんだでゾルディック家の連中とは仲良くなったんやけどな……」

 

「だけど?」

 

「その~……ん~……気に入られ過ぎたみたいでなぁ」

 

「は?」

 

「…………取引の条件を……お、御曹司と……こ、婚約するっちゅうことにされてしもでごぇ!?」

 

 最後は顔を背けながら告げると、突如体を縛りつけられる。そのまま椅子を倒しながら後ろに引っ張られて、床に仰向けに倒される。

 さらに両脚も縛られて、マチがラミナの腹の上に乗り、両脚でラミナの体を締め付ける。

 

「ぐえっ……!」

 

「誰と……なんだって?」

 

「ぢょっ……ぢょど待でぇ……! ギヅイ゛……じめ゛ずぎぃ……!?」

 

 見た目と違ってマチの力はかなり強く、旅団女性メンバーの中では1番強い。

 ちなみにラミナの力も強い方ではあるが、マチほどではなくクロロより少し弱いくらいだ。

 

 なので、こうなるとラミナがマチから逃れる術はない。殺すつもりで本気になれば話は別だが。

 両親よりも長い時間共にいたマチは、ラミナにとっては特別な存在なので殺す気になることはないが。

 

「誰と……なにをしたって?」

 

「い、言うとくけど! 向こうが勝手に言っとるだけやで!? うちとそいつは認めとらんから! ゾルディック当主陣が勝手に決めて、そう思っとるだけやから! ゾルディック家にホンマに嫁入りなんざせんから!!」

 

「……そのクソ野郎はどこにいるの?」

 

「ここにおるけど、言うたとおりそいつもうちと婚約なんかする気ないねんて。しかも12歳のガキやで? うちかてガキに興味ないわ」

 

「じゃあ、なんで一緒にいるんだい?」

 

「もう1つ、ゾルディック家から頼まれたんや。念を教えてやってくれってな。それでここに来たんや。念を教え終えたら、クロロの仕事に戻るつもりやったし、そいつともおさらばする気や。それはそいつも了承しとる」

 

「……」

 

「そ、それとな! ゾルディック当主からもうちが旅団に入ることは認められとるから! や、やから欠員出たら、今度は仕事中でもちゃんとそっちに合流するから!」

 

「まさか、ゾルディックのガキも入れろなんて言わないだろうね?」

 

「言わん言わん。そいつは殺しに嫌気さしとるから旅団には向かん。基本的にそいつを旅団に関わらせる気はないとも当主に言うとる。やから旅団に入ったら、そのままずっとおさらばになるはずや」

 

「……」

 

 マチは鼻と鼻がくっつきそうなほど顔を近づけて、ラミナの目を見つめる。

 嘘はついていないのでラミナも目を逸らさない。

 

「そ、そろそろ脚か念糸か緩めてくれへん?」

 

「……」

 

「……」

 

 先ほどより圧迫感は弱まったが、マチは明らかに不機嫌なままだった。

 困ったことにこうなったマチを宥めるには、大人しく言うことを聞くしかない。

 マチはクロロの言葉でもラミナに関することになると中々譲らないので、旅団メンバーはマチの前ではラミナが関わることにあまり口出ししないのが暗黙の了解になっていたりする。

 

 10分ほど見つめ合っていた2人。

 

 マチは眉間に皺を寄せたままラミナの上から退き、ソファに戻ってラミナの念糸を解く。

 ラミナは大きく息を吐いて起き上がる。

 

「団長は婚約の事知ってんの?」

 

「まだ言うてへん。マチ姉が初めてや」

 

「……そ」

 

 マチは酒瓶を傾けて呟く。

 ラミナが椅子を戻して座り直すと、マチがラミナに目を向ける。

 

「ヨークシン」

 

「ん?」

 

「ヨークシンでの仕事の間、アタシの言うこと1つ聞いてもらうよ。どんな状況で、どんな仕事であってもね」

 

「……まぁ、クロロの邪魔になる……ことなんぞ言わんか。了解や。姉様のご命令には逆らわへん」

 

「なら、()()クソ野郎は見逃す。けど……向こうからアタシの前に現れたら知らないよ」

 

「そうならんように祈っとくわ。流石にあいつから近づいたんやったら、死んでもそれはあいつのミスや。別に文句は言わん。まぁ、ゾルディックと戦争にはなりそうやけどな」

 

「その時は潰せばいいさ。ウボォーとかフェイなら喜んで参加するよ」

 

「やから面倒やねん」

 

 確実に都市1つ吹き飛ばす戦いになる。派手になるとプロハンターも出張ってくる可能性があるので、それもまた厄介だ。

 そんな戦いのきっかけに自分が関わるなど冗談ではないラミナだった。

 

「ところでヨークシンで何するんか知っとるか?」

 

「知らないね。ただ……」

 

「ただ?」

 

「旅団全員集めるように言われたから、デカい仕事みたいだよ」

 

「……なるほど。……うちが外に出てから全員集合って初めてちゃうか?」

 

「そうだったかね」

 

 ラミナが本格的に流星街の外に出て活動を始めたのは約2年前。そうなってからは全員揃ったという話は聞いたことはない。

 

「まぁ、ヒソカはよくすっぽかしてたしね」

 

「よう許したな……」

 

「団長が許してるからね」

 

「ふぅ~ん……」

 

(やっぱクロロの奴、ヒソカのこと警戒しとるんか?)

 

 幻影旅団(クモ)にとって団長()の命令は基本絶対。それを無視するのは掟違反。

 しかし、クロロはヒソカを罰しない。ヒソカの実力をそれだけ認めていても、少し違和感がある。

 

「ヒソカって戦い好きやのに、そんなにすっぽかすんか?」

 

「あいつは戦い好きって言っても、タイマンに拘るタイプみたいだからね」

 

「ふぅ~ん……」

 

(つまり旅団全員と同時に戦うような奴やない。さらに言えば、徒党を組むタイプでもない。なら考えられるんは……クロロとの1対1での殺し合い)

 

 ならば、ヒソカがクラピカに話したのは『クロロと1対1で戦う機会を作るため』。

 そう確信したラミナは、心が冷えていくのを感じた。

 

 恐らくクロロは、何となくではあるのだろうがヒソカの目論見に気づいている。自分に気づけたことがクロロが気づけないわけがないと、ラミナは考える。

 

「うちがクロロから依頼されとるんは皆知っとるんか?」

 

「知ってるのは依頼した団長を除けば、アタシだけだよ。依頼内容までは知らないけどね」

 

「……そうか」

 

「なに頼まれたの?」

 

「ん? 十老頭に近いマフィアに潜り込めっちゅうだけしか聞いてへん。詳しくはうちも知らん」

 

「そ。ツマミ、なくなった」

 

「へいへい……」

 

 呆れながら、新しいツマミを用意するために立ち上がるラミナ。

 新しいツマミを出しながら、ラミナは一度クロロに連絡を取ることを決めたのだった。

 

 

 

 その後は比較的和やかに酒を飲むマチとラミナ。

 

「今日、どこ泊まるんや?」

 

「ここ」

 

「……まぁ、ええけど。ほな、飯どうする?」

 

「ここってキッチンとかないの? それか美味しい店とか」

 

「メニューは?」

 

「肉」

 

「ほんならステーキでも行こか」

 

「その前にシャワー浴びるわ。借りるよ」

 

「お好きにどうぞ」

 

 マチは浴室に向かう。

 ラミナはその隙にキルアとクロロに素早くメールを打つ。

 

 キルアには『明日の観戦、特訓は各自で。成果の確認と試合の考察は来週に』。

 

 クロロには『マチ姉に会った。仕事の件で話がある』と送る。

 

 すると、クロロからすぐに着信が来た。

 

「もしもし?」

 

『マチに会ったのか。今どこにいるんだ?』

 

「天空闘技場。ちょいと色々あってな」

 

『ふむ。お前がそんなところに興味があったとはな』 

 

「やから、色々あってん。まぁ、それは近いうちに話すわ」

 

『マチは何してるんだ?』

 

「今は風呂や」

 

『ふっ。怖い姉の隙を突いたわけか』

 

「うっさいわ。それで、ヨークシンでの仕事の件やけど」

 

『どうした?』

 

「ヒソカが不穏な動きを見せとる。狙いはクロロやろな」

 

『……そうか……。どんな動きを見せている?』

 

「今回のハンター試験の合格者の中に、旅団に強い恨みを持つ人間がおる。そいつにヨークシンに旅団が集まることを話した」

 

『……ふむ』

 

「ただ、そいつはまだ念を覚えてへん。やから現状では脅威度は未知数や。ヨークシンに来たとしても、ヒソカの協力者となりえるかも分からん」

 

『そうか……。それはそれで面倒だな』

 

「でや、お前がうちに依頼したいんは十老頭の暗殺だけちゃうな? 他にもなんかあるやろ?」

 

『……ふっ、流石だな。いや、予定変更だ。十老頭の暗殺に関しては、他の奴に依頼する』

 

「ほな、うちは?」

 

『お前には旅団のサポートをしてもらいたい。基本やることは俺かマチ、シャルナークの3人から伝える。一番やってもらいたいのはヒソカの監視。もし、奴が動く気を見せて隙があれば……殺せ』

 

「……報酬は?」

 

『仕事が終わったときに言い値で払おう。それと……『4』の数字だ』

 

「……ええやろ」

 

『よし。俺も含めて団員達は、ヒソカが明確に裏切り者と分からない限り動かない。この話も俺とお前だけで留める。マチにも言うな。感づかれないように注意しろ』

 

「……まぁ、頑張るわ」

 

 マチの直感は恐ろしい嗅覚と正確さを誇る。

 それを掻い潜るのは簡単ではないことは、ラミナが一番知っている。

 

 電話を切ったラミナは息を吐いて、素早く通話記録を消す。

 

「明日の試合でどこまで実力が見れるかやな。まぁ、マフィアを探して近づかんでよくなったんは助かるわ」

 

 おかげで時間的な余裕も出来たので、その間に万全の体勢を整えることに決めたラミナだった。

 

 

 

 

 夜。

 マチとラミナはステーキ屋を訪れていた。

 もちろんテーブルマナーなど知ったことではない2人は、高級ではあるが大衆的な雰囲気の店を選んだ。

  

「それでクソ野郎にいつまで念を教えるの?」

 

「今【発】の修行やらしとるから、後1か月もかからんと思うで」

 

「あんたが人に教えるなんてね」

 

「うっさいわ。うちかて思っとらんかったわ」

 

 2人の前には皿がそれぞれ10枚以上積まれている。若い女2人の食べっぷりに周囲は唖然としており、それでもまだ淡々と食べている姿に慄く。

 

「そういえば、あんたは明日のヒソカの相手、知ってんの?」

 

「顔と名前はな。なんやヒソカに因縁あるみたいで、そこそこ実力はありそうやったで? まぁ、ヒソカの方が上やと思うけど、うちもヒソカの能力知らんし」

 

「あいつの能力は中々に厄介だね。まぁ、団長やあんたほどじゃないけど」

 

 マチはステーキを口に食べながら、ヒソカの念能力について話す。 

 

 ヒソカは変化系の能力者で【伸縮自在の愛(バンジーガム)】と【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)】の2つの能力を持っている。

 【バンジーガム】はオーラをゴムとガム両方の性質をもつものに変える。至る所に貼ることが出来、好きな時に剥がすことが出来る。よく伸びて、素早く縮む能力。

 【ドッキリテクスチャー】は紙のように薄っぺらいものにイメージを加え、オーラで見た目や質感を再現する能力。

 

「……弾力性と粘着性を持つオーラか。厄介やなぁ」

 

「【隠】と合わせて使うし、殴られれば付けられるからね。あんたはともかく、そこらへんの奴なら基本逃げようがない」

 

 ラミナは【月の瞳】を発動すれば無効化は出来る。

 しかし、それでもあくまでラミナ自身に影響がないだけで、他のものに使われると面倒ではある。それに【月の瞳】を発動する以上、早期決着を狙わなければならない。時間をかければかけるだけ、武器のストックが減るからだ。

 

 しかも【凝】にも意識を削がなければならないので、ヒソカの身体能力を考えるとかなり手の内を晒さなければ厳しいだろう。

 

「特性も単純だからバレたところで大した問題にならないし、応用の幅も広い。よくできてるよ」

 

「やなぁ」

 

 ラミナも純粋にヒソカの能力に感心する。

 攻撃・防御・回避・逃走・奇襲、全てに対応できる能力を持っている。

 キルアに真似させたいくらいである。

 

 

 食べ終えた2人は部屋へと向かっていた。

 

「50万ジェニーか」

 

「まぁ、あの味ならそんなもんじゃない?」

 

 もちろん支払いはラミナである。

 マチとの食事では、基本奢るのはラミナだ。これに関してはもうラミナは諦めている。 

 

「明日はどうするんや?」

 

「団長の伝言もあるから、ヒソカには会う。終わったら次はフランクリンに会いに行く予定」

 

「フランクリンはどこにおるん?」

 

「知らない。ホント、携帯くらい持ってほしいね」

 

「フランクリンが使える携帯なんざあるんか?」

 

「……ないかもね」

 

 帰る途中、店で酒やらツマミを買い足す。

 部屋に戻った2人はまた酒とツマミを広げて、さらに服を脱ぎ捨てて下着姿になり、髪を解いて下ろす。

 

 女同士で、姉妹同然に育った仲なので、下着姿くらいでとやかく言うこともない。

 というか、習慣が似ているのだ。寝るとき下着姿なのは、2人にとっては昔からの事だった。

 

「ベッド使ってええで」

 

「一緒に寝ればいいでしょ? 昔はよく抱き着いてきたじゃない」

 

「10年以上前の話やろが。それに今はうちの方が身長たかっ!?」

 

 身長の話をした瞬間、マチのしなやかな脚が飛んできて、反射的に頭を反らしたラミナの鼻先を通り過ぎる。

 

「あぶなっ!」

 

「ふん!」

 

 マチは不貞腐れたようにラミナを睨みつけながら、酒瓶を傾ける。

 姉にとって、妹に身長で抜かれるのは地味に屈辱なのだ。

 ラミナは呆れながらグラスに氷を入れてウイスキーを注ぐ。

 

「パク姉がおるんやから、今更気にすることないやろ」

 

「うっさいよ」

 

 ギロリと睨みつけるマチ。

 ラミナは苦笑して、ツマミを食べる。

 

「今、育ててるクソ野郎は強くなりそうなの?」

 

「ん~……どうやろなぁ……」

 

「…………やっぱ言わなくていい。殺したくなりそうだし」

 

 少し酒が回ったのか、マチは僅かに頬を赤くして顔を背ける。

 ラミナは苦笑して、マチにハイボールを作ってグラスを渡す。マチは不貞腐れたように僅かに顔を顰めながらも、グラスを受け取って傾ける。

 

「安心しぃ。そっちがしとる慈善事業と似たようなもんや。そいつらが強くなろうが弱くなろうが、そこまで面倒見る気はないでな」

 

「ふん。どうだか……。あんたは変なところで甘いし、無駄に義理堅いからね」

 

「そら、育ててくれた姉が似たようなところがあるでなぁ」

 

「あんたほどじゃないよ」

 

 ツマミを口に放り投げながら呆れたように言うマチ。

 その後も飲み続けて、日付が変わった頃に2人でベッドに横になる。

 

「……何年ぶりだっけ? こうやって寝るの」

 

「ん~……10年は経っとるやろ。互いに念の修行始めたり、旅団を作ってからは特になぁ」

 

「……そうだね。あの家、もうないんだっけ?」

 

「あるで。ただ……他のガキ共にくれてやったけどな。そいつらは流星街出る気ないみたいやったし、うちらが使い続けるよりはええやろと思てな」

 

「ふぅん」

 

「まぁ、外に拠点にしとる家があるけっどぉ!?」

 

 脇腹に肘打ちを食らい、ベッドの下に突き落とされるラミナ。

 マチは横向きになり、ベッドの下で呻いているラミナを見下ろす。

 

「ぐぅおおぉおぉ……!」

 

「それ知らないんだけど」

 

「う、嘘やん……。クロロやフェイタン達、皆来たことあるで? 『マチ姉にも場所伝えとく』て言うてたで?」

 

「メールとか電話は?」

 

「フィンクスがマチ姉の携帯が壊れとるから連絡がつかんって。事実、電話通じんかったし……」

 

「……あの時か」

 

 マチは数年前に携帯が壊されたことがあり、「しばらくはパクやシズクといるからいらない」と言って、持たなかった期間があった。

 どうやらその時にマチとラミナは他のメンバーから揶揄われていたらしい。

 

 マチは怒りが込み上げて目を吊り上げる。

 ラミナは脇腹を押さえながら、ベッドによじ登って仰向けになる。

 

「……あいつらの修行終わったら、一度帰る予定やから……。その時に連絡するから来ればええ」

 

「場所は?」

 

「サヘルタ合衆国の【カゴッシシティ】や。ヨークシンにも近いで」

 

「カゴッシね。メールでも送っといて」

 

「へいへい……」

 

 ラミナはグデッとして頷き、再びマチの御機嫌取りをするのだった。

 

 

 

 その後は穏やかに時間を過ごし、ラミナは眠りにつく。

 

 マチは隣で静かに眠るラミナを見つめ、

 

「ふ……」

 

 ラミナの頭を優しく撫でながら柔らかい微笑みを浮かべ、マチも目を瞑って眠りにつく。

 

 久しぶりの姉妹だけの時間は、何だかんだで和やかに過ぎていった。

 

 




ラミナのなんだかんだで甘い所は、マチの愛情の賜物だったようですw

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