暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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ギリギリになってしまった(-_-;)


#24 シアイ×シアイ×シアイ

 ラミナは天空闘技場周辺にある武器屋を見て回っていた。

 しかし、めぼしいものが見つからなかったので、部屋に帰ろうとエレベーターに乗ろうとした時、突如後ろから大声で名前を呼ばれた。

 

「ラァミナァーー!!」

 

「あ?」

 

 ラミナは少しイラっとしながら振り返る。

 

 そこにいたのは、茶色の逆立てた短髪で、サイドは雷を思わせるバリカンアート。鋭い目つきをしており、赤のタンクトップに黒のダメージジーンズを履いている180cmほどのイキった男。

 

 男はラミナをビシィ!と指差して、

 

「見っけたってんだよゴラァ!! 俺っちと戦えってんだよゴラァ!!」

 

「…………なんやねん」

 

 ラミナは突然ケンカを売られて、呆れるしかなかった。 

 すると、なんだなんだと見ていた野次馬から声が聞こえてきた。

 

「あ。あいつ、ナグタルじゃねぇか?」

 

「選手か?」

 

「200階クラスのな。喧嘩屋みたいな奴で、期限ギリギリまで戦う相手を見定めて、気に入った奴にああやって大声で勝負を申し込むんだよ」

 

「正々堂々なのか、迷惑なのか分かんねぇ奴だな」

 

「どっちもだろ。ただ、天空闘技場の性質からすれば、ああやって勝負挑んだ方が断られにくいんだよ」

 

「あぁ……なるほどな」

 

 天空闘技場は殺されることもあるが、基本的には格闘試合の聖地。

 なので、スポーツマンシップに則ったやり方は周囲の好感を集めやすい。そして、ここで断ると周囲から臆病者扱いされるので、プライドが高い者ほど断り辛くなる。

 サダソ達とはまた違う厄介さがあるのだ。

 

「俺っちの名はナグタル・アームドックってんだよゴラァ!!」

 

「……喧しいやっちゃなぁ」

 

「俺っちと戦えってんだよゴラァ!! あんな卑怯モンが200階の普通だと思うんじゃねぇってんだよゴラァ!! それを俺っちが教えてやるってんだよゴラァ!!」

 

「……」

 

 ナグタルの異様な熱気に、ラミナはもうドン引きだった。

 別にサダソが普通だとも思っていないが、卑怯だとも思っていない。天空闘技場のルール上、勝てる相手を選んで勝負を仕掛けるのはズルでもなんでもないのだから。周りからどう言われようが構わないのであれば、であるが。

 

 なので、ラミナは別にナグタルと戦う理由はない。

 

「いや~、うちはもうここで戦う気ないねんけど……」

 

「あぁん!? なんでだってんだよゴラァ!! じゃあ、何のために来たってんだよゴラァ!!」

 

「知り合いの修行。それももう終わったでな。ここにおる理由はないねん」

 

「じゃあ、最後に俺っちと戦えってんだよゴラァ!!」

 

「いや、やから理由ないねんて」

 

「逃げんのかってんだよゴラァ!!」

 

「別に名誉とかいらんしな」

 

 ラミナは本当にゴン達の修行のためにここに来た。

 その用事も済んだので、もうここに用はない。戦っても金にならないのも大きい。

 

「戦いたいんやったら……」

 

「だったら?」

 

 ラミナは右手を出して、

 

「金、くれや。挑戦料っちゅう奴やな」

 

「あぁん!? 舐めんなってんだよゴラァ!!」

 

「ん~……ほんなら、うちが勝てばお前の有り金全部貰う。負けたら、うちの有り金全部やる。それならどうや?」

 

「……」

 

 ナグタルは腕を組んで眉間に皺を寄せる。

 ドンドン野次馬が増えていくので、さっさと決めてほしいと思うラミナだが、ここで逃げても追いかけてきそうだったので大人しく待つ。その時にキルアからのメールに気づき、2人が明後日試合することになったことを知る。

 

(……相手誰やねん?)

 

 対戦相手の名前を見ても、全くピンと来ないラミナ。

 その直後、悩んでいたナグタルが、

 

「ぬあああああ!!」

 

 と、突然叫び出して、再びビシィ!とラミナを指差す。

 

「やってやるってんだよゴラァ!! 俺っちは逃げも隠れもしねぇってんだよゴラァ!!」

 

「よっしゃ。ほな、試合は3日後な」

 

「上等だってんだよゴラァ!!」

 

「喧嘩屋・ナグタルと打上(うちあげ)姫・ラミナの試合が決まったぞ!!」

 

「チケット買う準備しねぇと!」

 

 野次馬達が一斉に走り出して、チケットを買い集める準備に向かう。

 その後ろ姿を見送りながら、ラミナは頬を引きつらせる。

 

(なんやねん……。打上姫って……)

 

 意味が分からない二つ名を付けられていた。

 余計なことを知る羽目になった原因であるナグタルを、今すぐぶん殴りたくなったラミナだが必死に我慢する。

 額に青筋を浮かべながらエレベーターに乗り、受付に向かってナグタルとのことを伝えて申込用紙を出す。

 

 とりあえず、色々と忘れたくなったラミナは酒を飲むことにするのだった。

 

 

 

 

 そして、2日後。

 午前がゴン対ギド。午後がキルア対リールベルトの試合だ。

 ラミナはチケットを買って、ゴンとキルアとそれぞれの試合を観戦することにした。

 

「ナグタルってどんな奴なんだ?」

 

「イキりきったレオリオ」

 

「……分かったような、分かりやすいような……」

 

 キルアは微妙な例を出されて、首を傾げる。

 ラミナとキルアは並んで観客席に座っている。

 

『さぁ!! 大注目の一戦がやってまいりました!! これまで破竹の勢いで勝ち上がってきたゴン選手がようやく登場!! 対するギド選手はここまで5勝1敗とまずまずの戦績を残しています!!』

 

 リング上で向かい合うゴンとギド。

 ゴンは【纏】を纏って、ストレッチをしている。しかし、その顔は興奮が隠し切れていない。

 早く戦いたくてウズウズしているようだ。

 

「始め!!」

 

 開始が告げられると同時にゴンは【凝】を使う。

 それに対してギドは袖から何かを取り出して、投げ上げる。それはオーラを纏いながら回転している独楽だった。

 

「ふん。どれだけ鍛えたかは知らんが……。俺の独楽から逃れられると思うなよ!」

 

 ギドが杖を横にすると、独楽をさらに取り出して10個ほど並べる。

 

『出ましたー! ギド選手の舞闘独楽!』

 

「行くぞ! 【戦闘円舞曲(戦いのワルツ)】!」

 

 ギドが独楽を放ち、リング上に10個の独楽が走り回る。

 ゴンは周囲に展開された独楽を警戒して、足を止める。

 その時、背後で独楽同士がぶつかり合ったかと思うと、勢いよく弾かれてゴンの背中に銃弾のように叩きつけられる。

 

「ぐぅ!?」

 

「クリーンヒット!!」

 

「げっげっげっ! 念を込められた独楽は何時間でも回り続ける! 複雑に舞い飛ぶ独楽の動きはもはや俺でも予測不可能!」

 

「つぅっ! (あんな小さな独楽なのに、ハンマーで殴られたような衝撃だぞ!?)」

 

 ゴンは背中の痛みに呻きながら、動き回る。

 キルアは動き回る独楽を見ながら、ラミナに訊ねる。

 

「あれは強化系? それとも操作系?」

 

「両方やな。独楽の回転を強めるんが強化系。そして、独楽を操り命令を付与しとるんが操作系」

 

「相性悪いんだよな?」

 

「そやな。けど、見る限りギドの独楽への思い入れが強いんやろな。それとあの独楽に与えた命令もそこまで複雑やない」

 

「どんな命令?」

 

「少しは考えんかい。見れば、すぐに分かるで」

 

 キルアは独楽の動きに集中する。

 独楽は互いにぶつかり合い、無秩序に動き回っている。しかし、よく見ると必ずしもぶつかり合った独楽はゴンに向かっているわけではない。

 独楽同士で連鎖するようにぶつかり合って、時々ゴンに向かっていく。だが、ゴンに向かって飛んでいく独楽も、体のど真ん中に向かっていくというわけでもなく、体すれすれを通り過ぎて行く独楽もある。

 

「……そうか。あの独楽は別にゴンを狙ってるわけじゃないのか」

 

「そういうこっちゃ。独楽が飛んでいく先に偶々ゴンがおるだけや。やから、あれも言うとったやろ? 『俺にも予測不可能』ってな」

 

「つまり、あの独楽に与えられた命令は『ぶつかった相手を弾き飛ばせ』ってことか」

 

「やな」

 

「ゴン……!」

 

「今のゴンなら、問題ないと思うけどな」

 

 その頃、ゴンも独楽の特性に気づき始めていた。

 しかし、それでも全ての独楽の動きを読むことは出来なかった。

 

「なら……!」

 

 ゴンは勢いよくギドに向かって走り出し、それと同時に【練】を発動する。

 

 独楽がゴンに襲い掛かるも、独楽はゴンの【練】に弾かれる。

 

「くっ! なら、これならどうだ! 【散弾独楽哀歌(ショットガンブルース)】!!」

 

 ギドは新しく独楽を数個取り出して、その全てをゴン目掛けて発射する。

 それをゴンは両腕で顔を庇いながら、【練】で受け止めて全ての独楽を弾く。

 

「なっ!?」

 

(俺の【練】は長くはもたない! 一気に決める!)

 

 ゴンはギドが動揺している隙に一気に詰め寄る。

 

「このっ! 舐めるなよ!!」

 

「!!」

 

『出たー!! 攻防一体の奥義【竜巻独楽】ー!!』

 

 ギドが勢いよく回転を始める。

 ゴンは滑りながら足を止める。

 

「俺はこの体になってから負けたことはない! 自ら独楽と化し、攻撃は他の独楽に任せる。地味だが、確実にポイントを稼げる戦法さ」

 

 ギドは自信満々に言う。

 すると、ゴンが【練】を発動しながら左脚を大きく前に出して、右脚にオーラを集中させながら身を低くする。

 

「おりゃあああ!!」

 

 そして、思いっきり右脚を振り抜いて、ギドの義足に足払いを繰り出す。

 一瞬互いの脚がせめぎ合う。

 しかし、オーラを脚に集めていたゴンの力が勝り、ギドは義足が地面から離れて一瞬宙に浮く。

 

「なっ!? わっ!?」

 

 ギドは慌てるも、立て直すことなど出来ずにリングに倒れる。

 ゴンはすかさず左拳をギドの脇腹に叩き込む。

 

「がっはぁ!?」

 

 ギドは横滑りに場外まで吹き飛ばされる。

 

「クリティカルヒット! アンド、ダウン!! ポイント、ゴン!! 3-1!!」

 

『ここでゴン選手が逆転!!』

 

「よし!」

 

「確かに上手い技ではあるけどなぁ。ゴンの集中したオーラにパワー負けしよったか」

 

(っちゅうかゴンの奴、本能的に【流】使いよったな。ギドの義足の【周】じゃ防ぎきれんのは当然か)

 

 義足に精孔はないので、【周】を使わなければ強化出来ない。

 いくら回転で強化するにしても、同じ強化系のゴンの肉体には勝てないだろう。

 

(まぁ、そもそもすでに【練】からしてゴンの方が上やな)

 

 元々の身体能力もゴンの方が上なので、【練】さえ上回ればゴンに敗ける要素はない。

 ギドに他の能力があれば別だが、今までの流れからすれば恐らくギドの資質は強化系だと推測できる。

 

 ギドは呻きながら起き上がるも、ダメージが大きすぎたのか再び仰向けに倒れる。

 杖は吹き飛ばされた時に落としてしまっており、手元にはない。

 

『お~っとギド選手、起き上がれないかぁ!? かなりのダメージのようです! これは試合続行は厳しいかぁ!?』

 

 リングの独楽は未だに回り続けている。

 しかし、ゴンは飛んでくる独楽を全て叩き落としていき、もはやギドに攻撃の手段はない。

 

「ギド選手、戦闘不能!! 勝者、ゴン選手!!」

 

 審判がギドは試合続行不可能と判断し、勝利宣言を行う。

 

「次はキルアやな。頑張りや」

 

「おう。ま、その前に飯だけどな」

 

 その後、ゴンと合流し、ゴンから「ヒソカに会って、好きな日を選べって言われた」と聞き、ラミナはゴンの好きにしろと伝える。

 ゴンはようやく目的を達成できそうだと気合を入れ直すのだった。

 

 

 

 そして、午後。

 

『さぁさぁ!! こちらも大注目の一戦!! 初登場のキルア選手と、現在5勝2敗のリールベルト選手!! 一体、どんな戦いを見せてくれるのかー!?』  

 

「始め!!」

 

 試合開始と同時にキルアが姿を消す。

 観客がどよめき、リールベルトは背中に怖気が走って車椅子にオーラを注ぐ。

 

「【オーラバースト】!!」

 

 車椅子の背中にある噴出口からオーラが噴き出し、車椅子が勢いよく走り出す。

 キルアは上空から右手を振るうも、躱されてしまう。

 

「あれは放出系?」

 

「せやな。噴出口からオーラを放出して推進力をあげとるみたいやな。まぁ、あれだけのスピードやと回避に集中せざるをえん感じやけど」

 

 リールベルトは背中から2本の鞭を取り出す。

 そして、2本の鞭を猛スピードで振り乱し、自分の周囲に鞭の嵐を作りだす。

 

『出ました! 【双頭の蛇による二重奏(ソング・オブ・ディフェンス)】!』

 

「はっ! いきなりの奇襲か! 残念だったな、キルア! この型に持ち込めば、もはやお前に勝機はないぜ!」

 

「なんで?」

 

「見れば分かるだろう! 常人にこの鞭の動きを見切るのは不可能! 狭いリングでは逃げも隠れも出来んぞぉ!!」

 

 高らかに笑いながら、リールベルトはキルアに鞭を振るう。

 しかし、キルアは凄まじいスピードで振るわれる鞭を、難なく掴んだ。

 

「!?」

 

「常人じゃねぇんだよ、悪ぃけど」

 

「っ……! はっ! いい気になるなよ!」

 

 リールベルトは持ち手にあるスイッチを押す。

 直後、キルアの体に高圧電流が鞭に流れる。キルアの体は電流により、硬直する。

 

「はーはっはっ! 驚いたぞ、キルア! 2本の鞭を見切ったのはお前が初めてだ! だが、無理に突破したり、怪我覚悟で掴む奴は何人もいた! そんな奴の為にはこの【双頭の蛇の正体(サンダースネイク)】! 両方合わせて100万Vの電流をプレゼント!! どんな大男でも――!」

 

 意気揚々と語っていたリールベルトだが、突如引っ張られてリング天井近くまで飛び上がる。 

 もちろん投げ飛ばしたのは、キルアである。

 

「電流は効かない。拷問の訓練は一通り受けたから。でも効かないのは我慢出来るって意味でさ。痛いのは変わりないんだよね。だから、ちょっと頭に来た」

 

 キルアは電流を浴びながらも涼しい顔で言う。

 その様子をラミナは僅かに眉間に皺を寄せながら見る。

 

(……まぁ、問題なさそうには見えたが……。こら、キルアの能力がどないなモンになるか想像出来へんなぁ)

 

 キルアの過去は暗殺家業に染まっている。

 なので、思い入れのあるものと言うと、その経験の中から選び抜かれる可能性が高い。そうなると自然と暗殺向けの能力になるのは想像に難くない。

 ラミナからすればそれ自体は全く問題ないのだが、その能力をキルアが受け入れられるのは別問題である。

 

(下手な制約作らんかったらええけどな)

 

 ラミナはそう思いながら、天井近くのリールベルトに目を向ける。

 リールベルトは上空で手を振り回して、完全に打つ手なしのようだった。

 

「その高さから落ちたら死ぬな。どーする?」

 

「ひっ!? た、頼む! 受け止めてくれぇ!!!」

 

「オーケイ。安心して、落ちてきな」

 

 そう言うキルアは未だに電流を浴びている。

 リールベルトは目を見開いて、涙を流しながらまっすぐキルアに落ちて行く。

 

「あ、ああ……!? ひぃいい!?」

 

 そして、キルアは見事にリールベルトをキャッチする。

 

「ギャアアアアアアアアア!?」

 

 リールベルトは自分の武器の電流を浴びて、悲鳴を上げる。

 1分もせずに失神し、キルアはリールベルトと鞭を放り投げる。

 

「どんだけ痛いか分かったか、バーカ」

 

「リールベルト選手失神によるKOとみなします! 勝者、キルア選手!」

 

「やったね、キルア!」

 

「まぁ、あんま念能力関係なかったけどな」

 

 ラミナは苦笑する。

 キルアは別にヒソカと戦うことはなく、ゴンよりは念能力を使用しての戦闘をシミュレーションしているだろうと考えているので、特に問題視はしなかった。

 

(まぁ、この2人はいきなり賞金首ハントなんぞせんやろうし、ヤバイ相手と戦う機会はそうそうないやろ)

 

 特にキルアはゾルディック家のしごきで、無理な戦いはしないように叩き込まれている。よほどの相手でなければ逃げることは出来ると考えるラミナだった。

 

 

 

 そして翌日。

 ラミナとナグタル戦は、ヒソカ対カストロ戦並みの超満員となった。

 

『いよいよ、本日のメインイベントがやってまいりましたぁ!! 会場は超満員で熱気にあふれております!!』

 

 その時、ナグタルが入場してきて、歓声が湧き上がる。

 

『先に現れたのは、喧嘩屋の異名を持つナグタル選手!! 現在7勝2敗の好成績! 燃え上がる闘志は今日も健在かー!?』

 

 ナダクルは上半身裸で、両腕には黒のミトンガントレットを装着している。

 ガキィン!と拳を打ち合わせ、ガントレットの硬さを周囲に自慢する。

 

 その反対側からは、ラミナが両手をポケットに突っ込んだまま飄々とした態度で登場する。

 

『続いて現れたのはラミナ選手!! 未だ1戦1勝ですが、その人気は鰻登り! 今回はどんな戦いを見せてくれるのかぁ!?』

 

 リングに向かい合うラミナとナグタル。

 

「覚悟しろってんだよゴラァ!!」

 

「……なんでそんな気合入ってんねん」

 

 相変わらずの熱気の違いにうんざりするラミナ。

 正直、何がそんなにナグタルの琴線に触れたのか、さっぱり分からない。

 なので、全くやる気になれないラミナだった。

 

「ポイント&KO制! 時間無制限1本勝負!! 始めぇ!!」

 

「行くってんだよゴラァ!!」

 

 開始と同時にナグタルがボクシングスタイルに構えて突っ込んできた。

 ラミナは未だに両手を入れたまま、ナグタルを見据える。

 

「ッラァ!!」

 

 ナグタルが右ストレートを繰り出し、ラミナは顔を傾けるだけで躱す。続けて左アッパーが飛んで来たが、それも頭を僅かに反らして躱す。

 ラミナはそのまま2,3歩下がり、ナグタルは逃がすまいと距離を詰めてくる。

 

 ナグタルは胴体を狙って右フックを繰り出す。ラミナはくの字に体を曲げて躱すも、そこに左フックが顔を目掛けて飛んで来た。

 ラミナは左に跳んで距離を取り、ナグタルの拳を躱す。

 

「てんめぇ!! 逃げんじゃねぇってんだよゴラァ!!」

 

「逃げるに決まっとるやろ」

 

「この野郎!!」

 

「野郎ちゃう」

 

「うっせえってんだよゴラァ!!」

 

 ナグタルは激高しながらラミナに迫り、今度はラッシュを繰り出す。

 しかし、ラミナはそれを全て見切り、紙一重で躱していく。

 この間、ラミナはずっと両手をポケットに突っ込んだままだった。

 

『ナグタル選手の猛ラッシュ!! それをラミナ選手は軽やかに紙一重で躱すー!!』

 

 その後もラミナはナグタルの猛攻を躱し続ける。

 

(蹴りは使ってこんな。フェイントもあんまないし)

 

 ゴン同様素直というか直球タイプのようだ。

 ラミナは大きく後ろに跳んで距離を取る。そして、両手をポケットから出す。

 

「やっとやる気かってんだよゴラァ!!」

 

「いや、入れとくんも疲れただけや」

 

「っ!! ……てんめぇ……!」

 

「体術やと勝負にならん。はよ、本気出せや」

 

「……言いやがったなぁ。後悔しやがれってんだよゴラアアア!!」

 

 ナグタルが額に青筋を浮かべて雄たけびを上げる。

 

 すると、ナグタルの両腕のオーラが炎へと変化する。

 

「ほぉ……」

 

「【絶えず燃え盛る闘魂(アンリミテッド・ブレイブハート)】ってんだよゴラァ!! さっきみたいに避け続けられると思うなってんだよゴラァ!!」

 

 ナグタルは勢いよく飛び出し、ラミナに殴りかかる。

 ラミナは大きく横に跳んで躱す。

 

「避けんなってんだよゴラァ!!」

 

 ナグタルが怒り叫ぶと両腕の熱量が更に上がるのを感じた。

 

(……オーラを炎に変えて、熱量を強化する能力か)

 

 ラミナは冷静にナグタルの能力を推測する。

 

(けど、拳主体なんは変わらんみたいやな。なら……)

 

 ナグタルが再び右拳を構えて殴りかかってくる。

 ナグタルが右ストレートを繰り出すと、ラミナは左拳を脇に構えて屈んでナグタルの拳を躱す。そして、ラミナがナグタルの鳩尾を目掛けて拳を振るう。しかし、微妙に距離が遠かった。

 

「届かねぇってんだよゴッフゥウ!?」

 

 届かないと思っていたナグタルの腹部に衝撃が走る。

 ナグタルはくの字に後ろに3mほど下がるも、倒れる事なく耐える。

 

「なっ……はぁ……!?」

 

「クリーンヒットォ! 1ポイント! ラミナ!」

 

『ラミナ選手のカウンターがヒットォ!!』

 

「っつぅ……! 何しやがったってんだよゴラァ……!」

 

「さぁなぁ」

 

(完璧に決まったと思たんやけどな。こいつ、資質は強化系か)

 

 ちなみにラミナが今使ったのは【流】【円】【発】の高等応用技【伸】。

 攻撃の瞬間に集中したオーラを1mほど伸ばす技である。これを素早く行い、一点集中で相手の【練】や【堅】を貫くことも出来る。

 

 【流】により威力が上がっているはずなのだが、ナグタルはそれを耐えた。

 ダメージがないわけではなさそうだが、膝をつくほどまでではない。

 

 そこからナグタルの本来の系統が強化系であることを見抜いたラミナ。

 

「この程度で倒れるかってんだよゴラァ!!」

 

 ボォウ!!と両腕の炎が更に勢いを増す。

 再び殴りかかってくるナグタル。

 

 ラミナは後ろに下がって躱す。炎の勢いが増したことで、隙を突いて懐に飛び込むのも難しい。

 

(中々厄介やな。ただ……両腕以外のオーラは弱まってきとるみたいやな)

 

 先ほどより体を覆うオーラが弱くなっているように見える。

 

「オォラアアアァ!!」

 

「……ふん」

 

 ラミナはナグタルが右ストレートを繰り出した瞬間を狙って、ナグタルの右側から一瞬で回り込んで、右脇腹に左フックを叩き込んだ。

 

「ゴォ!?」

 

 ナグタルが呻いた瞬間、ラミナは右腕で【蛇活】を放ち、鞭のようにナグタルの右腕を潜り抜けて顎を跳ね上げた。

 更に左脚で足払いを繰り出して、ナグタルの脚を跳ね上げる。

 

「がっ!?」

 

 ナグタルは後頭部から地面に倒れる。

 

「クリティカル! アンド、ダウン! プラス、ポイントッ! 4-0!」

 

『ナグタル選手の燃え盛る猛攻を鋭く掻い潜るラミナ選手の攻撃ー!! 一気にポイントを引き離したー!!』

 

 ラミナはナグタルから距離を取る。

 ナグタルは頭を押さえながら起き上がる。

 

「流石は強化系。頑丈やなぁ」

 

 ラミナはナグタルの頑丈さに呆れる。

 ナグタルは僅かにふらつきながらも起き上がり、また両腕に炎を纏ってラミナを睨みつける。

 

「なぁ、なんでうちに戦いを申し込んだんや? 正直、おまえにそこまで因縁掛けられる理由思いつかんのやけど」

 

「……決まってるってんだよぉ。……てめぇの……アッパーに惚れちまったんだってんだよおお!!」

 

『「は?」』

 

 ナグタルの叫びに会場にいた全員がポカンとする。

 

「てめぇのあのトドメのアッパー!! あの淀みのない動きに、滑らかな腰! なにより、あの凄まじい威力!! 全てが完璧だったってんだよぉ!!」

 

「……」

 

 ラミナはもうドン引きだった。

 ヒソカにも負けないくらいの変態だったようだ。

 

「だから、てめぇと戦えるのが楽しみだったってんだよゴラァ!!」

 

「どんな理由やねん」

 

「俺っちはてめぇに勝ぁつってんだよゴラァ!!」

 

「どうやったら、そんな結論に変わんねん」

 

「ウオオオオオ!! くらえぇ!! 【散り燃える炎弾(イラプション・フィスト)】!!」

 

「!!」

 

 ナグタルが両腕を突き出すと両腕の炎が弾けて、拳大の火の玉の群れがラミナに襲い掛かる。

 

 ラミナは一瞬目を見開くも、すぐさま目を鋭くして【堅】を発動する。

 

 そして、当たりそうな火の玉を全て拳や蹴りで叩き落とす。

 

「まだまだ行くってんだよゴラァ!!」

 

パチン!

 

「あ?」

 

「こっちや」

 

「っ!? ごぇ!!」

 

 何かが弾ける音がしたかと思ったら、いつの間にかラミナが背後にいた。

 ナグタルは目を見開きながら振り返るも、何も出来ずにラミナの拳が左頬に突き刺さる。

 

 ナグタルは場外まで吹き飛び、地面を転がって観客席の壁に叩きつけられる。

 

「クリティカル! アーンド、ダウン! ポイント、7-0!」

 

『ラミナ選手が一瞬で背後に回って、ナグタル選手を吹き飛ばしたー!! これは大ダメージかぁ!?』

 

「今のどうやったの?」

 

「分かんねぇ。指を弾いたのしか見えなかった……」

 

 ゴンとキルアはラミナが何をしたのか分からなかった。

 

 ラミナはベンズナイフを具現化して【隠】で見えなくして、ナグタルの足元に置いておいたのだ。

 そして【チェンジリング】を発動して、背後に回り込んで【流】で思いっきり殴っただけである。

 

 ベンズナイフを消して、ラミナはナグタルが倒れている方を見る。

 ナグタルはうつ伏せに倒れていた。

 審判が駆け寄って確認すると、ナグタルは白目を剥いてピクピクと震えて気絶していた。

 

「ナグタル選手、失神KO! 勝者、ラミナ選手!!」

 

『へんた……コホン。ナグタル選手も一方的に撃破ー!! ラミナ選手の勢いは一体誰が止めるのかー!?』

 

「もう戦わへんけどな」

 

 そう呟いてリングを後にするラミナ。

 

 とりあえず変態を撃破したラミナは、ゴンとヒソカをさっさと戦わせて、天空闘技場を去ろうと心に決めたのだった。

 

 




追記:【伸】は拙作オリジナルですm(_ _)m

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