暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#25 デシ×タイ×デシシボウ

 ラミナはキルア達と合流して部屋に戻ろうとしていた時、気絶から回復したナグタルが物凄い勢いで駆けつけて来た。

 

 そして、ラミナの目の前でスライディング土下座を決めた。

 

「俺っちを弟子にしてくれってんだよおおぉ!!」

 

「「「は?」」」

 

 突然の弟子志望にラミナ達は唖然とする。

 

「俺っちはあんたの強さに惚れたってんだよ! だから、俺っちを弟子にしてくれってんだよ!!」

 

「嫌や。とりあえず、約束の有り金全部寄こせや」

 

「払えば弟子にしてくれるのか!?」

 

「なんでや阿呆。負けた方が有り金全部払うっちゅうんが、この試合を受けた条件やろが。すり替えんな」

 

「ぐ……」

 

 ラミナのツッコミにナグタルは言葉に詰まる。

 ゴンとキルアはラミナが言った条件に呆れていたが、ナグタルもそれに同意したのならば仕方がないと考え、口出しはしなかった。

 

「ほれ、約束は守らんかい」

 

「……わ、分かったってんだよ……」

 

「ほれ、これが口座や。今、振り込めや」

 

((マフィア……?))

 

 取り立てをしているラミナの後ろ姿にゴンとキルアは同じことを思っていた。

 ナグタルは携帯を操作して、言われた通りに金を振り込む。

 口座を確認したラミナは金を振り込まれているのを確認する。それが本当に有り金全部かどうかは確認しない。ぶっちゃけ振り込まれれば、それで十分だったからだ。

 

「確認した。ほな、さいなら」

 

「ま、待ってくれってんだよ! 弟子にしてくれってんだよ!!」

 

「嫌や言うてるやろ」

 

「な、なんでだよ!? そいつらは鍛えたんだろ!?」

 

「こいつらは親から教えてくれって脅されたからや。それももう終わったでな」

 

「だったら、ついでに俺っちも鍛えてくれよ!」

 

「なんでやねん。それにこいつらに教えたんは念の基本だけや。別に体術は教えてへん」

 

「ぐぅ……!」

 

 ナグタルは悔し気に顔を歪める。

 ラミナはメンドくさ気に腕を組む。

 そこにゴンが口を開く。

 

「教えてあげるくらい、いいじゃん」

 

「!!」

 

「アホ言え。そもそもお前らに教えるんやって面倒やったのに、なんでこいつ鍛えなあかんねん」

 

「でも、まだここにいるんでしょ?」

 

「それはお前次第や。お前がヒソカと戦うんに2か月待つとか言うんやったら、うちは次の仕事があるから出て行くで」

 

「次の仕事って?」

 

「言えるかいドアホ。とりあえず、うちはもう誰かに教える気はない」

 

 ラミナのきっぱりとした言葉に、ナグタルは項垂れる。

 ゴンは可哀想な目でナグタルを見て、ラミナに目を向ける。キルアもこればっかりはラミナの言い分も理解できるので、呆れた顔でゴンを見つめる。

 ゴンの視線を感じたラミナは盛大に顔を顰めるが、そこにあることを思いつく。

 

「ほんなら、そこのキルアと戦えや。キルアに勝ったら、ここにおる間は鍛えたる」

 

「ホントかってんだよ!?」

 

「はぁ!?」

 

「キルアくらい勝てん奴に教える気はないでな」

 

「いいぜ!! やってやるってんだよゴラァ!!」

 

 ナグタルは気合を入れて立ち上がって、キルアを睨む。

 そして、ビシィ!とキルアを指差して、

 

「てめぇみたいなガキに俺っちが負けるかってんだよゴラァ!! 覚悟しやがれってんだよゴラァ!!」

 

「な、なんで俺が戦わないといけないんだよ!?」

 

 キルアは巻き込んできたラミナに食って掛かる。

 ラミナは腕を組んだまま、涼しい顔で答える。

 

「いや、お前もこの後何にもないやろ? それに昨日の試合やと念能力者と戦えたとは言えんし、こいつで経験しとけや。せっかくええ感じの能力者やし」

 

「む……」

 

「念能力はあいつが上やけど、ぶっちゃけ身体能力はお前の方が上や。油断せんかったら勝てる相手やで」

 

「……ちっ」

 

 キルアはラミナの言い分が正しいと理解出来てしまったので、舌打ちして不貞腐れる。

 事実、リールベルトとの戦いは念能力をほとんど使わずに終わってしまった。

 なので、自分の【練】などがどこまで通じるのか分かっていない。

 

「……分かったよ。やればいいんだろ、やれば!!」

 

「わざと負けたら許さんでな。イルミに逐一居場所報告したる」

 

「てめっ!」

 

「ほれ、さっさと試合申し込んでこいや」

 

「くっ!」

 

「ぜってぇ俺っちは弟子になってやるってんだよ!」

 

 キルアとナグタルは試合の申し込みに行く。

 それを見送ったラミナはゴンに目を向ける。

 

「ゴンも早めにヒソカと打ち合わせしときや。あんまり時間かけてもええことないで。ヒソカは9勝3敗。もう上に行くか、ここを出て行くしかないで?」

 

「あ!? そっか! えっとヒソカはカストロの試合が最後だから……」

 

「まぁ、2か月は確実にあるわ。それでもそこまではうちは待たんで」

 

「う~……!」

 

「まぁ、もううちがお前に教えることはないけどな。どうせ、付け焼刃の能力なんざヒソカに通じるとは思えんし、さっさと戦ってこいや」

 

「それもそっか。うん、分かった」

 

 ゴンは笑みを浮かべて頷く。

 1,2か月では作った能力の特性を把握するのは簡単ではない。さらに能力を組み合わせて戦うのならば、更なる修練がいる。

 ただでさえ【練】や【凝】での戦闘にまだ慣れておらず、【堅】【流】も使えないゴンにそんな余裕はないだろう。

 

 なので、下手な能力を作る前にさっさとヒソカと戦って実力差を実感した方が、ゴンにとってはいい方向に向かうだろうとラミナは考える。

 

 そして、キルアに関しても実戦を経験させないと実力を伸ばすのは難しいだろうと考える。

 キルアの場合は閃きを期待するよりは、より多くの実例を見せた方が自分に適した能力を探すことが出来るはずだ。

 だから、ナグタルとの試合は渡りに船だと思ったのだ。

 

 ゴンの部屋に戻って待っていると、キルアが顔を顰めて戻ってきた。

 

「お。日にち決まったんか?」

 

「ああ。1週間後にした」

 

「頑張りや」

 

「なんで俺が戦うことになるんだよ!」

 

「そら、あいつの能力が丁度ええからや。あれほど分かりやすい典型的な念能力者は珍しいでな」

 

「って言うと?」

 

「オーラを炎に変えるのは変化系。熱量を上げるのは強化系。火の玉にして放つのは放出系。ヒソカより分かりやすい能力やでな」

 

 シンプル故に応用性は高い。

 ヒソカの能力からもそれは窺える。

 

「ただ、あいつの能力は両腕限定みたいやけどな。恐らくそれが制約の1つなんやろうな」

 

「他にもあるのかな?」

 

「あると思うで? そうやないと、あそこまでの熱量は出せん」

 

「なんで?」

 

「オーラを別のモンに変えるには、それだけ強いイメージがいるんや。具現化系に関しては、具現化するモンを数日ずぅ~っと肌身離さず持って、匂い嗅いだり、あちこち叩いて音を聞いたり、舐めたり、模写したりな。それでようやく本物と変わらんモノを作れる。変化系に関してはそこまでやないけど、それでも水や炎とかに変えるんはそう簡単なことやないでな。よっぽど火と拳に思い入れがあるんやろ」

 

 あの性格とも相性がいいのだろう。

 それでもあそこまでの炎に変えるには、かなり危険な特訓をしてきたはずだ。

 

「それにあの頑丈さからすれば、あいつの資質は強化系やと思う。やから、あいつの能力は自分の系統にピッタリではある」

 

 強化系と相性がいいのは変化系と放出系。

 ナグタルの能力は非常に資質とも相性がいい。

 

「やから、キルアも参考できる使い方やとは思うで? せっかくやし、目の前で体験しとけや。天空闘技場を出たらそんな簡単に念能力者と会えんやろうし、会っても友好的とは限らん。ここはまだポイント制のおかげで殺されにくいでな。経験積むには丁度ええで」

 

「……分かったよ」

 

 キルアも渋々ではあるが、ラミナの言葉に納得する。

 

 そして、ゴンとキルアに【練】と【纏】の修行を引き続きするように伝えて、ラミナは部屋を後にするのだった。

 

 

 

 1週間後。

 

 キルアとナグタルの試合を迎えた。

 

「おい、ガキィ。火傷する前にとっととギブアップしろってんだよゴラァ!!」

 

「冗談。そっちこそ、怪我する前にギブアップすれば?」

 

「んだとぉ……!」

 

「ふん」

 

『なにやら不穏な空気! それもそのはず! キルア選手とゴン選手はあのラミナ選手の弟子! そしてナグタル選手は、先日の試合後にラミナ選手へ弟子入りを志願したとの情報があります! つまり今試合はラミナ選手に弟子入りできるかの試練とも言えます!! しかし、この戦いで負ければナグタル選手は4敗となり、即失格となります!』

 

 何故か詳しい情報が運営サイドに伝わっていることに顔を顰めるキルアとラミナ。

 しかし、事実であるために否定も出来ず、我慢するしかなかった。

 キルアはラミナに弟子入りしたつもりはなかったが、教えてもらっている間は弟子ノリでいたため仕方がないと受け入れるしかなかった。

 

「ポイント&KO制! 時間無制限、一本勝負!! 始め!!」

 

「【絶えず燃え盛る闘魂(アンリミテッド・ブレイブハート)】ォ!!」

 

 開始早々ボオォ!!と両腕に炎を纏うナグタル。

 

『お~っとぉ!! いきなり炎の拳を出してきましたぁ!!』

 

「速攻で決めてやるってんだよゴラァ!!」

 

 ナグタルは拳を構えて、キルアに飛び掛かる。

 キルアは顔を引き締めて、後ろに下がりながら【肢曲】を使ってナグタルを撹乱する。

 

「しゃらくせぇってんだよゴラァ!! 【抑え切れない我が闘志(パッション・バースト)】!!」

 

「!」

 

 振り抜いた右腕の炎が弾けて、熱風となってキルアの分身を吹き飛ばす。

 キルアは上に跳び上がって躱す。

 しかし、ナグタルは左腕を振り上げて熱風を放ち、キルアを追撃する。

 

「くっ!」

 

 キルアは両腕を交えて顔を守りながら【練】を発動する。

 直後に熱風が襲い掛かり、キルアは場外まで吹き飛ばされる。上手く着地してダメージはなかったが、キルアの顔は渋い。

 

「ちっ! (【練】のおかげで火傷まではしなかったけど、かなりの熱量だ。このままじゃ近づけない……!)」

 

「どうしたぁ!! その程度かってんだよゴラァ!!」

 

 再び両腕に炎を纏いながら挑発するナグタル。

 キルアはリングに素早く戻り、ナグタルと向かい合う。

 

(……真正面からはやや不利。かと言って、回り込もうにもさっきの熱風が来るだけ。奴には炎弾もある。けど、こっちは近づかないと勝ち目はない。くそっ! 体術は俺が上だって言っても、それが使えないんなら意味ねぇだろ!)

 

「来ねぇならこっちから行くってんだよゴラァ!!」

 

「くっ!」

 

 ナグタルが殴りかかってきて、思考を中断するキルア。

 炎の拳を躱しながら必死に作戦を考えるも、少し離れた瞬間に熱風が放たれて回避に精一杯になってしまう。

 

 そのまま10分ほど、同じ工程が繰り返される。

 

(そういえば、この熱風はなんでラミナの時は使わなかったんだ?)

 

 ようやくナグタルの動きにも慣れてきたキルアは、ふとした疑問が頭を過ぎる。

 キルアは必死に頭をフル回転させる。

 

(あの熱風は放出系の技に属するはず……。放出系ってことは……熱風を放つたびにオーラを消費してる!)

 

 キルアはナグタルの炎の弱点を見抜いた。

 

(あの炎だってオーラをガソリン代わりに燃やしてるんだ! ってことは、炎を出し続ける限りオーラは消費されていく!)

 

 キルアは【凝】を使う。

 

 そして、ナグタルの体を覆う【纏】が最初より薄くなっていることに気づく。

 それにより自分の推測が間違ってないことを確信したキルアは、弾けるように走り出してナグタルの周囲を駆けまわる。

 

「はっ! また撹乱かってんだよゴラァ!! んなもん、無駄だってんだよゴラァ!!」

 

 ナグタルはイキりながら左腕を振り、熱風を放つ。

 キルアは更にスピードを上げて、一瞬でナグタルの背後に回り込む。そして、ナグタルの左脇腹に左フックを叩き込む。

 

「がぁっ!?」

 

「クリーンヒット!」

 

「づぅあっ!!」

 

 ナグタルは痛みに呻くも膝をつくこともなく、左裏拳を繰り出す。

 キルアは後ろに跳び下がって距離を取る。

 

 そして、もう1つ、ナグタルの能力の弱点を見つけたキルア。

 

(あいつの炎は一度熱風を放つと、また燃え上がるまでタイムラグがある!)

 

 オーラを炎に変えて燃やし、さらに熱風などに変えて放つ以上、消費は【練】よりも激しいはずだ。

 ならば、使えば使うほど燃料であるオーラは減るはず。

 

 そう考えたキルアは再び駆け出して、ナグタルの周りを動き回る。

 

 それを見ていたラミナはキルアがナグタルの能力の欠点に気づいたことを悟る。

 

「お。キルアの奴、ナグタルの弱点に気づいたみたいやな」

 

「弱点?」

 

「そ。ナグタルの能力は確かに上手いし、応用力も高いけどな。けど、あの能力はオーラの消費が激し過ぎるんや。特に炎なんざ普通の自然現象でも長時間維持出来へんやろ? 火は必ず油や炭、ガスとかの燃料がいる。燃料が無くなれば、当然火は消える」

 

「そっか。オーラが燃料だから、使えば使うほどオーラも減っちゃうのか」

 

「そういうこっちゃ。炎の特性を再現しとる以上、絶対消えん炎なんざ出来へん。あの能力は本来あんな初っ端から、しかもずっと使うモンやないねん」

 

 死によって強まる念ならばまだ可能性があるが、今までの感じだとそこまで強まる性質ではない。

 

「恐らくは『発動は両腕のみ』。それと『興奮すればするほど熱量が上がる』ってのが制約やな。そうなると、あいつはオーラの絶対量がそこまで多くないんやろな」

 

「ふぅん」

 

「まぁ、一番アホなんは……」

 

「アホなのは?」

 

「炎が弱まるっちゅうことは、同時に【練】や【纏】も弱まるっちゅうことやな」

 

「あ」

 

 その時、ナグタルの炎の勢いが弱まった。

 それを見逃さなかったキルアは一気に間合いを詰めて、ナグタルにラッシュを仕掛ける。

 

「ぐぅ!?」

 

『ここで一気にキルア選手が攻め込んだー!!』

 

「このっ!」

 

 ナグタルが歯を食いしばりながら両腕を突き出す。

 その瞬間、キルアは屈んで足払いを繰り出す。

 

 【散り燃える炎弾(イラプション・ショット)】を放つと同時に両足が宙に浮く。炎弾を放ったことによる推進力で、ナグタルは勢いよく後ろに吹き飛ぶ。

 

「ぐお!?」

 

 ナグタルはリングを転がり、キルアは猛スピードで詰め寄ってナグタルの腹部に蹴りを叩き込む。

 

「ぶぅえ!? ぐっ! がぁ!!」

 

 腹を押さえて、転がる勢いを利用して気合で立ち上がるナグタル。

 しかし、その目の前にはキルアがいた。

 

「っ!? う、うらあぁ!!」

 

 目を見開くも反射的に右ジャブを放つ。

 しかし、その腕には炎はなく、【練】どころか【纏】も曖昧で、拳の勢いもなかった。

 

「……ふん」

 

 キルアは素早くナグタルの右肘の下に左手を添え、そして右手刀を上から右ガントレットに叩きつける。

 

ボギッ

 

 鈍い音が響き、ナグタルの右ガントレットが凹み、右腕が歪に曲がる。

 

「がああああ!!」

 

「これで右腕は使えないぜ」

 

「クリティカル! キルア、プラス2ポイント!! 3-0!」

 

『な、なんとー!? ガントレットごとナグタル選手の腕を圧し折ったー!!』

 

「づぅ! 右がなくても……まだ左があるってんだよゴラァ!!」

 

 ナグタルは目を大きく見開き血走らせながら、左腕に炎を纏わせて殴りかかる。

 キルアは冷静に下がって躱し、ナグタルが左腕を引いた瞬間に間合いを詰めて、右側に回り込みながら【練】を使った状態で左フックを脇腹に叩き込む。

 

「げぇっ!?」

 

 ただでさえ弱まっていた【纏】を破られてしまい、ナグタルは衝撃と激痛に動きが止まり、炎が解ける。

 

 続けて、キルアは跳び上がって、ナグタルの顎に右脚を振り上げて突き刺した。

 

「っっっ!?!?」

 

 ナグタルは一瞬意識が刈り取られ、大きく仰け反って後ろに吹き飛んで場外に落ちる。

 

「クリティカル!! アンド、ダウン!! キルア、プラス3ポイント!! 6-0!」

 

『これは重い一撃が入ったーー!! これは決まったかー!?』

 

(確実に顎を砕いた感触もあったし、これで終わりだろ)

 

「ごぼっ! がはっ! ぐ……お……」

 

「!!」

 

 キルアは勝利を確信していたが、なんとナグタルはふらつきながら体を起こした。

 口から血を吐き、瞳を震わせながら呻き、足をガクガクと震わせながら、それでもゆっくりと立ち上がった。

 

『なんと、なんとーー!? ナグタル選手、立ち上がった!! まだ戦う気だー!! しかし、その姿はもうボロボロです! リングまで戻れるのかー!?』

 

 ナグタルは足を引きずりながら前に進む。

 しかし、一歩ごとに大きくふらつき、今にも倒れそうだった。

 

「……」

 

 キルアはその姿に追撃を躊躇う。

 これ以上の攻撃は本当に命の危険にかかわるからだ。

 

「……ま゛……ぢゃ…ぢゃ……。お゛ぢぇっぢば……ま゛ばま゛でね゛ぇええええ!!!」

 

 顎が砕けて、まともな言葉にならないナグタルはそれでも叫びながら、キルアに向かって両腕を突き出す。

 

「!!!」

 

「ぶっっぢょべえええええ!!」

 

 ナグタルの両腕から、これまでとは比にならない熱を放つ炎が噴き出す。

 

 キルアは全力で【練】を発動し、全力で跳び上がる。

  

 直後、ナグタルから巨大な炎が放たれる。

 直径5mほどの赤い光線がキルアの真下を通り過ぎて、リングの壁に突き刺さる。喉が焼けると思う程の熱風が吹き荒れ、壁付近にいた観客達は顔などの皮膚が火傷して悲鳴を上げる。

 

 キルアは観客席上の壁を蹴って方向転換し、ナグタルの背後に下りる。

 

 炎が止まり、ナグタルはそのままうつ伏せに倒れる。

 キルアは噴き出した汗を拭い、炎が直撃した場所を見る。

 

 リングの壁は溶け、未だに赤く熱されている。

 それだけで高熱だったことが窺え、キルアは「もし今のがもっと万全な状態で撃たれていたら、避けられたのか?」と思い、ゾッとする。

 

『な、なんとも恐ろしい熱さでした……。これが直撃していたら、人は骨も残らないのではないでしょうか……』

 

 審判がナグタルに恐る恐る近づき、状態を確認する。

 

「……ナグタル選手、失神KOにより! 勝者、キルア選手!!」

 

『キルア選手、順調に2勝目ー!! そしてこの瞬間、ナグタル選手は残念ながら失格となってしまいましたー!』 

 

 キルアは担架で運ばれていくナグタルを見送る。

 しかし、キルアには喜びも勝った実感もない。

 

(間違いなくアレを最初に使われていれば、俺は死んでた……)

 

 体術で優れていても、アレは耐えられない。

 今もまだ皮膚がヒリヒリと熱を浴びているような感覚に襲われている。

 

 キルアは重い足取りでリングを後にする。

 

 控室に戻ると、ゴンとラミナがそこにいた。

 

「キルア! 大丈夫?」

 

「……ああ」

 

「最後のは肝が冷えたやろ? いや、肝が燃やされたっちゅう方が正しいか?」

 

 ラミナが苦笑しながら冗談を言う。

 

 キルアは椅子に尻餅をつくように座り込み、ゴンから渡された水を飲む。

 

「……最後のあれも念、なんだよな?」

 

「そうやな」

 

「あいつの炎は使えば使うほど、オーラは減っていく。俺はそう考えた。これは?」

 

「合っとるで」

 

「なら、最後のあの炎はなんだ? あれは明らかにオーラの量がおかしかったぜ」

 

「……恐らくは誓約の力やろう。あの土壇場で何かしら強く誓ったんやろな」

 

「……誓約はオーラが足りなくても関係ないのか?」

 

「内容によるでな。ただし、大抵は命を落とすか、二度と念が使えんようになる。軽くても数年から数十年、オーラを使うことが出来んこともある。その代償が、あのドでかい一発や。あれがもっと万全な状態やったら、ホンマに危なかったなぁ」

 

「……」

 

 ラミナの言葉にキルアとゴンは真剣な顔で聞き入る。

 それだけあの最後の一撃は2人に強烈な印象を残した。

 

「ええ機会やから言うとくわ。念の一番恐ろしい能力について」

 

「恐ろしい能力?」

 

「そうや。念にはな、死ぬことで強まる念が存在する」

 

「「!!」」

 

「多くの場合は恨み、未練などによるモンやけどな。死ぬことでその能力を残し、更には強くなることがあるんや。その場合、多くは恨みや未練の対象に襲い掛かる場合がほとんどやけどな。厄介なんは、どの能力が死んで強まるんかは本人すら分からへんっちゅうことや」

 

 一番多い例は具現化系、特質系、操作系の3つである。

 特質系は能力が多様過ぎる故に。具現化系は具現化された物体が残り続け、操作系は与えられた命令が消えない。

 

 死の直前に、念にどのような思いを込めているかによって死後も残るかどうかが決まるので、本人すらも分からないのだ。

 

「やから、念能力者と戦う際は確実に戦闘不能にし、相手の念が消える事を確認するまでは油断したらあかん」

 

 具現化系や操作系の場合は意識を失っても動き続ける場合もある。

 だからこそ、経験を積んでいき、念能力を見極められるようにならなければいけないのだ。

 

「ええ経験になったやろ?」

 

「……ああ」

 

「念って本当に色々あるんだね」

 

「まぁ、うちも最後の攻撃は驚いたけどな。何年も念を使っとるうちでも、初見の能力なんざようけある。やから、頑張って生き残れるように努力しぃや」

 

「「押忍!」」

 

「もうええっちゅうに」

 

 ラミナは呆れながら、2人を見る。

 

 これでゴンとヒソカの試合を残すのみとなった。

 

 




明日はお休みです(__)

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