暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#28 ヨウコソ×マイ×シスター

 7月10日。

 ラミナは【カゴッシシティ】にある家でのんびりとしていた。

 

 カゴッシシティはヨークシンとゼルンロサスの中間にある都市で、美術館や博物館で有名な都市である。

 ファッション街などもあり、芸術家やデザイナー、モデルが一度は夢見る場所だ。

 

 ラミナの家は郊外にある。

 レンガ造りのジョージアンスタイルの2階建てで、小さいが庭も付いており、ガレージもある。

 

 もちろん仕事の報酬で購入したものだ。そして、とことんリノベーションもしており、ラミナが暮らしやすい家になっている。

 

 今日のラミナは、赤のへそ出しチューブトップに黒のジャケット、ショートデニムパンツに黒のサンダルとお気楽スタイルである。

 

「ふわぁ~……ねむ……」

 

 ラミナは欠伸をして、コーヒーを飲む。

 マチにはすでに家に戻ったことは連絡している。

 マチが来るまでは掃除をして、食材を購入して、家に色々セキュリティを仕込んだり、武器の補充や手入れをしたりして過ごしていた。

 

 どうやらフランクリンとフェイタンも一緒にいるらしい。

 なので、酒や食材は多めに購入してある。

 

 ポケ~とソファに寝っ転がりながらテレビを流し見る。

 昼時が過ぎたとき、携帯が鳴りメールが届く。マチからのメールで中身を確認しようとすると、チャイムが鳴る。

 

「ん?」

 

 メールから目を外し、玄関の方に意識を向ける。

 宅急便など頼んだことはないし、ここを知っている者など旅団メンバーくらいしかいない。

 誰か確認しようとソファから立ち上がると、

 

 

ドンドン!

ガチャ!

 

……カチャカチャカチャ

 

 

「……」

 

 明らかにピッキングされている音が聞こえてくる。

 

 さらに、玄関の磨りガラスに巨大な陰影が見える。 

 

 そして、最初の荒いノックを考えると、辿り着く答えはただ1つ。

 

「……開けるからやめぇや。フェイ」

 

「ちっ」

 

 舌打ちが聞こえ、ピッキングの音が止む。

 ラミナがため息を吐いて、玄関を開ける。

 

 そこにはマチ、つまらなさそうにしているフェイタン、呆れているフランクリンがいた。

 

「メールとチャイムが同時ってなんやねん」

 

「忘れてた」

 

「だったら電話でええやんけ」

 

「うっさいよ。さっさと入れな」

 

「はぁ……へいへい」

 

 フランクリンをいつまでも外に置いておけば目立つので、大人しく中に入れるラミナ。

 リビングに案内したラミナは適当にソファや椅子を勧める。

 

「あ、フランの椅子はガレージにあるわ」

 

「……ああ。まだあったのかアレ」

 

「あるに決まっとるやろ。お前がソファ座ったら変形するやないか」

 

「そこまで重くねぇよ」

 

「最初来た時にソファ壊したん誰やねん」

 

「……あれは俺だけじゃねぇ。ウボォーだって座ってただろ」

 

「一番最初に壊れたんはフランが座っとったとこやったぞ」

 

「お前が買ったソファが脆すぎんだよ」

 

「50万のヴィンテージソファやで!? うちかてまだ数回しか座ったことなかったんやぞ! んで、フェイは堂々と盗聴器仕掛けんなや!!」

 

「ちっ」

 

「いいから、部屋に案内しな」

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、2階に3人を案内する。

 

 2階は全部で5部屋。

 ラミナの部屋と書斎。そして、シングルベッドが置かれている8畳ほどの部屋が2つに、キングサイズのベッドが置かれている8畳ほどの部屋がある。

 

「デッカイベッドの部屋はフランが使い。マチ姉はこっちの個室。フェイはフランと一緒でもええし、空いとる部屋でもええで」

 

「あんたの部屋は?」

 

「マチ姉の部屋の隣。プレート下げとる部屋や」

 

「ふぅん」

 

 そう言ったマチは、当たり前のようにラミナの部屋に入る。

 

 ラミナの部屋は非常に殺風景で、机と小さい本棚。そしてベッドの代わりにハンモックが置かれているだけだった。

 

「相変わらず寂しい奴だね」

 

「うっさいわ。寝るだけの部屋なんやからええやろ」

 

「逆になんで他の部屋にベッドがあんだよ」

 

「クロロやパク姉が置け置けうるさかったんや。書斎やって、半分以上がクロロが置いて行った本ばっかやし」 

 

「団長、結構ここに来るの?」

 

「3,4か月に1度くらいやな。いつの間にか合鍵持っとっだじぐぅえ!?」

 

 マチに背後から首を絞められるラミナ。

 マチは両腕でギリギリと絞めながら、底冷えする声で言う。

 

「なんで団長が合鍵持ってて、アタシには教えずに渡されてないの?」

 

「っっっ!!!」

 

「マチ、少し緩めてやれ。それじゃあ喋れねぇ」

 

 ラミナが必死にマチの腕をタップし、フランクリンが呆れながら助け舟を出す。

 マチが腕を放すと、ラミナは崩れ落ちて咳き込む。

 

「ゲホッ! ゲホッ! や、やから……クロロ達が教えとると思てたんやって……。合鍵のことやって知ったんも少し前やし……。この前会った時は持っとらんかったから渡せへんかったし……ゲホッ!」

 

「じゃあ、今渡して」

 

「わ、分かっとるって。……ほれ」

 

 ラミナはポケットから鍵を取り出して渡す。

 鍵を受け取ったマチは「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らしながら胸元に仕舞う。

 ラミナは息を整えながら立ち上がって、マチに割り当てた部屋を指差す。

 

「その部屋はマチ姉の好きにしてええし、別にうちがおらん時でもこの家で過ごしても構わんよ」

 

「はいはい。あ、それと着替え貸して。後、シャワーも」

 

「服はうちの部屋から好きなん持って行き。脱いだ服は洗濯しといたるわ。フェイとフランも部屋に適当な服置いとるでな。洗濯するなら出しや」

 

「分かたね」

 

「おう」

 

「フェイタンはともかく、フランはなんで服まであるの?」

 

「フラン達が最初に来た時に買うた奴や。それを残しとっただけのこっちゃ」

 

 その後、マチはラミナのクローゼットから服を持ち出してシャワーを浴びる。

 フェイタンは白のタンクトップにジャージズボン。フランクリンは茶色のタンクトップにデニムズボンに着替えて、それぞれ好き勝手に過ごし始める。

 

 ラミナは受け取った服を洗濯に掛けていく。

 

「ん~……マチ姉の服は手洗いやないとあかんか……」

 

 マチの服は和服なので、帯も含めて洗濯機で回すわけにはいかない。

 

「……そういや、街に和服を扱う店が出来とったなぁ……」

 

 以前、街を散歩したときに見かけたことを思い出すラミナ。

 せっかくなので新しい服を買ってもいいかもしれないと考える。

 

「……まぁ、そこらへんは本人に聞けばええか」

 

 とりあえず、マチの服の洗濯は後回しにして、リビングに戻る。

 

 フランクリンはなんだかんだでガレージから自分専用の椅子を持ってきて座っており、フェイタンもガレージからハンモックを取り出して寝転んでいた。

 

「酒出すか?」

 

「いや、俺は茶でいい」

 

「ワタシは何でもいいね」

 

「ほな、茶にするわ」

 

 ラミナは2人に茶を出して、ソファに座る。

 

「もう後はヨークシンに行くだけなんか?」

 

「いや、後ノブナガと合流してから向かう予定だ」

 

「と言てもノブナガがどこにいるのか知らないけどね」

 

「相変わらず音信不通連中が多いなぁ」

 

「金を持たない主義の連中が多いからな」

 

「ワタシ達盗賊。欲しいモノは奪い取るだけね」

 

「さよで」

 

 別に間違ってはいないが、もう少し連絡手段を整えろよとも思う。

 ラミナはそう呆れながら、茶を飲む。

 

 10分ほどすると、マチが風呂から上がる。

 マチは頭にバスタオルを巻いて、黒のタンクトップの上にジャージを羽織り、下は白のホットパンツ姿だった。

 

「茶でええか?」

 

「ああ」

 

 マチの分の茶を用意して、並んでソファに座る。

 

「マチ姉の服やけど、街に和服扱うとる店があるから明日見に行くか? 手洗いで洗うには今日はもう遅いし」

 

「……そうだね。今の服も傷んできたし」

 

「相変わらず仲が良い姉妹だな」

 

「「うっさい()」」

 

 揃ってフランクリンを睨む。

 フランクリンとフェイタンは肩を震わせて笑う。

 マチは不貞腐れたように茶を飲んで、話題を変える。

 

「そういえば、ラミナ」

 

「ん?」

 

「あんた、武器の補充はどうしてんの? 毎度毎度どっかから盗んだり、買い揃えてるわけじゃないんだろ?」

 

「そら、ここに集めとるで」

 

「あ? ガレージにはなかったぞ?」

 

「んなもん見えるところに置いとるわけないやろ」

 

 ラミナが呆れてフランクリンを見る。

 フェイタンも興味を示したのか、ハンモックから起き上がる。

 

「つまり隠し部屋があるということか?」

 

「そやで」

 

 ラミナは頷いて、足元を指差す。

 それでマチ達は地下室があることを理解し、更に興味が湧く。

 

 ラミナはマチ達の表情を見て、苦笑しながら立ち上がる。

 

「明日にでもと思とったけどな。見せたるわ。ちょうど渡したいもんもあったし」

 

「渡したい物?」

 

「まぁ、まずは案内するわ」

 

 そういってラミナが歩き出し、マチは頭のバスタオルを外して、フランクリン達と後に続く。

 向かった先は階段下。

 

 階段下の壁はレンガになっており、収納スペースなどはない。 

 

「ここ?」

 

「そ」

 

 首を傾げるマチを横目に、ラミナは迷うことなくいくつかのレンガをスイッチのように押し込む。

 

 すると、残りのレンガもズズッ……と僅かに奥に動き、そのままゆっくりと下に下りて行く。

 

「へぇ……」

 

「これは気づかなかたね」

 

「壁がそのまま下りる階段になるのか」

 

「がっつりとレンガで作っとるから、階段上っても、壁を叩いても空洞なんてないから音なんぞ響かんしな。調べてもそう簡単には見つけられへん」

 

 1分ほどで地下へと降りる階段が出来上がる。それと同時に通路内に明かりがつき、道を照らす。

 

 ラミナ達は階段を降りて、地下室に下りる。

 

「おぉ……こりゃスゲェな」

 

 地下室の広さは30畳ほど。部屋の中心にある階段を下りたマチ達は思わず目を見開いて、部屋を見渡す。

 

 四方壁一面に武器が立て掛けられている。槍や大鎌、斧に打ち刀に太刀、ガンソードなど、刃が付くものは種類問わず様々な形状の武器が集められていた。

 ナイフや脇差、ウルミ、圏など小さい武器は、棚に並べられており、その棚が部屋に10個鎮座している。

 

 まさしく武器の博物館。もしくは武器の闇市とも言える程の保管量だった。

 

「よくここまで集めたもんだ……」

 

「そら、うちの生命線やしな。集めれるもんは集めとかんと。まぁ、流星街にええ鍛冶職人見っけたから、大半はそいつの作品やけどな」

 

「……これ、全部オーラ纏ってるね」

 

 マチは【凝】を使うと、目に見える全ての武器がオーラを纏っているのが分かった。

 ラミナはその言葉に頷き、

 

「うちの【刃で溢れる宝物庫(アルマセン・デ・エスパダ)】はオーラを纏うほどの武器やないと収納出来んでな。やから、すぐに必要な形状の武器がすぐに手に入るようにしとかなあかん」

 

「そんな制約あったの?」

 

「まぁな」

 

 いくらラミナが刀剣類の武器と相性がいいとはいえ、それだけであの能力は作れない。いくつか面倒な制約を設定するのは当然必要だった。

 ラミナは棚の1つに歩み寄る。

 棚から鞘に納められたナイフを手に取り、マチに投げ渡す。

 

「……なにこれ?」

 

「クロロから手頃でおもろいナイフあったら売ってくれって頼まれとってん」

 

 マチが鞘からナイフを抜く。

 そのナイフは魚の骨のような独特の形状の剣身をしていた。

 フェイタンやフランクリンも覗き込んで、フェイタンが首を傾げる。

 

「これ、ベンズナイフか?」

 

「そやで。ああ、注意せぇよ。毒があるで」

 

「毒?」

 

「鞘に薬を仕込んで、刃に毒を染み込ませるねん。0.1mgでクジラも動けんくなるでな。少しでも傷付いたら倒れるで」

 

「ふぅん。で、これを団長に渡せばいいの?」

 

「そ。うちは別口でヨークシンに入るでな。そっちの集合日に行けるか分からん」

 

「了解。渡しとく」

 

 マチはナイフを鞘に納める。

 次にラミナは刀が並べられている壁に行き、その内の一振りを手に取る。

 

「フラン。これはノブナガに渡してんか」

 

「ノブナガにか?」

 

「おう。カネミツっちゅう名刀なんやけどな。オーラがないからうちは使えへんねん」

 

「まぁ、いいけどよ」

 

 刀袋に入れてフランクリンに渡す。

 フェイタンがキョロキョロと見渡し、ラミナに顔を向ける。

 

「お宝はないのか?」

 

「有名なお宝はないで。()()()()()()()

 

「他にもあるの?」

 

「あるで」

 

 ラミナは更に下を指差す。

 まだ地下室があるらしい。

 

「かなりのお宝?」

 

「かなりのお宝やな」

 

「「「……」」」

 

「安心せぇ。ここまで言うて、見せんとか言わんわ。ここで止めたらフェイが忍び込みそうやしな」

 

 ラミナはそう言いながら階段に歩み寄る。

 そして、階段の側面に手を当てて、力を籠めると一部が凹む。

 直後、下りてきた階段に続くように、新たな階段が床に出現する。

 

「遊びすぎじゃない?」

 

「元々はシェルターにするつもりで作ったんよ。それを保管庫にしただけや」

 

 マチが呆れているが、ラミナとてそんなつもりは一切なかった。

 1年ほど前に偶々立て続けにお宝を見つけしまい、この地下室に置くのもなんか嫌だったのでシェルターに安置することにしたのだ。

 

「売ろうと思わなかったのか?」

 

「いやぁ、下手に売るんも難しい代物でなぁ……」

 

 フランクリンの言葉にラミナが眉間に皺を寄せながら答える。

 

「どこで見つけたの?」

 

「1年くらい前に殺したターゲットの家。マフィアのボスやったんやけど、殺したところが蔵でな。そこに乱雑に置かれとったから、思わず盗んでしもた。もう1個はその少し後に殺した古物商の蔵で見っけた」

 

「乱雑に置かれてたのに、売るの難しいのか?」

 

「レプリカと思っとったらしいわ。古参やのに念能力者も抱えられんようなところやったから、誰も気づかんかったんやろな」

 

 下りた先には鋼鉄製の扉。

 扉には暗証番号入力キーが備え付けられていたが、ラミナはそれを無視して右の壁に向かってしゃがみ込む。壁と床の接地面に指を挿し込むと、壁に手が入るかどうかの横長い隠し扉があり、その奥にあるスイッチを押す。

 

ガゴン!

 

 重厚感がある音が響き、鋼鉄製の扉がゆっくりと奥に開く。

 

「だから遊びすぎ」

 

「何言うとんねん。逃げ込むためのシェルターなんやから、フェイクは当然やろ」

 

 ラミナはそう言いながら中に入り、マチ達も呆れながら後に続く。 

 シェルターは8畳ぐらいの広さだった。

 ラミナがマチ達に道を譲りながら奥を指差し、マチ達は奥に目を向ける。

 

 そこにあったのは、二振りの剣。

 

 それぞれショーケースに納められており、倒れないようにしっかりと固定されている。

 

 柄と鍔が重厚な金で装飾されている白銀の剣身を持つ両刃の両手剣。

 

 柄と鍔が深紅で装飾されている漆黒の剣身を持つ片刃の両手剣。

 

 その存在感は先ほどの地下室の武器達とは比べ物にならず、【凝】を使わずともその二振りがオーラを纏っているのが分かった。

 

「スゴイやろ? ここまでのオーラを持つ武器なんざ見たことあらへん」

 

「……そうだね。死の念で残る武器は見たことあるけど、ここまで強い念を込められたのは初めて見る」

 

「これ、一体(いたい)なんの武器か?」

 

 フェイタンが剣から目を離さずに訊ねる。

 ラミナは苦笑しながら、説明を始める。

 

「ブリュセリア王国って知っとるか?」

 

「確か……昔あった国の名前だったか?」

 

「そ。一番有名なんは『アルサー王伝説』やな。それは聞いたことあるやろ?」

 

「ああ……聖剣が出てくる奴? って、まさか……」

 

 マチ達は目の前の剣の正体に気づく。

 

「そうや。金の剣がアルサー王が振るったと言われとる【勝利を定められた王の剣(エクスカリバー)】。もう一方がアルサー王を討ち取ったと言われとるモーグレッドの剣、【王の命を吸った王位の証(クラレント)】や」

 

 伝説の聖剣と、その担い手を討ち取った伝説の魔剣。

 それが目の前にある二振りの剣なのだ。

 

「……本物なのか?」

 

「調べた限りでは、完全に特徴は一致しとる。何よりあの剣に籠められとる念。これがヤバかった……」

 

「どういうことか?」

 

「2本ともな、触ると妙な記憶を見せつけられんねん。その2つとも見える情景がそっくりでなぁ。出てくる人間とか、聞こえたセリフも同じやねん。視点が違うんやけどな、両方のを見たらアルサー王とモーグレッドって言うんが分かったし」

 

「あ~……死んだ瞬間の後悔が刷り込まれたのか」

 

 歴史に名を遺す者達なのだから、念能力者だった可能性は非常に高い。

 しかも戦争中に死んだので、特に死で強まる念が生み出される可能性も高かっただろう。

 更には分かっているかどうかはともかく、殺し合った相手の武器がすぐ近くに存在しているのも関係しているのかもしれない。

 

「具現化された武器の可能性も高いでな。どっちにしろ念が強すぎて、念能力者はまともに触れん。けど、売るんももったいなくてなぁ」

 

「あんた、剣とか好きだもんね」

 

「ラミナは無類の刃好きね」

 

「うっさいわ」

 

「それでここか」

 

「売れんのやからしゃあないやろ。言っとくけど、これクロロもまだ知らんでな。集まった時に自慢でもしぃや」

 

「団長なら絶対見に来るだろうね」

 

「だね。団長、こういうの大好きね」

 

「ほな、戻ろうか。そろそろ飯の準備でもするわ」

 

「メニューは?」

 

「色々揃えとるで。まぁ、料理するん久しぶりやから味は保証せんけど」

 

 流星街に暮らしていた頃は料理屋などまともな店はないし、あっても高いことがほとんどだったので、ラミナは自炊をしていた。

 

 正確には「妹は姉に尽くすもの」というマチの理不尽に従っていただけなのだが。

 その結果、クロロやウボォー達の食事の面倒も見るようになった。

 もうその頃にはラミナは文句を言うということすら頭に浮かばなくなっていた。マチの教育(洗脳)が身に染みていたのだ。

 

「あんたの料理なら大丈夫でしょ」

 

「久しぶりに食べるね」

 

「だな」

 

 リビングに戻ったラミナはすぐさま料理を始める。

 先にダイニングテーブルに酒やグラスを並べて、目にも止まらぬ速さで包丁を振り、野菜、魚、肉を捌いていく。

 マチ、フランクリン、フェイタンは当たり前のように酒盛りを始め、料理が出来るのを待つ。

 

 先にサラダやカルパッチョ、作り置きしていたスープなどを素早く仕上げてマチ達の前に並べる。

 

「肉、早めにね」

 

「ワタシ、酢豚がいいね」

 

「パエリア出来るか?」

 

「えぇい! ビュッフェちゃうねん!! 順番に作るから待たんかい!!」

 

 なんだかんだでちゃんとオーダーに応えるラミナ。

 ステーキ、酢豚、パエリア、とんかつ、麻婆豆腐、パスタなど様々な料理を作り上げる。

 それをマチ達は猛スピードで平らげていく。

 

「うちの分もちょっとは残せや!!」

 

「「「嫌」」」

 

「昔より意地汚過ぎるやろ!!」

 

「久しぶりだし」

 

「タダだからね」

 

「美味ぇし」

 

 あまりの理由にラミナはもう怒る気力もなくなった。

 結局ラミナが食事にありつけたのは、3時間後だった。

 その頃にはマチ達は完全に出来上がっており、リビングのソファとテーブルの方に移動して飲み続けていた。

 

(ノブナガがおらんで助かった……)

 

 ノブナガがいれば和食が加わっていただろう。そうなれば、更に面倒だった。

 ため息を吐いて、食事を終えたラミナは皿洗いは翌日にすることにして、姉達の酒盛りに参加する。

 

 3人のこれまでの仕事の自慢話に耳を傾け、ラミナも仕事で殺した相手の話をしたり、シルバやゼノに襲われた時の話をする。

 他には「ヨークシンでクロロは何を狙うか」で盛り上がる。

 その中でフェイタンが「ゲーム」と言った。

 

「ゲーム?」

 

「世界一高いゲームが何本かオークションに出るね。何でも世界一危険なゲームらしいよ」

 

「ふぅん」

 

「ラミナ、ハンター証持ってんだろ? 何か調べられねぇのか?」

 

「そら、調べられるけど。ここで調べたら、面倒やから嫌や」

 

「なんで?」

 

「ハンター証を狙う連中がいるね。こんなところで使たらバレバレね」

 

「返り討ちにすればいいだけだろ?」

 

「んな、群がってくるアリをチマチマ相手にしたぁないわ」

 

 ラミナは顔を顰めてワイングラスを傾ける。

 

「けど、そんなちっこいモンのために全員集めるか? 暇な奴やのぉて全員なんやろ?」

 

「そうだね」

 

「正面戦闘メインのウボォーやフラン、フィンクスまで集めるたぁ中々な仕事やと思うで?」

 

「かもな。それはそれで面白いことになりそうだがな」

 

「オークション中のヨークシンで大仕事。久しぶりに殺しがいがありそうね」

 

「アタシは団長がしたいことを手伝うだけだ」

 

「相変わらずなこって」

 

「「「当然」」」

 

 ラミナは苦笑して、グラスにワインを注ぐ。

 その後も酒盛りは続き、深夜まで盛り上がる。

 

「考えたら、ラミナと酒盛りって俺初めてか?」

 

「そうやっけ?」

 

「アタシは何回か」

 

「ワタシも初めてじゃないね」

 

「俺だけか?」

 

「ん~……ウボォーとノブナガは仕事終わりで飲んだやろ? フェイとパク姉、シャル、ボノレノフ、クロロもあるなぁ。コルトピ、フィンクスがないかもな。シズクとは何回か飯食うたけど、あいつは進んで酒飲まんからうちも飲まんことが多いし」

 

「フィンクスは知たら怒りそうね」

 

「コルトピは酒が好きなわけじゃないから、大丈夫そうだけど」

 

「……なら、いいか。最後じゃねぇなら」

 

「ああ、ヒソカがおったなぁ。……あれはええか」

 

「あれはいいよ」

 

「ワタシ、ヒソカ嫌いね」

 

「俺も気に入らねぇ」

 

「なら、ええわ」

 

「それにしても、ラミナももうすぐ20になんのか」

 

「別に年齢なんてええやろ。んなこと気にしとったらオッサンに見えるで、フラン」

 

「……やめてくれ」

 

「くくく、フランクリンはシズクの指導役だからね。2人が並んだら、もう十分オジサンね」

 

「うるせぇよ」

 

 

 くだらない話をしながら、まだまだ酒は進む。

 

 盗賊と暗殺者の家族は、短い団欒の時間を心ゆくまで楽しむのだった。 

 


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