暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
マチ達の仕事を手伝ってから2週間ほど経過した。
その間は依頼を受けずに寂れたホテルで悠々と生活していた。
今いる街は大きくもなければ小さくもなく、観光名所と言われる場所もあまりない。
それでもゆったりと暮らすには最適で、ラミナはこの街をよく休養地として使っている。
ゆったりしていると言っても情報収集は欠かしていない。
ミエハタファミリーの壊滅はかなり波紋を広げており、犯人探しに躍起になっているようだ。
今の所、ラミナや幻影旅団の名前は出ていない。
しかし、あくまでラミナが集めた情報の中で、ということなので油断は出来ない。
なので、そろそろ一度街を変えようかとラミナは考えていた。
「美味いもんあるとこ言うたら、どこがええやろな~。っ……!」
夕暮れの街を練り歩きながら次の目的地を考えていると、妙な視線と気配を感じた。
しかし、それは一瞬だけですぐに消えて、感じ取れなくなった。
(……気のせい、と思うんは楽観的やわなぁ。同業者か。さて、どうしたもんかいな……)
出来る限り気配を乱さず、気づかなかったふりをしながら人気のない場所を目指す。
所々で日常的にやっているように気配を探りながら歩き続ける。
(全く感じ取れんな。1人か? それでもかなりの手練れやな。……こりゃバレたか?)
ミエハタファミリーの報復で刺客を放たれたのか。
今1番可能性があるのは、それくらいしか思い浮かばない。
ラミナは眉間に皺を寄せて、逃げるか迎え撃つかを考える。
(人数次第やけど……ここまで気配感じさせへん奴相手に逃げれる可能性は低いやろぉなぁ。2人以上ならまず無理か。戦うにしても、どこでっちゅうのもあるなぁ……)
ラミナは憂鬱気にため息を吐きながら、見つけた5階建ての廃ビルの中に足を進める。
ありがたいことに商業用ビルだったらしく、中は広かった。
3階に上り、部屋の真ん中で足を止めてサングラスをかける。
少しすると、ラミナが入ってきた扉から2人の人間が現れる。
現れたのはウェーブのかかった長い薄い金髪のガタイの良い男と、同じく銀髪だが小柄の老人。
ラミナは2人の姿を確認して盛大に顔を顰める。
「……ゾルディック……」
「ほぉ……儂らを知っておるのか」
「伝説の暗殺一家を知らん暗殺者がおるかいな。それにしても、現当主と前当主が出てくるとは流石に予想外過ぎるわ。そこまで金出されるほど恨み買うた記憶もないし、小娘1人を狙うほどの価値もないやろうに……」
「かっかっかっ! まぁ、そこは諦めてもらうしかないのぅ。儂らは依頼されただけじゃからのぅ」
「ちなみに依頼者は教えてもろてもええ?」
「ふむ。……まぁ、構わんか。依頼主はクルツォアファミリーじゃ」
「……クルツォアやと? ここ最近、連中の仕事ようけ受けたばっかやぞ?」
「どうやら手柄を上げ過ぎたようじゃのぉ。要は証拠隠滅じゃな」
「それでゾルディック家とかアホやろ。そっちもなんで受けんねん」
「金払いが良かったでな。義理は果たさねばなるまいて」
この前のザコナイファミリーの暗殺もクルツォアファミリーからの依頼だった。
他にも5,6回ほど依頼を引き受けて、全て完遂してきた。
それで邪魔に思うのなら、もう少し依頼の仕方を考えろとツッコみたいが、ゾルディック家に言ったところで仕方がないだろうと諦める。
「はぁ~……まぁ、ええか。これであのゾルディック家から逃げ切ったっちゅう自慢話も出来るでな」
「……ほぉ、儂らから逃げ切るつもりか?」
「当たり前やろ。まだ死にたぁないでな」
ラミナは僅かに腰を屈める。
それを見たゼノ・ゾルディックとシルバ・ゾルディックは、ゆっくりとラミナに向かって構えもせずに近づいてくる。
そして互いの距離は5mほどになった時、ゼノとシルバの姿が消える。
「!!」
ラミナは体を大きく反らす。その上をシルバの脚が風を切る。
ラミナは左手を床につけて、体を捻りながら左腕を引いて横に飛ぶ。
直後、ラミナがいた場所にゼノの貫手が床に突き刺さる。
起き上がったところに再びシルバが詰め寄り、貫手を連続で放つ。
ラミナはオーラを腕に集中して、貫手を受け流して躱していくが皮膚が斬られて血が噴き出す。隙を狙って、脚を振り上げてシルバの顎を狙うが、シルバは軽やかに躱す。
シルバが離れた瞬間、ラミナはベンズナイフを抜いてゼノに突き出す。ゼノは首を傾けるだけで躱し、ラミナはそれを読んでいたかのように足払いを繰り出してゼノの接近を止める。
ラミナはベンズナイフを引くのと同時に背後にベンズナイフを投げる。
背後にはシルバが近づいてきていた。シルバも首を傾げるだけでベンズナイフを躱し、右ストレートを振るう。
しかし、パチン!と音がしたと思ったら、ラミナが突如背後に現れる。
「!」
ラミナは蹴りを放つが、シルバは右腕をさらに振り抜いて体を捻り、左肘を背後に突き出す。ラミナは両手で受け止めて、シルバの肘を利用して跳び上がってシルバの後頭部に右膝を叩き込む。
シルバは当たる直前に前に出て、ダメージを減らして前に大きく飛び出す。
そこにゼノがシルバを飛び越えて、ラミナに迫ってきてオーラを右手に溜めて放出してきた。
「っんの!」
パチンと指を鳴らして、ゼノの足元に移動する。
「!」
「しぃ!」
ラミナはゼノに貫手を放とうとするが、右からシルバが掴みかかってきて中断する。ラミナは左手をシルバに突き出す。するとラミナの袖から細身の刃が飛び出してきた。
「ぬ!」
シルバは大きく跳び上がって、刃を躱す。
ラミナもベンズナイフを回収して、距離を取る。
そして、また睨み合う形になる。
「……ふぅ~。きっつ」
「ふむ。思ったよりやるのぅ」
「それに面白い能力の使い手のようだな……」
「そら、どうも」
まだ5分も経っていないのに、ラミナはすでに汗だくだ。
それに対してゼノとシルバは汗1つ掻いていない。
ラミナは左手のレイピアと右手のベンズナイフを持ち替える。
「……ベンズナイフの後期、か。しかし、本物ではないな」
「……そりゃあ、分からへんやろ」
「そのナイフが纏っているオーラがベンズナイフ独特のものではない。先ほどの能力から考えて、恐らく具現化系で造られたものだ」
「ちっ。ベンズナイフマニアか」
ラミナはシルバの指摘に舌打ちで答える。
「ナイフと己を入れ替える、か。中々厄介な能力じゃのう。そっちの細剣も何かしら付与されておると考えるべきじゃろう」
「だが、入れ替えるときは指を鳴らす必要があるようだな」
「……はぁ~。自分ら、あれやろ。手品とか見たら、タネとか見抜いて得意げに自慢するタイプやろ? そんなんやとガキや孫が偏屈になるんちゃうか?」
「……耳に痛いのぅ」
「……」
ラミナの呆れながらの言葉に、ゼノは目を瞑って髭を撫で、シルバも黙って目を背ける。
どうやら思い当たる節があるようだ。
それに気づいたラミナはサングラスの下から更にジト目を向ける。
「まぁ……暗殺一家が偏屈になるんは当たり前か。……ご明察や。確かにこのナイフも剣も、うちが造り出したもんや。そんで、それぞれに能力を組み込んどる」
「なるほど。暗殺には向いておるな」
「このベンズナイフモデルの能力は【
「奇襲にも逃走にも重宝出来る。いい能力だ」
「そら、どうも」
【チェンジリング】の長所は能力がバレたところで大して困らないところにある。
ナイフは壊されてもまた造り出せばいいし、警戒していても攻め込まれている時にずっとナイフを注意しておくことは隙を生み出しかねないからだ。
1対多数には向いていないと思う者がいるかもしれないが、そこは他の剣と組み合わせればどうとでもなる。
「さて……ほな、続きやろか。諦めてはくれへんのやろ?」
「当然じゃろ」
ゼノとシルバはオーラを強めて歩み寄る。
ラミナもオーラを強め、レイピアにもオーラを纏わせて構える。
先に仕掛けたのはラミナでレイピアを突き出して、シルバに攻めかかる。
シルバは半身になって躱し、右ストレートを放つ。ラミナは左腕でガードして、後ろに滑り下がる。
再びゼノがオーラを飛ばしてきたが、横に飛んで躱しながらレイピアを構える。
「【
ヒュン!とレイピアを突く。
ゼノは横に躱すと、左袖の一部に穴が空く。
「ぬ! これは……貫通能力か!」
「そういうこっちゃ」
ヒュヒュヒュヒュ!と連続で突きを放つ。
シルバとゼノは切っ先を見抜いて、剣筋上に立たないように動き回る。
(厄介じゃのぅ。近づこうにもあのナイフの能力で背中を取られかねん)
(それに奴の純粋な戦闘力もかなりのものだ。ナイフや剣に気を取られ過ぎると危険か。それにまだどんな剣を持っているかも分からん)
ゼノとシルバは攻めあぐねていた。
念能力で攻める事も出来るが、ラミナの能力では一瞬の隙が命取りになりそうだった。
それだけラミナの戦闘力は想像以上で、愉快でもあった。
「偶然じゃろうが、お主を殺すには見合った報酬じゃったようじゃのぅ」
「嬉しないわ~。ここまでヒラヒラと避けられると自信無くすでな」
「よく言う。本気で戦ってないだけじゃろう」
(ありゃ、やっぱバレとるんか。ほな、さっさと逃げよか!)
ラミナはベンズナイフを窓から屋外に投擲し、パチンと指を鳴らして建物の外に出る。
シルバとゼノは追いかけようとした時、再びラミナが指を鳴らす。
それに2人は足を止めて、先ほどラミナがいた場所に目を向ける。
そこにあったのは手榴弾だった。
「「!?」」
「言い忘れとったわ。このナイフ、他のもんとも入れ替えられんねん」
ドン!!とラミナの真上に爆風が通り過ぎて行く。
ラミナはすぐにナイフを路地裏に投げて、入れ替わる。
レイピアを消して、さらに【隠】で気配を消し、足音が出ないギリギリのスピードで走る。
あの程度で殺せるとも、足止めできるとも考えていない。目くらましになれば御の字である。
ふと後ろに目をやると、【円】と思われるオーラが広がって来ていた。
(どうやら見失ってくれたようやな。けど、これで逃げ切れたわけやない。依頼主をどうにかせんと厳しいな!)
ゾルディック家は一家全員どころか、使用人までも実力者揃いだ。
総出で来られたら、どうやっても逃げきれない。
ならば、一番殺しやすいのは依頼主のクルツォアファミリーのボスだけだ。
と言っても、今の居場所を知らないので探すのも手間なのだが。
【隠】を使ったままホテルの部屋に窓から飛び込んで、素早く荷物を回収する。
鍵を机に放り投げると、再び窓から飛び出して街の人混みの中に紛れ込む。
「さて……どうしたもんか……」
すると、携帯が鳴る。
「誰やねん、こんな時に。はい」
『まだ生きてたみたいね』
「マチ姉? なんやねん?」
『ゾルディックはまだ来てないの?』
「なんとか逃げ出して、逃亡中や。で、何で知っとんねん?」
『へぇ、逃げ出したんだ。前の8番、殺した連中なのに』
「はぁ!?」
前の8番とはシズクの前任者だ。もちろんラミナも顔見知りだった。
誰かに殺されたとは聞いたけど、ゾルディックだったとは知らなかった。
『それも2人相手らしいじゃない?』
「現当主と前当主や。正直、今も逃げ切れた感じはしてへん」
『安心しな。もう襲われないよ』
「はぁ?」
『クルツォアファミリーは今、潰したから』
「なんでやねん」
もう驚く気にもならない。
ツッコむのが限界だった。
『この前、手伝ってもらった仕事の関係だよ。クルツォアファミリーもターゲットだったの。で、パクに調べてもらったら、あんたへの暗殺依頼出てたから電話した』
「……で? 何すればええんや?」
『今は何もないよ。今はね。あ、団長から伝言。「暇ならハンター試験でも受けてこい」ってさ』
「……なんでクロロにそんなこと言われなあかんねん」
『今回助けられたのも、団長が命じたからだよ。団長にも借りが出来たんだから、大人しく従っときな』
「へいへい……。まぁ、今回はマジで命拾いしたし、ちょっとほとぼり冷まさないかんから丁度ええか」
『じゃ、あたし達への貸しはまた別口で頼むから』
「……了解や。どうも、おおきに」
『じゃ、またね』
ブツ!と切られて、ため息を吐くラミナ。
そして、人混みから抜け出して路地裏に入る。
すると、目の前に2つの影が飛び降りてきた。
「やれやれ、タダ働きにされるとはの」
「……クモと顔見知りなのか?」
「同郷や。まぁ、世話にもなったこともあるでな」
「そうか……」
「8番殺したんはあんたか?」
「……ああ」
「なるほどなぁ。ゾルディック当主相手やったらしゃあないか。で? まだやるんか?」
「アホ言え。儂はタダ働きなんぞまっぴらじゃ」
「そりゃよかったわ」
「……ふむ。お主、うちに来る気はないか? 使用人として雇ってやるぞ?」
「あ~……ありがたいけど、今はやめとくわ。クモの方に借りが出来てもうたからな。おっかない姉に追いかけられそうや」
「残念じゃのぅ。まぁ、気が向いたらいつでも来るがええ。ではな」
ゼノの誘いをラミナは肩を竦めて断ると、ゼノは楽し気に笑みを浮かべるとシルバを連れて去っていった。
2人の気配が遠ざかったことを確認したラミナは、大きく息を吐いて壁にもたれ掛かる。
「はぁ~~……。ハンター試験まではのんびりしよ。バケモンに会い過ぎて胸やけしとるわ」
幻影旅団とゾルディック家。
知らぬ者はいない実力者達と短い間に関わり過ぎて、ストレスが半端ないラミナだった。
とりあえず、この街から離れてハンター試験について準備していくことにしたラミナは、さっさと空港に向かうのであった。
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○ラミナの念能力
【具現化系】(ただし、特別条件下において【特質系】に変化する)
●【
特質系。
刀剣類や槍や鎌などを念で生み出した空間に収めることで、入れた直後からその武器を具現化することが出来る。
80%以上形状が似通っていると収めることは出来ない。
具現化した武器が10回壊されると、本物も砕けてしまう。
武器は同時に複数具現化可能。
・【
具現化したベンズナイフに付与されている能力。
指を鳴らすことでナイフと入れ替わる。ナイフと入れ替えるものは細い糸のような念で繋がっており【隠】で隠している。
・【
具現化したレイピアに付与されている能力。
突き刺した直線状の空間を貫くことが出来る。射線距離は最大10m。
・【
具現化したファルクスに付与されている能力。
一瞬【円】を放ち、ラミナのオーラに触れた相手の2~4か所をランダムで同時に斬りつける。
発動時は必ず剣を振らなければならない。
ラミナより【纏】【練】が強い相手には通用せず、斬りつける箇所は指定できない。
・【
具現化したブロードソードに付与されている能力。
ラミナの身体能力を極限まで強化して、高速の斬撃を放つことが出来る。
強化できるのは斬撃時のみ。なので、足が速くなるわけではない。