暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#31 メンチ×ノ×チョウリ

 ラミナ、メンチ、モラウは夜の闇に覆われた鬱蒼とした森の前に立っていた。

 

「2つとも同じ場所で止まってるわ。同じ組織だったみたいね」

 

「それか、森の中の拠点は共有してるのかもな」

 

「まぁ、同じ所におるんやったら楽でええやん」

 

「じゃ、行くわよ。はぐれるんじゃないわよ」

 

 3人は森の中に飛び込む。

 生い茂る樹々で月明りもほとんど届かぬ森の中を、3人は猛スピードで走り抜けていく。

 

「んなデカい煙管抱えとんのに、器用なもんやな」

 

「何年こいつを使ってると思ってんだ」

 

「ってか、どれくらい走るん?」

 

「このペースなら30分もあれば着くわ」

 

「このまままっすぐでええのん?」

 

「ええ」

 

「なら、先行って偵察行ってくるわ」

 

「大丈夫なの?」

 

「やから、暗殺者に言うことちゃう」

 

 ラミナは呆れながらメンチに答えると、スピードを上げてメンチ達を追い抜き、音もさせず姿が見えなくなる。

 あっという間に気配を感じなくなり、メンチはラミナの能力に改めて呆れる。

 

「……本当に厄介な新人ね」

 

「全くだ。まぁ、暗殺者もハンターに必要なスキルを求められるから当然と言えば当然かもしれんがな」

 

 正直、メンチとモラウの移動速度とて十分以上に速い。

 アマチュア連中ならばとっくの昔に置いて行かれている。だから、メンチはプロだけで行くと言ったのだ。

 その速度にラミナは余裕で付いてきて、しかも足音を一切立てていなかった。草が生い茂っている森の中だと言うのに。

 更に言えば、メンチは森に入った瞬間からラミナの気配が希薄になり、注意してないと近くにいるのか分からなかった。

 

「戦闘じゃ、あたしは勝てないわね」

 

「あの能力も厄介だからな。正直1対1じゃ勝ち目は薄いな」

 

「あんたでも?」

 

「俺の念は強制解除されちまうし、今日見た他の武器だけでも十分脅威だな。この前は姿や気配を隠す能力も使ってたし、まだ色々隠し持ってるぜ、ありゃあ」

 

「一体どんな生き方してきたんだか……」

 

「それなんだがな、全く分からん」

 

「は?」

 

 メンチはモラウに目を向ける。

 モラウは前方を向いたまま、話を続ける。

 

「俺はもちろん、知り合いのハッカーハンターにも頼んで調べ尽くしたが、あいつが暗殺者として活躍し始めた数年前から前の足取りが一切不明だ。どこで生まれて、どこで育ったのか、何一つ分からなかった」

 

「国際人民データ機構は?」

 

 この世界の住民は基本スラムにいようが捨て子であろうが、必ず生体データを登録する義務がある。なので、姿をくらませたり、顔を変えて死んだふりをすることは出来るが、本気で調べられればすぐに判明する。

 国際人民データ機構に登録されている情報は、絶対に外部から操作できない。3つのサーバーがそれぞれのサーバーを見張っており、どれか一つのサーバーの情報が変えられても1秒もせずに復元される。

 さらにハッキングしようとした時点で『殺人未遂』と国際法で定められている。執行猶予もなく、速攻で刑務所行きである。なので、一度登録されたデータを変更することはほぼ不可能なのだ。

 

「なかった」

 

「……それって……」

 

「ああ、恐らくあいつは流星街出身だ」

 

 流星街は世界から忘れられた空白地帯。そこで生まれ、捨てられた人間は社会にその存在を認められていない。

 国際人民データ機構にも、もちろん登録などされない。

 なので、ハッカーハンターであろうとも、調べることなど出来はしない。

 

「それなら納得するわ。あの実力も暗殺者であることも……」

 

「ああ。マフィアや闇商人と仕事してるのは、流星街がマフィアンコミュニティーと繋がってるからだろうな」

 

「まぁ、だからってあの子と距離置く気はないけどね。ハンターで出自不明の奴なんて珍しくないし」

 

「まぁな」

 

 メンチとモラウはスピードを落とさずに走り続ける。

 10分ほど走ると、ラミナが2人の前に戻ってきたので足を止める。

 

「どう?」

 

「この先に洞窟があったわ。見た目は大型動物の巣穴のように見えるけど、明らかに人の足跡と車輪の跡があったで」

 

「大きさは?」

 

「奥はかなりの広さやな。数はざっと見た感じ50人は超えとる。武装も整えて、迎え撃つ気満々やで」

 

「……何で逃げないのかしら?」

 

「それにどうやって洞窟から動物達移送してんだ?」

 

「洞窟の近くが微妙に開けとったし、草は生えとるけど樹を切り倒した獣道みたいなんも作っとった。その先に整備されたデカい道があるんやろな」

 

「そうね。近くに遭難者を探したり、奥に急行出来るように道を作ってるわ。そこに合流するようにしてたのね。その道は巡回はしてたけど、検問や封鎖はしてないから」

 

 メンチが腕を組んで顔を顰めながら言う。

 

「だが、迎え撃つつもりってことは、少なくともそこの連中はもう逃げ場はないってことだな」

 

「みたいやで。かなり追い詰められとったわ。念能力者は見当たらん。【円】も特にオーラも隠さずに使ったけど、誰も気づいた様子はなかったでな」

 

「流石ね。姿隠せる能力を持ってるのは、ホントにありがたいわ~。ねぇ、やっぱり今後も一緒に動かない?」

 

「最低月3億。払てくれるんやったら考えるわ」

 

「高いわよ! 月1億、それとあたしの料理付き!!」

 

「それやったら、暗殺の仕事しとる方が儲かる」

 

「ぐ……!?」

 

「勧誘は終わってからにしろよ」

 

 モラウが呆れながらツッコむ。

 メンチは「ふん!」と不機嫌そうに鼻を鳴らすも、すぐに顔を引き締めて腰から長包丁を抜き、両手に握る。

 

「じゃ、さっさと終わらせるわよ!」

 

「殺しは?」

 

「抵抗するならあり。降伏・逃亡なら無し」

 

「絶対に捕まえんとあかん奴は?」

 

「ここはいいわ。昼に押さえた拠点から出てくる情報で十分」

 

「了解。ほな、先に突入するわ。続いて入ってきぃ」

 

 ラミナは短刀とファルクスを具現化して、走り出す。

 メンチも後に続き、モラウは煙を吹き出しながら走り出す。

 ラミナは【朧霞】を発動して姿を消し、スピードを上げる。

 

 5分ほど走ったところに洞窟があり、入り口に見張りはいない。

 一気に奥まで進むと、大きく開けた空間がある。地面を掘って空間を広げており、大型トラックが数十台は楽に入るだけの広さがある。

 

 その中にライフルやショットガン、剣などの武器を構えて、入り口を睨みつけている密猟者達が待ち構えていた。

 

「気を抜くなよ! いつハンター共が来るか分かんねぇ! 明日の朝には救援が来る! それまで持ち堪えろ!!」

 

「もう来とるで」

 

 リーダー格の男が叫び、部下達が頷く。

 その直後に声が響き、最前線でライフルを構えていた男がくの字に体を曲げて吹き飛び、右脚を突き出した紅い髪の女が現れた。

 

「「「なぁ!?」」」

 

「ハンターや。諦めて武器下ろしや」

 

「う、うろたえんな!! 撃て!! 女1人にビビんじゃねぇ!! 撃てぇ!!!」

 

 突如目の前に現れたラミナに驚きながらも、聞こえた指示に素早く銃口を向ける。

 それだけでそこそこ実戦経験豊富な集団であることが窺える。

 

 しかし、引き金を引く瞬間にラミナの姿が消える。

 

「「「「!!?」」」」

 

「ど、どこだ!?」

 

「こっちや」

 

 指示を叫んだ男の背後から声が聞こえ、弾かれたように振り向く。しかし、直後首に衝撃が走り、視界が急に下がっていく。

 男は目を大きく見開いて、何が起こったのか理解する前に顔に衝撃を感じて意識を失う。

 

 運よく生き残った密猟者達の目には、首から血を吹き出す胴体と地面に転がる生首が映っていた。

 更にはその周囲の者達も、首や腕、胴体などが斬り飛ばされて地面に倒れ伏す。

 

「ひぃっ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「うわあああ!!」

 

 密猟者達は何が起こったのか理解出来ず、大混乱に陥る。

 

 ラミナは【クレイジー・ローズ】を発動しながら、上に跳び上がって返り血を躱し、ベンズナイフを入り口に投げて入れ替わる。

 ファルクスと短刀を消して、両手にククリ刀を具現化する。

 

 直後、入り口から数十体の【紫煙機兵隊】が入り込んできて密猟者達を更に混乱させ、メンチとモラウも入ってきた。

 

「ハンターよ!! 死にたくなけりゃ大人しくなさい!!」

 

「って、もうかなり死んでんな」

 

「抵抗されたでなー」

 

「まぁ、そりゃそうよね。そこに転がってる連中の仲間入りしたくないなら、今すぐ武器を捨てて地面に伏せなさい!!」

 

「う、うるせぇ!! 怯むな!! 撃て!! 斬れ!! 殺せぇ!!」

 

「だとよ」

 

「はぁ……全く。だから馬鹿って嫌いなのよね」

 

 メンチはため息を吐いて、密猟者達に向かって飛び出す。

 モラウは煙を大量に吹き出して、密猟者達の視界を奪う。

 

「な、なんだこの煙!?」

 

パパパパ!!

 

「ぎゃっ!?」

 

「イッデエエェ!?」

 

「馬鹿野郎!! こんな状況で撃つな!! 同士討ちになるぞ!?」

 

「それどころじゃないからじゃない?」

 

「「!?」」

 

 同士討ちを止めようとした男の目の前に、包丁を構えたメンチが煙から現れる。

 男は目を見開きながらナイフを抜くも、その腕をメンチの包丁が斬り飛ばす。

 

「ぎゃあ!?」

 

「なかなか良い反応ね」

 

「くっぞぉ!!」

 

 男が残った方の腕で銃を構える。メンチは一瞬で男の懐に詰め寄り、首を掻っ切る。

 

「このアマァ!!」

 

「くたばれぇ!!」

 

 近くにいた密猟者達が剣を振り上げて、左右からメンチに斬りかかる。

 メンチは腰にまだ差してある長包丁4本を全て抜いて、オーラを纏わせながら6本の長包丁をジャグリングする。

 

 

「【孤高の包丁捌き(プライド・オブ・シェフ)】」

 

 

 投げ飛ばされた包丁達が独りでに動き出して、男達の両腕を三枚におろす。

 

 【孤高の包丁捌き(プライド・オブ・シェフ)】。

 複数の長包丁を自在に操る操作系能力である。

 

「超一流料理人の包丁捌き、なめんじゃないわよ」

 

 メンチは両手に3本ずつ包丁を掴んで、更にオーラを籠める。

 そして2本ずつ放り投げて、メンチに向けられたライフルに向かって飛ばす。それと同時に前方に走り出し、ナイフを構えている男に斬りかかる。

 

 飛ばされた包丁は、ライフルを豆腐のように簡単に切り落とし、更に密猟者の腕を斬り落とす。

 更にメンチの両腕がブレたかと思うと、ナイフを構えていた男の両腕が細かく斬り刻まれる。

 

「「「ぎゃああああ!!」」」

 

 メンチはそのまま走り抜けて、斧を構えている男に迫る。

 4本の飛ばされた包丁がメンチの元に戻ってくる。

 メンチが右腕を横に上げると、4本の包丁が上下に2本ずつ平行に並ぶ。そのまま男に迫り、メンチは右腕を横に振る。メンチの腕に合わせて4本の包丁も動き、男の体に5本の赤色の細い横縞がにじむ。

 

「ぎぃあああ!?」

 

 メンチが周囲を見渡すと、ラミナが4本のククリ刀を投げながら舞う様に動き回っていた。

 

 剣やナイフで襲い掛かってくる連中は顎を蹴り砕き、手刀で首をへし折り、顔面や腹を殴って吹き飛ばす。

 銃を向けてくる連中には炎を纏うククリ刀が襲い掛かり、体を抉り、2つに斬り分ける。

 

「問題なさそうね」

 

 すると、周囲を覆っていたモラウの煙が動き出して、視界が晴れていく。

 煙が完全に消えると、洞窟内の惨憺たる有り様が露わになる。

 

 両腕がなかったり、首がなかったり、下半身がなかったりと、五体満足で倒れている密猟者の方が明らかに少ない。

 無傷な者達は全員煙で捕縛されており、仲間の死体や腕が斬り落とされて呻いている光景を見て、顔を真っ白にして震えている。

 

「お前らなぁ……派手にやり過ぎだぞ。これじゃあ後始末が大変だろうが」

 

「全員捕まえたって移送が面倒やろ?」

 

「そうよ。それに死にたくないなら抵抗するなって最初にちゃんと言ったじゃない。聞かなかった奴が悪いのよ」

 

(……こいつら。組んだら更に化けそうだな……)

 

 モラウはメンチとラミナの相性が思った以上にいいことに、内心呆れる。

 モラウ自身も独自の理屈を押し通すタイプだと自覚しているが、この2人には負けるかもしれないと考える。

 

「シュートに連絡を取る」

 

「あたしも手が空いてるアマチュア達に連絡するわ。ラミナは悪いけど、周囲の警戒と調査を頼むわね」

 

「へいへい」

 

 素早く後始末と警戒に動くメンチ達。

 2時間ほどすると、警察とアマチュアハンター達が到着し、密猟者達を引き渡し後始末を押し付ける。

 ナックル達の方も問題なく終了し、とりあえず一段落となった。

 

「悪いけど、まだもう少しいてもらうわよ」

 

「まぁ、1週間はかかるって言うとったしな」

 

「多分、まだ拠点あるだろうしね。それに背後にいる組織も洗い出したいのよね」

 

「……この国だけでおさまらんで?」

 

「それはその国にいる知り合いのハンターや警察に依頼するのよ」

 

「連絡を入れるときは、こっちも証拠を押さえてるからな」

 

 メンチとモラウの言葉に、納得するラミナ。

 ホテルに戻ったラミナ達は、本日はこれで解散となる。

 

 ラミナは近くのビジネスホテルにでも泊まろうとしたが、

 

「何言ってんの。あの部屋のベッドが1個空いてるから、そこ使いなさい」

 

「え~……」

 

 と、襟を掴まれて引きずられて、部屋まで連れて行かれる。

 

 話し合っていた部屋の隣がベッドルームだった。

 ベッドが2つ並んでおり、片方は綺麗だったが、もう片方のベッドは派手に乱れていて、ベッドの上に下着やら服やらが散らかっていた。

 

「空いてる方使って」

 

「……おう」

 

 ラミナがメンチのだらしなさに呆れながら返事していると、メンチがシースルーの上着を無造作に脱いでベッドに放り投げ、ブーツもポイッと脱ぎ捨てる。

 しかし、長包丁を収めたベルトホルダーは丁寧に外し、テーブルに置く。

 自分の商売道具は丁寧に扱う姿はプロらしいとは言える。しかし、それ以外はかなり大雑把なようだ。

 

「あ~、動き回ってお腹減った。あんたは?」

 

「そらまぁ、食うてないしな」

 

 ラミナもベルトホルダーを外しながら頷く。

 仕事を始めてからは軽食しか食べていないので、空腹は感じている。

 

「ルームサービスやあかんの?」

 

「あんたねぇ、美食ハンターの前でよくそんなこと言えるわね」

 

 メンチが腰に両手を当てて、ジト目で見る。

 しかし、もうすぐ深夜2時になろうとしている。ホテルの飲食店は閉まってるだろうし、外に出かけても居酒屋くらいしかないだろう。

 ならば、ルームサービスで終わらせてもいいのでは、とラミナは考える。

 

「あたしが作ってやるわよ。言ったでしょ? あたしの料理も付けるって」

 

「作るってキッチンは?」

 

「あたしが泊まってるのに、いつでも使えるように交渉してないと思う?」

 

 メンチは答えながら備え付けの冷蔵庫から缶ビールを取り出して、プシュ!と開ける。

 

「食材は?」

 

「んなもん、とっくに運び込んでるわよ。ここの食材を使っても、後で金払うか、あたしのレシピ1つでも渡せば文句も出ないわよ」

 

 ビールを飲みながら、当然のように言い切るメンチ。

 これが星持ちの美食ハンターの権力かと感心するラミナ。

 

 その後、最上階にあるレストランの厨房を開けさせたメンチ。

 ラミナは窓際のテーブルに座って、部屋から持ってきたワインを開けて飲みながら料理が出来るのを待つ。

 もちろん給仕は断っている。面倒だし、そもそも業務時間は終わっているからだ。

 

 モラウ達の姿はなく、アマチュアハンター達もいない。

 広いレストランにたった1人でワインを傾けるのは、ラミナも初めてで違和感が半端ない。

 

「お待たせ」

 

 メンチが両手に皿を乗せて、やって来た。

 まず目の前に置かれたのはサラダとカルパッチョ。さらに何回か往復して、スープ、パスタにローストポークがテーブルの上に並ぶ。

 

「お~……!」

 

「時間も時間だし、簡単なものだけど」

 

「いやぁ、十分やって。うちやとあの時間でここまでのもん出来へんし」

 

 簡単に乾杯して、早速食べ始める。

 

「ちなみになんか珍しい食材入っとるん?」

 

「カルパッチョに使ってる魚はヨルビアン大陸最東端の【アカルル王国】でしか獲れない『チェリーサーモン』。後はローストポークの、カキン国の奥地にのみ生息する『クライミングボア』くらいよ。まぁ、スープとパスタはあたしが独自ブレンドしたスパイス使ってるけど」

 

「それもメンチが見つけたんか?」

 

「サーモンはあたしだけど、豚を見つけたのはブハラよ。肉に関してはブハラの嗅覚と執念は異常なのよね」

 

 ワイングラスを傾けながら、メンチが話す。

 どの料理も1時間足らずで調理したというのに、食材やスパイスの風味が素晴らしいの一言に尽きる。

 

「どう? あたしと組む気になった?」

 

「こだわるなぁ」

 

「食材と一緒よ。目の前にいる逸材をそう簡単に諦めると思う?」

 

「思わへんけど、そこまで食材や動物に興味ないでなぁ……」

 

「人生、美味いものに拘らないと損よ」

 

「食べるなら、そらそうやけどな」

 

 しかし、そのために食材を探し求めたいほどではない。

 暗殺の方が手っ取り早く儲かるし、分かりやすいのでメンチと組む魅力をそこまで感じないラミナだった。

 

「まぁ、時々手伝うくらいやったらええけどな。暇な時で、報酬が良ければやけど」

 

「あんたも中々頑固ね。ま、今はそれでいいか」

 

 グイっとワインを一気飲みするメンチ。

 食べ終えた2人はさっさと皿を洗って、部屋に戻る。

 

 シャワーを浴びた2人は髪を下ろしたバスローブ姿で、次はウイスキーを傾ける。

 メンチは床に座って戦闘に使った包丁の手入れをしながら飲み、ラミナはツマミのチーズを食べながら、その様子を眺める。

 

「あんたの能力って手入れがいらないから楽でいいわよね~」

 

「その分、そこそこ面倒やけどな」

 

「やっぱり?」

 

「そら、あんだけ武器を能力付きで具現化するんが、簡単なわけないでな」

 

「やっぱそうか。あ、そういえば、あんた他の同期とは連絡取ってんの? それとあの失格になった子とか」

 

「ゴンとキルアは色々あって、少し前まで天空闘技場でうちが念を教えてやったから、今も一緒やろ。天空闘技場でヒソカにも会うたけど、それ以外は知らん」

 

「は? ホントにあの2人にあんたが念を教えたの?」

 

「成り行きでな。っちゅうても教えたんは四大行と【凝】に、【堅】と【円】は手本を見せただけやけどな」

 

「半年足らずでそこまで出来たら十分すぎるわよ。それでどうだったの? あの2人の才能は」

 

「バケモンやバケモン。すでにそこらへんの奴らよりオーラの量は多い。身体能力も高いし、後は実戦経験積めば【発】無しでも、そう簡単には負けんやろな。【発】次第では、うちらもあっという間に置いてかれるで」

 

「……マジで?」

 

「大マジ」

 

 ラミナは大きく頷いて、ウイスキーを喉に流す。

 メンチはゴンとキルアを思い出しながら、驚きもするが納得もする。それだけの印象と能力は試験で見せてもらった。

 

「あの子らって何のハンター目指してるの?」

 

「さぁ? ゴンはまずは親父さん見つけることに集中するみたいやしな。それにあの2人は色んなことに興味持ちよるから、しばらく専門分野とか持たんのちゃうか? 多分、メンチが誘えば来ると思うで?」

 

「ふぅ~ん。あんたは賞金首ハンターとかやらないの?」

 

「別にやってもええけどなぁ。その前にうちが賞金首になっとる気もするけど」

 

「あんた、本名で暗殺者やってんの?」

 

「リッパーって名乗っとる」

 

「リッパー……リッパー……」

 

 メンチはリビングからパソコンを持ってきて、何やら調べ始める。

 ラミナも横に移動して、画面を覗き込む。

 

「……あったわ。賞金2000万ジェニー。まぁ、殺し屋としては小物扱いね」

 

「ふぅ~ん。まぁ、依頼してくるんも殺すんも裏の人間ばっかやからやろな」

 

「でしょうね。そのせいか、顔写真とかもないわね。分かってるのは女ってことくらい」

 

「そんなもんなん?」

 

「ハンターサイトだったら、もうちょっと詳しく載ってるでしょうね。モラウも調べてたみたいだし」

 

「やっぱ?」

 

「けど、ほとんど分かんなかったって言ってたわよ? あんた、流星街出身なんでしょ?」

 

「あ~……やっぱ分かるんか……」

 

「そりゃ、国際人民データ機構に情報が無いなら、そこしかないでしょ。NGLとかでも流石に登録してるしね」

 

 ラミナはため息を吐いて、グラスを傾ける。

 メンチはパソコンをベッドに放り投げて、ウイスキーを一気飲みして新しく注ぐ。

 

「まぁ、あそこの出身だからって別に問題ないわよ。登録してたって死んだふりとか出来るし、あんた以上のクズなんて腐るほどいるし」

 

(……家や旅団との関係とかもバレとるんやろか?)

 

 明日にでも一度調べてみようと決めたラミナだった。

 

「さて、そろそろ寝るわよ。明日はアマチュアや警察からの情報待ちだけど、動きがあるかもしれないし」

 

「へいへい」

 

 そろそろと言っても、すでに時間は深夜4時。

 もう朝とも言える時間だが、2人はツッコむことなくベッドに潜り込む。

 

 そして、2人とも1分も経たずに眠りにつく。

 寝るときはすぐに寝る。それが一流の習慣でもある。

 

 こうして、ラミナのプロハンターとしての初仕事の初日は終わりを迎えたのだった。

 

 

______________________

メンチの能力! *拙作オリジナル

 

・【孤高の包丁捌き(プライド・オブ・シェフ)

 操作系能力。

 

 包丁を自在に飛ばして操る。

 【周】で切れ味も強化でき、【強欲なる女帝の舌(テイスト・オブ・ロイアル)】も発動できるので、放出系・強化系・操作系の複合能力とも言える。

 

 戦闘だけではなく、食材を捌く時や調理の際にも重宝している。

 

 6本が一番扱いやすい。料理の動きをさせると緻密さが増す。

 

 




明日はお休みです(__)

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