暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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遅くなりました(-_-;)


#32 マダマダ×ナ×ナックル

 翌朝。

 夜明け近くまで飲んでいたメンチとラミナは、そんな気配を全く感じさせずに普通に起床する。

 コーヒーとホテルの朝食を食べた2人は、モラウ達やアマチュアハンターの纏め役数人を呼んで、調査経過を聞くことにした。

 

「保護した動物達の治療は問題なく進んでる。すぐに死にそうなほど衰弱してる動物は流石にいなかった」

 

「まぁ、商品だしね」

 

「森の拠点はあそこだけのようです。連中が使ってたのは、ですが」

 

「やっぱ、まだあるよな」

 

「だが、現存する密猟集団の拠点はほぼ全て洗い出しが終わった。森の中の拠点も縄張りが被らないようにするためか知らんが、バカなことに地図が残ってたんでな。ついでに連中の背後の組織も問題なく調べられた」

 

「……数が多かっただけってことか」

 

「とりあえず、警察関係者に情報を渡しといて。ここの密猟が潰されたのは、多分もうバレてるだろうし。夜逃げや証拠消される前に捕まえられる奴は捕まえたいわ」

 

「了解」

 

 ラミナは渡されたスポンサー組織一覧の資料を見て、僅かに眉間に皺を寄せる。

 

「何か気になることでもあったのか?」

 

 シュートがラミナの様子に気が付いて、声を掛けてくる。

 それにメンチ達もラミナに目を向ける。

 

「ん~……いくつかのマフィアは言うだけ無駄になりそうやな。警察と癒着しとるやろうし、無理に突っ込んでもスケープゴート出されて逃げ切ると思うで」

 

「証拠は出てんだ。逃げ切れるとは思えねぇが?」

 

 ナックルが腕を組んで片眉を上げる。

 ラミナは資料をテーブルに放り投げて、肩を竦める。

 

「んなもん、『敵対してる組が自分達を嵌めようとしたんだ』とか言うに決まっとる。言わんかっても組を抜けようとしとる構成員をスケープゴートにして、『こいつが組を抜け出すために勝手にやった』とか言い出すやろな。組の中には証拠なんぞ残しとらんやろうし」

 

 ラミナの言葉にメンチとモラウは納得の表情を浮かべ、ナックルやアマチュアは顔を顰める。

 

「事実、2つほど密猟なんざに手を出すような組やないねん。十老頭と顔合わせ出来るレベルの組やったら、近々開催されるヨークシンのオークションで競り落とす方が顔が立つでな。多分田舎の小さい組が、密猟者連中を引き込むときに箔をつけようと勝手に名乗ったんやろ」

 

「あ~……そういうことか」

 

「やから、ここにツッコんでも白を切られるだけやな」

 

「ラミナ、行くだけ無駄なマフィアの名前に印付けといて」

 

「っちゅうか、ハンターサイトで名前騙ったマフィア調べとくわ。時期が時期やからな。マフィアンコミュニティーに下手に喧嘩売るんは避けたいでな」

 

「暗殺の仕事が出来なくなるからか?」

 

 ナックルが挑発するように言ってくる。

 メンチとモラウは小さくため息を吐き、ラミナは呆れたようにナックルを見る。

 

「阿呆。マフィアンコミュニティーに喧嘩を売るっちゅうことは、6大陸にあるほぼ全ての裏組織に狙われるかもしれんのやぞ。マフィア連中は表の社会とも繋がりが強い。そこを敵に回したら、普通に生きることはまず無理や。それにマフィア連中かてハンターを抱えとる。お前の家族構成や故郷、拠点なんざすぐに調べられて、皆殺しにされんで」

 

 ハンター証は世界を敵に回しても、その効果を剥奪されることはまずない。

 マフィアと契約を結ぶハンターだって珍しくもない。なので、調べるだけなら十か条にも引っかからない。

 ハンターではない念能力者などマフィアならいくらでも抱えているし、ゾルディック家とも繋がっている。

 狙われたらプロハンターであろうと厄介なんてレベルではない。

 

 そうラミナは説明した。

 

「ぐ……!」

 

「今回はここに拠点構えとる連中潰すだけで満足するんやな」

 

「あたしはそのつもりだったわよ。スケープゴートならスケープゴートでいいわ。それだけでも連中に損害は出るしね」

 

「ほな、うちは調べてくるわ」

 

「頼むわ」

 

 ラミナはホテルのパソコンルームに移動して、調べものを始める。

 ハンターサイトを開いて、素早くマフィアの情報を集める。

 

(……やっぱ有名どころは全部騙り。半分が傘下末端の組。もう半分が敵対する組の傘下末端の組か) 

 

 ナックルにも言った通り、デカい組は直接密猟に手を出すことは少ない。

 オークションや直接の取引で楽に手に入るからだ。なので、密猟を行うのは基本的に末端や中堅の野心的な連中が多い。

 

 更に言えば、ハンターが縄張りを持っているところで密猟するのは、間違いなく情弱の新参か落ちぶれた連中。

 つまり、上からすれば切り捨て前提の連中だということだ。

 恐らく、上の連中は小耳に挟んだくらいで証拠など持っていないだろう。

 

 ラミナは集めた情報を印刷して、メンチにメールする。

 すぐにアマチュアハンターが取りに来たので手渡して、後は任せる。

 

 ラミナはこの隙にフェイタンが話していたゲームと、自分と旅団の情報を調べることにした。

 グリードアイランドの情報料は2000万ジェニー。ラミナは戸惑うことなく、振り込んで情報を見る。

 

「……グリードアイランド。ハンター専用のゲーム? 販売数は100で、価格は58億……」

 

 作ったのは念能力者(達?)。

 ゲームを起動すると念が発動し、プレイヤーをゲームの中に引きずり込む。

 現在も大富豪のバッテラ氏が高額の懸賞金をかけており、多くのハンターが挑戦するも達成者はいない。

 今年のヨークシンのオークションで7本出品予定。最低落札価格は89億ジェニー。

 

「いわくつきやなぁ。それにしても89億て。うちの隠れ口座も合わせても1本落とせるかどうかやなぁ」

 

 ラミナは内容に呆れながら、グリードアイランドのページを閉じる。

 そして、自分の情報を検索してみる。

 

 リッパーの情報料は5000万。

 もちろん戸惑うことなく振り込む。

 

 ラミナの顔写真、名前、年齢、仕事経歴、ハンターであることが表示される。

 仕事経歴は全てではないが、マフィアから依頼された仕事は完璧に記載されている。

 

「ネテロも知っとるし、モラウも調べさせた言うとったしな。ここらへんはもうバレとるか……」

 

 シルバとゼノから逃げ切ったことも、ゾルディック家を訪れたことも記されている。

 ゴンとキルアに念を教えた事まで、既に記載されていた。

 

「……キモ」

 

 ラミナは呆れながら、情報に目を通していく。

 過去の経歴が不明なため、流星街出身である可能性が高い事も記載されている。カゴッシの家については書かれておらず、他のホテルや避難用の隠れ家の方がメインの拠点の可能性があると書かれていた。

 カゴッシの家はもちろん偽名を名乗り、変装して購入している。あの周辺は監視カメラもほとんど仕掛けられてないので、まだバレてはいない様だ。しかし、今回の件で今後露見する可能性は十分にある。

 

 そして、旅団との関係については何も記されてはいない。

 

「はぁ……他にも家、買うとこか」

 

 続いて旅団の情報を調べる。

 情報料は1億ジェニー。

 

「……流石なんか、安いんか……」

 

 振り込んで、ページを開く。

 しかし、活動内容くらいでまともな情報は1つもなく、顔写真すら無い。

 

「……なるほどなぁ。情報が碌に無いから安かっただけか」

 

 情報料に納得したラミナはパソコンルームを後にして、部屋に戻る。

 

「どう動くか決まったんか?」

 

「とりあえず、森にある拠点を先に潰すわ。片方はあたしとシュート、アマチュアで行くわ。もう片方をあんた達でお願い」

 

「対応は?」

 

「昨日の夜と同じ。抵抗すれば仕方なし。降伏すれば見逃す」

 

「へいへい」

 

 ということで、ラミナはモラウ、ナックルと共に森へと向かうことになった。

 

 簡単に昼食を済ませたラミナは、地図を確認しながら駆け足で森を進む。

 その隣をモラウ達も走っている。

 

「また先行して、偵察行くか?」

 

「そうだな。頼む」

 

「へいへい」

 

 前回同様ラミナは先行して、【朧霞】で姿を隠して偵察に出る。

 ラミナを見送ったモラウは、走り続けながらナックルに顔を向ける。

 

「まだ納得出来ねぇのか?」

 

「……実力は認めてるっすよ」

 

「だったら、何が気に入らねぇんだ? 別に快楽殺人者ってわけでもねぇし、悪戯に力を振り回す奴でもねぇ」

 

 確かに一度敵対した相手には容赦がないが、それは殺し合いをしているのだから責めることでも怒ることでもない。

 止めろと言えば止めるし、下っ端のような仕事にも文句も言わない。

 

「お前が今朝挑発した時だって、イラつくこともなく丁寧に教えてくれたじゃねぇか」

 

「ぐ……」

 

「実際、マフィアに関してはあいつがいなかったら、無駄に長引いてた可能性はあるぜ?」

 

「分かってますよ! それくらい!」

 

 ナックルは八つ当たりするように叫ぶ。

 

「けど、殺さずに終わらせることも出来るんすよ!? あの若頭だって殺さなくても捕まえられれば、もうマフィアなんてする余裕はなくなる!」

 

「それはラミナじゃなくて、依頼したマフィアに言うことだろ。雇われたあいつがそんな判断できる訳がねぇ」

 

「それは……そうっすけど……」

 

(実力もあるし、頭も悪くねぇんだがなぁ……。どうも甘いというか、妥協を覚えられねぇのがなぁ)

 

 悪いわけではないのだが、それを他者にまで押し付けてしまう癖がある。

 ナックルはラミナの事を認めているのだが、だからこそ暗殺者などをしているのが納得出来ないのだろう。

 モラウもラミナの事はもったいないとは思うが、昨日1日を通して関わって思ったのは、

 

(あいつも相当芯を持って動いてやがる。俺ら程度じゃ揺れることすらねぇだろうな)

 

 ということだった。

 

「今は仕事に集中しろ。まずは動物達を救うことが第一だろうが」

 

「……うす」

 

「その必要はないで」

 

「「!!」」

 

 ラミナが音もなく戻ってきた。

 

「どういうことだ?」

 

「もぬけの殻やった」

 

「逃げたってことか?」

 

「いや、檻どころか人がおった形跡もない。少なくとも、ここ数日で逃げ出したっちゅう感じやない。もっと前に放棄されとるな」

 

「ちっ! ダミー情報か、別の理由で潰れて手を引いたってことか……」

 

「どうするんや? もう少し辺り探すか?」

 

「そうだな。だが、歩き回るのも手間だ。俺の【紫煙拳】で周囲を探る」

 

「あぁ……あの煙、【円】でもあったなぁ」

 

 ラミナは思い出したように頷き、モラウに任せることにした。

 モラウが勢いよく大量の煙を吹き、一気に森を覆っていく。

 

「オーラ保つんか?」

 

「師匠のオーラ総量はおよそ6万5000。森に広げるだけなら、数kmは余裕だ」

 

「……ああ。オーラの数値化か」

 

 オーラは数値化出来るとされている。

 しかし、実際には目算でしか計算する方法はなく、精神面や能力内容によっていくらでも変動するので、あまり重要視はされていない。

 それをナックルが言い出すとは、思っていなかったこともあり、ラミナは思い出すまで数秒ほど時間を要した。

 

「数値を言われてもピンとこんわ」

 

「意外と馬鹿に出来ねぇぞ? 相手の実力を測るにも使えるからな」

 

 ナックルは不機嫌そうな顔で言う。

 ラミナはメンチにメールで報告しながら、肩を竦める。

 

「師匠。どうっすか?」

 

「……駄目だな。動物共しか感じねぇ」

 

「メンチからは『なにもなかったら、一度撤退して構わない』やと」

 

「しょうがねぇ。帰るとするか」

 

「ちょっといいっすか?」

 

 モラウが能力を解除して、ため息を吐いて撤退することを決めると、ナックルが突然呼び止める。

 少し嫌な予感したモラウだが、顔を向けて先を促す。

 ナックルはラミナに顔を向けて、指差す。

 

「俺と戦えや、コラ」 

 

「なんでやねん」

 

「はぁ……」

 

 ラミナは呆れながらツッコみ、モラウは天を仰ぐ。

 

「テメェがクソ野郎じゃねぇことは分かった」

 

「野郎ちゃうからな」

 

「話の腰折んじゃねぇよ!! いいから俺と戦え! ビビってんのか、コラ!!」

 

「理由ないやんけ。なんで無駄に疲れる事せんとあかんねん」

 

「俺が納得出来ねぇからだ!!」

 

「知るか阿呆」

 

 ラミナは呆れ顔でモラウに顔を向ける。

 モラウは腕を組んで、首を横に振る。

 ラミナは盛大に顔を顰める。

 

「戦う言うたって、まだ仕事中やぞ。戦った後に密猟者の拠点見つけたらどうすんねん?」

 

「そういうことだ、ナックル。まだ仕事が残ってる中で、お前とラミナを戦わせるわけにはいかねぇよ」

 

「ちっ!!」

 

「戦いたいなら、仕事が終わるまで我慢しろ。またメンチに殴られるぞ」

 

 ナックルは盛大に顔を顰めて、苛立ちを露わにする。

 それに2人はため息を吐いて、それ以上何も言わずに走り始める。

 

「大丈夫なんか? あれ」

 

「腕は確かなんだがな。そのせいかどうにも甘くて、敵の命でも死ぬことを避けちまうんだよ」

 

「……ハンターがそれでええんか?」

 

「よくねぇから、まだ半人前なんだよ」

 

「難儀なやっちゃなぁ」

 

「まぁ、それが絶対に悪いってわけじゃねぇ。殺さなくて済むなら、それはそれでいいことだ。だが、それを周りにも押し付けようとする癖があるのが難点でな。今回は念も使えない密猟者相手だから放置してるが、もし実力者がいれば仲間の命も危険に晒すことになる。そこの切り替えを出来るようになればいいんだがな」

 

「無理ちゃうか?」

 

「そこで諦めちまったら、師匠と言えねぇだろ?」

 

 ならば、ナックルの手綱をしっかりと握って欲しい。

 ラミナはそう思ったが、黙っておくことにした。

 

 ラミナ達はホテルに戻り、メンチ達の帰りを待つ。

 その間、暇だったので待機しているアマチュアハンターに、現在押収してる刀剣類の武器を見せてほしいと声を掛ける。

 

「大丈夫ですよ。欲しいものがあったら、メンチさんに聞かないとダメですけど」

 

「分かっとる」

 

 ラミナは苦笑しながら頷き、保管場所を教えてもらう。

 アマチュアハンター達が使っているビルに向かい、武器を見させてもらう。

 

 ナイフや剣、槍などが並んでいたが、やはり量産品物ばかりで珍しいものはない。

 

「レアもんはやっぱないわなぁ」

 

「ここは前線部隊の連中の武器だけだよ。密猟者程度の連中がアンタが欲しがる武器なんか持ってるもんかい」

 

 ラミナは声がした方向を見る。

 

 青色のフレンチブレイドモヒカンに、銀縁のスクエア眼鏡。腹部に獅子が刺繍されたオーバーバストのスチームパンクコルセットに、デニムホットパンツ、そしてオープントゥニーハイサンダルを身に着けた身長140cmほどの女性。

 右太ももにはナイフが差さっているレッグホルスター。それと細身の両手剣を背負っている。

 

「アンタが欲しそうな武器は隣の部屋だよ」

 

「……その前に名前聞いてええ?」

 

 ラミナは目の前の少女が、そこら辺のアマチュアハンター達とは一線を画す実力を持っていることを見抜いていた。

 

「あぁ、それもそうだね。あたいはコロロルク・ラルバン。プロ3年目でメンチさんの弟子さね」

 

「弟子? メンチも弟子おったんか。けど、プロなら何で昨日顔出さんかったんや?」 

 

「着いたのがついさっきだからさ。他の仕事がやっと終わってね。ああ、アンタの名前は聞いてるから名乗らなくていいよ」

 

 見た目と話し方やしぐさとのギャップが半端ないが、ラミナはツッコむことはせずに握手をする。

 

「悪いけど、歳いくつ?」

 

「あたいかい? 26だよ。見えないだろ?」

 

 コロロルクは苦笑する。

 ラミナは年上だとは思っていたけど、5つ以上離れているとは思っていなかった。

 

 もう一方の部屋に案内してもらうことになり、コロロルクの後に付いて行く。

 

「コロロルクも美食ハンター志望なん?」

 

「いや。あたいは幻獣ハンターさね」

 

「ナックルのビーストハンターとは違うんか?」

 

「ビーストハンターは保護を一番の目的にしてるのさ。あたいは新種の発見と生態調査がメイン」

 

「なるほどなぁ」

 

 隣の部屋に案内され、武器を見て回る。

 隣の部屋よりは造りがしっかりしているし、独自の装飾もされているが特にオーラを纏っている武器などは見当たらない。

 

「まぁ、レアもんあったら上に売り払っとるわな」

 

「武器収集が趣味なのかい? 暗殺者だって聞いてたけど」

 

「まぁ、そうやな。剣とかナイフとか刃が付いとる武器は相性がええみたいでな」

 

「ふぅん。っと……」

 

 コロロルクは携帯を取り出して、メールを確認する。

 

「メンチさんが戻ってきたみたいだね」

 

「ほな、戻ろか」

 

 用は無くなったので、さっさと戻ることにした2人。

 ホテルの部屋に戻ると、メンチ達の他に新しい顔がいた。

 

 銀のロングストレートヘアを後ろで纏めている180cmほどの褐色肌の女性。

 口元を黒のマスクで隠し、黒のポンチョマントを羽織り、灰色のカーゴパンツにブーツという傭兵を思わせる服装をしている。

 左目に縦に走る一筋の傷痕があり、右瞳が青、左瞳が赤とオッドアイズが特徴的だった。

 

「紹介しとくわ。こっちもコロロと同じで、あたしの弟子。プロ2年目の――」

 

「ビーストハンターのザーニャ・アマゾッドと申します」

 

 礼儀正しく頭を下げるザーニャ。

 それを聞いたラミナは、思わず視線が隣にいるコロロルクとザーニャを往復する。

 メンチは腕を組みながら苦笑して、

 

「見た目と性格が真逆でしょ? ザーニャは誰にでも敬語で超真面目、コロロは誰にでもタメ口でガサツなのよね。ちなみに年齢も見た目の逆。ザーニャが18歳で、コロロルクは26歳」

 

「いいだろ、別に」

 

 コロロルクはジト目を向けて、師匠にツッコむ。

 ザーニャは小さくため息を吐いて、

 

「コロロルク。せめて、師には敬語を使いなさい。教えを乞うているのですよ」

 

「その師匠が何も言わないんだから、いいじゃないのさ」

 

「よくありません」

 

(ええコンビ……。いや、トリオっぽいな)

 

 ラミナは2人のやり取りを見て、そう思った。

 

 ザーニャがメンチとコロロルクの適当なところをカバーして、コロロルクが暴走気味なメンチに付き添い、メンチはその2人を引っ張っていく。

 ザーニャの心労がやや心配にはなるが、コロロルクとメンチなら姉御肌気質でそこをカバーするのだろう。

 美味しい食事や年上の余裕で、ザーニャを引っ張っているのだろうと推測する。

 

 2人のプロが合流したことにラミナはあることに思い至る。

 

「弟子2人も合流したことやし、うちはもうこの仕事にいらんのちゃうか?」

 

「まだ調査が終わってないから、もう少し待ちなさい」

 

「まぁ、ローテーションは出来るから、仕事は楽になるがな」

 

「暇だったら、この子達の特訓の相手でもしてあげて」

 

「それやったら帰らせてぇや。なんや、ナックルにも勝負挑まれるし」

 

「……あんた……まだ根に持ってんの?」

 

 メンチが呆れながらナックルを見る。コロロルクとザーニャもジト目を向ける。

 ナックルは腕を組んで、顔を顰める。

 

「納得出来ねぇことを後回しにするのは性分じゃねぇんだ」

 

「じゃあ、一回戦えば満足するの?」

 

「ちょい待てい」

 

「けど、このまま放置しても鬱陶しいでしょ? あたしも面倒だもの」

 

「そうなんだが、こいつの能力はちょっと厄介なんだよ。下手したらラミナはこの後使い物にならなくなる」

 

 モラウが面倒そうに頭を掻きながら、口を開く。

 その内容にメンチ達は首を傾げる。

 

「能力ってこと?」

 

「ああ。こいつの能力は一定の条件をクリアすると、相手の念を1ヶ月封じるんだよ」

 

「へぇ」

 

 メンチは興味を持ったようで、ラミナを見る。

 視線を感じたラミナは盛大に顔を顰める。

 

「こいつに勝ったら報酬アップに、仕事が終わるまでこいつは事務仕事と動物の世話に専念させるわ。あんたが負けたら、仕事が終わるまでゆっくりすればいいわ。もちろん報酬はしっかり払うし、料理も作る。それでどう?」

 

 ラミナは断ろうとしたが、ナックルはもちろんモラウやシュート達からも視線を感じて、開きかけた口を閉じる。

 当然のことながら全員がラミナとナックルの戦いに興味を持っている。

 ラミナは1分程顔を顰めたまま、葛藤するように思考に耽る。

 

 そして、諦めたように小さくため息を吐く。

 

「はぁ~……しゃあない……か」

 

「よっしゃあ!! じゃあ、早速――」

 

「ただし」

 

 ナックルが拳を掌に合わせながら、獰猛な笑みを浮かべて早速始めようとするが、ラミナがそれを遮る。

 

「うちは本気で戦わん。殺す気はないでな。それでええんなら、戦うたる」

 

「あぁん!? 舐めてんのか、テ――!!」

 

「待て、ナックル。お前だって殺す気はないんだろ? だったらいいじゃねぇか」

 

「けど!!」

 

「それでも文句があるなら、戦って無理矢理本気を出させればいいだろ。違うか?」

 

「……違わねぇっす……」

 

「なら、お前はただ本気でやればいいだけだ」

 

「押忍!!」

 

 モラウの言葉にナックルは気合を入れ直す。

 ラミナは舌打ちをして、眉間に皺を寄せる。今の挑発でゴネてくれれば、更に文句を言ってうやむやにして逃げようと考えていたが、見事にモラウに修正された。

 これでナックルはただラミナに全力をぶつければいいだけだ。

 

(まぁ、それでも本気でやる気はないけど)

 

 【月の眼】はもちろん、殺傷力が高い武器は使わないつもりでいる。

 まだナックルの能力が分からないので、どの武器が良いかは判断できていないが。

 

 ラミナ達はホテルを出て、ラミナとモラウが暴れた倉庫へと向かう。

 すでに死体はもちろん動物達もおらず、すっからかんになっていた。

 

「手加減なんざしねーぞ、コラ」

 

 ナックルが肩を回しながら、ラミナと向かい合う。

 メンチ達は壁際に並んで、観戦する。

 

「さぁて、どうなるかしらねぇ」

 

「ラミナが武器に拘らなきゃ、ナックルが不利だな」

 

「けど、今もやる気出して無さそうよ?」

 

「それならそれで、ナックルが有利になるから構わんさ」

 

 ラミナは気だるげに両手を腰に当てて、ナックルを見ている。

 ナックルはそれを見て、歯軋りをする。

 

「舐めやがって……!」

 

 ナックルからオーラが力強く噴き出す。

 

「後悔すんなよコラァ!!!」

 

 叫びながら猛烈な勢いで飛び出すナックル。

 猪突猛進かと思ったが、左右にフェイントを入れてラミナを惑わそうとする。

 

「ほぉ……」

 

「オラァ!!」

 

 ラミナは感心の声を上げながら、頭を仰け反らせて左から飛んで来たナックルの右ストレートを躱す。

 ナックルはすかさず右フックを繰り出すが、ラミナは左足を引いて半身になって躱す。そして、右脚1本で後ろに跳び下がる。ナックルはラミナから離れないとばかりに詰め寄ってくる。

 

(ゼルンロサスでも、森でも、無手で突っ込んできとったな。動きや雰囲気からすれば強化系っぽいけど……)

 

「オラァ!!」

 

 ラミナは考察しながらナックルの動きを観察する。

 

(……うちの能力を知っとっても詰め寄ってくるか。けど、確かに体術もスピードもかなりのもんやな。……なら)

 

 ラミナはナックルの蹴りを躱して、大きく跳び下がる。

 ナックルはすぐに詰め寄ろうとする。

 

 しかし、ラミナの右手にハルバートが出現して、足を止める。

 

「……長物か」

 

(これで詰め寄ってくるなら、あいつは強化系か、相手に触れることで発動する能力っちゅうことやな)

 

 ラミナは両手でハルバートを素早く振り回して、ナックルを牽制する。

 

「あれは初めて見る武器だな」

 

「全く……どれだけ武器を出せるのかしら……」

 

「あのナックルの攻撃もまだ余裕をもって躱してますね」

 

「まぁ、ナックルの奴もまだ本気で動いてねぇけどな」

 

 シュートが眉間に皺を寄せて、ラミナの身体能力の高さに慄く。

 

 すると、ナックルが上衣を脱ぎ捨てる。

 

「本気で行くぞ、コラァ!!」

 

 ナックルが姿が霞むほどの速さでラミナに迫り、右後ろに拳を構えて現れる。

 ラミナは石突を突き出して、ナックルを牽制する。

 ナックルは拳を構えたまま、右膝を突き出して石突を弾き上げる。ラミナはその勢いを利用して、刃を掬い上げるようにハルバートを振り上げながら振り返る。

 

「ぐっ!」

 

 ナックルは食いしばりながら上半身を反って躱す。

 

「それで躱したつもりか?」

 

 ラミナの左手にハルバートがもう1本出現する。

 

「!?」

 

「具現化した武器やぞ。複数出せるに決まっとるやろ」

 

 ラミナが鋭く左のハルバートを、ナックルの右肩を狙って突き出す。

 

「んのっ!」

 

 ナックルは半身になって紙一重で躱し、左アッパーを繰り出す。

 それをラミナは頭を反らしながら右手のハルバートを横にして、ナックルの内肘につっかえ棒のようにしてアッパーを止める。

 その隙を狙って、ラミナの左ミドルキックがナックルの腰に叩き込まれる。

 

「っつぅォラァ!!」

 

 ナックルは左足を大きく踏み出して前に飛び出るのを耐え、無理矢理腰を捻って左フックを繰り出す。

 

 しかし、ラミナは蹴りの直後に後ろに跳んで、ナックルから距離を取っていた。

 

「……テメェ……なんで追撃してこねぇんだ?」

 

「殺しそうやったでな」

 

「んだとぉ……舐めてんのかコラァ!!」

 

「いやいや、お前の能力もなんとなく読めたでな。ここからが本番っちゅうことやな」

 

「っ!!」

 

 ハルバートで右肩を軽く叩きながら、ラミナは確信を持って言い放つ。

 ナックルは目を見開いて、メンチ達も目を見開く。

 

「俺の能力が分かっただぁ? 適当なこと言ってんじゃねぇぞコラ」

 

「まぁ、細かいところまでは分からんけどな。けど、お前の能力はうちを殴ることが発動条件っちゅうことは分かったわ」

 

「!!」

 

「それとさっきのモラウの言葉やな。『相手の念を一か月封じる』。そこから考えられるんは放出系か特質系能力。お前のオーラをうちの体に浴びせる事が必要みたいやな?」

 

「……っ!」

 

「なら、もうちょいこのままでええか」

 

 ラミナは右手のハルバードの刃先を、ナックルに向ける。

 

「今度はうちが見せたるわ。『起動せよ』【不屈の要塞(スティール・ジェネラル)】」

 

 唱えた瞬間、ラミナの全身が漆黒の西洋鎧に包まれる。

 

 頭部は額に両刃の剣のような突起が生えており、肩にも突起が生えた肩甲が威圧感を醸し出す。

 隙間なくプレートが展開されており、重厚な鎧騎士が目の前にいた。

 

「なっ……!?」

 

「お前の能力は鎧の上からでも効くんか? ちなみに、この鎧には外部からのオーラは弾く特性があるでな。気ぃ付けや」

 

 ドォン!とラミナが地面を砕き、ハルバードを振り上げてナックルに迫る。

 ナックルは全力で横に跳び、叩きつけられるハルバードを躱す。

 

 ナックルはすかさず詰め寄って、兜に右拳を叩き込む。

 しかし、ラミナはビクともせず、むしろ拳を押し返してきた。

 

「!?」

 

「悪いが、ただのパンチなんぞ効かん」

 

 そう言いながら、ラミナの右裏拳がナックルの胸に叩きつけられて、ナックルは大きく後ろに吹き飛んで壁に叩きつけられる。

 

「がぁ!!」

 

「……オーラを弾くって……」

 

「反則だろ」

 

「その代わり、うちも放出出来ん。まさにガチンコ戦闘しか出来んっちゅうことや」

 

 【不屈の要塞】発動中は、ラミナも【練】が出せない。【周】なども出来ないので、純粋にハルバードと鎧の硬さとラミナの身体能力のみでの戦いとなる。

 

「なるほどねぇ。新しい武器も出せないんだね?」

 

「当然や」

 

 コロロルクの言葉に頷くラミナ。

 

「こりゃ、念能力者には天敵だな」

 

 モラウが腕を組んで冷汗を流す。

 

(まぁ、防御力も普通の鎧と変わらんから、普通に砕けるんやけどな) 

 

 オーラを弾くだけなので、ハンマーなどで殴られれば普通にへこむ。

 ウボォーの怪力に殴られれば普通に顔が潰れかねないし、ハルバードも折れる。そして、()()()()()()()()()()()()()()()

 更にハルバードは()()()()()()()()

 

 【不屈の要塞】を破りたいなら、ハルバードを狙えばいいだけなのだ。

 

 ラミナの能力は基本的に武器を壊せば、簡単に攻略できる。

 もちろん、そうならないようにラミナは体術を鍛えているので、簡単なことではないが。

 

「もうええやろ? これ以上は疲れるわ」

 

「あたしはもう満足よ。っていうか、今のナックルじゃ無理ね」

 

「ぐ……!」

 

 ナックルは腹を押さえながら歯軋りをする。

 ラミナは鎧とハルバードを解除して、肩を回す。

 

「あ~……肩凝る能力やわ」

 

「本当に器用な奴だな」

 

「凄いです。体術も素晴らしかったです」

 

 モラウが呆れ、ザーニャが目をキラキラさせながら言う。

 シュートはナックルに声を掛けており、メンチも腕を組んでナックルに顔を向ける。

 

「今回はここまでよ。これ以上はもう認めないからね。今のあんたじゃ、ラミナの能力を破れそうにないし」

 

「……うっす」

 

「相性が悪かったな。まぁ、コイツの能力は大抵の奴が相性が悪いがな」

 

「だねぇ。あたいじゃ無理さね。メンチさんが気に入るのも分かるよ」

 

「ということで、ナックルは明日から事務仕事と動物の世話ね。しっかりやりなさい」

 

「ぐぅ……」

 

「今回はお前が悪い。大人しくしとけ」

 

「うっせぇぞ!」

 

 シュートに八つ当たり気味に叫ぶナックル。

 

 まだ納得は出来ていなさそうだが、これ以上はメンチとモラウも許可はしないだろうと考え、ラミナもこれ以上下手に刺激するのを止めておこうと決めた。

 

 その後、ナックルは「チッキショーー!!」と叫びながら、走り去っていった。

 モラウとシュートがため息を吐きながら後を追いかけて、メンチやラミナ達は呆れながら見送った。

 

「さ、帰ってご飯にしましょ」

 

 メンチの言葉に頷いて、ラミナ達はナックルの事を忘れてホテルに戻るのだった。

 

  

______________________

ラミナの新能力!

 

・【不屈の要塞(スティール・ジェネラル)

 具現化したハルバードに付与した能力。

 

 オーラを弾く鎧を纏う。

 

 ラミナもオーラを外に放出できないので、【纏】【練】【周】などで鎧や武器をオーラで覆えない。

 なので、鎧を展開中は新しい武器を具現化できず、素の身体能力で戦わなければならない。相手の念による攻撃もほぼ全て無効化されるので、ゴンの【硬】もただのストレートパンチになり、キルアの電気も弾き、ヒソカのバンジーガムも張り付きません。ゲンスルーの爆破能力も効かない。具現化された武器も弾く。

 

 さらに、防御力も実際の鎧やハルバードと変わらないので、殴られ続ければ凹んで砕ける。ハンマーや車、バズーカなどを受け止めれば、普通に砕ける。

 

 鎧は一部が砕けても、再生できない。再生する場合は、能力を完全に解除しなければならない。

 ハルバードはオーラを弾くことは出来ず、砕ければ鎧も消える。

 




この時期のナックルは、キメラ編まで約1年あるのでやや未熟な部分が目立ちます(__)
モラウもキメラ編より、オーラ総量が少し低いです。

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