暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#34 ナゼ×ノ×リユウ

 それぞれの仕事を割り振ったラミナ達は、早速仕事に取り掛かる。

 

 ラミナは双眼鏡とノートパソコンを用意して貰って、ホテルと動物を保護している倉庫の両方が見渡せるビルの屋上を探す。

 

「何故屋上なんだ?」

 

「そら、見通しがええからや。たった2人でこんなデカい街を隅々まで見回り出来るわけないやろ。下手に動き回って向こうを警戒させるくらいなら、下手に動かずバレにくい場所で監視しとる方が見張りやすいねん」

 

 アマチュアハンターも使っていいとは言われているが、下手に見回りさせるより現場にいてもらった方が暗殺者は手を出しにくいし、防衛力も高くなる。

 もちろんプロハンターレベルの実力者が来れば話は別だが、実力がある暗殺者の行動はラミナであれば予測できる。

 

「襲撃があればどうするんだ?」

 

「そら、頑張って行くだけや」

 

「……それでいいのか?」

 

「アマチュア連中にはヤバいと思ったら、すぐに逃げろて言うとる」

 

「……」

 

「まぁ、うちの経験から言うとな。平凡な殺し屋やったら、あの人数相手に攻め込まん。んで、ヤバイ奴やったら正面から堂々と来る事が多い。どっちにしろ被害が出るんやったら、さっさと逃げた方が意外と被害少ないことがあんねん」

 

 商業ビルの屋上を選んだラミナとシュート。

 ラミナはホテルと倉庫が見える角に座って陣取り、ノートパソコンを地面に置く。ここに来る前に購入した飲み物や軽食を広げて、過ごしやすい環境を整えてる。

 シュートは未だ不安そうな表情で、ラミナの背後でその様子を見つめている。

 

 ラミナは電源を入れたノートパソコンをネットに繋いで、あるサイトを開く。

 

「……」

 

「それは?」

 

「裏の情報屋サイトや。殺し屋やマフィア、ハンターに警察とかの動きがリアルタイムで更新されとることがあんねん。この街に条件を絞れば、この街に入り込んだ殺し屋やマフィア、ハンターとかの情報が出る。本来なら情報屋しか見れへんのやけど、ちょいと裏技でな」

 

「……俺達のこともか?」

 

「もちろん。もうガッツリ出とるで」

 

「……」

 

「そんな驚く事か? ハッカーハンターやって同じことしとるやろうに」

 

 シュートは少し顔が青くなるが、ラミナからすれば情報屋もハッカーハンターも大した差はないし、バレないと思っている方が無理がある。

 もちろん監視カメラとかが配備されていない街や場所ならば情報は少ないが、情報屋は人を雇って監視カメラ代わりにしたりしているので、意外と情報は広まっている。

 ちなみに情報屋達はこのサイトに入る裏技があることはもちろん知っているので、金にならない情報しか載せていない。

 

 それでも『マフィアのボスが来た』『殺し屋が街に潜伏している』などの誰が来たくらいの情報ならば、載せてくれるので意外と馬鹿に出来ないのだ。

 

「さて、後はひたすら見張りやな」

 

 ラミナは買った携帯食の封を開けて、食べながら双眼鏡を覗く。

 シュートは戸惑った表情を浮かべたままだが、大人しく座ってラミナの方針に従う。

 

 

 その後、数時間。

 ラミナとシュートはずっとその場を動かず、双眼鏡とパソコンを覗いてひたすら見張る。

 後1時間で日付が変わろうかという時、

 

「よう」

 

 モラウとナックルが顔を覗かせた。

 

「どうしたんや?」

 

「メンチからの差し入れだ」

 

 モラウは右手に持ってる岡持ちを掲げながら親指を立てる。

 モラウとナックルも座って、岡持ちからどんぶりを取り出してラミナとシュートに渡す。

 蓋を開けると、中はかつ丼だった。

 

「これまた豪勢な差し入れやな」

 

「全くだ! メンチがいると飯に困らなくていい。美食ハンター様様だな」

 

 モラウとナックルも食べるようで、どんぶりを手に取っていた。

 ラミナはシュートに先に食べるように言い、見張りとパソコンの情報の確認を続ける。

 

「来ると思うか?」

 

「さぁ? 可能性があるマフィアの情報も調べたけど、微妙なところやな。全財産を使うんやったら、そこそこの奴も呼べる。組の再生も視野に入れるんやったら、中堅以下の奴しか呼べんやろうな。ただ、もし組同士で手を組んで出費するなら、うちらレベルも呼べる。油断は出来んっちゅうことやな」

 

「落ち目のマフィアの依頼を受ける物好きなんかいるのか?」

 

「金が貰えればええんやから、別に報酬貰ってから潰れようがどうでもええやろ。やから、小遣い稼ぎに受ける連中が出てもおかしない」

 

 双眼鏡を覗きながらモラウの質問に答えるラミナ。

 その言葉にナックルがイラついたように顔を顰める。

 

「テメェらはなんでそう簡単に人を殺せるんだ?」

 

「……ナックル」

 

「テメェらの金のために、悲しむ家族や仲間がいる。その人達に対して何も思わねぇのか?」

 

「……あんま思わんなぁ。うちからすれば、殺される方もそれなりの事をしてきたからやり返されたっちゅうだけのことや」

 

 ラミナは双眼鏡を覗いたまま、答える。

 

「暗殺者をわざわざ探して、金を払ってまで殺してほしいと依頼する。んなもん、少なからず殺される方はそれだけのことを依頼者にしたっちゅうことや。そこまでの奴ちゃうなら、うちらなんぞ雇わずに自分で殺すやろうし、警察や別の報復を考えるやろ」

 

「……この前のゼルンロサスの若頭もそうだってのか……? まだ30歳にもなってなかったんだぞ、えぇ?」

 

「キタカバファミリーか? お前、あの若頭のこと調べとらんのか?」

 

「なんだと、コラ……!」

 

「あの若頭、密輸拠点を作るときに村一個潰しとるんやぞ? 追い出したんちゃうで? 皆殺しって意味やぞ」

 

「なっ……!?」

 

「……ホンマに調べとらんのか?」

 

「キタカバファミリーのことを調べたのは俺だ。こいつにはそこまで伝えてねぇ」

 

 モラウがナックルを庇う様に言う。

 ラミナは肩を竦めて、話を続ける。

 

「まぁ、ええけど……。とりあえず、少なくともうちが殺してきた連中は、誰かに恨まれるようなことをしてきたっちゅうことや。やったらやり返される。それだけのことや」

 

「じゃあ、テメェは自分が殺されても、そう言えんのかよ?」

 

「阿呆。殺される覚悟もなく、殺し屋なんぞするかい。言うたやろが。やったら、やり返される。誰かを殺した以上、誰かに殺されて当然。んなもん、当たり前のことや」

 

「……」

 

「……怖くはないのか?」

 

 今度はシュートが訊ねてきた。

 

「見ず知らずの人を殺すことに、そして殺されるかもしれないことに恐怖はないのか?」

 

「見ず知らずの人間やから、殺しても大して罪悪感ないんや。それがマフィアやったら尚更やんな。自分と関係ない人間を殺そうが、恨まれたところでどうでもええでな」

 

「……」

 

「殺されるんは怖いで? 殺される恐怖比べたら、殺す方がまだマシっちゅうことや。で、どうせ法や倫理に反するなら、金でも貰った方が更に罪悪感は減るでな。人殺しに快楽を得るよりはマシやろ? それにうちは自分が腐り果てた人間やっちゅうことは理解しとるしな」

 

「「「……」」」

 

 ナックル達は黙り込んで、眉間に皺を寄せている。

 ラミナは双眼鏡をシュートに投げ渡す。

 

「交代」

 

「……ああ」

 

 ラミナはかつ丼を食べ始める。その間もパソコンを適度に確認することを欠かさない。

 モラウが再びラミナに訊ねる。

 

「ハンターになったのに、暗殺者を辞めないのはなんでだ?」

 

「んなもん、今更辞めて真っ当に生きれるとでも思うか? ここで辞めたら、それこそクズやろ」

 

「じゃあ、なんでハンターになったんだよ?」

 

「依頼人からハンター証取ってこいって言われたからや。普通なら入国出来んところにおる奴でも依頼したいんやろな」

 

「……ずっと殺し屋の人生なんて空しくないか?」

 

「お前なぁ……うちの出身どこか知っとるやろ? 流星街で暮らしとったって大して変わらんわ」

 

 食事を終えたラミナは口を拭い、水を飲む。

 

 流星街とて命が軽いのは変わりない。

 独自のルールがあり、それはそれで狭苦しく感じる事もあった。

 だから、旅団やラミナは外に飛び出した。

 今も時折流星街と連絡を取っており、流星街を出る変わり者の世話をすることもある。

 

「間違えただけやったら、まだやり直せるんかもな。けど……自分の意思で殺し屋であることを選んで殺し続けてきたんは、間違いと言えるんか? そんな人間がやり直すとか言うてええことちゃうと、うちは思うけどな」

 

 明確な意思を持って人の命を奪った以上、やり直せるかどうかを決めるのはラミナではない。

 

 そもそも誰がやり直していいのかどうかを決めるのだろうか。

 ラミナは被害者の家族も違うと思っている。決めるべきなのは被害者本人であるべきだ。

 しかし、ラミナが襲った被害者は基本全員死んでいる。なので、ラミナがやり直すことを認める人達はこの世にいない。

 

 ラミナは、殺した者の恨みを背負うことが免罪符であると考えている。

 やり直すということは、その恨みを忘れるということだ。それはラミナの免罪符が消える事を意味する。

 

 なので、ラミナは殺しを止めることは許されない。

 

 それがラミナが暗殺者を辞めない理由の1つである。

 

「テメェ……」

 

「「……」」

 

(こいつ……。この若さで悟りきって、覚悟が完璧に固まってやがる。まさしく『鍛え抜かれた刃』そのものだな)

 

 自分が行った結果をありのままに受け入れ、真正面から向き合い、その全てを背負っている。

 普通なら折れて壊れかねないほどの重圧を、ラミナは一切曲がることなく背負い、その覚悟を貫いている。

 

(こりゃ今の俺達が何を言っても、こいつの意思を揺らすことも出来ねぇな)

 

 モラウはラミナの意志の強さにただただ敬服するのみだった。

 

(ナックルやシュートにもこのくらいの覚悟が出来ればいいんだがなぁ。……いや、流石にこれは劇薬過ぎるか……)

 

 未だ眉間に皺を寄せて唸っているナックルと、同じく眉間に皺を寄せて考え込んでいるシュートを見て、小さくため息を吐く。

 実力は確かなのだが、最悪の事態を想定した時の覚悟が出来ない。

 それをラミナを通して、何かを掴ませようとしたが、ラミナの方が振り切れ過ぎていた。 

 

 その時、

 

「……かかったで」

 

「「「!!」」」

 

 ラミナがパソコン画面を見て呟く。

 その言葉にモラウ達の意識が切り替わり、鋭い気配を纏う。

 

「どんな奴だ?」

 

「最悪の二歩手前」

 

「あん?」

 

「現れたんは暗殺者だけやけど……実力はプロ並み。アマチュアじゃ無理や」

 

 ラミナの言葉にモラウ達が弾けるように立ち上がる。

 

「ちなみに最悪はなんだ?」

 

「暗殺者が2人以上でマフィアも一緒に来る、やな」

 

「なるほどな」

 

「ナックル、倉庫の裏手から脱出するように連絡しぃ。相手は正面から来よる。モラウはメンチに連絡入れてんか? シュートは後からついて来ぃ」

 

 ラミナは素早く指示を出すと、携帯食の空袋を掴んで屋上から飛び出す。

 

「ちょっ!? おまっ!? ここ、10階――!?」

 

 ナックルが目を見開いて腕を伸ばし、モラウも煙管を咥えて煙を出そうとする。

 その声を無視するラミナはベンズナイフを具現化して、下に見えるビルの屋上に向かって投擲する。

 

 指を鳴らすと下のビルの屋上にラミナが現れ、ラミナが先ほどまでいた場所にベンズナイフが現れる。ビルに下り立ったラミナは、再び指を鳴らして持っていた空袋とベンズナイフを入れ替える。

 そして、勢いよく駆け出し、ビルを跳び移りながら倉庫を目指す。

 

 ナックルとシュートは唖然と見送る。

 直後、煙がナックルとシュートを掴んで、ラミナの後を追う様に空を舞う。

 

「「おおお!?」」

 

「ナックル、早く電話してラミナを追え! 俺はこのまま周囲の警戒を続ける!!」

 

「りょ、了解ぃ!!」

 

「シュート! ビビるなよ!」

 

「は、はい……!」

 

 モラウは指示を叫びながら、メンチに連絡するために携帯を取り出す。

 ナックルもビルに着地して携帯を取り出しながら駆け出し、シュートも続いて走り出す。

 

 ラミナは路地裏の壁を走り、ベランダの手すりを蹴り跳び、剥き出しの非常階段の縁を掴んで振り子のように飛び、猛スピードで移動する。

 そして、ラミナは倉庫正面向かいにある路地裏に下り立つ。

 

 その正面には人影が1つ。

 

「……何か用、カネ?」

 

「随分と物騒なオーラを垂れ流しとるなぁ。この先になんか用かいな?」

 

「……ハンター、カネ。……随分と血の匂いがする奴、カネ」

 

 暗殺者は茶色のくせっ毛に中性的な顔をした狐目の男。

 末広がりになっている長めの両袖の黒い詰襟の服に、下は黒い袴を履いている。

 

(あの袖の下になんか隠しとると考えるべき、か) 

 

「それで? 出来れば帰って欲しいねんけど」

 

「……殺し屋が依頼放り出すとでも思っている、カネ?」

 

「思わんけどなぁ。標的と報酬金、つり合っとらんと思うでって……標的は誰なん?」

 

「……さぁ? 知らない、カネ」

 

 男の口が三日月に釣り上がる。

 

 直後、滑る様にラミナに迫る。ラミナも後ろに下がって距離を取る。

 2人は倉庫前の大通りに出る。

 

 ラミナは目だけで周囲を見渡すと、車や歩行者の姿が一切見えなくなっていた。

 どうやら交通規制が敷かれたようだ。

 

「ほぉ、仕事が早いやないか」

 

「……これは面白くなりそう、カネ」

 

 男はラミナに詰め寄って、右腕を鞭のように振るう。

 

「シャア!!」

 

 ラミナが躱そうとしたところで、男の袖から5本の鞭のようなものが飛び出してくる。

 

「!!」

 

 ラミナは目を見開きながら、ベンズナイフを手首だけで背後に投げ、【妖精の悪戯】を発動する。

 十分な距離ではなかったが、それでもラミナは大きく後ろに跳び下がって間合いを取る。

 

「……中々いい反応、カネ」

 

「そらどうも。……ウルミ、か」

 

「……よく分かった、カネ」

 

 男の両袖からシャラリと5本ずつの細い帯状の剣、ウルミが垂れ下がる。

 

(……両腕にウルミ、狐目の男……。聞いたことないなぁ)

 

 ラミナの殺し屋リストには、目の前の男の情報はない。

 マフィアのお抱えか、新人か。

 

 ラミナはベンズナイフを消して、短刀とブロードソードを具現化する。

 男は片眉がピクリと跳ねるも、素早く構えて攻撃に備える。

 

 その時、男の背後から高速で迫る複数の物体があった。

 

「「!?」」

 

 男は素早く反応し、振り返りながら両腕を振る。

 10本のウルミが蛇のように、明らかな意思を持って動いて迫る物体を叩き落とそうとする。

 しかし、飛び迫る物体達も軌道を変えてウルミを躱し、男の右頬、左肩、右脇腹に当たって男が仰け反る。

 

 そこにシュートが一瞬で男に詰め寄り、男の右頬を殴る。

 

「ぐぅ……!?」

 

「手……?」

 

 男に当たったのは、3つの手。更にシュートの左横には鳥籠が浮かんでいる。

 ラミナが訝しんでいると、今度はバランスを崩している男の横から勢いよく迫る白い影。

 

「オラァ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

 現れたのはナックルだった。

 男の左脇腹にナックルの拳が突き刺さり、男は横に吹き飛ぶも倒れることなく耐える。

 

「つぅ……! ……? 痛くない、カネ? っ!? 目が……!?」

 

 男はナックルに殴られた所に衝撃はあっても痛みがないことに訝しむと、右側の視界が失われていることに気づく。

 男の右眼周囲はぼやけたように失われていた。

 

 そして、さらに男の横に天使のような変な人形が出現していた。額には『210』と数字が表示されていた。

 

「な、なんだ……!?」

 

『時間です。利息が付きます』

 

 天使人形が声を上げて、額の数字が『231』と増える。

 

「このっ!!」

 

 男はウルミを操って、天使人形にウルミを叩き込む。

 男はどうやら操作系能力者らしいと推測したラミナは武器を消して、ナックル達の能力に注意を向ける。

 

「体を消すんはシュート。あの人形はナックルか?」

 

「おうよ。能力名は【天上不知唯我独損(ハコワレ)】。あいつはマスコットのポットクリンだ」

 

 ナックルは腕を組んで、不敵に笑う。

 

「そいつはテメェの隣で利息の増加を告げるだけだ。だから、攻撃は効かねぇ」

 

「り、利息……?」

 

「そうよ。利息はトイチ! 10秒で1割、増えていく!」

 

「……そ、それが何だ、カネ?」

 

「最初の一撃で、俺はテメェに210オーラを貸した。その数字はテメェの借金だよ」

 

「に、210オーラ? 貸した? 借金?」

 

 男は完全に混乱状態に陥った。

 

「オラ、もたもたしてっと破産(トぶ)ぞ?」

 

「ぬ……ぐ……!」

 

 男はナックル、シュート、ラミナを順に見て、完全に足が止まる。

 その間もどんどんポットクリンの数字が増えていき、更に大きくなっていく。

 

「あれはどこまでデカなるんや?」

 

「あいつ次第だ。あの借金の数字が、あいつの潜在総オーラを越えるまで、カウントは続く!」

 

「……破産すると?」

 

「ポットクリンはトリタテンに変わり、30日間破産者に付きまとう。その間、破産者は完全に【絶】状態! 念能力は使えなくなる!」

 

「なっ!?」

 

「ほぉ……」

 

「そして、テメェが借金を返し終わるまで、俺はテメェからダメージを受けねぇ!」

 

(怖っ。【不屈の要塞】選んでよかった~)

 

 ラミナは昨日の自分の判断を改めて褒める。

 そして、モラウが甘いと言っていた理由も何となく理解した。

 

 ナックルの能力は間違いなく『殺さず、出来る限り無傷で無力化すること』を前提としている。相手の念を封じれば、確かに大抵の相手は捕らえられる。

 そして、シュートの能力もそれに近いと推測できる。

 

(殴った個所を封じ込める能力っちゅうとこやな。まぁ、こっちはダメージはあるみたいやけど)

 

 それでも出来る限り『不殺』を心掛けている能力だ。

 

(まぁ、UMAハンターっちゅう事を考えれば、間違うとるわけやないか)

 

 ラミナは完全に観戦モードに移行している。

 もはや勝負は見えているからだ。

 

 半分視界が失われており、時間制限もある状態で、ダメージを当てられないナックルと3つの手を操るシュートを相手にするのは無理だろう。

 まだ能力を隠していれば分からないが、それでもナックル達はこのまま待っていればいいだけなので、有利であることに変わりはない。

 

 いくら10本のウルミを操作できるからと言っても、限界があるだろう。

 

「大人しく捕まれや、コラ」

 

「お前にもう勝ち目はない」

 

「ぐ……!」

 

 男は歯を食いしばる。

 その時、男の真後ろにラミナが音もなく現れて、男の首に手刀を叩き込む。

 

「がっ……!?」

 

「言うたやろ? 標的と報酬がつり合っとらんってなぁ」

 

 男はうつ伏せに倒れ伏す。

 ラミナは腕を組んで男を見下ろし、ナックルに顔を向ける。

 

「能力はそのままにしとけよ。操作系みたいやからな。シュートは相手の体を封じる能力やったら使っとき」

 

「……いや。もう必要はないだろう」

 

「ん?」

 

「もうすぐトリタテンに変わるはずだ。俺の【暗い宿(ホテル・ラフレシア)】は、相手の体にダメージを与える必要がある。流石に動けない相手にこれ以上追撃するのは気が引ける」

 

「そうなんか。まぁ、ウルミだけでも外しとこか」

 

 ラミナは素早く男の両腕からウルミを外す。

 

「よっしゃ。ほな、うちは周囲の警戒に戻るで。シュートとナックルは、こいつとここを頼むで」

 

「おう」

 

「承知した」

 

 後始末を任せたラミナは、ビルの屋上に戻ることにした。

 

「まぁ、もうあれ以上の暗殺者を雇うことなんぞ出来んやろうし、数を増やしたところで腕利きは集まらんやろ。後は組の連中が来るかどうかやけど……。玉砕覚悟か、オークションまで耐えてどうにか他の組と繋がりを得るか、やな」

 

 あと2日ほど様子を見れば判断できるだろう。

 

 そう判断したラミナはビルの屋上に戻って、再び監視を始めるのだった。

 

 


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