暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#36 ツワモノドモ×ガ×ツドウ

 8月中旬。

 

 ラミナはすでにヨークシンに入って、準備に取り掛かっていた。

 ヨークシン内に複数の隠れ家を偽名で購入し、様々な物資を運び込む。

 

「ふわぁ……」

 

 ラミナは隠れ家の1つでパソコンを眺めながら、欠伸をしていた。

 

「ん~……これである程度、隠れ場所は確保できたか。車にバイク、気球も手に入ったし……」

 

 旅団が使えるであろう移動手段なども確保し、旅団の集合場所である廃墟も確認を終えた。

 他にも地下競売の会場の下見も終え、後は旅団が揃ってからの対応となる。

 ヨークシンにある裏の仲介屋にも滞在中であることを連絡し、必要時依頼を受けつけることは伝えてある。

 

「後は……キルア達か……」

 

 そろそろ誰かやって来ていてもおかしくはない。

 ラミナは飛行機のチケット購入記録を調べてみる。

 

「……ゴンとキルアはもう来とるんか」

 

 ゴンとキルアは2日ほど前にヨークシンにやってきているようだった。

 各ホテルの宿泊者リストを調べ上げて、ゴン達が宿泊しているホテルを突き止める。

 その周囲にはあまり近づかないように注意するように頭に書き留める。

 

「クラピカがどうなっとるんかやな……」

 

 プロハンター成りたてのクラピカの情報など、ハンターサイトでもほとんど更新されていない。

 しかし、余りにも情報がないので、そこから考えられることは2つ。

 

「まだ念の修行中か、マフィアに入り込んだか……」

 

 マフィアと契約を結んだのであれば、いつかは情報が出るだろうが、それもしばらく先の筈だ。

 まだ新人のクラピカをデカい組が雇うとは思えない。なので、中堅以下のマフィアに所属したと考えられるが、そうなると情報の質はやや下がる。

 なので、ヨークシンに入って来るまでクラピカの情報は不明のままの可能性が高い。

 

「厄介なこっちゃ」

 

 ヒソカとの密約の相手の情報が手に入らないのは、非常に面倒だ。

 結局、当日まで待つしかないのだ。

 ラミナはため息を吐いて、再び情報収集に戻るのだった。

 

 

 

 そして、8月31日。

 

 クラピカは飛行船から降りて、周囲を見渡す。

 

「問題ない」

 

「よし、俺達は車だぜ」

 

 リーゼントの口髭の男、バショウがクラピカに声を掛ける。

 

 クラピカはマフィアのノストラードファミリーの護衛団と契約を結んだ。

 ノストラードは元は田舎の小さな組だったが、組長の娘の『占い』によってのし上がった成り上がりである。

 その娘が人体収集家という趣味を持っており、クラピカは【緋の眼】を奪還するために泥を呑むことになっても近づくことを決めて、上手く入り込むことが出来た。

 

(……いよいよ明日からか……)

 

 9月1日から行われる地下競売。

 地下競売はマフィアンコミュニティー主催であるため、旅団が狙う可能性は高い。

 明日はヒソカと会う約束の日でもあり、クラピカの緊張感は嫌でも高まっていた。

 

 車の助手席に乗り込んだクラピカは、携帯を確認する。

 すると、メールが届いており、送り主はゴンだった。

 

 クラピカはメールを開く。

 

『久しぶり! 俺とキルアはもうヨークシンにいるよ! どこかで会えるかな? 連絡待ってるね!』

 

 クラピカは小さく笑みを浮かべる。

 しかし、すぐに顔を引き締めて、仕事中だから時間が取れるかは分からないと返事をする。

 流石にマフィアに属した以上、そう簡単に人と会うわけにはいかない。しかも、今は護衛。護衛対象から私用で離れることは基本的に認められるものではない。

 なので、メールや電話くらいしか出来ないかもしれない。

 

(……今は仲間の眼を取り戻すことを最優先に考えろ)

 

 ヨークシンでやるべきことを終えてからでも、会う機会はある。

 そう考えて、クラピカは携帯を仕舞い、仕事に意識を戻すのだった。

 

 

 

 クラピカ達が乗っている車が走る道のすぐ近くの荒野。

 

 そこをマチ、フェイタン、フランクリン、ノブナガの4人がヨークシンに向けて歩いていた。

 

「見えたね」

 

「13人が一堂に会するなんて何年ぶりだっけかぁ? フェイタン」

 

「3年2か月。と言ても、あの時とは2人面子が違うね。4番と8番、別の人に変わた」

 

「マチ、ヒソカの野郎はちゃんと来るんだろうな?」

 

「知らないね。あたしに聞くな」

 

「お前の役目だろ」

 

「来いと伝えただけだ」

 

 マチは不快そうに顔を顰めて、吐き捨てるように言う。

 フェイタンも僅かに眉間に皺を寄せて、

 

「今回もワガママ言たら、流石の団長も許さないはずよ。その時はワタシが殺すね」

 

「そう簡単にはいかねぇと思うぜ? あいつの【バンジーガム】はよぉく出来てる。ありゃ戦り辛ぇぜ、正味な話」

 

「買い被りだ。大したことねぇよ、あんな奴」

 

「口だけじゃ何とでも言えるからなぁ」

 

 ヒソカを褒めるノブナガに、フランクリンが強気に言い、ノブナガも挑発するように答える。

 直後、フランクリンが右腕を振り、ノブナガは腰に差していた刀を鞘ごと抜いて受け止める。

 

 そのまま殴り合いを始めるフランクリンとノブナガ。

 マチとフェイタンは、それを無視して歩き続ける。

 

「別に誰が殺しに行ってもいいけどさ。どうせ、抜け番に次入るのは決まってるし」

 

「ラミナか?」

 

「そ」

 

「あぁ、なんだ? ラミナの奴、ようやくクモに入る決心しやがったのか?」

 

 ノブナガが殴り合いを止めて、マチ達の会話に参加する。

 フランクリンは舌打ちするも拳を引っ込めて、歩き始める。

 

「この前、そんなこと言ってたか?」

 

「その前に会った時にね」

 

「なら、別にヒソカ死んでも問題ないね。ラミナの能力の方が面白いよ」

 

「あいつの能力は団長並みに厄介だからなぁ。あいつ今、どこにいんだ?」

 

「ヨークシンにいるよ。今回、団長の依頼で仕事手伝うってさ」

 

「ほぉ! 団長の奴、随分と気合入れてんなぁ! こりゃあ、大物狙いだな」

 

「ワタシ達全員集めてるのだから当然ね」

 

「ラミナとも久しぶりに会うな」

 

「あの子はアタシ達とは別行動だからね。マフィア側に入り込んで、こっちのサポートをするらしいよ」

 

「そりゃ、またご苦労なこった」

 

 フランクリンが肩を竦めて、ラミナを労う。

 マチは少し不満げに腕を組む。

 

「別にサポートなんてやらせなくても一緒にやればいいのに」

 

「団長の指示なら仕方ないね。それかマチがラミナに手伝いに行けばいいよ」

 

「はっはっ! そりゃ、面白れぇ!」

 

「うっさいよ」

 

 マチの反応をフェイタン達はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 その後、マチの念糸が舞い乱れ、フェイタン達は笑いながら荒野を走り回って逃げるのだった。

 

 

 

 ヨークシン郊外、廃墟ビル。

 

 薄暗い倉庫の中で、蝋燭が灯っている。

 傍には額に十字の入れ墨がある黒のオールバックの青年、幻影旅団団長のクロロが座って本を読んでおり、少し離れたところにシャルナークと、金髪をオールバックにした眉無しのジャージの男、フィンクスが静かに壁に背中を預けて立っていた。

 

 そこに足音が近づいてくる。

 シャルナークとフィンクスが顔を向けると、現れたのはパクノダだった。

 

「パクノダ! 元気だったか?」

 

「お久しぶり、シャルナーク」

 

「ちっ。もう少し早く来いよ」

 

 フィンクスが舌打ちをして、パクノダに苦情を言う。

 パクノダは腕時計を見て、

 

「あら。時間ピッタリのはずだけど?」

 

「集合時間10分前が常識だろうが。お前らもだよ」

 

 フィンクスは眉間に皺を寄せながら、パクノダの後ろに目を向けて言い放つ。

 柱の陰から全身に包帯を巻いた男、ボノレノフ。そして長髪で顔が隠れた小柄な男、コルトピが現れる。

 

「ボノレノフ、コルトピ! お前達も一緒だったのか」

 

 シャルナークが嬉しそうに言う。

 さらに、

 

「よぉ! 久しぶりじゃねぇかぁ。お前ら!」

 

 毛皮を身に着けた獣のような巨漢、ウボォーギンが姿を現す。

 

「着いたぜ、団長! 今度の獲物は何だ? 早く命じてくれ!」

 

 ウボォーギンは凶暴な笑みを浮かべて、クロロに声を掛ける。

 それにクロロは本から目を離すことはないが笑みを浮かべ、シャルナークとパクノダが苦笑する。

 

「慌てるなよ、ウボォー。フェイタン組が夜に到着する。全員揃ってからだ」

 

「相変わらずせっかちねぇ」

 

「くそぉ。まだ半日もあるのかよ……!」

 

 ウボォーギンは待ちきれないとばかりに舌打ちをする。

 そこに今度はシズクが顔を覗かせる。

 

「お! シズクじゃねぇか」

 

「ども」

 

 シズクは軽く会釈をして、挨拶をする。

 シズクの姿を見たパクノダがシャルナークに顔を向ける。

 

「もう1人の新顔はまだなの?」

 

「さぁ? マチにでも聞いてくれ」

 

 シャルナークは肩を竦める。

 

「マチも大変ね。変わり者の面倒を見させられて」

 

「仕方ねぇだろ。上の番号の奴が、下の番号の面倒を見るってのがルールだからな」

 

 フィンクスがぶっきらぼうな顔のまま言う。

 ボノレノフがその言葉に頷きながら、

 

「だから、あいつはラミナを入れたがってたのにな」

 

「連絡付かなかったみたいだからね」

 

 コルトピが少し呆れながら言う。

 ラミナの名前にウボォーギンが反応する。

 

「ラミナ! そういやぁ、ここしばらく会ってねぇなぁ! あいつは元気なのか?」

 

「さぁ、俺とパクノダ、シズクは年末にあったけど……」

 

「ゾルディックに襲われてたわね、そう言えば」

 

「ゾルディックぅ? 前の8番を殺した暗殺一家のか?」

 

「ああ。俺達がギリギリで依頼主殺したから助かってるはずだけどね。そういえば、団長の伝言でハンター試験受けるようにって伝えてたっけ」

 

「ハンター試験? あいつが?」

 

 フィンクスが訝しみ、シャルナークは肩を竦める。

 

「まぁ、ラミナのことだから問題なく受かってると思うけどね」

 

「あいつはまだ殺し屋やってんのか?」

 

「ああ、俺達ほどじゃないけど、結構その筋じゃ名前は売れてきてるみたいだ。ゾルディックに暗殺依頼が出るくらいだしね」

 

「ほぉー! あのマチの後ろに引っ付いてたガキが、随分と成長したもんだ!」

 

「いつの話をしてるのよ。それに何度か仕事も一緒にしてたでしょ?」

 

「そうだけどよ。あの時はまだまだヒヨッコだったからなぁ」

 

 ウボォーギンは腕を組んで、ラミナと最後に仕事をした時を思い出す。

 と言っても、あくまでヒヨッコはウボォーギンの基準であり、その時のラミナはすでにそこらへんにいるプロハンターならば楽勝レベルではあったのだが。

 

「今はどれくらい成長したんだ?」

 

「1対1なら、ウボォーやフィンクスでも分からないと思うわよ?」

 

「……へぇ~、そりゃあ楽しみじゃねぇかぁ」

 

 ウボォーギンはパクノダの言葉を聞いて、歯を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべる。

 フィンクスもしばらく会っていないので、面白そうに笑みを浮かべている。

 シャルナークはその様子に呆れる。

 

「おいおい、ウボォー。殺し合うんじゃないぞ?」

 

「マチが怒るわよ」

 

「おぉっと、そりゃ面倒だな。あいつはラミナのことになるとしつけぇからな」

 

 ウボォーギンは肩を竦める。

 それにシャルナーク達は笑い、バラバラだった間どのように過ごしていたのかを語り合う。

 

 

 それから数時間後。

 すっかり日が暮れた頃にマチ達も合流して、残りはヒソカのみとなった。

 

「やっぱり……」

 

「ちっ」

 

「あの野郎……」

 

 マチは呆れてため息を吐き、フェイタンは舌打ちし、フィンクスは顔を顰める。

 蝋燭と割れた窓から差す月明りだけが照らすビルの中で、マチ達はヒソカを待つ。

 

 その時、マチがあることを思い出した。

 

「っと、そうだ。団長!」

 

「ん? どうした?」

 

 マチは鞄からラミナから預かったナイフを取り出す。

 

「これ。ラミナから」

 

「ラミナから?」

 

「ナイフ。頼んでたんでしょ?」

 

「ああ、それか」

 

 マチはナイフを投げ渡し、クロロは鞘に入ったナイフを抜く。

 

「ほぉ……ベンズナイフか」

 

「鞘に毒が仕込んであるって、何でも0.1mgでクジラも動けなくするらしいよ」

 

「ふっ。流石だな」

 

 クロロはナイフを納めて、ポケットに仕舞う。

 そして、マチに目を向ける。

 

「ヒソカは来てないが、まぁいいか」

 

「ん?」

 

「マチは知ってるだろうが、今回の仕事にはラミナがサポートに回ってもらっている」

 

「ラミナが?」

 

「はっはぁ! 噂をすれば、なんとやらじゃねぇか」

 

 シャルナークが首を傾げ、ウボォーギンが笑う。 

 クロロも小さく笑みを浮かべる。

 

「ラミナはすでに街に入っている。隠れ家や情報収集、移動手段の確保を主に頼んである」

 

「なるほどね」

 

「ラミナへの連絡は基本的に俺、マチ、シャルナークの3人がする。だが、マチとシャルナークも基本的に俺が指示した場合と、非常時以外での連絡は控えてくれ」

 

「了解」

 

「……しょうがないね」

 

 シャルナーク達はクロロの命令に頷く。

 マチは少し不満げだが、クロロの指示なので渋々同意する。

 

「もちろん、場合によっては俺達と敵対する場合もある。その時は適当に戦って、不自然になりすぎない形で離脱しろ」

 

「殺さねぇように気を付けねぇと、おっかねぇ姉が暴れるからなぁ」

 

「なんか言ったかい? ノブナガ」

 

「おっとぉ、何でもねぇよ」

 

「ふん」

 

 マチはノブナガを睨みつけて、鼻を鳴らす。

 全員が苦笑して、マチを生温かい目で見つめる。

 

「そういや、さっきシャルからラミナがハンター試験受けたって聞いたが、受かったのか?」

 

 フィンクスがマチに訊ねる。

 

「当たり前だろ? なんでかヒソカも受かったみたいだけどね」

 

「ヒソカも?」

 

「そ。だから、ラミナとヒソカの顔合わせは終わってるよ。別に会わせなくてもよかったけどさ」

 

「もうあのサボり野郎殺して、入れ替わりでラミナ入れた方がいいんじゃねぇか? 強くなってんだろ?」

 

「アタシもそう思う」

 

 フィンクスの言葉に、マチは力強く頷く。

 フェイタンやフランクリンも頷いている。というか、基本的に全員ラミナ寄りである。 

 

「団長はどう思うか?」

 

「……そうだな。今回来なかったら、ラミナをヒソカに差し向けてみるか」

 

 クロロも顎に手を当てて、話の流れに乗る。

 その時、

 

「少しくらい自分で処罰すること考えろや。頭張っとるんやったら、アホな部下の後始末くらいせぇ」

 

 全員が声がした方向に顔を向けると、鞄を肩に担いだラミナが呆れた顔で立っていた。

 マチと買った半着の上に黒の短丈革ジャンを着て、下も黒のカーゴパンツを履いている。

 

「おー! 久しぶりじゃねぇかぁ!! ラミナ!」

 

「久しぶりやな、ウボォー。相変わらずで何よりや。他のモンも元気そうで何よりや」

 

 ラミナは苦笑しながら挨拶し、シャルナークに向かって担いでいた鞄を投げる。

 

「っとぉ! なんだこれ?」

 

「クロロから頼まれとった資料。今ヨークシンにおるマフィア一覧と、競売を仕切っとるマフィアの情報と会場の見取り図に、地下競売の保管場所その他諸々。まぁ、当日の警備体制までは流石に無理やったけど、分かっとる限りの戦力も纏めとるでな」

 

「ヒュー♪」

 

「流石ね」

 

「それとここの裏側のビルに車1台と気球を置いたでな。偽名で購入しとるし、中古やから壊しても押収されても問題ないで。後2台くらいなら、すぐに手配出来る用意もしとる」

 

「至れり尽くせりだな」

 

 感心したようなフィンクスの言葉に、ラミナは肩を竦める。

 

「そういう依頼やからな。一応、マフィア側とはコンタクトが取れとる。有事の際はうちにも依頼が来る、かもしれん」

 

「かもなのか?」

 

「基本的にマフィアは自分達の戦力で事を収めたがるでな。まぁ、念使いはそこまでおらんから、襲ってきたんが念使いって分かれば、うちにも声がかかるやろうな」

 

「なるほど」

 

 ボノレノフとシズクが納得する様に頷く。

 ラミナはクロロに顔を向けて、

 

「何するんか知らんけど、なんかやるなら早めに連絡よこせや」

 

「分かった」

 

「それとベテランの殺し屋を遠ざけたかったんかもしれんけど、もう少し考えて依頼出せや。アルケイデスの爺も呼ばれとって、旅団がなんか企んどるって気づいたで?」

 

「……翁がいたのか……」

 

「一応、手は出さんって言うとったし、うちと顔見知りの殺し屋共は狙い通り手を引いたけどな」

 

「そうか。分かった。次は気を付けよう」

 

「次てオイ。十老頭暗殺なんぞ何回も出すもんちゃうわ」

 

 十老頭暗殺と言う言葉に、マチ達も僅かに目を見開いてクロロに目を向ける。

 マフィアの情報を集めていることから、地下競売関係を狙うことは予測できていたが、十老頭暗殺は大事が過ぎる。

 今回の仕事がそれだけ大掛かりであることを理解したウボォーギンは笑みを深めていく。

 

「十老頭暗殺はもう別の奴に依頼を出してる。次の依頼を出すことは多分ないだろう」

 

「は? 引き受けた奴おったんか?」

 

「お前もよく知ってる連中だ」

 

「あん?」

 

 ラミナは首を傾げる。

 クロロは「ふっ」と鼻で笑い、

 

「イルミ、と言えば分かるだろ?」

 

「げ!?」

 

 ラミナは盛大に頬が引きつる。

 その反応にクロロは更に愉快そうに笑い、マチ達は訝しむ。

 

「イルミって誰だよ?」

 

「……ゾルディックや」

 

「ゾルディック? ……もしかしてあんたの婚約者になったって言う?」

 

『は?』

 

 マチが目を据わらせながら言い、その内容にマチとラミナ以外の全員(クロロ含む)が耳を疑った。

 ラミナは右手で目元を覆って、天を仰ぐ。

  

 1分ほど沈黙が場を支配し、ようやく内容を理解したシャルナークがマチに訊ねる。

 

「マチ、ゴメン。今、なんて言った?」

 

「あ? だから、そのイルミって奴がラミナの婚約者になった奴かって言ってんの」

 

 マチは未だに周囲の反応に気づいていない。

 しかし、その直後、

 

『婚約ぅ!!?』

 

 団員達の叫びが、ビルに響き渡る。

 ラミナは大きくため息を吐きながら、項垂れる。

 

「……マチ姉……」

 

「なに?」

 

「……いや、なんもない」

 

 マチは悪いが、悪くない。

 口止めなどしてないことを思い出したからだ。

 なので、一番悪いのはラミナである。

 しかし、このタイミングでの暴露はないだろうと嘆くのは絶対に悪くないはずだと思う。

 

「はぁ~……言っとくけど、そいつやない。そいつは長男の方やから、1回殺し合った奴や」

 

「ということは、婚約した相手は違うけど、婚約したのはホント?」

 

「……まぁ…………うん」

 

 シズクが首を傾げて訊ね、ラミナは盛大に顔を顰めながら頷く。

 すると、ずっと腹を抱えたり、口を押えていたノブナガやフェイタン、フィンクスが我慢の限界を迎えた。

 

 

『ブハハハハハハハハ!!!』

 

 

 3人の笑いに引っ張られて、マチ以外の団員達も笑い始める。

 

「くははっ! こ、婚約……! ラミナが婚約!? だ、駄目だ! くははははは!!」

 

「し、式はいつだ? ブハハハハハ!!」

 

 ノブナガとフィンクスが腹を抱えて大笑いし、他の団員達も涙を浮かべる程笑う。

 ラミナは額に青筋を浮かべて腕を組み、殺気を振り撒く。

 しかし、旅団に効果があるわけなく、不機嫌なマチ以外は笑い続ける。

 

 完全にキレたラミナは、

 

ズドン!!

 

 と左側にクレイモアを具現化して突き刺し、右手にバトルアックスを具現化して肩に担ぐ。

 

「今すぐ笑うん止めるか、こいつに叩き潰されるか、このビル一帯ごと全員纏めて吹き飛ぶか、選べや……!!」

 

「わ、悪い悪い……! ブフッ!」

 

「よっしゃ、皆で粉々になろか。【死を呼び寄せ(グラウンド・)――!!」

 

「ストップストップ!! もう笑わないから!!」

 

「落ち着いてちょうだい」

 

 流石にシャルナークとパクノダが慌てて制止し、ノブナガ達も笑いを引っ込める。頬は引きつっているが。

 

 ラミナは無表情で青筋を浮かべたままだが、大人しく武器を消す。

 それでも殺気は纏ったままである。

 マチもまだラミナの傍で不機嫌そうに顔を顰めていて、シャルナークやパクノダはクロロに目を向けて、姉妹の対応を押し付ける。

 クロロはすでに完全に普段通りに戻っており、シャルナーク達の視線に苦笑する。

 

「ラミナ、事情を話してくれないか? ある程度把握しておかないと、俺達も地雷を避けようがない」

 

「……ふん」

 

 ラミナは盛大に顔を顰めながらも、マチに話した説明をもう一度する。

 不機嫌顔の仲良し姉妹を宥めながら、話を聞いたクロロ達は笑う者と同情する者に分かれた。

 ちなみに同情したのはパクノダ、シズク、フランクリン、コルトピ、ボノレノフ。

 笑ったのはノブナガ、ウボォーギン、フィンクス、フェイタン、シャルナークだ。

 クロロは苦笑で留め、ラミナを慰める。

 

「災難だったな。まぁ、ゾルディックと繋がりが持てたのはいいことじゃないか。それにお前とそいつは結婚する気はないんだろ?」

 

「当ったり前や」

 

「なら、いいじゃないか」

 

「うっさいわ」

 

 そもそもクロロがハンター試験を受けろと言わなければ、こんなことにはならなかったのだ。

 それを思いっきりぶつけたかったが、自分の責任も大いにあるのでラミナは必死に我慢する。

 流石にクロロに文句を言えば、隣の姉が黙ってないのもある。さっきから不機嫌オーラがラミナに襲い掛かっているのだ。

 

 そろそろ逃げ出したい。

 

「ふん。ほな、仕事でヘマすんなや。十老頭も殺すんやったら、ちゃんと殺せよ。この仕事が終われば、うちはしばらく殺し屋なんぞ出来んでな。報酬しっかり払えるように成功させてや」

 

「あ、そっか。ラミナの商売相手ってマフィアが多いんだっけ?」

 

「そうやで。マフィアンコミュニティーにケンカ売るんやったら、流石にずっと隠し通すんは厳しいやろうからな。商売相手、新しく探さんとなぁ」

 

 ラミナはため息を吐いて、頭を掻く。

 ノブナガが顎を擦りながら、

 

「お前ほどの腕なら、マフィアじゃなくても依頼してくる奴多いんじゃねぇのか?」

 

「おるけど、金払いが極端やねん。マフィア連中は意外と律義な金額提示してくれるでな。仕事の難度を見極めやすいねん」

 

「「へぇ~」」

 

 シズク、コルトピが興味深そうに頷く。

 

「まぁ、ええわ。ほな、それなりに気ぃ付けて動きや。あっとぉ、用意した隠れ家の鍵は扉横の植木鉢の下や。パソコンとかも置いとるでな。好きに使い」

 

「助かる」

 

 シャルナークが礼を言う。ラミナは手を振りながら、ビルを後にしようとする。

 

「っとぉ、マチ姉」

 

「ん?」

 

 ラミナは唐突に振り返り、マチに何かを投げ渡す。

 受け取った物は、鍵だった。

 

「どこの鍵?」

 

「今、うちが拠点にしとる部屋の鍵。好きに使ってええで」

 

「そ」

 

「場所はシャルに渡した鞄の中に入っとるでな。尾行に気を付けて来ぃや」

 

「分かってる」

 

「ほなな」

 

 ラミナは今度こそアジトを後にする。

 マチは鍵を懐に仕舞って、シャルナークに向く。

 

「シャル、地図」

 

「はいはい」

 

 シャルナークは苦笑しながら鞄を漁る。

 そして、隠れ家が記された地図をマチに投げ渡す。

 

「団長は?」

 

「マフィアの資料をくれ」

 

「はい」

 

 クロロはシャルナークから分厚い紙の束を受け取って、読み始める。

 シャルナークはパクノダに鞄を預けて、車と気球の確認に行く。

 

「ヒソカが来たら、呼んでくれ」

 

「おう。っていうか、ヒソカの野郎。まだ来ねぇのかよ。もう日付変わるぞ」

 

「あの野郎……。今度会ったらすりつぶしてやる……!」

 

 フィンクスとウボォーギンがまだ現れないヒソカに怒りを募らせる。

 

 

 そして、ヒソカがやって来たのは9月1日の夜明け前。

 

 ようやく幻影旅団全員が揃い、クロロより明かされたのは、

 

 

「地下競売のお宝、全部丸ごと掻っ攫う」

 

 

 というものだった。

 

 そのすぐ後に、ウボォーギンの獣のような雄叫びが轟く。

 

 それが幻影旅団始動の狼煙代わりとなったのだった。 

 

 

 ヨークシンシティを舞台に強者共が動き出す。

 

 


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