暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#37 オークション×ハ×オオアレ

 旅団のアジトから戻ってきて、すぐクロロからメールが届く。

 

『狙いは地下競売のお宝全て。潜入する準備を頼む』

 

 そう書かれていた。

 

「マジかい……」

 

 ラミナは流石に冷や汗が噴き出す。

 完璧にマフィアンコミュニティーに戦争を仕掛けるつもりだった。

 

「そら、十老頭暗殺せな。あかんわな~」

 

 そして、色々と理解したラミナは仮眠をとる準備をしながら、予定を考える。

 潜入ということは、会場である『セメタリービル』にマフィアのふりをして潜り込むということだ。地下競売は夜に行われる。

 つまり、それまでに競売経営側のマフィア達を潰さなければいけないということだ。

 

「お宝を持ち出すんはシズクの能力を使うとしても……。スーツとか用意しとかな目立つか……」

 

 クロロに参加するメンバーを教えてもらい、ラミナは一度仮眠をとることにした。

 これから数日は寝るのも厳しいかもしれない。

 ここでしっかりと体を休めることに集中するのだった。

 

 そして、陽が昇って、少しした頃。

 ラミナの携帯が鳴る。

 

「……んあ?」

 

 ラミナは目を擦りながら、携帯を見る。

 知らないアドレスからメールが届いており、開くとゴンからだった。

 

『久しぶり! 携帯買った! ラミナはヨークシンにいるの? キルアとレオリオもいるよ! 連絡頂戴ね!』

 

「お~……携帯買ったんか~……」

 

 ラミナは素早く『仕事中。会うのは難しい』と返信して、再び眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 携帯を買ったゴンは、ラミナからの返信を見て残念そうに眉を下げる。

 

「ラミナも仕事で会うのも難しいって」

 

「だろうな。そもそもあいつがヨークシンに来る理由ねぇし」

 

 キルアはアイスを齧りながら、当然とばかりに頷く。

 しかし、ゴンは納得出来ないようで眉を顰める。

 

「皆で会うって約束したじゃん」

 

「天空闘技場で会えるかどうか分からないってのも言ってただろ? だから、あいつはあの後すぐに出て行ったんだ」

 

 キルアはラミナの仕事を理解している。

 なので、ラミナがここに来るなど最初から期待していなかった。殺し屋が再会を期待するなど、基本的にあり得ないからだ。

 次会った時は殺し合いになるかもしれない。ラミナもそう言っていたように、殺し屋はいつ顔見知りを殺すことになるのか分からないから。

 

「う~……修行の成果も見てもらいたかったんだけどなぁ」

 

「それは……まぁ、そうだな……」

 

 もちろんゴンとキルアは、ラミナに言われた通り日々の修練を欠かしていない。なので、成長しているとは思うが、それがどれくらいなのかが分からないのだ。だから、ラミナに見てもらって、評価してもらいたかったのだ。

 

「それにしても、ラミナが念を使えたなんてよぉ。俺も教えてもらいたかったぜ」

 

 レオリオは顔を顰めながらサングラスを直す。

 レオリオはまだ念の修行の途中で、ヨークシンにやって来ていた。ただし、本人はもう覚え終えたつもりでいるが。

 

「言っとくけど、ラミナは俺に教えるって契約だったんだからな。ゴンだって、俺といるからついでに教えてもらえただけだぜ?」

 

「そうだけどよ……」

 

「もし親父達がラミナに何も言わなかったら、俺達だってあいつに教えてもらってなかったと思う」

 

 キルアの言葉にレオリオは黙り込むしかない。

 同じ殺し屋だったキルアが言うのだから、レオリオに否定できる材料はない。

 

「それよりもまず金策考えよーぜ。もうオークションの開催期間に入ってるんだ。サザンピースまで時間がない」

 

「そうだね」

 

「つっても89億だろ? なのに、お前らの所持金500万ジェニーって……」

 

 レオリオは呆れるしかなかった。

 ゴンとキルアは天空闘技場の金を合わせても10億にも届かなかった。なので、買うのではなく、出品する方で金を集めようと考え、ネットでお宝を探そうとしたが見事に詐欺にやられて、一気に1000万まで減った。

 そこでやめればいいものを2人は500万ずつ分け、競争して増やそうとまた金策に走り、キルアは見事にすっからかんになり、ゴンは2万しか増やせなかった。

 なので、ゴン達は競り落とすどころか、オークションに参加することすら出来ないのだった。

 

「まず入場料すら払えねぇぞ? カタログ買うだけでも1200万いるのによ」

 

「う……。入場料のこと全然考えてなかった……」

 

「だな~」

 

 ゴンは項垂れて、キルアは空虚な笑みを浮かべるしか出来なかった。

 そして、もちろんレオリオにもそんな金はない。金がないからハンターになったのだから。

 

「どうしよっか……」

 

「とりあえず、ホテルで考えようぜ。ネットとかで調べてみれば、なんか方法見つかるかも」

 

「だといいけどな」

 

 ゴン達はやや意気消沈してホテルに戻る。

 そして、必死に儲ける方法を探すのだった。

 

 その裏ではラミナや旅団達が動き始めているとは知らずに。

 

 

 

 そして夕方6時頃。

 ラミナはセメタリービル近くの隠れ家に移動していた。

 そこにはマチ、ウボォーギン、シャルナーク、ノブナガ、フェイタン、フランクリン、シズクもやって来ていた。

 

「一応、全員分のスーツとかサングラスとか用意しといたで」

 

「サンキュー」

 

「ホントに何でも揃えられんだな」

 

 シャルナークが礼を言い、ウボォーギンが腕を組んで感心する。

 ラミナは肩を竦めて、

 

「この街やったら金さえあれば大抵のモンは揃う。もちろん経費は後で請求するけどな」

 

「それじゃ、一度着てみよう。着るのは男連中だから」

 

「まぁ、マチやシズクじゃその筋の人間って言うのは難しいわな」

 

 ノブナガ達は頷いて、スーツを手に取る。

 ラミナ達女性陣は、目の前で着替えられようが特に恥ずかしがることはない。

 涼しい顔で今後の予定を確認していく。

 

「気球やお宝はシズクの能力やな?」

 

「そりゃあね。じゃないと無理」

 

「やんな。で、予定は?」

 

「え~っと……夜8時までにビルに潜入して、邪魔者を排除。競売に来たマフィアを全員殺して、【デメちゃん】で死体とか全部吸い取って、お宝を奪う予定。で、周りの構成員が来る前に気球でトンズラ」

 

「……ド派手やな~」

 

 ラミナは思わず呆れるが、そうでもしないとビルの中にいる構成員が暴れ出して面倒なのも事実だ。

 さっさと殺して証拠を出来る限り消した方が、時間を稼ぎながら逃げられる。

 なので、ラミナは旅団の予定に文句を言うつもりもない。ただ、とことん喧嘩を売る気でいることに呆れているのだ。

 

「うちは?」

 

「ラミナは潜入までだよ。ビルで競売を仕切ってる連中を殺したら、抜け出していいから。アタシ達の仕事がバレたら、マフィア側の方をお願い」

 

「了解や」

 

 マチの言葉に頷いたラミナは、着替え終えた男性陣に顔を向ける。

 

「……ウボォーとノブナガ、似合わんなぁ」

 

「ノブナガはまずそのチョンマゲやめたらどうですか?」

 

「ウボォーはサングラスかければ、まだマシになりそうだね」

 

「うるせぇな」

 

「俺だってこんな堅っ苦しいの嫌いだ」

 

 女性陣の評価にノブナガとウボォーギンは顔を顰める。

 

「まぁ、サイズは問題なさそうやな」

 

「だね」

 

「時間までまだあるぜ?」

 

「ビルに向かいながら腹ごしらえすれば、丁度いいくらいだろ」

 

「スーツは車に乗せて運ぼう。俺とマチ、ラミナでさっそくビルに侵入だ」

 

「了解」

 

「へいへい。ウボォー、ノブナガ、金渡しとくから仕事まで騒ぎ起こすなや」

 

「おう。悪ぃな」

 

 ラミナはノブナガに金が入った袋を投げ渡す。

 悪びれもなく袋を受け取って懐に仕舞うノブナガを見て、ラミナは僅かに呆れながら出かける準備をし、シャルナーク達はスーツを脱いで着替え直す。

 

 フランクリン、フェイタン、シズク。

 ウボォーギン、ノブナガ。

 シャルナーク、マチ、ラミナと3組に分かれて、動き出す。

 

 ラミナ達は車でセメタリービルの近くまで行く。

 しかし、ビルから500m以内は警戒が強いので、少し離れた所に車を停める。

 

「じゃ、行こうか」

 

 シャルナークの言葉と同時に、3人は勢いよく走り出す。

 ラミナは短刀を具現化して姿を消しながら、裏口を目指す。

 

 裏口に控えていた警備の構成員2人を素早く手刀で気絶させ、マチと共に中に入る。

 気絶させた構成員達はシャルナークがアンテナを刺して操り、1人はそのまま立たせて、もう1人を連れて中に入る。

 ラミナとマチは目に入った構成員達を素早く殺していき、シャルナークも操っている1人を利用して隙を作り、気を取られている間に素早く殺していく。

 

 地下競売中はマフィアンコミュニティーの人間のみしかセメタリービルには入れない。

 さらに地下競売の証拠を残さないために、監視カメラも使用していない。最低限のセキュリティーと信頼のみで成り立たせているのだ。

 

 そのため、警備を担当しているマフィア達は仲間が次々と死んでいることを確かめる術はなく、侵入者がいることにも気づけない。

 そこらへんの侵入者ならば、すぐに目視されて連絡が回るだろうが、相手は普通ではない。

 

 ラミナは【円】で位置を探り、【朧霞】で姿を消しているので、相手がラミナに気づいた時にはすでに殺されている。

 マチは連絡される前に念糸で縛り、首を絞めて殺していく。

 シャルナークは姿を隠した状態で操っている人間に仲間割れを演じさせ、その隙をついて殺す。

 

 念も使えないマフィアンコミュニティーの構成員達が3人に適うはずもなく、夜8時を回ってウボォーギン達が合流する頃には生き残っている者はたった1人になっていたのであった。

 

 しかし、

 

「あぁ? お宝がないぃ?」

 

 ウボォーギンはシャルナークからの報告を聞いて、眉間に皺を寄せる。

 他のメンバーも訝しむが、シャルナークやマチ、ラミナも顔を顰めている。

 

「どういうことか?」

 

「金庫が空っぽなんだ。ビルをくまなく探したけど、どこにもそれらしい物も隠し部屋もない」

 

「ってことは何か? ラミナの調べが間違ってたってことか?」

 

 ノブナガが腕を組んで言うが、シャルナークは首を横に振る。

 

「いや、それはない。ちゃんと競売をする用意自体はされてるんだ。参加予定のマフィアの情報もあるし、セキュリティーも使う準備が出来てる」

 

「けど、お宝はないんでしょ?」

 

「オークショニアを軽く尋問したんだけど、『知らない』の一点張りでさ」

 

「なら、ワタシがやるよ」

 

「ああ、頼む」

 

「で、どうすんだ? 引き上げるか?」

 

「いや、もう少し情報を集めたい。もし、これが罠ならこれから来る客も武器とかを持ってくるはずだ。それを見極めてからでも遅くはないだろう」

 

 シャルナークの方針に全員が頷く。

 

「とりあえず、フェイタン以外は予定通りに準備してくれ。シズク、屋上に気球を出して、殺した構成員達の後処理を頼む」 

 

「了解」

 

「ほな、うちは一度抜けるわ。ついでに情報を探す」

 

「頼んだ」

 

 ラミナは【朧霞】で姿を消して、セメタリービルを後にして、車で拠点に戻る。

 

 拠点に戻ったラミナは素早く半着を脱いで、紅いシャツに着替える。

 そして、情報サイトを開いて地下競売の情報を探す。

 

「……なんも載っとらんな。っちゅうことは、お宝を横取りするような連中が? けど、それにしては警備員達の動きはお粗末やった。ホンマに金庫にお宝があると思っとった感じやった。流石に誰にも気づかずに盗むのは無理や。となると……お宝動かしたんは十老頭の指示っちゅうことになる……」

 

 競売を仕切っているのは十老頭だ。なので、競売の品を移動する権限も十老頭が持っている。

 しかし、そうなると、

 

「なんで動かすような指示を出したんか……。うちらが来ることを知っとった? いや、それならあの警備は変や。ん~……どうにも対応全部が中途半端で気持ち悪いなぁ……」

 

 ラミナは顔を顰める。

 相手の行動の理由がはっきりせず、推測を立てるだけの要素もないのがどうにも不気味だ。

 

 その時、携帯が鳴る。

 確認すると、マチからのメールだった。

 

『気球にて移動開始。お宝を持ち出したのは陰獣。情報提供者がいる可能性あり』

 

 簡潔に纏められていたが、最後の情報が非常に厄介である。

 非常にラミナが疑われやすい状況にあるからだ。

 ラミナがそうでないと思っていても、念能力で操られていたり、動きを視られている可能性を否定できない。

 

「まぁ、操られとる可能性は低いとして、覗かれとるんは確かめようがないでなぁ……」

 

 操られているなら、とっくにマチ達を襲っているはずだ。

 しかし、視られているだけならば、どうしようもない。その手の能力は大抵感知できないようにしている場合が多いからである。

 

「それにしても陰獣が出しゃばって来よったか……。もうちょい後かと思っとったが……」

 

 陰獣は十老頭の懐刀だ。

 それを出したということは、最大限警戒はしていたのだろう。しかし、そうなるとやはり今回の対応が中途半端なのが気になる。

 陰獣を動かしておきながら、警備に陰獣を出していない。セメタリービルに待機させてすらいないのが、気になる。

 

「陰獣が動かすほどの事が起きるとは分かっとったが、具体的にどんな奴が来るまでは分かっとらんかった? どんなことになれば、そんなことになんねん」

 

 考えれば考える程、気持ち悪くなってくる。

 そんな中途半端な情報を十老頭が信じ、中途半端な対応を十老頭が指示をした。

 マフィアのトップがするとは思えない行動である。

 

「それだけ情報元に信頼を置いとるっちゅうことか……。どんな情報屋なんや?」

 

 ラミナは腕を組んで唸る。

 その時、再び携帯が鳴る。今度は電話のようだった。

 

「はいな」

 

『リッパー。仕事の依頼だ』 

 

「……ほぉ」

 

『依頼者はマフィアンコミュニティー。ゴルドー砂漠方面に向かう気球に乗っている連中だ。今回はマフィア連中も追ってるから、堂々と殺しに行ってもらって構わん』

 

「……気球を追えばええんやな?」

 

『そうだ』

 

「報酬は?」

 

『最低20億。その後、相手の素性が分かり次第、報酬を上げるとのことだ』

 

「ふ~ん……」

 

『悪いが、これを断るなら今後この街では依頼を出せない』

 

「おぉ、怖い事言うなぁ。へいへい、了解や」

 

 ヨークシンの仲介屋の多くはマフィアとずぶずぶな関係なので、マフィアンコミュニティーからの依頼など絶対に断れない。

 それを理解しているから、連絡を入れていたので文句はないが。

 電話を切ったラミナはパソコンを閉じて、動き出す。

 

「意外とお呼びがかかるもんやな」

 

 今回に関しては、まだマフィアと陰獣だけで動くと予測していた。しかし、どうやら地下競売に参加した者達が全員姿を消したので、マフィアンコミュニティーも焦っているようだ。

 恐らくシズクの【デメちゃん】によって、死体なども残っていないので攫われたとでも考えたのだろう。

 

 ラミナはクロロとマチに依頼が来たことをメールする。

 

 拠点を飛び出したラミナは用意してあったスポーツバイクに乗り込む。

 サングラスをかけて、エンジンを掛ける。

 数回吹かして、フルスロットルで夜の街に飛び出す。

 

 車と車の間を猛スピードですり抜け、紅い髪を靡かせながら郊外のゴルドー砂漠を目指す。

 

「さぁて、殺されんようにせんとなぁ」

 

 

 

 

 その頃、ゴルドー砂漠。

 

「うわあああ!?」

 

「ひいいい!?」

 

「はっはぁ!! オラオラ、どうしたぁ!!」

 

 ウボォーギンがマフィア数十人相手に、たった1人で暴れ回っていた。

 マフィア達は拳銃を発砲するが、【練】で体を強化したウボォーギンの体には掠り傷すら付けられず、素手で人間を引き千切って行く。

 

 その様子を、マチ達は高台の上に座って見下ろしていた。

 

「ゴリラ対アリだな」

 

「ただの銃でウボォーの体に傷なんか付けれるかよ」

 

「肉体の強さは旅団1ね」

 

「まだまだ来るよ」

 

「ご苦労なことだね」

 

 シズクとマチは次々とやって来るマフィアの車を眺める。

 次々と停まっては、拳銃を持って降りてくるマフィア達。

 

 ウボォーギンはそれをつまらなげに眺めていた。

 足元には人だったものの残骸が転がっている。

 

「ふん。これじゃ陰獣やラミナが現れるまでの準備運動にもならんぜ」

 

 その時、ウボォーギンの耳に風が切る音が聞こえてきた。

 直後、額と胸元に衝撃を感じた。

 

「つっ!! って~~。ライフルか? こそこそ狙いやがって……」

 

 スナイパーライフルですら血も流さない。

 その事実にマフィアやスナイパーは目を見開いて固まる。

 

「あそこか……。ムカつく奴らだ」

 

 ウボォーギンは数百メートル離れている岩場に目を向けて、石を拾い上げる。

 そして、その岩場を目掛けて、全力でその石を2回連続で投げる。

 

 ウボォーギンの眼には、腹と顔が吹き飛んで死ぬ2人のスナイパーを捉える。

 

「お~し!! 大命中!!」

 

「そこまでだ、バケモンが!!」

 

「ん?」

 

 大柄の男がバズーカ砲を抱えて、ウボォーギンに叫ぶ。

 

「戦車も一発でおしゃかにしちまうスーパーバズーカ砲だぜ!! コナゴナになれや!!」

 

「……悲しいぜ。俺はたかが戦車と同じ評価かよ」

 

 ウボォーギンは冷めた顔で右手をまっすぐに突き出す。

 その直後、バズーカ砲が発射され、ウボォーギンに直撃して爆発を起こす。

 

 直撃したことにマフィア達は勝利を確信して笑みを浮かべる。

 ウボォーギンを倒したところで、まだフランクリン達が控えているのだが。

 しかし、

 

「……流石にかなり痛ぇな」

 

 死ぬどころか、血すらも流れていないウボォーギン。

 上半身の服は流石に消し飛んでいるが、それだけだった。

 

『うわあああああ!?』

 

 バズーカ砲ですら無傷で耐えきった事実に、マフィア達は完全に心が折れて恐怖に叫びながら逃げ出す。

 しかし、ウボォーギンが飛び出して、誰一人、車に乗り込むことすら出来ずに引き千切られ、叩き潰され、抉られて死んでいく。

 

「もう終わっちまうな」

 

「どうするの? このまま待つの?」

 

 ノブナガが退屈そうに言い、シズクはマチ、フランクリン、シャルナークとトランプしながら尋ねる。

 その時、フェイタンがウボォーギンから視線を外して、遠くの岩場を見る。

 

「……来たよ。どうやら退屈せずに済みそうね」

 

 

 

 

 ウボォーギンがバズーカを受け止めたのと同時に、クラピカも現場に到着する。

 車を降りて、双眼鏡で戦場を見たクラピカは目に映った光景に慄くしかなかった。

 

「……敵も……念の使い手だ。それも……桁外れに強い……!!」

 

「なっ!?」

 

「先に来た連中は全滅だな。銃器では歯が立たないらしい」

 

 クラピカはそう言いながら、隣にいる護衛団リーダーのダルツォルネに双眼鏡を渡す。

 双眼鏡を覗き込んだダルツォルネは、ウボォーギンが生み出した光景と、その実力を見て同じく慄く。

 他の者達も双眼鏡で現場を見て、顔から血の気が引く。

 

「一体……何モンだ、ありゃあ……」

 

「ひ、人を素手で紙屑のように引き千切ってるぞ!? あれを捕まえる!? 冗談じゃねぇぞ!!」

 

「俺もだな。到底勝てる気がしねぇ」

 

「っ!! 待って!!」

 

 クラピカの仲間達がウボォーギンの実力に怖気づいていた時、小柄で出っ歯の人物、センリツが耳に手を当てて、すぐ近くの岩場に目を向ける。

 

「どうした?」

 

「バイク……。バイクの音がすぐ上を走ってるわ。あそこに向かってる!」

 

「バイクだと!?」

 

 クラピカ達はセンリツの言葉に、驚きながら目を向ける。

 

 その直後、岩場の上からバイクが飛び出し、ウボォーギンがいる戦場に飛び出す。

 

「あ?」

 

 ウボォーギンも目を向ける。

 その時、バイクから何かが飛来するのが見え、ウボォーギンが目を凝らす。

 

 直後、飛来するモノが発火して、炎の円盤となってウボォーギンに飛び迫る。

 

「っ!! うお!」

 

 ウボォーギンは驚いて反射的に横に跳んで避ける。

 真横を炎の円盤が通り過ぎて、ブーメランのようにバイクの下へ戻って行く。

 

 バイクは後輪から着地し、軽くスリップしながらも猛スピードでウボォーギンの横を通り過ぎる。

 

 ウボォーギンの目に、紅い髪が映る。

 それを見たウボォーギンはニイィ!と獰猛な笑みを浮かべる。

 

 バイクはウィリーをして、そのままマチ達がいる岩壁を登る。

 

 マチ達の目の前を飛び上がっていくバイク。

 マチ達はバイクに跨るラミナを見て、軽く手を上げる。

 

 ラミナも左手で返事をして、空中で方向転換しながら再び岩壁を下っていく。地面に下りる直前でウィリーをして、岩壁から飛び上がり着地する。

 

 スライディングしながら停まろうとするバイクから、再び何かが投擲され、ウボォーギンは拳で払おうとする。

 

 すると、突如目の前に右拳を構えたラミナが現れた。

 

「っ!!」

 

「ぶっ飛べやあぁ!!!」

 

 ウボォーギンは振り払おうとした右腕で、ラミナの右ストレートを受け止める。

 ウボォーギンは1mほど後ろに下がるが、

 

「オラァ!!」

 

 無理矢理腰を捻って左フックを放ち、ラミナは上半身を大きく仰け反らして躱す。

 そして、そのまま数回バク転し、ウボォーギンから距離を取る。

 

「イッツ~……! 相変わらずカッタイやっちゃなぁ~」

 

「遅かったじゃねぇかよぉ。ラミナァ……!」

 

 ラミナは右手をプラプラと振って、ウボォーギンは拳を鳴らして笑みを浮かべる。

 ラミナの左手には圏が握られていた。

 

「ウボォー対ラミナか」

 

「お手並み拝見ね」

 

「お~い。殺しちゃ駄目だからな~」

 

「さて、どうなるかね」

 

 ノブナガが楽しそうに顎を擦り、フェイタンも頷く。

 シャルナークがウボォーギンに声を掛け、マチも腕を組んで観戦モードになる。

 

 クラピカも双眼鏡を覗いて、誰が現れたのかを理解する。

 

「ラミナ……!?」

 

「だ、誰だ?」

 

「殺し屋だ。私と同期のプロハンターでもある」

 

「殺し屋か……。マフィアンコミュニティーに雇われたんだろう」

 

「おいおい、1人でやるつもりか……!?」

 

(確かにいくら何でも無茶だ。ラミナがそれを見抜けないわけがない。一体どういうつもりだ……?)

 

 クラピカは眉間に皺を寄せて、ラミナがどうするのかを注視するのであった。

 

 

 ラミナは周囲を見渡して、マフィアの死体が散らばっている凄惨な現場に呆れ顔を浮かべる。

 

「相変わらず猛獣みたいな戦い方しよるなぁ。バズーカ砲を片手で受け止めるとか、ようするわ」

 

「はっ! 俺がまどろっこしい戦い方が出来ると思ってんのかよ?」

 

「思てへん」

 

 ラミナは右手にバトルアックスを具現化する。

 

「それで俺と戦うつもりか?」

 

「おう。この2つともう1つ。……退屈はさせんと思うで?」

 

「……へぇ。そりゃあ……楽しみだぜぇ!!」

 

 ウボォーギンは初めて構えを見せる。

 

 ラミナもバトルアックスを肩に担ぎ、半身になって圏を突き出す形で構える。

 

 その瞬間、ピイィンと空気が張り詰める。

 

 

「久しぶりに遊ぼうや。ウボォー兄」

 

 

「遠慮なく来な。ラミナァ!!」

 

 

 直後、2人は同時に飛び出す。

 

 兄妹の物騒で過激な戯れが始まった。

 

 


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