暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

38 / 153
#38 ケイアイ×ナル×イチゲキ

 同時に飛び出したラミナとウボォーギン。

 

 ウボォーギンが右腕を引き絞った瞬間、ラミナはバトルアックスを消しながら屈んで、右足払いを繰り出す。

 

「甘ぇ!!」

 

 ウボォーギンは左足を滑らせるように前に出して、オーラを集中する。

 その瞬間、ラミナは右足を止めて、左脚だけで飛び上がり、左手の圏で殴りかかる。

 ウボォーギンは素早く右フックを放ち、圏に拳をぶつける。

 

ガアァン!!

 

 ぶつかり合った瞬間、衝撃が弾けて、ウボォーギンは2mほど滑り下がり、ラミナは3mほど跳び下がる。

 

「へぇ! やるじゃねぇか!」

 

「全然オーラを籠めてないとはいえ、ウボォーの拳を受け止めるとはな」

 

「あの武器の能力かな?」

 

「多分ね」

 

 ノブナガとフランクリンが感心の声を上げ、シズクとマチはラミナの能力を推察する。

 

 ラミナは圏に目を向ける。

 

(ふぅ……あの程度なら大丈夫か。けど、そう何度もぶつけ合わせるんは無理やな)

 

 圏が砕けなかったことにホッとするも、今の拳は全く本気ではないので油断は出来ないラミナ。

 

「やるじゃねぇか。その武器の能力かよ?」

 

「さぁなぁ」

 

「ま……別に言わなくてもいいけどよ!!」

 

 ウボォーギンが再びラミナに猛スピードで迫り、右ストレートを振り抜く。

 それをラミナはすり抜けるように紙一重で躱してウボォーギンの背後に回り、ウボォーギンの背中に右肘を叩き込む。

 

「ぐっ! おお!!」

 

 ウボォーギンは僅かに前につんのめるも、すぐさま振り抜いた右腕でそのまま裏拳を繰り出す。

 ラミナは跳び上がって、ウボォーギンの右肩に右手を乗せて逆立ちして躱す。そして、左脚を振り下ろして、ウボォーギンの後頭部を蹴り飛ばす。

 

「がっ!」

 

 再びウボォーギンは前のめる。

 ラミナは着地するも、無理をせずに一度距離を取る。

 

「っつぅ……!」

 

(やっぱ頑丈さが半端やないな。攻撃したところがめっさ痛いわ~。【意地を貫く拳(ビグテッド・ナックル)】やないと、防御する気にもならん)

 

 ラミナは顔を顰めて、左足をプラプラと揺らす。

 

 【意地を貫く拳(ビグテッド・ナックル)】は『ラミナの体を強化する』能力である。

 ラミナは普段は具現化系なので、強化系は最大60%しか極められない。

 

 【意地を貫く拳(ビグテッド・ナックル)】はそれを最大80%まで引き上げることが出来る。

 それでも十分だと思っていたが、ウボォーギンを相手にするには全然足りなかったようだ。

 

「すばしっこいだけじゃあ、俺には勝てんぜ? 残りの武器、さっさと出せよ」

 

 ウボォーギンは首を鳴らしながら、ラミナを挑発する。

 ラミナは肩を竦めて、再び構える。

 

 ウボォーギンは鼻で笑うも、その顔は蔑みの色はなく純粋に楽しんでいるだけである。

 ノブナガは闘いを見下ろしながら、

 

「動きはいいけど、パワー不足だな」

 

「ウボォー相手じゃ、しょうがねぇだろ」

 

 フランクリンが呆れながら、ノブナガに言う。

 

「それにしても陰獣まだ来ないのかな?」

 

「全くだね。このままじゃ落としどころが難しくなるよ」

 

 シズクとマチは僅かに眉間に皺を寄せて、陰獣の到着を待つ。

 しかし、あまりに長引くとウボォーギンとラミナの戦いを止めるきっかけを作り辛くなる。

 

 マチ達がそう考えていると、ウボォーギンが再びラミナに殴りかかる。

 ラミナは今度は動かずに【堅】を発動して、ウボォーギンの動きを注視する。

 

 ウボォーギンは構わずに左ストレートを繰り出す。

 ラミナは再び紙一重で躱すが、今度は反転しながらウボォーギンの懐に潜り込む。

 

「!!」

 

 ラミナは伸びきったウボォーギンの左腕を抱えて、一本背負いを放つ。

 そして、ウボォーギンが空中で逆立ちした瞬間、ラミナは腕を放して猛スピードで前方に駆け出し、ウボォーギンの背後に回り込む。

 

 ウボォーギンの大きな背中にラッシュを叩き込んだ。

 

 ウボォーギンは逆立ちしたまま吹き飛んでいく。

 

バキン!!

 

 ラミナの圏が粉々に砕け散る。

 ウボォーギンは空中で体勢を直して、倒れることなく着地する。

 

「はっはぁ!! やるじゃねぇか! ちょっと驚いたぜ! 【堅】を使わねぇと危なかったかもな!」

 

「こんのバケモン……!」

 

 ラミナは盛大に顔を顰めて、バトルアックスを具現化する。

 それにウボォーギンが笑みを深めて、右足を踏み出そうとした時、ラミナ達は近づいてくる気配を感じた。

 

 目を向けると、歯が鋭い細身の男、坊主頭の小柄の男、そして、小太りの男が歩み寄ってきた。

 

「ようやく来よったか……」

 

「陰獣か」

 

 ウボォーギンは陰獣に向く。

 

「競売品をどこにやった?」

 

「警備と客はどうした?」

 

「殺した。競売品は? 言わねぇと――」

 

 その時、ウボォーギンは背後から殺気を感じた。

 ウボォーギンが振り返った直後、左頬に衝撃を感じる。

 そこにはパンツ1枚の長身の男が右腕を振り抜いていた。

 

(地中から!?)

 

 ラミナも3人組の方に意識を向けていたので、男の出現に気づくのが遅れた。

 陰獣の3人もウボォーギンが殴られた瞬間、走り出す。

 ラミナはそれを確認した瞬間、意識を切り替えて離れるふりをして、3人の背後に回り込む。

 

 ウボォーギンは僅かに仰け反るも、倒れることなく堪える。

 ウボォーギンを殴った陰獣、蚯蚓は殴った右手の指が変な方向に折れ曲がっていることに僅かに目を見開く。

 

「効いたぜ」

 

 お返しとばかりに、ウボォーギンが蚯蚓の右頬に拳を叩き込む。

 蚯蚓は右頬が窪み、右目が飛び出す。

 

 しかし、指が折れ曲がった右手でウボォーギンの左腕を掴む。

 

「おっ」

 

 すると、蚯蚓は倒れ込むように頭から地面へと潜り始め、ウボォーギンを地面へと引っ張り込む。

 

「お? おお!?」

 

 想像以上のパワーにウボォーギンも地面に倒れ込み、左腕は完全に地中へと沈む。

 

「くくく。もう逃げられねぇ……。さぁ、選びな。地中で俺に殺されるか!? 地上で3人に殺されるか!?」

 

 地中に引っ張り込まれるウボォーギンの背後から陰獣3人が飛び掛かる。

 

「馬鹿が!! 逃げられねぇのはテメェだぁ!!」

 

 ウボォーギンはオーラを強めて、右拳にオーラを籠める。

 

「げっ!?」

 

「おい、ウボォーも本気だ」

 

 ラミナは慌てて後ろに下がり、ノブナガ達も衝撃に備える。

 

 

「【超破壊拳(ビッグバンインパクト)】!!」

 

 

 ウボォーギンは右ストレートを地面に叩き込む。

 

 地面に巨大なクレーターが生まれ、大地を大きく揺らす。

 

 陰獣3人はギリギリで飛び上がって躱し、蚯蚓は粉々に吹き飛んだようで姿は見えない。

 

「っひゃ~……。相変わらず意味分からん威力やなぁ」

 

 ラミナはウボォーギンの【硬】の威力に呆れる。

 

「それにしても……せっかく楽しんどったのに、邪魔されたんちょ~っとムカツクなぁ……」

 

 ラミナは陰獣3人の背中に苛立ちを感じた。仕事の演技で、互いに本気ではなかったとはいえ、せっかく楽しんでたところを断りもなく横取りされたことに見下されているようで気分が悪かった。

 

「……まだ陰獣は残っとるし、あれらはええか……」

 

 ラミナはゆっくりと歩き始める。

 

 そんなラミナに気づくことなく、陰獣3人はウボォーギンの背中に見えたクモの刺青を見て、顔つきを変える。

 

「さぁ、次は誰が死ぬ?」

 

「幻影旅団か……」

 

「調子乗ってるな、こいつ。うん」

 

「死ぬのは……テメェだよ!!」

 

 陰獣3人は一斉に飛び掛かる。

 ウボォーギンは笑みを深めて、構える。

 

「いいねぇ!! 命知らずで好きだぜ、お前ら!!」

 

 陰獣はウボォーギンを囲むように広がろうとするが、

 

「っ!!? 豪猪! 蛭! 後ろだ!!」

 

「「!!」」

 

 鋭い歯を持つ陰獣、病犬が目を見開いて叫び、ウボォーギンも僅かに目を見開く。

 その声に豪猪と蛭は顔だけで背後を振り返る。

 

 そこには、バトルアックスを両手で振り上げているラミナがいた。

 

 バトルアックスには膨大なオーラが注ぎ込まれており、刃の部分が淡く輝いていた。

 

 

「【敬愛する(ビッグバン)――」

 

 

 ラミナは両腕に力を込めて、豪猪と蛭の間に全力で振り下ろす。

 

 

「――兄の剛腕(インパクト)】ォ!!!!」

 

 

 地面にバトルアックスが叩き込まれた瞬間、オーラが爆発するように吹き荒れてバトルアックスは粉々に砕ける。そして、クレーターを更に広げて、再び大地を揺らす。

 

 真横で衝撃を浴びた豪猪と蛭は、一瞬で体をバラバラにして吹き飛び、病犬とウボォーギンは腕で体を庇いながら後ろに跳び下がって衝撃を耐える。

 

「おいおい……! マジかよ……!?」

 

「本当にウボォーの【超破壊拳】に敗けてないね」

 

「こりゃ、驚いたな」

 

 ノブナガ、フェイタン、フランクリンも目を見開いて、ラミナの一撃に驚く。

 マチ達も目を見開いて驚いている。

 

「うちのこと無視すんなや……えぇ!? ウボォー!!」

 

「くくっ! はははははっ!! スゲェじゃねぇか!! いいぜ、来いやぁ!!」

 

 ラミナは新しく具現化したバトルアックスを再び振り上げて、ウボォーギンに攻めかかる。

 ウボォーギンも完全にラミナに標的を変えて、拳を構えて殴りかかる。

 

 しかし、またもや邪魔が入る。

 

 病犬が横から飛び込んできて、ウボォーギンの右肩の肉を噛み千切る。

 

「てめっ!」

 

「はっ! 隙を見せるテメェが悪いんだよ!」

 

 ペッ!と噛み千切った肉を吐き捨てながら、病犬は言う。

 しかし、

 

「邪魔するお前が悪いに決まっとるやろ」

 

「がっ!!」

 

 ラミナが一瞬で病犬の背後に回り、後頭部に拳を叩き込む。

 病犬は顔から地面に倒れ込む。

 ラミナは全力で跳び上がり、岩壁を駆け上がる。マチ達がいる場所まで上がって、そこから更に高く跳び上がる。

 

 そのラミナは右手にガンブレードを具現化する。

 そして、体を捻って銃口がある切っ先を、病犬とウボォーギンに向ける。

 

 

「【敬愛する(ビックバン)――」

 

 

 ラミナは呟きながら、ガンブレードにオーラを籠めていく。

 

 

「――兄の咆哮(ハウリング)】!!!」

 

 

ドッッバァン!!

 

 

 巨大な念弾がガンブレードから放たれる。

 

 発射の反動でガンブレードが砕け、ラミナは腕が跳ね上がり後ろに吹き飛んでいく。

 ウボォーギンは目を見開いて大きく後ろに跳び下がるが、病犬はダメージが抜けきれずにラミナの砲撃の範囲から抜け出すのが間に合わなかった。

 

 病犬は跡形もなく吹き飛んで、地面に3つ目のクレーターが出現する。

 

 マチ達は爆風を腕で庇う。

 

「ヒュー♪ こりゃ、マジでスゲェな!」

 

「凄いけど、ちょっとやり過ぎ」

 

「陰獣死んじゃったね」

 

「まぁ、あいつらは競売品盗んだ奴じゃないみたいだし、問題ないでしょ」

 

「ウボォーの奴、生きてるか?」

 

「あそこいるよ」

 

 ノブナガが口笛を吹き、マチが目の前の光景に呆れる。

 シズクが肉片に変わった陰獣を見ながら言い、シャルナークは腰に両手を当てて特に困った様子も見せずに言う。

 フランクリンがウボォーギンを探し、フェイタンが指をさす。

 

 ウボォーギンは何故か尻餅をついて座り込んでいた。

 

「どうしたの?」

 

「腰でも抜けたのかぁ?」

 

「まっさかぁ!」

 

 シズクが首を傾げ、ノブナガが冗談を言い、シャルナークが笑う。

 フランクリンがウボォーギンに声を掛ける。

 

「どうしたー?」

 

「急に体が動かなくなった! 首から上は動くんだけどよ!」

 

「ラミナの能力?」

 

「いや、そんな能力には見えなかったから、多分あの陰獣の仕業じゃないか?」

 

「で、ラミナは?」

 

「ラミナもあそこで寝転んでるね」

 

 ラミナも少し離れているところで、大の字で倒れていた。

 

「どうしたのかな?」

 

「オーラを使い過ぎたんじゃねぇか? デカいの2発も使ったしな。強化系と放出系の能力なんて、あいつに不向きなはずだし」

 

「【円】は上手いのにね。それ以外は典型的な具現化系だから」

 

 フランクリンとマチが少し呆れながら、ラミナを見つめる。

 シャルナークがウボォーギンの傍に下りて、体を調べ始める。

 

「触られてる感触は?」

 

「あるぜ」

 

「ってことは……神経毒かもね。シズクの能力なら吸えるはずだよ。問題ない」

 

「助かるぜ。おーい! シズク! 毒、吸い出してくれ!」

 

「今、行く!」

 

 シズクが岩場から滑り降り始める。

 

 ラミナはゆっくりと体を起こし、立ち上がっていた。

 

「ふぅ~……しんど~……。やっぱオーラを爆食いするなぁ」

 

 ラミナは息を整えて、汗を拭う。

 とりあえず、今のうちに逃げたことにしようと考えて、動こうとした時、

 

「うおお!?」

 

「あ?」

 

 ウボォーギンの声が聞こえて目を向ける。

 すると、ウボォーギンの上半身に鎖が巻き付かれて、引っ張り上げられていた。

 

「はぁ!?」

 

 ラミナは目を見開いて、ウボォーギンを見送ってしまう。

 シャルナーク達もあっという間に攫われたウボォーギンを助けることは出来なかった。

 

「見えたか?」

 

「うん。一瞬にして鎖が巻き付いて……」

 

「ウボォーはまだ毒で体が動かせねぇしな」

 

 シズクの隣にノブナガが下り立ちながら腕を組む。

 フェイタン達も下りてきて、シャルナークの周囲に集まる。

 

 ラミナも気だるげに歩み寄る。

 

「ウボォーはどうかしたんか? あっさりと攫われよったけど」

 

「陰獣の神経毒みたいだぜ」

 

「……はぁ。ったく……で、どうするんや?」

 

「今ならまだ行き先が分かるよ。針を刺しておいたから、【凝】とかで見破られない限りは追跡できる」

 

 マチが指から糸状のオーラを伸ばしながら言う。

 

「しょうがない。助けに行くか」

 

 シャルナークが立ち上がり、ノブナガ達は肩を竦める。

 ラミナはため息を吐いて、腕を組む。

 

「うちは一度街に戻るわ。依頼失敗を連絡せなあかんし、どこがウボォーを攫ったんか調べとく」

 

「分かった」

 

「フラン。お前も一度アジトに戻れ。お前の図体じゃ車に乗れねぇしよ」

 

「しょうがねぇな」

 

「じゃ、急ぐか」

 

 ラミナとフランクリンを残して、マチ達はマフィアの車に乗り込んで猛スピードで走り出す。

 

 ラミナもフランクリンと別れて、転がっていたバイクを起こして拠点を目指して走り出す。

 走りながら携帯を取り出して、連絡をしてきた仲介屋に電話をかける。

 

『……終わったか?』

 

「あかん。失敗っちゅうか無理」

 

『……なに?』

 

「幻影旅団やったわ」

 

『幻影旅団だと……!?』

 

「クモの刺青があったし、マフィアは全滅。陰獣4人も一方的に殺された。流石に1人で6人も相手に出来ん」

 

『陰獣もか!?』

 

「たった1人に殺されたわ。そいつの相手をしながら、他の5人にまで注意なんぞ流石に出来ん」

 

『……そこまでか』

 

「お前、バズーカ砲を無傷で受け止める相手やぞ」

 

『……分かった。今回の依頼は取り下げる。しかし、マフィアンコミュニティーにもすぐに連絡が行くだろう。また依頼が出る可能性はあるぞ』

 

「他にも手練れがこっちにおるんやったらええけどな。1人やったら断る」

 

『分かってる。とりあえず、しばらくは待機しててくれ』

 

「へいへい」

 

 通話を終えて、しばらくバイクを走らせると、再び携帯が鳴る。

 確認すると、クロロからのメールだった。

 

『ヒソカが動いた。誰かと会うらしい』

 

「マジかい……。ああ、クソ! 次から次へと!」

 

 ラミナは吐き捨てながらバイクを飛ばし、猛スピードで拠点に戻る。

 部屋に入ったラミナは汚れた服を脱ぎ捨てて、パソコンを起動する。

 

「ヒソカが監視カメラなんぞに映る場所を選ぶとは思えんし、クラピカはどこにおるかも分からん。くっそ~」

 

 頭を掻きながら眉間に皺を寄せる。

 ラミナは地図を取り出して広げる。

 

「監視カメラが無くて人気がないところ、と考えるべきか? けど、旅団が使っとるアジト周辺は避けるはず……。そうなると……」

 

 スラムやバー、ホテルなども避けるだろう。特にクラピカがそれを望む筈。

 無関係な人間を巻き込むリスクや下手に情報が聞かれることを出来る限り避けるはずだ。

 

 なので、考えられるのは廃墟か郊外の荒野や砂漠。

 

「……荒野と砂漠方面は移動するには目立つ。しかも今はうちらが暴れたばっかやし、マフィア共がウヨウヨしとる可能性がある」

 

 ということは、廃墟の可能性が高い。

 廃墟ならば、人が近づけばすぐに察知できる可能性があるからだ。

 

 旅団アジトとは異なる廃墟で、移動にあまり手間や時間がかからない場所を調べて行く。

 そして、見つけたのは、

 

「……潰れた遊園地」

 

 郊外にある廃遊園地。

 周囲は山で囲まれており、住宅街からも離れている。

 他に人が近寄るような場所はない。密談には最適だ。

 

「他にもいくつかあるが……。一番はここやな。他に手がかりもないし、行くしかない、か……」

 

 目的地を決めたラミナは、マフィアンコミュニティーの情報を集める。

 

「……ん? ウボォーの情報がない? 陰獣が出撃した情報まではある。しかも、全員……」

 

 ラミナは携帯を手にして、マチに電話を掛ける。

 

『ラミナか?』

 

「ん? フェイ? マチ姉は?」

 

『今、お宝を隠した陰獣を縛てるね』

 

「ああ、なるほど。っちゅうことは、ウボォーも見つけたんか?」

 

『いや、ウボォーを攫たの、陰獣じゃないね。陰獣、縛てる奴以外全員殺したよ』

 

「……陰獣やない? つまりマフィアか?」

 

『かもね。とりあえず、一度アジトに戻るよ』

 

「了解や。ついでにシャルに、渡した資料の中にマフィアンコミュニティーの連絡中継所の場所も書いとるって伝えといてんか? 多分、マフィアなら、そこに連絡が行くはずや」

 

『分かた』

 

「ほな」

 

 ラミナは電話を切って、新しい服を手に取って着替える。

 

「うし。これでウボォーの事はシャルに任せればええか。うちはヒソカに専念しよか」

 

 ラミナは再びバイクに乗って、遊園地の近くに向かう。

 バイクを停めて、短刀を具現化する。

 

 姿を消して、音を出さないように細心の注意を払って廃遊園地に足を進める。

 廃遊園地内の見晴らしが良い場所を探して登り、園内を見渡す。

 

(……おった)

 

 メリーゴーランドのところにヒソカがいた。

 ラミナは場所を変えて、話が聞こえ、かつ視界の端でヒソカ達の姿が捉えられるであろう場所を見つける。

 

(後は待つのみ。根比べ、やな)

 

 ラミナは座って目を瞑り、クラピカが現れるまで待つことにしたのだった。

 

 

 

 

 そして、3時間ほど経過した頃。

 

(……来た、か)

 

 ラミナは目を開ける。

 意識と耳だけヒソカがいる方に向ける。

 

 ヒソカの前で足音と気配が止まる。

 

「早かったね♥」

 

 ヒソカがクラピカに声を掛ける。

 しかし、クラピカは黙って何も答えない。

 

「安心しなよ♣ 今、君と戦る気はないから♦」

 

「無駄話はしたくない。早速お前達の事を教えてもらおう」

 

「そうかい? それじゃあ……クモは構成員13名で、その証はナンバー入りのクモのタトゥー♠」

 

 ヒソカはよく知られている旅団の情報を話し始める。

 その時点でヒソカが裏切り者と判断するには十分だったが、最後まで聞くことにした。

 

(……クラピカの姿をしっかり捉えときたいんやけどなぁ。この距離やと流石に視線でバレてまうか……)

 

 クラピカであることは間違いないのだが、オーラの質や実力を見極めるには視界の端に映っている程度では難しい。

 ラミナは今、クラピカの左側にある瓦礫の陰に隠れている。

 【朧霞】で姿がバレることはないだろうが、【円】や能力で見つかる可能性があるので下手に動けない。さらにヒソカやクラピカならば視線を感じ取ることくらい出来るだろう。全く人がいない状況では、特に敏感になっているはずだ。

 

「僕も2,3年前に4番の男と交代で入った♦ 目的は団長と戦うことなんだが、ガードが固くてね♠ 常に最低2人は団長の傍にいる♣ そして一度仕事が終わると姿を消して、手掛かりすら掴めなくなる♦ そこでお互いへの結論だが、1人では目標達成が困難じゃないか?」

 

「……何が言いたい?」

 

「団員の能力を教えようか? 僕が知ってるのは7人だけだがね♥ 僕と組まないか?」

 

(……決定)

 

 ラミナは必死に殺気を抑え込む。

 

「さぁ、どうする? 僕と組むか♥ 1人でやるか♠」

 

 ヒソカが決断を促す。

 クラピカは黙っていたが、その時クラピカのポケットから携帯が鳴る音が響く。

 

 ヒソカが許可を出し、クラピカが電話に出る。

 

「私だ。……何!? 奴が!? 自力でか?」

 

 クラピカは驚きの声を上げる。

 

 ラミナは話の内容を聞き逃すまいと集中する。

 しかし、そこでクラピカは通話を終える。

 

「……ヒソカ、1つ聞く。緋の眼の行方を知っているか?」

 

「……残念だが僕が入る前のことだ♠ 団長は獲物を一頻り愛でると全て売り払う♣ 緋の眼も例外ではないはずだ♦」

 

「そうか……」

 

「組むかと聞いたが一蓮托生ってわけじゃない♣ 情報交換を基本としたギブアンドテイクだ♥ 互いの条件が合わなければ、それ以上の協力は無理強いなし♦ 気楽だろ? ……返答は?」

 

「………明日また同じ時間に」

 

 そう言ってクラピカは歩き去っていく。

 ラミナも素早く移動して、クラピカの後をつける。

 

(……警戒心強いなぁ。やっぱ視線は向けられへん)

 

 クラピカとの距離は40mほど。

 ヒソカと会ったばかりだからか、常に周囲を警戒している。これ以上意識を向けるとバレかねない。

 

(けど、立ち振る舞いはハンター試験の頃とは比べモンにならんな。……旅団が関わっとるからか?)

 

 想像以上に厄介そうになっているクラピカに内心ため息を吐く。

 もう少し人がいるところに移動してほしかったが、その前にクラピカは車に乗り込んで走り出してしまう。

 

「……マジか~い」

 

 ラミナは能力を解除して、ため息を吐く。

 バイクを置いている場所は、かなり離れている。流石に追いかけるのは難しい。

 

「くっそ~……。結局実力を見極める暇なかったな~……」

 

 マフィアに属していそうではあるが、具体的な組の情報はなかった。

 先ほどの電話がヒントになりそうだが、そこまで細かい情報は聞こえなかった。

 

「まぁ、しゃあないか……。とりあえず、ヒソカがアウトってことが分かっただけでも御の字やな……」

 

 ラミナはため息を吐きながら、携帯の電源を入れる。

 すると、マチからの着信履歴が数件残っていた。

 

 ラミナはすかさずマチに電話を掛ける。

 

『ラミナ?』

 

「すまんすまん。ちょいと調べもんでな」

 

『ふぅん。まぁ、いいけど』

 

「で?」

 

『お宝は手に入ったし、ウボォーは助け出した。ノストラードファミリーってところ』

 

「……ノストラード?」

 

 ラミナはその名前に聞き覚えがあった。

 

『知ってんの?』

 

「ん~………あぁ、思い出した。占い娘の組か」

 

『占い娘?』

 

「組長の娘でな。めっちゃ占いが当たるらしいで? 十老頭とかにもファンがおるとか聞いたことあるわ」

 

『ふぅん』

 

「で、鎖の使い手は?」

 

『いや、逃げられた。ウボォーの馬鹿が大声出したから』

 

「何してん」

 

『でさ、ウボォーの奴が『鎖野郎とケリをつけるまで戻らねぇ』って言い出してさ。シャルが手伝いに行った』

 

「ふぅん……。ちょいと顔出してみるわ」

 

『大丈夫だと思うけどね。あんたも少しは休みなよ』

 

「へいへい」

 

 ラミナは苦笑しながら通話を終え、シャルナークに電話を掛ける。

 

 そして、ウボォーギン達がいる場所を聞き出して、向かうことにするのだった。

 

 

___________________________

ラミナの新武器!

 

・【意地を貫く拳(ビグテッド・ナックル)

 具現化した圏に付与された能力。

 

 ラミナの身体能力を強化する強化系能力。

 強化系の資質の上限を最大80%まで上げることが出来る。

 

 制約が『武器を握っている時のみ強化できる』『効果の重複は出来ない』の2つだけなので、そこまで能力は高くならなかった。

 

 それでもラミナの素の身体能力が高いので、大抵の相手にはこれで十分なのである。

 

 

・【敬愛する兄の剛腕(ビックバンインパクト)

 具現化したバトルアックスに付与された能力。

 

 ラミナ奥の手の1つ。

 

 ウボォーギンの【超破壊拳】を参考にした能力。

 オーラを武器に籠めて、強力な一撃を放つ。

 

 『一回の使用にオーラ総量の半分を消費する』『一度使うと必ず砕けてしまう』『発動時はこの武器しか具現化できない』が制約。

 

 

・【敬愛する兄の咆哮(ビックバンハウリング)

 具現化したガンブレードに付与された能力。

 

 ラミナ奥の手の1つ。

 

 ウボォーギンの【超破壊拳】の放出系版を参考にした能力。

 オーラを武器に籠めて、強力な念弾を放つ。

 

 制約は上記の3つと同じ。

 

 




先に言っておきますが、旅団全員分の武器はありませんw
真似不可能な能力がたくさんありますからね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。