暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#39 オウモノ×ト×オワレルモノ

 ラミナはウボォーギンとシャルナークがいる隠れ家に顔を出した。

 

「見っけたんか?」

 

「いや、構成員リストには奴の顔は載ってなかった」

 

 ウボォーギンは苛立たし気に顔を顰めながら答える。

 ラミナはシャルナークが表示した構成員リストを覗き込む。

 

「……ふぅん。あれだけの念使いが顔も出とらんの?」

 

「けど、鎖野郎と一緒にいた連中の顔写真はあったよ」

 

 シャルナークに渡された紙には、ダルツォルネを始めとする5人の顔写真が載っていた。

 ラミナは記されている情報を見て、眉を顰める。

 

「組長の娘のボディーガード?」

 

「そ。なんで娘のボディーガードがあそこにいたのか分からないけどね」

 

「この娘はマフィアじゃ有名な占い師らしいで。十老頭にもファンがおったはずや」

 

「占い?」

 

「ああ。でや、今回のセメタリービルの変な対応。それが、もしこの娘の占いによるもんやったとしたら?」

 

 ラミナの言葉にシャルナークとウボォーギンは、すぐに言いたいことが理解出来た。

 

「やっぱ俺達の中に裏切り者はいなかったってわけだ」

 

「だね」

 

(マフィアに売る奴は、やけどな)

 

「まぁ、とりあえず、言いたいんはこの娘の占いがどこまで予知できるんかってことや。陰獣全滅の事を考えれば微妙な感じやけど、そこの娘のボディーガードしとる連中が誰一人占いされとらんっちゅうんも考えにくいでな」

 

「確かにね」

 

「関係ねぇよ」

 

 ウボォーギンはラミナ達の懸念を切って捨てる。

 ウボォーギンは不敵な笑みを浮かべて、扉に向かう。

 

「1人でええんか?」

 

「おう、問題ねぇ。これは俺の我儘だからな。お前らにまで迷惑をかけられねぇよ。お前らは団長の仕事の手伝いがあんだろ? お前ら2人をずっと付き合わしちまえば、団長の仕事が滞るかもしれねぇからな!」

 

「ウボォー! 油断禁物だよ!」

 

「ああ」

 

 ウボォーギンは力強く頷いて、隠れ家を出て行った。

 ラミナとシャルナークはその背中を見送る。

 

「さて、どうなるかな?」

 

「まぁ、ウボォーの実力やったら、そう簡単に遅れはとらんやろ。それにノストラードの連中も、馬鹿正直にこの宿泊施設使ったまんまとは思えんけどな。実際、1人プロハンターがおるんやろ?」

 

「ああ。この右端の男がそうだよ」

 

 シャッチモーノと言う男をシャルナークが指差す。

 

「っちゅうことはハンターサイトを見れる。この情報も見とる可能性は高いやろうな」

 

「そうだな。もしかしたら、もう逃げてるのかもしれないな。まぁ、それならそれでいいけどさ」

 

「とりあえず、シャルも一度戻りや。次の仕事の準備あるやろ? ウボォーのことはうちも気にかけとくでな」

 

「悪いな。頼むよ」

 

 シャルナークも拠点を後にして、ラミナはパソコンの前に座る。

 そして、クロロにメールを打つ。

 

『ヒソカは黒。目的はクロロと1対1で戦うこと。協力者はいるも、ヒソカ自身が今すぐ仕事に害を出す可能性は低い。ヒソカの始末か、ウボォーのバックアップか、次の仕事の準備か。どれがええ?』

 

 ヒソカの目的はクロロと1対1で戦うこと。逆に言えば、クロロがそれを約束すれば、ヒソカは仕事に関して無害になる。

 

 なので、どちらかと言えばクラピカの方が危険性は高い。

 しかし、クラピカの居場所が分からないので調査は継続するも、急ぎようがない。

 

 ハンターサイトでクラピカを調べてみるも、やはり目新しい情報はない。

 ヨークシンは人が多いので、人探しには不向きなのもまた厄介である。

 

「しばらくは様子見、か。腹ごしらえして、仮眠取るか」 

 

 その時、クロロから返信が届く。

 

『ヒソカは後回しでいい。お前が殺せる時に殺せ。今はウボォーを攫った奴とヒソカの協力者の調査を優先しろ。仕事の方は問題ない。地下競売のお宝は2日分あったからな。今日はない』

 

「ふむ。……つまり、陰獣がやられたこともマフィアンコミュニティーが気づくには十分な時間やな。ウボォー達の情報がある程度出回るか。賞金をかけられる可能性は高いな」

 

 ラミナはこの後のマフィアンコミュニティーの行動を予測しながら、拠点に戻る。

 途中で弁当を買って、拠点に戻ってから食べ、シャワーを浴びてから仮眠をとることにした。

 

 

 

 その頃、クラピカはノストラードファミリーの組長から護衛団のリーダーを引き継がせてもらい、早速リーダーとして動いていた。

 ラミナの予測通り、ハンターサイトでノストラードファミリーの所有物件と宿泊中のホテル、そして構成員リストを確認して、すぐさま護衛対象のネオンを別の部屋に移すように指示を出す。

 

 そして、クラピカはウボォーギンがここに来ると考えて、待ち構えることに決めた。

 

 その間、クラピカは昨日のラミナとウボォーギンの戦いの事を思い出していた。

 

(まさかラミナが、あそこまでの念の使い手だったとはな……。クモや陰獣とも互角に戦えるあの実力は末恐ろしい)

 

 クラピカは旅団に対してのみ使える能力を有しているからこそ、旅団と戦うことを恐れない。

 しかし、陰獣やラミナと敵対をすればひとたまりもないだろう。

 

 念を覚えた時には『これでヒソカやラミナにもそう簡単に負けることはない』と思ったこともあったが、昨晩の戦いを見てその思いは自惚れであったことに気づいた。

 

(それにしても、あの能力……。具現化系に属するのだろうが、一体どんな制約を課せばあそこまで力を……)

 

 地面を吹き飛ばし、マフィアンコミュニティー最強の実行部隊『陰獣』を簡単に殺した能力は非常に脅威だと感じていた。

 

(あの後……ラミナは逃げれたのだろうか……。あの11番を捕えて逃げるだけで精一杯だったが……)

 

 ラミナの性格から考えれば、逃げるだけの余力は残しているはずだ。

 そして、あの後、旅団の者達が追ってきた事を考えると見逃された可能性もある。

 連絡をしようにも、ラミナの直接の連絡先を知らない。

 ハンターサイトで調べれば、ラミナの仕事用のホームコードは分かるかもしれないが、分かったところでどうするのかという思いも湧いてきて、結局調べずに終わっている。

 

(あれだけの実力……。出来れば、味方に引き入れたい。このオークションの間だけでも……)

 

 しかし、クラピカにラミナを雇い入れる資金もなければ、権限もない。

 組長に言えば可能性はあるのだろうが、限定的な雇い入れには難色を示すかもしれない。ただでさえオークションが控えているのだから。

 もちろん、旅団の今後の動き次第ですべて中止になる可能性はあるが、それはそれでラミナを引き入れるメリットが小さくなる。

  

(相変わらず扱いが難しい奴だ……)

 

 クラピカは小さくため息を吐く。

 そして、ラミナの事を思い出したことで、ゴン達のことも思い出す。

 

(……何をしているのだろうか。ヒソカを追いかけ回していないといいが……)

 

 ヒソカを探すことは必然的に旅団を探すということに等しい。

 出来れば止めたいが、ここで『ヒソカを探すのはやめておけ』と言えば、逆にヒソカがここにいることを教えることになる。

 ゴンならば確実に探しに行く。それにキルアやレオリオも手伝うだろう。ヒソカが旅団だとは知らないのだから。

 

(ラミナが止めて……いや、ラミナも仕事中だ。ゴン達とは会っていない可能性が高いか……)

 

 その時、クラピカの携帯が鳴る。

 画面を見ると、ヒソカからのメールだった。

 

「ヒソカ……?」

 

 メールを開くと、そこにはウボォーギンの情報が書かれていた。

 と言っても、ウボォーギンは典型的な強化系なのは昨日の段階でわかっていたので、そこまで目新しい情報はない。

 しかし、最後に『彼は1人で君を探している』と記されていた。

 

(……これは奴が私と手を組むという提案が本気であること示すためのものか)

 

 昨日のヒソカの情報から考えると、確かにヒソカ1人でクロロと戦うのは難しいだろう。

 なので、この機会を逃したくないはずだ。

 飄々としてはいるが、ヒソカもヒソカで必死なのだろう。

 

(私がやることは変わらない。現れたクモを始末するだけだ)

 

 クラピカは気持ちを切り替えて、誰もいないホテルの部屋でウボォーギンを待ち構えるのだった。

 

 

 

 

 ゴンとキルア、レオリオの3人は、サザンピースオークションに参加する資金を稼ぐために『条件競売』として腕相撲を行っていた。

 昨晩から始めており、275万ジェニー稼ぐことは出来た。しかし、それでもまだ1000万にも届いていない。

 

 目標最低金額は89億ジェニー。

 参加するためには1200万ジェニーが必要だ。

 そして、競り落としたいなら、更に倍は欲しい。

 

 つまり、現在無一文に等しい状況である。

 しかし、昨晩の無敗で荒稼ぎしたため、今は誰も挑戦してくる様子はなかった。

 

「これで大丈夫なのか?」

 

「おう。むしろ、これを待ってたんだよ」

 

 キルアは半信半疑の眼をレオリオに向ける。

 レオリオはそれでも自信満々に頷いて、周囲にいる野次馬に目を向ける。

 

 すると、スーツ姿の大男と小柄な男が前に出てきた。

 

「お!? 挑戦ですかぁ?」

 

「いや、こいつじゃそのガキに勝てねぇのは分かってる」

 

「それじゃあ?」

 

「お前ら、もっと儲けたくないか?」

 

「というと?」

 

「こんなところでチマチマ稼ぐより、もっと大きな勝負が出来る場所がある。そこで勝てば何百倍、いや何千倍にもなるぜ?」

 

 小柄な男の言葉に、レオリオはニヤリと笑みを浮かべる。

 そして、店じまいをしてゴンとキルアを伴って、男達に付いて行くのだった。

 

 

 その様子を少し離れた路地裏から眺めている者がいた。

 

「……あんなところで何しとんねん」

 

 ラミナである。

 ラミナは茶髪のカツラを被っていた。

 マフィアの動向を調べている途中だったのだが、人垣を見てふと目を向けると、そこにいたのはゴン達だった。

 

「……腕相撲で金稼ぎ? しかも、今付いて行ったんは下っ端マフィアの人間か」

 

 レオリオとキルアがいる以上、3人揃って変なことに頭突っ込んでいるわけではなさそうだ。

 そう判断したラミナは、ゴン達を追わずに調査を再開するのであった。

 

 

 ゴン達は路地裏にあるバーに入り、その奥にあるエレベーターに乗って地下に下りて行く。

 地下ではリングの上で腕相撲が行われており、リングの周囲では観客が囃し立てている。

 

「お~お~、殺気立ってるねぇ」

 

「このアームレスリングは無差別の賞金制だ。試合ごとに賭けが行われ、勝者には賭け金の10%支払われる」

 

「おお!」

 

「1回の試合で動く金は、億単位だ」

 

「ってことは、1回勝てば千万単位!?」

 

「場合によっては、もっとだ。俺は紹介料として取り分の50%を頂く」

 

「50%!? 取り過ぎじゃねぇか?」

 

「俺の紹介がなけりゃ参加出来ねぇぞ? それにお前も賭ければいい」

 

「なるほどぉ!!」

 

 レオリオが完全に食いついていたが、戦うのはゴンだ。

 そして、そのゴンは未だにそこまでやる気になっていない。

 

 その時、リングの上にピエロのような化粧をした露出が多い服装の男が飛び上がる。

 そして、マイクを握って喋り出す。

 

『突然ではありますがぁ!! アームレスリングは中止させていただきぃ、これより条件競売を始めさせていただきまぁす!!』

 

「中止?」

 

『この条件競売はぁ……【かくれんぼ】でございまぁす!!』

 

「かくれんぼ?」

 

 レオリオが訝しむと、スタッフと思われる女性達がプリントを配り始める。

 ゴン達も受け取り、目を通す。

 そこには7人の男女の写真が載っていた。

 

『配られたプリントの写真をご覧ください! そこに写った7名の男女が今回のターゲットでございまぁす!!』

 

 ゴン達はその内の1人を見て目を見開いていた。

 

「おい、ゴン。この眼鏡の女の子……」

 

「うん。昨日腕相撲に来てた子だ」

 

 昨晩にシズクはゴン達の腕相撲に参加していたのだ。

 ゴンは本気で戦ったこともあり、よく覚えていた。

 

『落札条件は標的を確保し、我々に引き渡すこと!! そうすれば標的1人につきぃ、20億ジェニーの小切手と交換させていただきます!!!』

 

 言い渡された賞金にどよめきが広がる。

 

『期限はございません!! 標的の生死も問いません!! 捕え次第、ご連絡ください!!』

 

「1人20億!?」

 

「全員捕まえりゃ、140億だぞ!!」

 

 ゴンとレオリオが賞金で盛り上がっている横で、キルアは真剣な表情で目を細める。

 

『ただし、参加費用としてお1人様500万ジェニーいただきまぁす!』

 

「当然参加だよな!」

 

「うん……」

 

 レオリオが参加費用を払い、署名する。

 そして、3人は店を後にして、外に出る。

 

 周囲では仲間に連絡を回し、早速探し始める者達の姿があった。

 

「俺達も急ごうぜ!」

 

 レオリオが2人を囃し立てる。

 

「心配しなくても、あんな連中にゃ捕まえられないよ」

 

「「え?」」

 

「何しろマフィアでさえ手を焼いてんだから」

 

「どういうことだ?」

 

「さっきのさ、条件競売だって言いながら、まるっきし賞金首探しだろ? つまり、マフィアが自分達の力で見つけられないって認めてるようなもんじゃないか」

 

「そういやぁそうだな。予定を変更してでも、こいつらを探す必要が生じた……」

 

「さっき聞いたけど。昨日、地下競売が襲われたらしい」

 

 キルアの言葉にレオリオが目を見開いて驚く。

 

「地下競売が!? まさか……こいつらが。それで盗人の首に賞金を懸けたのか……」

 

「そ。マフィアのお宝を盗むなんて、頭イカれてるだろ? でも、俺達はそんな連中に心当たりがある」

 

 キルアが言いたいことをようやく気付いたゴンとレオリオ。

 足を止めて、キルアを振り返る。

 

「幻影旅団……!!」

 

 3人の間に緊張感が走る。

 その時、ゴンの頭にはクラピカの事が浮かんだ。

 

「そういえば……クラピカはどうしてるんだろ?」

 

「確かにもう着いてるはずなのに、全然連絡ないな」

 

「電話してみよ」

 

 ゴンは携帯を取り出して、クラピカに電話を掛ける。

 しかし、一切出る気配はない。

 

「出ないよ」

 

「仕事中か?」

 

「仕事?」

 

「あいつ、ボディーガードしてるって聞いたぜ? おそらくVIPの護衛か。緋の眼を追ってんだから、当然闇の要人だよな」

 

「その人の護衛で地下競売に行って、事件に巻き込まれたのかも……」

 

「巻き込まれたってのは正しくねぇぜ? あいつは相手が旅団なら、積極的に介入するはずだからな」

 

「すでに団員の2,3人は捕まえてるかもしんねぇぜ?」

 

「……だといいけど……」

 

 レオリオが楽観的な事を言い、ゴンの不安を和らげようとする。

 ゴンはそれに同意するも、やはりクラピカの事が心配になる。

 

「……親父がさ」

 

「ん?」

 

「仕事で旅団の1人を殺ってるんだけどさ」

 

「「!!」」

 

「珍しくボヤいてたんだ。割に合わない仕事だったって。それってさ、標的に対する最大の賛辞なんだけどさ」

 

 キルアの話にレオリオは唾を呑む。

 

「親父がそこまで言ったってことは、旅団の連中だって念を使うはずだ。まだ基礎レベルしか出来てない俺達じゃ勝ち目はないと思うぜ」

 

「けど、それならクラピカがヤバイってことじゃねぇか?」

 

「そこも念次第だよ。制約と誓約次第だと思う」

 

「なんだ、それ?」

 

 レオリオはほとんど念の修行を終えていないので、もちろん制約と誓約の事など知らない。

 キルアはホテルに戻りながら、ラミナから教わった事を話す。

 

「念ってそんなことも出来んのかよ……」

 

「だから、裏試験があるんだろ。まぁ、俺の場合はちょっとズルだけどさ」

 

「ラミナに能力の作り方は教わらなかったのか?」

 

「教わりようがないんだよ。人によって能力全然違うんだ。それに能力を下手にバラすのもマズイ。だから、俺達もラミナの能力はほとんど知らない」

 

「そうか……」

 

「けど、それは俺達だってかなりのリスクを負えば、旅団に勝てるだけの能力は出来るってことだ。けど、ゴン」

 

 キルアはゴンに真剣な眼差しを向ける。

 

「今のお前の目的はグリードアイランドだろ? 旅団を捕まえれば金が手に入るとはいえ、そのために能力を作るのか? 一度作った能力はそう簡単に変えられないってラミナは言ってたぜ?」

 

「……ううん。クラピカを助けたいけど……流石にそこまでは出来ないかな」

 

「そうだな。正直、今ここで能力を考えたって旅団に通じるとは思えな――」

 

「だから、今の俺達に出来る事をしよう!!」

 

 キルアの言葉を遮って、ゴンが力強く言う。

 キルアとレオリオは一瞬呆気にとられる。

 

「捕まえられるかどうかはともかく、探して見つけるだけでもクラピカの助けになるかもしれない。だったら、やれることはやってみようよ!」

 

 ゴンの言葉にキルアとレオリオは顔を見合わせて、互いに笑みを浮かべて肩を竦める。

 

「しゃーねぇな」

 

「なら、まずはハンターサイトで情報を探してみようぜ」

 

「うん!」

 

 ゴン達はホテルへと足を進める。

 やれることをやっていく。

 そう決めて、ゴン達は旅団を探し始めるのだった。

 

 

 

 それより少し前。

 ラミナはウボォーギンと会っていた。

 

「ホテル・ベーチタクル。ここに組長の娘がおる」

 

「ってこたぁ……」

 

「鎖野郎もおる可能性は高いやろうな」

 

「ようやく見つけたぜぇ……!」

 

 ウボォーギンは猛獣の如き笑みを浮かべて、目の前のホテルを睨む。

 ラミナはその隣で呆れながら見つめる。

 

「ホンマに1人で行く気か? 仲間と待ち構えとる可能性もあるで?」

 

「問題ねぇよ。あの地下に居た連中は、毒で動けねぇ俺にビビってる連中ばっかだったからなぁ。あの鎖野郎だけが俺に殴りかかってきた。相手になるのは鎖野郎だけだ」

 

「……覚悟を決めたら厄介な能力使ってくるかもしれんで?」

 

「その能力ごとブッ飛ばせばいいだけだろ?」

 

「……はぁ。流石は突攻隊長。……ほれ」

 

 ラミナは缶ビールを取り出して、ウボォーギンに投げ渡す。

 

「景気づけに飲んでいき」

 

「おお! サンキュー!」

 

 ラミナも自分の缶ビールを開けて、ウボォーギンと乾杯する。 

 

「ぷっはぁ!」

 

「ふぅ……。……マフィアがウボォー達に賞金を懸けた。生死問わず、1人20億やと」

 

「あぁ? はっ! やっすい賞金だなぁ」

 

「まぁな。けど、それでもあちらさんもそこそこ本気になったっちゅうことや。油断したらあかんで。一度無様に捕まったんやしな」

 

「分かってるさ。……じゃあ、行ってくらぁ」

 

 ラミナはウボォーギンの背中の刺青がある部分を叩く。

 

「死んだらその番号、うちがもらうで。兄貴」

 

「はっ! 生意気言う様になったじゃねぇか、小娘が。お前なんかにこの数字はやらねぇよ」

 

「やったら、とっとと殺してきぃ。まだ仕事が残っとるんやでな」

 

「ああ、すぐ戻ってやるさ」

 

 ウボォーギンは勢いよく飛び上がって、ホテルへと向かっていく。

 ラミナはその背中を見送って、残ったビールを飲み、缶を握り潰す。

 

「……さて……どうしたもんか……」

 

 このままウボォーギンの戦いを陰から見守るべきか、仕事に戻るべきか。

 ラミナは判断に困る。

 

 戦闘に関してウボォーギンの信頼は大きい。

 ラミナとてウボォーギンが負けるとは思っていない。しかし、なにやら嫌な予感がするのも事実。

 

「……いや。これはウボォー個人の戦いや。うちが口出すんはお門違い、か」

 

 ラミナはそう言って、ホテルに背を向ける。

 

 自分で戦いを挑んだ以上、生死は自己責任。この世界では当然のことだ。

 ウボォーギンがそれを理解して、覚悟していないわけがない。そうやって生き残ってきたのが、ウボォーギンの何よりの誇りである。

 親しい者であろうと、それを無闇に汚してはいけない。

 

 なので、ラミナはウボォーギンを信じて、仕事に戻ることにした。

 

 

 それが、ラミナとウボォーギンの最後の会話になった。

 

 

 


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