暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#4 シュッパツ×ハ×アラナミ

 ゾルディック襲撃から2週間。

 

 ラミナは街を移って、ハンター試験の情報を集めていた。

 

 ハンター試験応募カードはすでに提出している。

 試験予定日までは後2週間。

 それまでに出来る対策はしておくつもりだ。

 ……だったのだが。

 

『ハンター試験は毎年、会場も内容も試験官も違うから対策なんて無駄だよ』

 

 と、シャルナークに言われて諦めた。

 更に、

 

『会場に着くのも試験の一環だよ。どこに委託された試験官がいるか分からないから注意しなよ』

 

 と、言われて更に顔を顰めた。

 

「なんでクロロはこんな面倒なことさせんねん。クロロにシャルかてライセンス持っとるやないか」

 

 ブツブツ文句を言いながら、今年の会場であるザバン市を目指すことにしたラミナ。

 

「……この街からやと船でドーレ港目指すんが一番楽やな」

 

 ルートを確認して、早速切符を買い、翌日に寄港した船に乗り込む。

 すでに他の港から乗った受験者達をちらほらと見かける。

 

(つっても、雑魚ばっかやなぁ。こんな連中でもなれるんかいな?)

 

 ラミナは呆れながら周囲の視線を無視して、帆先の見張り台に素早く跳ね登る。

 その軽やかさに船員や乗客達はポカンと見上げていた。

 ラミナは見張り台に上ると、伸びをして潮風を浴びる。

 そして、下を見下ろして船長らしき赤鼻に髭面の男に声を掛ける。

 

「おーい、船長さ~ん」

 

「あぁん?」

 

 船長は上を見上げてラミナの姿を捉える。

 

「ちょっとここに居させてもらいますわ~。邪魔やったり、なんかあったら言うて~。寝とるかもしれんけど」

 

「ふん! 傷はつけるんじゃねぇぞ!」

 

「はいな~」

 

 ラミナは手を振って答えると、見張り台に寝転んで足を投げ出す。

 それを見ていた船長は、

 

「ふん……。さっきの動きといい、中々面白そうな小娘だ。さて……コラァ! グズグズしてねぇでさっさと仕事しやがれ!」

 

「「「「へ、へい!!」」」」

 

「ったく……次はくじら島か。あいつの息子はそろそろデカくなったはずだが……」

 

 船長は思い出に浸りながら、操舵室に戻るのだった。

 

 

 

 

 それから数日。

 嵐もなく、航海は順調だった。

 船長の話では次の島を過ぎれば、次がドーレ港とのことらしい。

 ラミナは見張り台でのんびりしながら船員の手伝いをしながら過ごしていたが、時々船長から観察されていることに気づいていた。

 

「……どうやら船長は委託された試験官っちゅう奴か。道理でハンター志望者ばっか乗っとるわけやな」

 

 そう感じながら、ラミナは【くじら島】という島に寄り補給をしているところを見下ろしていた。

 すると、黒髪で緑の服を着た少年が船に乗ってきた。

 

「ほぉ~、あんなガキがハンター目指すんかいな」

 

 少年は母親らしき女性に別れを告げ、出港して離れて行く故郷を眺めていた。

 その少年の姿を他の受験者達は馬鹿にした目で見つめていたが、ラミナは少年の歪な気配を感じていた。

 

「……なんやろなぁ?」

 

 気配の正体は分からなかったが、他の受験者と比べれば明らかに何かが違う。

 そう感じたラミナだった。

 

 しかし、それを確かめる気はなく、再びいつも通り見張り台に寝転ぶ。

 そして、1時間ほどすると、突如真上に気配を感じて目を開ける。

 そこには驚いた顔をしていた少年がいた。

 少年は慌ててマストを掴んで方向転換し、ラミナの隣に降り立つ。

 

「うわっと!? ご、ごめんなさい! 気づかなかった!」

 

「かまへんよ。こんなところで寝転んでる奴がおるとは思わんやろうしな」

 

(ギリギリまで気配感じんかったな。というか動物かなんかと思っとったわ)

 

「うん、驚いたよ。っと、そうだった」

 

 ラミナが内心驚いていると、少年は顔を風上に向けて何やら鼻を触っている。

 その行動にラミナも鼻を引きつかせるが、特に異臭はしない。

 すると、少年は何かに気づいたのか、振り返って身を乗り出して下を覗き込む。

 

「物凄くでっかい嵐が来るよ! 匂いで分かるんだ!」

 

 少年の言葉にラミナは僅かに目を見開いて思わず起き上がって、先に目を凝らす。

 すると、かなり遠くに確かに分厚くて黒い雲が確認できた。

 

(微妙な風は感じとったけど、匂いで気づくってどういう五感しとんねん……)

 

 人間離れした嗅覚に呆れながらも、その正確性に感心する。

 下にいたのは船長だったらしく、少年の言葉を全く疑わずに船員達に指示を出し始める。

 船長が行動に移したということは少年の言葉は正しいということだ。

 ラミナも身を乗り出して、船長に声を掛ける。

 

「船長、手伝いいるか?」

 

「なめんじゃねぇ! この程度の嵐で素人に頼るほど落ちぶれちゃいねぇ!」

 

「流石やな」

 

「テメェらもとっとと降りて、中に入れ! 海に落とされても助けねぇぞ!」

 

「へいへい」

 

「はーい!」

 

 ラミナと少年は見張り台から飛び出して、ロープを掴んで下まで滑り降りる。

 そして、船室に入るとすでに中はごった返していた。

 ラミナは顔を顰めて周囲を見渡すも、まともな場所は残っていなかった。なので天井近くの梁に飛び乗って、壁を背に座る。

 少年は端っこの樽の上に座る。

 

 しばらくすると、徐々に船の揺れが大きくなっていく。

 すぐに船室は縦横に大きく揺れ回る。

 

「「「うおわあああ!?」」」

 

 乗客達は船室内を悲鳴を上げながら転げ回る。

 しかし、揺れはどんどん酷くなっていき、壁に叩きつけられたり、一瞬浮かんで床に叩きつけられて乗客同士で積み重なる。

 ラミナは梁に足を絡めて体を支え、堪え切れずに飛んでくる未熟者達を手刀で叩き落とす。

 少年は樽の上を玉乗りのように移動して揺れを軽減している。

 他にも2人ほど顔色も変えることもなく、やり過ごしている。

 

 すると船が大きく傾いたと思うと、浮遊感を感じて乗客達が宙に浮かぶ。

 もはや悲鳴を上げる余裕もなく、涙を浮かべて手足をバタバタして、衝撃と共に床に叩きつけられてまた嘔吐する。

 

 しばらくすると、揺れがマシになり、乗客達はホッとするも完全に船酔いで動けなくなっていた。

 ラミナはあまりの惨状に呆れしか感じなかった。

 

「これでよう受ける気になったもんやな……」

 

 さっきの少年はどうなったのか目を向けると、ケロっとしており、それどころか看病を始めていた。

 すると、扉が開いて船長が顔を覗かせる。

 船室内の惨状を見て、船長も呆れ全開の表情を見せる。

 

「全滅だ、こりゃ。情けねぇ。こんなんでハンター試験受けようってんだから、はっ! 全く笑わせやがる!」

 

「全滅ちゃうで」

 

「ん? おお! 小娘、無事だったか」

 

「あの程度でやられるかい。で、他にも元気なんおるで」

 

 ラミナは船長の言葉に呆れながら、少年を指差す。

 少年は酔い止めの薬草を配り、水を運んだりしていた。

 

「ほぉ……あの坊主……」

 

「他にもおるで」

 

 次に指差したのはハンモックに揺られながら悠々と読書をしている金髪の美形と、樽にもたれ掛かって果物に齧りつくサングラスをかけたスーツの男。

 それを確認した船長は口角を吊り上げる。

 

「ほぅ。ちっとは骨のありそうな奴がいるようだな」

 

「で? もう乗り切ったんか?」

 

「まだだな。まぁ、山場は越えただろうよ」

 

「さよで。で? うちはお眼鏡に適ったんか?」

 

「……ほぉ。ハッハッハッ! 丁度いい。おい! 無事な連中、付いてきな!」

 

「ん?」

 

 船長は上機嫌にラミナや少年達を呼び出す。ラミナ達は首を傾げたり、めんどくさそうに顔を顰めながらも大人しく歩き出す。

 

 連れて行かれたのは操舵室で、ラミナ達4人は船長に向かい合う形で立つ。船長の隣には船員の1人が何やらボードを持って立っていた。

 

「まず、お前らの名前を聞いておこうか」

 

「俺、ゴン!」

 

「私はクラピカ」

 

「レオリオだけど」

 

「ラミナや」

 

 少年、金髪美形、不貞腐れたスーツ男、ラミナの順で名乗る。

 どうやら金髪美形は男のようだった。

 

「お前ら、何故ハンターになりたいんだ?」

 

「おい、えらそーに聞くもんじゃねぇぜ。試験官でもないくせによ!」

 

「いいから答えろ」

 

「俺は親父がハンターなんだ。親父が魅せられたハンターの仕事がどんなものなのか、どうしても知りたいんだ!」

 

 ゴンが戸惑うこともなく、元気に答える。

 それに船長がなにやら感慨深げに頷いていると、レオリオがゴンに突っかかる。

 

「おい、ガキィ! 横から勝手に答えてんじゃねぇ!」

 

「いいじゃん。理由を教えるくらい」

 

「協調性のねー奴だなぁ。俺は嫌なんだよ!」

 

「うちは仕事の関係上で必要になったからやな」

 

「っ! おい、俺の話聞いてたのかぁ!?」

 

「別にあんたの仲間ちゃうしな。元々蹴落とし合う仲なんやし」

 

「……この野郎……!」

 

「野郎ちゃう」

 

 レオリオの発言を無視して、次にラミナが答える。

 レオリオが青筋を浮かべてラミナに噛みつくが、ラミナは目も合わせずに言い返す。

 船長もレオリオを無視して、ラミナにもう一度質問する。

 

「その仕事ってぇのは?」

 

「殺しやね」

 

「「「!!」」」

 

 ゴン達や他の船員達が目を見開いて驚く。

 船長も目を細めてラミナを見据える。

 

「小娘、てめぇ殺し屋か?」

 

「フリーのな。まぁ、護衛や警護、ブラックリストハントも請け負っとるで。まぁ、それで次の依頼人から資格を取ってほしいっちゅうことでな」

 

「なるほどな。で? お前さんは?」

 

 ラミナの言葉を聞いた船長は特に何も言わずに頷いて、今度はクラピカに顔を向ける。

 

「悪いが、私もレオリオに同感だ」

 

「おい、お前歳いくつだ? 人を呼び捨てにしてんじゃねーよ」

 

「もっともらしいウソをついて、嫌な質問を躱すのは容易い。しかし、偽証は強欲と等しく最も恥ずべき行為だと考える」

 

「聞けコラ! レオリオさんと訂正しろ!」

 

 クラピカはレオリオの抗議を一切無視する。

 

「かと言って初対面の人間の前で、正直に告白するには私の志望理由は私の内面に深く関わり過ぎている。したがってこの場でその質問に答えることは出来ない」

 

「……ほ~お、そうかい。おい!」

 

「はい、船長」

 

 船長は傍に控えていた船員に鋭く声を掛ける。

 

「この2人も脱落者として、審査委員会に報告だ」

 

「「「!」」」

 

 船長の言葉にクラピカ達は再び唖然とする。

 ラミナだけは驚くこともなく、やっぱりと思っていた。

 

「ど、どういうこと?」

 

「まぁだ、分かんねぇのか? ハンター試験はとっくに始まってんだよ」

 

「「な、なに……!?」」

 

 クラピカとレオリオは驚く。

 船長は小さくため息を吐いて、説明を始める。

 

「ハンターの資格を取りたい奴らは星の数ほどいる。そいつら全部を審査できるほど試験官に人的余裕も時間もねぇ。そこで、俺達みてぇのが雇われて、受験者をふるいにかけるのさ。すでにお前ら4人以外は脱落者として審査委員会に報告した。もうこの船を降りて、別のルートで行っても門前払いだ」

 

 レオリオとクラピカは眉間に皺を寄せて唸る。

 ゴンは感心したように頷いている。

 

「つまり、お前らが本試験を受けれるかどうかは俺の気分次第ってことだ。よ~く考えて、俺の質問に答えるんだな。まぁ、小娘は俺の事気づいてたみたいだがな」

 

「そら、こんだけ受験者しかおらん船、疑わん方が厳しないか? それに船長さんやらそっちの船員さんも妙に探るような視線向けてきよったし」

 

「はっ! こちとら依頼されちゃあいるが、生粋の船乗りだ。テメェみてぇに、その筋の技なんざ知らねぇんだよ」

 

「だから、なんも言わんかったやろ?」

 

 ラミナは肩を竦めて苦笑する。

 2人のやり取りを聞いていたレオリオは更に眉間に皺を寄せる。

 すると目を瞑っていたクラピカがゆっくりと口を開く。

 

「私は……クルタ族の生き残りだ」

 

 クルタ族と言う名前にラミナは僅かに目を見開く。

 聞き覚えがあったからだ。

 

「4年前、私の同胞を皆殺しにした盗賊グループ、幻影旅団を捕まえるためハンターを志望している」

 

「……賞金首ハンター志望か。幻影旅団はA級首。熟練のハンターでも迂闊に手を出せねぇ。無駄死にすることになるぜぇ」

 

「死は全く怖くない。一番恐れるのは、この怒りがやがて風化してしまわないかと言うことだ」

 

(おー……恨まれとるなぁ。まぁ、しゃあないやろうけど。それにしても生き残りおったんかい)

 

 クルタ族は【緋の眼】という特殊な瞳を持っており、それは世界7大美色の1つと呼ばれるほどだ。

 それをマチ達幻影旅団は集落にいた全員を拷問して、両目を奪った。

 『団長がえらく気に入っていたよ』とマチが楽しそうに言っていたのを覚えている。もう全て売り払ったはずだが、まさかここでその関係者と会うとは思わなかった。

 クルタ族は外界との接触を極端に忌避していたと聞いた。だから、生き残りがいる可能性はほぼないとマチ達は言っていたが。

 

(こりゃあ、関わり合いは出来る限り避けなあかんなぁ。下手したら殺し合いになるで……)

 

 ラミナは少しうんざりしていると、レオリオが馬鹿にしたようにクラピカに顔を向ける。

 

「要は仇討ちか。わざわざハンターにならなくたって出来るじゃねぇか」

 

「この世で最も愚かな質問の1つだな、レオリオ。ハンターでなければ入れない場所、聞けない情報、出来ない行動と言うのが君の脳みそに入らないほどあるのだよ」

 

「く……」

 

「おい、お前は? レオリオ」

 

 悔しそうに歯を食いしばるレオリオに、船長が訊ねる。

 

「俺か? あんたの顔色を窺って答えるなんてまっぴらだから正直に言うぜ! 金さ!! 金さえあれば何でも手に入るからな! デカい家! いい車! 美味い酒!」

 

 ラミナがあまりの正直さに逆に感心していると、クラピカは逆に呆れたように言い放った。

 

「品性は金では買えないよ、レオリオ」

 

「……3度目だぜ。表に出な、クラピカ。薄汚ねぇクルタ族とかの血を絶やしてやる」

 

「……取り消せ、レオリオ」

 

「レオリオ『さん』、だ。来な」

 

「望むところだ」

 

 完全にキレたレオリオとクラピカは話の途中だが、操舵室を出て甲板に向かった。

 

「おい、お前ら! 俺の話は終わってねぇぞ!」

 

「放っておこうよ」

 

「な……」

 

 船長がクラピカ達の背中に叫びかけるが、それをゴンが止めた。

 

「その人を知りたければ、その人が何に対して怒りを感じるかを知れ。ミトさんが教えてくれた俺の好きな言葉なんだ。俺にはあの2人が怒ってる理由は何か大切なことだと思えるんだ。止めない方がいいよ」

 

「う……む」

 

「それよりもヤバそうな雰囲気やで、船長」

 

「なに?」

 

 ラミナの言葉に振り向いた船長の目には、進行方向に巨大な竜巻が出現していた。

 

「ちぃ! 舵変われ!」

 

「あ、あの竜巻が直撃すれば、ひとたまりもないぞ!」

 

「手伝う!」

 

「せやな」

 

「頼む!」

 

 船長が慌てて舵を持ち、船員が慌てて外に出ようとして、ゴンとラミナもそれに続く。

 甲板は波で荒れ狂い、油断すれば海に落ちて、二度と浮き上がって来れないだろう。

 

「帆を畳め!」

 

「急げ! マストが折れちまう!」

 

 総出でロープを引く。

 ゴンとラミナも加わり、全力で引っ張る。ラミナが引いたロープは物凄い勢いで動く。

 

「うおお!?」

 

「す、すげぇ!」

 

「余裕がある奴は他のロープ引けや! ここはうちだけでもええ!」

 

「助かるぜ!」

 

 全員が必死に動いている横でレオリオとクラピカは睨み合っていた。

 

「さっきの言葉、撤回しろ。レオリオ」

 

「テメェの方が先だ、クラピカ。俺から譲る気は全くねぇ」

 

 レオリオはポケットから折り畳みナイフを取り出し、クラピカは紐で繋がった二振りの木刀を取り出して構える。

 そして、今にも飛び掛かりそうに互いに屈んだ時、一段と強い突風が吹いた。

 

 船やマストが大きく揺れて、甲板を波が襲う。

 それに何人かの船員が脚を取られて、ロープを手放してしまう。

 すると、ロープに引っ張られて1人の船員が宙へと舞った。

 

「うああああ!?」

 

「「!!」」

 

 船員はロープを手放してしまい、クラピカとレオリオの間を飛んで海へと向かっていく。

 

「「なっ!」」

 

 レオリオとクラピカはすぐに武器を仕舞って駆け出す。

 

「ロープ代われや!!」

 

「っ! わ、分かった!」

 

「ちぃ!!」

 

 ラミナも近くにいた者達にロープを頼んで走り出す。

 

(この風と波じゃナイフは使えん!)

 

 ラミナはオーラを強めて一気に駆け出す。

 レオリオとクラピカは甲板から飛び出して縁を掴んで手を伸ばすも、残念ながら手が届かなかった。

 

「くっ!」

 

「くっそ!」

 

 2人は悔しがった瞬間、その間をゴンが身を投げ出す。

 ラミナは目を見開く。

 ゴンは船員の両腕を掴む。しかし、その体はすでに海の上。

 そのゴンの両脚をクラピカとレオリオが今度こそキャッチする。

 

 しかし、2人分の重さを支えきれずに、クラピカとレオリオも縁から手が滑り落ちそうになる。

 

「くっ!」

 

「やべぇ!」

 

「しっかり掴んどけや!!」

 

「「!!」」

 

 そこにラミナが駆けつけて縁に足を掛け、落ちかけていたレオリオとクラピカのズボンのベルト部分を掴む。

 そして、一気に4人を引っ張り上げる。

 

「おおおおお!!」

 

 4人は魚のように宙を舞って甲板の真ん中に落ちる。

 レオリオは尻餅をつき、クラピカは綺麗に着地し、ゴンは気絶した船員を抱えて降り立つ。

 ラミナもバク転して船縁から距離を取る。

 

「ふぅ。っと、ロープロープ」

 

「いや、もう大丈夫だ!」

 

「もう終わる!」

 

「あんたらは休んでてくれ!」 

 

 ニカッと笑みを浮かべてロープを結んでいく船員達に、肩を竦めてラミナはゴン達の元に向かう。

 

「無事か?」

 

「ああ、なんとかな……」

 

「感謝する……」

 

「ありがとう! ラミナさん!」

 

「ラミナでええ。お前はまずそいつ船に戻しや」

 

「っと、そうだね」

 

 ゴンは船員を抱えたまま、船内に駆け込んでいく。

 その後もラミナは手伝いを続け、クラピカとレオリオも決闘をする空気では無くなり、ラミナと同じく船員の手伝いを始めた。

 途中からゴンも戻ってきた。

 

 そして、数時間経過して、ようやく嵐を突破した。

 

 ラミナ達4人は甲板に座り込んで一息つくと、いきなりクラピカとレオリオがゴンに詰め寄った。

 

「このボケ! 俺達がお前の脚を掴んでなけりゃ、お前は今頃海の藻屑だったんだぞ!!」

 

「全く無謀極まりない……」

 

「でも、掴んでくれたじゃん」

 

「それに、そんなところで決闘しとったアホ共に言われたぁないわな。引っ張りあげたんはうちやし」

 

「「う……」」

 

 あっけらかんとしたゴンと呆れながら横やりを入れたラミナの言葉に、2人は気まずげに顔を背ける。

 

「で? 決闘はどうするんや? 今なら遠慮なくやれるで」

 

「「……」」

 

 レオリオとクラピカは互いに顔を見合わせる。

 そして、どちらともなく笑みを浮かべる。

 

「非礼を詫びよう、レオリオさん」

 

「何だよ、水臭ぇな。レオリオでいいよ。……俺の方もさっきの言葉は全面的に撤回する」

 

 和解をした2人の様子にゴンも笑みを浮かべ、ラミナは肩を竦めて立ち上がって伸びをする。

 

「あ~……! ようやっとゆっくり出来るわって、そう言えば船長さんの話すっぽかしたままやな」

 

「あ!? や、やべぇ……もしかして俺ら……」

 

「……失格かもしれないな」

 

 思い出したレオリオは顔を青くして、クラピカも右手で顔を覆う。

 

「がっはっはっはっ! お前ら、気に入ったぜ!」

 

 そこに船長が豪快に笑いながら近づいてきた。

 

「今日の俺様は凄く気分がいい! お前ら4人は俺様が責任を持って、審査会場最寄りの港まで連れて行ってやらぁ!」

 

「ホント!? じゃあ、試験は?」

 

 ゴンが嬉しそうに顔をほころばせるが、試験の事を思い出して首を傾げる。

 

「言ったろ? 俺様の気分次第だってな! お前ら全員、合格だ!」

 

 船長の合格宣言にクラピカとレオリオはホッとして笑みを浮かべ、ゴンは跳び跳ねる。

 ラミナは肩を竦めるも、内心ホッとしていた。

 

「やったー!」

 

「と言うても、後似たようなんが何個あるんか……」

 

「そうだな。港に着いてからも同じことがあると考えるべきだろう」

 

「ひぇ~……! どんだけ試験あんだよ」

 

 ラミナは先行きに不安を感じて、小さくため息を吐き、クラピカも同意する。

 レオリオはうんざりしたような声を上げるが、そこにゴンが明るく言う。

 

「大丈夫だよ! 俺達なら行けるって!」

 

「俺達て……。うちら競争相手やぞ?」

 

「え? でも、会場に着くまでは一緒でもいいじゃん! 受付人数に制限はないんでしょ?」

 

「……まぁ、そやろなぁ」

 

「だったら皆で行った方が助け合えていいじゃん!」

 

 まだ名乗り合って数時間。しかも決闘騒ぎまであったのに、異常に信頼を寄せているゴンにラミナは呆れるしかなかった。

 

(こいつ。うちが殺し屋っちゅうこと忘れとらんか? ……まぁ、ええか)

 

 無理して距離を取ることもない。

 試験会場に着けるかどうかも分からないのだから。

 というか、船を降りたら別行動する気だったので、どうせバラバラになる。

 

 そう思い直したラミナは、港に着くまでの間、のんびりとゴン達と過ごすのであった。 

 

 


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