暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#40 アミ×ヲ×ハル

 日付が変わり、9月3日になった。

 

 クラピカやマフィアの動向を調べていたラミナに、シャルナークから電話があった。

 

「ウボォーがまだ戻らない……?」

 

『ああ。何か知らないか?』

 

「ウボォーは間違いなく鎖野郎がおるホテルに行ったはずや。まぁ、もうこの街から逃げとったら話は別やけど。少なくともシャルやうちが調べた場所は全部回ったから、そこに鎖野郎がおらんかったら、ウボォーは手掛かりがなくなるはずやで」

 

『ウボォーがそのホテルに向かったのは?』

 

「夜7時ちょい前」

 

『……もう5時間は経ってる……』

 

「……今の所、マフィアの情報網にウボォーのことは何も出とらん。うちが今からホテルに行く」

 

『頼む』

 

 通話を終えて、ラミナは拠点を飛び出す。

 ホテル・ベーチタクルに向かい、短刀を具現化して姿を隠して、ノストラードファミリーが借りている部屋に入り込む。

 鍵は開いており、というよりは壊されており、室内はもぬけの殻だった。

 

(……暴れた形跡は一切ない。つまり、ここでは戦っとらんっちゅうことになる)

 

 戦闘の痕跡を隠した様子もない。

 もし、また鎖で捕まったにしても、全く部屋に被害が無いのはありえないだろう。ウボォーギンとて馬鹿ではない。相手の部屋に入る際には、鎖がいきなり来る可能性は考えていたはず。全く避けられないなんてことはないはずだ。

 つまり、ウボォーギンは別の場所に向かったことになる。

 

(……けど、もうノストラードファミリーが所有しとる物件やホテルはない。いくらウボォーでも手がかりがなくなれば、アジトに戻ってクロロやシャルを頼るはず。……っちゅうことは、ここに何かしらの手がかりがあったんか。それとも……場所を変えて戦うことを選んだか……) 

 

 ラミナは部屋を後にして、ホテルのパソコンルームでノストラードファミリーの情報をもう一度調べる。

 しかし、目新しい情報はなく、ウボォーギンが暴れたような情報もない。

 もちろん捕縛、殺害されたという記録もない。

 

 もし、やられていればマフィア達に広まっているはずだ。

 

(……鎖野郎がもしクラピカやったとして、殺したことをマフィアに隠す理由はないはず……)

 

 むしろ報告すれば、十老頭から旅団討伐のバックアップを得られるはず。

 クラピカがこれを逃すとは思えなかった。

 

(っちゅうことは鎖野郎は別人……? くそっ! 情報が少なすぎる!)

 

 ラミナは再びシャルナークに電話を掛ける。

 

『どうだった?』

 

「ホテルで戦闘をした形跡はなし。マフィアでもウボォーに関する情報は一切ない。つまり、何かしら手がかりを見っけたんか、場所を変えて戦うとる可能性が高い」

 

『そうか……』

 

「けど、ウボォーを相手に4,5時間も戦い続けられるとは思えん。ウボォーもそこまで戦えば、一度退く判断くらい出来る。その様子がないっちゅうことは……」

 

『……やられた可能性が高い、か』

 

「もし、そうならマフィアに情報が広がる。けど、それもないっちゅうことは鎖野郎はノストラードファミリーを利用しただけの単独犯か、組そのものがマフィアンコミュニティーを切り捨てたか、やな。が、流石に後者の可能性は低い。なら……」

 

『鎖野郎は組に所属しておきながら、単独でウボォーと戦って、そのことを誰にも話していない』

 

「やな」

 

『くそっ!』 

 

「自分だけを責めんなや、シャル。ウボォーが1人でええって望んだんやし、お前を帰したんはうちや。最後にウボォーを1人で行かせたんもな」

 

 ラミナも、シャルナークも、誰一人としてウボォーギンが正面から挑んで負けるとは思っていなかった。

 これまで全ての敵をねじ伏せてきたのだから。戦闘に関して、誰もがウボォーギンには無条件で信頼していた。

 

 だから、これは誰の責任でもなく、全員の責任でもある。

 

「クロロはなんて?」

 

『……予定変更だよ。夜明けまでにウボォーが戻らなければ、競売までは2人1組で鎖野郎を探して連れてこい、だってさ』

 

「網を張るっちゅうことか。うちは?」

 

『ラミナはそのまま単独で動いてくれってさ。俺達が動けば、マフィアも動くはず。その隙に情報を集めてくれ』

 

「了解や」

 

 通話を終えて、ラミナは一度拠点に戻る。

 再び情報を確認するが、やはりウボォーギン目撃、確保などの情報は一切ない。

 

 確保はともかく、目撃情報すらも一切ないのが気にかかる。

 ウボォーギンが本気で暴れれば、どうやっても目立つ。一切情報が無いのはあり得ない。

 

「場所を変えたんならゴルドー砂漠方面の荒野か……」

 

 そこならば、今はマフィアも警戒していないだろうし、暴れようがすぐにはバレない。

 

 そして、誰を殺そうが死体を処理するのも楽だ。

 

 ラミナは嫌な予感が強まっていく。

 

(……ウボォーはなんだかんだでクロロや旅団に迷惑を掛けるほど我を通す奴やない。見つけられんかったなら、一度必ず戻ってくる)

 

 『またお宝盗めば、奴も出てくるはずだ!』とでも言って、仕事に集中するはずだ。

 しかし、ウボォーギンは帰ってこないし、どこかにいる痕跡もない。

 

「……馬鹿兄貴」

 

 最悪の結果を予想して、小さく呟く。

 すぐに気持ちを切り替えて、カツラを被り眼鏡を掛けて変装をする。

 

 流石に仮眠をとる気にはならず、街に出てウボォーギンやクラピカ、鎖野郎の調査を行う。

 と言っても相変わらず手掛かりはない。

 

「唯一の手掛かりはノストラードファミリーやけど……。ホテル・ベーチタクルの部屋はすでにもぬけの殻。他の部屋やホテルでもノストラードファミリー関係者の名義は無し。っちゅうことは、まだ知らん構成員がおるっちゅうことやな。新入り……か。流石にそうなると情報が出るんは時間がかかるか」

 

 ラミナは小さくため息を吐き、街を練り歩く。

 もちろん手がかりなど見つかりはしない。

 

 空が完全に明るくなってきた頃。

 ファーストフード店でハンバーガーを食べながら、ノートパソコンを取り出して情報を調べ直す。

 

(……ウボォーの情報は相変わらず無し。マチ姉達の情報も無い。意外とバレんもんやなぁ。ノストラードファミリーの情報は……お!)

 

 組長の娘の写真とボディーガードの顔ぶれが2人程増えている。

 すぐさま増えた2名の名前でホテルの宿泊名義を検索する。しかし、ヒットする場所は無かった。

 

「ちっ……」

 

 どうやらまだ判明していない顔ぶれがいるようだ。

 飛行船はもちろん偽名で私用船を使っているはずなので、渡航記録などでは名前が出てくるわけもない。

 なので、まだヨークシンにいるのかも、もういないのかも判断が出来なかった。

 

 クラピカの方を探そうにも、今回はヒソカは動かなかったらしい。

 つまり協力体制を拒否されたか、メールか何かで返事をした可能性がある。メールでのやり取りとなると、流石に調べようがない。

 これでクラピカを探すのが、更に難しくなった。

 

「……悉く裏をかかれとるなぁ。……いや、ヒソカがうちのことをバラした可能性があるか?」

 

 ラミナはクロロにメールをする。

 

『ヒソカはうちが手伝っとること知っとるよな?』

 

 すぐに返信があった。

 

『俺の前では誰もお前の名前は出していない。もちろん、俺がいないところでマチやシャルナーク達が話した可能性はあるがな』

 

「……微妙なところやなぁ。まぁ、バレとると思て動こか」

 

 もしクラピカが旅団を追っているなら、どうせいつかは敵対する運命にあるはずだ。

 ならば、ヒソカと繋がっていることが分かった時点でバレていると考えておく方がいいだろう。

 

 パソコンを閉じて、店を後にする。

 すると、電話が鳴る。

 

「はいな」

 

『リッパー』

 

「お。また依頼か?」

 

『逆だ』

 

「逆ぅ?」

 

『マフィアンコミュニティーが殺し屋を募っていてな。俺達はまたお前を推薦したんだが、前回の失敗と言うか中断したことが腰抜けと思われたようでな……。却下された』

 

「おやまぁ、強気なこって。で? なんでそんなことわざわざ連絡してきたんや?」

 

『俺達はお前と今後もいい付き合いがしたいってことさ』

 

「あぁ、なるほど。ほな、うちはのんびりして、ここから撤退するわ」

 

『分かった。またこっちに来ることがあったら、連絡をくれ』

 

「へいへい」

 

 電話を終えて、携帯を仕舞う。

 

「ん~……陰獣が死んだから、専門を呼んだっちゅうことか……。嫌な予感がするなぁ」

 

 旅団に抵抗するためにわざわざプロの殺し屋を呼ぶ。

 面子を保ちたい十老頭がわざわざ依頼を出したのだから、依頼料を出し渋ることはないだろう。

 

 ということは、

 

「ゾルディックが呼ばれんわけないわなぁ……」

 

 イルミにはクロロが依頼を出している。

 ならば、マフィアンコミュニティーに答えるのはシルバかゼノ。もしくはその両方。

 

 顔を顰めたラミナはクロロに今の情報とゾルディックが来る可能性をメールで伝えておく。

 

 すると、すぐに返信があり、

 

『ならば仕事の時、少し手伝ってくれ。俺のスーツとマフィアっぽい車、参加証を手に入れてほしい。詳しくはまた連絡する。それまでは休んでくれていい』

 

「少し……なぁ。クロロの少しは面倒事やからなぁ」

 

 ラミナはため息を吐いて、手に入れる物を確認する。

 スーツや車は問題ないが、参加証に関しては少し厄介だった。

 すでに始まっているので、通常の手段で手に入れるのは難しい。

 

「ちっこいマフィアから奪うしかないか……」

 

 ラミナは眉間に皺を寄せて、作戦を考える。

 奪う以上、皆殺しにしなければならない。しかし、発覚が早ければ参加証が使えなくなる。

 奪うタイミングが非常にシビアだ。

 

「……あ、いや。シズクに手伝うてもらえばええか」

 

 ラミナは目についた喫茶店に入って、人気の少ない場所に拠点を構えるマフィアを探す。

 そして、手頃な標的を見つけて、ラミナはシズクに電話を掛ける。

 

『どうしたの?』

 

「クロロに頼まれた関係でな。手伝うて欲しいねん」

 

『仕事に関わるなら良いよ』

 

「おおきに。ほな、1時間後に駅前で」

 

『うん』

 

 ラミナは店を出て、待ち合わせ場所に向かう。

 車の手配をしながら待っていると、時間ピッタシにシズクとフランクリンが現れる。

 

「すまんな」

 

「ううん」

 

「で、なにすんだ?」

 

「クロロが地下競売の参加証欲しい言うてな。しょぼいマフィアからもらお思て」

 

「私の【デメちゃん】がいるってこと?」

 

「そ。発覚がバレると、参加証が使い辛くなるでな。行方不明程度なら今日くらいは誤魔化せるやろ」

 

「なるほどな」

 

「そっちは? なんも引っかからんのか?」

 

「うん」

 

「全然だな」

 

「フランとか目立つ思うんやけどな」

 

 ラミナは呆れながら、シズクとフランクリンを連れて歩き出す。

 

「ラミナはなんで変装してるの?」

 

「ん? そらぁ、うちがお前らと繋がっとんバレたら面倒やからや。仕事が終わればバレてもええけど、終わる前にバレたら仕事がしにくくなるでな」

 

「ふぅん」

 

「そっちはウボォーのことは何か分かったのか?」

 

「……残念ながら、や。どこの情報サイトでもウボォーのことは出回っとらん。マフィアも同じ」

 

「そうか……」

 

「鎖野郎が所属しとるはずのノストラードファミリーの居場所も不明。おかげで手がかりが一切無し」

 

「じゃあ、私達が動き回るのが一番の近道ってこと?」

 

「やな。それと今日の地下競売、やろな」

 

 鎖野郎がマフィアに所属している以上、再び地下競売の会場で待ち構えている可能性は高い。

 時間はかかるし、会うまで情報はほとんど手に入らないがこれが一番確実ではある。

 

 ただし、もし鎖野郎に会った場合、それはウボォーギンが死んだことを確定づけることにもなる。

 そうなると、正面から戦うのは危険である。

 

「まぁ、今は地道に動くしかないやろ」

 

「だね」

 

 そして、大通りから少し離れたところにある3階建てのビルの近くで足を止める。

 ビルの正面入り口にはスーツを着た男2人が立っており、駄弁ってはいるが明らかに見張り役であろうことがわかる。

 

「あそこ?」

 

「おう。うちが先に入って暴れてくるから、後からゆっくり来てんか」

 

「1人でいいのか?」

 

「お前の図体と能力は目立ちすぎんねん。フランはバレんように隅っこで小さくなっとって」

 

「おい」

 

「ほな、行ってくるわ」

 

 フランクリンの文句を無視して、ラミナは短刀を具現化して姿を消す。

 そして、一気に見張り2人に詰め寄り、一瞬で2人の首をへし折って殺す。

 

 ラミナは倒れかけた見張り2人の襟を掴んで、黒張りされている正面入り口から中に入って死体を運び込む。

 中に入って死体を床に放り捨てて、ラミナはまた姿を消して1階を回る。

 1階は倉庫のようで他に構成員はおらず、ラミナは2階に上がる。

 

 2階は構成員の部屋と警備室だったようで、警備室の中にいる構成員数名を素早く殺し、監視カメラを止めてデータを全て消去する。

 そして、部屋でのんびりと駄弁っていた下っ端達は、【狂い咲く紅薔薇】で皆殺しにする。

 殺し損ねた者も素早く首を斬りつけて、声を出される前に殺した。

 

 シズクに電話して、入ってきていいと伝え、ラミナは3階に上がる。

 3階は組長の部屋と応接室で、客はいないので組長の部屋に姿を消した状態で中に入る。

 

「あ?」

 

 突然独りでに開いたドアに、部屋の中にいた5人の男が訝しむ。

 もちろんラミナの姿など見えないので、警戒はするも武器には手を掛けない。

 

 ラミナは高級な椅子に座っている小太りの男以外の4人の首を【一瞬の鎌鼬】を発動して、一瞬で斬り落とす。

 

「なぁっ!?」

 

「動くなや」

 

「っ!!」

 

 組長は目を見開いて驚くが、直後背後から首筋にブロードソードが添えられる。

 組長は目だけを動かして、ラミナの姿を捉えようとするが、首を動かそうとした瞬間、刃が首に触れる感触がして動きを止める。

 

「て、てめぇ……こんなことして……!」

 

「このビルの部下は全員死んどるで。監視カメラも止めた。お前を助けに来る奴はおらん」

 

「っ……!!」

 

「でや。地下競売の参加証、持っとるやろ?」

 

「さ、参加証?」

 

「そ。参加証、ちょうだい」

 

「そ、そんなことのために……!」

 

「ええからさっさと頂戴。殺してから探すん面倒やねん」

 

「っ! わ、分かった……! う、後ろのテーブルの一番上の引き出しの中だ……」

 

「ふぅん。シズク、頼むわ」

 

「分かった」

 

「!!」

 

 ラミナは入ってきたシズクに声を掛ける。

 突然現れたシズクに組長は目を見開く。

 そして、シズクの顔に見覚えがあることに気づく

 

「て、てめぇら……。ク、クモか……!?」

 

「ん~っと……あ。あったよ。これでしょ?」

 

「おお、それそれ」

 

 組長の問いかけを無視して、シズクは言われた場所を探って参加証を取り出して、ラミナに見せる。

 ラミナも頷き、シズクから参加証を受け取る。

 

「ク、クモがなんの゛っ!?」

 

 組長が再び問いかけようとした時、ラミナがブロードソードを振るって、首を舞い上がらせる。

 噴き上がる血から素早く離れて、ラミナはシズクに声を掛ける。

 

「ほな、すまんけど血と死体だけ吸い込んでくれん?」

 

「オッケー」

 

 ラミナはシズクの仕事を見守りながら、今後の予定を考える。

 休めと言われたが、現状情報収集を止めるのも難しい。

 ただでさえ、マチ達も動き回っている。流石に誰も手配書の人間だと気づかないと思うのは無理があるだろう。

 あれだけ情報サイトで写真が出回っているのだから。誰かしら気づくはずだ。

 網にかかった者によっては、自分も調べる必要があるとラミナは考える。

 

 その後、全ての死体と血、そして監視カメラ映像が録画されてるハードディスクを回収して、ラミナ達はビルを後にする。

 

「あ。ねぇ、あいつらに鎖野郎とかの話、聞けばよかったんじゃない?」

 

「あ」

 

「おいおい……」

 

 シズクの言葉にラミナも今更ながらに気付き、フランクリンが呆れる。

 参加証の事ばかり気にしていたので、すっかり忘れていた。

 

「ま、まぁ……あんなちっこいマフィアが、そんな情報持っとるとは思えんでな。うん、知らんやろ、きっと」

 

「お前な……」

 

「それもそっか」

 

「納得するのかよ」

 

 ラミナの言い訳と、それに納得するシズクに呆れるフランクリン。

 しかし、ラミナの言っていることも分かるし、殺した以上どうにもならないのでそれ以上何も言うことはなかったのであった。

 

 

 

 その頃。

 

 ゴンとキルアは息を潜めて、隠れていた。

 理由は目撃情報を受け取って、見つけたマチとノブナガを追跡しているからである。

 

 マチとノブナガは手配書とは服装と髪形を変えていたが、堂々と街中を歩いていた。

 

 そして、キルアは2人の姿を目の当たりにした瞬間、自分達で勝てる相手ではないと悟る。

 しかし、それでも金を手に入れるチャンスをフイにしたくはないとのことで、全神経を注いで尾行を行っていた。

 

(……くそっ。全っ然、気を緩めねぇ……!)

 

 キルアは冷や汗が止まらない。

 もしバレれば、一巻の終わり。

 それでも何かしらの情報を手に入れたいという思いもある。

 

 【絶】を使っているので、位置まではバレていないはず。

 しかし、それは相手も念使いであれば、警戒はしているはずである。

 キルア達はまだ念能力の基礎を終えたばかりだ。相手の位置を探る能力を持っていれば、手の打ちようがない。

 

(位置まではバレていないはず。だから、連中は移動を続けている。問題は尾行していることがバレているかどうか……)

 

 バレていなければ移動先がアジトの可能性が高い。しかし、バレていれば、その先は罠かもしれない。

 その見極めがまだ出来ないキルアだった。

 

(……奴らに不自然な態度はない。まだ行ける!)

 

 キルアは尾行を継続する。

 

 しかし、キルアとゴンは追跡することに集中し過ぎていて、自分達も追跡されている可能性にまで頭が回らなかった。

 

 キルアとゴンから少し離れた場所で、その背中を見つめる人影があった。

 

「へぇ、ガキのくせに随分と尾行に慣れてやがるな」

 

「【絶】も完璧ね。どこの子飼いかしら?」

 

 フィンクスとパクノダである。

 2人はクロロの付き添いとして出かけたのだが、

 

『敵を騙すにはまず味方からだ。誰もノブナガ達に気づかないことはないだろう。逆にその相手を尾行して捕まえろ』

 

 と、言われたのだ。

 

「今頃、ノブナガとマチはビビってんじゃねぇか? 4人につけられてよ」

 

「マチは勘で気づくかもしれないわよ? それにノブナガも我慢出来なくなるかもね。ウボォーのことで一番納得してないでしょうから」

 

「まぁ、しょうがねぇだろ。ウボォーとノブナガはよく組まされてたし、相性も良かったしな」

 

「フィンクスだって、納得してないんでしょ?」

 

「……当たり前だ。あいつをたかが鎖で縛れるわけがねぇ」

 

 フィンクスとて、ウボォーギンが負けたとはまだ信じていない。

 いくら具現化系や操作系とはいえ、完全にウボォーギンを拘束できるとは思えなかった。

 ウボォーギンのオーラは強化系故にかなりの強さを誇る。それを突破して数時間拘束したり、操れるとはとても思えない。

 

 しかし、それは逆に言えば、ウボォーギンが死んだ可能性が高い事も示している。

 なので、ノブナガやフィンクスはそれに気づいても、納得が出来ないのだ。

 パクノダもその思いを理解しているので、それ以上何も言うことはしなかった。

 

「動くわよ」

 

「ああ」

 

 そして、2人はゴンとキルアの尾行を再開するのだった。

 

 

 マチとノブナガは視線を感じ取るも、位置が掴めていなかった。

 

「いくら何でも急に増えすぎじゃねぇか?」

 

「知らないよ。けど……思ったより釣れたね」

 

「鎖野郎のことを知ってればいいけどな」

 

 マチとノブナガは人気のない方向に移動することにした。

 そして、レンガ造りの廃墟に足を進め、中庭と思われるところで待ち構えることにした。

 

 しかし、何となく気配は感じるも結局位置も分からず、襲ってくる気配もない。

 

「……誘いに乗ってこないね」

 

「……鎖野郎じゃないかもな」

 

「なんで?」

 

「……急に機嫌悪くなってねぇか?」

 

「うっさい」

 

 マチはここに来てから妙に目が据わり始めて、不機嫌になってきていた。

 ノブナガは訝しむが、マチの機嫌はどんどん下降していく。

 

「どうしたんだよ? つけてる奴らになんか感じてんのか?」

 

「……そうだね。なんかラミナと繋がってる気がする」

 

「あぁ? ラミナとぉ? 鎖野郎じゃなくてか?」

 

「……鎖野郎とも関わってると思う」

 

「おいおい、本気で言ってんのか? それだとラミナと鎖野郎が繋がってることになりかねねぇぞ?」

 

「そこまでは知らないよ。でも、今隠れてる奴らはラミナとも鎖野郎とも繋がってる気がする」

 

「勘か?」

 

「勘だ」

 

「はぁ~……お前の勘は当たるからなぁ」

 

 ノブナガは頭を掻きながらため息を吐いてボヤく。

 マチの勘は旅団内でも頼りにされており、それで救われたことは何度もある。

 なので、マチの勘は意外と馬鹿に出来ない判断材料とされている。

 

「けどなぁ……流石に位置も分からねぇこの状況じゃなぁ」

 

「まぁね」

 

 マチもイラついてはいるが、状況は把握できている。

 無闇に飛び掛かって、隠れてる者達を逃がすようなヘマはしない。

 

 その様子をキルアは、冷や汗を流して見つめていた。

 

(バレたか? いや……だったら、もうとっくの昔に襲われてる)

 

 マチから怖気がするほど殺気が放出されているのだが、無造作に放出されていることから挑発か、ノブナガとの会話でイラついただけなのか。

 広場で見つけた時も、一度マチとノブナガの間で恐ろしい殺気が放たれた。

 なので、今回もそれかもしれないと考える。

 

 しかし、先ほどとは違い、妙に体の震えが止まらない。

 

(……なんでこんなに嫌な予感がするんだ?)

 

 キルアの頭の中で警鐘が鳴り響く。

 

(逃げるか? けど、今下手に動けば逆に位置がバレるかもしれない……)

 

 キルアは別の場所に隠れているゴンに電話を掛ける。

 

『キルア?』

 

「大丈夫か?」

 

『うん……これって、バレたのかな?』

 

「位置はバレてないと思う。けど、俺達が尾行してきたのはバレてるだろうな。問題はこの殺気で下手に動けば、位置がバレるかもしれないってことだ……」

 

『どうする?』

 

「仲間が来る可能性もある。動かず様子を見よう」

 

 その時、ノブナガ達の辺りから携帯が鳴る。

 

「!! ゴン! 一度切るぞ! 注意して見てろ!」

 

 キルアは電話を切って、ノブナガ達を注視する。

 

 

 ノブナガは電話に出る。

 

「おう、なんだ?」

 

『どんな様子かと思ってな』

 

「今、つけられてんだけどよ。襲って来ねぇんだ。中々位置が掴めねぇし、長引きそうだ」

 

『それじゃあいいこと教えてやるよ』

 

「あ?」

 

『右の4階。2人、いるぜ』 

 

 その言葉と同時にノブナガは告げられた方向を見る。

 

「「!!!」」

 

 ゴンとキルアは完全に捉えられたことを本能的に悟り、合図もなく同時に逃げようと駆け出す。

 

 しかし、出口に遮る様に人影が立っていた。

 キルアの前にはフィンクス、ゴンの前にはパクノダがいた。

 

 キルアはすぐさま部屋の天井や壁を素早く跳び跳ねて、フィンクスを撹乱しようとする。

 しかし、フィンクスは完璧にキルアの動きを捉えていた。

 

 横を抜けようとしたキルアの足を掴む。

 しかし、キルアはそれを読んでいたかのように掴んでいた大量の小石を投げる。

 それをフィンクスは容易く躱す。

 キルアはそれすらも布石として、掴まれていない足を振り抜く。

 

 だが、それもフィンクスは容易く片手で受け止める。

 

「くっ!!」

 

 キルアはすぐさま両手で地面を掴み、全力で体を捻じる。両足から血を吹き出しながら、フィンクスの手から逃れて距離を取る。

 

「ヒュウ♪」

 

 フィンクスはキルアの行動に感心して、口笛を吹く。

 キルアは再びどうにかして逃げ道を探そうとするが、

 

「よぉ、フィンクス」

 

 窓にノブナガの姿があった。

 

(なっ!? ここ、4階だぞ!?)

 

「なんでお前がここにいる? 団長とお出かけだったんだろ?」

 

「敵を騙すには、まず味方からだとよ」

 

「か~~。また団長にしてやられたよ……」

 

 ノブナガが頭を掻きながらボヤく。

 しかし、すぐさま雰囲気を鋭くしてキルアを睨む。

 

「さて、兄ちゃん。いくつか聞きてぇことがあるんだが……」

 

 

 

 ゴンの方はパクノダとマチが挟み込んでいた。

 ゴンは下手に動かず、交互に2人を見て、隙を狙っていた。

 

 マチはゴンを見て、

 

(……やっぱり薄っすらとラミナの気配を感じる)

 

 そう感じていた。

 

(でも、こいつはそこまでムカつかない……。ちっ、ノブナガの方だったか) 

 

 マチは内心舌打ちするも、油断なくゴンを見据える。

 

「ボウヤ。鎖野郎って知ってる?」

 

「え?」

 

「鎖を使う念能力者のことよ。あんた、そいつに頼まれてアタシ達の事、つけてたんでしょ?」

 

「知らないよ。俺達は自分の意思で、お前達を追ってたんだ」

 

「ふぅん。じゃあ、ラミナって名前に聞き覚えは?」

 

「え!? ラミナ!?」

 

 ゴンは唐突にラミナの名前を聞かれて、誤魔化すことが出来ずに正直に反応してしまう。

 

「……やっぱり」

 

「なんで急にラミナの事聞いたの?」

 

「勘」

 

「……そう」

 

 パクノダは相変わらず変なところで発揮されるマチの勘に呆れるしかなかった。

 

「じゃ、色々聞かせてもらおうか。もう1人のことも、ね」

 

 

 遂に恐ろしい姉の糸に、ゴンとキルア(獲物)が絡みついた。 

 

 

 


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