暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#41 アネ×タイ×コンヤクシャ

 マチがゴンにラミナとの関係を問いただしている頃。

 

 キルアは生死を懸けた緊張感の中にいた。

 

「問1。何故俺達をつけた?」

 

「簡潔に述べよ」

 

 ノブナガとフィンクスが一切の油断なくキルアを睨みつけながら問いかける。

 キルアは下手な嘘は逆に危険と考えて、正直に答える。

 

「マフィアがあんた達に莫大な懸賞金をかけたんだ。あんた達の居場所を教えただけで大金をくれるってサイトもいくつかある」

 

「問2。尾行は誰に習った?」

 

「……尾行って言うか、【絶】って技なんだ。俺、プロのハンターを目指してるから」

 

「誰に習ったって聞いてんだよ」

 

「……プロハンターだよ」

 

「問3。鎖を使う念能力者を知ってるか?」

 

「? 鎖?」

 

「具現化系か操作系の使い手だ」

 

「お前の師匠ってのが右手にジャラジャラ鎖を束ねてるんじゃないのか? それともおまえ自身がそうか?」

 

「……俺の師匠は確かに具現化系だけど、俺が見たのは刀を具現化したところで鎖は知らない。それに教えてもらったのは基本の四大行と【堅】と【円】だけだ」

 

「刀、ねぇ……。じゃあ、問4。ラミナって名前に心当たりは?」

 

「!?」

 

 ラミナの名前にキルアも流石に一瞬動揺を露わにしてしまった。

 フィンクスも訝し気にノブナガを見る。

 

「あ? なんであいつの名前がここで出てくんだよ?」

 

「マチの勘だ。こいつらはラミナにも鎖野郎にも繋がってそうだって言っててよ」

 

「へぇ……。どうなんだ? ガキ」

 

「……鎖野郎は知らないけど、ラミナは知ってる。さっき話した俺に念を教えてくれたプロハンターがラミナだよ」

 

「お前に念を教えた……? ちょっと待て、お前もしかして……」

 

「ゾルディックか? あいつの婚約者って言う……」

 

「なっ!?」

 

 キルアは目を見開いて固まる。

 その反応を見たノブナガとフィンクスは、当たりだと理解して、一気に吹き出す。

 

「ブハハハハハ!! な、なんだよ、まだガキじゃねぇか!! ハハハハ!!」

 

「あ、あいつ、ショタコンだったのか! ブハハハハハ!!」

 

「ち、ちげぇよ!! 親父達が勝手に言ってるだけだ! 俺もあいつも認めてねぇ!!!」

 

「親公認なんじゃねぇかよ!! クハハハハハ!!」

 

「ちぃ!! (あいつ!! なんでこんな奴らに話してんだよ!?)」

 

「くくくく!! いいぜ、坊っちゃん。ここで殺すのは止めといてやる」

 

「けど、もう1人の方は保証しねぇ。どうする?」

 

 ノブナガとフィンクスは未だ笑いながら、キルアに問いかける。

 キルアは苛立っていたが、ゴンのことを示唆されてすぐに冷静になり、大人しく両手を上げる。

 

「……大人しく従う。だから、向こうにもそう伝えてくれ」

 

「ほぉ……いい判断だ。いいぜ、連絡はしてやる」

 

 ノブナガが携帯を取り出して、電話を掛ける。

 キルアはどうにかこの場での命は繋いだことにホッとするも、まだまだ油断できないと気を引き締める。

 

(どうにかして隙を作って逃げ出さねぇと……! ラミナと顔見知りみたいだし……そこから突破口が出来るか?)

 

 キルアはそう考える。

 しかし、キルアはまだ知らない。

 

 もう一方に処刑人がいることを。

 

 

 

 

 ノブナガとフィンクスはキルアを連れて、ゴンを連れたパクノダとマチと合流する。

 

 その瞬間、キルアの全身と首に何かが巻き付いて、絞め付けられる。

 

「ぐぅ……!!」

 

「キルア!?」

 

「……あんたがゾルディックだね?」

 

「っっ!! (見えなかった……! ヤ、ヤバイ……!?)」

 

 徐々に首や全身を絞め付ける力が強くなっていく。

 呼吸も厳しくなってきて、抜け出そうにもビクともしない拘束にキルアは死を予感した。

 

「オイオイ……。いきなりだな」

 

「おい。落ち着けよ、マチ。まだこいつから情報を全部聞き出せてねぇ」

 

「片方だけ生き残ってればいい。別にこいつはいらない」

 

「待ちなさい。せめて、ラミナに一度連絡した方がいいと思うわよ?」

 

「ラミナからは『向こうから来れば、死んでも自己責任』って言質を取ってある。アタシらを旅団だと知って、つけてきたんだ。その覚悟くらい出来てるよ。ゾルディックの御曹司なら尚更ね」

 

「……はぁ。ホントにおめぇはあいつのことになると沸点低いよな」

 

「うっさい」

 

「キルア! やめろ!」

 

「知らないね」

 

「マチ。ラミナからよ」

 

「あ?」

 

 パクノダが携帯をマチに差し出す。パクノダはマチが暴走することを予想していたので、ラミナにメールをしていたのだ。

 マチはラミナからということで、絞め付けるのを止めて携帯を受け取る。それでももう片方の手で糸を引き、力を緩めはしないが。

 

「もしもし」

 

『ストーーップ! マチ姉!! 今、その場で絞め殺すんはちょっと待って!?』

 

「あんたが言ったことだよ。こいつからアタシの前に現れたら、死んでも自己責任だって」

 

『そうなんやけど!! 今はあかん!! 今、そこでそいつ殺したら、クロロの仕事に支障が出かねん!!』

 

「は? どういうこと?」

 

『クロロが十老頭暗殺を依頼しとるんもゾルディックやろ? そいつはキルアを溺愛しとるから、殺されたん知ったら依頼を拒否する可能性があるんや。しかも、十老頭もクモに備えて殺し屋を集め始めて、その中にゾルディック当主が来る可能性が高い。やから、ここでキルアを殺したら、マフィアンコミュニティーとゾルディック家を同時に相手にせなあかん! そうなったら仕事どころちゃうやろ? 鎖野郎もまだ見つかっとらんのに。流石にこれ以上敵を増やすんはあかんて。ゾルディックは陰獣とは格がちゃう。ウボォーがおらん今は控えるべきや。せやろ?』

 

「…………」

 

 マチは盛大に顔を顰めて、殺気を撒き散らす。

 キルアとゴンは冷や汗全開で体が硬直し、ノブナガ達は顔を見合わせて肩を竦める。

 

『こ、この仕事終わったら、マチ姉が満足するまで一緒に仕事するから!! どんな仕事でも文句言わんし、他の仕事は無視するから!! やから、もうちょっと待って!! せ、せめてクロロの判断聞こ!? な? な?』

 

「…………ふん」

 

 マチが鼻を鳴らすと、キルアを縛っていた糸が解ける。

 キルアは崩れ落ちて、ゴンが慌てて支える。

 

「っはぁ!! げほっ! げほっ!」

 

「キルア!!」

 

「……今の話。嘘じゃないだろうね?」

 

『取引で嘘つかんって。元々この仕事終わったら、しばらくはマチ姉達と一緒に行動するつもりやったんや』

 

「……なら、今は見逃す。これからアジトに戻るから、団長に聞いといて。それとあんたも来な」

 

『了解』

 

「じゃあね」

 

 マチは通話を切り、パクノダに携帯を返す。

 そして、キルアを冷たく見下ろす。

 

「ラミナに感謝するんだね。もう少し生き延びれるよ」

 

「っ……!」

 

「で? どうすんだ?」

 

「アジトに連れて行く。その間にラミナが団長にこいつらの処遇を聞いてるから」

 

「なるほどな。というわけだ。大人しく付いてきな。逃げ出せば、流石に俺達ももう止めねぇぞ」

 

 フィンクスがゴンとキルアに言い放ち、ゴンとキルアも頷いて大人しく連行されていく。

 

 

 

 その頃、電話を終えたラミナは精魂尽き果てて崩れ落ち、同情していたフランクリンに背負われて運ばれていたのだった。

 

 

 

 それから1時間ほど経ち、ゴンとキルアは車で旅団のアジトまで連行された。

 移動中一切目隠しされることもなく、堂々とアジトがある廃虚を見せる。

 

 さらに車から降りても、周囲を囲むだけでアジトまでの道のりを一切隠す気はない。

 

(こんなところ見せてもいいのかよ……。生きて帰す気はないってことか……)

 

 キルアはどうにかして逃げ道はないかと考え続ける。

 しかし、先ほどのフィンクスとマチの動きから、隙を作れても逃げ切れるかは怪しかった。

 

(特にあの女の能力……。絞めつける能力ってことは、網とかでも張って俺達を捕まえることも簡単なはず。今の所は何もされてないみたいだけど……) 

 

 やっと余裕が出来て【凝】を使ったが、特に何もされてなかった。

 ゴンにも特に何も仕掛けられていないし、周囲にも変なものは見えない。

 

「アジトへようこそ」

 

 廃倉庫の扉を開けながら、パクノダが2人に言う。

 そして、ゴンとキルアが中に踏み込んだ瞬間、

 

 顔を掴まれて持ち上げられ、アイアンクローを浴びせられる。

 

「「イダダダダダダダっっ!!?」」

 

「こんボケェ!! どんな思考回路作ったら、クモを尾行しようってなんねん!! いくら暗殺者一家の御曹司や言うたかて、念覚えたてのクソガキがどうにか出来るとでも思たんか!! えぇ!? 念使いは見た目で実力を判断出来んって言うたやろが!! それにお前が無様に死んだら、うちがお前のクソ兄貴や親父から命狙われるて言わんかったか!? この脳みそには忠告を聞くっちゅう能力はないんか!!」

 

「ゴ、ゴメンナサイゴメンナサイ!!」

 

「ゴメンで済んだら、警察も殺し屋もいらん!!」

 

 ラミナは振り返りながら放り投げる。

 ゴンとキルアはうつ伏せに地面に落ちる。

 

「「ぐえ!?」」

 

「はぁ~……マチ姉」

 

「ん?」

 

 ラミナは疲れ切った顔でマチに携帯を投げ渡す。

 受け取ったマチは画面を見る。

 

『ゾルディックとの必要以上の敵対は流石に困る。出来れば止めてくれ』

 

 と、クロロからのメールが届いていた。

 マチは盛大に顔を顰めて、キルアを睨みつける。

 

「な、なんだよ……!?」

 

「……ふん」

 

 マチはラミナに携帯を勢いよく投げ返す。

 ラミナは難なくキャッチして、携帯を仕舞う。

 

 キルアとゴンはようやく周囲に目を向けて、眼を見開く。

 

 そこにはクロロとウボォーギンを除く全員が揃っていたからだ。

 もちろんヒソカも。

 

「あ」

 

「あん? 誰か知ってんのか?」

 

「ヒソカや。言うたやろ? ヒソカもこいつらも今年のハンター試験受けとんねん。そっちのとんがり坊主とうち、ヒソカはハンターの同期でもある」

 

「ほぉ……」

 

「で? なんで旅団をつけとったんや?」

 

「マフィアが懸けた懸賞金狙いらしいぜ。本当なら、な」

 

 フィンクスがニヤニヤしながら言う。

 フェイタンやノブナガもラミナを見てニヤニヤしており、シャルナークは流石に余裕がないのか顔が険しい。

 コルトピ、ボノレノフは顔が隠れているのでよく分からないが、どちらかと言えばフランクリン同様ラミナに同情的な視線を向けている。

 シズクは我関せずな感じで読書をしており、ヒソカはいつも通りの嘘くさい笑みを浮かべている。

 パクノダは不機嫌なマチを宥めている。

 

「懸賞金? お前ら天空闘技場で十分金は儲けたやろ。なんでわざわざリスク犯して懸賞金狙うねん?」

 

「……ちょっとオークションで競り落としたいものがあってさ。天空闘技場の金じゃあ足りなかったんだよ」

 

 キルアは顔を顰めながらも正直に事情を答える。

 ゴンも頷いており、ラミナはその雰囲気から事実であることを悟る。

 

「……何を競り落としたいんか知らんけど、20億程度でクモを狙うとかアホやろ。お前、自分の親父を20億で狙うか?」

 

「…………無理」

 

 最低その10倍は欲しい。それでようやくやるかどうか検討する。

 キルアはそう思った。

 

 ラミナは右手で顔を覆って、深くため息を吐く。

 

「はぁ~~……で? パク姉。2人は鎖野郎のこと知っとるんか?」

 

「いいえ。2人とも、本当に知らないみたいよ」

 

「ホント?」

 

「ええ。彼らに鎖野郎の記憶はないわ」

 

「……おかしいね。まぁ、パクが言うなら間違いないんだろうけど」

 

「ラミナの方は当たったのにな」

 

 マチは納得しきれていないが、記憶を覗き込んだパクノダが言うならば文句言うことは出来ない。

 

(マチ姉の勘に引っかかったっちゅうことは……やっぱり鎖野郎はクラピカか?)

 

「じゃあ、もう帰してもいいんじゃねぇか? 殺すのはまずいんだろ?」

 

「待てよ。こいつらが鎖野郎を鎖野郎と知らねぇだけかもしれないぜ? 黒幕を吐かせてからでもいいんじゃねぇか?」

 

「黒幕がいても、そいつは鎖野郎じゃないよ。俺も調べたし、ラミナの調査でも鎖野郎は単独で行動してるはずだから」

 

「せやな」

 

 シャルナークの言葉にラミナも頷く。

 

「ノストラードファミリーに所属しとるんか客員なんかは知らんけど、それでもマフィアと繋がり持っとる奴が、こいつらに依頼を出すメリットはないでな。ウボォーの実力を知っとれば、こんな未熟モンに尾行させるんはお粗末すぎる」

 

「確かにな」

 

「俺達の標的は鎖野郎だけだ。それ以外はほっとけばいい」

 

 フランクリンが頷き、フィンクスも納得する。

 そして、フェイタンが揶揄うようにゴン達に声を掛ける。

 

「だ、そうだ。よかたね。お家帰れるね」

 

「とっとと出て行きな。殺されたくなければね」

 

 マチがキルアを睨みつけながら言い放つ。

 キルアは流石にイラっとしたが、勝てないのは理解しているので必死に耐える。

 それにノブナガが笑いながら、キルアの肩を叩く。

 

「くくくっ! 災難だな、坊っちゃん。あいつは妹のことになるとしつけぇぞ~」

 

「……妹?」

 

「マチとラミナは姉妹同然に育ったんだよ。ま、俺達もあいつがガキの頃からの付き合いだがな」

 

「ラミナも旅団のメンバーなの?」

 

「ちゃうで。今回はただの手伝いや。まぁ、近いうちに入団するつもりではあるけど。こればっかりは団長殿次第やな」

 

 ラミナはゴンの問いかけに肩を竦めて答える。

 ゴンはその答えに僅かに眉を顰める。

 

 それはつまり、クラピカと敵対することに他ならない。

 

「けど、それって……無関係な人間を殺すことになるんでしょ?」

 

「お前なぁ……んなもん、暗殺者に言うことちゃうやろ」

 

 ラミナは呆れるしか出来なかった。

 

「だってラミナは無関係な人間を殺せる人間じゃないでしょ?」

 

「……その無関係っちゅうんはどこまでを指すんや?」

 

「え?」

 

「やから、お前の言う無関係って誰やねん」

 

「それは……」

 

「今回のうちらで言うたら、誰が無関係になるんや? まさかマフィアとか言わんやろうな? マフィアはがっつり関係者やぞ。末端だろうが関係ないで。で、今の所、うちらはまだマフィア関係者以外殺しとらんで。まぁ、多分やけど」

 

 流石に全員が誰を殺したまで把握はしてないが、今の所無駄な殺しは誰もしてないはずだ。

 一番可能性があるのは鎖野郎を探し回ったウボォーギンだが、調べようがないので無視する。

 

「それに無関係な人間を殺したとして、なんか困るんか? 仕事に影響が出るなら生かすけど、影響ないなら生かしとく理由もないやろ。なぁ?」

 

「そうだな。だから、俺達はお前達を帰してやるって言ってるんだ」

 

「殺してもつまらん奴を殺す理由はねぇな。疲れるしよ」

 

 ラミナの問いかけにシャルナークとフィンクスが答え、他の連中も同意するように頷く。

 正確に言えば、無関係か関係者かなど判断などしていない。

 しかし『仕事の現場にいるなら、無関係って言えなくね?』と言う思いもある。

 

 つまり、巻き込まれた奴が悪い。もしくは、運が悪かっただけ。

 

 ラミナも暗殺の現場にいれば、無関係だったとしても殺す。それが仕事だからである。

 ただ、殺す時はしっかりと一度目を合わせて、自分が殺したことを刻み込ませる癖が出来ている。

 そうすれば、恨みを自分に向けさせることが出来るからだ。

 

 なので、ゴンの言葉は、ラミナや旅団にとってはやや的外れのように感じるのだ。

 

 ゴンが言いたいのは恐らく盗賊行為についてなのだろうとラミナは推測する。

 と言っても、そこはラミナには話す資格はないので何も言わないが。

 

「さて、そろそろ行こか。うちらも人探しがあるし」

 

「鎖野郎って奴?」

 

「そ」

 

「……なんでそいつを探してんの? わざわざ人目につくところに出てまで」

 

 キルアが意を決したように訊ねる。

 

「旅団のメンバーがそいつにやられた可能性があるからや。手配書に写真があってここにおらん奴がおるやろ?」

 

 キルアとゴンはメンバーを見渡して、確かに手配書に載っていた者が1人いないことに気づく。

 

「鎖野郎はノストラードファミリーに所属しとるはずなんやけど、その団員と一緒に雲隠れしたみたいでな」

 

「復讐ってこと?」

 

「余計な邪魔者は早めに殺しときたいっちゅうことやな。まぁ……何人かは、復讐メインやけどな」

 

 ラミナはノブナガを見る。

 ノブナガは不機嫌そうに「ふん!」と鼻を鳴らして、そっぽを向く。

 

「……あいつやうち、他の団員の何人かはクモ設立前からの付き合いでな。うちにとっては兄貴みたいなもんや。そいつはゴンと同じゴリゴリの強化系でなぁ。パワーでは旅団一やった。そこのノブナガとはよぉコンビ組んどったみたいやで」

 

 ノブナガを顎で示しながら、ラミナは少し寂しそうに語る。

 ノブナガも悔し気に眉間に皺を寄せて、右手を握り締めている。

 

 その様子にゴンとキルアは旅団への印象を変える。

 血も涙もない人間の集まりだと思っていた。

 しかし、仲間内では強く結ばれていることが今のだけでも十分理解出来た。

 

 だからこそ、

 

「だったら、なんで……」

 

「ん?」

 

「だったら、なんでその気持ちをほんの少しだけ、お前らが殺した人間達に……何で分けてやれなかったんだ!!」

 

 ゴンは感情が爆発したように旅団に向かって叫ぶ。

 

 その瞬間、フェイタンがゴンの背後に回って、左腕を捻り上げて地面に押し倒す。

 

「ゴン!」

 

 キルアが飛び掛かろうとした時、ラミナが素早く動き、キルアの首に右腕を回して捕まえる。

 

「ぐっ!」

 

「暴れんな。これ以上暴れれば、ゴンも死ぬ」

 

「っ!」

 

 ラミナはそう呟いて、すぐにキルアを放す。

 キルアは素早く周囲を見渡し、マチや他の旅団達がキルアを鋭く睨みつけていることを確認した。

 

「っ……!」

 

 キルアは動くに動けない状況に歯軋りする。

 そして、ゴンは腕の痛みに歯を食いしばって耐える。

 

「お前、調子に乗り過ぎね」

 

「フェイ、無駄や無駄」

 

「何がか?」

 

「そいつは納得出来んことは腕を折られようが、頭に刃を突きつけられて殺されかけようが、弱音も言わんし降参もせん。頑固さはウボォーにも負けへんで」

 

「……ほぉ」

 

 フェイタンは逆にどこまで耐えられるか興味が湧いたようだ。

 ラミナは失敗を悟ったが、すぐに切り替えて言葉を続ける。

 

「そいつは鎖野郎の事は知らんし、もううちらに勝てんことは理解しとるやろ。今は無駄なことせず、鎖野郎と次の仕事に集中しとけや。ウボォーがおらん以上、お前やフィンクスが前に出る事も増えるんやで?」

 

「ふん。別にこれくらいなら疲れないね」

 

「うちが言うとるんは、鎖野郎の関係者を捕まえた時の拷問の方に力を割いた方がええんちゃうんかってことや。ゴンよりそっちの拷問の方が団長の命令に沿うんちゃうか?」

 

「……確かにね。師匠に感謝するよ」

 

「っ……!」

 

 フェイタンはゴンから離れて、ゴンは腕をさすりながら立ち上がる。 

 キルアはゴンに駆け寄る。 

 ラミナは呆れたようにゴンとキルアを見て、小さくため息を吐いて、マチ達を振り返る。

 

「うちはこいつらを追い出してくる。そっちは仕事に戻りぃ」

 

「いや、駄目だ」

 

「あ?」

 

「そいつは帰さねぇ」

 

 突如、ノブナガが口を開く。

 

「ボウズ、クモに入れよ」

 

「はぁ?」

 

 いきなりの言葉にラミナはもちろん、マチ達も顔を見合わせる。

 

「俺と組もうぜ」

 

(……あぁ。ウボォーと似とるからか……)

 

 その言葉でラミナはノブナガの心の内を悟る。

 しかし、もちろんゴンは頷くはずもなく、

 

「いやだ。お前らの仲間になるくらいなら死んだ方がマシだ!」

 

「くくくくっ!! 嫌われたもんだ。なぁ、ラミナ。こいつ、強化系なんだろ?」

 

「……まぁ、そやな。けど、ウボォーには程遠いで?」

 

「分かってるさ、んなこたぁ。けど、団長に推薦するくらいならいいだろ? それまではこいつらをここに置いとくぜ」

 

「……えぇ~……」

 

「俺が見張る。それに推薦する奴を殺しゃしねぇよ。それなら団長の指示にも、お前の要望にも沿うだろ?」

 

「……まぁ、そうやけど……」

 

 確かにどこかに閉じ込めておく方が、下手に仕事を引っ掻き回されなくていいとは思う。

 けど、ノブナガに任せるのは、それはそれで不安である。しかし、ラミナはクロロの仕事が控えているので、流石にノブナガに付き合うわけにもいかない。

 

「ラミナ。ノブナガがそうしたいんだから、ほっときなよ」

 

「そうだよ。ラミナだって、まだ仕事があるんだろ?」

 

 マチとシャルナークが、ラミナに言い放つ。

 

「……はぁ。……ホンマに殺すなや」

 

「わぁってるよ」

 

「どうだか……。ゴン、キルア。ええか? 大人しくしとけよ。下手に逃げようとすれば、殺されんでも腕か足が一本斬り飛ぶで。それだけの差がある。ええか? 絶! 対! 余計なことすんなや!!」

 

「……」

 

「……分かってる」

 

 ゴンは黙ったままノブナガを睨みつけており、キルアは顔を顰めながら渋々と頷く。

 

(逃げる気満々やな……)

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、右手で顔を覆う。

 

「ラミナ、行くよ」

 

「……へいへい」

 

 マチのやや威圧が込められた声に、ラミナは大人しく従う。

 

 こうして、不安を抱えたまま、ラミナは仕事に臨むことになるのだった。

 

 


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