暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

42 / 153
#42 ウラナイ×ノ×シ

 ラミナ達は場所を変えて、今後の予定を話し合う。

 

「マフィアは動きを止めたな」

 

「多分、集めた殺し屋達を使って待ち構えるつもりやな。それにセメタリービル周囲に検問が敷かれ始めとる。関係者以外はビルに近づくことも出来ん。近づくには、この参加証がいる」

 

 ラミナは奪った参加証を見せながら説明する。

 

「つまり、警備のマフィアと殺し屋だけで俺達を殺せると思ってるってことか」

 

「舐められてるね」

 

「ということはノストラードファミリーや鎖野郎もセメタリービルにいる可能性が高いってことね?」

 

「ああ。マフィアンコミュニティーは意地でも競売は成功させたいはずや。つまり、旅団を相手にしながら競売も問題なく経営することでマフィアンコミュニティー、十老頭の力も示せるってわけやな」

 

「なるほどな」

 

 フランクリンが頷く。

 その時、ラミナの携帯が鳴る。ラミナは確認すると、クロロからのメールだった。

 内容を確認したラミナは立ち上がる。

 

「団長から?」

 

「おう。そろそろ動くそうや。一度戻る」

 

「アタシ達には?」

 

「何も書いてへん。まぁ、でもセメタリービルにゆっくり向かいながら、鎖野郎探したらええんちゃうか?」

 

「ふぅん……」

 

「なんやったら来るか? ノブナガは動けんし、ペアおらんのやろ?」

 

「……そうだね。暇だし」

 

「じゃあ残りのメンバーは引き続きペアで行動して、セメタリービルに向かおう」

 

「僕はどうしたらいいんだい? ペア、いないんだけど♠」

 

 ヒソカがトランプを弄りながら、シャルナークに訊ねる。

 シャルナークは眉間に皺を寄せて、メンバーを見渡し、マチで止まる。

 マチはラミナの隣に立って盛大に顔を顰める。

 

「……ヒソカなら別に1人でいいでしょ。あいつ別に手配書載ってないし」

 

「酷いなぁ♣」

 

「それもそうだな。ヒソカは1人でいいか」

 

「酷いなぁ♦」

 

 ヒソカは悲しそうに言うが、その顔は全く変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。

 ラミナはその様子にイラっとするも、

 

(……まぁ、あいつからすれば仕事なんてどうでもええし、1人の方が都合ええか……)

 

 と、自分を納得させる。

 恐らく仕事の邪魔はしないはず。なので、今は我慢するラミナ。

 

 その後、解散となり、マチとラミナは集合場所の隠れ家に顔を出す。

 マチは仕事時の着替えも持ってきていた。

 クロロはすでにスーツに着替えており、髪を下ろして額の十字を包帯で隠していた。

 

「マチも来たのか? ノブナガはどうした?」

 

「あぁ~……ちょいとな」

 

「?」

 

 クロロは首を傾げる。

 ラミナは参加証を渡しながら、事情を説明する。

 

「……なるほど。確かに面白そうな奴だな」

 

「勘弁してぇや」

 

「いらないよ。あんな奴ら」

 

 ラミナとマチは盛大に顔を顰める。

 クロロはそれに苦笑し、ラミナもスーツに着替えるように言う。

 

「うちも?」

 

「ああ、お前には運転手と付き添い役をしてもらう。髪もカツラを被ってくれ」

 

「なるほど……。フィンクスとかの方がええんちゃうか?」

 

 そう言いながらも、ラミナは大人しく着替え始める。

 

「ほんなら、マチ姉は愛人役でもするか?」

 

「ちょっと」

 

「残念だが、流石に地下競売に愛人を連れて行く奴はいない。それにマチの美顔はマフィアに知られてるからな」

 

「団長も揶揄うな」

 

「悪い悪い」

 

 マチの睨みにクロロは両手を上げて苦笑して謝り、ラミナも苦笑しながらカツラを被ってサングラスをかける。

 

「で? もうビルに行くんか?」

 

「いや、その前に探す奴がいる」

 

「探す奴?」

 

「こいつだ」

 

 クロロが写真が載せられた紙を見せる。

 ラミナとマチが覗き込むと、そこに写されていたのは女の写真だった。

 

「……ノストラードファミリーの占い娘か?」

 

「そうだ」

 

「こいつに近づくんか?」

 

「なんでわざわざ?」

 

「恐らく、この娘の占いは念能力だ。本人が自覚してるかどうかは分からんがな」

 

「……盗むつもり?」

 

「ああ。もしかしたら鎖野郎も見つかるかもしれないからな」

 

「ふぅん」

 

 マチはどうでもよさそうに頷き、ラミナはパソコンを立ち上げてノストラードファミリーの娘について調べる。

 

「……空港におるな」

 

「ああ。ボディーガードが殺されたせいか、組長と入れ替わる様に帰されるらしい」

 

「ほんなら近づく意味ないんちゃうか?」

 

「駄目だったら、それはそれでいい。あくまで機会があれば能力が欲しいだけだ」

 

「ほんなら、さっさと空港行こか。マチ姉はどうする?」

 

「少しここでのんびりしたら、ビルに向かうよ」

 

「気をつけろよ」

 

「分かってる」

 

「ほなな」

 

「ああ」

 

 クロロとラミナは用意した車に乗り込んで、空港まで飛ばす。

 

 空港に到着した2人は、足早に空港内を動き回る。

 すると、空港の売店で買い物をする目標の娘を見つける。

 その周囲には傍仕えの女性2人と、その背後に荷物持ちをしている護衛と思われる男と小柄な人間がいた。

 

「やっぱ1人で動き回るわけはないわな」

 

「ああ。けど、随分な我儘娘のようだ。隙はありそうだ。もう少し様子を見よう」

 

「了解」

 

 クロロとラミナは二手に分かれて、娘を見張る。

 買い物に満足した様子の娘は、待合の椅子に座って傍仕えの女達と談笑する。

 その様子にこれは難しいのではないかとラミナが思い始めた時、おもむろに娘が立ち上がってトイレへと駆け込んだ。

 その時に見えた娘の顔が、妙に真剣なことに違和感を感じたラミナは集中してトイレの入り口に集中する。

 

 少しすると、トイレから若い女性グループが出てきて、その内の1人の歩き方に既視感を感じたラミナ。

 

「……まさか……」

 

 クロロに素早くメールを送り、ラミナは今出てきた女性グループを追いかける。

 すると注視していた女が、突如そのグループから離れて歩き出す。少しすると髪を掴み、引っ張ると髪がズレて青い髪が露わになる。

 それを見た瞬間、ラミナはダッシュで車に戻り、正面に車を回す。

 脱いだカツラをごみ箱に捨てた女は、そのまま意気揚々と空港を飛び出してタクシーに乗り込む。

 ラミナはギリギリでそれを目視し、後から出てきたクロロの前に車を停める。

 

「どうする?」

 

「つける」

 

「やんな」

 

 娘が乗ったタクシーを追いかけようと、車を走らせるラミナ。

 タクシーはそのままセメタリービルへと向かう道を走っていく。

 

「検問で弾かれるやろな」

 

「検問の少し前で止めて様子を見る。すぐにUターンできる位置でな」

 

「へいへい。口説く準備しときや、色男」

 

「ふっ。そっちもカッコいいボディーガードになりきってくれよ」

 

「お任せください、若様」

 

「うおっ、寒気が」  

 

「喧しいですよ、若様」

 

 くだらないやり取りをしながら、ラミナは検問前で路肩に止めて、タクシーの動向を見つめる。

 娘を乗せたタクシーは、やはり門残払いを食らって引き返し始める。

 ラミナはすぐに車を走らせて、そのタクシーの少し後ろにつく。

 

 少しするとタクシーが停まり、娘が降りる。

 ラミナ達の車は一度その横を通り過ぎ、再びUターンする。

 

「行くで」

 

「ああ」

 

 しょんぼりと歩道を歩いている娘の近くで、車を停めるラミナ。

 クロロは後部座席の窓を開けて、娘に向かって声を掛ける。

 

「おじょーさーん!」

 

「ぶふっ!」

 

 爽やか青年のような声で呼びかけたクロロに、思わずラミナが噴き出してしまう。

 ゴン!と外からは見えない位置で座席を殴って叱責するクロロは、顔は爽やかな笑みを浮かべたまま、クロロに気づいた娘に言葉を続ける。

 

「もしかして、ノストラードさんの娘さんかな? こんなところでどうしたのー?」

 

「あ、あの……セメタリービルに行きたいんですけど……」

 

 娘は少し警戒しながらも、クロロの爽やかベビーフェイスに騙されて事情を話し始める。

 クロロは爽やかな笑みを浮かべて、

 

「それなら、俺もこれからセメタリービルに行くところなんだ! 乗って行くかい?」

 

「え!? いいんですか!?」

 

「もっちろん! こんなところお嬢さん1人で歩かせるのも危ないしさ」

 

「ありがとー!!」

 

(おいおい……。マフィアの娘がもう少し警戒せぇや……)

 

 ラミナは簡単に釣れた娘に呆れている間に、娘は嬉しそうに車に駆け寄って、後部座席に乗り込む。

 乗り込んだことを確認したラミナはゆっくりと走り出し、検問所に向かう。

 検問で停められると、クロロから参加証を受け取り、警察官に提示する。

 機械で参加証を確認した警察官は、特に後部座席を確認することなく道を開ける。

 

「どうぞ、お通りください」

 

「どうも」

 

 ラミナは参加証をクロロに返して、走り始める。

 

「良かった~。検問通れなくて困ってたの。ホントにありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「私、ネオン」

 

「俺はクロロ」

 

 甘い雰囲気を作る2人。

 それにラミナは笑い出さないように必死に耐えながら、無表情で運転を続ける。

 

 検問を過ぎたら、交通量はほぼゼロなので10分もせずにセメタリービルに到着する。

 しかし、その道中はマフィアの構成員達が武装して見回りをしている姿をあちこちで視認できた。

 

(街中はマフィアの構成員だけか)

 

 セメタリービルに到着し、車を降りた3人はビルの中に入る。

 ビルの中も前回と違い、銃を装備した警備の構成員がどこに目を向けても待機している。

 ラミナはサングラスの下で素早く周囲を観察し、警備状況と殺し屋の姿を探す。

 

(……目立つところはマフィアか。まぁ、当然か)

 

「競売品の下見までも、まだ時間があるね。そっちで休んでようか」 

 

「うん」

 

 クロロはカフェを指差して、ネオンを連れて行く。

 

「若様、私はしばらく離れますが……」

 

「ああ、分かった。ここの警備は厳重だ。競売が終わるまでは自由にしてくれていい」

 

「よろしいので?」

 

「構わない。迎えが欲しくなったら、また連絡する」

 

「承知しました」

 

 ラミナは頭を下げて、クロロ達から離れる。

 

(この間に邪魔な殺し屋を始末せぇってことか……。会場は10階やったな)

 

 ラミナは一度トイレに入り、【朧霞】を発動する。

 姿を消した状態で、5階から15階を動き回ることにした。

 

 最初に15階に上がり、殺し屋を探す。

 相手も念使いである可能性は高いので、【円】は使い辛い。

 

(流石に監視カメラも回っとるやろうな。ゾルディックはどないしょ?)

 

 クロロが動く前にゾルディックと殺し合うのは流石にマズイ。

 ゾルディックを相手にすれば、絶対に周囲にバレるからだ。

 ラミナはゆっくりと歩きながら彷徨っていると、14階で仮面を被った男が周囲を警戒しながら歩いているのを見つける。

 

 マフィアにしてはスーツでもないので、恐らく雇われた殺し屋なのだろうと推測する。

 

(……そこそこ経験はあるみたいやけど……二流、やな)

 

 動きとオーラの淀みから、実力は低いと判断したラミナ。

 そのまま音も立てず、殺気も漏らさずに、男の背後に歩み寄って、明かりが点いていない通路に入った瞬間に行動に移す。

 

 男の両膝裏に蹴りを叩き込んで膝をつかせ、左腕を捻じり上げながら短刀を首に添える。

 

「ぐぅ……!?」

 

「騒ぐな」

 

「っ!!」

 

「雇われた殺し屋やな?」

 

「あ……ぐ……!」

 

「あと何人おるんや?」

 

「っ……!!」

 

「ま、言わんよな。さいなら」

 

 ラミナは素早く男の首を180度捻りながら、男の正面に回る。

 さらにトドメに手刀を叩き込んで、確実に骨を砕く。男の首がグニャリと横に90度以上曲がり、そのまま崩れ落ちる。

 ラミナは再び姿を消して、死体をそのままに歩き出す。

 

 13階に下りると、糸目の男が薄暗い廊下に立っていた。

 実力は先ほどの仮面の男と同レベル。

 

(まぁ、クロロの策略で腕が立つ連中はほとんどヨークシンから手を引いとるはずやからな。ここにおるんはあんなレベルか、ゾルディックレベルくらいか)

 

 クロロが十老頭暗殺をあちこちで依頼していたために、危険を察知したベテラン勢はヨークシンから離れている。

 なので、恐らくいると思われるゾルディック以外は、そこまで強くはないはずだとラミナは推測する。

 

(……あそこで待ち構えとって【凝】も使わんレベルか)

 

 仁王立ちしときながら【凝】を使わない。

 それだけで殺し屋としても、念使いとしても二流以下である。

 ラミナは糸目の男まで5mほどの距離まで歩き、直後一瞬で男に詰め寄って喉を掻っ切る。

 そして、一度短刀を消し、すぐに新しく具現化して再び姿を消す。

 

「っっ……!?」

 

 男はラミナの姿を捉える事も出来ず、誰かに斬られたことしか把握できなかった。

 そして、振り向いた時にはすでにラミナの姿はなく、糸目の男は何が起こったのか理解することなく、崩れ落ちて意識を闇へと永遠に落とすのだった。

 

 ラミナは殺し屋探しを再開すると、携帯が震える。

 取り出して確認すると、クロロからのメールだった。

 

『ハント終了。娘は狙うな。ゾルディックは俺が相手をするから、もし見つかった場合正直に話して構わない。それと、団員達もこれからここに呼ぶ。暴れさせながら来させる予定だ』

 

「お~お~。またド派手やなぁ」

 

 ラミナは呆れながら呟き、一度クロロを探すことにした。

 クロロの能力の制約上、占ってもらっているはずだからだ。 

 そして、なぜわざわざ派手に暴れさせることにしたのかを聞きたかったからだ。

 

 クロロが好きそうな場所を探す事、20分。

 大きな窓が開き、2つの死体が転がる大部屋にクロロはいた。

 

 爆発音や銃声が響く地上を見下ろしながら、指揮者の真似事をしていた。

 

 その後ろ姿が妙に寂しそうに見えたラミナは、5分ほど入り口で黙って見守っていた。

 

 クロロがゆっくりと両腕を下ろしたところで、ようやく声を掛けた。

 

「ヘタクソな…指揮やなぁ。全然音が揃ってなかったで?」

 

「ふふっ。何しろ初めてだからな。それでも……これでウボォーが穏やかに成仏するなら、な」

 

「……」

 

 ラミナは出かかった疑問を必死に抑え込みながら、未だ戦場を見下ろすクロロの横に移動して、窓から足を投げ出す形で座る。

 

「……なんか占いで出たんか?」

 

「……ああ」

 

 クロロは手帳を取り出して、ラミナに渡す。

 ラミナは受け取って、開かれたページを見る。

 

「あの娘の占いは4~5つの4行詩で出来ている。それが月の週ごとに起こることを予言してる。今日は9月3日の金曜日。一番最初の詩だな」

 

「ふぅん……」

 

 

 

 大切な暦が一部欠けて

 遺された月達は盛大に葬うだろう

 喪服の楽団が奏でる旋律で

 霜月は高く穏やかに運ばれていく

 

 菊が葉もろとも涸れ落ちて

 血塗られた緋の眼の地に臥す傍らで

 それでも貴方の優位は揺るがない

 きっと刃が舞い踊ってくれるから 

 

 幕間劇に興じよう

 向かうなら東がいい

 懐刀を持って行くといいだろう

 それが待ち人への道標となるはずだ

 

 

 

 それ以降も続いているが、特に印象に残ったのはこの3つだった。

 

「……霜月、か。霜月は11月。っちゅうことは……」

 

「ああ。ウボォーのことだ。俺の数字は0。団員は丁度暦の数と一致する」

 

「……遺されて……高く穏やかに運ばれていく……」

 

「……文字と表現から考えれば……そう言うことだろう」

 

「そうか……。そうかぁ……」

 

 ラミナは俯いて、左手で目元を覆う。

 クロロは何も言わずに、黙って戦場を見下ろし続ける。

 

 互いの頬に一筋の跡が走ろうとも、視ないふりをして。

 

 ラミナは目元を拭って、いつも通りの雰囲気で再び話しかける。

 

「2つ目の詩の最初……。菊が葉もろとも涸れ落ちてっちゅうんも団員の事やな?」

 

「ああ。菊月、葉月、水無月だと思う。そして『欠ける』が死を意味するならば、『落ちる』も死を意味すると考えられる。パク、シズク、シャルが来週死ぬことになる。そして、緋の眼が……俺達の相手だろうな」

 

「……ヒソカの協力者が旅団に恨みを持っとるんは言うたな?」

 

「ああ」

 

「名前はクラピカ。クルタ族の生き残りや」

 

「……なるほどな。……そいつはここに?」

 

「おるはずや。ムカつくことに情報はないけどな」

 

「そうか……。ラミナ」

 

「ん?」

 

 クロロが突然A4サイズの紙とペンを差し出してきた。

 

「この紙に名前、生年月日、血液型を書いてくれ。それで占える」

 

「ふぅん」

 

 ラミナは言われるがままに書いていく。そして、クロロに渡す。

 

「紙を押さえててくれ」

 

「へいへい」

 

 クロロは右手に【盗賊の極意】で具現化した本を持ってページを開く。

 左手にペンを持ち、能力を発動する。

 左手に不気味な念獣が現れ、物凄い勢いで紙に記入し始める。

 一切の淀みなく書き進めていき、1分と経たずに書き終えた。

 

「いいぞ」

 

「どうも」

 

「ちなみにこれは自動書記で俺は何を書いたかは知らん」

 

「へぇ」

 

 ラミナは紙に目を通す。

 

 

 

 気高き獅子が鎖で天へと連れ去られる

 貴方は親愛なる蜘蛛の憤怒を背負い

 鎖の友を追いかけ続け

 偽りの数字を刃に血塗るだろう

 

 暗くて僅かに明るい日

 家族と友の間で貴方は揺れ動く

 箱舟に飛び乗るといいだろう

 鎖を千切れるのは貴方しかいないのだから

 

 縛られた逆十字の男の孤独を埋めよう

 実在する幻が喜ばれるはずだ

 蜘蛛の待ち人を探すといいだろう

 それが獅子の誇りを受け継ぐ近道となる

 

 

 

「……」

 

「どうだ?」

 

 ラミナは黙ったまま、クロロに紙を渡す。

 目を通したクロロは目を細め、そして小さく微笑む。

 

「……どうやらお前は俺にとって幸運の女神になるらしいな」

 

「みたいやなぁ。んで、鎖野郎はやっぱりクラピカ、クルタ族の奴やな」

 

「『鎖の友』の部分か?」

 

「ああ。お前の占いと合わせるとそうなるわ。ウボォーを殺したんもな」

 

「そうか……」

 

 ラミナは立ち上がって手帳をクロロに返し、クロロは紙をラミナに返す。

 

「うちはどうする?」

 

「言ったろ? 好きにしていい。時間に間に合うようにはしてほしいがな」

 

「了解や。詩が続いとるってことはゾルディックに襲われても大丈夫そうやな」

 

「そのようだな。まぁ、油断は出来ないが」

 

「くくっ! やろうな。ほな、頑張りや」

 

「お前もな」

 

 ラミナは手を振りながら歩き出し、短刀を具現化して姿を消す。

 クロロはそれを背中で見送って、ラミナの気配が完璧に消えてから歩き出す。

 

 

 

 クラピカはセメタリービルの中を歩いていた。

 

 クラピカはノストラードファミリーのボスの命令で、殺し屋チームに参加していた。

 ネオンは客室で無事に保護されており、今は本来の目的の旅団を見つけるためにビルを捜索していた。

 

(おそらくネオンを連れてきたのは旅団の者だ。必ずこの中に旅団がいる)

 

 クラピカは新たな標的を探すために歩き回る。

 しかし、気になる事もある。

 

 少し前に、ヒソカからあるメールが届いたのだ。

 

『ラミナはクモ側♠』

 

 と、言う内容だった。

 

(このメールからすれば……ラミナは団員ではないが、クモを手助けする役割を担っている。それならば、あの戦いも納得は出来る……)

 

 わざと敵対して、マフィアにスパイとして入り込んでいたのだろう。

 しかし、今回の殺し屋チームには呼ばれていなかった。

 それが少し不思議に思っていたが、ヒソカのメールで納得出来た。

 

(……厄介だな。団員でないなら、私の鎖が使えない)

 

 クラピカの中指の鎖【束縛する中指の鎖】は旅団員にしか使えない。

 使えば、死んでしまう。

 

 なので、もし戦闘になればクラピカは圧倒的に不利である。

 

 ラミナとの戦闘になった場合どうやって乗り越えようかと考えていた時、携帯が鳴る。

 

「もしもし」

 

『あ、クラピカ!? 良かった! ようやく繋がった!!』

 

「ゴン!?」

 

 ゴンからの電話だった。

 

『今、大丈夫!?』

 

「いや、悪いが忙しい。こちらからかけ直そう」

 

『じゃ、1分だけ!! 用件だけ言うから!』

 

「……なんだ?」

 

『……俺とキルア、旅団に会ったんだ。っていうか、捕まったんだけど』

 

「!!?」

 

 まさかの内容にクラピカは目を見開く。

 

「何を考えているんだ!! 相手がどんな連中か分かっているのか!!?」

 

『……分かってたつもりだけど、会って痛感した。今の俺達じゃ手も足も出ない。だから、クラピカの協力がいるんだ』

 

『俺達も力になりたい』

 

 キルアとゴンの言葉に、クラピカは頭が冷えていく。

 

「ふざけるな。お前達の自殺行為に手を貸すつもりはない」

 

『……奴らのアジト、知りたくない?』

 

「……情報提供者はちゃんといる」

 

『奴らの能力についても分かったことがある』

 

「くどい!! いいから、旅団から手を引くんだ!!」

 

『旅団の協力者にラミナがいてもか?』

 

「っ……!!」

 

『奴らの1人を倒した鎖野郎ってクラピカだろ? あいつら、血眼で探してるよ。ラミナもね。……旅団のメンバーとは設立前からの付き合いで、クラピカが倒した奴は……ラミナにとって兄貴みたいな存在だったってよ』

 

「っ!!」

 

 キルアの言葉にクラピカは歯を食いしばる。

 

『このままいけば、ラミナもクラピカに復讐するぜ。お前はそれを受け入れるのかよ? そこでラミナを殺せば、お前は旅団と同じになるぜ』

 

「……」

 

『……お前が俺達の事、対等とも仲間とも思えないなら、どんな手を使ってでも協力してもらうぜ!!』

 

『……クラピカ』

 

 再びゴンに交代する。

 

『ラミナ……。死んだ団員の事を話したとき、凄く寂しそうだったんだ。あんなラミナ、初めて見た……。他の団員も凄く悲しんでる人もいて、けどラミナとは本当に家族みたいな雰囲気だった。それを見た時、無性に悲しくて……許せなくて……このままじゃクラピカとラミナ、どっちも辛い目にしか遭わないと思うんだ。俺達も旅団を止めたいんだ。クラピカとラミナに殺し合って欲しくないから……』

 

「…………こちらから、かけ直す」

 

 クラピカはそう言って通話を切る。

 

(旅団とラミナが……家族のような存在……。このままいけば……私はラミナの家族を奪う、ということか)

 

 しかし、だからと言って自分の復讐を止めるのか?

 それでは、仲間の無念はどうなる?

 

 元々全てを犠牲にする覚悟ではなかったのか?

 

 そのためにここまで来たのに。

 しかし、全てをやり遂げた時、自分には……何が残るのだろうか。

 

 このまま進めば復讐と仲間の無念は晴らせるが、新たな恨みと仲間を失うだろう。

 

 しかし、ここで止まれば仲間を得ることは出来ても、何を目的に生きればいいのだろう?

 もうすでに、ラミナの仇になってしまったのに。

 

(……私はもう、止まれない……)

 

 クラピカは誓う様に右手に鎖を具現化する。

 そして、再び旅団を探して、ビルの中を歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 セメタリービルの周囲では銃声と爆発、悲鳴が絶えず響き渡っていた。

 

「絶景♥ 絶景♥」

 

 ヒソカはビルの上で団員が暴れているのを楽しそうに見つめていた。

 

「う~ん……どこで団長と2人っきりになれるかなぁ? ゴン達まで関わってくるとなると、流石に流れが読みにくいねぇ♠」

 

「暇そうやなぁ。ヒソカ」

 

「おや♥ ラミナじゃないか♣」

 

 ヒソカの背後に、ラミナが現れた。

 

 ヒソカはラミナから放たれる殺気を感じ取って、ヒソカは笑みを浮かべるも警戒態勢を取る。

 

「随分と物騒だけど♦ どうしたのかな?」

 

「別に? 仕事しに来ただけやで?」

 

「……仕事?」

 

「ああ。なんや裏でコソコソと仲間を売ろうとしとる不届きモンを見つけてしもてなぁ」

 

「それはそれは♠ 大変だねぇ♥」

 

「鎖野郎と遊園地で会うとったよなぁ? ヒソカ」

 

「……」

 

「前に言うたはずやぞ、ヒソカ。むやみやたらに引っ掻き回すだけやったら……お前の数字を切り取るってなぁ!!!」

 

 【練】を発動して、右手にブロードソード、左手にファルクスを具現化するラミナ。

 ヒソカもトランプを両手に広げて、オーラを強める。

 

 

「お前の数字は偽モンらしいなぁ……!! 覚悟せぇや!! お前はここで殺す!!!」

 

 

「ああ……♥ 丁度退屈してたんだ♦ 君が相手してくれるなんて嬉しいよ、ラミナ♠」

 

 

 ラミナとヒソカの死闘が始まる。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。