暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#49 ソレゾレ×ノ×ヒトジチ

 18時54分。

 ラミナはホテル向かいのビルに戻って、再び監視を続けようとしていた。

 ビルの屋上に上がり、窓上の出っ張りに戻ろうとした時、

 

「っ!!?」

 

 背後から殺気を感じ、風が斬る音が聞こえ、確認もせずに横に跳ぶ。

 短刀を消して、右手を地面について後ろを振り返る。

 

 先ほどまでラミナがいた場所に突き刺さっていたのは、トランプだった。

 

「っ! ヒソカ……!」

 

「くくっ! やぁ♣ 昨日ぶり♥」

 

 ラミナは隣のビルの屋上に笑みを浮かべて立っているヒソカを見て、顔を顰める。

 

(このタイミングで! っ!?)

 

 ラミナはヒソカの姿を改めて見て、目を見開く。

 

 斬り落としたはずのヒソカの右腕が元通りになっていたのだ。

 

(一晩で回復した!? ヨークシンにそんな能力がある奴が!?)

 

「ああ……♦ この腕かい? くくく♠ どういう手品でしょう?」

 

 ヒソカはプラプラと右手を振って、見せびらかす。

 ラミナはそれを見て、逆に頭が冷える。右手にブロードソード、左手にハルバートを具現化する。

 

「手品でも何でもええわ。また斬り落とせばええだけのことやでな」

 

「……やっぱり君はこの程度じゃ動揺してくれないか♠」

 

「で? お前の狙いはクロロちゃうんか?」

 

「そうだけどね♣ アジトの近くで見つけた時、やっぱり周りに人が多くてね♠ だから、先に君に昨日のお礼をしようと思ってさ♥」

 

「……クラピカと組んどるわけやないんか?」

 

「彼とはあくまで情報交換を基本としたビジネスパートナー♦ けど、こんな状況だろ? 伝えられる情報なんてほとんどなくなっちゃってさ♠」

 

 ヒソカは嘘くさい笑みを浮かべたまま、肩を竦める。

 ラミナは僅かに顔を顰めて、武器を構える。

 

「退く気はないんやな?」

 

「もちろん♥」

 

「なら、うちはお前をここで殺すだけやっ!!」

 

 力強く言い放ちながら、ハルバートを振り上げてヒソカに斬りかかるラミナ。

 ヒソカも左手にトランプを広げて、投げつける。

 ラミナはブロードソードを高速で振って、トランプを斬り落とす。

 

(やはり、あの剣は斬撃速度を上げる能力か……♣ じゃあ、トランプはあまり効果はないな♠ そして、あの槍もオーラを弾く鎧を生み出す奴か……♦)

 

 近づけば高速の斬撃に襲われ、【伸縮自在の愛】を使ってもオーラを弾かれてしまう。

 槍は弾かれないことは分かっているが、それに対処していないとは思えない。

 ヒソカにとって非常にやり辛い状況だった。

 

(けど……♣)

 

 ヒソカはラミナから距離を取りながら、右腕を構える。

 

「だからこそ、面白そう♥」

 

 そう言いながら右腕を振り抜く。

 すると、右手が勢いよく伸びて、ラミナに迫る。

 

「なっ!? ちぃ!」

 

 ラミナは一瞬目を見開くが、すぐにブロードソードを振って右腕を斬り払おうとする。

 しかし、刃が当たった瞬間、右腕がグニャリと形を変えて刃に張り付いた。

 

「っ! バンジーか!」

 

「正解♥」

 

「くっ!」

 

 ラミナはブロードソードを解除して、距離を取る。

 

(【伸縮自在の愛】で手を形作って、【薄っぺらな嘘】で肌質に変化させとったんか! くそっ! 厄介なやっちゃな!)

 

 ラミナが歯を食いしばると、ヒソカはラミナに勢いよく迫ってくる。

 ラミナはハルバートを振り回して、掬い上げるように振り上げるが、ヒソカが右腕をハルバートに伸ばして掴もうとしていた。

 

「っ!」

 

 ラミナはハルバートを止めて、無理矢理右蹴りに切り替える。

 しかし、ヒソカは左腕で防ぎ、腰を捻って左脚を突き刺すようにラミナの腹部を狙う。

 ラミナは右腕で蹴りを防ぐも、堪え切れずに後ろに吹き飛ばされる。

 

「ぐっ!」

 

 その時、ハルバートがラミナの左手から引き抜かれる。

 ヒソカはあのまま右手でハルバートを掴んでいたのだ。

 

「! くそっ!!」

 

 ラミナはハルバートを消して、下に目を向ける。

 運よく車の通行がなく、ラミナは道路に着地して、すぐさま跳び上がる。

 ホテル側に移動しながら、ラミナは薙刀を具現化する。

 

(! 初めて見る武器!)

 

 ヒソカは初見の武器に警戒を強めながら、ラミナに攻め寄る。

 ラミナが薙刀を振り回す。

 

 すると、刃に触れた雨粒が、弾丸のようにヒソカに飛び迫ってきた。

 ヒソカは目を見開いて、体を捻って躱す。

 弾丸となった雨粒はそのまま道路を横断し、ビルの壁や窓に穴を空ける。

 

「ふぅっ!!」

 

 歩道に下り立ったラミナは、再び素早く薙刀を振り回す。

 すると、雨粒や水溜まりがうねり上がり、刃に水を纏わせていく。

 

(水を操る能力!!)

 

「【乱弁天(みだれべんてん)】」

 

 薙刀を横に振り抜くと、サッカーボール大の水弾が5,6個、ヒソカに飛び迫る。

 ヒソカは右腕の【伸縮自在の愛】を横に伸ばし、すぐに縮めて躱す。

 ラミナはククリ刀を具現化して、周囲に目を向ける。通行人の何人かがラミナ達の戦いに目を向け始めていた。

 

(これ以上暴れると人目が集まり過ぎるか……!)

 

 すぐ背後のホテルにはクロロ達がいる。

 下手に騒ぎを集めると、外に出辛くなりかねない。 

 

 場所を移そうと移動しようとした時、右足が地面に貼り付いたように離れなかった。

 

「!? バン――!?」

 

「【伸縮自在の愛】は足からでも飛ばせる♠」

 

 右腕の【伸縮自在の愛】を堂々と晒して伸ばした時に、左足先から【隠】で見えなくした【伸縮自在の愛】をラミナの右足に飛ばしていたのだ。

 そして、ガムに変えて地面にくっつけ、

 

「縮め♥」

 

 ヒソカと繋がっているオーラを一気に縮めて、ラミナに跳び迫る。

 

「くっ!!」

 

 ラミナは薙刀を消して、ハルバートを具現化する。

 能力を発動しようとした時、ラミナの右足のガムが解除されて、右足が引っ張られる。地面が雨で濡れていたせいで左足が滑り、踏ん張り切れずにバランスを崩す。

 そこにヒソカの左脚がラミナの腹部に突き刺さり、ラミナはくの字に背後に吹き飛ぶ。

 

「ごぉ!」

 

 ヒソカはその隙を逃さずに、転がるラミナの背中に【伸縮自在の愛】を伸ばして貼り付けて、反対側を思いっきり飛ばしてホテルの入り口に貼り付ける。

 そして、すぐさま発動し、ラミナが体勢を立て直す前にゴムを縮める。

 

「ぐっ!?」

 

 ラミナは【不屈の要塞】を発動しようとするが、その前にホテルのガラス戸を突き破り、ラミナはホテルに飛び込む。

 ヒソカもすぐさま追いかけて、ホテルの中に入り、ラミナを追いかける。

 

「ぐっ! んのっ! バケモンが……!!」

 

「くくく♥ 酷いなぁ♠」

 

 ラミナはすぐに起き上がって背後に跳び上がり、ヒソカもトランプを左手に構えながら跳ぶ。

 

「ラミナ!」

 

「ヒソカ!! っのヤロォ!!」

 

 そこに声が聞こえてきて、2人は目だけを声がした方向に向ける。

 そこには何故かゴンとキルアがマチにまた縛られ、パクノダに首を掴まれていた。

 

「っ!? キルアにゴン……!?」

 

「おやおや♦ 面白い組み合わせだねぇ♥」

 

 ノブナガが飛び出そうとしていたが、クロロがそれを止める。

 しかし、マチが動こうとしていたので、

 

「いらん!! こいつはうちだけでええ!!」

 

「っ!!」

 

 マチが動けばキルアとゴンも動くに違いない。

 更に場が混乱すれば、ヒソカの思うつぼだとラミナは考えた。

 

 しかし、ヒソカがクロロに目を向けて、口を吊り上げる。

 それにクロロにちょっかいを出して、マチ達を無理矢理動かそうとしているとラミナは見抜いた。

 

「させるかい!!」

 

 ラミナはククリ刀を消して、レイピアを具現化して、素早く突き出す。

 ヒソカは体を捻って剣筋から外れて、攻撃を躱す。

 

 そして、ヒソカは右拳を構える。

 

(マズイ! 【伸縮自在の愛】をクロロに飛ばす気か!)

 

 ラミナは床に着地して、クロロの前に移動しようとした時、

 

 

バツンッ!!

 

 

『!!?』

 

 ホテルのロビー内の電気が全て消え、視界が闇に包まれる。

 

(なぁ!? このタイミングで停電!? このっ!)

 

 ラミナは一瞬驚いて動きを止めるも、すぐに【円】を発動する。

 そこで感じ取ったのは、

 

(!!? クロロ!?)

 

 クロロが物凄いスピードで離れていく。

 その先にもこの闇の中を迷わずに走り抜けていく者が3人。

 

(これは……まさかクラピカ!? それにレオリオもか!? っ!! いかん!!)

 

 クラピカとレオリオの存在に驚いていると、ヒソカがマチ達に向かって攻めかかろうとしていた。

 ラミナは跳び上がりながら、ヒソカの頭を狙ってレイピアを突き出す。

 すると、ヒソカは頭を屈めて【啄木鳥の啄ばみ】を躱した。

 

「っ!?」

 

(しもた! 【円】と殺気……!)

 

 しかし、それだけではなかった。

 

「縮め♥」

 

「っ!?」

 

 ラミナは勢いよく胸元から引っ張り上げられる。

 

「ゴン達に驚いてた時に付けといた♠」

 

「ぐっ! 『起動せよ』!」

 

 ラミナはすぐに【不屈の要塞】を発動して、オーラを弾く。しかし、すでにラミナの体は浮かんでおり、ヒソカはラミナの目の前に迫っていた。

 ヒソカは左拳を勢いよく振り抜き、ラミナは左脚を振り上げる。

 

ガイィン!! 

 

 ヒソカの拳はラミナの左脇腹に叩き込まれて、鎧を凹ませる。

 そして、ラミナの左脚はヒソカの右頬に叩き込まれる。

 

「ぐぅ!!」

 

「っ!!」

 

 ラミナは後ろに吹き飛ばされながら、武器と鎧を消す。

 ヒソカもホテルの入り口側に吹き飛ばされていった。

 ラミナはマチ達の真上を越えて、クロロ達がいた柱の隣の柱に背中から激突する。

 

「ごぉ……!!」

 

 ラミナはそのまま床に崩れ落ちる。

 

(ぐ……!! くっそ……! またアバラか……!)

 

 脇腹の痛みと叩きつけられた衝撃から立ち直るのに、時間がかかるラミナ。

 だが、いまはそれどころではない。【円】を全力で発動して、ヒソカやクラピカ達の動きを追う。

  

 しかし、クラピカ達どころかヒソカの存在も感じ取れなかった。

 

(ヒソカもおらんやと?)

 

 ラミナは脇腹を押さえながら立ち上がり、【円】に集中する。

 しかし、やはりヒソカの気配もなく、クラピカ達もいない。

 

(くそっ! この停電はクラピカか! 嫌らしいこと考えよるやないか! ……それにしても……)

 

 そろそろ目が慣れてきたので、ノブナガ達の元に向かう。

 キルアとゴンは何故か逃げずに、その場に留まっていた。キルアは両手を糸から抜け出していたのに、何故か誰も攻撃をしていなかったのだ。

 

 ラミナの【円】はもちろんマチやキルア達の動きも感じていた。

 しかし、何故かキルアとゴンはほぼ動かずに、それ以上逃げる素振りを見せなかったのだ。

 

「ラミナ、大丈夫?」

 

「おう。ただ――」

 

「団長がいねぇ。どこ行ったか分かるか?」

 

「……クラピカに攫われた。停電はあいつの作戦や。ヒソカもグルやったんかもしれん」

 

『!!』

 

 ラミナの言葉にマチやノブナガ達は目を見開く。

 ノブナガが詰め寄ろうとした時、カランと足で何かを蹴る。

 

「あ?」

 

 目を向けると、そこにあったのは紙が巻かれているナイフだった。

 ノブナガが拾い上げて紙を広げ、ライターで明かりを灯す。

 

「……パクノダ。お前にだ」

 

 中身を読んだノブナガはパクノダに紙を渡す。

 そこには『2人の記憶。話せば殺す』と書かれていた。

 

 パクノダは紙の記憶を呼んで、クラピカがすぐ近くのホテルの受付に変装していたことを読み取った。

 

「っ! ホテルの受付に……!」

 

「とりあえず、パクノダ。お前はこれから一言も話すな」

 

 ノブナガが指示を出し、パクノダも頷く。

 ラミナは僅かに息を乱しながらも、必死にこの後のクラピカの行動を予測する。

 

(ゴンとキルアをこのままにはしとかんはず。なら……クロロとの人質交換。その場合、一番クラピカが警戒するんはパク姉、か。パク姉を交渉相手に指定して、クロロの命を盾に残りの団員の行動を縛るはず……。うちがおるんはさっきのでバレた。うちが姿を隠せるんはヒソカから聞いとる可能性が高い。だから、うちや団員が余計な動きをせんようにさせたいはず……)

 

 ラミナはポケットから紙を取り出して、パクノダのポケットに突っ込む。

 パクノダが訝しむが、ラミナは首を横に振って口に人差し指を立てる。

 パクノダは意味が分からなかったが頷いて、今は考えないようにする。

 

 ラミナはそのまま柱にもたれかかる。

 

「マチ。お前は糸に集中しろ。俺とシズクでこいつらを押さえる。メッセージを残した以上、連絡があるはずだ。こいつらは大切な人質だ。死守するぜ」

 

「了解」

 

「追いかけてぇが、ヒソカまでいる状況じゃラミナを1人で行かすわけにもいかねぇし、こいつらも逃がすわけにもいかねぇ。全力で警戒しながら、フィンクス達を待つ。ラミナも出来る限り、体を休めろ」

 

「……了解や」

 

「どこかやられたの?」

 

「最後にまたアバラをやられた。昨日の分も合わさって、ちょいとダメージがデカかった」

 

 ラミナは血混じりの唾を吐いて、床に座る。

 そして、ゴンとキルアに目を向ける。

 

「お前ら、なんで逃げんかったんや?」

 

「……お前とヒソカのせいで、逃げようにも逃げる隙が見つけられなかったんだよ。この首の糸もあったし……」

 

 キルアは盛大に顔を顰めて、言い訳をする。

 

「……首の糸やったら暗闇に目が慣れてなかったマチ姉を倒せば、外せた可能性があった。お前がそれに気づかんかったとでも?」

 

「……言ったろ? お前とヒソカの乱入のせいで隙を見つけられなかったんだよ」

 

「……ふぅん」

 

 ラミナは事実ではないと見抜いていたが、それ以上追及はしなかった。

 ゴンはキルアとラミナを心配そうに交互に見る。

 

 ゴンは暗闇になる直前に、ヒソカとラミナが気になったがちゃんと目を閉じていたのだ。

 そして、目を開けて、問題なく動けることを確認して、パクノダを攻撃しようとした時、キルアがゴンの腕を掴んできたのだ。

 

 ゴンは驚いて、キルアに顔を向けた。

 キルアは下唇を噛んで俯いたまま、首を横に振ったのだ。

 それはつまり、逃げようとするなということだった。

 ゴンは訳が分からなかったが、キルアの雰囲気と時間が経過してしまったことから、大人しくすることにしたのだった。

 

 電気がつき、従業員が慌てて動き出す。

 ラミナはカツラを脱ぎ捨てて、近くの生垣に放り投げる。

 少しでも入り口から飛び込んできたのが、自分であるとバレないようにするためだ。

 

 運が良いことに、従業員や周囲の客は、髪色が変わり武器を持っていないラミナを見ても何も言わなかった。

 

(今日はまだ土曜日……。占いの2つ目は来週の話やけど……。やっぱ占いを元に行動を決めたからズレが生じて来とるんか?)

 

 しかし、今の状況が非常に2つ目、3つ目の詩に近づいてきている。

 

 外では未だに雨が降り、雷が鳴っている。

 

(……暗くて…僅かに明るい日……)

 

 外を見ながら、ラミナは占いを思い出す。

 そして、ゴンとキルアに目を向ける。

 

(家族と友の間で揺れ動く……。クロロとキルア達の人質交換……っちゅうことなら、しっくりくる……)

 

 占いの内容と現在の状況を照らし合わせていく。

 しかし、そうなるとある問題が浮かび上がる。

 

(パク姉もうちと同じ日……。つまり、パク姉の占いも今の状況に関係しとるはず。……パク姉の『死神』はキルアとゴン、か)

 

 つまり、人質を抱えている限り、パクノダは選択を迫られ続けるということだ。

 そこで思い至るのが……旅団の掟。

 

(最優先は旅団が生き残る事……。生かすべきは団長ではなく、旅団という存在)

 

 クロロが旅団を作る際に、話した掟。

 

(『誇り』か『裏切り』か……。それは掟を守るか、破るかっちゅうことか。……つまり、うちがクロロの救援が遅れれば遅れる程、パク姉が死ぬ可能性が高まる?)

 

 そんな事を考えていると、フィンクス、フェイタン、シャルナークが現れる。

 ラミナは思考を中断して、3人に顔を向ける。

 

「説明しろ」

 

「停電したの」

 

「その隙に団長が攫われた。鎖野郎のメッセージがこれだ」

 

 シズク、ノブナガが簡潔に伝えて、メッセージが書かれた紙をフィンクスに渡す。

 フェイタンがノブナガに問いかける。

 

「何故すぐに追わなかたか?」

 

「ヒソカの野郎がいたせいで、下手に動けば団長を追うどころじゃなくなる。けど、こいつらも人質の価値があるから放置できねぇ。だから、すぐに動ける状況じゃなかったんだ! ラミナも流石にダメージがデカすぎる。ヒソカと鎖野郎がグルの可能性がある限り、1人で追わせるわけにはいかねぇ」

 

「とりあえず、対策だ。これからは全員で行動して、負傷したラミナとこの2人をフォローしながら団長を追う。外は雨だし、かなりのラッシュだ。捕まえられる可能性はある」

 

ピルルルル! ピルルルル!

 

 その時、フィンクスの携帯が鳴る。

 

 フィンクスが訝しみながら携帯を取り出すと、

 

「団長の携帯からだ」

 

 全員の顔が更に引き締まる。

 フィンクスが携帯に出る。

 

「もしもし」

 

『これから3つ指示する』

 

「……鎖野郎か」

 

「早速来たか」

 

 ノブナガが顔を顰める。

 

『1つ、追跡はするな。2つ、人質の2人に危害を加えるな。3つ、パクノダという女に代われ』

 

「ちょっといいか? 2つ目の指示だが、俺達が来る前にかなり暴れたようでな。2人共何か所か骨折してるぜ」

 

 フィンクスは小馬鹿にした笑みを浮かべて、嘘をつく。

 それにラミナは呆れていると、

 

『ならば、交渉の余地はない』

 

 と、通話が切られた。

 

 フィンクスは呆気に取られて、すぐにかけ直す。

 

『なんだ?』

 

「すまん。2人は無傷だ。許してくれ」

 

『次はないぞ。下らん真似をするな。パクノダに代われ』

 

「パク」

 

 フィンクスはため息を吐きながら、パクノダに携帯を差し出す。

 

「ったく、シャレの通じねぇ野郎だぜ」

 

 直後、ノブナガ、パクノダがフィンクスに拳骨を落とし、マチが背中を蹴る。

 

「いって~……なにすんだよ」

 

「馬鹿かテメェー! 団長の命がかかってんだぞ!」

 

「いや、だって切るとは思わねぇし。オメーらだってやられっぱなしはムカつくだろ?」

 

「時と場合は考えなよ」

 

 マチが青筋を浮かべながら、フィンクスを睨みつける。

 ラミナはその様子にため息を吐きながらも、パクノダが電話に出る様子を見る。

 

(やっぱパク姉を選びよったな。このままやとマズイ、か。けど、クラピカがうちらを自由に動ける状況にするとは思えんし……)

 

 ここまで用意周到に動いているクラピカが、複数で追跡される可能性を無視するわけはない。

 どうにかして、ここにいるメンバーが常にいる事を確認するはずだ。

 

(……可能性が高いのは、ゴンとキルアを使うことか。となると、ここで動かんとヤバいか……)

 

 ラミナはポケットからサングラスを取り出す。

 そして、すぐさま行動に移すのだった。

 

 

 

 パクノダはクラピカの指示で、1人離れた場所に移動する。

 

「移動したわ」

 

『スクワラという男とは接触したか?』

 

「ええ」

 

『ならば、こっちにセンリツという能力者がいることは引き出したな』

 

「……ええ」

 

『ならば、話は早い。偽証は不可能だ。よく聞け。まず、今から仲間とのコミュニケーションを禁じる。会話はもちろん動作・暗号・アイコンタクト・筆記・その他一切だ。細心の注意を払え。これから場所を指示する。その時、僅かでも鼓動に動揺があれば人質は殺す』

 

「……ええ」

 

『一度、代われ。さっきの男以外の奴だ』

 

 パクノダはノブナガ達の所に戻って、ノブナガに携帯を差し出す。

 

「お?」

 

「代われって」

 

「ふん……代わったぜ」

 

『これからパクノダ1人と会う。残りの者は全員アジトに戻れ。もちろんラミナもだ。10人常に同じ場所に居ろ。人質もだ。この携帯はパクノダに渡して、もう1つ携帯を用意しろ。そちらに不定期でこちらから電話を掛ける。その時に1人でも欠けていたら人質は殺す。いいな』

 

「……ああ」

 

 そして、再びパクノダと変わる。

 

『場所はリンゴーン空港。8時までに来い』

 

 パクノダは通話が終わった瞬間、1人でホテルを出て行く。

 それをフィンクス、フェイタン、シャルナークが追いかけようとする。

 

「待て!」

 

 ノブナガが3人を呼び止める。

 

「鎖野郎の指示だ。俺達はアジトに戻る。パクは1人で行かせるんだ」

 

「……そういや、追跡するなとか何とか言ってたな。それがどうした?」

 

「なっ!? てめぇ、まだ分かんねぇのか!? 後追ってバレたら団長が死ぬんだぞ!?」

 

「馬鹿か、お前。そうなったら鎖野郎を殺して終いだろうが」

 

「っ!!」

 

 ノブナガはフィンクスの言葉に詰まる。

 

「団長もきと同じこと言うよ。最優先はクモ。ノブナガ、お前の考え、クモへの侮辱ね」

 

「……っ!」

 

「同感だな。パク1人だけ行かせても意味がないよ。団長が返ってくる保証もないし、占いの事もある」

 

 シャルナークもフェイタン達に同調する。

 しかし、マチとコルトピが声を上げる。

 

「アタシもノブナガに賛成だよ。今はまだ鎖野郎の指示に従った方がいい」

 

「僕も」

 

「今は? そりゃいつまでだ? 手足が半分になるまでか?」

 

 フィンクスが苛立ちながら、マチとコルトピに反論する。

 その時、シズクが、

 

「ラミナ、大丈夫?」

 

 その言葉に全員がラミナに目を向ける。

 ラミナは顔を俯かせ、目を閉じてグッタリとしていた。

 

「ラミナ?」

 

「……気絶してるみたい」

 

 シズクが確かめて、ラミナが気絶していると言う。

 ゴンとキルアも心配そうにラミナを見つめているが、マチの念糸で近づくことは出来なかった。

 

「気絶したラミナとガキ2人抱えて、追いかけるのか?」

 

「別に俺達3人だけでもいいぜ」

 

「フィンクス、ちょっと落ち着こうよ」

 

「あぁ? なんだと、コルトピ」

 

 フィンクスは額に青筋を浮かべながら、コルトピを睨みつける。

 コルトピは両手を顔まで上げて、フィンクスを押さえるように、

 

「ラミナを放っておくとマチが怒るよ。この状況で喧嘩してる場合じゃないでしょ」

 

「んなこと、今は――」

 

「待て、フィンクス」

 

「あ?」

 

 シャルナークがフィンクスの肩を掴んで止める。

 フィンクスはシャルナークを振り返ると、シャルナークは真剣な顔でラミナを見つめていた。

 

 マチもラミナに近づいて、状態を確かめる。

 そして、

 

「……アタシはラミナを連れてアジトに戻るよ。こんなところで寝かして、雨の中ずっと鎖野郎を追わせるわけにいかない」

 

 ギロリとフィンクスを睨みつける。

 それにフィンクスが更に苛立つと、

 

ピルルルル!

 

 シャルナークの携帯が鳴る。

 

「団長の携帯からだ」

 

「俺が出る」

 

 フィンクスが舌打ちして、ノブナガがシャルナークから携帯を受け取る。

 

「もしも――」

 

『人質の2人を出せ』

 

「……ほらよ」

 

 ノブナガも流石に苛立ちながら、キルアの耳に携帯を当てる。

 

「もしもし」

 

『奴らは全員揃っているか?』

 

「今はね。でも、さっきまでパクノダを追うかどうかで揉めてたぜ」

 

『ラミナはいるか?』

 

「ヒソカにやられたダメージで気絶したみたいだ」

 

『……そうか。男に代わってくれ』

 

 キルアはノブナガに目を向けて、ノブナガはキルアから携帯を離して代わる。

 

「もしもし」

 

『1つ、教えておいてやろう。こっちには嘘を見破る能力者がいる。パクノダが1人で従ったのはそのためだ。どんな小細工をしようが構わない。リーダーが死ぬだけだ。分かったら、30分以内にアジトに戻れ。また連絡する』

 

 そして、また一方的に切られる。

 耳を近づけて、盗み聞きしていたフィンクスは拳を握り締めて震える。

 シャルナークがため息を吐いて、

 

「人質を連絡係にされたら、どうしようもないな。とりあえず、パクを信じて今は戻ろう」

 

「くそが!!!」

 

「シャル、ノブナガ。このガキ共をお願い。アタシはラミナを背負うから」

 

「おう」

 

「分かった。フィンクスとフェイタンはヒソカに警戒してくれ。コルトピ、シズクはマチを」

 

「うん」

 

「分かった」

 

 マチは念糸を伸ばして、ラミナを背負う。

 シャルナークとノブナガは、ゴンとキルアの背後に回って腕を掴んで歩き出し、マチ達がその後ろに付いて行く。

 

「……頼んだよ」

 

 マチは背中のラミナの位置を整えながら歩き出し、アジトを目指すのであった。

 

 


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