暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#5 ナビ×ヲ×サガセ

 嵐を乗り越えた翌日。

 ラミナ達はドーレ港に到着した。

 

「すげぇ人だな……」

 

 レオリオは街にあふれる人の多さに驚いている。

 

「……恐らく彼らのほとんどが我々と同じ目的なのだろう」

 

「やなぁ。それにしても、多すぎんか?」

 

 クラピカの言葉にラミナは頷くも、あまりの多さに首を傾げる。

 交通機関の問題なのか、それとも別の理由があるのか。一筋縄ではいかなさそうだとラミナは内心顔を顰める。

 

「さて……ほな、うちはここで」

 

「え!? 一緒に行かないの?」

 

「うちはうちのやり方があるんや。言うたやろ? うちは殺し屋や。裏の人間は裏の人間なりの動き方があんねん」

 

「そっか……」

 

「そんな寂しがらんでも、本試験で会えるやろ。そっちも頑張りや」

 

「うん! 気を付けてね!」

 

「そっくりそのまま返すわ」

 

「いてっ!」

 

 ラミナは苦笑して、ゴンの額を小突いて歩き出す。

 互いに手を振って挨拶を交わし、ラミナは街の中へと向かう。

 

「さて、バスは行列。しかし、あの船長の感じからすれば、ここも何かしらの試験と考えるべきや。そうなると正直にバスっちゅう手は怪しさしかないわ。それにバスで行ってもザバン市のどこが会場なんか分からんし。ここにも何かしら情報があるはず……」

 

 ラミナはバス通りを外れて、近くのパソコン喫茶に入る。

 

「え~っと、ドーレの情報屋は……」

 

 ラミナは裏の人間がよく使う情報サイトを開いて、ドーレ付近の情報屋を探す。

 二軒ほど確認して、自分でも本試験会場の情報を集める。

 しかし、やはり情報サイトでもはっきりした情報はなかった。

 

「やっぱ、ハッカーハンターとかが対策しとるんやろなぁ」

 

 ラミナはため息を吐いて、パソコン喫茶を後にする。

 そして、一番近い情報屋の元に向かう。

 問題はハンター協会が情報屋にまで手を伸ばしているかどうかだ。

 裏社会の人間がラミナだけではないはず。そうなるとトラップにされている可能性がある。

 

 しかし、とりあえず情報を聞いてみないと分からない。

 ということで、情報屋を訪れる。

 一般的なマンションだが、薄暗い部屋の中は狭いバーのようになっていた。カウンターの奥には無精ひげを生やした無愛想な顔をした男が椅子に座っていた。

 

「……なんだ?」

 

「ザバンのハンター試験会場の探し方。教えてほしいねんけど」

 

「……ふん。帰りな」

 

「……なんや、三流のところやったか」

 

「あぁ? なんだと、ガキ……!」

 

「せめて情報の対価を聞くくらいせぇ」

 

「てめぇ……!」

 

「下手な芝居しよってからに。……いい加減、そこに隠れとる奴出てきぃ」

 

「ぐ……!」

 

 ラミナの指摘に男は盛大に顔を顰める。

 すると、奥の扉が開いて、長い髭の老人が苦笑しながら現れる。

 

「やはり、駄目じゃったか」

 

「……すんません」

 

「まだまだ修行が足りん」

 

「で、これは試験なんか?」

 

「そうじゃの。試験でもある」

 

「……また面倒な。とりあえず、情報くれや」

 

「ふむ……ザバンにある本試験会場の探し方、じゃったな」

 

 老人は髭を撫でながら、椅子に座って分厚いファイルを取り出す。

 

「対価は、と言いたいところじゃが……弟子の未熟さで試験にもならんかったでな。今回はタダで教えるとしよう」

 

「弟子って……」

 

「まだまだ未熟者でのぉ。どうにも相手を先入観で対応する」

 

「大丈夫なんかいな。相手によっては殺されるで?」

 

「まぁ、そうなれば愚かだったというだけよ。さて、儂が教えられる情報は……この街にはナビゲーターという者がおる。山の麓と、街外れの灯台のどちらかじゃの。彼らのお眼鏡に適えば、会場まで案内してくれるぞい」

 

「ふ~ん……。で、ホントのところはどうなんや?」

 

「「!!」」

 

 ラミナの左手にはククリ刀が握られており、その刃は弟子と呼ばれた男の首筋に当てられていた。

 ラミナは目を鋭くし、顔に薄笑いを張り付けて弟子と呼ばれた男を見据える。

 

「お前が本物なんやろ? 下手な芝居って言うたやろが。せめて、この爺を使わんかったらよかったのになぁ」

 

「……なんで分かった?」

 

「そんな長髭で、香水かける情報屋がおるかい。情報屋は目立たず、特徴の少ない見た目で活動するんが鉄則やろが。しかも、そんなペラペラした紙に情報を纏めるアホもおらん」

 

「……オーケー。完敗だ」

 

 男は両手を上げて降参する。

 ラミナはククリ刀を下ろし、背中に仕舞うふりをして消す。

 

「お前、裏のモンか……」

 

「やなかったら、ここに来るかいな。言うたやろ? 相手によっては殺されるて。うちやなかったら……2人とも首と胴体が離れてるで?」

 

 男はラミナから一瞬感じた殺気に冷や汗が噴き出す。

 老人も目を見開いて固まる。

 

(こいつ……殺しに慣れてやがる……! かなりのやり手か……)

 

 男はラミナの実力を本能で理解した。

 

「……悪かったよ。けど、仕方ねぇだろ? これくらいしか情報屋の試験官で出来ることはねぇよ。誰かに犯罪者役やらせるわけにはいかねぇし、情報を聞きに来た奴にこれが嘘の情報だって気づかせるのが試験にしろって頼まれたからな」

 

「ここに来れる時点でこの爺さんや店の内装にも無理があるって誰でも気づくやろ」

 

「それがよぉ……見抜いたのお前さんで2人目なんだよ。17人来てな」

 

「……」

 

「多分、知り合いか誰かに俺の事聞いただけなんだろうな。情報屋の事をろくに知らねぇ奴らばっかだったぜ。そのせいで油断しちまったかもな……。来年はこの仕事引き受けないでおくぜ」

 

「それがええわ。情報屋がやるにはリスク大きすぎるやろ。普段通り手助けするだけでええんちゃうか?」 

 

「だなぁ。っと、いけね。ちゃんと情報は渡さねぇとな。ナビゲーターがいるのは2か所。山の一本杉の下、そして街外れのスラムにある赤い屋根の小屋だ。悪いが言えるのはそこまでだ」

 

「まぁ、そんなもんやな。おおきに」

 

 ラミナは懐の財布から札束を取り出して男の前に投げて、外に出る。

 情報を貰った以上、報酬は払う。それを蔑ろにすると情報が広まってしまい、世界中の情報屋が敵に回る。

 試験であろうが、そこは譲らない連中だろうとラミナは分かっていたので、しっかりと報酬を支払ったのだ。

 

「さぁて、近いのはスラムやな。の、前に腹ごしらえしとこか」

 

 ラミナは次の目的地を決めて、先に昼食を食べることにした。

 近くのレストランに入って、ステーキ、ピザ、サラダ大盛、パエリアをガッツリと平らげる。

 

「ふぅ~、食った食った」

 

 満足して店を後にし、すぐさまスラムへと向かう。

 スラムは歩いて2時間ほどの所にある。

 流石にバスなどは出ていないし、今はバスは信用できないので歩いて行くしかない。

 

「のんびりするんも逆に疲れるか……」

 

 ラミナは路地裏に入ると、駆け出して一気にスピードを上げる。

 細い道を猛スピードで駆け抜けていき、時折路地裏を歩いている人の上を飛び越えて、スラムを目指していく。

 20分ほど走って、スラムに着いたラミナは早速赤い屋根の小屋を探す。

 

「それにしてもスラムにナビゲーターって案内できる奴なんかいな?」

 

「死ねぇ! ごはっ!?」

 

「ひゃあ! べへ!?」

 

「他のスラムの奴に殺されたりしてへんやろな?」

 

 ラミナはナビゲーターがどのような者か想像しながら歩く。

 ボロイ小屋の傍からナイフを持った小汚い男達が左右から飛び出してきたが、高速で左脚を動かして蹴り飛ばす。

 ラミナは襲われたことなど意にも介さず歩き続ける。

 

「ばあさんのために――ごぁ!?」

 

「じいさーん!? よくもあんたー――ぷぺ!?」

 

「悪く思う――なごん!?」

 

「ぐへへ! 女ー――『ゴギッ』おえ?」

 

「助けてください! 子供が死ねぇ!――ほぶっ!?」

 

「ママ!? コノヤロー!――きゅ!?」

 

「お前には血も涙もないのか!? ごふぅ!?」

 

「ジゴー!? だいじょ――ぐぺっ!?」

 

「やっぱスラムって騒がしい所やなぁ」

 

 ラミナが通った後には死屍累々とした光景が広がっていた。

 と言っても、ほとんどが気絶しているだけで、死んだのは卑猥な目で見てきた者や倒れたときに打ちどころが悪かったり、老人で折れた骨が臓器に刺さって失血死したなど運が悪かった者だけだ。

 

 もちろん襲われたラミナからすれば「ただやり返しただけ」なので、特に気が咎めることもない。

 それにラミナはどんな者を殺したのか、誰が死んだのかなど把握していない。

 どんな理由であれ、命を奪いに来るならば逆に奪われることも当然だからだ。

 

 その後も襲ってくる者達を鼻歌を歌いながら撃退していくラミナ。

 その様子を眺めていた者達は冷や汗を流して、顔を見合わせていた。

 

⦅おい! どうすんだよ!? あんなバケモンが来るなんて聞いてねぇぞ?⦆

 

⦅んなこと言われても、俺だって分かんねぇよ!⦆

 

⦅何なのよ、あの女……! 触れもしないじゃない! もう強い奴残ってないわよ!?⦆

 

⦅とりあえず、ボスに伝えに行くか?⦆

 

 気づかれないようにヒソヒソと小声で話すスラムの住民達。

 その時、

 

「よぉ」

 

「「「「!!?」」」」

 

 ラミナがいつの間にか住民達の目の前に立っていた。

 住民達は目を見開いて固まる。

 

「赤い屋根の小屋ってどこにあんの? 聞こうにも全員寝とってなぁ。困っとんねん」

 

「「「「……ア、アチラデス……」」」」

 

「おおきに」

 

 ダラダラと滝のように汗を流しながら、住民達は同時に同じ方向を指差す。

 ラミナの自分達を見る目に全く感情がないことに気づいてしまい、嘘を言うことなど頭に過ぎらなかった。

 

 ラミナは礼を言って歩き出し、その背中を見送った住民達はラミナの姿が見えなくなった瞬間、同時に腰が抜けて尻餅をつく。

 

「「……助かった……」」

 

「ボス……ごめんなさい……」

 

「まだ、死にたくないわ……」

 

 

 

 

 ラミナは教えられた方角に歩き続け、スラムの一番端にようやく赤い屋根の小屋を見つけた。

 

「一番奥とは面倒なところに……」

 

「よぉここまで来た」

 

 小屋の中からヌゥっと禿頭で皺皺な小柄の老人が現れる。

 実力は無さそうで今にも倒れて死にそうだが、垂れ目気味の瞳が力強い光が浮かんでいることから、スラムの長老的存在であることが窺えた。

 

「あんたがナビゲーターかいな?」

 

「そうじゃ。と言っても、儂は碌に動けんから実際に案内するのは別の者じゃがの」

 

「案内してくれるなら誰でもええわ。で、誰が案内してくるんや?」

 

「……悪いがまだ貴様を案内するかどうかは決めておらん」

 

 長老がそう言うと、周囲から武器を構えた者達がラミナを囲むように飛び出してきた。

 

 しかし、その前にラミナがいつの間にか長老の目の前に移動して、長老の額にブロードソードを突きつけていた。

 

『!!?』

 

「っ!?」

 

「動くなや。一歩でも動いたら、この爺さんを細切れにすんで」

 

「なっ!? 貴様、会場に行けなくなってもいいのか!?」

 

「案内するんは他の奴やろ? 別に爺さん死んでも問題ないやないか」

 

「貴様……!」

 

「で、爺さん。どうするんや? うちは別にええで? このスラムから人がおらんくなっても。襲ってきたんはそっちからやしな。やり返される覚悟は出来とるんやろ?」

 

「……」

 

「5秒やるわ。5……4……3……2……」

 

「分かった。お主は合格じゃ」

 

 長老は冷や汗を流しながら言う。

 ラミナは剣を下ろして、一歩後ろに下がる。

 

「でやああああ!!」

 

 その時、先ほど突っかかってきた男が棍棒を振り被って飛び掛かってきた。

 

「っ! 待っ――!」

 

 長老は慌てて止めようとしたが、

 ラミナはそれを冷めた目で見つめて呟く。

 

「……阿呆が」

 

 直後、男の首から下が細切れになり、男の背後にラミナがブロードソードをぶら下げて立っていた。

 

 長老や住民達は何が起こったのか、全く理解出来なかった。

 殺された男も何が起こったのかという顔をしており、その表情のまま地面に落ちる。

 しかし、頭が一度跳ねた直後、男の頭も細切れになり、肉片が浮かぶ血の水溜まりに変化する。

 住民達は血と肉片が散らばっているのを見て、それが先ほどまで1人の男だったなどと、目の前で見ていたはずに信じることが出来なかった。

 

「……今回の審査委員会とやらは頼む相手間違い過ぎやろ」

 

 ラミナはもはや血に見向きもせず、長老に顔を向ける。

 

「で、どうするんや? まだ殺し合うんか?」

 

「……いや。もうよい。皆下がれ。けが人の手当てをしてやるのだ」

 

 長老の指示を聞いて、住民達は武器を捨てて逃げるように走っていく。

 ラミナはブロードソードを仕舞うふりをして消し、長老に歩み寄る。

 

「相手を見る力がないのに、こんなやり方しか出来んなら全滅する覚悟持たせとけや。試験受けに来る中にはバケモンもおるんやぞ?」

 

「はぁ……少なくとも儂は他の者にはそう伝えておったんじゃがな。軽く考えた者が多かったようじゃ」

 

 ラミナの言葉に長老はため息を吐いた。

 

「まぁ、もうええわ。さっさと案内せい。逆恨みでまた襲われたらたまらんわ」

 

「そうじゃの。ついてくるがよい」

 

 長老が小屋の中に戻り、ラミナも後に続く。

 小屋の中は何もなく、床に地下へと続く階段だけがぽっかりと存在していた。

 

 2人は階段を降りると、そこにあったのは大きな地下水路と小型クルーザーだった。

 

「なるほど。この水路がザバン市に繋がっとるんか」

 

「そうじゃ。運転はもちろんこちらの者が行う。お前さんは船の中でゆっくりとされよ」

 

「そうさせてもらうわ」

 

 ラミナは船に飛び乗り、船室に入る。

 船室はベッドが1つあるだけの小さなものだった。

 ラミナがベッドに横になるのと同時に船が動き出す。

 

「ザバン市には明日の夜明けに到着する」

 

「了解や」

 

 操縦を補助していた男が声を掛けてくる。

 ラミナは返事をして、目を閉じる。

 

 ラミナを乗せた船は、ザバン市に向けて暗い水路をゆっくりと進むのであった。

 

 


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