暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#50 ヤイバ×ト×クサリ

 クロロの拉致に成功したクラピカ達は車に乗って、移動を開始していた。

 運転しているレオリオは常に周囲を見渡して、追手が来ないか警戒している。

 

「大丈夫だ。暗闇でヒソカを相手にして、こっちに人手を割く余裕はないだろう。ゴン達も殺せなくなったから、加勢が来るまではまともに動けまい」

 

「……」

 

「何を見ている?」

 

 クロロは隣に座っているクラピカをじっと見ていた。

 それにクラピカは目も向けずに、クロロに言い放つ。

 クロロは縛られている状況でも一切余裕を崩さずに、

 

「いや……鎖野郎が女だとは思わなかった。ラミナも男だと思っていたようだからな」

 

 クラピカはカツラを外しながら、

 

「私がそう言ったか? 見た目に騙されぬことだな。それより発言には気をつけろ。何がお前の最後になるか分からんぞ?」

 

「殺せはしないさ。大事な仲間が残ってるだろ? まさかラミナが止めると思ってるのか?」

 

「……挑発を受け流せるほど……今の私は冷静じゃない……!!」

 

 挑発したクラピカが逆にクロロに挑発されて、顔を顰める。

 クラピカが睨みつけるが、クロロは涼しい顔で躱して前を見つめる。

 

「クラピカ、よせよ……! ここでそいつを傷つけたら、ゴン達がやられるかもしれねぇんだぞ……!?」

 

「ぐ……!」

 

 レオリオがバックミラー越しにクラピカを叱責する。

 それにクラピカが歯を食いしばって、必死に怒りを抑える。 

 それを横目で見ていたクロロは、不敵に笑って、

 

「あの娘の占いでも、このことは書かれてなかった。そして、俺の占いはまだまだ続いていた」

 

「!?」

 

「つまり、この状況は予言するほどでもない、取るに足らない出来事だということだ」

 

「貴様……!!」

 

 クラピカは我慢出来なくなって、クロロの胸倉を掴んで拳を構える。

 センリツが慌てて後ろを振り返って、呼び止める。

 

「クラピカ!」

 

「クラピカ……! もし、そいつを殺したら、俺がお前を殺すぜ……!」

 

 レオリオが運転しながら、クラピカに凄む。

 ここでクロロを殺せば、間違いなくゴン達は死ぬ。そうなれば、レオリオも我慢出来るわけはない。

 しかし、再びクロロが口を開く。

 

「何を苛立っているのかは知らんが……。俺にとって、この状況は昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わりない平穏なものだ」

 

「っ!!」

 

 クラピカは完全に頭に血が昇り、クロロの右頬に拳を叩き込む。

 しかし、クロロはすぐに笑みを浮かべる。

 それにクラピカは更に拳を振り、数回クロロを殴る。

 レオリオが運転しながら腕を伸ばして、クラピカを制止する。

 

「クラピカ!! いい加減にしろ! らしくねぇぞ!!」

 

 もちろん内心では、キレて当然だと分かっている。

 仲間の仇が目の前にいて、殺したくても殺せない。なのに飄々と笑って、余裕で縛られているのだから。

 しかし、ゴン達の命もかかっている以上、レオリオは言うしかない。止めるしかない。

 

「状況は五分! 何も進展してねぇんだ!!」

 

「……五分? お前もとんだピント外れだな」

 

 クロロは両頬を僅かに腫らしながらも、一切痛みに呻くことも余裕を崩すこともなく、レオリオに言い放つ。

 

「前提がまず間違っているよ、お前達は。俺に人質の価値はない」

 

「これ以上下らん戯言を並べるなら、もう一度口を塞ぐぞ」

 

「……嘘じゃないわ」

 

 クラピカが再び凄むが、センリツが僅かに戸惑いを浮かべながら口を開く。

 それにクラピカも戸惑いを浮かべて、センリツに顔を向ける。

 

「彼が言ってるのは全て……本当よ……」

 

「そういうことだ。これはただの事実。俺が死んだところで、クモは止まらない。追い詰められているのはお前達の方だ」

 

「……どういうことだ!?」

 

「彼の心音はいたって平常。動揺は微塵もないわ。死への不安・恐怖・虚偽への不協和音、何もないわ。恐らく死なないと思ってるんじゃない。この音は……死を受け入れている音」

 

 センリツは縛られても、殴られても、一切変わらない心音に恐怖を感じ始めていた。手で耳を押さえて、必死にクロロの心音が聞こえないようにする。

 その様子を見ていたクラピカも、目の前の男が不気味に見えてきた。

 

「お前達は……一体……!?」

 

「クモさ。ヒソカから、俺達の事を聞いたんじゃないのか? ヒソカは、俺が死ねばクモも死ぬとでも言ったのか? あいつにはクモの掟を伝えているはずだがな」

 

「……5年ほど前、クルタ族を虐殺した時、すでにお前はリーダーだったのか?」

 

 クラピカはクロロに訊ねる。

 クロロは目だけクラピカに向けて、何も答えない。

 クラピカは【律する小指の鎖】を取り出して、切っ先を向ける。

 

「答えろ!!」

 

「……それが、ウボォーを殺した鎖か」

 

「……」

 

「ウボォーは最後に何と言っていた?」

 

「覚えていないな。私の質問に答えろ!」

 

「嘘だな。だろ? お仲間さん」

 

 クロロはセンリツに訊ね、センリツが何も答えないことから正解だと確信する。

 

「そうだな……。ウボォーなら……『殺せ』か『くたばれ』、か?」

 

「っ!」

 

「俺も同じ気持ちだよ。お前に話すことは何もない」

 

「き……さま……!」

 

「クラピカ!! 挑発だ!! 乗るなよ!!」

 

「ラミナがお前を放置していた理由がよく分かったよ」

 

「……どういうことだ……?」

 

「ラミナの前でヒソカからヨークシンで俺達が集まる事を聞いたことを話したんだろ? 確か……あのゾルディックの息子を迎えに行った後くらいだったか……」

 

「……」

 

「お前を無駄に敵視し過ぎたな。お前は取るに足らない、よくいるただの復讐者だった」

 

「っ!!」

 

 クロロは無機質な眼でクラピカを見つめながら言い放ち、もう本当に話すことなどないかのように前を向く。

 それにクラピカは歯軋りをして、念の刃を刺そうとしたが、

 

「クラピカ!! それ以上は駄目だ!! 本当に人質の意味がなくなる!!」

 

 レオリオの言葉がギリギリでクラピカの理性に届き、クラピカは右手を止める。 

 

 事実、ここで【律する小指の鎖】を使えば、間違いなく交渉の余地は一切ない。

 もし、下手に話せば死ぬと命令しても、目の前の男は戸惑いなく、来た者に全て伝えるだろう。それで死んでも、クロロの笑みが消えることは絶対にない。

 そして、そうなればゴンとキルアは絶対に戻ってこない。

 それを理解出来るだけの理性はまだ残っていた。

 

 クラピカは歯軋りをして、クロロを数分睨み続ける。

 

 そして、【律する小指の鎖】を戻して、クロロから取り上げた携帯を取り出す。

 

(決定的だな。意外な……いや、あの子供やラミナの話からすれば、別に意外でもないか。こいつは使命より、仲間をとる……!)

 

 隣でクラピカがパクノダに指示を出しているのが聞こえてくる。

 それにクロロは更なる確信を得る。

 

(ラミナがこの弱点に気付いていないはずがない。あいつはすでに動いている……!)

 

 あそこにいるメンバーを考えれば、ラミナは確実にクラピカの裏をかく作戦を考えているはず。

 それをパクノダに気づかせる方法も。他のメンバーに伝える方法も。

 

 ならば、恐れることはやはりない。

 

 クロロはただただ刃が鎖を千切るのを待つだけだった。

 

 

 

 

 パクノダはホテルを出て、すぐさまタクシーに乗り込む。

 もちろん誰も追いかけて来ないことを確認しながら。

 

(フィンクス達がついてくるかと思ったけど……。ノブナガやマチと殺し合ってないといいわね……)

 

 小さくため息を吐きながら、リンゴーン空港を目指す。

 

(……これでいいのか……)

 

 未だに迷いは消せないパクノダ。

 旅団の掟からすれば、間違いなく全員で行くのが絶対である。

 しかし、ここでクロロを失うのもパクノダは受け入れられない。

 

 例え裏切りで責められても、いなくなるよりはマシだから。

 

(そういえば……)

 

 パクノダはラミナから渡された折り畳まれた紙をポケットから取り出す。

 紙を広げると、それはラミナの占いが書かれたものだった。

 

(……何故?)

 

 パクノダは疑問に思いながらも、改めて中身を読む。

 すると、その意味をすぐに理解することが出来た。

 

(あの子は……諦めていない……!)

 

 そして、自分の行動が間違っていないことも確信した。

 

 この選択は間違いなく、『誇り』であると。

 

(ならば、死ぬのは……怖くない)

 

 パクノダは胸の中にあった不安と恐怖が消えるのを感じた。

 

 

 

 ゴンとキルア、マチ達はアジトへと戻る。

 

 アジトで待機していたフランクリンはゴン達を見て、

 

「またこいつらかよ」

 

「それで、団長はどうなんだ?」

 

 ボノレノフはゴン達を無視して、ノブナガ達に訊ねる。

 ノブナガは用意して貰っていた鎖をゴン達に巻きつけながら、

 

「今、パクが鎖野郎と会いに行ってる。その結果を待つしかねぇ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「鎖野郎だって、こいつらを殺されたくはねぇはずだ。それまでは団長もパクも、下手に殺されることはねぇだろ」

 

「ラミナは?」

 

「寝てるだけだよ」

 

 マチが丁寧にラミナを下ろしながら答える。

 その様子を見ていたフランクリンとボノレノフは、僅かに首を傾げる。

 鎖で瓦礫に体を固定されたゴンは心配そうにラミナを見つめる。

 

「ヒソカの野郎は?」

 

「また姿を隠した。鎖野郎と繋がってんなら、団長の近くにいるかもしれねぇな」

 

「ヒソカの狙いは団長みたいだし、今は下手に引っ掻き回すことはないと思うよ」

 

 ノブナガは顔を顰めながら言い、シズクが首を傾げながら答える。

 フィンクスがゴンとキルアに顔を向けて、

 

「お前らは何か知らねぇのか?」

 

「……俺達がクラピカとヒソカが繋がってたのを知ったのは今日だよ。あんた達の死体が偽物だって連絡はあったけど、ラミナを襲ったのは俺達もクラピカも想定外さ」

 

「嘘じゃねぇだろうな?」

 

「言ったろって、あんたには言ってないか。俺達だって捕まったのは想定外なんだ。あの停電だって、俺達は直前に知らされた」

 

「あ。やっぱりあの新聞の奴もグルだったんだ」

 

 キルアは正直に答える。

 それにシズクが呑気に言って、フィンクスは少しカックリと肩の力が抜ける。

 

「……まぁいい。とりあえず、大人しくしとくんだな」

 

「……分かってるよ」

 

 キルアは少し思い詰めたような顔で頷く。

 その様子をゴンが心配そうに見つめていることに気づいていたが、キルアは何も言うことはなかった。

 

 

 

 空港に到着したパクノダは、クラピカに電話を掛ける。

 

『第3航空路に飛行船が停まっている。乗ったら入り口付近で待機しろ』

 

 パクノダは指示通りに動く。

 ヒソカだけが唯一の不安要素だったが、今の所ヒソカがいる気配はない。

 ラミナに関しては、信頼をしているのでただ信じて待っていればいい。なので、ラミナを探す必要は一切ない。

 

 クラピカとセンリツは、パクノダが近づいてくる様子を飛行船の窓から監視する。ちなみにレオリオはもしもの時のために、飛行場で待機させている。

 

「……1人か?」

 

「見える限りはね。流石に飛行船の中からじゃ、外の音までは拾えないわ」

 

「……。(つまり、クモはリーダーを救うつもりでいる? しかし、ならば先ほどのこいつの言葉は……。くそっ……!)」

 

 クラピカはクロロの言葉とパクノダの行動の矛盾に、頭が混乱してきた。

 しかし、ここまで来た以上、動かないわけにもいかない。

 

「パクノダが乗り込み次第、離陸する」

 

 クラピカはそう言って、パクノダと面会する場所へと歩き始める。

 その間、クロロは目を閉じて、流れに身を任せるのだった。

 

 パクノダは指示通りに停まっている飛行船に乗り、入り口付近で立ち止まる。

 すると、外から扉が閉められる。

 そして、ゆっくりと飛行船が浮かび上がり始める。

 

 かなり地面から離れ、街の上空に差し掛かった時、携帯が鳴る。

 

「もしもし」

 

『そこから左に進み、突き当りの部屋に入れ』

 

「分かった」

 

 パクノダはすぐに歩き始め、言われた通りに右突き当りの部屋に足を進める。 

 

 倉庫のような狭い部屋の中には、クラピカとセンリツ、そして鎖に口元と体を縛られたクロロがいた。

 クロロの顔が腫れていることに、パクノダは怒りがこみ上げるがここで暴れても勝ち目は薄いので必死に耐える。

 

「確認する。パクノダ本人だな?」

 

「もちろん」

 

 クラピカはセンリツに目を向ける。

 センリツはしっかりと頷く。

 

「本当よ」

 

 それに頷き返したクラピカは、パクノダに顔を向ける。

 

「お前達2人に、それぞれ2つ条件を出す。それを厳守すれば、お前達のリーダーは解放する」

 

 そう言いながら、クラピカは【律する小指の鎖】を取り出す。

 それを見せつけながら、

 

「まずは、お前達のリーダーへの条件。1つ、今後念能力の使用を一切禁じる」

 

 クロロとパクノダはクラピカが提示したことに一切動揺を見せなかった。

 

(命を奪われる内容ではない。焦る理由はないわ)

 

 もちろんクロロもパクノダも除念の存在を知っている。

 なので、使えないだけならば問題はない。

 

「2つ。…………」

 

「?」

 

 突如クラピカが黙り込む。

 パクノダは訝しむようにクラピカを見つめ、センリツは心配そうにクラピカを見上げる。

 

 クラピカは迷っていた。

 クロロの「俺に人質の価値はない」と言い切り、それを確信している事。しかし、パクノダはクロロが定めた掟を破る行動をしていること。

 

 どちらが本当の旅団の姿なのか。

 

 本当に今、言おうとしている『今後、団員との一切の接触を禁じる』という条件でいいのか。

 

 もしクロロの言い分が正しければ、それでは旅団は止まらない。瓦解するどころか、動きを鈍らせることすらどこまで効果があるのかが疑問になって来ていた。

 しかし、ならばもっと効果的な条件はあるのか。

 下手に厳しい条件を出したら、間違いなくクロロはこの場で死を選ぶだろう。

 そうなればゴンとキルアは死ぬ。

 

 しかし、それでクロロとパクノダが殺せれば、クラピカの復讐は大きく進展する。

 そのためにここまで来たのではなかったのか?

 

 クラピカは己にそう問いかける。

 しかし、思い浮かばない。

 ならば、これでいいと信じるしかない。

 

(そうだ……。今大事なのは、俺の復讐じゃない。巻き込んでしまったゴンとキルアを取り戻す事!)

 

「2つ。今後、旅団員との一切の接触を絶つこと!」

 

 クラピカは覚悟を決めて、2つ目の条件を言う。

 流石にパクノダは一瞬眉が動くが、大きく表情を崩すことはなかった。

 

「この2つが条件。そして、それを守らせるためにリーダーに【律する小指の鎖】を刺す。それでOKか否か。お前が決めろ、パクノダ」

 

「……」

 

 パクノダは奥歯を噛み締める。

 流石にこれはすぐには決断は出来なかった。

 

(……ラミナは……間に合わない? ……いいえ。疑うのは、そこじゃない。ここで否と言えば、団長と私が殺されること。ならば、私の誇りは……もう決まっている)

 

「……OKよ」

 

 パクノダはクラピカの条件を呑む。

 クロロはパクノダの言葉でも一切その表情を変えることはなかった。

 

 クラピカは【律する小指の鎖】を操り、クロロの胸に突き刺す。

 クロロの心臓に鎖が巻き付き、念の刃が突き立てられる。

 

 そして、鎖が千切れ、新たな刃が生まれる。

 

「次はパクノダ。お前だ」

 

 その時、

 

 飛行船が大きく傾いた。

 

「なっ!?」

 

「きゃ!?」

 

「っ!?」

 

「!!」

 

 全員が驚いて、倒れないように踏ん張る。

 

 その直後、クラピカ達の背後の扉が勢いよく吹き飛んだ。

 

『!!』

 

 クラピカとセンリツは振り向きながら扉を躱すが、

 

 

「【脆く儚い夢物語(フラジャイル・ホープ)】」

 

 

バッキイイィィン!!!

 

 

「!!?」

 

 突如、クロロを縛っている【束縛する中指の鎖】が砕ける。

 そして、クラピカとクロロの間に、右手にソードブレイカー、左手に短刀を握っているラミナがいた。

 

 クラピカとセンリツは、突然現れたラミナと鎖が砕かれたことに驚き、行動が一瞬遅れる。

 

 ラミナは短刀を消しながら体を捻り、右脚を振り上げてクラピカの左脇腹に叩き込む。

 

 クラピカはギリギリ左腕で防いだが、その衝撃は想像以上で、左腕からボギッ!と鈍い音が響く。

 

 そして、金色に輝くラミナの両眼と目が合う。

 

「がっ!?」

 

 クラピカは飛行船が傾いたことでバランスが崩れていたため、踏ん張りが利かずに壁に叩きつけられる。

 しかし、すぐに【束縛する中指の鎖】を再び具現化し直す。

 そして、クラピカがラミナに目を向けて、縛りつけようとすると、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()背中に引き込んでいるラミナの姿を捉えた。

 

 

 それにクラピカは大きく目を見開いて、本能的に攻撃を中断する。

 クロロも僅かに目を見開いているが、クロロが【律する小指の鎖】で心臓を潰される様子はない。

 それはつまり、

 

 

(ラミナは……旅団員ではない!!?) 

 

 

 【律する小指の鎖】は切り離すと、その後の判定は刺された本人の認識で判断される。

 

 つまり、クロロはラミナを旅団員と認識していないということだ。

 

 それは同時に、

 

(【束縛する中指の鎖】が使えない!!)

 

「ならっ……!!」

 

 クラピカはパクノダを狙おうとする。

 しかし、

 

「パク姉!!」

 

 ラミナが鋭く叫ぶ。

 パクノダは言われるまでもなく、ラミナの姿を捉えた瞬間に拳銃を具現化して、クラピカ達に向けていた。

 それにクラピカとセンリツは目を見開いて、破られた扉へと飛ぶ。

 

 パクノダが発砲し、更にラミナがセンリツに右拳を構えて詰め寄る。

 クラピカは折れたと思われる左腕でセンリツを引っ張り、入れ替わる様に前に出て【練】を強める。

 

 パクノダの銃弾は外れたが、ラミナの拳はクラピカの左脇腹に叩き込まれる。

 

 クラピカは後ろに勢いよく吹き飛び、センリツを巻き込んで通路へと飛び出していく。

 

 ラミナは追撃せずに、右手に圏を具現化し、窓がある壁に向かって右腕を振り被って飛び掛かる。

 そして、圏にオーラを集中させ、

 

「【意地を貫く拳(ビグテッド・ナックル)】!!」

 

 強化した一撃で壁をぶち破り、大きな穴を空ける。

 

「飛ぶで!!」

 

 ラミナはそう言いながら圏を消して、今度はククリ刀を具現化する。

 そして、クラピカ達がいる方向に全力で投擲する。

 

 結果を見ることなく、ラミナはクロロとパクノダの腕を掴んで引っ張り、穴から飛び出した。

 

 

 

 クラピカとセンリツは通路の床を転がる。

 

 センリツはすぐに起き上がる。

 

「クラピカ!」

 

「ぐっ!! ごほっごほっ!! がっは……!!」

 

 クラピカはうつ伏せに倒れたまま右手で左脇腹を押さえて、血を吐きながら咳き込んでいた。

 

(な、なんだ……この威力、は……!? ラミナは具現化系の筈……! なのに、あの11番に敗けていない……!?)

 

 クラピカはダメージに呻きながらも【癒す親指の鎖】を発動して、まずは左脇腹の自己治癒力を強化して治療する。

 すぐに痛みは引き、クラピカは立ち上がる。

 

「大丈夫!?」

 

「ああ。もう完治し――」

 

 その時、何かが砕ける大きな音がして飛行船が揺れ、先ほどまでいた部屋に向かって空気が勢いよく吹き込んでいく。

 

「壁を破ったのか!? っ!! センリツ!!」

 

「!!」

 

 部屋から炎の円盤が猛スピードで飛び迫ってきた。

 クラピカとセンリツは横に跳んで、その間を炎の円盤が通り過ぎていく。

 

「ぐっ! 逃がすか!」

 

 クラピカはラミナ達を追おうとするが、

 

「クラピカ! 後ろ!!」

 

「なっ!?」

 

 背後を振り返ると、炎の円盤が船内の壁を次々と突き破りながら戻って来ていた。

 船員達の悲鳴が響き渡るのが聞こえてくる。

 

「くっ!!」

 

「このままじゃ船員に被害が出て、下手したら街中で墜落するわ!!」

 

「……あれを止める!!」

 

 クラピカは歯を食いしばりながら、ラミナ達の追跡より被害拡大を食い止める事を選択するのだった。

 

 

 

 外は未だ冷たい雨が降っており、真下には街灯が輝く市街が広がっていた。

 高さは約400m。

 

「クロロ!! 着地は自分で行けるやろ!!」

 

「駄目!! 団長は鎖野郎に念を封じられたわ!! 使えば死ぬ!!」

 

「はぁ!?」

 

「それと団員との接触も駄目よ!! だから、私と触れさせないで!! 私はいいから、団長を!!」

 

「っ!! くっそがぁ!!!」

 

 ラミナは叫びながら、手段を考える。

 すでに地面まで300mを切っている。

 

 飛行船を振り返るが、穴にクラピカの姿は見えない。

 

(【月の眼】で殴ったんや。すぐに動けるダメージやないはず……!)

 

 しかも、【太陽より飛び立つ鷲】が船内で暴れているはずだ。残念ながら機関室に直撃はしなかったようだが、それでもまともに飛行するのは難しいだろうと推測する。

 そうなると、クラピカならばこちらより【太陽より飛び立つ鷲】の対処を優先する可能性が高い。

 

「……パク姉! 左腕に乗れ! 一度、真上にぶん投げる!」

 

「っ! 分かったわ!」

 

「クロロ!! ビルの屋上にぶん投げる!! 上手く着地せぇよ!!」

 

「……ああ」

 

 ラミナは左腕にオーラを集中させながら仰向けになり、パクノダが両足をラミナの腕に乗せる。

 

「ふんっ!!」

 

 ラミナは左腕を振り抜いて、それと同時にパクノダは真上に跳び上がる。

 そして、ラミナは両手でクロロの左腕を掴み、全力で体を捻ってクロロを振り回しながら、一番近くの高いビルに向かってぶん投げる。

 

「つぅりゃっ!!」

 

 クロロは上手くビルの上に着地する。

 それを確認したラミナは両手にグローブ型鈎爪を具現化する。

 真下は運がいいことに大通りだった。

 

「【親愛なる姉様との絆(アラクネ・クイーン)】!!」

 

 両腕を広げて、指先から念糸を飛ばし、左右のビルに引っ掻ける。

 すぐに念糸を引き絞りながら両腕を胸前で交差させる。

 

 両腕と念糸をネット代わりにして、勢いを殺して着地する。

 

 上空から落ちてきたラミナに、周囲の通行人達は驚きながら慌てて距離を取る。

 ラミナは通行人達のことなど気にも留めずに上空にいるパクノダを見据える。

 そして、念糸を引き戻しながら、ジャンプの瞬間にオーラを両足に集中させて力を籠めて、一気に跳び上がる。

 

 地面をヒビ割れさせながら、スリングショットのように飛び出して、猛スピードでパクノダに迫る。

 ラミナが迫ってくるのを見たパクノダは、仰向けになりながら背中を丸めて、両脚を軽く折り畳む。

 

 ラミナは両腕でパクノダをしっかりと受け止めて、念糸を伸ばしてすぐ横の右側のビルの屋上に念糸を引っかける。

 一気に念糸を巻き戻してビルに近づき、壁を蹴って屋上へと跳び上がる。

 

「ぶっはぁ!!!」

 

 パクノダを下ろしたラミナは息を思いっきり吐き出しながら、【月の眼】を解除する。

 

「助かったわ」

 

「まだ早い。クロロと合流してからや」

 

「……そうね」

 

「確か……あそこか……」

 

 クロロを投げ飛ばしたビルを確認して、パクノダを連れて駆け出す。

 

「で、クロロに何があったんや?」

 

「……クラピカの【律する小指の鎖】って能力で、胸に刃付きの鎖を埋め込まれたの。『今後念の使用を禁じる』『旅団員との一切の接触を絶つこと』を命令されたわ」

 

「ちっ……。パク姉は?」

 

「あなたのおかげでギリギリ免れたわ」

 

「そうか……。はぁ~、うちとクロロは結局占い通り、か」

 

 ラミナはため息を吐いて、携帯を取り出す。

 

「マチ?」

 

「……いや、先にヒソカや」

 

「ヒソカ?」

 

 パクノダはヒソカの名前に顔を顰めて訝しむ。

 ラミナはメールを打ち、それをヒソカに送る。

 

「なんで?」

 

「クロロがクラピカのせいで戦えんって伝えとった方が、もう襲われんやろ。これ以上、アレに狙われるんは面倒や」

 

「そうね……」

 

 パクノダは思い詰めた顔をして、クロロがいるはずのビルを見上げる。

 それを見逃さなかったラミナは、

 

「悔やむなや。生きとる限り、除念の可能性はある」

 

「……そうね。ラミナは無理なの?」

 

「……流石に体に埋め込まれると無理や」

 

 【脆く儚い夢物語】は直接切りつける必要があり、【月の眼】も直接触れ、かつクラピカを捉えている必要がある。

 体の中に埋め込まれてしまうと、そのどちらも不可能に近い。

 なので、現段階ではクロロにかけられた念を解除することは出来ない。

 

「あの子達を使えば?」

 

「まぁ、やってみるしかないなぁ。まずはクロロを匿う」

 

 クロロを下ろした高層ビルに到着し、侵入できる場所を探す。

 パクノダには近くの路地裏で待機してもらい、ラミナは短刀を具現化して姿を隠して、ビルに侵入する。

 そして、屋上まで一気に駆け上がり、屋上に出る。

 

 クロロは屋上で空を見上げており、黙って雨に打たれていた。

 

「無事か?」

 

「……ああ。そっちは?」

 

「パク姉は下で待っとるで」

 

「そうか」

 

「とりあえず、一度うちの隠れ家に行くで」

 

「……ああ」

 

 ラミナは再び【親愛なる姉様との絆】を具現化して、クロロを抱えて屋上から飛び降りる。

 そして、パクノダと合流するも、もちろん2人は話すことも触れ合うことも出来ない。

 

「この近くに隠れ家がある。そこに行こ」

 

 ラミナの言葉に2人は黙って頷いて、歩き出す。

 

「そう言えば、どうやってホテルから抜け出したの?」

 

「コルトピのコピーや。パク姉が電話しとる間に、コルトピにゴンとキルアにバレんように声を掛けて、コピーしてもらうのと同時に【朧霞】で姿を消して、シズクに気絶したっちゅう印象を植え付けてもらうように伝言を頼んだ」

 

 サングラスを滑らせて、近くにいたコルトピの足に当てて気づかせ、ゴンとキルアにバレないように近づいてもらい作戦を伝えた。

 そして、自分をコピーしてもらった直後に姿を消して、ホテルを出たのだ。

 後はパクノダが乗り込んだタクシーの上に飛び乗り、後をつけた。

 パクノダが飛行船に乗り込んだ瞬間に一緒に滑り込むように乗って、パクノダが入る部屋を確認して、先に操舵室に向かい、飛行船のバランスが崩れるようにスローイングナイフで操縦桿を無理矢理傾けたのだ。

 後は全力で部屋に飛び込んで、クロロ達が知る状況となった。

 

 隠れ家の1つに入ったラミナは、クロロにタオルを投げ渡す。

 

「顔を洗って、服も着替え。その間にこっちで動く」

 

「すまんな」

 

「一般人はのんびりしとけや」

 

「ふっ……」

 

 クロロを部屋に放置して、ラミナとパクノダはアジトに向かう。

 

 再びクラピカとキルア達は窮地に追い込まれるのだった。

 

 

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