暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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大変申し訳ないのですが、【律する小指の鎖】について独自設定を追加させていただきたく(__)

それは『念の刃の解除する場合は、相手を視界に入れている必要がある』です。

流石に触れるとか、また念の刃を刺すというのは行きすぎかなと思いましたので。相手を認識する程度くらいかなと。
もしかしたら、頭に思い浮かべるだけで外せるのかもしれませんがね。
拙作を盛り上げるためには上記の制約が必要になったので、お許しくださいまし(__)



#51 マサカ×ノ×シュウライ

 旅団のアジトではフィンクスやノブナガが苛立たし気に、パクノダやクラピカの連絡を待っていた。

 

 ゴンとキルアは大人しく鎖で縛られて、座っている。

 他の者達も座って、静かに連絡を待っていた。

 

「……ちっ! 全く連絡ねぇな……」

 

 フィンクスがしびれを切らしたのか、徐に立ち上がる。

 シャルナークが少し呆れながら、

 

「まだ戻ってきて、30分くらいだぞ? どこで会ってるのかも分からないしさ」

 

「んなこた、わぁってんよ」

 

「それに連絡がないってことは、今まさに会ってるかもよ?」

 

「……だといいがな。ラミナの奴、ちゃんとパクの後を尾けてんだろうな?」

 

 フィンクスはシズクの言葉に顔を顰め、そしてマチに顔を向けながら言う。

 ラミナの名前が出たことにゴンとキルアが驚き、マチは不機嫌そうに肩を竦める。

 

「アタシが知るわけないだろ。今はあの子とパクを信じて待つだけだよ」

 

「ちっ」

 

「ねぇ、どういうこと? ラミナはそこで……」

 

 ゴンが声を上げて、未だ気絶して寝転んでいるラミナに顔を向ける。

 すると、ラミナの体がぼやけて消えた。

 

「え!?」

 

「偽物……! (しまった……! 偽物の死体を具現化した能力!!)」

 

 ゴンは目を見開いて、キルアは先ほど自分でヒソカから死体は偽物だと聞いたと言ったばかりなのに、すっかりその可能性が頭から抜け落ちていたことに歯を食いしばる。

 フィンクスは優越感全開の笑みを浮かべて、キルア達を見る。

 

「そういうこった。今頃、鎖野郎はラミナに殺されてるかもな」

 

「っ! ラミナがクラピカを殺すもんか!」

 

「殺すよ。あの子が自分で落とし前をつけるって言ったからね」

 

 ゴンが否定するが、マチがすかさずゴンを睨みつけながら言い放つ。

 ゴンはマチを睨むが、悔しいことにラミナの事を知っているのは旅団の方なので「そんな奴じゃない!」と叫んでも説得力がない。

 なので、言い返そうにも、それだけの根拠がなかった。

 

「クラピカが殺した団員の復讐のため?」

 

 今度はキルアが訊ねる。

 キルアは正直、ラミナが復讐だけで動くとは思えなかった。

 マチはキルアの言葉には顔を顰めて、睨みつけるだけで答えない。

 それにキルアも歯軋りして睨み返すが、そこにノブナガが口を開いた。

 

「いいや。あいつはウボォーの復讐なんて考えてねぇさ」

 

「……じゃあ、なんで……」

 

「言っただろ? 落とし前をつけるってな。あいつは『ウボォーが殺されたこと』に怒ってるんじゃねぇ。『自分が鎖野郎を甘く見て、ウボォー1人で行かせて、ウボォーが死んだこと』に怒ってんのさ」

 

「それと『その時に鎖野郎を確認しなかったこと』だな」

 

「そのせいで俺達が鎖野郎相手に後手に回ることになった。だから、ラミナは自分のミスを挽回したいだけだ。ウボォーの仇討ちがしたいわけじゃねぇだろうよ」

 

 ノブナガ、シャルナーク、フィンクスの言葉にキルアは納得するも、ゴンは納得出来なかった。

 

 ノブナガ達の言う通り、ラミナが今回クラピカを狙っているのは『自分のミスで仕事に影響を出してしまった事への仕返しと挽回』である。

 ウボォーギンが1人で行った後に、過信せずに後を尾けて戦いを見守っていれば、ウボォーギンを死なせずに済んだし、そこでクラピカを殺すか行動不能にしておけば、もっと仕事は簡単に終わったのだ。ヒソカもわざわざこんな状況で狙わずに済んだだろう。

 しかし結果として、現在ヒソカがどこかに彷徨っており、クロロが攫われるような状況になった。

 

 間違いなく自分のミス。

 

 ラミナはそう思っていた。

 依頼主である旅団がどう思っているかではない。

 自分がそう思っている以上、自分で挽回しなければならない。そこに妥協をしてはならないのだ。

 それがラミナの殺し屋としてのプライドである。

 

「だから、あいつが鎖野郎を殺すことを躊躇うことはねぇよ」

 

 フィンクスが断言し、それに他の団員達も頷く。

 ゴンが更に何かを言い返そうとすると、

 

ピルルルル! ピルルルル!

 

「お。さぁ、どっちだ?」

 

 フィンクスがシャルナークの携帯を取り出す。そして、画面を見る。

 

「パクが持ってる携帯からだ」

 

 パクノダからの着信に全員に緊張が走る。

 

「もしもし」

 

『フィンクス?』

 

「パクか。どうなった?」

 

『団長の救出に成功したわ。私もラミナも無事』

 

「へっ! やるじゃねぇか」

 

 フィンクスの言葉に団員達は笑みを浮かべ、ゴンとキルアは顔が強張る。

 

「で? 鎖野郎は殺したのかよ?」

 

『……それについて、ちょっと問題が出たわ』

 

「あ?」

 

 パクノダの言葉にフィンクスが訝しむ。

 その様子にノブナガ達も笑みを消す。

 

「どうした?」

 

「問題って何だよ?」

 

 ノブナガの問いを無視して、フィンクスはパクノダに訊ねる。

 

 そして、パクノダからクロロに埋め込まれた【律する小指の鎖】と、その条件について説明される。

 

「……念を使ったり、俺達と接触すれば、団長は死ぬってことか?」

 

『……ええ。ラミナは問題ないみたいだから、全く団長と意思疎通出来ないわけじゃないのだけど……。能力の内容からして、今鎖野郎を殺すのはマズイかもしれないわ』

 

「……死後に強まる念か……」

 

『ええ。今、ラミナが鎖野郎に連絡を取ってるわ。だから、まだ人質2人は殺さないで』

 

「こいつらをネタに団長に刺された念の鎖を解除させる、か……」

 

『そういうこと。とりあえず、私とラミナでそっちに戻るわ。無理矢理取り戻しに来る可能性があるから警戒は怠らないで』

 

「……分かってるよ」

 

 フィンクスは盛大に顔を顰めて、通話を切る。

 ずっと黙って我慢してたノブナガがすぐさま詰め寄る。

 

「どういうことだよ? 団長が死ぬって……!?」

 

「鎖野郎に念の鎖を心臓に刺されたらしい。決められたルールを破れば死ぬかもしれねぇ」

 

「そのルールは?」

 

「『念を使わないこと』『団員との一切の接触を絶つこと』の2つだとよ」

 

「……なるほどな。ちくしょう!!」

 

 ノブナガが足元の瓦礫を蹴り飛ばして、シズクが顎に指を当てて、

 

「ラミナはまだ団員じゃないから運が良かったね」

 

「そうだな。しかし、そうなると……」

 

「ああ、鎖野郎を下手に殺せねぇ。今、殺せば死の念で団長が死んじまう」

 

 シャルナークの懸念をフィンクスが顔を顰めながら言う。

 それにマチが歯軋りをして、キルア達を睨みつける。そして、フェイタンも右手にオーラを集中する。

 

 それを見逃さなかったシャルナークが、マチやフェイタンに声を掛ける。

 

「マチ、フェイタン。まだ人質に手は出すなよ。こいつらを殺せば、団長にかけられた念を消す交渉が出来なくなるんだからな」

 

「「……ちっ」」

 

 マチとフェイタンは舌打ちをする。

 ゴンとキルアはまだ殺されることはないことにホッとする。

 

(けど、マズイ! というか、最悪の状況だ……! このままじゃクラピカはせっかく団長に刺せた鎖を解除しないといけなくなる……!)

 

 しかし、逃げ出す隙はない。むしろ、さらに警戒が強まった。

 

(くそっ! 最善は俺達が自力で逃げ出す事……! けど、この人数を相手に逃げ切るなんて不可能だ……!)

 

 ここは旅団のホームだ。

 【絶】などで隠れられるわけもないし、スピードもパワーも誰かには負ける。

 【発】を使われれば、キルアとゴンに防ぐ手段は一切ない。

 どうやっても、ここから逃げられる可能性は0に近かった。

 

(団長の鎖が解除されるまで俺達が解放されることはない。だから、同時の人質交換は成立しない。……俺達を諦めるのが一番いい……)

 

 キルアはクラピカが自分達のことを諦めるのが、最善であると考えてしまった。

 自分達が人質としての価値が無くなれば、この最悪の状況から脱出は出来る。

 

 あくまで客観的な意見としては、であるが。

 

 最後に話したクラピカの状況から考えると、クラピカが自分達を切り捨てることが出来るとは思えなかった。

 しかし、それではただクラピカの顔や能力、そして弱点がバレただけで終わってしまう。

 旅団はほぼ無傷で活動を再開するだけだろう。

 

(……くそっ! せめてあの時、ゴンだけでも逃がしてやれば……!)

 

 キルアは停電の時にゴンを止めたことを後悔した。

 

 何故キルアが脱出を中止したのか。

 

 それはラミナとの関係をこれ以上悪化させないためだった。

 キルアとゴンがあの状況から逃げるには、『マチを殺す』ことが絶対条件だったのだ。

 キルアの首の念糸とゴンの両手の念糸を解くには、キルアの実力では殺すのが一番確実な手段だった。

 

 しかし、マチはラミナにとって一番関係が深い家族だ。

 

 もしマチを殺していれば、もうどちらかが全滅するまで絶対に止まらないとキルアは確信していた。

 だから、あの時は下手に動かず、人質交換の構図にするのが最も最善だと判断したのだ。

 クラピカが必ずクロロに【律する小指の鎖】を刺すとは考えていたので、その上で人質交換をすれば、クラピカ達の被害は少なく、旅団は動きを鈍らせる可能性が高かったからだ。

 

 それがクロロの奪還で、一気に裏返ってしまった。

 

(……俺が囮になって、ゴンを逃がす……? いや……ゴンは絶対に戻ってくる)

 

 そして、その逆もまた然り。

 

 キルアは完全に袋小路にいることを実感したのだった。

 

 

 

 クラピカはリンゴーン空港のベンチに座って、頭を抱えていた。

 その様子をセンリツとレオリオも眉間に皺を寄せて、黙って見つめるしか出来ない。

 

 あの後、なんとか【導く薬指の鎖】でククリ刀を止め、墜落することなく空港に引き返すことに成功した。

 奇跡的に怪我人も軽傷者3人ほどで、死者もいなかった。

 

 しかし、クラピカ達の心境は絶望一色だった。

 

「まさかラミナが追って来てたとはな……」

 

「いや……死体を作れる能力者がいるはずだったのに、それを忘れていた私のミスだ……」

 

 クラピカもキルア同様、すっかりとコルトピの存在が抜け落ちていた。

 ただクラピカに関しては、その前にクロロとひと悶着あったこともあり、冷静さが失われていたという言い訳は立つ。

 事実、センリツとレオリオはそう思っていた。

 

「これでゴンとキルアを助け出すには……」

 

「私がリーダーに刺した念の刃を解除する……しかないだろうな……」

 

「けど、それは同時に私達が一網打尽にされる危険も高まるわ。キルア君達の交換と同時ってのは、向こうは認めないでしょうから」

 

「そうだな……。誰かを指定しても、もう尾けてきてないかどうかを確かめる術もねぇし。全員同時に来られたら勝ち目は0だな……」

 

「ええ。そして、それは2人が自力で逃げ出せないということね」

 

「……」

 

 クラピカは下唇を噛む。

 

「あ! ヒソカはどうだ!?」

 

「……ヒソカはむしろ旅団に手を貸すだろう。リーダーと戦うのが目的だからな」

 

「げ……」

 

 レオリオがヒソカの名前を挙げるが、クラピカは首を横に振る。

 ヒソカの一番の目的は『クロロと1対1で戦うこと』。

 現状では間違いなく、クロロの鎖を解除したいはずだ。

 ヒソカの性格から、念を使えないクロロと戦いたいと思うはずがない。

 

ピルルルル! ピルルルル!

 

 クラピカのポケットから着信音が鳴る。

 鳴っているのはクロロの携帯だった。

 3人に緊張が走り、クラピカが電話に出る。

 

「……もしもし」

 

『おう。さっきはどうも』

 

「……ラミナか」

 

『用件は言わんでもええやんな? ゴン達を助けるか、見捨てるか。選びや』

 

「っ……!!」

 

 わざわざゴン達の方を口にしたラミナに、歯を食いしばるクラピカ。

 それがクラピカを最も効果的に揺さぶることが出来ると、分かっているからだ。

 

『こっちも我慢強い連中ばっかやないねん。お前がさっきまで挑発しまくったせいでな。クロロに関しては、別に時間がかかろうが除念は探せるでな。あんまり時間かけて考えると、ゴン達の命は保証出来へんで』

 

 完全に先ほどまでとは立場が逆転した。

 先ほどまではクラピカが主導権を握っていたために高圧的な態度に出ていたのが、ここで更に追い詰めてくる。

 しかも現在、クラピカ達にはラミナや旅団の暴走を止める手札はないに等しい。

 

「……私の命と引き換えに、ゴン達を解放することは?」

 

『ド阿呆。うちらが死後に強まる念を警戒しとらんとでも?』

 

「……」

 

『30分やるわ。その間に決めとき』

 

 一方的に告げられて、電話を切られる。

 クラピカは顔を顰めて、携帯を握り締める。

 

「くそっ!!!」

 

 そして、感情を抑え切れずに吐き出す。

 電話が聞こえていたセンリツはクラピカを心配そうに見つめ、センリツに通訳して貰って内容を把握していたレオリオも顔を顰めて歯軋りする。

 クラピカは右手で顔を覆い、必死に頭を回転させる。

 

(私の命も担保にならない。ヒソカや他の者達も助けを求めるのも無理。力づくで取り返しに行っても、ラミナに反撃されるだけだ。その間にゴン達は殺される……!)

 

 ラミナは旅団員ではないと分かった以上、【束縛する中指の鎖】は使えない。

 【律する小指の鎖】が唯一の可能性だが、

 

(あの【束縛する中指の鎖】を砕いた能力……。そして、異常な程の力)

 

 簡単に砕かれてしまい、【練】の上からでも耐えきれないほどの力。そして、ウボォーギンやヒソカとも凌ぎ合えるほどの戦闘技術。

 そして、実力を目にしてはいないが、あのシルバとゼノに襲われて生き延びた者。

 間違いなく、1対1では勝ち目はない。

 

(それに……あの時、見たラミナの両眼……)

 

 見間違いというには印象が強すぎる【金色の眼】。

 あれがあの能力や力の原因なのだろうか?

 

(ということは、ラミナも私……クルタ族のような特殊な一族? 眼の色を変えることで特質系に変わる体質なのか?)

 

 クルタ族がいるのだから、他にも同じような部族がいる事はおかしくない。

 クルタ族も隠れて暮らしていたので、流星街に隠れて暮らしていたのも十分考えられるし納得出来る。

 

(……くそっ! ゴンやキルアを危険に晒してまで、ここまで来たのに……!)

 

 今出来るのは、やはり大人しくクロロの鎖を解除することだけ。

 そう確信してしまったクラピカは、もう一度覚悟を決めるのであった。

 

 

 

 クラピカとの電話を終えたラミナは、携帯を仕舞いながらパクノダと共に歩く。

 

「さて、じっくり焦らしていこか」

 

「大丈夫なの?」

 

「ここでゴン達を見捨てられるんなら、飛行船の時も仲間や船員を庇わんやろ。あの犬使いにもホテルから逃げるように伝えとったし」

 

「なるほど」

 

 ラミナからすれば、クラピカは絶対にゴンとキルアを見捨てられないと考えている。

 見捨てる発言をすれば、レオリオも黙っていないだろう。

 

 冷徹を貫くならば、絶対に人質交換をクラピカから持ち出してはいけなかったのだ。

 

 旅団から訴えていれば、ラミナもここまで強気には出られなかっただろう。

 

「とりあえず、アジトに戻ろか」

 

「ええ」

 

 やや早足でアジトを目指すラミナとパクノダ。

 

 そして、廃墟に足を踏み入れた瞬間、

 

 ラミナの背中に怖気が走った。

 

「!! 止まれ、パク姉!!」

 

 ラミナはパクノダを呼び止めて、周囲を見渡しながら構える。

 それにパクノダも拳銃を具現化して、周囲を警戒する。

 

 ラミナが左方向に目を向ける。

 

 少し離れたところにある崩れた廃墟の瓦礫の上に、人影が見えた。

 そして、その姿に見覚えがあったラミナは目を見開く。

 

 相手もラミナと目が合ったことに気づいて、

 

「久しぶりじゃの」

 

「……ゼノ……ゾルディック」

 

「!!」

 

 ゾルディックの名前にパクノダは目を見開く。

 ゼノは笑みを浮かべて、瓦礫から飛び降りて、ラミナ達の前に下り立つ。

 

「……キルアか?」

 

「まぁ、そういうことじゃの」

 

「……今の所、キルアに命の危険性はないで」

 

「そうかのぅ? 取引相手はかなり追い詰められとるようじゃが?」

 

「っ! 随分と詳しいやないか……。っ!! ヒソカか!!」

 

「そこまでは知らん。儂らはイルミから聞いただけじゃからの」

 

「……儂()? っ!!」

 

 ラミナはゼノの言い方を訝しみ、すぐ近くに別の気配を感じた。

 ラミナは弾かれたように背後を振り返り、100mほど離れた廃墟ビルの屋上へと目を向ける。

 

 そこには腕を組んで、ラミナ達をまっすぐ見下ろしているシルバ・ゾルディックがいた。

 

「シルバまで……! っ!!!」

 

 シルバの姿に歯軋りしたラミナだが、その背後から更に不気味な気配がいるのを感じ取って、背中に悪寒が走る。

 冷や汗が噴き出し、一気に体温が下がったのを感じるラミナ。

 その反応を見逃さなかったゼノは、笑みを深める。 

 

「……ほぉ。流石じゃのぅ。まぁ、ゾルディックの名を持つ者とだけ言うておくか」

 

(……シルバとゼノにも負けん…いや、下手したらそれ以上に強い……? ……まさか!?)

 

 ラミナは1人だけ心当たりがあった。

 

「……マハ・ゾルディック、か?」

 

「……」

 

 ゼノは答えなかったが、言い当てたことが面白かったのか歯が見える程の好戦的な笑みを浮かべる。

 それを確信を持ったラミナは一度天を見上げて、両手を上げる。

 

「降参や……。キルアはこの後すぐに無傷で解放する……」

 

「ラミナ……!?」

 

 パクノダが目を見開く。

 しかし、ラミナの顔色が少し青くなっており、額に雨だけではない水滴が浮かんでいるのを見て、すぐに黙る。

 ゾルディック家が周囲にいるのは今の会話でパクノダも理解しており、このままではゾルディック家との戦争になる気配も感じ取っていた。

 クロロもおらず、クラピカと敵対している状況で、相手にする場合ではないのはパクノダも理解出来た。

 

ピルルルル!

 

 その時、ラミナの携帯が鳴る。

 ラミナはゼノに目を向ける。

 

「構わんぞ」

 

 ゼノの許可を得て、ラミナは携帯を取り出す。

 

「……もしもし」

 

『や、久しぶり』

 

「……イルミ」

 

 このタイミングでのイルミからの電話。

 偶然なはずがないと思ったラミナは、嫌な予感がした。

 

「おい……今どこにおるんや?」

 

『流石だね。今、クロロの目の前だよ』

 

「っ!! ……ヒソカか?」

 

『当たりだけど違う。ヒソカからキルが捕まったって連絡はあったけど、その後からは俺達独自で動いた。今、ヒソカが何してるのかは知らない』

 

「そうか……。で?」

 

『そうカリカリしないでよ。キルを解放してくれるなら、これ以上は何もしない。あ、クロロに代わってあげるよ』

 

「……」

 

『ラミナ』

 

「無事か?」

 

『ああ、仲良くテレビを見てるところさ』

 

「……なら、ええわ」

 

『ラミナ。頑張ってくれたのに悪いが、これ以上は仕事どころじゃないし、事態も混乱するだけだ。あの子供2人を鎖野郎に返して、鎖野郎から手を引け。団員には団長命令だって言ってくれて構わん』

 

「……それでええんか?」

 

『ああ。流石にゾルディック家は、鎖野郎とは格が違う。戦争しても得られるものはない。それだったら、占い通りに動いた方がいい』

 

「……分かった。終わったら、そっちに向かう」

 

『スマンな。頼んだ』

 

 そう言って通話が切れる。

 携帯をポケットに仕舞ったラミナは、深くため息を吐いて項垂れる。

 紅い髪を頬に貼り付けて、疲労感全開の顔でゼノに顔を向ける。

 

「はぁ~~。……団長命令が出た。キルアは解放する。他の団員もちゃんと説得したる」

 

「すまんの。この埋め合わせはするつもりじゃ」

 

「……まぁ、しばらくマフィアから仕事は貰えんし、そっちの仕事受けさせてくれればええわ」

 

「ええじゃろう。ではな」

 

 ゼノはラミナ達に背中を向けて、歩き去っていく。

 シルバとマハと思われるバケモノの気配も遠ざかったのを感じたラミナは、その場に尻餅をつくように座り込む。

 

「……そろそろ寿命が尽きそうやわ」

 

「本当にね……。私の占いの『死神』は、ゾルディックの坊やだったみたいね」

 

「今だけは……ちょっと婚約者やったことに感謝やわ……。ちゃうかったら、間違いなくうちらとクロロは殺されて、戦争になっとったな」

 

 ラミナは土砂降りになってきた雨が、今は心地良かった。

 

 流石にバケモノ3人に睨まれたのは、生きた心地がしなかった。

 ラミナはゆっくりと立ち上がり、気だるげに歩き出す。

 

「あ~……体イタイ、疲れた、腹減った~……」

 

「……お疲れ様。本当に」

 

 疲労感とこれまでの怪我の痛みが一気に襲ってきたラミナ。

 その姿にパクノダは心の底から労わりの言葉をかけるのだった。

 

 

 そして、アジトに戻ったラミナとパクノダは、クロロに起こったことと先ほどのゾルディック騒動について説明し、キルアとゴンをこれから解放することを伝えた。

 もちろんノブナガやフィンクス、そしてマチは納得など出来るわけもなく、盛大に顔を顰める。

 そして、キルアもシルバ達の介入を聞かされて、顔を顰めている。ゴンはキルアの家族への印象を少しだけ変えていた。

 

「団長の命令とはいえ……流石に気に入らねぇな……!」

 

「ゾルディックのガキだけ解放すればいいじゃねぇか。なんで、黒髪のガキまで解放しなきゃいけねぇんだ?」

 

「そらぁ、キルアだけ解放したところで、こいつはゴンを取り戻そうとして、またここに来る可能性が高いからや。その度にゾルディック家に目ぇ付けられるんは鬱陶しいやろ? クロロが念を使えんことは向こうにバレとる。ゾルディック家に人質に取られたら、流石に今回みたいに隙を突いて助け出せるとは思えんぞ、うちは」

 

「まぁ、取引もそう簡単にはいかないだろうな」

 

 シャルナークもラミナの言葉に同意する。

 シルバやイルミは間違いなく、取引に納得出来なければ、すぐさまクロロを殺して旅団を皆殺しにしてくるだろう。

 

「ゾルディック家だけでも厄介やのに、そこの執事とかも出てくれば数でも負けるで? 執事やって戦闘力ではパク姉やシズクより上の奴らもおるし、流石に手足半分の被害じゃスマンぞ」

 

 クラピカなどどうでもよくなるレベルの闘争となるのは間違いない。

 執事見習いでさえ殺しにどっぷり浸かっている家だ。

 もし総動員で動かれたら、流石に旅団でも厳しいだろう。

 

「ちっ……」

 

「キルアとゴンは連れていくで。ええな?」

 

「……団長命令は絶対。それがクモの掟だからな」

 

 フィンクスは腕を組んで座る。

 ラミナは他の団員達を見渡し、ノブナガ以外は納得している様子であることを確認する。

 マチはまだ不機嫌な顔をしているが、キルア達から顔を背けて座っていた。

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、キルア達に顔を向ける。

 

「ほれ、とっとと行くで。そんな鎖、自力で出られるやろ?」

 

「あ、うん」

 

「……」

 

 ゴンとキルアは腕力で鎖を引き千切る。

 ラミナは携帯を取り出しながら外に向かい、ゴンとキルアはそれに続く。

 

 それを見送ったフランクリンはマチとノブナガに目を向ける。

 

「追わねぇのか?」

 

「ふん! 団長命令だし、せっかく助け出した団長がまた殺されるかもしれねぇならしょうがねぇだろが!」

 

「……アタシは……あの子に祈るだけだよ」

 

「祈る?」

 

「占い」

 

 フランクリンが訝しむと、マチは不貞腐れた顔のまま懐から占いの紙を取り出して、フランクリンに投げ渡す。

 占いを読んだフランクリンは納得の表情を浮かべる。

 そこにパクノダが歩み寄り、

 

「ちなみにこっちはラミナの占い」

 

「………なるほどな。団長とラミナは今後除念師を探しに行くってことか」

 

「ええ。そして、私の占いは『死神』がいなくなったから、もう選択を迫られることはない」

 

「シャルと私はまだ微妙だね」

 

「シャルナークは電話に出なきゃいいだけね。シズクもお宝に近づかなければ問題ないはずよ」

 

「とりあえず、ラミナから団長の今後を確認してから、俺達もどうするか決めよう」

 

「だな」

 

 シャルナークの言葉に全員が頷く。

 

 こうして、クラピカと全く関係ないところで、事態は一気に収束へと向かっていくのであった。

 


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