暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
クラピカ達はラミナからの電話を待っていた。
「そろそろ30分だな」
「……ああ」
すぐに動けるように車に乗り込んで待機していた3人。
未だに止む気配がない雷雨が、更に気持ちを沈ませる。
ピルルルル! ピルルルル!
「! 来たか……」
携帯が鳴り、再び緊張が車内に走る。
クラピカが電話に出る。
「もしも――」
『これから2人を解放したる』
「!? ……どういうことだ?」
『ゾルディック家が出しゃばって来よってな。団長命令で2人を解放して、お前らから手を引くことになった』
「ゾルディック家が……!?」
クラピカは事態が呑み込めずに、驚くことしか出来なかった。
レオリオやセンリツもゾルディック家の名前が出たことに顔を見合わせる。
『1つ、聞きたいんやけど。団長の胸に埋め込んだ鎖は、そこから解除できるんか?』
「……無理だ。解除するには、私の視界に捉えている必要がある」
『ふぅん。なら、ええわ。ほな、10時までにヒソカと密会しとった廃遊園地に来いや』
「ラ――!」
ブツッ!
一方的に通話を切られる。
すぐにかけ直すが電源が切られていた。
「くっ……!」
「おい、クラピカ。ゾルディック家って何だよ?」
「……詳しくは分からないが……。恐らくキルアを助けに来たのだろう……」
「……キルア君ってゾルディックの人なの?」
「ああ」
「じゃあ、ラミナって人と婚約者って言うのと関係あるのかしら?」
「「は?」」
センリツの言葉にクラピカとレオリオは目を見開いて唖然とする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……。だ、誰と誰が婚約者だって?」
「キルア君とラミナって人。キルア君が捕まった時に、リーダーと話してたわ。お父さん達が勝手に言ってるだけって言ってたけど」
「……なにぃーーー!!?」
車内にレオリオの叫び声が響く。
センリツとクラピカは耳を押さえる。しかし、それを責めることはない。
クラピカも同じ気持ちだからだ。
「待て待て待て!? キルアってまだ12歳くらいだろ!? なんで婚約なんざ!!」
「ゾルディック家もラミナも殺し屋だ。ラミナの実力を気に入ったのだろう。恐らく、私達がキルアに会いに行こうと特訓してた頃に決まったのだろうな。キルアとラミナが承諾してるのかはともかく……」
「納得してない感じだったわね」
「恐らくキルアやゴンに念を教えたのも、ゾルディック家から頼まれたからだ。今回は流石にキルアの命が危険に晒されたから、ラミナと旅団を止めに来たのだろう。そして、旅団もゾルディック家を相手にするのは流石に厳しいと判断した」
「そういや、キルアが親父さんが昔、旅団員を殺したことがあるって言ってたな……」
「団長は念を使えないし、団員と接触・会話は出来ない。そのせいで守るにも限界がある。せっかく救い出したのに殺される可能性が生まれた以上、早急にキルアを解放することにしたんだろう」
「けど、ゴンは? キルアだけ解放すればいいじゃねぇか」
「それをキルアが拒否すれば? 解放してもまたゴンを救うために旅団の元に行けば、同じことの繰り返しだ。だから、ゴンも一緒に解放する方がいいと判断するのは想像に難くない」
「なるほどな……。とりあえず、指定された場所に行くか?」
「ああ……」
レオリオは車を走らせて、指定された場所に向かう。
クラピカは深呼吸をして、気を引き締める。
まだゴン達が無事に帰ってくるかは分からない。
だから、まだ気を緩めるわけにはいかない。
アジトを出て廃墟を歩きながらクラピカに電話をしていたラミナは、通話を終えて携帯を仕舞う。
左腕には箱を抱えていた。
通話を背後で聞いていたゴンは、クラピカのことが気になったので声を掛ける。
「ラミナ。クラ――」
その時、ラミナが振り返りながら、ゴンの頬に右拳を叩き込んで殴り飛ばす。
ゴンは完璧に油断していたので、全く抵抗出来ずに真横に吹き飛んで瓦礫に突っ込んだ。
ラミナは左腕で抱えていた箱を地面に下ろす。
「ゴッ――!?」
キルアが目を見開いて叫ぼうとしたが、今度はラミナの左拳がキルアの鼻頭に叩きつけられて、キルアは後ろに仰け反って地面を転がる。
ラミナは折れている左腕の痛みに僅かに顔を顰めながらも、瓦礫に突っ込んだゴンに歩み寄り、胸倉を掴んで引っ張り上げる。
「っ……! ラミ――」
「一度捕まった時に力の差は理解しとったやろ。力もないクソガキが二度も首を突っ込みよってからに。何回、人の忠告を踏み躙んねん」
「……ゴメン。けど、やっぱりクラピカとラミナをこのままにしておけなかったんだ……」
「やったら、自分の力で止めれるようになってからにせぇ。最低限自分の身も守れん奴が、人の心配なんざ10年早いわ!!」
「う……」
ラミナはゴンから手を放して、次はキルアを振り返る。
キルアは鼻を押さえて、未だに座り込んでいた。
「キルアもゴンと心中するために家出したんか? シルバにゼノもそんなことのために許可したんちゃうやろ? 家に連れ戻されてもおかしなかったんやぞ」
「……」
「うちらとクラピカは殺し合いをしとるんや。そんなところに中途半端な力で、中途半端な覚悟で、首突っ込むんがお前らのしたかったことか? 元殺し屋のお前なら、それがどれだけ危険かくらい理解しとるやろ」
「……」
キルアは顔を俯かせる。
理解していたつもりだったが、物凄く甘かった。
捕まっている間に、それを嫌というほど痛感した。
「高望みするんは構わん。けどな、それはふさわしい実力がある奴だけが許されるんや。それがない奴は、どれかしか選ぶことは出来ん。もしくは何も得られずに死ぬだけ。今回のお前らは何も得られずに死ぬ方や」
「……分かってるさ」
「殺しが嫌なんは構わん。殺し屋になりたぁないんも構わん。けど、お前がゴンと一緒におりたいんやったら、生き残るための覚悟はしとけや」
「……ああ」
ラミナは箱を拾い上げて、背を向けて歩き出す。
ゴンとキルアは顔を見合わせて、互いに考え込むような顔で黙ったまま、その後に続くのであった。
ラミナ達は廃遊園地のメリーゴーランドの下で雨宿りしながら、クラピカ達を待つ。
ラミナは馬の乗り物に座り、ゴンとキルアは中心の柱にもたれて座る。
あの後から会話は一度もなく、キルアは思い詰めたような顔で俯いており、ゴンは時折ラミナとキルアを見て、また俯くという行動を繰り返していた。
その時、
「修行……ちゃんと続けとるんやろうな?」
ラミナが前を見つめたまま、2人に問いかける。
ゴンとキルアは顔を上げて、言われた内容を理解して、顔を見合わせる。
そして、僅かに笑みを浮かべながら、
「うん……! ラミナに見てもらいたかったんだ!」
「ほな、そこで見せてみぃ」
「うん!」
「ああ!」
ゴンとキルアは雨に濡れるのも構わず、ラミナの前に並んで立つ。
そして、【纏】【練】【凝】を順番に見せていく。
天空闘技場で見た頃より、【纏】は滑らかで力強く、【練】は大きく密度もあり、【凝】も素早く乱れもない。
「……確かにサボっとらんみたいやな。【堅】は何分や?」
「俺は37分」
「俺は42分」
ゴンが先に答え、キルアが答える。
最低ラインは越えていることに頷いたラミナは、2本の指を立てる。
「次は2時間。維持できるようにせぇ」
ゴンとキルアは言われた時間に目を見開く。
この3か月でようやく30分を越えたのに、その4倍を目指せと言うのだ。
ラミナは馬の乗物から降りて、【堅】を発動しながらすぐ近くの瓦礫に歩み寄る。
「【堅】はあくまで防御。しかも、体全体を覆っとるから効率は悪いと言える。なら、どうする?」
「どうする……?」
「腕を狙われとるのに、体全体にオーラを放出しても無駄が多すぎる。なら、オーラを集中すればええ」
「【凝】か……!」
ラミナは右腕を上げると、右拳にオーラが集中し、体を覆うオーラが減る。
「オーラが集中すれば、それだけその部分の攻防力は上がる。それを攻撃の瞬間に、防御の瞬間に、素早く行う」
ラミナは普通の【堅】に戻して、右拳を構えて目の前の瓦礫に右ストレートを軽めに振り抜く。
拳が当たる瞬間に、オーラを集中させる。
当たった瞬間、瓦礫が粉々に吹き飛んだ。
その光景にキルアとゴンは目を見開く。
「オーラを素早く移動させて、攻防力を変化させるんや。【凝】の応用技で【流】と呼ぶ」
「【流】……」
「通常の【堅】の状態を攻防力50とする。それを状況に合わせて、比率を変える。右手に攻防力70で集めたら、全体は30。それを各部位で行っていく訓練をしていきぃ。ある程度感覚を掴んだら、ゆっくりと組み手をしながら【流】に慣れていくように。それを全力の組み手で出来るようになるんが最低目標や」
「だから、【堅】が数時間維持出来ないと厳しい……」
「そういうこっちゃ。で、次は……」
ラミナはゴン達に振り返って、足元に転がっている鉄パイプを拾い上げる。
「普通の物体はオーラを纏わん。けど、素手で戦うのも限界はあるし、具現化するんは相性が響きすぎて現実的やない」
ラミナは【周】を発動して、鉄パイプにオーラを纏わせる。
「【纏】の応用技【周】。物にオーラを纏わせて強化する。あくまでその物体の元々の能力を強化するだけやが、ナイフとかでは非常に有効や。もちろん【凝】【流】も合わせて使える」
「……物体の強化か」
「そんで、最後」
ラミナは鉄パイプの先にオーラを集中させて、【硬】を発動する。
そのまま、ゆっくりと瓦礫に近づかせていく。
ゴンとキルアが首を傾げる。
鉄パイプが瓦礫に触れた瞬間、瓦礫が爆発したように粉々に吹き飛んだ。
「「!!」」
ゴンとキルアは大きく目を見開く。
軽く叩いただけで、先ほどの【流】以上の威力を出していた。
ラミナは鉄パイプを放り投げて、ゴンとキルアを見る。
「これは……教えんとこか。自分で考えてみぃ」
「……うん」
「これでうちがもう教えれることはない。今後はうちに頼らず、自分らで考えていきや」
ラミナは先ほどまで座っていた馬の乗り物に歩み寄る。
「また敵対するようなことがあったら……その時はもう容赦はせん」
ゴンとキルアはその言葉に少し寂しそうな顔をする。
しかし、それは一人前として扱うということでもあるのだ。
プロハンターとして、プロハンターを目指す者としては喜ぶべきことではある。
それでもやはり殺し合いなどしたくはないのが、2人の本音である。
そんな2人の表情を見て見ぬふりをして、ラミナは携帯で時間を確認する。
「……そろそろやな……」
あと10分ほどで指定した時間になる。
すると、近づいてくる気配を感じて、ラミナはその方向に目を向ける。
ゴンやキルアも人が近づいてきたことに気づく。
現れたのはクラピカ、レオリオ、センリツの3人だった。
「クラピカ、レオリオ!」
「ゴン! キルア! 無事か!?」
「うん!」
ゴンとキルアはクラピカ達に駆け寄る。
クラピカ達はホッとした顔を浮かべて、2人の状態を確かめる。
「何もされていないか?」
「もちろん!」
「さっきラミナに殴られて叱られたくらいだよ」
「……そうか」
改めて、ホッとしたクラピカは、ラミナに顔を向ける。
ラミナは無表情で前を向いたまま、座っていた。
クラピカ達はゆっくりと歩み寄る。
「……ラミナ」
「これで今回は手打ちや。旅団はお前から手を引くことで決まった。多分、競売も襲わんやろ」
「……」
「全く……お前らには引っ掻き回されたわ。おかげで体ボロボロや。ヒソカも殺し損ねたし、ゾルディック家に念を封じられたクロロを人質にされて脅されるし……」
「……こっちも十分引っ掻き回されたのだが……」
「ムカつくんは、ここでお前を殺すことが出来んことやな」
「っ!!」
クラピカ達は一瞬向けられたラミナの殺気に、身構える。
しかし、ラミナはそれだけで実行に移すことはなかった。
「殺す気はないて言うてるやろ。無駄なことはせん。ヒソカと戦ったり、飛行船から飛び降りたりで疲れとんねん」
「……」
クラピカはセンリツに目を向ける。
センリツは頷いて、
「本当よ」
「……これからどうする気なんだ?」
「そら、クロロに刺された念の鎖をどうにかする方法探すに決まっとるやろ。ネオン……言うたか? あの娘の占いでも、クロロとうちが一緒に行動しとるみたいやったしな」
「っ……!」
ラミナは馬の乗り物から跳び出して、クラピカ達から少し離れた瓦礫の上に立つ。
「クモは頭を潰そうが止まらん。次にクモを狙う時は、問答無用で殺す事やな。今のメンバーは殺されようがお前に情報を売る奴やおらんし、死ぬくらいでお前の情報を話すのを止める奴もおらん。『生かすべきはクモ』。これが絶対の掟や」
「……」
「あぁ……そうや……。クラピカ」
「……なんだ?」
「ウボォーのことやけど。お前はウボォーと正面から戦って、1対1で倒したんか?」
ラミナはまっすぐにクラピカの眼を見つめる。
クラピカは両手を握り締めるが、それでもまっすぐに見返して頷く。
「ああ……。私は1人であいつを殺した」
「……ホンマか? センリツ、やっけ?」
「……本当よ。私達もクラピカ1人で戦うとは聞いてたし……」
「……そうか。なら、ええわ」
「っ! ……いいのか? お前の兄のような者だったのだろう?」
「そやな。けど、あいつが1人でええっちゅうて、お前と戦うて負けただけやったんなら……ウボォーが弱かっただけの事や。なら、うちはウボォーの死を受け入れられる。お前にいちいち恨みを向ける気はないで、うちはな」
「……!!」
クラピカは復讐されないことに、恨み言を言われないことに目を見開いて固まる。
「誰かを殺すと決めた以上、誰かに殺されるんは必定や。お前とウボォーがそれに納得して殺し合ったんやったら、うちはその結果に必要以上に口出す気はないで。特に真正面から戦ったんなら尚更、な」
ラミナは肩を竦める。
「けどまぁ……それでもウボォーを殺したお前と……前みたいに接するんは、もう無理や。お前がうちの兄貴を殺した事実は、変わらんでな」
「っ!!」
「ほなな、クラピカ。お前と次会う時は……クモの1人として、決着つけさせてもらうで」
ラミナはそう言って振り返り、闇の中へと姿を消していく。
クラピカ達は、それを黙って見送ることしか出来なかった。
「……行っちまったな……」
「……うん」
レオリオとゴン、キルアは寂しさを顔に浮かべて、ラミナが消えた方向を見つめる。
クラピカは両手を握り締めて、ラミナがいた瓦礫の場所を見つめていた。
完全なる決別。
分かってはいたことだ。避けられることではないと理解して、覚悟もしていた。
しかし、直接言われると、やはりかなりの衝撃があった。しかも、恨み言をほぼ言われなかったことも、気持ちのやり場がなくなってしまったのだ。
「あら?」
「どうした? って、箱?」
センリツとレオリオの声に力なく振り返るクラピカ。
目を向けると、ラミナが座っていた馬の乗り物の下に、箱が置かれていた。
「なんだこれ? ゴン、キルア、知ってるか?」
「ううん。俺達をここに連れて行く時に、ラミナが持ってきただけだから」
「何が入ってるかまでは聞いてないよ」
ゴンとキルアも中身は知らなかった。
レオリオは困った表情で箱を見つめて、意を決したように手に取って開けようとする。
「駄目だよ、レオリオ! ラミナに確認もしないで……!」
「確認って言ったって、どう確認取るんだよ? あの感じだと、もう電話もメールも繋がらねぇだろ? 預かるにしても中身知っとかなきゃ、どう扱えばいいか分かんねぇし」
「それは……そうだけど……」
ゴンはレオリオの言い分も正しいと思い、トーンダウンする。
レオリオが箱を開けると、ゴンとキルアも何だかんだで覗き込む。
しかし、3人は中身を見た瞬間、目を見開く。
「っ!! おい、これって……!?」
「ク、クラピカ!」
「? どうした?」
ゴンが慌ててクラピカを呼ぶ。
後ろで眺めていたクラピカは呼ばれるがままに近づく。
そして、箱の中の【緋の眼】を見て、目を見開く。
「っ!! な……ぜ……」
【緋の眼】は自分が競り落としたはず。
そして、スクワラが持っているはずだと考えた瞬間、クラピカは弾かれたように携帯を取り出す。
「クラピカ?」
「【緋の眼】は私の仲間が持っていたはずなんだ……!」
「!! 確かノブナガの奴、ホテルでクラピカの仲間からパクノダがクラピカの情報を聞き出したって……!」
キルアがホテルでの会話を思い出す。
クラピカはスクワラの携帯にかけ、センリツがホテルの方に電話する。
しかし、そのどちらも出なかった。
「……出ない……! くそっ!!」
「ん? !! クラピカ、これ見ろ!」
レオリオが箱の中から小さな紙を見つけた。手に取って中を見ると、目を見開いてクラピカに差し出す。
紙を受け取ったクラピカは中に目を通すと、
『これが本物』
と書かれていた。
「これが本物……。ということは、昨日競り落とされた競売品は全て偽物だった……!?」
「はぁ!? 念ってそんなに色んなもん具現化出来んのかよ……!?」
「……絶対にありえないとは言えない。コピーに特化した能力ならば可能だろう……」
「触れたモノをそのままコピーするくらいだったら、難しくはないわね。そのコピーに更に何かしら能力を付け加えるのは難しいでしょうけど」
「……マジかよ」
念をほとんど知らないレオリオは唖然とするしかなかった。
クラピカはラミナの行動の意味が分からなかった。
「何故わざわざ……」
「本物の【緋の眼】を返すから、今回はもう旅団を狙うなってことじゃないの? 今回の地下競売に出品されてる【緋の眼】はこれだけなんだろ?」
キルアがラミナの考えそうなことを想像して告げる。
その内容にクラピカは納得は出来るが、受け入れられるかどうかと聞かれれば別である。
(……旅団から……仲間の眼を返されるとはな……)
ラミナはクルタ族を滅ぼした時は団員ではないとはいえ、それでも旅団関係者から自ら返されるとは、あまりにも情けなくなる。
「でも、旅団にずっと盗まれてるよりいいじゃん!!」
「まぁ、そりゃそうだ」
ゴンが明るく言い、レオリオも同意する。
ゴンが箱を抱え上げて、クラピカに渡す。
「はい! クラピカ!」
「……ああ」
クラピカはまだ複雑そうな顔ではあるが、丁寧に箱を受け取る。
「よっし! 色々とあったが、これで一段落! ……って言ってもいいんだよな?」
「全く問題は解決してないけどね」
「むしろ、複雑になった気がするわね」
レオリオが声を上げるが、最後は首を傾げてキルア達を見る。
キルアは肩を竦めて複雑な表情を浮かべ、センリツは心配そうにクラピカを見ながら小さくため息を吐く。
結局、旅団やラミナとの関係はややこしくなっただけだ。
ウボォーギンを殺せたことが唯一の成果と言えるが、その後の状況を考えれば素直に喜ぶことは出来ない。
「とりあえず、今日はもう休みましょう。ボス達もこれ以上放置できないし」
「……そうだな」
センリツの言葉に全員が頷いて、移動を開始する。
そして、車に乗り込むと、クラピカが意識を失い高熱を出し始めて、レオリオ達は一度自分達のホテルで休ませることにするのだった。
廃遊園地を出たラミナは、雨の中を走っていた。
(……クラピカの奴、鎖を使って来んかったな。正直、縛り付けてくると思っとったんやけど……)
しかし、結局何もしてこなかった。
だから、殺気を出して挑発してみたのだが、それでも構えるだけで鎖は使ってこなかった。
(何かしら条件があるっちゅうことか。まぁ、クロロやウボォーが逃げ出せんかったんやし、何かしら制約はあるんやろうけど……)
ラミナはそう考えながら、携帯を取り出してイルミに電話を掛ける。
『もしもし』
「キルアは解放したで。まぁ、説教ついでに一発殴ったけど」
『まぁ、今回はキルのミスだし。親父達でも殴っただろうから、そこはいいよ』
「ほな、クロロから退いてや」
『もう俺は出て行ってるよ。埋め合わせの1つとして、ヒソカにも嘘の情報を教えて、クロロに近づけないようにしたから』
「……どうも。なぁ、まだキルアと婚約者になっとかなあかんか? 今回でもう無理やと思うんやけど」
『親父達はそう思ってないみたいだよ。だから、無理じゃない? 俺もこの程度で破棄しろなんて思ってないし』
「……さよで」
『じゃ、後はよろしく』
「あ? おい、どういう…あっ! おい!?」
電話を一方的に切られてしまう。
すぐにかけ直すが、電源を切られていた。
ラミナは盛大に嫌な予感がするが、先にマチ達に報告と今後について話をしておくことを優先する。
猛スピードでアジトに戻ったラミナ。
「戻ったで」
「あ、お帰り」
「無事で何より」
シズクとシャルナークが挨拶を返す。
フィンクスやノブナガはまだ不貞腐れていた。
「ゾルディックは退いた。多分、明日にはヨークシンからおらんようになるやろ。クラピカもこれ以上は手を出せんと思うで。ゴン達はもう巻き込めんやろうしな」
「ラミナはこれからどうするの?」
パクノダが訊ねる。
ラミナは肩を竦めて、
「まぁ、占い通り、クロロと一緒に動くわ。流石にあの状態のクロロを放置できんしな。車でゆったりと東を目指すわ」
「お前だけで大丈夫なのか?」
「厳しそうやったら、アルケイデスの爺とかにでも手ぇ借りるわ。あぁ、そうや。マチ姉」
「ん?」
ラミナはマチに紙を投げ渡す。
「なにこれ?」
「うちの新しい番号にアドレスとホームコード。クロロが使っとった携帯とか、今回でマフィアンコミュニティーにもバレたやろうからな。今までのはもう使えん。そっちも今回使った番号、破棄しときや」
「分かってるよ」
「そっちはホームに戻るんか?」
「いや、来週いっぱいはここにいるつもりだ。俺とシズクは占いのこともあるし、こうなると下手に動くよりここで時間が過ぎるまで待つ。それから除念師を探したり、それぞれに仕事をやっていくことになる」
「了解。……クロロに関しては、こっちから定期的に動きを報告を入れる。そっちも何か分かったら、うちに連絡くれや」
「もちろん」
「ほなな。っとぉ……ノブナガ!」
「あ?」
ラミナはアジトを去ろうとして、顔だけで振り返ってノブナガに声を掛ける。
「ウボォーは、クラピカと1対1で戦って負けたそうや」
「……」
「じゃ、今度こそ、ほなな」
ラミナは手を振って、今度こそアジトを後にする。
また雨の中を歩いていると、携帯が鳴る。
携帯を見ると、マチからのメールだった。
『お疲れ。団長のこと、頼んだよ』
「……ふっ」
ラミナは小さく笑みを浮かべて、『頑張るわ』とだけ返信したのだった。
ラミナは一度拠点に戻って、着替える。
そして、色々と必要になりそうな荷物を纏めて、予備で用意していた車に乗り込む。
クロロがいる隠れ家に向かい、中に入る。
「クロロ、無事か~? ……あ?」
「終わったのか?」
ラミナが中に入ると、そこには黒いシャツとズボンに着替えているクロロ以外に、もう1人。
黒髪に黒の着物を着た少女がいた。
ラミナは一瞬呆気にとられたが、その少女から血の匂いがして、すぐに普通の少女ではないことを理解した。
「まぁ、とりあえずはな。で、誰?」
「カルト・ゾルディック。イルミとお前の婚約者の弟だそうだ」
「弟ぉ?」
「……よろしく」
カルトはラミナをじぃーっと見て、ぶっきらぼうに挨拶をする。
ラミナは首を傾げるが、イルミのよろしく発言を思い出して、顔を顰めてクロロに目を向ける。
「まさかイルミが言うとったんは……」
「ああ、埋め合わせの1つで護衛にくれるそうだ。10歳だが、念も会得してるらしい」
「あ? キルアがまだやったのに?」
「……ボクは兄さんみたいに才能はないから」
カルトは僅かに不機嫌そうに、顔を背けながら言う。
(……まぁ、確かにキルアよりは弱そうやなぁ。念を覚えてこれやったら、今のキルアでも勝てそうと言えば勝てそうやけど……)
能力もあるので確実とは言えないが、【発】無しだったら確実にキルアが勝つ。
そう判断したラミナは、それはそれで疑問が出る。
「そこら辺の奴やったら、問題ないやろうけど。護衛にするには、ちょいと力不足やないか?」
カルトは少しムッとするが、イルミから「お前じゃまだ手も足も出ない」と言われているので黙って耐える。それにカルト自身も、ラミナの実力は認めているのだ。
キルアの婚約者という点はともかく。
クロロはラミナに紙を差し出す。
「シルバ・ゾルディックからだそうだ」
「あん?」
『カルトが旅団に興味を示している。10歳でまだまだ未熟なところが多い。団長の護衛ついでに、暗殺術なども含めて面倒を見てやってほしい。もちろん、カルトを利用してゾルディック家を使ってもらって構わない。まぁ、お前はキルアの婚約者だから、わざわざカルトを通す必要はないが』
「……はぁ~」
「ふふっ。ゾルディック家に随分と気に入られているな」
「うっさいわ。で、車とかは用意出来たで。どうする?」
「そうだな……。もうここに用はないし、早速東を目指すとするか」
「了解。ほな、まずはとっととヨークシン出て、うちの家でも目指すか? 一応東方面やし」
「そうしよう。そこで準備と今後の予定を考える」
クロロは立ち上がり、カルトもそれに追従する。
ラミナは運転席に乗り、クロロは助手席、カルトは後部座席に乗り込む。
「カルトはなんか買っとくもんあるか?」
「大丈夫。必要なものは家から届けてもらえるから」
「さよで」
呆れながら、ラミナは車を走らせ始める。
ゆっくりと夜の街を走り、ヨークシンの外へと目指す。
「たった4日で随分と変わったもんやな」
「そうだな……。まさか、お前とゾルディックの人間と3人でドライブすることになるとはな」
「ホンマになぁ……。あ~、どっかで飯食ってええ? 腹減っとったん忘れとった」
「俺も軽くしか食ってないしな。構わんぞ」
「カルトは苦手な食いもんあるか?」
「特にない」
「ほな、ファミレスでも寄ろか」
何だかんだでカルトの存在を受け入れるラミナ。
ラミナ、クロロ、カルト。
不思議な組み合わせとなった3人は、仲良く東を目指すのであった。
2人っきりなのも、なんか寂しいと思ったので、カルトちゃん参加w
明日はお休みです。