暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#54 ゾルディック×ノ×オシゴト

 それから5日。

 ラミナ達はカゴッシの家にやって来ていた。

 

「グリードアイランド?」

 

『そ。フィンクスとフェイタンが盗んできた』

 

「それを2人で?」

 

『ああ。それに今、シャルやシズク、コルトピもやろうって言ってる』

 

「ほぉ~」

 

 ラミナは自室でベッドに寝転がりながら、マチと電話していた。

 ラミナとマチは、6日から毎日夜にメールを交わしていた。占いで連絡を取り合っているとあったためだ。

 

 そして今、マチの目の前で『仲間の遊戯』が始まっていた。

 

「まぁ、フィンクスもシズク達も占いがまだはっきりしとらんからなぁ」

 

『そうだね。だから、5人はしばらくアジトにはいないよ』

 

「……あ? いない? ゲームしとんちゃうんか?」

 

『このゲーム、念で作られててさ。体ごとゲームの中に入るんだって。実際消えたしね』

 

「……ふぅん」

 

 ラミナは思わず考え込む。

 しかし、

 

『そっちは今、あんたの家?』

 

「ん? おう。昨日着いた。ちょっと体を休めて、準備を整えたら除念師探し開始やな」

 

『2人で大丈夫なの?』

 

「……あ」

 

『……あ?』

 

 ラミナはカルトの事を伝えるのをすっかり忘れていたことに気づいた。

 マチもラミナの反応に何かを気づいて、声が低くなる。

 

『何? 他に誰かいるの?』

 

「……え~っと……ゾルディックの五男のカルト……」

 

『は? ……またゾルディック? なんで?』

 

「ヨークシンで最後にしゃしゃり出たことへの埋め合わせやと。クロロの護衛って名目で、入団希望だそうやで」

 

『ゾルディックのガキが入団? 本気?』

 

「クロロは前向きに検討しとるで? まぁ、少し実力不足やから、またうちが面倒見とるけど」

 

『……団長が認めてるなら……いいけどさ。強いの?』

 

「まだ微妙。まぁ、ゆっくりと念の基礎と体術を教えていく予定や。ゾルディックからの仕事受けながらな」

 

『ゾルディックの?』

 

「ヨークシンでうちと旅団の関係バレたからなぁ。下手な仲介屋から仕事受けるより、ゾルディックからの紹介の方がまだ安全や」

 

 しかも、ゾルディックでの仕事ゆえに報酬も高い。

 その分、難易度も高いが、ヨークシンでの仕事に比べればマシだろうとラミナは考える。

 

「まぁ、カルトに関しては、どっかで一度そっちに顔出させるわ」

 

『あっそ。あのクソ野郎より使えるんだろうね? 殺し嫌がってるとか』

 

「安心しぃ。ちゃんとゾルディックに染まっとる。やから、実力さえ上がったら、十分戦力になるで」

 

『ふぅん……。ま、期待せずに待ってるよ』

 

「それでええと思うで?」

 

『団長、今何してんの?』

 

「地下のお宝の前で酒飲みながら読書」

 

『ぷっ! あはははは!! さっすが団長!』

 

 マチの笑い声が響く。

 

 昨日、家に着いた後、元気づけてやろうと地下のお宝を見せてやったのだ。

 すると、今朝から椅子と大量の本を持ち込んで、本を読んでは剣を眺め、また本を読んではまた剣を眺め、更に酒を飲むという贅沢空間を満喫していた。

 地下でシェルターゆえに雑音がしないというのも気に入ったらしい。

 

 ちなみにカルトはお宝よりも武器庫の方が興味が強かったようで、すぐに上に戻って短剣や暗器類を見つめていた。

 

「まぁ……状況が状況やから、リラックスするんはええんやけどな」

 

『盗まれないように気をつけなよ』

 

「怖い事言わんとってぇや」

 

『ふふっ! まぁ、団長が元気そうなら、それでいいよ』

 

「また連絡するわ。そっちも気ぃ付けや」

 

『分かってる。じゃあね』

 

 通話を終えて、ラミナはベッドから起き上がって、音を立てずに1階に下りる。

 リビングではカルトが黒のTシャツ、半ズボンとラフな格好で立って、瞑想しながら【纏】を行っていた。

 

 今は【纏】【練】【堅】を毎日やらせていた。

 そして、夜には体術の訓練を行っていた。

 

 ラミナはカルトに一瞬殺気を放つ。

 カルトは目を見開いて、【練】を発動して構える。

 

「遅いわ、阿呆」

 

「いたっ!?」

 

 ラミナは一瞬でカルトの背後に回り、カルトの後頭部を軽く押す。

 カルトは後頭部を押さえて、ソファに倒れ込む。

 

「殺気飛ばされてから反応すんなや。うちがリビングに来た段階で構えんかい」

 

「……じゃあ、どうやって気づけばいいのさ……」

 

「視線は向けとった。ここにはうちしかおらんのやぞ? それで視線に気づけんと、尾行されたら終わりやで」

 

「……」

 

 カルトは眉を顰めて不貞腐れたように顔を背ける。

 ラミナはため息を吐いて、両手を腰に当てる。

 

「暗殺者はこういう時ほど、周囲の存在に気を配れなあかん。自然に、素早く、気取られず。旅団に入りたいんやったら、プロハンターレベル相手でも居場所は分からんでも存在くらいは感じ取れるようにならんとな」

 

「……くっ!」

 

 カルトは悔し気に歯を食いしばる。

 ラミナは苦笑しながら、カルトの頭をガシガシと掻き乱す。

 

「頑張らんとなぁ」

 

 実はカルトはまだ1人で仕事を行ったことはない。

 シルバやイルミの仕事に付いて行き、そこでターゲット以外の殺しをしながら経験を積んでいる状態だったらしい。

 これに関しては不思議なことでも遅いわけでもないので、決してカルトに才能がないわけではない。

 

 キルアがありすぎただけなのだ。

 そのせいでカルトがキルアと比べられてしまうのは仕方がない事かもしれない。

 シルバ達はなんだかんだで家族に甘い。なので、カルトを大事にしているからこそ、独り立ちをまださせていない。

 

 しかし、旅団に入るならば、そういうわけにはいかない。

 なので、ラミナを利用して独り立ちを後押しする気なのだ。

 

(……暗殺一家のくせに、過保護やんなぁ)

 

「いい加減放して!」

 

「おぉ、スマンスマン。ほな、次は両腕の関節外しの練習な」

 

 手を払われたラミナは、軽く謝罪しながら次の特訓の指示を出す。

 両腕の関節外しは捕縛からの脱出や【蛇活】に繋がるので、ラミナからすれば非力なカルトこそ会得すべき技術だと考えていた。

 

 しかもカルトは手指の身体操作もまだ不得意なので、そこも鍛えなければならない。

 

 カルトはソファに座って、指と手首の関節を外し始める。

 

「カルトの能力は扇子で紙吹雪を操る。つまり、関節可動範囲を広げれば、操れる軌道も増えるかもしれん。それに扇子での攻撃も、剣筋が読みにくくなるでな」

 

「……簡単に言わないでよ」

 

「念はともかく、それに関してはやれば誰でもできるもんや。つべこべ言わずにまずはやる」

 

 カルトは眉を顰めたまま、関節を外しては嵌め、外しては嵌めを繰り返す。

 ラミナは苦笑しながら、その様子を見つめる。

 

 その時、ラミナの携帯が震える。

 

「ん?」

 

 ラミナは携帯を取り出す。

 メールが来ており、送信主はゼノだった。

 メールを開いたラミナは、中身を読む。

 

「……仕事か」

 

 内容は殺しの依頼だった。

 しかし、ターゲットの情報はなく、『そちらに使いを送る。詳細はその者に』としか書かれていなかった。

 

(さて……まぁ、仕事するんはええとして……。カルトを連れて行くか、連れて行くんやったらクロロをどうするか、やな)

 

 クロロに関しては、地下でのんびりさせていれば問題は無さそうだとは思う。

 それに情報収集を続けているが、クロロを追いかけているような勢力も見られない。

 なので、すぐさま誰かに襲われる可能性はないだろうと考える。

 数日空けるくらいならば、問題はないだろう。

 

(その使いとやらにクロロの面倒でも見て貰えばええか)

 

 そんな事を考えていると、

 

ピンポーン!

 

 チャイムが鳴り響く。

 ラミナが玄関に向かい、扉を開ける。

 

 そこにはゴトー、アマネ、そして男と女の執事の4人が立っていた。

 ゴトー達は頭を下げて、

 

「お久しぶりです、ラミナ様」

 

「……連絡と到着時間がおかしいと思うんやけど」

 

「申し訳ありません。連絡するのを忘れていたそうです」

 

「……あっそ。まぁ、入り」

 

「失礼いたします」

 

 ゴトー達を家の中に入れ、リビングに通したラミナ。

 突然現れたゴトー達にカルトは目を見開く。

 

「お邪魔致します、カルト様」

 

「それにしても、使いにしてはちょいと多ないか?」

 

「旦那様のご命令でして。私とアマネは今回の仕事でのラミナ様とカルト様のフォロー役。残り2名はその間のクロロ様の護衛となっております」

 

「ふぅん……。カルトの参加は決定か」

 

「ええ。その方がゾルディックが依頼を果たしたという面目が立つ、との仰せです」

 

「そらそうや。ま、ソファの方に適当に座り」

 

「ありがとうございます」

 

 ゴトーとアマネはカルトと同じソファに座り、残りの2人はその背後に立つ。

 ラミナは人数分の茶を入れてテーブルに置き、1人用のソファに座る。

 

「ほんで? 依頼ちゅうんは?」

 

「はい」

 

 ゴトーは背後の男執事に目配せすると、男執事が手に持っていた封筒から資料を取り出して、ラミナとカルトに渡す。

 

「場所はここから北に50kmほどの街。ターゲットはマフィアとも繋がりがある財閥の社長一家と幹部、計8名です」

 

「ふぅん」

 

 ラミナはターゲットの家族構成を見る。

 

「……7歳のガキまでたぁ、随分恨まれとるなぁ。この家族」

 

「マフィアと裏で人身販売をしているのですよ。その被害者の1人に、ある国王の隠し子がいたそうです」

 

「あ~……裏事業を完全に潰せるようにっちゅうことか。ガキを神輿にされんように」

 

「そのようですね」

 

「マフィアの方はええんか?」

 

「そちらはゼノ様が動かれるとのことです」

 

「あの爺……ガキ殺すんが嫌やから、こっちに回しよったな?」

 

「……そこまではなんとも……」

 

 ゴトーは苦笑いを浮かべながら、眼鏡の位置を直す。

 アマネ達も僅かに頬を引きつかせて、顔を背ける。

 

「殺しの方針はうちが決めてええんやな? カルトやお前らに関しても」

 

「はい。そのように仰せつかっております」

 

「ふぅん。調べた限りやと、相手の護衛に念使いはおらんのやな?」

 

 ラミナは資料を見て、相手の戦力を把握する。

 あくまでも雇っているのは一般企業のシークレットサービスらしい。

 プロハンターや流れの念使いがいる情報はない。

 

「マフィアの方はいるようですが、こちらは確認されておりません」

 

「なら、さっさと終わらすか。カルト、着替えてきぃ」

 

「分かった」

 

 ラミナはソファから立ち上がって、地下に下りる。

 そして、シェルターを覗き込むと、お宝を見上げて酒瓶を傾けるクロロの姿があった。

 ラミナは呆れながら入り口の壁に寄りかかる。

 

「なにかあったか?」

 

「ゾルディックからの仕事が入った。これから出る。カルトも連れてくでな。一応、護衛にゾルディックの執事2人付けてくれるらしいわ」

 

「そうか」

 

「……ここにおるんは構わんけど、飯とかは自分で何とかせぇよ」

 

「ああ」

 

「……はぁ」

 

 ラミナはお宝から全く目を放さずに答えるクロロにため息を吐いて、背を向ける。

 そして、ラミナも2階に上がり、ブーツサンダルをブーツに履き替え、下ろしていた髪も後ろで紐で束ねる。

 

 1階に戻ると、すでにカルトも着物に着替え終えていた。

 

「ほな、行こか。ああ……クロロは今、地下におるわ。悪いけど、執事の2人はクロロが自分で上がって来るまでは、地下に下りんように。別に1階や2階は好きにしてええから」

 

「「承知しました」」

 

 護衛の執事に伝えて、家を後にするラミナ達。

 

 外は夕暮れに差し掛かって来ていた。

 

「車で向かわれますか?」

 

 ゴトーの問いかけにラミナは顎に手を当てる。

 

「……いや、走ろか」

 

「「え?」」

 

 カルトとアマネが声を上げて驚く。

 ラミナはカルトに目を向けて、

 

「特訓や特訓。50kmやったら……2時間くらいで着くか」

 

「「え」」

 

「ほな、行くで」

 

 カルトとアマネはまだ状況を受け入れられていないが、ラミナは気にせず走り出す。

 カルトとアマネは唖然とその背中を見送るが、

 

「カルト様、置いて行かれますよ?」

 

「あっ! えっ!? ちょっ! ホントに!?」

 

 ゴトーに声を掛けられて、カルトは慌てて走り出す。

 アマネも困惑しながらもゴトーと共に走り出し、後ろにつく。

 

 ラミナはジョギングのような軽やかさで走りながら、猛スピードで街を駆け抜けていく。

 その背後をカルト達も付いて行くが、ゴトーはともかくカルトとアマネはそれなりに本気で走っている。

 

 20分ほどでカゴッシを抜けたラミナ達は、人気が少ないところを選んで走る。

 

「な、なんで走るの?」

 

「やから特訓やって。50kmくらい楽に走り抜けんと、プロハンターレベルの獲物追いかけるんに苦労するで?」

 

「だからって……」

 

「もうちょいスピード上げるで~」

 

「え」

 

 ラミナはグン!とスピードを上げる。

 カルト達はあっという間に距離が離されていく。 

 

「ああ、もう……!」

 

「頑張りましょう。カルト様」

 

「分かってるよ!」

 

 カルトはやけくそ気味に叫びながら、スピードを上げる。

 ゴトーは苦笑してスピードを上げ、アマネも僅かに慄きながら後を追う。

 

 そして、太陽が沈んで夜を迎えた19時頃。

 

 ラミナ達は目的の街に到着した。

 

「「はぁ! はぁ! はぁ!」」

 

 カルトとアマネが息を切らして膝に手を当てている。

 ゴトーはピシ!と背筋は伸ばしているが、僅かに汗を流して息も乱れている。

 

 もちろんラミナは全く汗を掻いておらず、息も乱れていない。涼しい顔で立って、僅かに呆れながらカルト達を見つめていた。

 

「そこまで飛ばしてないし、50kmくらいで情けないなぁ」

 

「あ……あれで……!?」

 

「イルミとキルアやったら、汗掻いてないと思うで?」

 

「「ぐっ……!」」

 

「いくら才能がある言うても、キルアと2歳しか変わらんのやから、せめてゴトーくらいの余裕で走り切らんと。お話にならんで?」 

 

「恐縮です」

 

「まぁ、ゴトーは歳のわりに息を乱し過ぎやけどな。アマネは論外」

 

「……」

 

「うぅ……」

 

 酷評を浴びせられるカルト、ゴトー、アマネ。

 カルトは悔し気に顔を歪め、ゴトーは眼鏡を直しながら黙り込み、アマネは顔を俯かせて落ち込む。

 

 ラミナはその様子に苦笑しながら、資料を取り出す。

 

「さて、標的一家と幹部の8人。全員が一緒におるタイミングは、あんまないわなぁ。あっても、目撃者や監視カメラとかはわんさかやろなぁ」

 

「全員殺せばいいんじゃないの?」

 

「ド阿呆。一体どれだけの数を、どれだけ時間かけて殺す気や。仕事で無駄な手間と無駄な証拠を残さんのが一流や。嬲り殺したいなら、仕事に関係ないところでしぃ」

 

「けど、イルミ兄さんは……」

 

「イルミは無駄な殺しをしとるようやけど、あいつの能力はその無駄な殺しを利用できるからなぁ。手間もかからんし、証拠も出にくい。たかが針に操られとるなんざ、警察に調べられんやろ?」

 

 ラミナは資料を眺めながら、肩を竦める。

 資料を細かく引き千切って放り投げる。

 

「まずは幹部から回っていこか。カルト」

 

「……なに?」

 

「この仕事、うちとお前は念を使たらあかん。体術と暗殺術だけでやる」

 

「な!?」

 

 ラミナの提案にカルトとアマネは目を見開く。

 ゴトーは理由をすぐさま理解して、目を鋭くする。

 

「今回のターゲットは一般人。念も使えん雑魚や。念を覚える前のキルアですら簡単にこなせる仕事やで? 別に驚くことちゃうやろ」

 

「そう……だけど……」

 

「やから、ゴトーとアマネはカルトのフォロー。あくまで、フォローな」

 

 ラミナはゴトーとアマネに言いながら、サングラスをかける。

 

「扇子も駄目?」

 

「あかん。まぁ、念使いがおったらええけどな」

 

 ラミナは両手をゴキゴキと鳴らしながら、歩き始める。

 カルトは盛大に顔を顰めて黙ったまま付いて行き、ゴトーとアマネも歩き始める。

 アマネは小声でゴトーに話しかける。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「……まぁ、この仕事ならば問題はない。それにラミナ様の言い分も間違っていない。旦那様達もカルト様については甘やかしていたと後悔なされているからな。まぁ……カルト様は奥様がかなり構っておられたから、仕方がない部分もあるがな」

 

 キキョウは歪んでいる所があるが、子供への愛は本物である。

 末っ子のカルトは特に甘やかされていた部分があるのだ。

 イルミが独り立ちし、ミルキは引きこもり、キルアはシルバやゼノに後継者として育てられており、四男は事情により隔離された。

 なので、シルバやキキョウにとって、カルトは『厳しく育てる必要もない普通に家族の愛情を注げられる子供』となったのだ。

 

 イルミもキルアほど熱心に育てることもなく、ミルキと四男は論外。

 キルアは針を埋め込まれてからは、下の兄弟に構う余裕はなくなった。

 

 なので、カルトは非常に中途半端な育てられ方になったのだ。

 

 ゼノ、シルバにキキョウは、キルアが家出した最近になってそれに頭を悩ませていたが、今更厳しくするのも心境的に難しい。

 

 そこに現れたのが、ラミナというわけだ。

 

「旅団に入るのは不安だが……ラミナ様がいるならば、ゾルディックにいるよりは成長する可能性はあるだろう」

 

「……」

 

「お前もラミナ様に鍛えてもらうか? 旦那様やツボネ先生は喜んで許可してくれるだろう」

 

「え!?」

 

「ふっ、冗談だ。そこまでラミナ様に負担をかけられるわけがない」

 

「……」

 

「早く行くぞ。置いて行かれる」

 

「は、はい!!」

 

 ゴトー達は駆け足でラミナ達を追いかけるのだった。

 

 

 

 ラミナ達がやって来たのは、幹部の1人がいるビルの部屋の前に立っていた。

 【円】で標的がいるのを確認している。

 

「ターゲットの他にも数人おる。銃に気を付けぇよ。あ、アマネかゴトーは警備室行って、監視カメラの映像回収してきてくれへん?」

 

「アマネ」

 

「はい」

 

 ゴトーがアマネの名を呼んで、アマネは姿を消す。

 それを見送ったラミナは扉を蹴破る。

 

「な、なんだ!?」

 

「誰だ!!」

 

「殺し屋」

 

 ラミナは慌てふためいている男達に、余裕綽々で歩み寄っていく。

 護衛と思われる4人ほどの男達が拳銃を抜こうと、胸元に手を入れる。

 

 しかし、

 

「遅いわ」

 

 ラミナが一瞬で男達の目の前に移動したかと思ったら、次の瞬間に男達の背後に現れる。

 男達は目を見開いて、背後を振り返ろうとしたが、そのまま胸や口から僅かに血を噴き出しながら倒れていく。

 

 ラミナは両手をプラプラと振って、両手に付いた血を払う。

 

「ちっ……。うちも人のこと言えんな。大分なまっとるわ」

 

 ラミナは舌打ちをしながら、男達の死体を見下ろす。

 カルトは僅かに目を見開いて、

 

(……両腕が動いたのは見えたけど、最後何したかまでは分からなかった……!)

 

「……ゴトーは見えた?」

 

「……最初の一撃だけ、ですが……」

 

「……どうやったの?」

 

「……恐らく【蛇活】で心臓を潰したのだと思われます」

 

 ゴトーの推測通り、ラミナは【蛇活】で両腕をしならせて4人の胸に手を突き刺して、全員の心臓を握り潰したのだ。

 

 ラミナは小さくため息を吐きながら、部屋の奥で震えている男達に目を向ける。

 

「だ……誰だ……? お前達は……」

 

「やから、殺し屋やっちゅうとるやろ。諦めて死んで」

 

「ふざ――!」

 

 ターゲットの男が怒りに叫ぼうとしたが、ラミナがいつの間にか目の前に立っていた。

 ターゲットの男が驚いて目を見開く。

 

 そして、ラミナの右手に脈動している心臓が乗っているのが目に入った。

 

「なんっ!? そ…れ……」

 

 男は限界まで目を見開いて驚くも、そのまま両目が裏返って崩れ落ちて死ぬ。

 ラミナは心臓を放り投げて、左右にいた秘書と思われる男2人の首に手刀を叩きつけて骨をへし折る。

 

「ひいいぃ!?」

 

「た、助けてくれぇ!!」

 

 生き残った男達は恐怖に泣き叫びながら、逃げ出そうとする。

 ラミナより、少女に見えるカルトと執事服を着ているゴトーの方が逃げられると判断したのだ。

 

「カルト、片方くらい殺せ」

 

「……ふん」

 

 カルトは近づいてくる男に一瞬で迫り、男の顔を掴んで背後に回り込みながら180度捻じり回して殺す。

 そして、残った方の男はゴトーがコインを弾いて、頭を吹き飛ばした。

 

「まだまだ非力やな」

 

「くっ……!」

 

「それにしても……うちも修行し直しやなぁ。もうちょい血が噴き出るんが遅かったし、量も少なかったんやけど……」

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、部屋に置いてあるティッシュで手を拭う。

 そこにアマネが戻ってくる。

 

「警備室と監視カメラの映像の処理。終了しました」

 

「おおきに。ほな、どんどん行こか」

 

 その後も幹部がいるところを襲撃し、ターゲットと目撃者を殺していく。

 

 そして、夜の23時。

 残りは社長一家のみとなった。

 

「いやぁ~……一度鈍るとそう簡単にゃ戻らんなぁ」

 

 ラミナは両手を離握手しながらため息を吐く。

 

「……十分な技術だったと思われますが……」

 

 アマネが困惑の表情を浮かべながら、ラミナに言う。

 ラミナは不満気に顔を歪めて、

 

「出来とったことが出来んようになったら落ち込むやろ? あそこまで血で汚れると面倒なんよなぁ」

 

(よく言うよ……! 片手で人の首捻じり折ったり、手刀で首を抉り斬った癖に……!!)

 

 カルトはラミナの言葉に苛立ちながら、心の中で愚痴る。

 

(けど……お父様達が気に入った理由がよく分かった……)

 

 実力も技術も、レベルが違い過ぎた。

 しかも、

 

『今のと同じことは旅団のメンバーも出来るで? 心臓潰しに関してはうちが一番やったけどな』

 

 と、当たり前のように言い切った。

 それだけで、それが事実だと思い知らされた。

 

(今のボクじゃ念以前の問題……。本当に実力不足……!)

 

 カルトは歯軋りをして悔しがる。

 

(……いいさ。耐えるのは慣れてる。そして、こいつから貰えるモノ全部自分のモノにしてやる……!!)

 

 カルトは覚悟を決めて、更なる精進を誓う。

 

「さて、最後の社長一家は一軒家。ありがたいことに家政婦などもおらず。シークレットサービスもなし。随分と家庭的な社長やな」

 

「元々はスラム出身らしいですよ」

 

「ふぅん。やとしても、マフィアと裏稼業しとる癖に随分と無防備やな」

 

 アマネの言葉に、ラミナは相槌を打ちながら、その一軒家を見下ろす。

 今、ラミナ達は社長一家の自宅の向かいにある家の屋根にいた。

 

「両隣の家が護衛の家なのですよ」

 

「じゃあ、あの家は見張られとんの?」

 

「恐らくカメラで」

 

「え~……じゃあ、両隣の家も始末せなあかんの? 面倒やなぁ……」

 

 ラミナはうんざりした顔でボヤく。

 それにゴトーとアマネが苦笑する。

 

「はぁ……。ほな、カルトとアマネが左、ゴトーが右。うちが正面」

 

「……ここも念は無しだよね?」

 

「もちろん。ただ……奴らが持っとる武器を利用するんは認めたるわ」

 

「……分かった」

 

「じゃ、行こか」

 

 そう言ってラミナ達は一斉に飛び出して、それぞれの家に向かう。

 ラミナは扉に掌底を叩き込んでぶち破る。

 

「っ!! な、なんだ!?」

 

 男の声がリビングから聞こえてきたので、ラミナは素早く声がした方向に向かう。

 リビングにはバスローブを着たターゲットの社長がおり、ラミナの姿を見て目を見開く。

 

「だ――!?」

 

「さいなら」

 

 ラミナは胸に右手を差し込んで、心臓を握り潰す。

 今回は引き抜かずに、胸に手を差し込んだまま男の最期を見つめる。

 

「がっ……!?」

 

「欲をかきすぎたなぁ、社長さん」

 

「お……あ……」

 

「安心しぃ。すぐに家族にも会える。お仲間も先に逝っとる。……スマンな」

 

 胸から手を引き抜く。

 男はそのままソファに倒れ込むように座って、息絶える。

 

「ひぃっ!?」

 

 背後から悲鳴が聞こえ、ラミナが振り返ると、そこには寝間着を着た女性が顔を真っ青にして立っていた。

 資料に載っていた社長の妻だった。

 

「あ……あなた……!?」

 

 ラミナが妻に向かって足を一歩踏み出すと、

 

「ひぃ!?」

 

 妻は悲鳴を上げて、ラミナに背を向けて逃げ出そうとする。

 ラミナは一瞬で距離を詰めて、妻の首に手刀を叩きつける。

 

「あ……」

 

 妻は意識を失って、崩れ落ちる。

 ラミナはその体を左手で受け止めながら、素早く右手で背中から胸に突き刺して心臓を潰す。

 

「あ……!」

 

 妻は一瞬体を跳ねさせて、そのまま死亡する。 

 床に体を横たわらせたラミナは、すぐ近くの階段に目を向ける。

 【円】で2階にあと1人いるのを感じとった。

 

「ターゲットもあと1人……。はぁ~……気が引けるなぁ」

 

 ラミナはため息を吐いて、階段を上る。

 

 

ゴキッ コキコキッ

 

 

 ラミナは血濡れた右手指を操作して、爪を鋭くする。

 

 そして、子供部屋と思われる部屋の扉を開ける。

 部屋は暗く、ベッドには最後のターゲットである7歳ほどの娘が心地よさそうに眠っていた。

 

「起きんかったんか……。図太い娘やなぁ……」

 

 ラミナは静かに娘の傍に歩み寄る。

 

 そして、右手の人差し指と中指を立てて、一瞬で娘の心臓に突き刺して引き抜く。

 娘は痛みを感じることなく、そのまま息絶える。

 

 ラミナは娘の布団を整えて、部屋を後にする。

 そして、再び家にあった布で手を拭う。

 

 社長宅を出たラミナは、カルトとアマネがいる家に向かう。

 

「お~い。終わったか~」

 

 ラミナが声を掛けながら入ると、

 

「ひ……ひぃ……!」

 

「くふふふ♪ もっと頑張ってよ」

 

 カルトが椅子に縛り付けられた男の脚に、包丁を刺してグリグリと捻りながら嬲っていた。

 アマネはその様子を眉尻を下げて見守っていた。

 

(……武器を手にしたら、コレかい……。キキョウとイルミのどうでもええところだけ影響を受け取るなぁ)

 

 ラミナはため息を吐いて、気配を消してカルトの背後に近寄る。

 

「ふふふ♪ さぁ、次は……♪」

 

「次やないわ、阿呆」

 

「イタッ!?」

 

 ラミナはカルトの頭にチョップする。

 

「な……なにするの……!?」

 

「余計な時間かけるな言うたやろ。監視カメラは?」

 

「処分は終えています」

 

「ほな、もう行くで。周囲の家が異変に気づいて警察でも呼んだら面倒や。仕事は終わったし、ここに留まる理由は無い。さっさと殺しぃ」

 

 ラミナはそう言って、家を後にする。

 カルトは眉を顰めて、縛り付けた男の首を掻っ切って殺す。そして、包丁を放り捨ててラミナの後を追う。

 

 外ではすでにゴトーも待機しており、ラミナ達はそのまま街の外れまで移動する。

 

「あ~……! なんや煮え切らん仕事やったな」

 

 ラミナは伸びをして、サングラスを外す。

 

「お疲れ様でございました」

 

「そっちもな。それにしても……カルトは今後どうするかなぁ?」

 

「なにが?」

 

 ゴトーが頭を下げて、ラミナがカルトを見ながら悩まし気に腕を組む。

 それにカルトは首を傾げる。

 

「いやぁ~思っとったより、お前が念と扇子使えんと微妙ってことが分かってなぁ。どう鍛えたもんか……」

 

「……」

 

 カルトは眉を顰める。

 

「まぁ、しばらくは【蛇活】と心臓を抜き取る技に集中しよか。後は足運びとかやな」

 

 簡単に方針を決めるラミナ。

 カルトはラミナの方針に文句を言えるほどの実力もないので、黙って頷くしかなかった。

 

「よし。じゃ、また走って帰ろか」

 

「「え゛」」

 

 ラミナの言葉にカルトとアマネが顔を引きつかせる。

 

「大して体力使っとらんし。行けるやろ? ほれ、行くで」

 

 そして、ラミナはまた走り出す。

 

「ああ!! もう!!」

 

 カルトはまたやけくそ気味に走り出し、ゴトーとアマネは苦笑しながらそれに続く。

 

 そして、また2時間近くかけて、カゴッシへと戻るのであった。

 


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