暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
時は少し戻って9月6日のヨークシンシティ。
ゴン達が宿泊しているホテル。
ゴンは顔を顰めて、キルアと向かい合っていた。
「くっそ~……! ムカつく~!」
「仕方ねぇよ。俺達じゃ実力不足だって思い知ったばっかだろ?」
ゴンは苛立ちを隠さず、キルアは呆れながら宥める。
ゴンとキルアはゼパイルと3人で、サザンピースオークションに向かった。
もちろんお金など稼いでいないので、誰が競り落とすのかを確認しに来たのだ。
競り落とした者にプロハンターとして、ゲームクリアに協力することプレイさせてもらおうと考えていたのだ。
競り落としたのはハンターサイトにも載っていたバッテラという大富豪だった。
ゴンとキルアは取引を持ち掛けたが、バッテラと共にいたプロハンターのツェズゲラに『プレイさせるだけ無駄』と断言されてしまう。
ゴンは食い下がったが、ツェズゲラがゲーム経験者であることから、否定できる材料がなかった。
バッテラから9月10日に新規プレイヤーの審査を行うことを聞いて、それまでに念を鍛えてこいと挑発されたのだ。
ゴンは未だにそれにイラついていたのだ。
「けど、ムカつくじゃん!」
「そうだけどさ。だからって、このまま挑んだって厳しいかもしれないのは事実だろ? 旅団相手に全く歯が立たなかったんだぜ? ゲームに参加してる連中全員があのレベルとまでは思わないけどさ。1人もいないわけがないし、少し下のレベルってだけでも俺達じゃもう勝てない」
「……じゃあ、どうするのさ?」
「【発】だよ。必殺技さ」
「必殺技かぁ……」
ゴンが悩まし気に腕を組む。
「命がけの制約と誓約のおかげとは言え、クラピカはそれで旅団の1人を倒して、団長の念を封じた。まぁ、俺達はそんなわけにはいかないけどさ」
「そうだね……」
「けど、ラミナやヒソカ……あの糸女みたいに、自分の系統に合ってて、実戦的で、応用が利く能力」
「ん~……」
ゴンは唸ったまま考え込み、少しすると耳から煙が噴き上がる。
キルアは呆れながら軽くゴンの頭を叩く。
「まぁ、お前に関してはヒントはあるぜ?」
「え!? ホント!?」
「ラミナが最後に見せてくれた技だよ。自分達で探せって奴」
「あ……!!」
「ゴンは強化系。武器は使うタイプじゃないから、体を強化する能力がいい。だから【堅】に【流】、そんで最後の技が一番使いやすくて応用力もあって、必殺技と言える威力もある」
「確かに……」
「【堅】と【流】は修行を続けるしかない。だから、今は最後の技だ」
「……うん!」
ゴンは両手を握り締めて、頷く。
キルアは微笑みを浮かべて、立ち上がる。
「じゃ、俺は自分の部屋に戻る」
「え?」
「俺は俺で考えてる事がある。それを試す」
「え!? なになに!?」
「言わねぇよ! まだ出来るかどうかも分かんねぇんだしさ」
キルアは両手を腰に当てて、呆れた顔を浮かべて言う。
その時、部屋のドアからノック音が響く。
「はい?」
「私だ」
「クラピカ!?」
ゴンは慌てて扉に駆け寄ってドアを開ける。
そこには未だ疲労感全開のクラピカとレオリオ、センリツが立っていた。
「もう大丈夫なの?」
「ああ、熱は下がった」
「熱はな。まだフラついてんだから、無理すんなよ」
レオリオは小さくため息を吐きながら言う。
クラピカは高熱を出して、丸2日寝込んでいたのだ。
極度の緊張感の状態が続き、【緋の眼】の使い過ぎによる反動によるものだと考えられている。
ゴンとキルアはクラピカをベッドに座らせて、レオリオとセンリツはゴンとキルアと共に床に座る。
「オークションはどうだったんだ? レオリオから高価なゲームを狙っていると聞いたが……」
「う~ん……ちょっとね……」
ゴンとキルアはオークション会場であったことを話す。
「なるほど……。プレイヤーの選考審査か」
「うん……。でも、今のままじゃ厳しそうなんだ……」
「で、【発】を考えようって話になったんだよ」
「お前らでも厳しいってどんな連中がいんだよ……」
レオリオはゴンとキルアの話に慄き、クラピカとセンリツは2人の話に納得するように頷く。
「けど、あまり上手く行ってないんだよね」
「そうか……」
「あっ! そうだ、クラピカ! 聞きたいことがあるんだけど!」
「ん?」
ゴンはクラピカにラミナが見せてくれた技について訊ねる。
クラピカは顎に手を当てて、
「……思い当たるモノはある」
「ホント!?」
「しかし、それではラミナの指導に反するのではないか?」
「う……」
「ヒントが欲しいなら、ラミナに聞くべきだと思うが……。連絡が取れないのか?」
クラピカの言葉に、ゴンとキルアは顔を見合わせて、表情を曇らせる。
キルアが携帯を取り出して、スピーカーモードにしてラミナに電話を掛ける。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
という音声が流れる。
キルアは電話を切って、肩を竦める。
「メールもホームコードも繋がらない。完全に雲隠れ」
「そうか……」
「ハンターサイトも調べてみたけど、情報料が1億で旅団員並み。ネットで見られる懸賞金サイトを調べたら、昨日付けで賞金も1億まで上がってた」
「1億ぅ!?」
レオリオは目を見開いて驚く。
「……恐らくマフィアや仲介所に旅団との繋がりがバレたのだろうな。ラミナは一度マフィアに雇われて、旅団と敵対したフリをしていたしな」
「ええ」
「ってことは、今の俺達じゃそう簡単に見つけられねぇか……」
キルアは小さくため息を吐いて、携帯を仕舞う。
(……親父達なら知ってるか? けど……わざわざ聞くのもなぁ……)
気にはなるが、無理して聞き出すほどではない。
しかも、今のキルアはシルバ達に大きな借りがある状態だ。旅団から解放するようにラミナに働きかけたのはシルバ達。
自分のミスを取り戻せていない今の状況で、ラミナの連絡先を聞き出そうにも取引材料がない。
『なら、帰ってこい』と言われる可能性が高い。
「クラピカはこれからどうするの?」
「ラミナと旅団の事は気がかりだが……。今は返してもらった【緋の眼】の保管と、他の仲間の眼を取り戻すことを優先する。それに、私達のボスが昨日ヨークシンを離れている。私もセンリツも、立場上明日には戻らねばならない」
「そっか……」
ゴンはクラピカを心配そうに見つめながらも、ヨークシンを離れる方がいいと思った。
実はゴンとキルアはオークション会場で、フィンクスとフェイタンと会っていたのだ。
なので、まだ旅団はこの街にいる事を知っている。
もちろん、今のクラピカにまた旅団を追う体力はないだろう。
それにラミナとの約束もある。
ここで旅団を追えば、わざわざ【緋の眼】を返してくれたラミナの思いを裏切ることになりかねない。
流石にそうなれば、ゴンとキルアもクラピカを止めるだろう。
なので、クラピカがヨークシンを離れることは、むしろ喜ぶべきことだ。
クラピカが何かを思い出したように、キルアに顔を向ける。
「そういえば、キルア……」
「なに?」
キルアはペットボトルのお茶を飲みながら首を傾げる。
「ラミナと婚約してるというのは本当なのか?」
「ぶっほ!!」
「あ!! そうだ!! 忘れてた!!」
「そうだぞ、キルア!! テメー、何で黙ってた!!」
キルアはお茶を噴き出して、ゴンとレオリオが思い出してキルアに詰め寄る。
キルアは盛大に顔を顰めて、
「だから、親父達が勝手に決めただけだって! 俺とあいつも認めてねぇし、そんなつもりもねぇよ!」
「言っておくけど、本当よ」
センリツがキルアに助け舟を出す。
それにレオリオとゴンは引き下がるが、好奇心全開の目をキルアに向けていた。
クラピカは2人に呆れながら、キルアに質問を続ける。
「ククルーマウンテンの時か?」
「そ。ゴンといるのを認めてもらう条件が、ラミナを婚約者にすることと念を教えてもらうことだったんだよ」
「よくラミナも受け入れたな」
「詳しい理由までは知らないけど、なんか親父達に借りがあったらしいぜ」
「じゃあ、今回の件で解消されたんじゃねのか?」
「いや……旅団に入ったくらいで親父達がラミナを手放すとは思えない……。それに今回は俺達っていうか、俺が未熟なまま旅団に突っ込んで捕まったのが原因だし。それにラミナと旅団の関係を親父達が知らないとは思えないし」
「……やっぱお前の家族って変だよな……」
「暗殺一家に常識を求めんなよ」
キルアは呆れながらレオリオに言う。
「とりあえず、俺とラミナは結婚するつもりはないよ。だから、言う必要もなかったってだけ」
「まぁ、ラミナも美人だしなぁ。ガキのキルアよりいい男なんざいくらでも見つけられるよな」
「うっせぇな……」
キルアはレオリオを睨みつける。
結婚する気はないが、自分が大した男じゃないと言われるのはやはりムカつく。
「まぁ、これ以上はラミナとキルアの問題だ。本人達がその気じゃないなら尚更な」
クラピカが話を纏めて立ち上がる。
「クラピカ?」
「特訓しなければならないのだろう? 時間がないなら尚更な」
「それにクラピカももう少し休まねぇとな」
「そうね」
「う~ん……」
レオリオとセンリツも立ち上がり、ゴンは結局何も分からないことに腕を組んで悩ませる。
レオリオがゴンを見下ろして、
「他に教えてくれそうな人とかいねぇのか? ゾルディック家の執事とか、天空闘技場で知り合った人とか」
「「あ!!」」
レオリオの言葉にゴンとキルアは声を上げる。
ゴンとキルアはウイングの事を思い出したのだ。
「ウイングさん!! ……は、いいのかな?」
「ラミナはあの人に教えてもらうのはアリって言ってたし、聞くくらいならいいんじゃないか?」
「だったら電話してみるよ」
「手がかりが見つかったようだな。頑張ってくれ」
「うん! ありがとう、クラピカ!」
「お前らもあんま無理すんなよ」
「ゴン、俺も行くぜ」
「うん」
クラピカ達は部屋を後にして、キルアも部屋を出て行く。
1人になったゴンは早速携帯を取り出して、ウイングに電話をかけた。
『……もしもし?』
「あ、ウイングさんですか? ゴンです」
『おや、ゴン君。お久しぶりです。お元気ですか?』
「うん。元気だよ」
『それは良かった。それで、どうしたのですか?』
「実はちょっと相談したいことがあって……」
ゴンはウイングにラミナが教えてくれた技について質問する。
もちろん、現在ラミナと連絡が取れない状態であることも伝えている。
『なるほど……』
「ラミナは前にウイングさんに教えて貰ってもいいって言ってたから……。それでウイングさんにヒントだけでも貰えないかなって……」
『ふむ……。なら、ヒントをあげましょう』
「ホント!?」
『【周】や【堅】などの応用技を教わった時、それが何の技を応用したものかは聞いてますか?』
「……たぶん……」
『ふふっ。まぁ、そこはキルア君なら覚えているでしょう。1つ目のヒントは『まだ試していない組み合わせを考えてみること』。そして、2つ目は『全て同時に使うこと』……です』
「???」
ゴンは首を傾げて考え込むも、再び耳から煙が上がる。
『一つ一つゆっくりと考えて試していきなさい。では、頑張って』
ウイングとの電話を終えたゴンは、早速教わった事を思い出していく。
(え~っと……【堅】と【円】は【練】と【纏】。【周】は……【纏】。【流】は【凝】…だったかな? で、その【凝】は【練】の応用技。【隠】は【絶】。……ん~……まだ試していない組み合わせって言われてもなぁ……。残ってるは【発】だけ……)
すでに全ての組み合わせを使っているのではないだろうか。
ゴンは唸りながら必死に頭を動かす。
「あの時のラミナは……」
技を見せてくれたラミナの様子を必死に思い浮かべ、考えられる組み合わせを考える。
そこでゴンはあることに気づく。
(ん? 鉄パイプにオーラを纏わせてたのは……【周】だよね? じゃあ、鉄パイプの先にオーラを集めたのは【凝】じゃないの? けど、それだと【流】と変わらないじゃん。でも、【流】と威力は段違いだった……)
ゴンは自分の右拳に【凝】でオーラを集めていく。
まだオーラの扱いに慣れていないゴンは、それだけでもかなりの集中が必要だった。
(……だめだ。あそこまで強いオーラにならない。それにこれじゃ、ただの【凝】だし……。あれ?)
ゴンは右前腕に目が行く。
右腕にも僅かにオーラを纏っていた。
「……【絶】って……オーラを溜めた右手以外で使えるのかな?」
ゴンは早速試してみる。
右手だけで精孔を維持し、他は全て閉じるイメージをする。
全身から汗が噴き出し始め、腕や体のオーラが消え、右拳のオーラが強まっていくのを感じた。
暴発しそうになるのを留めようとしたら、【絶】が維持出来なくなってしまった。
「うわっ!? ふぅ……。けど……」
(あった! 新しい組み合わせ!)
ゴンは右拳を握り締める。
(【纏】【凝】【絶】。もしここに【練】を組み合わせたら……!)
想像したその威力にゴンはゾクリとする。
しかし、まだそのレベルではない。
「まずは……【纏】の状態で【凝】と【絶】に慣れないと……」
まだまだ修行は必要だ。
それでも道筋は確かに見えた。
「よっし!!」
ゴンは立ち上がって、気合を入れる。
そして、早速練習を始めるのだった。
その隣の部屋でキルアも、【発】の開発に挑んでいた。
(オーラを何かに変えるって言ってもヒソカや糸女みたいに、ゴムや糸に思い入れはない)
能力は生きてきた環境や思い入れが大きく作用する。
(ムカつくけど、応用力があった戦い抜ける力となると、家でのことになるよな~)
殺し屋を廃業して1年も経っていない。
なので、どうやっても思い入れがあるものとなると、殺し屋時代のことになる。
(けど、ラミナやクラピカみたいな武器にも思い入れはないしな)
そうなると、やはり変化系に特化した能力が無難だという結論になった。
具現化の場合、クラピカのような制約に縛られてしまうのもデメリットが大きいとも感じたのもある。
(ラミナの能力の情報がもう少しあれば印象が変わるかもしれないけど……)
クラピカから聞いた情報も合わせると、ラミナは普通では考えられないほどの武器を具現化できるようだった。
同じ具現化系であるクラピカでさえも、「普通ではありえない」と言い切っていた。
具現化系の能力では、1つのものを具現化するだけでも数日はかかるとされている。
触って、描いて、舐めて、動かしてなど、様々な工程を経てイメージを固めていく作業が必要なのだ。
キルアはその作業がめんどくさいと思うので、自分が具現化能力に向いていないと思っている。
(けど、問題は下手な能力にするとナグタル…だったけ? みたいにガス欠になっちまう……)
天空闘技場で戦ったナグタルの能力を思い出す。
ナグタルの【絶えず燃え盛る闘魂】は強力ではあったが、使えば使うほど【練】が弱くなっていく欠点がある。
(俺の【練】や【堅】は旅団クラス相手じゃ話にならない。それに実戦経験もない。【流】や最後の技もあるし、【発】に依存する能力は危険すぎるな。ヒソカ同様俺の身体能力を主体に活かせる能力)
そうして辿り着いたのが、右手に握るスタンガンである。
(オーラを電気に変える能力。相手を麻痺させて、自分の身体能力を上げる事も出来るし、遠近も対応出来る)
家の拷問で何年も浴びてきた。
毒も考えたが、自分は効かない体質になっているし、シルバも完全ではないが毒が効かない。
そうなると、他の者達とて必ずしも毒が効くとは限らない。
しかし、電気は誰であろうと、慣れていようと、必ず一瞬動きが止まる。
その一瞬で自分の速さを上げられれば、その隙を見逃さない攻撃が出来るはずと考えた。
(けど、そのままだとナグタルと一緒。だから『体に溜めた電気量に威力や使用時間は依存する』って制約にすれば、【発】でオーラが尽きることはまずない)
キルアは【纏】を発動して、スタンガンのスイッチを押す。
そして、スタンガンを左腕に押し付ける。
「ぐっ……!」
一瞬、体の筋肉が硬直するのを感じるも、すぐに慣れる。
1分ほど体に電気を流したキルアは、スタンガンを床に放り投げる。
(そして……自分をスタンガンに見立てて……溜めた電気を一気に放出するイメージで、オーラを練る!)
オーラを強めながら、両手を近づける。
指と指の間に電気が走るイメージを強く念じる。
バヂィ!!
すると、指と指の間に電気が走った。
成功を確信したキルアは笑みを浮かべる。
「後はどれだけ電気を溜めれて、どれだけ放出できるかのチェック。それとオーラを電気に変える速度を上げることだな。今はそれに専念するか」
再びスタンガンを手に取る。そして、左腕にスタンガンを当てて、電気を流す。
こうして、キルアも【発】向上に向けて進んでいくのだった。