暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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遅くなりました(__)。
そして、お盆中はやはりちょっと更新の間が空きそうです(__)


#58 アラクネー×ノ×チカラ

 翌日。

 ラミナ達はサヘルタ合衆国国境近くの街にやって来ていた。

 

 ここでゾルディック家の者と合流し、仕事を受けるためだ。

 街外れにあるスーパーの駐車場に車を停めたラミナ達は、ゾルディック家の者が来るのを待つ。

 

 もちろんキャンピングカーの事も、居場所も教えている。

 

 1時間ほどのんびりしていると、ドアがノックされる。

 ラミナがドアを開けると、そこにはなんとゼノがいた。

 

「ゼノ爺?」

 

「久しぶりじゃのう。邪魔するぞい」

 

「お爺様……!?」

 

「元気そうじゃな、カルト。……ふむ、中々に成長したようじゃの」

 

 ソファに座っていたカルトは慌てて立ち上がり、ベッドの方で読書をしていたクロロもゼノの登場に本から目を放す。

 他に付き添いがいないことにラミナは首を傾げるも、ドアを閉める。

 

「緑茶でええか? あとカルトの羊羹」

 

「おう、すまんの」

 

 とりあえず、相手が相手なのでしっかりとおもてなしの用意をする。

 カルトはゼノをテーブルがある方のソファに座わらせ、カルトもその隣に座る。

 クロロも興味が湧いたのか、向かいのソファに座る。

 

「久しぶりだな、ご老人」

 

「元気そうじゃな、坊主。まぁ、前の頃とは随分と可愛くなったようじゃが」

 

「ふっ。今ならあの時よりもっと殺しやすいぞ?」

 

「言うたじゃろうが。儂ゃ無駄な殺しはせん」

 

 互いに不敵な笑みを浮かべて、軽口を言い合う。

 一度殺し合った仲ゆえか、そこそこ打ち解けている様子だった。

 

 ラミナはゼノの前に緑茶と羊羹を置いて、ゼノ達と同じソファに座る。

 

「で? 今回はゼノ爺が付き添いっちゅうことか? どんな厄介な奴がターゲットや?」

 

「いや、それが少し別の意味で面倒になっての。まぁ、お主と大きく関係しておるんじゃが」

 

「あ?」

 

 ラミナは眉を顰めて訝しむ。

 ゼノは緑茶を飲んで、一息つく。

 

「今回の仕事は国境を越えてすぐの【クヘンタシティ】なんじゃがな……」

 

 バルトア共和国の【クヘンタシティ】は国境近くの街ということもあり、そこそこ大規模な街である。

 

「だが?」

 

「そこに例のお前さんの情報に懸賞金をかけとる連中が入り込んでおる」

 

「!? アラクネーが?」

 

「うむ。どうやらクヘンタにおるマフィアと闇組織が協力しておるようじゃの。そして、今回のターゲットが闇組織の方なんじゃよ」

 

「あ~……そらぁ、ゼノ爺くらい出てくるわなぁ……」

 

 厄介なことこの上ない状況であるということだ。

 

「じゃあ、アラクネーがうち、闇組織がゼノ爺で……」

 

「マフィアがカルトじゃの。それと前回同様ゴトーとアマネも付ける」 

 

「念使いは?」

 

「もちろん闇組織もマフィアも抱えとる。まぁ、マフィアは2,3人レベルじゃがの」

 

「なら、そのままでええか。問題はアラクネーがどれだけの戦力を連れてきたかやな……」

 

「かなりの数のようじゃぞ? 街中に奴の部下の証である『ハートのクモ』の刺青を彫った連中がウロウロしとるらしい」

 

「ほぅ……クモの刺青か……」

 

 クロロがゼノの話に興味を示した。

 ラミナが肩を竦めながら、

 

「アラクネーは体がハートで、手足が6本のクモを思わせる刺青をトレードマークにしとる。そんで、その刺青をしとる奴らは念使いばっからしいわ」

 

「……能力か」

 

「その可能性が高そうやな」

 

 ラミナが頷いて、ゼノに顔を向ける。

 

「けど、3つの組織が手ぇ組まれたら、流石に厄介ちゃうか? マフィアのボスとアラクネーは一緒におると思うぞ?」

 

「とりあえず、頭を潰すしかあるまい。どれか1つでも潰れれば少なからず乱れるじゃろうて」

 

「流石に相手が相手や。ずっとカルトの面倒まで見きれへんで?」

 

「それくらいは分かっとるよ。まぁ、仕事を引き受ける以上、死ぬこと位覚悟はしとる」

 

 ゼノは不敵に笑って、カルトに顔を向ける。

 カルトは真剣な顔で頷く。

 それを見たラミナは苦笑して、立ち上がる。

 

「ほな、行こか。クロロの護衛はおるんやろ?」

 

「うむ」

 

「さっさと終わらせよか。ターゲットはあくまで闇組織の方やな?」

 

「そうじゃ。写真は向こうに着いたら見せる」

 

「了解。行くで、カルト」

 

「うん」

 

「クロロの買いもん、よろしゅう」 

 

「ああ」

 

 ラミナ、カルト、ゼノは車を降りて、ゾルディックが用意した車に乗り込む。

 流石に今回は無駄な体力消費は控える状況である。

 

 3時間ほどで国境を越えて、夕方には街に入り込む。

 そのまま郊外にあるビルのガレージに入って、そのままそのビルの2階に上がる。

 

 部屋にはゴトーとアマネ、その他に10人ほどの執事がいた。

 ラミナ達は用意された椅子に座る。

 

「あ、飯多めに用意して貰てええ?」

 

「すでに別室にて準備させて頂いております」

 

「お、流石やな。ほな、さっさと話し聞かせて」

 

「はい」

 

 ゴトーがホワイトボードを前に出して、説明を始める。

 

「ターゲットはこの街を拠点にしている闇組織【黒狗】のボスと幹部達4名。こいつらは人身販売や臓器販売を主な仕事しており、その主な後ろ盾が同じくこの街を拠点にしている【グスヌシファミリー】です」

 

「警察との癒着は?」

 

「ありません。ヨークシンとは違い、ここの市長はマフィアや闇組織の撲滅を目指しています。そのためにプロハンターを数名護衛に雇っているようです」

 

「……うちらが暴れたら出てくるか?」

 

「いえ。今、市長はこの街を離れています。だからこそ、タラチュネラファミリーを引き寄せることが出来ています」

 

「なるほどな」

 

「アラクネーはグスヌシファミリーが用意した拠点のどこかにいると思いますが……。未だ発見には至っていません。申し訳ございません」

 

「いんやぁ、それがあいつのやり方やからなぁ。グスヌシファミリーの拠点はダミーの可能性すらあるわ」

 

 ラミナは苦笑しながら言う。

 

「アラクネーはな、基本的に相手の前に姿を見せん。恐らく幹部との相互協力型(ジョイント)能力やろな。部下に念使いが多い理由は、そこにあるはずや」

 

「なるほどのぅ……」

 

「自分は巣の中心で悠々と、自分の糸に捕まった獲物が、子供に嬲られるんを眺める。そう言う奴や。ホンマ、厄介なこっちゃ」

 

 ラミナは面倒そうな顔を浮かべる。

 どれだけ部下を殺してもアラクネー本体を殺さなければ、すぐに戦力を回復するのだ。

 ここで中途半端に被害を与えれば、完全に敵対することになる。

 流石にずっとタラチュネラファミリーを敵にし続けるのは厄介でしかない。

 

 アラクネーと戦うならば、ここで絶対に殺さなければならない。

 

「カルト、流石にこの面子で出し惜しみは死ぬだけや。全力で殺しや」

 

「分かった」

 

「今回は相手が多い。変に嬲るなや」

 

「分かってる」

 

 カルトは眉間に皺を寄せて、不貞腐れたように答える。

 それにラミナとゼノは苦笑する。

 

「さて、飯食って、日が暮れたら動こか」

 

 その後、ラミナは用意して貰った食事を食べて、ゼノは茶を飲んでのんびりする。

 執事に手伝ってもらいながら、カルトは紙を細かく切り、扇子の紙も新しくする。他にも色々と準備をして、気合を入れていく。

 

 そして、20時。

 寝っ転がっていたラミナが起き上がって、体を伸ばす。

 

「んーー! ふぅ……。さって、行こか」

 

「ボクはどう動けばいい?」

 

「とりあえず、マフィアの拠点に行こか。そこに1人か2人、アラクネーの部下もおるやろ。ゴトー、案内してや」

 

「承知しました」

 

「ほな、ゼノ爺。頑張りや」

 

「ふん! 誰に言うとるんじゃ」

 

「そらそうや」

 

 サングラスをかけたラミナはカルト、ゴトー、アマネを引き連れて、ビルを出る。

 

 ビルを出て、すぐに駆け出し、路地裏を猛スピードで移動していく。

 もちろん体力温存のため、全力ではない。

 

「奴らの本拠地とされているビルは、あれです」

 

 ゴトーが示したのは10階建てのビル。

 

「カルト、ゴトー、アマネはまず監視カメラの排除。その後は好きに暴れや。死体は放置でええ」

 

 ラミナの指示に頷くカルト達。

 そして、スピードを落とすことなく、ビルの正面から迫る。

 

 入り口を見張っていた構成員達も、近づいてきたラミナ達に気づく。

 

「っ!! 誰だ!?」

 

「おい! あの紅髪の女!!」

 

「まさか!?」

 

「くそっ! 止まれ!!」

 

 構成員達は素早く拳銃を取り出すが、その前にラミナがスローイングナイフを投げ、ゴトーがコインを弾いて、構成員達の額を一瞬で射貫く。

 そのままビルに入り込んで、ラミナとゴトーが目についた人間全てをすぐさま頭を射抜いて殺していく。

 

「うちとカルトは最上階。ゴトーとアマネは下から」

 

 ラミナはそう言って、カルトを連れてエレベーターに乗る。

 

「9階で降りるで。マフィアにも念使いがおるから、注意せぇよ」

 

「うん」

 

 9階に着いてドアが開いた瞬間に、まずはブロードソードを具現化したラミナが飛び出す。

 エレベーターロビーにはライフルを構えた構成員が3人おり、引き金を引く前にラミナは一瞬で3つの首を斬り飛ばす。

 

 さらにベンズナイフを具現化し、角に潜んでいた構成員達に向かって投擲する。

 構成員達は爆弾かと思って一度下がるが、壁に突き刺さったのがナイフだと分かった瞬間、再び攻勢に出ようとする。

 

 構成員達が角から飛び出した瞬間、ラミナが指を鳴らして構成員達の背後に移動する。

 

「「「はぁ!?」」」

 

 ラミナは間近の数人の首を斬り飛ばし、遠い連中にはスローイングナイフを頭に突き刺す。

 

「ん?」

 

 ラミナは足元に倒れた男の首元に、ハートのクモの刺青があることに気づく。

 しっかりと確かめようとしたが、その刺青が溶ける様に消えてしまった。

 

(……消えた? っちゅうことは、この刺青がアラクネーの能力……!)

 

 ラミナは推測を立てながら、カルトに目を向ける。

 

 カルトはラミナとは反対側に向かい、部屋から飛び出してきた構成員達はカルトの姿を見て、目を見開いて一瞬固まる。

 襲撃と思って外に出たのに、着物を着た子供がいたら流石に一瞬思考が止まるのは仕方がないことだろう。

 

 しかし、それは致命的な隙だった。

 

 カルトは扇子を広げて、足音も出さずに一瞬で構成員達に迫り、舞う様に扇子を振るう。

 そして、気づけば構成員達の背後に移動していた。

 

「「「「っ!!?」」」」

 

 構成員達は振り返ろうとして、そのまま首や腕、体から血を噴き出して崩れ落ちていく。

 血を払ったカルトは警戒を解かずに周囲の気配を探る。 

 

 それを見ていたラミナはカルトに声を掛ける。

 

「上に行くで」

 

「分かった」

 

 2人は階段を上がり、最上階に上がる。

 最上階に入った瞬間、先ほどまでとは雰囲気が違うことを感じ取った。

 

「殺気を全く隠さんなぁ」

 

「待ち構えてるってこと?」

 

「そうちゃうか? 自信があるんやろ」

 

 ラミナは苦笑しながらブロードソードをレイピアに変えて、目の前の扉に近づく。

 特に警戒もせずに扉を開け、中に入る。

 

 中は広い応接室兼執務室のようで、部屋の一番奥の机にマフィアのボスとみられるスーツを着た壮年の男が座っていた。

 その周囲に4人の男が立っていた。

 

 軍服を着た黒人の男、黒革の手袋を嵌めスーツを着た金髪の男、両腕に刺青を彫って両耳に大量のピアスを付けているアロハシャツを着た茶髪の男、そしてタンクトップの筋肉質な坊主の男。

 

 4人共オーラを纏っており、念使いであることが窺える。

 ボスの男は顔を顰めて、ラミナを睨みつける。

 

「……リッパー。まさか貴様の方から攻めてくるとはな……」

 

「ちょいと伝手があってなぁ。そっちからタレコミ貰てな」

 

「ちっ……! それにしても……いつから子守りを始めた?」

 

「1か月くらい前から。なんや? まだ知らんかったんか?」

 

「ぐっ……!」

 

 今の会話でアラクネー達がラミナの情報を全く集められていないことが分かった。

 

「ところで、アラクネーの駒はどれや?」

 

「誰が教えるか、バーカ」

 

 タンクトップの男が両手を鳴らしながら、前に出てくる。

 それに黒人の男が舌打ちしながら、オーラを強める。

 更にアロハシャツの男も、右手に赤いボールと青いボールを具現化した。

 

 それを見たラミナは、残った男に目を向ける。

 

「お前がアラクネーの駒か」

 

「……何を言っている?」

 

「さっき下でな、お前の仲間を殺したんやけどな。例のクモの刺青が、目の前で消えたんよ」

 

「……」

 

「それで分かったんは、アラクネーの能力は『その刺青を刻んだ奴の情報を共有する』ことが出来る。やったら、ここにおるんは護衛よりも連絡役やんな」

 

「っ……!」

 

 ラミナの言葉に、金髪スーツの男は一瞬眉を顰めてしまった。

 

「うるっせぇな、テメェよぉ!!」

 

 タンクトップの男が両腕を広げて、ラミナに飛び掛かってくる。

 ラミナは後ろに下がりながらベンズナイフを投擲し、軍服の男を狙う。

 

「!!」

 

 黒人の男は横に躱し、ナイフは机に突き刺さる。

 ラミナは【肢曲】で残像を生み出して、タンクトップ男の攻撃を躱す。

 

(強化系……分かりやすいやっちゃ)

 

 ラミナはタンクトップ男の背後に回り、金髪スーツ男に一瞬で詰め寄ってレイピアを素早く振り、額と胸を突き刺す。

 

「がっ!?」

 

「ちっ!」

 

「このアマァ!!」

 

 タンクトップ男が目を血走らせて、ラミナを振り返る。

 他の男達もすぐ近くに迫ったラミナに目を向けてしまう。

 

 そこをカルトが見逃すはずもなく、袖から手裏剣型に切った紙を指に挟んで取り出す。

 それにオーラを籠めて、アロハ男を目掛けて投擲する。

 

 紙手裏剣は本物のように猛スピードで風を切って飛び、アロハ男の首とこめかみに刺さる。

 

「げぁ……!?」

 

「ぐっ!」

 

 黒人の男がカルトから注意を逸らしたことに歯軋りする。しかし、直後額と胸に衝撃を感じて、意識を闇に落とした。

 

 【啄木鳥の啄ばみ】で黒人の男を殺したラミナは、指を鳴らしてベンズナイフと位置を入れ替えて、再びタンクトップ男の突撃を躱す。

 

「ああ!? くっそがぁ!! 避けんじゃねぇよぉ!!」

 

「なら、死ねや」

 

「がひゅっ!?」

 

 ラミナは苛立ちながら叫ぶタンクトップ男の額に向かって、レイピアを突いて【啄木鳥の啄ばみ】で風穴を空ける。

 タンクトップ男は目を見開いたまま、うつ伏せに崩れ落ちて死に絶える。

 

 あっという間に護衛が死んだことにマフィアのボスは、冷や汗を流して固まるしかなかった。

 

「上手いやないか、カルト」

 

「あれだけ鍛えられたんだから、これくらい出来るよ。全員動き遅かったし」

 

「マフィアの護衛なんてこんなもんや。こいつらはハンターやなくて、傭兵崩れやチンピラ上がりっちゅう感じやし」

 

 マフィアが抱える念使いなど、あくまで護衛でしかない。

 なので、滅多に所属を変えないため、腕が鈍っていることに気づかない連中が多くなる傾向にある。

 しかも、念使いを抱える組も少ないので、荒事になって一方的に終わってしまうので、自分の実力を勘違いする者も増える。

 

「さて、おっちゃん。アラクネーの居場所、知っとるか?」

 

「……知らん。一度ここで会ったが、それ以降はそいつを通しての連絡だ。俺はただお前を始末する手伝いを、マフィアンコミュニティーから命令されただけだ」

 

「やろなぁ。はぁ~……探すん面倒やなぁ。おおきに、ほなな」

 

「かっ!?」

 

 嘘かもしれないが、それを確かめる術はないし拷問も面倒なので、ラミナはため息を吐いてレイピアを振って、ボスの額に穴を空ける。

 武器を消したラミナは、金髪スーツの死体に近づいて、体を漁る。

 男のポケットから携帯を見つけて、中を確認する。しかし、着信は全て非通知で、電話帳には1つも番号は登録されていない。

 

「ちっ。やっぱ別の連絡方法がある、か……」

 

 すると、カルトの携帯が鳴る。

 

「……ゴトーから。監視カメラの処分は終わったって」

 

「そろそろ外の死体に誰か気づいて、警察が来るか。脱出して、裏手で合流しよか」

 

「分かった」

 

 カルトは素早くメールを返して、ラミナと共に脱出することにした。

 

 

 

 それとほぼ同時期。

 

「あや。殺されちゃったネ」

 

「……やはりリッパーに手を出すのは危険だったのでは?」

 

「殺られたのは下っ端だろ? 手足の爪がいくら切られようが問題ねぇよ」

 

「油断は出来ぬぞ。どうやら他にも何かがいるようだ」

 

 薄暗い部屋に4つの人影。

 

 部屋の中心には、白い長髪に赤いチャイナドレスを着た美女が、目を閉じて豪華な椅子に足を組んで座っている。

 【アラクネー】。パスイダ・タラチュネラだ。

 

 そして、彼女を囲むように幹部の男が立っている。

 

 パスイダを心配そうに見つめるキッチリとスーツを着た茶髪オールバックの30代くらいの男性。

 スーツを着崩して胸元を大きく露出したホスト風の紫パーマの20代後半の男性。

 そして、灰色の長髪を後ろで結び、口髭を生やした襟詰めのデールという民族衣装を着た壮年の男性。

 

 この3人がパスイダを支える幹部であり、【アラクネー】の一部でもある。

 

「他ぁ?」

 

「街に出張ってる奴らからの定期連絡が途絶え始めている」

 

「街のアチコチで、変なスーツ連中が暴れてるネ。かなりの手練れネ。【黒狗】の方は姿も見る前に殺されちゃったネ」

 

「黒狗にも襲撃が……!?」

 

「幻影旅団が揃ってんのか? あいつらってまだヨークシンにいるんじゃなかったのかよ? 転移系の能力者でもいんのか?」

 

「数が多いネ。それに情報の見た目と一致しないネ」

 

 パスイダは目を閉じたまま会話を続ける。

 

「連れてきた連中じゃ地力が違い過ぎて、武器出す間もないネ。奇襲失敗。作戦が裏目に出たネ」

 

 パスイダは目を開けて、小さくため息を吐く。

 

 ラミナの情報に懸賞金を懸けたことはバレていると考えていたパスイダ。

 ラミナの実力を過小評価をしていないパスイダは、本拠地で待ち構える事も出来た。

 

 しかし、同じくパスイダのことを過小評価していないラミナが、警戒していないわけはないと考えていた。

 

『最悪、幻影旅団を集めるかもしれないネ。そうなれば、被害はタラチュネラファミリーだけに留まらない可能性が高いネ』

 

 国そのものが崩壊する可能性がある。

 流石にラミナレベルの強者が10人以上揃われると、被害を食い止める余力はない。

 ヨークシンの情報を見る限りでは、1人殺すだけでもかなりの戦力消費を覚悟しなければならない。

 

 なので、奇襲を仕掛けるのが最善だと判断したのだが……。

 

「他にもあんな手練れを抱える仲間がいたなんてネ。流星街やプロハンターとは連絡を取っていないと思ったんだけどネ~」

 

「他の殺し屋……というわけでしょうか」

 

「多分ネ。……あの子供。もしかして……」

 

 パスイダは人差し指を顎に当てて考え込む。

 

「お嬢様?」

 

「……チェイツォン。ゾルディック家の資料を持ってくるネ」

 

「ゾルディック家……!? 承知しました」

 

 壮年の男であるチェイツォンは一瞬目を見開いて、すぐに頷いて動き出す。

 

「ラニョス、撤退準備。ここが襲撃される前提で動くネ」

 

「あいさ!」

 

「シュピネス。部下を暴れさせて、少しでも注意を周りに向けるネ。周囲を警戒するネ」

 

「は!」

 

 素早く指示を出し、それに従うラニョスとシュピネス。

 シュピネスは両手にサブマシンガンを具現化する。

 

 パスイダは目を瞑って、

 

『総員、武器を具現化。周囲警戒。目標捕捉次第、攻撃開始。周囲被害は無視。これより目標を伝えるネ』

 

 パスイダはそう言って、街に散らばる部下達にカルトやゴトー達の顔映像を送りつける。

 命令と伝言を受け取った部下達は、シュピネス同様サブマシンガンを具現化していく。

 

 パスイダの能力【百蜘蛛夜行(タランチュラ・ネスト)】。

 

 パスイダの血を混ぜた墨で『ハートのクモの刺青』を彫ったタラチュネラファミリーに所属する者の視覚と聴覚、記憶を共有し、互いに伝達が出来る。

 『ハートのクモの刺青』は【神字】が埋め込まれており、それによって彫った者のオーラを()()()()()()()()

 ただし、この能力でオーラを引き出された者は、四大行は使えるが()()()()()()()()()()()()。そして、死んだらその刺青が消える。

 

 

 シュピネス、ラニョス、チェイツォンの相互協力型能力【我らはお嬢の手足なり(ガンズ・パレード)】。

 

 3人で協力して作り上げた能力。

 『ハートのクモの刺青』を彫ったタラチュネラファミリーに所属する者に、3人が触れることで付与できる。

 『サブマシンガンを具現化』し、『標的を追尾する念弾を発射』し、『着弾直後、念弾を炎に変える』。

 サブマシンガンと念弾のオーラは、武器を使った者のオーラを消費し、弾数、威力、燃焼力は使用者のオーラ総量に依存する。

 

 

 この4人の能力を駆使して、タラチュネラファミリーは【アラクネー】として殺し屋業界に名を馳せてきた。

 もちろんパスイダには他にも能力を持っているし、シュピネス達も念弾の威力は部下が使うより数倍の威力がある。

 

 幻影旅団の『クモ』とは、また別の形の『クモ』。

 完全にパスイダを頭として、存在する集団である。

 

「やっぱり有象無象に依存するのも限界があるネ……」

 

「しかし……戦力を補充するにも……」

 

「そうネェ。リッパーや旅団に対抗できる奴なんか、そう簡単に集められないネェ」

 

 パスイダはため息を吐く。

 

「それにしても、リッパーがゾルディック家と関係を結んでいたとは……」

 

「一度狙われたって情報があったけどネ。まぁ、殺し屋同士だから、依頼が終われば遺恨は引きずらないって可能性もあるネ」

 

「それでもゾルディック家にわざわざ依頼を出したと?」

 

「……それは考えられないネ。だったら、旅団を集めた方が良いネ」

 

「確かに……」

 

「ゾルディック家と何らかの協定関係にある……。流石にそこは想定外ネ」

 

「お嬢!」

 

 そこにチェイツォンが戻ってきた。

 資料を受け取ったパスイダは家族構成のページを確認する。

 

「……やっぱりゾルディック家ネ。リッパーといた子供。ゾルディック家の末っ子ネ」

 

「なんと……。では、他にも……!?」

 

「いると考えて動かないと駄目ネ」

 

 パスイダは立ち上がって、歩き出す。

 その後ろにチェイツォンとシュピネスも付き従う。

 

「……けど、少しくらいお返ししないとネ。こっちも『クモ』としての意地を見せてやるネ」

 

 パスイダは不敵な笑みを浮かべて、反撃の準備を始めるのであった。

 

 


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