暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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お待たせしました(__)


#60 ホンモノ×ノ×アラクネー

 パスイダはサブマシンガンを構えて、ラミナに向けて発砲する。

 ラミナは舌打ちして横に跳ぶが、やはり念弾はラミナを追尾してくる。

 

「逃げれないネ!」

 

「んなこた、知っとる」

 

 ラミナはソードブレイカーを構えて、素早く振って迫る念弾を斬りつける。

 すると、念弾は霧散するように消えて、発火することもない。

 

「なっ!? またネ!?」

 

(【脆く儚い夢物語】でも問題なし。まぁ、念弾なんやから当然やろうけど……)

 

 ラミナは特に喜ぶことはない。

 何故なら、まだまだ大量の念弾が迫って来ているからだ。

 

(やっぱ数が多すぎる!)

 

 ラミナは両手の武器を消して、ハルバードを具現化する。

 

「『起動せよ』!」

 

 【不屈の要塞】を発動して、鎧を纏う。

 そして、方向転換して一気にパスイダへと迫る。

 背後や側面から念弾が襲い掛かるが、全て鎧に弾かれて霧散する。

 

「くっ!」

 

「ふっ!」

 

 パスイダは顔を顰めて後ろに下がり、ラミナがハルバードを連続で突き出す。

 パスイダは剣で弾きながら、後ろに下がり路地裏へと入り込み、ラミナとせめぎ合いながら移動する。

 

 あそこで戦い続けていれば、警察がすぐに駆けつけるからだ。

 別に殺しても問題ないのだが、目立ちすぎると後処理が面倒なのだ。

 ラミナもそれに否はないので、お互いに牽制しながら移動していった。

 

「疾ッ!!」

 

「ふぅ!!」

 

 パスイダは突きを繰り出し、ラミナはハルバードで逸らして右脚を振り上げる。それをパスイダは横に躱して、サブマシンガンを間近で発砲する。

 しかし、やはり通じない。

 

「ちぃ!」

 

「無駄や無駄」

 

「喧しい…ネッ!!」

 

 パスイダは再び剣を振るも、ラミナはハルバードで受け止める。

 しかし、直後ラミナは兜の左眉間付近に衝撃が走り、横に体が弾かれる。

 

「っ!?」

 

 ラミナは素早く脚を滑る様に動かして、体勢を立て直す。

 

「あや。これもそこまでのダメージないネ?」

 

 パスイダは僅かに目を見開く。

 パスイダの右半袖の裾から5本の糸が伸びており、糸の先には10cmほどの柳葉刀が繋がれていた。そして、左袖からも同じく5本の柳葉刀が現れており、それらが蛇の頭のようにパスイダの周囲をユラユラと浮かんでいた。

 

(操作系能力か……! クラピカの鎖のように糸で繋ぐことで操作系に全振りしとる……)

 

「さぁ……ここからが本番ネ!!」

 

 パスイダは好戦的な笑みを浮かべて剣を振り上げる。同時に両腕の柳葉刀も動き出して、ラミナに両側から襲い掛かる。

 ラミナは舌打ちをし、ハルバードを振り回して柳葉刀を弾き、パスイダに頭突きを繰り出すことで間合いを詰めて、剣の間合いを外す。

 

 パスイダは後ろに大きく仰け反って頭突きを躱す。ラミナは左脚を滑らせる様に振るい、足払いを繰り出す。

 両足を払われてバランスを崩したパスイダに、ラミナはハルバードを掬い上げるように片手で振り上げる。

 

 しかし、突如パスイダの体が宙に浮き上がり、ハルバードを躱した。

 

「!!」

 

「甘いネ」

 

 6本の柳葉刀が襲い掛かり、それはラミナはハルバードと左腕で弾く。

 

 そしてラミナの目に、4本の柳葉刀をビルの壁に突き刺して宙に体を持ち上げているパスイダの姿が映る。

 

 さらに、パスイダの両太腿からも新たにそれぞれ5本ずつの柳葉刀が現れていた。

 ビルの間にぶら下がっているその姿は、まさしく蜘蛛の魔物である。

 

「……なるほどな。それが【アラクネー】のホンマの由来か……」

 

「くふふふ。確か……そっちの『クモ』の手足は12本だったネ? アタイの手足は24本ネ。そっちよりも多いネ」

 

「手足が多かろうが、頭は1個やろ。それくらい大した問題ちゃうわ」

 

「そうかネ? じゃあ……味わうといいネ!!」

 

 パスイダはラミナに飛び掛かり、両脚の柳葉刀も遅いかかる。

 ラミナはハルバードを構えて、【肢曲】を使って残像を作りながら躱し、パスイダの左側に回り込もうとする。

 

ダダダ!!

 

 しかし、パスイダが発砲し、数発の念弾が本物のラミナを追尾する。

 

「っ! ちぃ!」

 

「くはははは!!」

 

 本物を見破ったパスイダはすかさず左腕と左脚の柳葉刀で襲い掛かり、右腕と右脚の柳葉刀を壁や地面に刺して、空中で体勢を変える。

 

(くそっ! 厄介なやっちゃな!)

 

 ラミナは顔を顰めて、ハルバードで5本ほど柳葉刀を叩き落とし、残りは鎧で受け止めたり、逸らしながらパスイダに強引に迫る。

 ラミナは右ストレートを繰り出し、パスイダは身を捩って受け流すように躱し、そのまま一回転してラミナの右顔に左蹴りを繰り出す。それを左腕で防御したラミナだが、左脚の柳葉刀3本が襲い掛かってくるのを視界の端で捉えて、右に跳ぶ。

 しかし、そこを狙っていたかのようにパスイダが右手で握る剣を振り下ろす。

 ラミナは左手だけでハルバードを回し、石突をパスイダの右肘を狙って掬い上げるように振り上げる。

 

 しかし、1本の柳葉刀が横から飛んできて、ハルバードの石突に突き刺さって軌道を逸らした。

 それを見た瞬間、ラミナはハルバードを手放して、左フックを繰り出して剣を殴り弾く。

 

 そして、左足でハルバードを蹴り上げて浮かし、右手で掴む。

 

「!!」

 

「ふっ!」

 

 短く掴んだハルバードを、ラミナはすかさず横振りする。

 パスイダは体を後ろに引きながら、上へと移動してラミナから距離を取る。

 パスイダの左脇腹から少量の血が噴き出す。

 

「ぐっ! ……ホント……全く気が抜けないネ……」

 

「こっちのセリフやわ、阿呆が……」

 

 互いに呼吸を整えて、攻めきれないことに苛立つ。

 しかし、パスイダが突如ニイィと笑みを浮かべる。

 

「けど、糸は張り終えたネ」

 

「あ? っ!!」

 

 一瞬訝しんだが、突如路地裏、ビルの窓、ビルの屋上にサブマシンガンを持った集団がラミナを囲むように姿を見せる。

 すぐに全員が銃口をラミナに向ける。

 

(しもた! 【絶】か!)

 

「くふふふ! アタイ達の能力、甘く見てたネ?」

 

 パスイダはラミナと戦いながら部下達に指示を送り、罠を張っていたのだ。

 【百蜘蛛夜行】でオーラを引き出された者達は四大行をもちろん修行しており、パスイダの指示で特に【絶】の特訓に力を入れていた。

 

 理由はまさにこの状況を作り出すためである。

 

 パスイダの部下には、『表立って動いて敵の注意を引き、罠へと追いやる【陽蜘蛛(ひぐも)】』と『【絶】で気配を消し、【陽蜘蛛】に追いやられてくる獲物を待ち構える【陰蜘蛛(かげぐも)】』の2つの部隊が存在する。

 

 【陰蜘蛛】は、パスイダが【陰蜘蛛】の名前を出して命令を出さない限り、所定位置から絶対に動かないように訓練されている。

 なので、今までラミナ達と戦闘をしていたのは全て【陽蜘蛛】の者達だったのだ。

 

 そして、罠にかかった獲物を全方位からの銃撃で食い潰す。

 

 『蜘蛛の魔物』のようなパスイダ個人の能力と、『組織全体を蜘蛛の目や手足』として動かす相互協力型能力。

 それが【アラクネー】の真の由来である。 

 

「さぁて、リッパー。その鎧は……この人数での全方位攻撃を防ぎ切れるかネ?」

 

 パスイダは凶悪な笑みを浮かべながら、左手に握るサブマシンガンの銃口をラミナに向ける。

 そして、

 

「撃てぇ!!」

 

 

ドバババババババババババババババババババ!!!!

 

 

 パスイダの号令と同時に全員が一斉射撃を開始する。

 雷の如き銃声が響き渡り、念弾が雨のように全方向からラミナに襲い掛かる。

 

(あかん!! ハルバードが耐えきれん!!)

 

 【不屈の要塞】の本体であるハルバードはオーラを弾けない。

 流石に豪雨とも言える念弾を躱し切れるわけはないし、ハルバードだけを守り切るなど出来はしない。

 

「くそが!!」

 

 ラミナはハルバードを消して、【不屈の要塞】を解除する。

 そして、ベンズナイフとブロードソードを具現化する。

 

 ラミナは背後を振り返りながらベンズナイフを投擲する。ナイフは猛スピードで飛び、念弾を掻い潜って背後にいた男の額を狙う。

 

「っ!?」

 

 男は目を見開くも、ギリギリでナイフを躱した。

 ラミナはすぐさま指を鳴らし、【妖精の悪戯】でナイフと入れ替わり、男の背後に現れる。そして、【一瞬の鎌鼬】で首を斬り飛ばす。

 

「なっ!? ぎゃっ!?」

 

 すぐ近くにいた構成員も一瞬で詰め寄って、首を斬り飛ばして殺す。

 その早業にパスイダや構成員達は目を見開く。

 

「っ!? 一瞬で……!?」

 

「くっ! 一体どれだけ能力持ってるネ……!? けど、念弾は追いかけるネ!!」

 

 パスイダは顔を顰めながら叫び、その言葉通り念弾は一斉に方向転換してラミナを追いかける。

 ラミナは指を鳴らして、斬り飛ばした男の頭とベンズナイフを入れ替える。

 そして、ビルの壁を駆け上がって、ビル半ばまで上がると宙に跳び出して、反対側のビルの窓から乗り出していた構成員に向かってベンズナイフを全力で投擲する。

 

「ぎっ!?」

 

 構成員はナイフが額に突き刺さって頭を跳ね上げ、後ろに仰け反って倒れて行く。

 念弾がギリギリまで迫っていたラミナは、上着を脱いで真下の念弾に投げつける。一番近くに迫っていた数発の念弾は上着に当たって燃え上がり、その炎で後続の念弾も炎を上げる。

 その隙に指を鳴らしてベンズナイフと入れ替わり、ビルの中に入り込む。そして、ベンズナイフを消す。

 

 タンクトップ姿になったラミナはククリ刀を具現化して、反対側のビルの屋上にいる構成員を狙って投擲する。

 

 炎の円盤となったククリ刀は、念弾をものともせずに猛スピードで飛び、屋上にいた男の上半身を縦に抉って通り過ぎる。

 

「うお!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 死んだ男の近くにいた構成員2人は悲鳴を上げて、炎の円盤に銃口を向ける。

 しかし、ラミナがククリ刀を消したことで、構成員達は能力の正体が分からずにさらに混乱するのだった。

 

 ビルに入り込んだラミナはブロードソードを消して、ハルバードを具現化する。

 そして、【不屈の要塞】を発動した直後、

 

 突如、ラミナを追尾していた念弾が方向を変えることなく、まっすぐ飛び始めた。

 

「あ?」

 

 ラミナは訝しみながらも、飛んで来た念弾を鎧で霧散させながら躱す。

 

 そして、外で念弾の変化を見ていたパスイダや構成員達は目を見開いていた。

 

「追尾が止まった!? シュピネスがやられたネ!?」

 

 念弾の追尾能力は、操作系であるシュピネスが担当していた。

 それが使えなくなったということは、シュピネスが死んだことに他ならない。

 

「くぅ……!!」

 

 パスイダは盛大に顔を顰める。

 そして、その機を逃すラミナではなかった。

 

 ラミナが窓から飛び出してきた。

 右手にはククリ刀を握っており、ラミナは屋上に残っていた構成員達目掛けて投げつけ、左手に具現化していたスローイングナイフで他の構成員達を狙う。

 

「ぎゃあ!?」

 

「ぐぇ!?」

 

「ぎ!?」

 

「くっ! 撃つネ!! リッパーを自由に動かすんじゃないネ!!」

 

 パスイダはすぐに気を持ち直して、指示を出す。

 それに構成員達も顔を引き締めて、銃撃を再開する。

 

(追尾能力が消えたんなら、ただの銃と大して変わらん!!)

 

 ラミナはそう判断して、念弾を軽やかに躱しながらスローイングナイフを投げて、構成員達の額に突き刺していく。

 しかし、パスイダの指令で街中に散っていた部下達が徐々に集まって来ていた。

  

 さらに銃声や炎、そして悲鳴で、野次馬が集まり、そして流石に警察も駆けつけてきたが、流れ念弾に巻き込まれる者達が続発し、戦場の周囲は大混乱に陥っていた。

 しかも、そこにサブマシンガンを持った者達も現れ、警察と銃撃戦になり、さらに混乱が大きくなっていく。

 

「くっ! (マズイネ……! 騒動が大きくなり過ぎてきてるネ……!)」

 

 パスイダは銃撃を続けながら、徐々に悪化していく状況に冷や汗が流れ始める。

 部下も駆けつけて来るよりも、殺されるペースの方が早い。

 しかも、部下が集まるのを期待できる状況ではない。サブマシンガンを消してから、ここに来ようにも周囲で銃撃戦にまでなっている状況で、警察が止めないわけはない。無理矢理突破しようものならば、やはり警察と戦うことになるはずだ。

 

 問題は撤退しようにも、結局周囲にいる警察や野次馬達をある程度蹴散らさなければならないことだ。

 パスイダだけならば、簡単に突破できるが、流石に部下達全員が逃げ切れるとは思えない。

 

 タラチュネラファミリーであることがバレない可能性は低い。しかも、この状況では情報屋も警察やプロハンターに情報を売る可能性がある。

 現状、ラミナやゾルディック家が暴れた証拠は少ない。

 なので、最優先で捜査の手が向けられるのは、間違いなくタラチュネラファミリーとなるはずだ。

 もちろんたかが警察くらいならば、国王に言えば止められるだろうが、あまり国王に借りを作るべきではないし、タラチュネラファミリーの活動にも影響が出るだろう。

 

(けど、このまま戦い続けても……!)

 

 パスイダが撤退すべきか悩んでいると、今度はサブマシンガンそのものが消えた。

 

「!!? チェイツォンまで……!?」

 

「銃が消えたなぁ」

 

「っ!?」

 

「ほな……」

 

 ラミナは全員のサブマシンガンが消え、それに慌てている様子からパスイダ達にとって想定外な状況であることを見抜く。

 そして、標的をパスイダのみに定めて、右手にブロードソード、左手にソードブレイカーを具現化して、一気にパスイダへと迫る。

 

「反撃開始や」

 

「ちぃ!! 舐めるでないネェ!!」

 

 パスイダは吠えて、四肢の柳葉刀を操って地面に下り立ち、剣を構える。

 そして、鞭のように糸をうねらせ、高速でラミナに飛ばしながら、パスイダも斬りかかる。

 ラミナも避けずに突っ込み、

 

「「疾ィ!!」」

 

ギギギギギギギギギイィン!!

 

 【一瞬の鎌鼬】で嵐のように迫る柳葉刀や剣を弾き落とす。

 パスイダは靴先から仕込んでいた刃を出して、左脚を振り上げて蹴りを繰り出す。

 ラミナは顔を後ろに仰け反らせて躱し、同じく左脚を振り上げる。パスイダは左脚を振り上げた勢いのまま、体を仰け反らしてバク転し、今度は右脚を蹴り上げる。

 ラミナは左脚を無理矢理右に方向転換して、パスイダの右足の刃を躱し、右脚だけで踏み込んでパスイダに詰め寄る。

 

 パスイダは両腕の柳葉刀を2本ずつ左右斜め後方に飛ばして壁に突き刺し、体を浮かしながら体を起こす。

 そして、両脚の柳葉刀を操りながら、両足を鋭く連続で突き出して靴先の刃でも攻撃する。

 

 ラミナは両腕を高速で振り、柳葉刀と足の刃を弾く。

 

「!?」

 

 パスイダは後ろに下がりながら、目を見開く。

 その目には靴先の刃が折れており、更に糸に繋がっているはずの柳葉刀が6本ほど斬り落とされていた。

 

 ラミナは【脆く儚い夢物語】で糸を切りつけて能力を解除し、そこを【一瞬の鎌鼬】で糸を切っていたのだ。

 両足も斬り落とすつもりだったが、パスイダはラミナの両手を見事に狙ってきたので、刃を弾くのが精いっぱいだった。

 

 ラミナはソードブレイカーを鋭く突き出し、パスイダの腹部を狙う。

 パスイダは左脚の残った2本の柳葉刀を壁に突き刺して、体を横に持ち上げて躱す。そして、下側になった右手の剣を掬い上げるように振り上げる。

 ラミナはブロードソードを振ろうとするが、突如右腕が動かなくなる。

 

「っ!?」

 

 目を向けると、右腕に糸が絡まっていた。左腕を動かそうとしたが、同じく糸が絡まって動きにくくなっていた。

 

(くそっ!)

 

 ラミナは歯軋りして、体を左に傾けながら出来るかぎり仰け反らせる。

 

「ぐっ!?」

 

 右肩に鋭い痛みが走り、血が噴き出す。

 ラミナは顔を顰めるも、すぐさま左脚を全力で振り上げてパスイダの右脇腹に蹴りを叩き込む。

 

「が!? っ! しゃあ!!」

 

 パスイダも顔を顰めながら、右腕と右脚の柳葉刀を飛ばす。

 ラミナは両手の武器を消して、右手にハルバードを具現化する。

 

「『起動せよ』!」

 

 【不屈の要塞】を発動して鎧を纏って、両腕の糸を吹き飛ばしながら柳葉刀を鎧で受け止める。  

 

「ぐっ! らぁ!!」

 

「ぶっ!?」

 

 ラミナは衝撃で後ろに下がりながら、片腕でハルバードの石突を振り上げてパスイダの右頬を打ち上げる。

 

 パスイダは体を一回転させながら後ろに吹き飛ぶも、すぐさま四肢の柳葉刀を操って地面や壁に刺して、体勢を整える。

 ラミナはハルバードを消し、【不屈の要塞】を解除する。

 そして、スローイングナイフを両手に4本ずつ具現化して、連続で両腕を振るって投擲する。

 

 パスイダは剣や柳葉刀で叩き落としたり、躱わしていたが、ラミナが最後に放った1本がパスイダの左上腕に突き刺さった。

 

「ぐっ!! っ! しまった!」

 

 パスイダは痛みに呻くが、ナイフが刺さった位置からラミナの狙いに気づき、左上腕に目を向ける。

 左上腕に付けていた柳葉刀を繋いでいた糸を固定していたリングが壊され、腕から外れていた。

 

「まずは1個」

 

「っ! ツァアアア!!」

 

 パスイダは再び吠えながら左腕のナイフを抜き捨て、ラミナに飛び掛かろうとすると、

 

「『飛び交え』」

 

 ラミナが呟くと、地面に散らばっていたスローイングナイフ8本が浮かび上がり、独りでにパスイダに襲い掛かる。

 

「なっ!?」

 

「お返しや」

 

 パスイダは弾かれたように跳び上がり、残った柳葉刀を使ってビルを登り縦横無尽に動く。

 しかし、スローイングナイフの群れは、パスイダ達が使っていた念弾のようにパスイダを追尾する。

 パスイダはスローイングナイフを弾くが、スローイングナイフはすぐに再び飛び上がる。

 

 ラミナはレイピアを具現化して、レイピアを構える。

 

 それを見逃さなかったパスイダは、更にスピードを上げる。

 

「【啄木鳥の啄ばみ(ピアス・ビーク)】」

 

 ラミナは目を細めて、素早く突き出す。

 直後パスイダは右上腕に痛みを感じ、右腕のリングが外れる。

 

「!? (ホントにどれだけの能力を……!? それよりもマズイネ! 両脚だけじゃバランスが……!?)」

 

「遅い」

 

「ああああ!?」

 

 パスイダは両脚の糸を操って地面に下りようとするが、その前にラミナがレイピアを連続で突きを放つ。

 両太腿に痛みが走り、両脚のリングも壊される。

 

 パスイダは移動手段を失って、地面に落ちて行く。

 迫ってくるスローイングナイフを剣で弾きながら地面に下り立ち、すぐに動き回ってレイピアの剣筋を定めさせないようにする。

 スローイングナイフから逃げ回るというのもある。

 四肢から血を流しているが、それを気にしている場合ではない。

 

「……流石やな。カルトにも見習わせたいわ」

 

 ラミナはパスイダの実力を素直に称賛する。

 

 今までのパスイダの戦い方を考えれば、系統は操作系の可能性が高い。

 部下を運用する能力とサブマシンガンを造り出す相互協力型能力だけでも十分だろう。なのに、それに加えて自身の強さを高めるのも怠っていない。

 

(クロロが見たら、仲間にしたがったかもしれんなぁ)

 

 ラミナはそう考えたが、すぐに気を締めて直してパスイダに向かって飛び出す。

 スローイングナイフを消し、ブロードソードを構える。

 

 パスイダはスピードを落とす事なく動き回り、ラミナとの距離を保とうとする。

 それを見たラミナは両手の武器を消す。

 

 パスイダはそれに訝しむが、直後ラミナが拳を構えて【肢曲】で残像を生み出しながら迫ってくる。

 

「ちぃ!」

 

 パスイダは舌打ちをして、更に距離を取ろうとするが、直後背中に衝撃が走った。

 

「があ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 パスイダの背後で右拳を突き出していた。

 そして、再び一瞬でパスイダの前に移動して、回転しながら屈み、立ち上がりながら右後ろ回し蹴りをパスイダの顎を狙って繰り出す。

 

 パスイダはギリギリで両腕でガードするが、耐えきれずに両腕を上に弾かれ、顎を蹴り上げられて上空に打ち上げられる。

 

「っっ!!?」

 

「終わりだよ」

 

 ラミナはパスイダの真下を踊る様にステップを踏みながら通り過ぎて背後に回り、両腕を胸の前で交えて両手を鈎爪のように曲げながら両腕を引き絞る。

 

 パスイダは頭の上で両腕が何かに縛り付けられて、両脚も縛られ、首と腰にも何かが締め付けてくるのを感じながら空中に固定された。

 

「……!!? (これは……オーラの……糸!?)」

 

「【親愛なる姉様との絆(アラクネ・クイーン)】。アタシの奥の手さ」

 

 ラミナは両手に力を入れながら、背を向けたまま言う。

 パスイダは首と腰の締め付けが徐々に強まっていくのを感じ、己の結末を悟る。

 

「悪いけどさ……。この能力と名前に誓って、あんたに負けるわけにはいかないんだよ。本望だろ? 【アラクネー】」

 

「……はっ。……ク…ソ……くらえ……ネ……」

 

「あっそ。……じゃあね」

 

 ラミナは両手を握り締め、両腕を力強く広げる。

 

 背後で折れる音と潰れる音が響く。

 

 ラミナは能力を解除して、そのまま歩き出す。

 

 ドシャッと地面に落ちる音がしたが、ラミナは振り返る事なく歩き続ける。

 

 ラミナは短刀を具現化して姿を消し、現場から離れる。

 

 1kmほど離れた所で能力を解除する。

 

「はぁ……もう出てきてええんちゃうか?」

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、虚空に向かって声を掛ける。

 すると、上から人影が下りてくる。

 

 ゼノにカルト達である。

 

「少し手こずったの」

 

「うっさいわ」

 

「くくく! まぁ、あの能力の組み合わせは中々に厄介じゃったと思うがの」

 

「はぁ~……あんたの前ではあんまり能力見せたぁなかったんやけどなぁ」

 

 ラミナは再びため息を吐く。

 そして、カルトに顔を向ける。

 

「なんや大人しくしとったな。手ぇ出してくると思っとったけど」

 

「……ボクじゃ足手纏いになりそうだったから……」

 

 カルトは悔し気に眉を顰めながら言う。

 

 カルトは実際乱入する気であの場まで行ったが、ラミナとパスイダの動きを見て、自分が入れる戦いではないことを思い知らされた。

 必死に動きを観察して脳内シミュレーションをしたが、柳葉刀の動きや2人の動きを追いきれず、自分ではすぐに負けると理解した。

 

 手数自体は少ないように見えたが、それは互いに僅かな動きや視線で牽制していたからであることも理解すること()出来た。

 どれだけ見えない攻防があったかまでは分からなかったが。

 

「まぁ、あれくらい動けるようになるんが理想やな~」

 

「……分かってる」

 

「ラミナ様、車を近くに呼んでおります」

 

「おおきに。さっさと離れよか。クロロも呼ばなあかんし」

 

「それに関しましては、部下が運転してこの街を目指しております。ですので、この街を抜けた先で合流するように手配しております」

 

「マジで? 助かるわ~」

 

 ラミナはゴトーの有能さに感謝して、車に向かう。

 

 そして、警察が混乱している間に、街から抜け出したのであった。 

 

 




ええ……。パスイダさんは少しもったいなかった気がしてならない。

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