暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#66 フタリ×ノ×シショウ

 謹賀新年。

 年も明けて、1月1日。

 

 ラミナ達は今日も、二手に分かれて除念師探しをしていた。

 もちろん全く進展はなかった。

 

「……1回クロロの様子見て来よか……。年越しまで放置してしもたし」

 

「それがいいかもね。時間かかりそうだし。パク達にはアタシが伝えとくよ」

 

 完全に放置しているクロロの様子を見に行くことにした。

 それにマチも賛同し、ラミナは金のカードをマチに渡す。

 

 そして『交信』のカードを使い、シャルナークと通信する。

 

『どうした?』

 

「そっちはどうや?」

 

『今、33枚。ランクが低いから交渉には使えないかもな』

 

「まぁ、しゃあないわな。で、こっちはやっぱ中々引っかからんでな。一度、外に出てクロロの様子でも見に行こうと思とるんやけどな。『離脱』持ってへん?」

 

『いや、持ってない。だから、港で署長倒してチケットを手に入れるしかないよ』

 

「あぁ……倒したらええんか。なら、楽勝やな。おおきに」

 

『外に出るとフリーポケットのカードは無くなるから。呪文カードとかは預けときなよ』

 

「分かっとる」

 

 通信を終え、ラミナは『再来』のカードのみを残して、他のカードをカルトに渡す。

 

「なんでボク?」

 

「呪文カードについては、お前の方が色々知っとるやろ?」

 

「まぁ、話は聞いてたけど……」

 

「別に使うこともないし大丈夫やろ。で、うちがおらん間はマチ姉達に修行つけてもらい」

 

「え゛」

 

 カルトは頬を引きつらせて、マチを見る。

 マチは腕を組んで顔を顰めて、

 

「別に殺したりしないよ。『団員同士のマジ切れはご法度』。アタシ達は裏切りが確定しない限り、仲間内では殺し合いはしない」

 

「……」

 

「ま、手加減しても勝手に死んだら、それは知らないけどね」

 

「………」

 

「まぁ、最初は【発】と武器無しでやらせてもらえや。それなら、そう簡単には死なんやろ」

 

「……ホント?」

 

「お前が気ぃ抜かんかったら、大丈夫やと思うで」

 

「……」

 

 カルトは眉間に皺を寄せて黙り込み、『ホントに大丈夫なの!?』という思いを込めてラミナを睨んでいる。

 ラミナはその視線に苦笑するが、更に嫌な現実を叩きつける。

 

「ちなみにこっちにおるメンバーやと、マチ姉が一番力強いで。うちよりもな」

 

「え゛」

 

「逆にノブナガ達はうちよりも力は弱いでな。やから、しっかりと防御すれば殴られたくらいで死にゃあせん」

 

 カルトは呆然と目を見開いて、マチに目を向ける。

 マチは顔を顰めて、ラミナを睨む。

 

「ちょっと」

 

「事実やろ? まぁ、腕相撲で……やけどな」

 

「……腕相撲か……」

 

 カルトは腕相撲ということに思わずホッとするが、それをマチとラミナは呆れた目で見つめていた。

 

 腕相撲とはいえ、ラミナやノブナガ達より力が強いという事実は変わらないし、それが実戦に影響しないわけがない。

 

「……本当に大丈夫なの? この子」

 

「まぁ、そこらへんの現実を教えてやって。クロロが念を使えんから、実践訓練がうちとばっかやったからなぁ」

 

「なるほどね。了解」

 

「ほな、行ってくるわ」

 

「ああ」

 

「『再来』オン! マサドラへ!」

 

 ラミナは呪文カードを使用して、マサドラへ飛ぶ。

 マサドラの入り口の前に着地して、そこから港へと向かう予定である。

 

「さて、まずは情報屋でもう一度港の場所を聞くか」

 

 地図はマチ達に預けている。

 港の場所は暗記してはいるが、思い違いをしていないかを確認はしておくべきである。

 情報屋で場所を確認して、簡単に食べられる果物を購入する。

 

 そして、港を目指そうとマサドラを出た時、

 

「あ!! ラミナ!?」

 

「あ?」

 

 突如背後から名前を呼ばれて、足を止めるラミナ。

 振り返るとそこにいたのは、ゴンとビスケだった。

 

「げ……!?」

 

「なんでここにいるの!?」

 

 ラミナは顔を引きつかせて、ゴンは驚きに目を見開いたままラミナに訊ねる。

 ビスケは一歩後ろに下がって、ラミナを観察し始めていた。

 

(ふぅん。この子が……。確かにパッと見ただけでもかなりの強さを持ってるだわね。そこらへんの奴らじゃあ手も足も出ないだろうね)

 

 ビスケはラミナの実力をある程度見抜いていた。

 

「ラミナは今クロロといるんじゃなかったの?」

 

「まぁ、まだ一緒におるで」

 

「え? けど、ここには念を使えないと……」

 

「ゲームの外で待っとるだけや。旅の途中でこのゲームを見っけたから、試しに入ってきただけや。下見ってやつやな」

 

 サラッと嘘を混ぜ込むラミナ。

 しかし、ほとんど事実でもあるので、特に困ることはない。

 

 ラミナの言葉にゴンは僅かに顔を顰めて、

 

「もしかして、それって奪ったゲーム?」

 

「いや、闇市で見つけただけや」

 

「そっか。なら、いいけど……」

 

「そっちこそ、キルアとコンビ解消して彼女でも作ったんか?」

 

「違うよ。キルアは今、ゲームを出てハンター試験を受けに行ってるんだ。こっちはビスケって言って――」

 

「初めまして! ビスケと言います!」

 

 ビスケは猫を被り、胸の前で両手を組んで可愛らしく挨拶をする。

 それをゴンは呆れたように見る。

 しかし、ラミナはビスケを鋭い目つきで見据える。

 

「……お前、見た目通りの年齢ちゃうやろ。知り合いにおる見た目クソガキの爺と同じ気配しとる」

 

「!?」

 

 ラミナの指摘にビスケは目を見開く。

 しかし、すぐに落ち着きを取り戻して、猫を被るのを止める。

 

「ふん、流石だわね。あまり見破られたことないんだけどね」

 

「似たような奴知らんかったら、騙されとったやろな。……まぁ、それでもキルアよりも身のこなしが上な時点で、警戒しかせんけどな」

 

「……まいったわね。本当に……」

 

 ビスケは両手を腰に当てて、ため息を吐く。

 気を付けているつもりではあったが、やはり体に染みついているものなので、無意識に動きに出てしまうのだ。

 

 ラミナは一切の油断なくビスケを見据えており、腕を組んで立ってはいるが、先ほどまでと違って隙がほとんど無くなった。

 そして、そのまま鋭い目つきでゴンへと視線だけを移す。

 

(自然に纏っとるオーラの静けさがヨークシンの時と段違いやな。9月からこの中におったとしても、成長が早すぎる……)

 

 ゴンのオーラを見ただけでも成長していることが分かる。

 しかし、あれから半年も経っていない。

 いくらなんでも、成長速度が異常だとラミナは思った。まだ念を教えてから1年も経っていないというのに。

 

 ゴンとキルアに教えたことはあくまで基礎の訓練法のみ。

 しかも、それらは全て自主的に、かつ1人でやれるものばかりである。

 しかし、【硬】はともかく【流】は1人で修行するには限界があり、【周】には道具が必要となる。

 

 【流】に関しては、ラミナは簡単なやり方と『組み手をやれ』として言っていない。

 いくらなんでもゴンとキルアだけでは、短期間で完璧にやるの難しいはずだ。

 

 つまり、指導した誰かがいる可能性が高い。

 そして、その可能性があるのは、ただ1人。

 

 ラミナはビスケに視線を戻して、

 

「あんたがゴンとキルアを鍛えとるんか?」

 

「まぁね。と言っても、一番重要な基礎はあんたがしっかりと鍛えてたからね。そこまで苦労してないし、この子達の才能に驚かされてばかりだわさ」

 

「なるほど。それならもううちがおらんでも大丈夫そうやな。これからもあんたが鍛えたって。どうせ系統別の修行もしとるんやろ?」

 

「ああ、始めてるよ」

 

「ねぇ、ラミナ! ビスケと一緒に修行つけてよ!! もうすぐキルアも戻ってくるしさ!」

 

 ゴンがラミナに共に行動しようと声を掛ける。

 もちろんゴンはラミナを旅団に戻そうとするのを止めようとしているのではなく、単純にラミナに修行をつけてもらいたいだけである。

 

 それにラミナは呆れ、

 

「ド阿呆。流派が同じならともかく、全く関係ない2人が同時に教えるとかいがみ合う可能性しかないわ。そもそも、うちがお前に教えたんはキルアのついで。ちゃんとした師匠が出来たんなら、もうお前に教える理由がうちにはない。キルアに関しても、もうゾルディック家からオッケー貰とるから、キルアにも教える理由ないでな」

 

「でも……」

 

「ええ加減にせぇ。うちはもうお前らに教える気はない。これからはそいつにちゃんと教えてもらいや」

 

 ラミナは未だ渋るゴンにそう言って、背を向ける。

 

「まぁ、うちはこれから港に行って、ここを出るけどな」

 

「え?」

 

「言うたやろ? 下見やって。ゲームクリアに本格的に挑むんやったら、クロロはもちろん、他の連中にも声をかけなあかんしな」

 

「え!? でも、クロロはクラピカの鎖で旅団とは一緒にいれないはずじゃあ……」

 

「うちを介せば命令出せるでな。別にリーダーとして動けんわけやないで」

 

「あ……そっか」

 

「ほなな」

 

「あ、待って!」

 

 ゴンが呼び止めるも、ラミナは勢いよく飛び出して森の中へと飛び込む。

 そして、短刀を具現化して、姿と気配を消す。

 

 ゴンは手を伸ばすも、あっという間に気配が消えたことで追いかけることが出来ず、寂しさを顔に浮かべて見送るしか出来なかった。

 

「ラミナ……」

 

 ビスケは小さくため息を吐いて、

 

(ビノールトと言い、ゴンの善悪の基準が良く分からないわねぇ。確かにあいつは根っからの悪人ではなさそうだけど。それでも殺し屋で幻影旅団なんだけどねぇ……)

 

 もちろん、決してそれが悪いわけではない。

 ビノールトは最終的に自首すると言ったから、ビスケも見逃した。

 

 しかし、ラミナや幻影旅団が簡単に自首や投降するとは思えない。

 

(というより、とことん殺し合う未来しかないだろうね。さっきのあいつの目……。ゴン達と殺し合うことすらも覚悟をしてるわさ。……いや、というより……()()()()()()()()()()()()()()()()…って感じだわね。光に当たることを考えてもいない)

 

 絶対に『己の業』の後始末を他者に押し付ける気もなく、清算する気もない。

 許されることも、償うことも、望んでいない。

 そんな覚悟を決めている者の目をしていた。

 

 今のままでは、確実にゴンとキルアにとっては望まぬ結末しかやってこないだろう。

 なので、ラミナからすれば、今後会わないことを望んでいるはずだ。先ほどの突き放すような言葉からも、それが感じ取れていた。

 

 ゴンもそれを感じているはずだが、今までの関わりから『もしもの時』の覚悟は中々持てないのだろう。

 

(全く厄介なことだわさ。ネテロはどう考えてるのかねぇ。副会長派が騒いでそうだけど……)

 

 プロハンターにして殺し屋であり、幻影旅団に入団した者。

 

 どう考えても、ハンター十か条改訂論者を刺激する。

 ネテロはそんな動きも面白がるのだろうが。

 

 しかもビスケはずっとゲームにいたので知らないが、ラミナとジンが繋がりを持ち、ラミナがシングルハンターになるかもしれないことを知れば、更に頭を抱えるだろう。

 

「ほら、ゴン。今は修行に専念だわさ」

 

「うん……」

 

 ゴンはまだラミナが消えた森の方向を見つめたまま頷くのだった。

 

 

 

 1時間後、ラミナは港に到着した。

 

「それにしても、随分なベテラン捕まえよったなぁ。しかも、このゲームの中でとは……。あの女やったら、このゲームの活かし方も分かっとるやろうし、そらぁ強ぅなるわな。……カルトはもう少し本腰入れてやらなあかんか? いや……カルトは今のペースが限界か。これ以上は体の成長に悪影響やろうし」

 

 10歳のカルトにとって、今以上体を酷使するのは少々問題である。

 すでに筋肉などは同い年の子供から見れば異常レベルなのだから。

 

「今は念と体の動かし方をメインに鍛えてやるべきやな。実戦経験も積ませてやらなあかんし」

 

 カルトの修行の方針を決め直したラミナは、港を管理している所長がいるところに向かう。

 無理難題を吹っ掛けられたが、無視して首をへし折る。

 すると、所長の死体がカードに変わる。

 

 『通行チケット』と表示されていることを確認して、ラミナはすぐさまチケットを具現化して使用する。

 船乗り場に入って部屋に案内されると、そこはゲームに入った時と同じような部屋だった。

 

「いらっしゃい」

 

 中にはゲームに入った時とそっくりな女がいた。

 

「島から出るのですね? それでは行き先を決めてください。選択できる港は50以上ありますので、希望の場所を選択してください」

 

「ん? ゲームを始めた場所には戻れへんの?」

 

「いいえ、戻れます。ゲーム開始場所を選択されますか?」

 

「ああ」

 

「かしこまりました。島の外に出ると、フリーポケットのカードのデータが消滅してしまいますが、よろしいですか?」

 

「かまへん」

 

「それでは、またのお越しをお待ちしております」

 

 女性がパソコンを操作すると、ラミナはその場から姿を消した。

 

 そして、気づくとゲームを始めた部屋の中にいた。

 

「戻ったのか」

 

 クロロの声がして振り返ると、

 

 そこに何故かジンがいた。

 

「……なんでおんねん」

 

「ネテロと話がついたから、お前の新しいハンター証届けに来たんだよ」

 

「新しい?」

 

「おう。シングルハンターのな。ほれ、これだ」

 

 ジンがポケットからカードを取り出して、ラミナに投げ渡す。

 ラミナは受け取って、確認するとハンター協会のマークが書かれていた面のデザインが変わっていた。

 

「これがシングルハンターなんか?」

 

「そうだ。で、元々の奴、くれねぇか。もう使えねぇし、俺がハンター協会に渡しとく」

 

「ええんか?」

 

「いいも何も、そのために来たんだよ」

 

「って、忘れとった。どうやってここを?」

 

「メール送ったら、ここの住所が送られてきたぜ」

 

「俺が送った」

 

「おい」

 

 まさかのクロロが呼び寄せていた。

 ラミナはすかさずツッコむが、クロロは肩を竦める。

 

「新しいライセンスは早めに貰っておいた方がいいと思ってな」

 

「……はぁ。もうええわ。んで、2人でなにしとってん?」

 

「お前が纏めたアルサー王伝説の話をしてた。もうすぐ発表するらしいが、大分大騒ぎになってるみたいだぞ?」

 

「そりゃあ、アルサー王、モーグレッド、ランスロッドは重要人物トップ3とも言えるからな。そいつらの記憶が判明したとか、歴史家からすりゃあ商売あがったりだろうよ」

 

「よう信じられたな?」

 

「そこは俺の名前でごり押しした。まぁ、当然だが全く矛盾点がねぇんだ。下手な歴史家連中が推測してた伝承より、説得力はあるよな」

 

「ふぅん」

 

 ラミナはジンに元のハンター証を渡して、部屋の中を見渡す。

 案の定、部屋の隅にはカップ麺やファーストフード、ピザなどの空箱がゴミ袋に詰められており、酒瓶もたんまりとゴミ袋に溜められていた。

 

「……はぁ……。まぁ、お前に自炊を期待するんは無理やんな」

 

「外食の方が美味いからな」

 

「食材買ってくるわ。年も明けたしな。ジンも食っていくか?」

 

「おう。食う食う」

 

「ほな、待っとき」

 

 冷蔵庫の中を確認して、必要な食材や調味料を買いに行く。

 さっさと買い物を済ませたラミナは、さっさと部屋に戻ってすぐに調理の準備を始める。

 

「ジン以外で、なんかあったか?」

 

「何もないな。ジンが来なかったら、退屈で死んでたかもしれん。そっちはどうだ?」

 

「残念ながら、情報すら見つかっとらんな。あのゲームじゃ除念能力なんぞ必要なさそうやでな」

 

「いらねぇだろうな。四大行と応用技をしっかりと修得すれば、十分クリアできるレベルに設定してあるからな。そんな【発】に依存するシナリオ作ったら、それこそ誰もクリアできねぇし」

 

「やろうな。っちゅうわけで、まだまだ時間かかりそうやわ」

 

「そうか……」

 

「で、テーブル片付けてや」

 

 クロロとジンは言われるがままに、テーブルの上に広げられた資料や本を片付ける。

 部屋中にいい匂いが広がっていき、クロロとジンはそのまま酒を飲み始める。

 

「そういや、ジン」

 

「ん?」

 

「ゴンがおったぞ」

 

「げっ」

 

「げって、オイ」

 

「俺のこと言ってねぇだろうな?」

 

「言うかい。そんなこと言うたら、付きまとわれるやないか」

 

「ああ……。お前ら、ヨークシンで敵対したんだっけか。ゾルディックのガキとまだ一緒にいんのか?」

 

「おるみたいやで。今、ビスケってプロハンターに修行付けて貰とるみたいやったわ」

 

「ビスケ……。あのババアか」

 

「やっぱ有名なん? あの女」

 

「ああ。ダブルハンターだ。本当の姿はゴリラみてぇにマッチョらしいぜ? ネテロと同じ流派のはずで、かなり弟子がいるはずだぜ」

 

「ふぅん」

 

 やはりかなりの実力者のようだ。

 ならば、やはりゴンとキルアの指導はビスケに全て押し付けた方がいいだろうとラミナは判断した。

 

 そして、テーブルの上に次々と料理を並べて行く。

 

「おお! こりゃあ、美味そうだな」

 

「テンプラとかも作ったるから、待っときや」

 

「それは楽しみだ」

 

 クロロとジンは早速食べ始める。

 

 ラミナはテンプラやアヒルの丸焼き、魚の煮物などを調理しながら、ジンに訊ねる。

 

「なんで、ゴンに会うん嫌がっとるんや? 自分のガキなんやろ?」

 

「あん? 別にいいだろ? それに父親っつったって、父親らしいこと何もしてねぇしな。ぶっちゃけ、なんで俺に会いてぇのか分からん」

 

「そらぁ、好奇心やないか? アロンダイト見せてもらいたいって言うたお前と、好奇心全開のゴン。そっくりやぞ?」

 

「……」

 

 ジンはラミナの言葉に、顔を顰めながら料理を食べ続ける。

 その様子を見ていたラミナは苦笑して、

 

(気にはしとるけど、放置した負い目もあって素直に会えんっちゅう奴か?)

 

「……ま、あいつもプロハンターだ。俺1人くらい、自力で見つけて貰わねぇとな」

 

「……まだまだ会うんは先になりそうやなぁ。まぁ、ええか。ほれ、テンプラとアヒル」

 

 ラミナは呆れながら、新しい料理を2人の前に出す。

 そして、空いた皿を片付ける。

 

 クロロは黙って料理に集中しており、ジンもこれ以上ゴンの話題は嫌なのか黙って料理を食べ続ける。

 ラミナは味見と称して、チョコチョコつまみ食いしていた。

 その後も料理を作って、全ての調理を終えた時、

 

「とりあえず、これで全部や」

 

「十分だ」

 

「マジで美味いな。お前って結構多才なんだな」

 

「料理は慣れれば誰でもできるやろ」

 

 ラミナは皿を片付けながら言う。

 すると、ジンは何かを思い出したようで、

 

「そういえば、メンチとか言う美食ハンターがお前を探し回ってたぞ。ネテロの所にも聞いてきたらしい。他にも何人かお前のことを訊ねてきたハンターがいるらしいぜ」

 

「あ~……まぁ、メンチは一度ハンターとして仕事引き受けたことがあるでな。他のはモラウとかちゃうか?」

 

「そうそう、そんな名前もいた。まぁ、爺は何も言わなかったらしいがな。どうせ、お前の事も自分で調べてるだろ」

 

「……ネテロはゾルディック家やアルケイデスと繋がっとるからなぁ。そこから情報貰っとるやろなぁ」

 

「だろうな。だから、爺はお前を問題視する気はねぇと思うぜ。爺はな」

 

「その下におる、うちを狙う連中も問題視せんっちゅうことやな?」

 

「ああ。一応、お前はハンター十か条【その4】に引っ掻かってるって言えちまうからな」

 

「まぁ、もうあんまハンターとして動く気ないからええねんけどな」

 

「俺は気にしねぇから、時々依頼出してもいいか? なんだったら、旅団で動いてくれてもいいぜ」

 

「そこはクロロと話をつけといてんか。旅団を動かすとなると、流石にうちじゃ決めれん」

 

「内容によるがな。報酬をしっかりとくれるなら構わない」

 

「サンキュ」

 

「軽いな、オイ」

 

 簡単に話を纏めたクロロとジンに呆れるラミナ。

 

 そして、そのまま4日ほど現実で過ごし、色々とクロロが過ごしやすいようにしてから、またゲームに戻るのだった。

 

 

 

 ラミナがゲームに戻る数日前。

 

 キルアは【ドーレ港】近くの一本杉の下。

 魔獣キリコ一家の家でのんびりと、ハンター試験まで過ごしていた。

 

 キルアはビスケから言われている日課の修行を終えると、携帯を取り出して電話をかける。

 

『……はい』

 

「あ、もしもし、ゴトー? 俺、キルア」

 

『これはこれはキルア様。お久しぶりです。お元気そうで何よりでございます』

 

「そっちもな。で、ミルキにまた繋いでくんね?」

 

『承知しました』

 

 そして、10秒ほど経過し、

 

『なんだよ、キル。まだグリードアイランド探してんのか?』

 

「そっちはもう見つけた。今回は別件。兄貴さ、ヨーヨー作れねぇ? 特殊合金で電気よく通す奴がいいな」

 

『ヨーヨー? また変な物だな』

 

「まぁまぁ。で? できる?」

 

『余裕に決まってるだろ。そんな玩具。見返りは金か?』

 

「ああ。グリードアイランドの情報なんて、もういらないだろ?」

 

『ふんっ、いらないね。じゃあ、出来たらいつもの方法で送る』

 

「サンキュ」

 

『じゃあなって、そういえばキル。お前、婚約者のこと調べてるか?』

 

「ラミナ? いんや、最近ずっとゲームの中にいたし。俺、ハンターサイト見れないし」

 

 そして何より、見れたとしても情報料を払えない。

 今のキルアの残高は1000万もない。

 

『じゃあ、特別に教えといてやるよ』

 

「なんかあったのか?」

 

『あいつ、今カルトと一緒にいるぜ。んで、カルトが幻影旅団に入った』

 

「はぁ!?」

 

『さらにデカいマフィアの実働部隊を1個潰してさ。うちとの繋がりもバレて、あいつ今懸賞金20億のA級首だぜ』

 

 キルアはミルキからの情報に唖然とする。

 僅か数か月で、恐ろしいことになっていた。

 

「懸賞金はともかく、なんでカルトが旅団に入ってんだよ?」

 

『俺が知るかよ。けど、ママがなんか喜んでたし。爺ちゃんも一緒に仕事したみたいで、飯の時パパ達と楽しく話してたぜ。カルトの奴、お前の婚約者にかなり鍛えられてるらしい。それが狙いなんじゃねぇの?』

 

「……あいつがラミナに?」

 

 キルアは顔を顰める。

 カルトの事は今まで興味がなかったので、あまり深く接したことはない。

 その弟が、婚約者なのはともかく、自分の師とも言えるラミナに鍛えられているのは()()()()気に入らなかった。

 

「あいつも念を覚えたのか?」

 

『覚えたも何も。カルトはお前より先に念を覚えてるよ』

 

「は?」

 

『うちで念の事知らなかったのは、お前だけだよ。カルトはお前が家出する前から【発】まで修得してたぜ。だから、今は念の基礎や暗殺術とかをお前の婚約者に鍛えて貰ってるらしいぜ。あ、言っとくけど、お前には場所を教えるなってさ。まぁ、俺は知らないけど。ゴトー達に聞いても無駄だと思うぞ』

 

「……!!」

 

 キルアは歯軋りをして、怒りを抑える。

 

 過保護のためなのか、それとも他の理由なのか。

 あれだけ期待していると言っておきながら、何故自分には教えずにカルトには教えているのか。

 未熟者扱いされていたようで、それがムカつくキルアだった。

 

 しかし、すぐに気持ちを落ち着かせる。

 

「……どっちにしろ、今ラミナがどこにいるか知らないし。俺も今、別の人に鍛えて貰ってるから、別にいいよ」

 

『あっそ。じゃ、出来たら届けるから。ちゃんと金払えよ』

 

「分かってる。じゃあな」

 

 電話を切ったキルアは、ため息を吐く。

 

「半年も経ってないのに……。何してんだよ、あいつは……!」

 

 懸賞金20億のA級首で、幻影旅団とゾルディック家と繋がりがある殺し屋。

 どう考えても、賞金首ハンターの絶好のターゲットになっている。

 

「クラピカももう知ってるんだろうな……。くそっ……厄介なことになってきたかもな」

 

 キルアはクラピカに電話をかける。

 

『……キルアか?』

 

「クラピカ、今大丈夫か?」

 

『10分くらいならば問題ない』

 

「そっか。……ラミナのこと、聞いた?」

 

『……懸賞金が上がったことか?』

 

「やっぱ調べてるよな。今、どこにいるか知ってる?」

 

『いや……ハンターサイトもそれから更新されていない。時折調べてはいるが、今は完全に行方をくらませた』

 

「そっか……」

 

『ゾルディック家の方が知ってるのではないか? お前の弟が一緒にいるようだが?』

 

「……教えてくれねぇんだよ」

 

『……なるほど』

 

「……ラミナを捕まえる気?」

 

『……いや、今の所そのつもりはない。こっちも色々と問題が起きていてな。ラミナや旅団に手を割く余裕はない』

 

「そっか……。クロロの鎖はまだ刺さったまま?」

 

『ああ。外された場合、私はそれを知ることが出来る。だから、まだ旅団は完全復活は出来ないはずだ』

 

「了解。またなんか分かったら、適当にメール入れる」

 

『ああ、すまない。礼を言う。ではな』

 

 通話を切られて、キルアは携帯を仕舞う。

 

(……とりあえず、最悪のパターンは避けられそうだな。今、動かれたら間に合わないかもしれなかったからな)

 

 キルアは小さくホッと息を吐く。

 しかし、結局ラミナとの関係をどうするかの答えは全く出ない。

 

 敵になりたくはないが、味方にもなれない。

 

 適度な距離感を保てばいいのだが、その距離感が難しすぎる。

 

「……あ~、やめやめ! 今はハンター試験とグリードアイランドに集中!」

 

 とりあえず、問題を先送りにするキルアだった。

 

 ゲームに戻ったら、ゴンから衝撃情報を知らされるとも知らずに。

 

 


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