暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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日間ランキングに拙作が!

ありがとうございます!
これからも頑張ります!

それと6話での一次試験開始時間を『18時』に修正しました(__)
そのつもりで書いていたのですが、読み直していたら12時になってました。すいません。


#7 ブッソウ×ナ×ゴッコアソビ

 一次試験開始から約6時間経過。

 走行距離は約80km。

 

 ようやく1人が脱落したのだが、スピードを上げていたラミナ達はもちろん知る由もない。

 もっとも、気づいた者達もすぐに「最初の脱落者にならなくて良かった」とホッとするどころではなくなった。

 

「か、階段……!?」

 

 目の前に現れたのは先が見えない階段。かなりの勾配があり、段差も決して低くない。

 それが果てしなく続いていた。

 

 だと言うのに、

 

「さて、ちょっとペースを上げますよ」

 

 サトツは歩くような感じのまま2段飛ばしで登っていく。

 それに受験者達は愕然としながらも必死に食らいついて行く。

 

 ラミナはゴン、キルアと並びながら登り、徐々に先頭に近づいてきていた。

 

「こりゃあ、ここで結構脱落するやろなぁ」

 

「そうか?」

 

「足を上げるのも辛くなっとった奴には、この階段は地獄やろ。しかもスピードも上がりよったし、一瞬でも力が抜けてしもたら、もう立ち上がれんやろうな。それに階段に入ってから道が狭ぁなったし、精神的にも圧迫感感じてペース乱される奴も出るやろぉな」

 

「ふ~ん」

 

 キルアは不思議そうな声を上げる。

 キルアには今も全く辛くないので、ラミナの推測が理解出来ないのだ。

 ラミナはキルアの反応に苦笑して、チラリとゴンに目を向けると、流石の野生児もじんわりと汗を掻き始めていた。

 

「クラピカとレオリオは大丈夫かな?」

 

「クラピカは大丈夫やろ。レオリオはクラピカの挑発に感化されて頑張るんちゃうか?」

 

 と言っても、ラミナはクラピカとレオリオが一緒に走っているのかどうかまでは知らないのだが。

 しかし、なんとなくクラピカの感じからレオリオの近くにいるのではないかと思っているだけだ。

 

 そして、そんなこんなしている間に3人はサトツの真後ろに来てしまった。

 

「いつの間にか一番前に来ちゃったね」

 

「うん。だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよな~」

 

「せやなぁ」

 

「……」

 

 ゴンはキルアとラミナが未だに汗を掻くどころか息すら乱れてないことに気づいた。

 

「結構ハンター試験も楽勝かもな」

 

「うちが言うんもあれやけどな。うちらは身体面においてはプロハンターと大差ないと思うから、ここらへんは期待せん方がええと思うで?」

 

「あ、やっぱり?」

 

「うちやお前がガキの頃から仕込まれるもんなんざ、基本ハンター証ゲットしてから学ぶ奴も多いと思うで? すでに習得しとるうちらからすれば、そりゃつまらんやろ」

 

「だよなぁ」

 

「そもそもこの試験はハンターの基礎能力を試すもんやしな。お前が楽しくなるんはハンターになった後からちゃうか?」

 

「ん~……そう言われても、やりたいことなんてあんまないんだよなぁ。面白そうだから受けただけだし」

 

 キルアとラミナは雑談しながら走る。

 その会話はゴンはもちろん、サトツも聞いていた。

 

(ふむ。今年の新人は中々面白いですね。まぁ、彼女の方は新人と言うべきか迷いますが)

 

 もちろんサトツもラミナの【纏】を見抜いている。

 【纏】の静けさから、ラミナがかなりの実戦と経験を積んでいることが窺えた。

 今も真後ろにいるのに、ラミナの気配を時々失いそうになる。キルアと揃って足音を出さないのも拍車をかけている。

 

(間違いなく裏社会のプロ。下手したら私でも勝てないかもしれませんねぇ)

 

 いい意味でも悪い意味でも要注意しておく人物。

 それがサトツが抱いたラミナの印象だった。

 

 その後も数時間走り続ける。

 

(もう11時間になるで……)

 

 携帯で時間を確認したラミナは流石にうんざりしてきた。

 一晩、地下で走り続けるのは少し予想外だった。

 その時、

 

「あ! 明かりだ!」

 

 ゴンが先を指差す。

 ようやく太陽の明かりを目にして、まだ走り続けている受験生達は流石にホッとした。

 

「ふぅ。ようやく薄暗い地下からおさらばだぜ」

 

 坊主頭の忍が気持ちを切り替えるように言う。

 

 先頭にいたラミナ、ゴン、キルアはサトツに続いて外に出る。

 

「お~」

 

「うわ~」

 

「マジか~い」

 

 キルアとゴンは目の前の光景に素直に感嘆し、ラミナは呆れた声を上げることしか出来なかった。

 後に続いて出てきた者達も、その光景を見て絶句する。

 

 目の前に広がるのは、広大過ぎる森と湿原だった。

 

「【ヌメーレ湿原】通称『詐欺師の塒』。二次試験会場はここを通って行かねばなりません」

 

「こりゃあ、まだまだかかりそうやなぁ」

 

 ラミナは右手を目の上に当てて地平線を見つめるが、建物など一切見えなかった。

 

「この湿原にしかいない珍奇な動物達。その多くが人間をも欺いて食料にしようとする狡猾で貪欲な生き物です。十分注意して付いてきてください。騙されると死にますよ」

 

 サトツの言葉が言い終わると同時に、背後の出口が閉じていった。

 

「ああ……ま、待ってくれ……!」

 

 出口前で気を抜いてしまったのか、倒れていた男が手を伸ばすがもちろん誰も助けないし、シャッターも止まらない。

 シャッターは完全に閉じ、これで残りは331名となった。

 

「それでは参ります。騙されることのないように、しっかりと付いてきてください」

 

「はん! 騙されるのが分かってて騙されるわけねぇだろ」

 

 レオリオが強気に言い返した時、

 

「嘘だ! そいつは嘘をついている!」

 

『!?』

 

 出口の陰から突如、ボロボロの男が何かを引きずりながら現れる。

 そして、男はサトツを指差す。

 

「そいつは偽物だ!! 試験官じゃない! 俺が本物の試験官だ!」

 

 男の言葉に受験生達はサトツと男を交互に見て困惑の表情を浮かべる。

 

「偽物!? どういうことだ!?」

 

「じゃあ、こいつは一体……!?」

 

 レオリオと忍は完全に困惑している。

 クラピカは冷静に男とサトツを交互に見て、真偽を見極めようとしている。

 

「これを見ろ!」

 

 男が引きずっていたものを前に出す。

 それはサトツにそっくりな顔をした細身の猿だった。猿の顔を見た受験者達は衝撃を受けて、サトツを見る。

 サトツは変わらず涼しい顔をして立っている。

 

「こいつはヌメーレ湿原にいる人面猿! こいつは新鮮な人肉を好む。しかし、手足が細く非常に力が弱い。そこで自ら人に扮し、言葉巧みに人間を湿原に連れ込み、他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!」

 

 ラミナは男の話を呆れながら聞いていた。

 

「ツッコミどころしかないなぁ……」

 

「ラミナはどっちが本物か分かったの?」

 

 いつの間にかクラピカとレオリオの隣に立っていたラミナに、同じくいつの間にか横にいたゴンが訊ねる。

 もちろんゴンの横には退屈そうなキルアもいた。

 ラミナはポケットに両手を突っ込んで、面倒そうにゴンの質問に答える。

 

「もし、サトツはんが偽モンなら、そもそもここに来るまで待っとるんはおかしいやろ。とっとと地下に追いかけてくりゃあええ。そうすりゃあ、まだ真実味出たやろうけどな」

 

「けど、あの怪我だぜ?」

 

「試験官はプロハンターなんやろ? 試験会場に選ばれた場所の危険性を知っとって騙されるんやったら、どっちにしろ試験官失格ちゃうか?」

 

「それは……そうかもしれないが……」

 

「それにサトツはんは力が弱いとは思えんでな。あれだけのスピード出しとって。まぁ、一番は……」

 

「一番は?」

 

「あの男の歯と()()()()()()()()猿の歯。見比べてみ?」

 

「「「歯?」」」

 

 ラミナの言葉にゴン、クラピカ、レオリオ、そして近くで聞いていた受験生達は男と猿の歯を見比べる。

 すぐにゴン、クラピカ、そして忍がラミナの言っていることに気づいた。

 

「あ!」

 

「なるほどな」

 

「そういうことか」

 

「なんだよ。どういうことだよ?」

 

「あの男と人面猿の歯の生え方が全く同じなんだよ」

 

「なにぃ!?」

 

 クラピカの言葉にレオリオが慌て、もう一度確認する。

 そして、確かに男の犬歯と人面猿の犬歯が全く同じであることがレオリオにも見えた。

 

「マジかよ……」

 

「まぁ、実力からしてレオリオよりも弱いで? そんなんが試験官っちゅうことはないやろ」

 

「ぐっ……!」

 

 レオリオは一瞬イラっとしたが、レオリオ自身戦いがそこまで得意ではない自覚もある。なので、そんな自分よりも弱いというのは確かにあり得ないと思った。ムカつくことはムカつくが。

 

 その時、トランプが空を切り、男の顔にサクっと数枚突き刺さる。

 男は目を見開いて、そのまま仰向けに倒れる。

 

『!!』

 

 ラミナは呆れた顔でヒソカに目を向け、そしてサトツに顔を向ける。

 サトツの両手指にはトランプが数枚収まっており、死んだ男同様ヒソカに攻撃されたことが窺えた。

 

「くっく♦ なるほどなるほど♣」

 

 ヒソカはトランプを弄りながら、楽しそうに笑う。

 

「……無茶しおるなぁ」

 

 ラミナは呆れながら人面猿に目を向けて、素早く右腕を振る。

 

「ギェッ!?」

 

 死んだ男の傍で死んだふりをしていた人面猿が起き上がろうとしていたが、その額にスローイングナイフが突き刺さり、男の隣で死ぬ。

 もちろんラミナが投げたものだ。

 

「やっぱりいいねぇ♥ 君♠」

 

「キモいわ」

 

「残念♣ けど、これで決定♦ そっちが本物だね♠」

 

「分かってやったくせに、よう言うわ」

 

「……お前、ホントはヒソカと仲いいんじゃねぇの?」

 

「あ?」

 

「ナンデモナイッス!」

 

 余計なことを言ったレオリオを割と本気で睨みつけて黙らせる。

 ラミナはため息を吐いて、サトツに顔を向ける。

 

「あんなんがよっけおるっちゅうことやな」

 

「その通りです。これから通る場所には更に巧妙な罠を仕掛ける動物もいます。故に私から離れないように、と言ったのです」

 

「……なるほど……」

 

 レオリオはゴクリと唾をのんで、これから行く場所の危険性を理解した。

 

「そして、もう1つ。次からはいかなる理由でも私への攻撃は試験官への反逆とみなし、即失格とします。よろしいですね?」

 

「はいはい♦」

 

 ヒソカは肩を竦める。

 サトツは小さく頷いて、クルリと反転する。

 

「それでは参りましょうか。二次試験会場へ」

 

 その言葉で受験生達の顔が再び引き締まる。

 サトツが歩くように走り始め、受験生達もそれに続く。

 

「ちっ! またマラソンの始まりかよ!」

 

「くっ! 下がかなりぬかるんでやがる!」

 

 湿原とあって、地面はかなりぬかるんでいた。

 ただでさえ疲れている体にはさらに堪える。

 

「ここが本番みたいやな」

 

「そのようだな」

 

「この足場だけでも厄介なのに、これで騙されないように備えろとか無茶にも程があるぜ!」

 

 ラミナの言葉にクラピカが頷き、レオリオは愚痴りながら必死に体に鞭を打つ。

 

(……ヒソカの殺気がどんどん密かに大きくなってきとるな。器用なやっちゃ。やっぱ旅団メンバーになれるだけはあるわ)

 

 ヒソカから離れるように移動を始めるラミナ。

 更に霧が出始めており、どんどん視界が悪くなっていく。

 

「こら、マズイ」

 

 ラミナはスピードを上げてサトツの姿を見失わないようにする。

 ヒソカが後方に下がったのも前に出たい理由でもあるが。

 

「レオリオー! クラピカー! キルアが前に来た方がいいってさー!!」

 

「ドアホー! 行けるならとっくに行っとるわい!!」

 

「そこをなんとかー!!」

 

「ムリだっちゅうのー!!」

 

 いきなりゴンが後方にいるクラピカとレオリオに呼びかける。

 

(キルアもヒソカの殺気に気づきよったか。っ! 霧が……)

 

 キルアが忠告した理由を正確に理解したラミナは、さらに霧が濃くなっていくことに目を細める。

 

「なるほど。この霧もこの湿原に住む連中に有利に働くんやな」

 

『ぎゃあああ!!』

 

 突如後方から悲鳴が聞こえてきた。

 しかし、その方向は通って来た道から逸れていた。

 

「なんで、あんなところから悲鳴が!?」

 

「騙されたんだろ」

 

「おい、いつのまにか俺達の後ろにいた連中が消えたぜ」

 

「マジか。確か100人はいたはずだぜ」

 

 ゴンが驚き、キルアが冷静に言う。

 他の受験者が背後にいたはずの受験者達がごっそりといなくなったことに目を見開く。

 

(こりゃ、ヒソカのやりたい放題やな。……クラピカとレオリオも騙されたか)

 

 近くにいる集団の中にクラピカとレオリオの姿はない。

 その時、

 

『ってぇーーー!!』

 

 レオリオと思われる叫び声が耳に届く。

 その瞬間、ゴンが身を翻して来た道を戻り始めた。

 

「ゴン!!」

 

 キルアが呼び止めるが、ゴンは止まることなく霧の中に姿を消す。

 

「……やれやれ。そう簡単にやられるたぁ思わんけど……」

 

 ラミナはため息を吐いて、ゴンの後を追う。

 

「ああいう気持ちええ純粋さっちゅうんはもったいなぁ感じるなぁ。暗殺者やしとると尚更、な」

 

 誰ともなくそんな言い訳をしながら、ラミナはスピードを上げるのであった。

 

 

 

 

 

 時はちょっと戻る。

 

 レオリオとクラピカは濃い霧の中を走っていたが、突如周囲から悲鳴がひっきりなしに上がり始めていた。

 

「ちぃ! 知らないうちにパニックに巻き込まれちまったぜ……!」

 

「どうやら後方集団が途中から別の方向に誘導されてしまったようだな」

 

 レオリオとクラピカは動くに動けない状況だった。

 もはや先頭集団がどの方向にいるのかも分からず、動こうにもあっちこっちから悲鳴や人間のものではない声が響き渡っている。

 下手に動けば、その中の仲間入りになってしまうだろうことは容易に想像できる。

 

 更にレオリオは武器をゴンが担いでいるトランクの中に入れたままだった。

 今のレオリオには自衛手段がないに等しい状況だった。

 

 その時、霧の中から何かが飛んで来た。

 

「ぎゃあ!?」

 

「がっ!」

 

「ぐっ!」

 

 2人の近くにいた受験者達から悲鳴が上がり、血が噴き出す。

 クラピカはギリギリで気づいて、木刀を抜いて叩き落とす。しかし、レオリオは避けることも防ぐことも出来ず、左腕に鋭い痛みが走る。

 

「ってぇーーー!!」

 

 叫びながら目を向けると、刺さっていたのはなんとトランプだった。

 レオリオはそのような攻撃手段を取る者は1人しか思い浮かばなかった。

 

 トランプが飛んで来た方向に目を向けると、霧の中に人影が浮かび上がる。

 それは2人の想像通り、トランプを弄りながら不気味に笑っているヒソカだった。

 

「てめぇ……なにしやがる!!」

 

「くくく♥ 試験官ごっこ♠」

 

「なんだと……」

 

「二次試験くらいまでは大人しくしておこうかと思ってたけど、一次試験があまりにも退屈でさぁ♦ 選考作業を手伝おうかと思ってね♣ 僕が君達を判定してあげるよ♠」

 

 ヒソカは周囲にいる受験者達を見渡しながら宣う。

 

「判定ぇ? はっ。馬鹿め! この霧だぜ? 一度試験官からはぐれたら最後、どこに向かったか分からない本隊を見つけ出すなんて不可能だぜ!」

 

 受験者の1人がやけになったのか、ヒソカを小馬鹿にしたように笑って嘲る。

 

「つまりお前も取り残された不合格者なんだ―きょ!?」

 

 小馬鹿にした男は額にトランプが突き刺さって言い切る前に息絶える。

 

「失礼だなぁ♠ 君と一緒にするなよ♦ 奇術師に不可能はないのさ♥」

 

 ヒソカは余裕を保ったまま自信たっぷりに言う。

 すると、受験者達は武器を構えてヒソカを囲む。

 

「殺人狂め! 貴様などハンターになる資格はねーぜ!」

 

「二度と試験を受けれないようにしてやる……!」

 

 20人近くに囲まれたヒソカだが、表情は全く変わらない。

 それどころか、

 

「そうだなぁ~……君達相手なら、この1枚で十分かな♣」

 

 と、1枚のトランプを出して自信たっぷりに言い切った。

 

「ほざけぇ!!」

 

 それを挑発と受け取った受験者達は一斉に攻撃を仕掛ける。

 しかし、ヒソカは涼しい顔で躱し、さらに本当にトランプ1枚で急所を斬り裂いて殺していく。恐ろしいのが、ヒソカは全て喉か顔への一撃で受験者達を殺していくことだった。

 

「くっくっく……あっはっはっはぁーー♥!!」

 

 高らかに笑いながら、また命を奪う。

 ようやく現実を理解した受験者達は逃げ出そうとするが誰一人逃げきれず、10分と経たずにクラピカ、レオリオ、角刈り頭の男の3人を残して全滅した。

 

「君達全員不合格だね♠」

 

 トランプに付いた血を振り払って、クラピカ達に向く。

 

「残りは君達3人だけ♦」

 

 

「もう1人追加や」

 

 

「「「!!」」」

 

 ヒソカの背後に人影が現れて、ヒソカの頭に蹴りを放つ。

 ヒソカは大きく仰け反って躱し、そのままバク転して距離を取る。

 攻撃を仕掛けた人影は追撃はせずに、クラピカ達の前に移動する。

 

「ラミナ!」

 

「間におうたみたいやな」

 

 ラミナはヒソカから目を離さずにクラピカ達に声を掛ける。

 ヒソカはラミナの登場に笑みを深める。

 

「これはこれは♣ もしかして、君が相手をしてくれるのかい?」

 

「……まぁ、しゃあないか。少し気晴らしに付き合ったるわ」

 

「それは嬉しいねぇ♥」

 

「言っとくけど……」

 

 ラミナはフッと姿を消し、ヒソカの真横に右拳を構えた状態で移動する。

 

「組み手気分やからな!!」

 

「十分♠」

 

 ヒソカは半身になってラミナの右ストレートを躱し、トランプを仕舞う。ヒソカは左アッパーを放つが、ラミナは右手で払い退けて、そのまま左後ろ回し蹴りを放つ。それをヒソカは右腕で逸らして、さらに右脚で足払いを仕掛ける。ラミナはヒソカの足を踏みつけようとし、ヒソカは足払いを中断して、再び左アッパーを放つ。

 

 ラミナは軽く仰け反って躱し、カウンター気味に連続で鋭い拳を放つ。ヒソカは全て両手で払い落し、左肘を鋭く突き出す。右腕でガードしたラミナは後ろに下がりながら、しゃがんで足払いを振り抜く。バク転で躱したヒソカはすぐに高速で飛び出し、ラミナに詰め寄って蹴り上げを放ってきた。

 

 それをラミナは何とヒソカの蹴り出された脚の上に片足で跳び乗って、もう一方の脚でヒソカの顔目掛けて膝蹴りを放つ。

 ヒソカは両腕でガードする。ラミナはヒソカの両肩を掴み、腕と腹筋の力のみで逆立ちをして飛び上がる。そして、体を強く捻って空中回し蹴りをヒソカの後頭部を狙って繰り出す。

 ヒソカは体を前に倒して躱し、そのまま右脚を振り上げる。ラミナは左腕でヒソカの脚を弾き、距離を取る。

 

「ふぅ~……やっぱ強いなぁ。躱すんで精一杯や」

 

「くくく♦ よく言うよ♠」

 

 息を整えて両手を腰に当てながら軽口を言うラミナに、ヒソカは上機嫌に笑う。

 

 2人の戦いを眺めていたクラピカ達は次元の違いに呆然とするしかなかった。

 

「……ラミナの奴、あんなに強かったのかよ……」

 

「ああ。だが、今も恐らく様子見のようなものだろう」

 

「マジか!?」

 

「2人の攻防に全く殺気を感じない。2人は本気で気晴らし気分で戦っているんだ」

 

 あの攻防がお遊びだという事実に、クラピカとレオリオは冷や汗を流す。

 すると、もう1人の男が2人に声を掛ける。

 

「おい! 今の内にさっさと逃げるぞ!」

 

「けどよ……」

 

「俺達じゃ邪魔になるだけだ。あの女がいくら強かろうが、いつ標的が俺達に変わるか分からないんだぞ!」

 

「彼の言うとおりだ、レオリオ。それにラミナがここに来てくれたのが私達の為ならば尚更生き残らなければならない」

 

「……くそっ!」

 

 レオリオは悔し気に舌打ちをする。

 

「行くぞ」

 

 そう言うと、男が身を翻して走り出す。

 クラピカとレオリオも後に続いて走り出し、ラミナとヒソカは横目でそれを見送る。

 

「……しもた。方向伝えてへん」

 

 ラミナはクラピカ達に本隊がいる方向を伝えるのを忘れていたことを思い出した。

 ヒソカは肩を竦めて笑う。

 

「くくくく♠ それは残念♥ さぁ、もうちょっと付き合ってもらおうかな♦」

 

「……そろそろええやろ」

 

「邪魔が入らない少ない機会だろ? 楽しめるだけ楽しまないとねぇ♣」

 

 そう言うと、ヒソカは再びラミナに殴りかかってきた。

 ラミナは舌打ちして拳を受け止め、殴り合いを再開する。

 

 レオリオは少し走って足を止める。

 

「レオリオ?」

 

「……やっぱ我慢出来ねぇ」

 

「レオリオ!」

 

 レオリオはクラピカの声を無視をして、近くに転がっていた武器を手にして引き返し始めた。

 

「レオリオ!!」

 

「ちぃ! 馬鹿が!」

 

 クラピカも慌ててレオリオを追いかけ、残った男は2人を見捨ててそのまま走り去る。

 レオリオは戦っているヒソカとラミナを見つけて、武器を構えて一気に迫る。

 

「うおりゃあああ!!」

 

「おや?」

 

「レオリオ!? なんしとるんや!!」

 

「うるっせぇ!! こちとらやられっぱなしで、しかも同い年の女に庇われたまんまでガマンできるほど、気ぃ長くねぇんだよーー!!」

 

 レオリオは叫びながら武器を構えて、ヒソカに攻めかかる。

 

「ん~、いい顔だ♦」

 

「ちぃ!」

 

「おっと♣」

 

「ぐぅ!」

 

 ラミナは顔を顰めて殴りかかるが、ヒソカは一瞬だけ【硬】を発動して裏拳を繰り出す。ラミナは目を見開いて【堅】を発動してガードするが、大きく後ろに弾き飛ばされる。

 

 その隙にレオリオが攻撃を仕掛けるが、ヒソカは素早くレオリオの背後に回る。

 

「っ!」

 

「ちぃ!! (あかん。間に合わへん!)」

 

 ラミナは剣を作り出そうとするが、ヒソカの攻撃の方が速いと悟り舌打ちをする。

 

 その時、霧の中から黒い玉が飛んできて、ヒソカの額に直撃する。

 

「「「!!?」」」

 

 ラミナとレオリオ、そしてクラピカは目を見開いて、玉が飛んで来た方向に目を向ける。

 そこには釣竿を振り被ったゴンの姿があった。

 

「ゴン!?」

 

「なんちゅうタイミングで……」

 

 ゴンは当たると思っていなかったのか、呆然と固まっている。

 ヒソカは平然とゴンに顔を向ける。

 

「やるね、ボウヤ♣」

 

 ゴンはビクッとして後退る。

 本能的にヒソカの危険さを感じ取ったようだ。

 

「釣り竿? 面白い武器だね♥ ちょっと見せてよ♣」

 

「テメェの相手は俺だ!!」

 

「っ! 阿呆!!」

 

 ヒソカの興味がゴンへと移り、レオリオがそうはさせまいと再び武器を振り被る。

 それにラミナが怒鳴りながら右腕を振る。

 

 しかし、その前にヒソカの拳がレオリオの頬に叩き込まれる。

 レオリオは仰け反って吹っ飛びそうになった瞬間、レオリオの腰にワイヤーが巻き付き、引っ張られる。

 

「え!?」

 

「……へぇ♥」

 

 レオリオを助けようとしたゴンは驚いて足を止め、ヒソカは笑みを浮かべながらラミナに顔を向ける。

 ラミナは飛んで来たレオリオを受け止めて肩に担ぐ。ワイヤーは右袖の中に戻っていく。

 

「もうここまでにしぃや。満足しとるんやろ?」

 

「くく♦ そうだね♣ 君達は合格だよ♥」

 

 ヒソカは満足げに笑みを浮かべて頷く。

 そして、すぐ近くにいたゴンに目を向けて、屈んで顔を近づける。

 

「ん~~……君も面白そうな子だ♠ いいハンターになりなよ♥」

 

 ヒソカは立ち上がって歩き出す。

 

「それじゃあ、彼は任せていいかい?」

 

「……まぁ、ええわ。お前に担がせるよりは安心するでな」

 

「酷いなぁ♦ じゃあ、二次試験会場で♣」

 

 ラミナはヒソカが消えていくのを見届けて、ゴンの元に歩み寄る。

 クラピカも駆け寄ってきて、ゴンに声を掛ける。

 

「ゴン! 無事か!?」

 

「……うん。何もされてないよ。レオリオは?」

 

「気絶しとるだけや。顔も腕も見た目より酷ぉないで」

 

「よかった……」

 

「安心するんは二次試験会場に着いてからにしぃ。早よ行くで」

 

「うん!」

 

「道は分かるのか?」

 

「大丈夫や。それにヒソカの気配も追えるでな」

 

「……流石だな」

 

「それも着いてからにしぃ。飛ばすで、しっかりついてきぃや」

 

「分かった!」

 

「ああ」

 

 ラミナはレオリオを担いだまま走り出す。

 

 ゴン達も後に続き、3人は出来る限り全速力で二次試験会場を目指すのだった。

 

 


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