暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
ラミナはゴン達を鋭い目で見据えている。
(フィンクス達の事がバレたか?)
それにしては『交信』も使わずに突撃してくるなど不用心にも程がある。
下手したら、一瞬で抑え込まれていた可能性があった。
「そんで? 知らん顔が増えたみたいやけど、今更何の用やねん?」
ラミナは鋭く見据えたまま、ゴン達に問いを投げかける。
ゴン達はラミナが放つ殺気まではいかないも喉を絞めつけるような圧に冷や汗を流しながら、何とか口を開く。
「聞きたいことと話があるんだ……」
「聞きたいこと、なぁ……」
「お前、下見でここに来たんだろ? なんでまだここにいるんだよ?」
ラミナはキルアの問いに呆れ、腰に両手を当てる。
「下見が終わってここにおるんやから、仕事に決まっとるやろが」
「……旅団がここに来てるの?」
「いんや。他の団員はまだ別の仕事中。何人かは一度ここに来たことあるけどな。ここで待ち合わせしとる段階や。このゲームは便利やんな。ゲームさえ持っとれば、好きな港に飛べるし。まぁ、携帯が使えんのは面倒やけど」
「……」
キルアはラミナの言葉の真偽を見極めようと眉間に皺を寄せて考え込む。
しかし、やはり全く分からなかった。
「……クロロの除念は諦めたのかよ?」
「んなわけないやろ。けど、除念師なんぞそう簡単に見つかるもんやない。ハンター協会でさえ公に認めとる除念師は1人。他は見事に雲隠れ。探す言うても手掛かりはもう無いでな。やから、仕事しながら探すことにしただけや」
「……」
再びキルアは考え込む。
それを見たラミナは、
(別に嘘ちゃうしな。疑いは持っても、確信は持てんやろ)
「んで、もう1個の話っちゅうんは?」
ラミナはこれ以上今の話題を続ける必要はないと判断して、もう1つの方に話題を移すことにした。
ゴンとキルアは顔を見合わせて頷く。
「実は攻略で人を集めないといけないんだ。それも出来れば強い人」
「んで、俺達の知り合いだったらラミナってわけ」
「ちゃんと説明せぇ。全く事態が分からんし、手伝う気も起きん」
ラミナは交渉する気があるのか分からない言い方に、顔を顰めて言い返す。
キルアが改めてソウフラビで起こったことを細かく説明する。
「――ってわけで、出来れば俺達と同等以上の奴らを最低でも8人、見つけないといけなくなった。それでラミナに会いに来たってわけ」
「ふぅん……」
「悪いけど『念視』で本のデータを見た。別にゲームクリアを目指してるわけじゃないんだろ? だったら、協力してくれないか?」
「……報酬は? 確かにゲームクリアはどうでもええけど、殺し屋雇うんにタダっちゅうわけにはいかんのは分かっとるやろ? 親しき仲にも礼儀あり、やで」
マチやクロロ相手でも、しっかりと報酬を求めてきた。
なので、しっかりと報酬が提示できないのならば、手伝う理由はない。
ゴンとキルアは顔を顰めて、顔を見合わせる。
ゴレイヌも腕を組んで眉を顰める。
「金、っちゅうてもこのゲームじゃあ金は意味がない。ゲームの外で改めて貰うっちゅうんもあるけど、お前らにそんな金ないやろ? あったらヨークシンで旅団を狙わんかったもんな」
普通ならばここでカードでの報酬があるのだろうが、ラミナはゲームクリアを目的にしていない(ことになっている)ので、カードでは報酬にならない。
一番取引材料となる可能性があるのは除念師についてだが、ゴン達に除念師の心当たりはない。カードでも除念に関する効果を持つモノは見つけていない。
(ゴン達ならアベンガネのこと知っとるかもしれんけど……。ここでそれを報酬にすれば、間違いなくキルアかビスケが勘づく可能性があるから言えんなぁ)
アベンガネもゴン達も、一番最近雇われて参加したバッテラ組だ。
知り合っている可能性は高い。
しかし、今の流れからアベンガネの事を聞けば、間違いなく疑われるだろう。
なので、アベンガネの情報も報酬には出来ない。
「あ! バッテラさんから貰える成功報酬は? 500億もあるし!」
「無茶言うなよ。俺達がそれを貰える保証はないんだぜ? そんなあやふやな金であいつが雇われると思ってんのか?」
「せやな。んな金で雇われる阿呆はおらん。おっても、そいつは新人とも言えんド素人やろな」
「ん~……」
ゴンは腕を組み、唸りながら悩んで頭から煙を上げ始める。
ラミナは小さくため息を吐いて、
「無いんやったら、もうええか?」
「ちょ、ちょっと待って! 考えるから!」
「考える言うたかて、なんもないやろ?」
「ちょっといいか?」
ゴレイヌがゴン達に声をかけ、手招きする。
ゴン達は首を傾げ、ラミナに少し待つように伝えて集合する。
「なに?」
「これも確実じゃないがな。お前らが成功報酬を手に入れて、あいつに報酬を払う方法がある」
「ホント!?」
「どんなの?」
「ツェズゲラだよ。あいつを仲間に引き入れて、あいつを最初にクリアさせる。俺達は『一坪の海岸線』入手を手伝った報酬として、10%の50億をもらえるように交渉するのさ」
「……なるほど……」
「それならあいつに10億払っても、俺達もそれぞれ10億手に入る。500億と比べればちっぽけだが、バッテラ組じゃないあいつからすれば十分過ぎる額じゃないか?」
「確かに……」
「けど、そうなると確実にツェズゲラさんを仲間に引き入れて、かつ必ずカードを手に入れないといけませんね。さらにツェズゲラさんを最初にクリアするように手助けしなければならない」
「そうだな。けど、俺はそれで諦めがつくし、全く金が貰えないよりはマシだ。お前らは?」
「俺とキルアはゲームクリアが一番の目的だから、最初にクリアしなきゃいけないってわけじゃないしね」
「まぁ、クリアするなら最初がいいけどな」
「私もクリア報酬が目的なので、最初である必要はありません」
「なら、決まりだな。もっとも、この案をあいつが受け入れてくれればの話だけどな」
ゴン達は改めてラミナへと振り向く。
ラミナは髪紐で髪を纏め、いつも通りの髪型になる。
「どうするか決まったんか?」
「ちょっと相談なんだけど」
ゴンは話し合った内容を伝える。
ラミナは腕を組んで、顔を顰めて考え込む。
「そのツェズゲラはすぐにクリア出来るんか?」
「ツェズゲラ達はもう95種を超えている。そして、残っているカードで唯一入手方法が判明していなかったのが『一坪の海岸線』だ。他のカードは独占されているだけで、ゲイン待ちのものばかりのはず。俺達がゲームクリアをして成功報酬を手に入れるよりは確実だ」
「……」
ゴレイヌの言葉にラミナは目を瞑る。
(……確かにゴン達に期待するよりはええか。まぁ、そのゲイン待ちっちゅうんが嫌な予感がするけど。まぁ、うちはあくまで『一坪の海岸線』入手までやしな。無理やったら無理で、ジンとゼノ爺に吹っ掛けたらええか)
「けど、そのツェズゲラを仲間に出来るんか? その感じやと、まだ交渉すら出来てない感じやけど」
「……ちょっとそこが問題なんだよね」
「はぁ?」
「あははは……。俺達、誰もツェズゲラとゲーム内で会ってないから、『交信』も使えないんだよね……」
「……最初から躓き過ぎやろ。ほんなら今の話は完全に夢物語やないか」
「ラミナさんは知らないのですか?」
ラミナは呆れを全開にするが、そこにビスケ(猫被りモード)が訊ねる。
ラミナはビスケの態度に顔を顰めるも、下手な事を言うと言質を取られかねないので黙っておくことにした。
「まぁ、知っとるで」
「ホント!?」
「じゃあ、悪いが『交信』を使わせてくれないか? もちろん交渉はこっちでやる」
「……はぁ~……。うちを引き入れるための人材が、うちやないと連絡付かんっておかしないか?」
ゴレイヌの提案にラミナは盛大にため息を吐く。
しかし、ここで無視しても、自力でツェズゲラを仲間にした後にまた会いに来るだろうことは容易に想像が出来る。
ラミナはもう一度ため息を吐き、大人しく本を出す。
「『交信』はそっちが出せや」
「うん!」
ゴン達はラミナに駆け寄って、『交信』のカードをラミナに手渡す。
ラミナは気だるげな表情を浮かべたまま、呪文を発動する。
「『交信』オン。ツェズゲラ」
ラミナは呪文を発動し、本をゴン達の方に動かす。
『……誰だ?』
「ツェズゲラさん? ゴンだけど」
『ゴン? あぁ、あの少年か。何か用か?』
「『一坪の海岸線』について情報があるんだ。一度、どこかで会えないかな?」
『……ほぉ』
「ただ、これ以上は直接会って話したい。『交信』の時間じゃ足りないってのもあるけどさ」
『……いいだろう。どこで会えばいい?』
「こっちが『同行』でそっちに行く」
『分かった。ならば30分後に』
「分かった」
通信を終えたのを確認したラミナは本を消す。
ゴン達はツェズゲラと交渉出来そうなことにホッとし、誰が交渉するかの相談を始める。
(……どっかでマチ姉達に連絡しとかんとな)
絶対に団員達とゴン達を会わせるわけにはいかない。
(出来れば『一坪の海岸線』は手に入れたいが、ここは欲を出したら面倒になるだけやな。うちらもまだ60種類程度……。ゴン達が手に入れた後に、ツェズゲラを襲えば一気に手に入るが……。それも最終手段やな)
入手手段が分かるだけでも御の字とも言える。
15人でいいならば、旅団と適当なメンバーを入れれば問題はないはずだ。
(この分やと『No.1 一坪の密林』も、『一坪の海岸線』と似たような面倒さがある可能性が高いか……。ホンマ、ジンはええ性格しとるわ)
それだけハンターは活動の幅が広く、持てる手段は多い方がいいということである。
プロハンター達でさえ、何年もたった100枚のカードを集めるのに時間と手間をかけている。
しかし逆に言えば、これをクリアすればハンターとしては何枚の皮が剥けたと言えるほど成長するだろう。
事実、ゴンとキルアは1年前と比べて、恐ろしいほど成長している。
(このゲームは良くも悪くもハンターの一面を見せつける。うちらやゲンスルー達のようなやり方をする奴らやって、ハンターでもおらんわけやない)
今、このゲーム内で行われていることは、ゲームの外でも日常的にある話だ。
ゴン達は嫌うだろうが、目的を達成するためには手段を選んでいる場合ではない時もある。
(まぁ、今回はゲームに熱くなり過ぎな感じがするけどな)
ラミナは苦笑して、まだ相談しているゴン達を見る。
(そういえば……)
ラミナは先ほど聞いた話を思い出して、ある疑問が浮かんだ。
「ちょっとええか?」
「ん? なに?」
「その海賊のボスは何の競技をしたんや?」
「え? ボスは出て来てないよ?」
「ええ、手下達だけでしたね」
ラミナの質問にゴンとビスケは「それがなんだ?」と首を傾げる。
その答えにラミナは天を仰ぎ、キルアとゴレイヌはラミナが言いたいことを理解した。
「しまった……!」
「え? なに? どういうこと?」
「どう考えたって、最後はボスが出てくるに決まってる。そいつの競技次第で、俺達が7勝してもひっくり返される可能性がある……!」
「あ……!」
「そうなれば手練れが最低8人っちゅうんも厳しないか? ぶっちゃけ、2,3勝あたりでボスを引きずり出さんと今の作戦じゃあ勝てんぞ」
「確かに……。せめてツェズゲラの仲間が5人以上いればいいが……」
「前に会った時は本人入れて4人やったで。うちを入れても9人。微妙なところやなぁ……」
ラミナは眉間に皺をよせ、ゴン達も最悪の事態を想定して顔を顰める。
しかし、ゴンが首を傾げ、
「けど、ゲームのキャラだし……。そこまで自由なのかな?」
(……あぁ……。こいつら、ここが現実の島って知らんのか。まぁ、中々気づくきっかけはないやろうし、しゃあないことか)
話を聞いた限り、ラミナはその海賊達はNPCではなく本物の人間だと思っている。
モンスターと比べても、戦い方が柔軟過ぎるのだ。
今まで見てきたモンスターは全て一定のパターンがあったが、ボクシングや相撲、リフティングなどのスポーツではそうもいかないだろう。しかも、相手の妨害もありだという。
(まぁ、レイザーだけが人間で、他の連中が念獣の可能性はあるか……)
「1つ言うとくけどな」
「なに?」
「ここ、現実やで」
「「「「え!?」」」」
「ここはヨルビアン大陸東にある孤島や。まぁ、地図にも載っとらんし、普通では来れんみたいやけどな。ゲームはあくまで転送装置っちゅうわけや」
「ここが……現実」
「ゲームソフトに神字を刻んどったとしても、ありふれた物を介して【練】程度で、人間の身体や持ち物、念能力までこの広さの異空間に取り込むには限界がある。そういう能力は能力者本人が近くにおらんかったら、まず無理や。もしやるんやったら、同じ能力者を数十人レベル必要やろうな」
「なるほどねぇ。けど、現実のどこかに飛ばすだけならば、一気に難度は下がるわね」
「そうやな」
すっかり素で話すビスケに、ラミナは特にツッコむことなく頷く。
キルアが首を傾げて、
「どうやってラミナはそれを見抜いたんだ?」
「最初に気づいたんは団員の1人や。うちはそこから、邪魔が入らんようにするなら島。それも地図に載らず、海流だけでは辿り着けん場所を探しただけや。んで、ここと思われる島を見つけた。まぁ、結局ソフト見つけたから、確認はしとらんけどな。けど、気候や島の大きさからして間違いないとは思っとるで」
ラミナの言葉にキルアやゴレイヌは、納得の表情を浮かべる。
ゴンはもはや会話についていけず、ただただ感心するしかなかった。
「さて、そろそろ行こか。結局レイザーの問題は解決しとらんけどな」
「そうだな……。けど、まずはツェズゲラを仲間に引き入れないと、どっちにしろ無理なんだ。そこはツェズゲラを引き入れてから、改めて話し合おうぜ」
「ほな、行くでぇ」
ラミナはゴンから貰った『同行』を唱えて、ツェズゲラの元へと飛ぶのであった。
ツェズゲラ一派と会ったのは、ソウフラビ近くの森にある湖の傍だった。
ツェズゲラとロドリオットは飛んで来たゴン達の中にラミナの姿を見つけて、目を鋭くする。
「お前は……」
「あぁ、うちはまだこいつらの仲間ちゃうから。先にこっちと話してんか」
ラミナはそう言ってゴン達からも離れて、樹の根元に座ってくつろぎだす。
それにキルアやゴレイヌは呆れ、ツェズゲラは眉間に皺を寄せる。
「……それで。『一坪の海岸線』の情報とは?」
「ちょっと待て。その前に決めておきたいことがある」
「ふん。なんだ?」
ゴレイヌが前に出て、ツェズゲラと交渉を始める。
「『一坪の海岸線』を手に入れれば、お前達はゲームクリアに限りなく近づくのは分かってる」
「……そうだな。隠すつもりはない。俺達はゲームクリアまで後3種類。『一坪の海岸線』『奇運アレキサンドライト』『闇のヒスイ』だ」
ツェズゲラは不敵な笑みを浮かべて、残りのカード名を告げる。
後3枚という状況にゴンとキルアは目を見開いて、更にその内の1枚を持っていることに顔を見合わせる。
「それでだ。『一坪の海岸線』入手を手伝った報酬として、バッテラの成功報酬500億の10%、50億をもらいたい。それが呑めなきゃ、情報は話せない」
「……法外だな」
「状況が状況だからな。それに今のあんた達じゃ、このカードを自力で発見するのは絶対に困難だぜ」
「しかし、それはお前達もだろう?」
「まぁな。現状の俺達じゃ入手不可能だ。だが、俺達はすでに入手方法は知ってるから、時間をかければいい。ボマーも入手は難しいだろうけどな」
「……本当にまだ入手してないんだな?」
「だったら、とっくに売りつけてるよ。わざわざ入手に協力しろとか、こんな金額ふっかけないさ」
ゴレイヌは肩を竦めながら、はっきりという。
その様子に嘘はないと判断したツェズゲラは、横に控えていたロドリオットと顔を見合わせて頷き合う。
「よし、条件を呑もう。話を聞かせてくれ」
ゴレイヌは頷いて、ソウフラビでの話を始める。
話を聞き終えたツェズゲラは愉快気に笑い始める。
「くっくっくっ! なるほどな。確かに入手は簡単ではないな」
「で、どうだ? 悪い話じゃないだろ?」
「そっちは全部で5人か?」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「ん?」
ツェズゲラは首を傾げるが、ゴレイヌはそれを無視してキルア達に振り返り、キルア達は頷いてラミナに顔を向ける。
「ツェズゲラとの交渉は終わったぜ。これでいいか?」
「……はぁ~……。まぁ、金が用意できるんやったらしゃあないか……。じゃ、報酬は2億。このイベントだけの契約やで」
「ああ、十分だよ」
ラミナは大きくため息を吐いて、契約を纏める。
キルアはそれに頷いて、ゴレイヌに向き直る。
ゴレイヌはツェズゲラに向き直り、肩を竦めて、
「これで5人だ」
ツェズゲラは眉間に皺を寄せながら指を鳴らすと、背後の森から2つの人影が姿を現す。
「こっちは4人だ。……あの女が何者かは問わん。だが、あの女には仲間がいたはずだ。何故そいつは誘わない?」
「仲間?」
「ってことは団員が今ゲーム内にいる?」
「ピンク髪の女がいたはずだ。それと黒髪の少女」
「あ~……そっちは無し。協力なんざ出来ん出来ん。そこのキルアを殺しかねんでな」
ツェズゲラの指摘にキルア達はラミナを見るが、ラミナは顔を顰めながら顔の前で手を振り、マチ達の参戦はありえないと断言する。
キルアはマチの顔を思い出して盛大に顔を顰め、ゴンもキルアが何度も殺されそうになったので眉間に皺を寄せる。
「一体どういう仲なんだ……?」
「命を奪い合った仲やな」
「……俺の記憶が正しければ、その女は幻影旅団だったはずだが……。お前達、あの審査の前にそんな無謀なことをしてたのか?」
ツェズゲラは呆れながらゴンとキルアを見つめる。もはや呆れを通り越して、恐怖すら感じそうな程だ。
それにゴンは誤魔化すように苦笑いし、キルアも肩を竦める。
「あははは……」
「まぁ、ちょっと事情があってね。もちろん手も足も出なかったよ」
「当然だ。ボマーよりもよっぽど手を出したくない相手だぞ」
「やっぱりボマーより旅団の方が強いの?」
ゴンが首を傾げて、ツェズゲラに訊ねる。
しかし、ツェズゲラがもちろん断言できるわけはない。
「正確には分からん。だが、ボマーは3人組だ。10人以上いる旅団を相手にすれば、流石に厳しいだろう」
「別にうちだけで殺せると思うで? 前にも返り討ちにしたし」
『は?』
ラミナが気だるげに歩み寄りながら言うと、全員が目を見開く。
「ゲンスルーと戦ったのか!?」
「他にも2人おったで。え~っと……確かサブとバラっちゅう名前やったな」
「ラミナは他の団員といたの?」
「いんや。1人」
「1人で3人と戦って、返り討ちにしたのか……!?」
「……なるほどな。だから連中は『大天使の息吹』を使ったのか」
「『大天使の息吹』?」
「指定ポケットカードの1枚だ。どんな怪我も病もたちまち完治するらしい。ゲンスルー達が独占していて、俺達はゲイン待ちだったのだが……。少し前にそれが『大天使の息吹』に変わった。だから、連中が使うような状況に陥ったことは知っていた。だが、相手までは分からなくてな。その後にこいつらに会って、もしやとは思っていたが……」
「そんなカードがあるんか……。っちゅうことは、もう回復しとるんか。ちっ……」
ラミナは小さく舌打ちをする。
道理でゲンスルー達の動きが衰えないわけだと、納得したラミナであった。
「ゲンスルー達ってどれくらい強いの?」
ゴンがラミナへと尋ねる。
ラミナは腕を組み、全員を見渡す。するとビスケは実力を比べられていると見抜いて、胸の前で手を組んで目を潤ませながらラミナを見つめ、自分のことは黙っておくように圧力をかける。
もちろん、それをしっかりと感じ取ったラミナは一瞬ビスケに呆れた視線を向けて、すぐに目を逸らす。
「……ん~……能力次第ではあるが、ゲンスルーはうち以外じゃ絶対勝てんやろうな。サブとバラの方は、まだ可能性はあると思うで。その2人は体術とか身体能力はキルアの方が上って感じや。ゴンはどっこいどっこい。けど、オーラの量や念の練度は向こうが圧倒的に上って感じやな」
「そっか……」
「他の2人の能力は?」
「それがなぁ……その2人、全く【発】を使わんかったんよ。負傷してもな。やから、相互協力型能力持ちかもしれんな」
「でも、ラミナから逃げたんだから、それだけ強いってことだよね……」
「逃げたっちゅうても、呪文でうちを島のどっかに飛ばしただけやし。うちもそこまで本気で戦っとらんしな。殺すだけやったら、問題ないと思うで。うちやったらな」
ラミナは肩を竦めながら言うが、ゴン達は顔を顰めて腕を組む。
「それでも今の俺達じゃ太刀打ち出来なさそうだね」
「ああ、戦るにしてもかなり作戦を練らないとな。しかも、戦るなら確実にそこで倒さないと駄目だ」
一度逃せばもう同じ作戦は使えないし、次は一切油断はなくなるはずだ。
そもそも一度ラミナにやられているのだから、すでに慢心は捨て去っている可能性がある。
(っていうか、ラミナってどこまで強いんだよ……)
ゴレイヌには『俺とゴンが一緒に挑んで互角』と言ったが、今の話を聞く限りではここにいるメンバー全員をラミナ1人で殺せると言われたようなものだとキルアは理解していた。
もちろんビスケやゴレイヌ、ツェズゲラ達の実力も全て知らないので、簡単ではないだろうが、それでもラミナはパッと見でツェズゲラ達の実力を『ゲンスルー組以下』と判断した。
今までのラミナの言動を考えると、その見極めは大きく外れていないだろうとキルアは考える。
しかも、ヨークシンのことから、ヒソカはそんなラミナに重傷を負わせる程の実力を持っているということだ。
ラミナもヒソカにある程度怪我を負わせたらしいが、殺し切れなかった事を考えるとラミナと同等以上の実力者なのは間違いない。
天空闘技場での戦いは、本当にお遊びレベルだったということになる。
そして、それは同時にゴンとキルアはまだまだ『ひよっこ』という現実を叩きつけてくる。
キルアは奥歯を噛み締める。
努力はしている。
それもビスケが『恐ろしい上達速度』と呆れながら言うほどに。
なのに、それでもラミナはもちろん旅団や父親達の背中すら見えてこない。
焦って上達するわけがないことは理解しているが、それでもやはり焦りが心に生まれてしまう。
キルアは実感してはいないが、キルアはすでにラミナ達の足元には辿り着いている。
しかし、まだ【発】が完成したと思えていないこと。殺し屋としての戦い方や技術を避けてしまっていること。そして『イルミの教育』の影響で常に敵のMAXを無意識に考えてしまい、更にそれを敵の常と考えてしまう癖が染みついているからである。
実戦経験がないことも影響しており、キルアは『念』『体術』『暗殺術』を上手く組み合わせるという発想が未だにない。
ビスケに鍛えられて、ようやく『念』と『体術』を組み合わせる事を意識しだしたくらいだ。
『暗殺術』も使い方次第だと気づくには、まだまだ時間がかかりそうである。
「とりあえず、今は『一坪の海岸線』だ。もう一度詳しく説明しながら、作戦を練ろう。懸念もあるしな」
「いいだろう」
ゴレイヌとツェズゲラの言葉に、意識をゴレイヌ達に戻すキルア。
(今は『一坪の海岸線』に集中だ)
そう己に言い聞かせて、キルアも作戦会議に参加するのだった。