暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#74 イノチガケ×ノ×キャッチ

 レイザーは念獣からボールを受け取る。

 

「さて……レイザーはもう『バック』は出来んけど……」

 

「こっちは、アウトになった後にそもそも『バック』出来る余裕があるかってことになりそうだな」

 

「せやな。悪いけど、ぶっちゃけうちはさっきみたいに高速パスは止められんぞ。これ以上オーラを消費する余裕は流石にないでな」

 

「分かってる」

 

(どっかのババアがもっと本気でやってくれれば話は早いんやけどな。まぁ、ゲームで、やり直し可能っちゅう以上無理強いも出来んか)

 

 ラミナとしては今回で勝負を決めたいのが本音である。

 途中でやめて回復を待ち、修行してからまた挑戦となると、流石に報酬ももらえるか分からないし、旅団の方も放っておくわけにはいかない。

 ここでタダ働きになることだけは避けたいのだ。ここまで能力などを晒したのだから。

 

 ラミナはビスケに視線を送る。

 もちろんビスケは気づくが、すぐに目を逸らして「ホホホ」と誤魔化すように笑う。

 

「ちっ……」

 

「さぁ、そろそろ行くぞ」

 

 ラミナは舌打ちをして、レイザーの言葉に気を引き締め直す。

 レイザーは大きく踏み込んで、再び高速パスを始めた。

 

「くそっ!」

 

「さっきより速いよ!」

 

 キルアとゴンは先ほどよりスピードが速くなっていることに、冷や汗を流して必死にボールを目で追う。

 ビスケとラミナは素早く対応しているが、やはりツェズゲラとゴレイヌの黒い念獣は追いきれなくなった。

 

 いつのまにか『3』の念獣も外野に復帰しており、外野には4体の念獣がいることで先ほどより更にパスのコースが短く、複雑になり、スピードが維持されるようになった。

 

(こら、どっちにしろ止める余裕ないわ!)

 

 念獣から念獣までボールが回るまで0.5秒もない。

 流石に先ほどのように剣で止めるには距離が足らないし、割り込む時点で念獣の目の前になるだろう。

 

 そして、遂に無防備に背中を晒しているツェズゲラの背後にいる念獣にボールが回り、その背中に向けてボールが投げられる。

 

「ツェズゲラ!!」

 

「後ろだ!!」

 

「!! ごぉ……!?」

 

 ツェズゲラは咄嗟にオーラを背中に集中させる。直後に強烈な衝撃が体を襲い、骨が砕ける音が響く。

 ツェズゲラは吹き飛ばされて床を転がり、ボールは地面に落ちる。

 キルアがボールをすぐさま拾い上げるが、ズシッとまるでボウリング玉のような重さに感じて落としそうになった。

 

(あれだけパスを回してこの重さかよ……! そりゃラミナも無理って言うよな。むしろ、最初よく止めれたもんだぜ……)

 

 キルアは改めて自分達がどれだけ危険な状況にあるのかを思い知る。

 ちなみにラミナは、

 

(やっぱ直撃すれば続行は無理やな。アウトを防ぐには直撃する前に止めんと駄目か……)

 

 【妖精の悪戯】でツェズゲラのアウトを防ぐことは出来たが、ツェズゲラの様子を見て発動を止めたのだ。

 明らかに骨折した音が聞こえ、受け身も取れていなかった。

 確実に戦線離脱だろうと判断したのだ。

 

 ツェズゲラは僅かに血を吐きながら咳込み、ふらつきながら立ち上がる。

 

「折れた骨が内臓を痛めているかもしれないな。おい、手当してやれ!」

 

 レイザーが手下に声をかけ、手下達がツェズゲラに近寄るが、ツェズゲラはそれを拒否する。

 

「だ、大丈夫だ。触るなっ」

 

 明らかに強がりだが、敵に治療されるのも信用できないので仕方ないと言えば仕方ないだろうとラミナは思う。

 ツェズゲラは外野に出て壁近くに座り込む。

 

『プレー続行不可能となる怪我をした場合、その選手は退場となります。外野としても内野としてもカウントされないのでご注意を。ただし、ゲームに勝った場合は8人に含まれますので、ご安心ください』

 

 審判の言葉にラミナ達は頷く。

 ロドリオット達がツェズゲラに声を掛ける。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ……俺もなまったもんだ」

 

「『大天使の息吹』使うか?」

 

「馬鹿言え……! この程度で使えるか!」

 

 ツェズゲラはロドリオットの提案を強く拒絶する。

 

(業腹だが、俺が回復したところで役には立たん……。反射神経、敏捷性はゴン達の方が上。そして、ラミナは全てにおいて俺を勝っている。間違いなく、この勝負の切り札はラミナだ。ならば、ラミナが倒れた時のために『大天使の息吹』を残しておくのが最善だ……)

 

 ツェズゲラは歯軋りをして、コートに残ったメンバーを見つめる。

 

 キルア達は集合して、作戦を練る。

 

「レイザーは最後だよな?」

 

「そらな」

 

「ってことは、まずは念獣達からだね」

 

「まずはチビのほうやな。あいつなら、まだ普通に投げてもいけるやろ。ボール」

 

「頼んだ」

 

 キルアからボールを受け取って、ラミナは腕を振り被って足を踏み出す。

 そして、勢いよくボールを投げる。

 

 すると、念獣は素早くレイザーの背後に回ってボールを躱す。

 

「ちっ!」

 

「まぁ、躱さないなんて言ってないわよね」

 

 ボールは壁に当たって、ゴレイヌが素早く拾う。

 

「……」

 

 ゴレイヌは眉間に皺を寄せたまま、コート横側に移動する。

 

「ゴレイヌ?」

 

 ゴン達は首を傾げ、レイザー達は素早く反対側に移動する。

 

「……やられっぱなしってのは性に合わないんだよ。借りを返すぜ!!」

 

 ゴレイヌは後ろに下がって、腕を振り被りながら勢いよく駆け出す。

 

「行くぜぇ!!」

 

(……レイザーに届かんのは分かっとるはず……。なんか手段があるっちゅうことか? ……白い念獣は自分と入れ替える……。なら、黒い方はまさか……!)

 

 ラミナはゴレイヌの狙いを推測する。

 その推測を後押しするように、黒い念獣が前に出てレイザー陣のコートに足を踏み入れる。

 

 すると、ゴレイヌは黒い念獣の顔面に向けて、ボールを投げる。

 直後、黒い念獣とレイザーの身体がオーラに包まれて、一瞬で位置が入れ替わってレイザーの頬にボールが叩き込まれる。

 

「【黒い賢人(ブラック・ゴレイヌ)】! どうだ! テメェも外野に引っ込みな!!」

 

 レイザーの頬に叩き込まれたボールは、大きく跳ね上がって外野に吹き飛んでいく。

 

(外野まで飛んだ! これで落ちれば……!)

 

 ラミナはボールが落ちる瞬間を見届けようとすると、レイザーの合体したデカい念獣の手に小さい念獣が飛び乗ると、勢いよくボールに向かって投げた。

 

「なっ!?」

 

 念獣は落ちる前にボールをキャッチする。

 ラミナはベンズナイフを具現化するが、その前に小さい念獣は背後にいるデカい念獣に向けてボールを投げる。

 【妖精の悪戯】を発動しようにも、ボールがデカい念獣の身体に隠されてしまった。

 

「ちぃ!!」

 

 デカい念獣はしっかりとボールをキャッチし、小さい念獣は見事に着地する。

 ボールが床に落ちる前だったので、レイザーはセーフということになる。

 

「な……」

 

 ゴレイヌは小さい念獣の動きに唖然とするが、直後頬に強烈な衝撃が襲い掛かって意識が遠のく。

 

 デカい念獣がボールをゴレイヌにぶつけたのだ。

 ボールは跳ね返って、レイザーがキャッチする。

 

「なっ!?」

 

「ゴレイヌ!!」

 

 レイザーは倒れてピクついているゴレイヌを見下ろして、

 

「少し焦ったぜ。中々いい能力だ。大事にしなよ」

 

「ちょっとアンタ! なんてことすんのよ!」

 

「ん? 相手にパスしちゃいけないルールはないぜ?」

 

 ビスケの抗議に、レイザーは涼しい顔で言う。

 すると、黒い念獣が体を崩して消滅していく。

 

「ゴレイヌの念獣が……!」

 

「そら、使い手が気絶したんやから当然やろ。あの能力からすれば遠隔操作型やろうしな。審判! 黒い念獣はアウトになっとらんけど、どういう扱いになるんや?」

 

『ゴレイヌ選手が意識を取り戻せば、内野に復帰して頂いて構いません。ただし、その前に内野が0になった場合は決着となりますのでご注意を……』

 

「了解。ま……無理やろうけどな」

 

 ラミナは未だに痙攣しているだけのゴレイヌに目を向けて、小さくため息を吐く。

 ロドリオット達も駆け寄って、ゴレイヌの状態を確認する。

 

「こりゃ無理だ……!」

 

「運よく意識を取り戻せても、とてもじゃないが念獣を出せるコンディションじゃないぜ……!」

 

「やんな。やってくれるで、ホンマ……。これでうちらは外野が0。しかも1人減って残り4人で、ボールはそっち。絶望的やなぁ……」

 

「これもゲームだ。諦めてもらおうか」

 

「まぁ、確かに油断したんはこっちやから、うちは文句言う気はないで。恨み言は言わせてもらうけどな」

 

「それは怖いな」

 

 ラミナの言う通り、外野は安全と思い込んでいたラミナ達の油断である。

 『外野が0の場合、外野に出たら相手ボールになる』『外野にいる選手は一度だけ『バック』を宣言できる』『続行不能の選手は外野にも内野にもカウントされない』。

 この3つのルールを考えれば、どう考えたって『外野の選手を続行不能にして0にすれば『バック』の意味を無くす』のが一番手っ取り早い作戦である。

 

 ラミナ達が運よくほぼ無傷でレイザーのボールをキャッチしたとしても、ラミナチームの外野は0なので、レイザー達は躱せば自動的に自分達のボールになる。

 

「まいったなぁ……。かと言って、ここで誰か外野に出ても内野の数を減らすだけで不利になるだけやし……」

 

「まずはボールを捕らないと話にならないけどな」

 

 キルアは眉間に皺を寄せて、レイザーを見据える。

 レイザーはもはやデフォルトになっている不敵な笑みを浮かべて、

 

「さて、そろそろ一度勝負してみるか、ゴン」

 

「!!」

 

「【堅】か【硬】を使えるならば、全力で使え。そうすれば死にはしないだろう。当たり所が良ければ、だがな」

 

「……やってやるさ」

 

 ゴンは腰を落として、【堅】を発動する。

 キルアもその隣で同じ姿勢を取り、【堅】を発動する。

 

(……ええ【堅】やな。【纏】と【練】をしっかりとやっとる証拠。発動の滑らかさから考えれば【流】も速やかに出来るやろうな。実戦経験さえ積み上げていけば、大抵の奴は相手にならんな。ホンマ……末恐ろしい奴らやで。カルトの奴も面倒な目標を掲げたもんや)

 

 ラミナは弟子に憐れみを感じながら、レイザーの投擲に備える。

 レイザーは腕を振り上げて、大きく脚を踏み出す。

 その力強さはゴレイヌに投げた時の数倍にも感じられた。

 

 ツェズゲラは死のイメージしか思い浮かばなかった。

 

「来ぉい!!」

 

 ゴンが叫ぶ。

 それに答えるように、レイザーは宣言通りゴンに向かって剛速球を放つ。

 

 その瞬間、ゴンは更に身を屈めて両手の甲を額に当てる。

 更に【硬】で両手と頭を覆い、攻防力を最大まで高める。

 

(吹き飛ばされる!!)

 

 ラミナは受け止めるには足のオーラが足らないことを見抜き、ゴンへと駆け出す。

 

 ボールはゴンの両手に直撃する。

 ゴンは踏ん張ろうとするも、靴が脱げてしまい一瞬で後ろに吹き飛ばれる。一度だけ床を跳ねて、勢いよく壁へと激突する。

 

 ラミナはボールをキャッチしようとしたが、ボールは真上へとほとんどスピードを落とさずに跳ね上がって天井に激突してしまった。

 

「ちぃ!!」

 

「ゴン!!」

 

 ラミナは穴が空いた天井を見上げて、舌打ちする。

 キルアとビスケはゴンの元へと駆け出して、一時ゲームは中断される。

 

「レイザーと違うて真っ向から受け止めたからか……」

 

「計算してかなり頑丈に作ってもらったんだが……。まぁ、突き抜けなかっただけでも良しとするか」

 

「作ったん数年も前やろ? そらぁ数年もあれば威力は上がっとるやろ」

 

「それもそうだな」

 

 レイザーは肩を竦める。

 ラミナは呆れたようにため息を吐き、ゴンの元へと移動する。

 

 ゴンは起き上がっているが、額から血を流している。

 

「意識は?」

 

「大丈夫! 足の踏ん張りが出来なかっただけだから! 手も動くよ!」

 

「……はぁ。次は捕るってよ……」

 

「……お前なぁ」

 

「『バック』は俺がするからね」

 

「おい」

 

「するから」

 

 ゴンは立ち上がって、レイザーを睨んだまま力強く言う。

 絶対に折れてやらないと伝わる声色に、ラミナ達は呆れるしかなかった。

 3人共が、こうなったら人の忠告など届かないことなど知っているのだから。

 

「……はぁ。分かったわさ。ただし! 『バック』は内野の人数が残り2人になってから! いいわね!」

 

「うん」

 

「まずはとっとと手当てして来いや。血を流し続けとる奴が戻ってこられても、うちは信頼出来ん。置物扱いするで」

 

「うん」

 

 聞いてるのかどうか分からない返事をするゴンに、ビスケとラミナは改めてため息を吐く。

 

「審判。ゴンの手当てが終わるまでタイムすることは?」

 

『認められません』

 

「オイ!?」

 

『認めると、ツェズゲラ選手やゴレイヌ選手の回復を待つことも認めることになりますので』

 

「……ちっ!!」

 

『そして、ボールの落下予測地点はゴンチームの内野ボールで再開します!』

 

「しゃあない。おい、ツェズゲラ! 軽いパス回しくらい出来るやろ! 座ったままでええから、少し場所変えろや!」

 

「……分かった」

 

 ラミナはツェズゲラに鞭を打って、ツェズゲラをコート近くまで移動させる。

 新しいボールを受け取ったキルアは、ツェズゲラとパスを回す。

 

「これならいいだろ?」

 

『問題ありません』

 

「さて……この後、どうするか……」

 

「レイザーを狙うのが最善だけど……生半可なボールは届かないものね」

 

「もううちのボールは止められるやろうしなぁ。周りから潰すにしても、ボールがレイザーに渡ったらヤバイし……」

 

 ラミナとビスケは顔を顰めて、作戦を考える。

 

「……ここまで来ても、隠し玉は出さんのやな?」

 

「悪いとは思うけど、出したところで大して解決にはならないわよ」

 

「さよで。とりあえず……チビの方だけでも飛ばすか。……2億じゃ安かったかもしれんなぁ」

 

「そこは後でツェズゲラ達と交渉しなさいな」

 

 ラミナはため息を吐き、ゴンの手当てが終わったのを確認してボールを受け取る。

 

 ラミナは思いっきり振り被って、小さい念獣に向かってボールを投げる。

 小さい念獣は両腕を胸の前で交えて、小さく跳び上がって上半身を少し下に向ける。

 

「! あいつっ……!」

 

 ラミナはその動きの狙いに気づいて、目を見開く。

 小さい念獣はボールが直撃して後ろに吹き飛ばされるが、ボールは跳ね返って床に叩きつけられたことで外野に出ることもラミナの方に戻るのも防ぐ。

 

 レイザーが素早く動いてボールを掴む。

 

「ホンマ、ムカつくわぁ……」

 

 ラミナは顔を顰めて、距離を取る。

 

「外野がどんどん潤沢になっていくわねぇ」

 

「そこはもう諦めるしかないやろ。レイザーに念獣が砕けるイメージを持たせるのも、気絶させるのも無理やし」

 

 軽口を叩きながら、構えるビスケとラミナ。

 すると、レイザーが足を踏み出して、アンダースローでボールを投げる。

 

 ボールは強烈な回転を纏いながら、キルアに向かって勢いよく飛んでいく。

 キルアは受け止めるのは無理と判断して、右に跳ぶ。

 

 すると、ボールが左に直角に曲がり、ビスケへと迫る。

 

「っ!!」

 

 ビスケはギリギリで跳び上がって躱し、ビスケの横にいたラミナはベンズナイフを具現化しながら、身を反らして躱す。

 しかし、すぐ横に念獣が待機しており、見事にボールをキャッチして、素早くラミナに向かってボールを投げる。

 

「ラミナ!」

 

 ラミナはベンズナイフを手首だけで前方に投擲し、素早く指を鳴らす。

 【妖精の悪戯】でベンズナイフと入れ替わってボールを躱す。ボールはベンズナイフに直撃し、バキン!とベンズナイフが折れる。

 

「げっ!」

 

 ラミナは頬を引きつかせる。

 しかし、躱されたボールをビスケとキルアも躱して、反対側にいた念獣にキャッチされて、更にレイザーへと戻っていく。

 ボールを受け取ったレイザーは、今度はオーバースローでラミナへとボールを投げる。

 

「ちぃ!」

 

 舌打ちしながら左手に圏を具現化して、体を強化する。

 そして、両腕にオーラを集中し、体を横にしながら腰を捻って跳び上がる。

 

 剛速球で迫ってくるボールを抱えるように右腕を伸ばし、ボールを体の下に引き込みながら体を捻っていく。ボールが体の真下に来たところで、圏を握る左手をボールの背後から回す。

 体の回転に加え、右腕でボールを引き上げ、同時に左手でボールを押し上げる。最後に勢いよく右腕を引いて、縦回転しているボールに横回転を掛ける。

 

 

スッッパアァン!!

 

 

 ボールは完璧に速さと威力を掻き消されて、3mほど打ち上がる。

 

「なぁ!?」

 

「ほぉ……」

 

 キルア達は目を見開き、レイザーは感嘆の声を出す。

 

 ラミナは着地して、落ちてきたボールを右手で受け止めて、そのまま人差し指を立ててボール回しをする。

 

「ふぅ~……危ない危ない……」

 

 息を吐いて圏を消し、左腕で額の汗を拭う。

 すると、

 

『ビスケ選手アウト! 外野へ移動です!!』

 

 審判の宣言にロドリオット達は驚く。

 

「はぁ!?」

 

「避けただろ!?」

 

 全員がビスケに目を向けると、ビスケのスカートの一部が破れていた。

 

「衣服も体の一部……ってことだわね。不覚……」

 

 ビスケは顔を顰める。

 その時、

 

「バック!!」

 

 ゴンが『バック』を宣言し、内野へと向かう。

 

『ゴン選手、『バック』を宣言! 内野へ移動です!』

 

「……本当に大丈夫かよ? ラミナに残しておくべきじゃねぇか?」

 

「レイザーもそれを見越してくるかもしれない……。それにあいつだってレイザーと真っ向勝負したんだ」

 

「ラミナだって消耗してきてる。賭けに出ないと勝ち目は増えないぜ」

 

 ロドリオット達がそう話している目の前で、ゴンとビスケがすれ違う。

 

「大丈夫?」

 

「うん」

 

「いいこと? 無理は絶対にしないこと」

 

「うん」

 

「……1+1は?」

 

「うん」

 

「はぁ。OK、死んでも倒しておいで」

 

「オス!」

 

「そこは聞いとるんかい」

 

 ビスケはため息を吐いて、外野へと向かう。

 ゴンはラミナとキルアの元に歩み寄る。

 

「平気か?」

 

「大丈夫!」

 

「そら、良かった。さて、どないしょ。残るはレイザーと合体念獣。どっちも生半可な力じゃ受け止められるだけや」

 

「あの入れ替わるナイフは?」

 

「残念ながら砕かれてしもたから、しばらく使えん」

 

「そうか……」

 

(っちゅうか、もう二度と使えんのやけどな……。はぁ……こんなところで使い切るとは……)

 

 ベンズナイフは今のでストックが0になってしまったのだ。

 新しく作らない限り【妖精の悪戯】は二度と使えない。

 

「流石にうちもオーラが限界に近い。これ以上受け流す余裕もないし、あの時の攻撃も後1発やな。それ以上となると、念獣のボールでもヤバなる」

 

「念獣のボールなら、威力は下がってんの?」

 

「気休めやけどな。ツェズゲラみたいに骨折で済むやろ。ゴレイヌも無事やしな」

 

「なるほど。じゃあ、レイザーの球に注意して、避ければ大ダメージは避けられるな」

 

「やな」

 

「それじゃあ、勝ったことにならない」

 

「「あ?」」

 

 ゴンの言葉にキルアとラミナは声を低くして、睨みつける。

 

「ざけんじゃねぇぞ。まず、どんなでも勝たなきゃ、それこそ意味ねぇだろ。頭に昇った血ぃ下ろせ、バーカ!!」

 

「ムカついてないの?」

 

「あぁ!?」

 

「左に避けてたら死んでたかもしれない」

 

「っ!」

 

「俺はすっごく頭に来てる。ハンパには勝たない! 完璧に負かしてやる!!」

 

「意気込むんはええけど、手はあるんやろうな? ないんやったら、うちはここで降りるで。お前の意地なんぞ知らん」

 

「ある。俺がやるから、ボール頂戴」

 

「……ほぉ。ええやろ。見せてみぃ」

 

 ラミナはゴンにボールを渡す。

 ゴンはキルアに顔を向けて、

 

「キルア、真ん中に立って」

 

「? ああ」

 

 キルアはゴンに言われるがままに、コートの真ん中に立つ。

 

「腰を落として、しっかりボールを持っててね」

 

「……分かった」

 

 キルアは腰を落として、ボールを上下で挟むように押さえる。

 すると、ゴンは腰を落として、右手を握り締めて左手を添える。

 

 そして、右拳にオーラを集中させる。

 

 それにキルア達もゴンの狙いに気づく。

 

(おいおい……! 本気か!?)

 

 ラミナは集中するオーラの量を考えて、目を見張る。

 

(それなら投げるよりはパワーはあるやろうけど……! キルアの両手、下手したら吹き飛ぶぞ!?)

 

 キルアもゴンの狙いを理解しているので、両手のオーラをギリギリまで減らしている。

 

「最初は、グー!! じゃん!! けん!!!」

 

 右拳に大量のオーラを籠めて、掛け声と共に勢いよく右ストレートを振り抜く。

 

 

「グー!!!」

 

 

 ドゴン!!と大砲を撃ったかのような音を響かせて、ボールが猛スピードで発射される。

 キルアの両手は衝撃に弾かれる。

 

「っ!!」

 

 顔を顰めるも呻き声すらも上げずに堪える。

 

 そして、ボールは合体念獣に向かって飛ぶ。

 合体念獣は腰を落として、ボールをキャッチするが、

 

 そのまま両足が床から離れて、外野まで吹き飛ばされる。

 

「ほぉ」

 

『No.13アウト!! 体がエリア外に触れた状態での捕球は反則無効です! ゴンチームの外野からリスタートとなります!!』

 

「よっしゃああ!!」

 

「一番デカいのを吹き飛ばしたぜ!!」

 

 ロドリオット達は盛り上がるが、ラミナ、ビスケ、ツェズゲラは顔を顰めてキルアを見つめている。

 

「くそっ! あんなんじゃだめだ!!」

 

 しかし、ゴンは納得出来ていないようで悔しがる。

 

(まぁ……うちが蹴ったボールよりは弱いんは確かやけど……。これ以上威力を上げる気なら……)

 

「おい、キルア」

 

 ラミナはキルアに声を掛ける。

 キルアは何故声を掛けられたのかを理解しているようで、不敵な笑みを浮かべて、

 

「大丈夫。まだ行ける」

 

「……お前がええなら、うちはええけどな。……覚悟はしときや」

 

「わかってるさ」

 

 キルアは頷いて、ビスケからボールを受け取る。

 

(問題は……威力は上がっても、ボールにそこまでオーラが籠められるわけやない。レイザーの体術を考えると……さっきの倍の威力は欲しいとこやな)

 

 しかし、それは同時にキルアの両手へのダメージも跳ね上がるということだ。

 正直、さっきの攻撃とて、よく無事だったと思うべきなのだ。

 

 それでも、

 

「よーし! もういっちょ行こうぜ! レイザーに1発ぶちかましてやれ!!」

 

「……うん!」

 

 キルアの言葉にゴンは笑みを浮かべて頷く。

 

 試合はいよいよ、佳境を迎えたのだった。

 

 


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