暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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お待たせしました(__)


#75 ソノサイノウ×ガ×オソロシイ

 キルアは再びボールを構える。

 

 ゴンは先ほどよりも威力を上げるために意識を集中する。

 

(もっともっと威力がいる……)

 

 ゴンは最初にオーラを目覚めさせた時のように、自然体をとって目を瞑る。

 

 その状態で練れるオーラを【練】として全て引き出す。

 ゴンの身体から膨大なオーラが噴出し、その量にツェズゲラ達は冷や汗が噴き出す。

 まだラミナほどではないが、それでもあの歳の子供が出せるオーラ量ではなかった。

 

 レイザーはそれでも不敵な笑みを崩さない。

 

 ゴンはゆっくりと腰を落として、右拳を構える。

 

「最初は、グー!!」

 

 練り上げたオーラを全て右拳へと集中する。

 極限まで収束されたオーラがビビビ!!と空気を震わせる。

 

 その圧にラミナとビスケも僅かに目を見開く。

 

 ゴンは左脚を大きく踏み出して、全力でボールに向けて拳を振り抜く。

 

 

「ジャン!! ケン!! グー!!!!」

 

 

 爆音と共にキルアの両手は大きく弾かれて、ボールはまさしく大砲が如く放たれる。

 その威力はラミナの蹴りと遜色ない威力だった。

 

(完璧! 捕れっこねー!!)

 

 キルアも両手の痛みを耐えながらも、手応えを感じていた。

 

 すると、レイザーが両足を大きく開いて腰を落とし、両手を組んで両腕を伸ばしてレシーブの構えを取った。

 

「レシーブ!!?」

 

 誰かの驚きの声とほぼ同時に、レイザーの腕にボールが激突する。

 

 レイザーはボールが直撃する瞬間に【硬】で腕を強化した。

 ボールが直撃した直後、腕と同時に体を大きく引いて、後ろに大きく跳び下がる。

 

「……恐れ入ったわ……」

 

 ラミナはレイザーのレシーブに感服する他なかった。

 それはビスケも同様だった。

 

(刹那の狂いも許されないタイミング! それを同量のオーラをぶつけ、完璧に捕えて受け流した……! この男、本当に強い!)

 

 ボールはラミナやレイザーの時とは違い、天井に当たることもなく、完全に威力を相殺していた。

 レイザーは素早く起き上がって、コートに戻りながら、

 

「逃げると捕るだけじゃないってことさ。ま、あまり参考にならんと思うがね」

 

 ゴンはレイザーの技術に慄くどころか、ハンター試験で初めてヒソカと衝突した時のような興奮が湧き上がってきて、思わず笑みを浮かべる。

 

「すっげぇ……!」

 

 レイザーは落ちてきたボールをキャッチする。

 

「くそぉ……! 絶体絶命か……」

 

 ロドリオットが顔を顰める。

 ツェズゲラも頷いて、ゴン達を見る。

 

「ラミナとゴンはオーラをかなり消費している。かなりの疲労感が襲ってきているはずだ」

 

「じゃあ、無事なのはキルアって少年だけ?」

 

「いや、一番重傷なのはキルアだ」

 

「は?」

 

「キルアはゴンがボールを撃ち出す時、ほとんど両手をオーラでガードしていない」

 

「!? 馬鹿な!? あの威力だぜ!?」

 

「あれは両手で大砲の筒の代わりをしているようなものだ。しかし、あの時キルアがオーラで両手をガードしていたら、キルアのオーラが邪魔をしてゴンのパンチ力を殺して、威力を下げてしまっていた。だから、キルアは両手をほとんどオーラで守っていない。キルアの両手はもはや握ることすら出来ない程、酷く負傷しているはずだ……」

 

 ツェズゲラは顔を顰めて、ゴン達を見つめる。

 ゴン達は一度集合して、

 

「まだ立っとれるか?」

 

「うん。でも……もう後1発が限界だと思う」

 

「キルアは?」

 

「……行けるに決まってんだろ」

 

「……そうか。まぁ、まずはレイザーの球を捕らんと話にならんけどな」

 

「だな……」

 

 その時、ツェズゲラが審判に声を掛ける。

 

「タイム! 審判、質問だ」

 

『はい』 

 

「内野の選手が自分の意思で外野に出ることは可能か?」

 

『はい。ですが、もう内野には戻れませんよ?』

 

「ああ。おい! 来てくれ!」

 

 ツェズゲラは審判の回答を頷いて、ゴン達に声をかけて招き寄せる。

 ゴン達やビスケはツェズゲラと共に、体育館端に移動する。

 

「ゴン。お前が外野に来てくれれば、俺がボールを持てる! キルアの両手はボロボロのはずだ。とてもしっかりとボールを押さえていられる状態じゃないだろう。だからと言って、ラミナの両手までボロボロには出来ない」

 

 ツェズゲラの言葉をゴン達は黙って聞く。

 

「俺ならばオーラの攻防力を超高速で移動させることが出来る! 俺がボールを持つから、外野からレイザーを仕留めるんだ。それしか勝つ方法はない!」

 

「……それじゃ駄目だ」

 

「うん」

 

 キルアがツェズゲラの提案を否定し、ゴンも同意する。

 それにラミナは小さくため息を吐いて、ツェズゲラは戸惑いを浮かべる。

 

「な、なにがダメなんだ……?」

 

「それじゃ逃げたことになる」

 

「なっ!? もうそんなこと言ってる場合じゃないだろ!? ゲホッ! ごほっ!」

 

 ゴンの答えにツェズゲラは声を荒らげて、痛みに咳込んでしまう。

 それにキルアが呆れながら、

 

「無理すんなよ、おっちゃん。あんただって、相当酷くやられてんだろ? 俺ならヘーキ。おっちゃんが思ってるほど痛んじゃいないぜ」

 

「……なら、両手を見せてみろ」

 

「平気だって」

 

 キルアは頑なに強がって、両手をポケットから出さない。

 しかし、そこにビスケが背後から近づいて、キルアの右腕を引く。

 

 キルアの右手はほぼ完全に皮が剥がれており、真っ赤に腫れあがっている。

 

「見ろっ! もう痛み以外の感覚すらあるまい!?」

 

「……やれるさ。もう1球くらいなら大丈夫だよ、ゴン! 俺はやるからな!」

 

「無理だ、ゴン! お前からも言ってやれ!」

 

 キルアとツェズゲラに詰め寄られるゴン。

 しかし、ゴンは少しバツが悪い表情を浮かべて、

 

「俺、キルアの手のこと、分かってた」

 

「「!?」」

 

「ツェズゲラさん、俺は外野へは行かないよ」

 

 ゴンははっきりと言い放つ。

 

「球はキルアが持ってないと。キルアじゃないとダメなんだ」

 

 絶対の信頼を乗せた言葉に、誰もが口を開けない。

 

「ラミナは分かってくれてるみたいだけど。ビスケやラミナじゃ、多分俺は思いっきり撃てない。何も考えず、球に集中して全力をぶつけることが出来るのは、キルアがボールを持ってくれてるからなんだ」

 

「……ま、お前の無茶にずっと付き合ってきたんはキルアだけやからな。お前が人に怪我をさせてまで勝ちにこだわるんやったら、キルアやないと無理やろな」

 

「うん」

 

 まだ1年程度ではあるが、それでも一番ゴンの傍にいて、ゴンと苦楽を共にしてきたのは間違いなくキルアである。

 ゴンの性格を考えれば、仲間に大怪我をさせてまで勝ちを目指すことなど普通は選ばない。

 それでも勝つためにはこれしかないと思っているからこその選択で、その選択はキルアがいるからこそ選べたものだ。

 ラミナでも、ビスケでもない。キルアがいるからこその戦法なのだ。

 

 だから、ラミナはキルアに声を掛けても、ゴンには声を掛けなかった。

 

「まぁ、怪我を治すカードもあるんやろ? 時間はかかるかもしれんけど」

 

「……そうだな。って、ことで。おっちゃん、戻って休んでな」

 

「……分かったよ。頼んだぞ」

 

 ツェズゲラはゴンとラミナの言葉に、これ以上説得できる言葉はないと判断して大人しく引き下がる。

 ビスケは呆れながらも、慈愛の籠った笑みを浮かべて外野へと戻っていく。

 

 キルアはゴンへと顔を向けて、

 

「でだ、カッコいいこと言っても、レイザーからボールを取り戻さないと攻撃出来ねぇんだぞ?」

 

「……もちろん!」

 

「なんか策あるんか?」

 

「ちょっといい?」

 

 ラミナとキルアはゴンに耳を寄せて、作戦を聞く。

 作戦を聞いたラミナとキルアは顔を顰めて、考え込む。

 

「まぁ、可能性はあるが……」

 

「ん~……ちょっと自信ねぇなぁ」

 

「下手したら、反撃分のオーラも使い果たすかもしれんぞ?」

 

「大丈夫。まだ行ける!」

 

「……はぁ。頑固モンは厄介なこっちゃ」

 

「ったく、オメーはいつもとんでもないこと思いつくよな」

 

「へへへ、頼むよ、キルア」

 

 ラミナとキルアは呆れるしかなく、ゴンはそれに開き直ったように朗らかに笑う。

 ラミナ達がコートに戻り、審判が試合再開を宣言すると、

 

 突如レイザーが指を鳴らす。

 

 すると、外野にいた全ての念獣が崩れ去ってオーラに戻り、レイザーへと飛んでいく。

 

「オーラが……!?」

 

「レイザーに戻っていく……!」

 

 大量のオーラがレイザーへと戻り、先ほどのゴンにも負けないほどのオーラを纏う。

 そして、そのオーラの半分近くをボールへと注いでいく。

 

「……あれは今までの比やないで。反撃のことはひとまず頭ん中から放り出せ」

 

「うん」

 

「分かってる」

 

「ふっ。まさか、これを使うことになるとはな。くくく! 久しぶりに、いい感じだぜ!!」

 

 レイザーは気を昂らせながら、前に駆け出してボールを高く放り投げる。

 

「!!? ボールを上に……!? あれは、まさか……スパイク!?」

 

「おい、あれ!!」

 

 ツェズゲラ達がゴン達に目を向ける。

 

 そこにはゴン達が集まって、隊列を組んでいた。

 

 一番先頭にゴンは腰を落として構えており、その背中にキルアが背中合わせで立っており、そして一番後ろでラミナが両手をゴンの両肩に置いて、両腕を伸ばして両脚で踏ん張る体勢を取っている。

 

「まさか……あれで受け止める気か!?」

 

 レイザーは3人の動きを見て、その狙いを理解する。

 

(果たしてどちらが勝つか……勝負!!)

 

 レイザーは全身に力を籠めて、跳び上がりながら右腕を振り抜いてボールに手を叩きつける。

 

 爆音と共にボールが彗星のように、ゴン達に向かって猛スピードで飛び迫る。

 

 そして、ボールが直撃する瞬間、ゴンが全てのオーラを両手に集めてボールを受け止める。

 体をオーラで覆っていたキルアは背中に衝撃が走った直後に、オーラを両足に集中させて踏ん張ってゴンの身体を支える。

 ラミナも直撃の瞬間までゴンの身体を支える。

 

「無理だ!! ゴンが壊れるぞ!?」

 

 ツェズゲラが叫んだ瞬間、ラミナが動いた。

 

 ゴンがボールを受け止めた瞬間、ラミナは床を蹴る。

 ゴンの両肩を支えにしてゴンの頭の上で逆立ちしながら体を捻って、ゴンと向かい合うように着地する。

 そして、両手にオーラを集めて、ボールを上下に掴んで後ろに体を引く。

 

 

「「「―――――――――――!!!!」」」

 

 

 ゴン、キルア、ラミナは歯を食いしばって、声にならぬ気合を叫ぶ。

 キルアの足が床を滑る音が響き、ラミナの両腕の筋肉が再び膨れ上がり、踏ん張る両足の指先は床にめり込み、床を砕きながら滑って行く。

 

 数秒とも、数十秒とも、感じる行く末を全員が息を飲んで見つめる。

 

 そして、

 

 遂にゴン達はコートギリギリで止まり、完璧にボールを受け止めた。

 

「……ふーー……」

 

「っはぁ!!」

 

 ラミナが息を深く吐いて横にずれ、ゴンは止めていた息を大きく吐き出し、キルアは床に座り込む。

 

 それにロドリオット達が歓喜の声を上げ、思わずレイザーの手下達も声を上げる。

 

「うおおおおお!! 止めたーー!!!」

 

「前後からボールを掴んで、止めるとかマジかよ!!」

 

「凄すぎんだろ、お前らーー!!」

 

 レイザーは腰に手を当てて笑みは崩さないも、その内心は純粋に3人への称賛の思いで溢れていた。

 

(脱帽……だな。俺のパワーを奴らのセンスが上回った。その中核を為したのが……)

 

 レイザーはゆっくりと立ち上がって笑みを浮かべているキルアを見る。

 

(ゴンは俺のボールを受け止めるため、手に全てのオーラを集中。臆すことなく、正確にボールを止めた精神力と集中力は称賛に値する。

 

 そして、ラミナ。一番威力が大きいインパクトの瞬間にゴンが吹き飛ばないように支え、流石の身体能力でゴンの前に移動して、反対側からボールを掴むことでゴンがボールを取りこぼすのを防ぎ、更に後ろに体ごとボールを引くことでゴンとキルアにかかる負担を限界まで減らした……!

 

 最後にキルア。ゴンとラミナの間に挟まって、クッションと踏ん張りの役割を果たした。オーラの攻防力移動によって……! 体のオーラが少なければクッションの役目を果たせず、ラミナがゴンの前に回る前にボールの衝撃でゴンとキルアは大ダメージを受けていただろう。逆に足のオーラが少なければ、これも同じくラミナがゴンの前に回る前に3人共外野まで吹き飛ばされていた。体と足への攻防力のバランスは恐らく誤差1%以下の精度を要求されたはず!!

 

 オーラの攻防力移動は戦いの基本であるのと同時に奥義でもある。これほど経験とセンスが要求される技術は他にない!)

 

 レイザーはキルアの才能に背中に冷たいものを感じる。

 しかし、それだけではないことも見抜いており、ラミナに目を移す。

 

(ラミナが最初にゴンを支えたこと、そしてゴンの前に移動してボールを引き止めたことで、キルアに調整する余裕を作った。ラミナが力を出し過ぎれば、キルアのコントロールを乱して、ゴンがダメージを受けていたかもしれない。出来る限り身体能力だけで踏ん張り、キルアの攻防力移動にほぼ完璧に合わせた……。あの若さで恐ろしいほどの経験と実力を持ち合わせている……!!)

 

 レイザーと同じことをビスケも見抜いており、キルアの才能とラミナの実力に感服していた。

 

(恐ろしい子達だわね……。恐らくあたしがラミナの域にまで達したのは30代の後半……。キルアに関しても20代の後半くらい……)

 

 そして、2人はほぼ同時にゴンを見る。

 

 ラミナはキルアにボールを渡しながら、ゴンに声を掛ける。

 

「いけるか?」

 

「うん」

 

「ほな、ここで決めてこいや。全部、出し切ってみぃ」

 

「押忍!!」

 

 ゴンは天空闘技場の頃のように返事をする。そして、深呼吸をしながら自然体をとり、意識を集中する。

 ラミナはゴンの背後に回って、少しでもオーラの回復に努める。

 

 ゴンは先ほどより深く、体の奥に意識を向ける。

 そして、感じ取った全てをオーラを一気に引き出す。

 

 ゴンが目を見開いて、全身に力を籠めた瞬間、

 

 先ほどよりももう一回り膨れ上がったオーラが噴き出した。

  

「「「「!!!!」」」」

 

 想像以上のオーラ量にキルアは笑みを浮かべ、残りの全員が驚愕する。

 レイザーすらも、笑みが消えて呆然とゴンを見つめる。

 

(さっきのが……MAXではなかったのか……!!)

 

「……な……んと…いう……」

 

 ツェズゲラはゴンの底が見えない力に体が小刻みに震えだす。

 

 

 

 そして、ラミナは、

 

「くくくく……! くはははははは!!」

 

 右手で顔を押さえて、笑い出していた。

 

「ここまでか……! ノブナガの目は確かやったんかもしれんなぁ……! ……ホンマ……憎たらしいクソガキ共やで」

 

 ビスケやレイザーが感じていたことは、ラミナとて感じていた。

 

 自分が5,6年かけて辿り着いた領域に、2年足らずで辿り着いたゴンとキルアのもはや才能と言う言葉すら超えているのでは思わせる恐ろしい才能に、ラミナは嫉妬を通り越して笑えてきたのだ。

 ゾルディック家はもちろん、ジンも何だかんだで息子のことを気にしていた理由を、ようやく本当の意味で理解した気がした。

 

(恨むで、クロロ……。こんな連中に会わせよってからに。ホンマに、いつかクモはこいつらに潰されるかもしれんぞ)

 

 想像もしたくないゴンとキルアの将来が、ラミナは恐ろしく、しかしそれと同じくらいの楽しみも感じていたのだった。

 

 

 

 膨大なオーラを纏ったゴンは、無意識に笑みを浮かべていた。

 

 それを見たレイザーは、間違いなくジンの血筋を感じた。

 

(怪物……!! ……喜べ、ジン。こいつは間違いなく、お前の息子だ)

 

 ゴンはキルアに前に立つ。

 

「キルア、本気で行くよ」

 

「ったりめぇだ。遠慮したらブッ飛ばすぞ」

 

 ゴンは腰を落として、拳を構える。

 

「最初は、グー!!」

 

 全てのオーラを再び拳に集中する。

 それにレイザーはレシーブの構えをとる。

 

「ジャン!! ケン!! グー!!!!」

 

 全身全霊渾身の一撃をボールに叩き込む。

 レイザーのスパイクと遜色ない威力のボールが放たれる。

 

 レイザーは両腕に力を籠めながら、オーラを集中していく。

 

(捕れば外野まで吹き飛ばされる。しかし、あそこまでされて、俺が逃げるわけにはいかんだろう!!)

 

「あの威力を完璧に受け流せるわけがねぇ!!」

 

「そうだ! さっきのだって天井近くまで上がったんだ! あの威力なら完璧だったとしても天井に当たるに決まってる!」

 

 ロドリオット達はゴン達がキャッチした興奮が冷めずに、やや楽観的な推測を叫ぶ。

 しかし、それも間違っているわけでもないので、ツェズゲラも内心では勝利を確信したような気持ちになっている。

 

「それは……レシーブの……。(方向によるだろう!!)」

 

 レイザーはボールが両腕に当たった瞬間、勢いよく両腕を振り上げ、更に溜めていたオーラを前部に向かって放出する。

 それによって、ボールはまっすぐゴンに向かって跳ね返った。

 

「なっ!?」

 

(よし!!)

 

「そのままはじき返した!?」

 

「無理だ! ゴン、避けろ!! それでも勝てるんだー!!」

 

 ツェズゲラは痛みも忘れて叫ぶ。

 

(いや、避けないね。そんな勝ち方を望むなら、さっき避けてるさ!!)

 

 レイザーはこれまでの戦いでゴンの性格をよく理解していた。

 

 しかし、ゴンは拳を振り被った姿勢のまま床に倒れた。

 ボールはゴンの真上を通り過ぎて行く。

 

「!!?」

 

 レイザーは驚くも、ゴンの様子から気絶しているのに気づいた。

 全てのオーラを出し切ったことで限界を迎えたのだ。

 

(これは逃げたわけじゃない! お前の勝ちだ、ゴン!!)

 

 ツェズゲラはゴンを称賛する。

 

 しかし、ボールの進行方向には腰を落として構えているラミナがいた。

 

「な、なぜわざわざ……!?」

 

「ふん! んなもん、決まっとるやろが……!!」

 

 ラミナはレイザー同様レシーブの構えをとり、オーラを全て両腕に集中させる。

 そして、四肢に力を籠めながら目を見開き、ボールを見据えながら叫ぶ。

 

「ガキ2人がボロクソになるまでやっとんのに……ここでうちが逃げられるかボケェ!!」

 

 僅かに高い、と判断したラミナは小さく舌打ちして、軽くジャンプして両腕にオーラを集中させて、空中でボールを受け止める。

 

「ふん!!」

 

 再び両腕に全力で力を籠めて両腕を振り上げ、後ろに吹き飛ばされながらボールをレイザーに跳ね返す。

 

「うおお! また弾き返したぁ!!」

 

 しかし、レイザーはすでにレシーブの姿勢になっていた。

 

(駄目だ……! このままじゃこっちの体力切れで負ける!)

 

 キルアは歯軋りするが、その時キルアとゴンの真上を影が通り過ぎた。

 

 それはラミナだった。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 ラミナは両手を突き出した姿勢で猛スピードでレイザーに迫っていく。

 レイザーとビスケは素早く【凝】を発動すると、

 

((オーラの糸!!))

 

 ラミナの両手指からオーラの糸が伸びており、それはボールに絡みついていた。

 ラミナはレシーブする直前に【親愛なる姉様との絆】を発動して、弾き返した瞬間念糸を巻き付けていたのだ。

 

 それを巻き戻しながら、レイザーへと迫るラミナ。

 そして、レイザーの両腕にボールが当たる直前、勢いよく体を捻って回転を始める。

 

 レイザーはその行動を訝しむが、

 

(跳ね返せば関係あるまい!!)

 

 そして、ボールが腕に接触した瞬間、

 

 念糸がレイザーの腕にも巻き付いていき、ボールと腕を縫い付けて行く。

 

「なっ!?」

 

「クモの糸は、そう簡単に引き千切れないよ」

 

「うおおおお――!!」

 

 ボールが腕から離れないため、ボールの威力に耐えるしかないレイザー。

 しかし、恐れていた通り、どれだけ足を踏ん張っても床を滑り続けてしまう。

 

 ラミナは床を蹴って大きくジャンプし、レイザーの真上を飛び越えながら外野へと向かう。

 

 そして、能力を解除して念糸が消える。

 

 

 その時、レイザーは、コートの外に出ていた。

 

 

『レイザー選手! エリア外に触れた状態での捕球は反則です!!』

 

 審判がレイザーの反則を宣言する。

 

 それと同時にラミナがビスケの隣に着地する。

 

『よって、この試合! ゴンチームの勝利です!!』

 

「「「うおおおおおお!!!」」」

 

 ロドリオット達が歓喜に叫ぶ。

 

 その声でゴンは目を覚ます。

 

「え……? 最後、どうなったの?」

 

 ラミナは微妙に痺れを感じる両手を離握手して確かめながら、ため息を吐く。

 

「……ホンマ、あいつらと関わると余計に能力使わされるわぁ……」

 

「ホントに面白い能力だわね」

 

「しゃべんなや。バラしたら、お前の事もバラすぞ」

 

「分かってるわよ。あんたみたいな奴に狙われるのはごめんだわさ」

 

 ビスケとラミナは言い合いながら、ツェズゲラ達の元に向かう。

 そこにゴンとキルアが歩み寄ってくる。

 

「ラミナが最後決めてくれたの?」

 

「まぁな」

 

「っていうか、最後の何だよ?」

 

「【凝】を使っとらんお前が悪い。で、ゴン。レイザーがお前と話したそうやぞ」

 

「え?」

 

 ゴンが振り返ると、レイザーが歩み寄って来ていた。

 

「完敗だ。約束通り、俺達は街を出て行く」

 

「あ」

 

「そういや、そんな話だったな」

 

「その前に、ゴン。ジンについて、少し話してやろう」

 

「!!」

 

「向こうで話そうか」

 

 レイザーは体育館の端を指差して移動し、ゴンもそれに付いて行く。

 ラミナは上着と靴を取りに行き、キルアとビスケはツェズゲラ達の元で待つことにした。

 

 ラミナは靴を履いて上着を着ると、再び大きくため息を吐く。

 

「はぁ~……【親愛なる姉様との絆】までは使う気はなかったんやけどなぁ……」

 

 しかし、使わなければ、決着はつかなかっただろう。

 いや、避ければ終わっていたのだが、その場合ゴンがごねていた可能性があった。

 そうなれば、面倒でしかないので無理矢理でもここで終わらせたかったのだ。

 

「2億か~……。ここまで能力使って、ベンズナイフ壊されて2億か~……。なぁんか割りに合わんでなぁ」

 

 ボヤきながら重い足取りでツェズゲラ達の元に戻る。

 そこではビスケがキルアの両手の状態を確認していた。

 

「痛ぅ~~~」

 

「あ~あ~無茶して。グッチャグチャだわよ。両手とも」

 

 キルアの両手はもはや3倍くらいに腫れあがっており、紫色に変色していた。さらに指も骨折しているようで明らかに変形していた。

 

「お~お~。こら、普通に治すんやったら3,4か月はかかるやろなぁ」

 

「やっぱり?」

 

「ここまでになると、固定して冷やさんと手術しようもないやろ。大人しくツェズゲラ達の手伝いして、クリアしてもろてから治癒のカード探した方がええやろな」

 

「うえぇ……」

 

「ツェズゲラが持っとるん使わせてもろたらええんかもしれんけど、その分クリアからは遠なるでな。ま、そこらへんは話し合って決めたらええんちゃうか? で、ツェズゲラ」

 

「なんだ?」

 

「これ、うちの口座。2億、ちゃんと振り込んでや」

 

「ああ。間違いなく振り込もう」

 

「さて、後はカード貰うだけやろ? うちの仕事は終わりやな」

 

「もう行くのか?」

 

 いつの間にやら気絶から復活し、頬を腫れあがらせたゴレイヌが首を傾げる。

 ラミナは肩を竦めて、

 

「やることないでな。それに、そろそろ仲間のところに顔出さんと、文字通り飛んできそうやし」

 

「仲間って言うと……」

 

「クモやな。……これ以上依頼を受ける気はないで。それでも、近づいてくるんやったら、死ぬ覚悟してから来いや。うちは他の団員を止めきれる自信はないでな」

 

 ラミナはそう脅して、出口に向かって歩き出す。

 その背中をキルアは呼び止めようとしたが、言われた通りこれ以上引き留める理由がないので、口を閉じるしかなかった。

 ゴンは確実に引き留めるだろうと想像は出来るので、この方がいいかもしれないと思い、キルアはその背中を見送るのだった。

 

「いいの?」

 

「止めようがねぇからな。無理矢理引き留めても、拗れるだけだ。ゴンは拗ねるだろうけど、まだこの方が今後も会いやすい」

 

「旅団員にまた会いたいだなんて、物好きだわねぇ~。あ、もしかして……惚れてるの?」

 

「んなわけねぇだろ!!」

 

「ホホホ。随分必死に否定するだわねぇ。まぁ、美人だもんねぇ」

 

「だから違ぇ!!」

 

「ホホホのホ~」

 

 ビスケはキルアの淡い青春を揶揄う。

 恋愛経験のないキルアは、この手の揶揄いに対する上手い誤魔化し方など全く経験がないので、ビスケの掌の上で転がされるしかないのであった。

 

 

 

 レイザーのアジトを出たラミナは、呪文カードでマチ達の元に戻ろうとしたが、

 

「……」

 

 どこからか視線を感じて、動きを止める。

 

 立ったまま視線の方向を探ると、少し離れた崖の上からだった。

 

 その視線に悪意のような不快な感情が込められており、それにラミナは僅かに昂っていた気分が一気に冷めていくのを感じた。

 

「ちっ……水差しよってからに……」

 

 ラミナは小さく舌打ちをすると、殺気を全く漏らすことなく、すぐ近くの森に向かって歩き出す。

 

 苛立ちの元を刈り取るために。

 

 

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