暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#76 オセッカイ×ノチ×ハッケン

 レイザー達の話を聞き終えたゴンは、キルア達と合流してクエストの情報をくれた女性NPCと共に灯台を登っていた。

 

 ラミナがすでにいなくなってしまったことにゴンは不満を感じていたが、キルア達から「契約は終わった以上引き留められない」と言われて不服そうに黙り込んでいた。

 

「あいつが自分から出て行った以上、引き留めれば拗れるだけだって」

 

「けど、お別れくらい言わせてくれたっていいじゃん」

 

「そう言いながら、どうせもう少し一緒に行動しないかって言う気だっただろ?」

 

「う……」

 

「言っただろ? 旅団もここにいるんだ。これ以上あいつを引き留めたら、本当にここに来るぜ?」

 

「む~……」

 

 ゴンはキルアの言葉に反論はしなかったが、納得はしていない唸り声を上げる。

 それにキルアとビスケは呆れたようにため息を吐く。

 

「ほら、今は『一坪の海岸線』をゲットに集中しようぜ。あいつの報酬を払えるように、手伝わねぇといけないんだし」

 

「うん……」

 

 その後、NPCの話を聞いたゴン達は、ようやく『一坪の海岸線』を入手する。

 それを『複製』で数を増やして、ツェズゲラとゴレイヌに渡す。

 

 オリジナルはゴンが持つことになり、灯台を後にする。

 

 するとツェズゲラがゴン達に顔を向ける。

 

「さて、ラミナとの契約を果たすためにゲームクリアを目指さねばならんが……」

 

「ゲンスルー……だね?」

 

「ああ、間違いなくこの先ゲンスルー組との一騎打ちになる。だが、戦闘力では圧倒的にこちらが不利だ」

 

 ツェズゲラの言葉にゴン達も頷く。

 強がったところで勝てるわけでもない。

 

 ただでさえ勝ち目は薄いのに、キルアとツェズゲラは負傷している。

 数日で万全になることは不可能なのは間違いなく、更に戦闘力は低下している。

 しかし、

 

「『大天使の息吹』を使えばいいが、ゲンスルーとどう決着がつくか予想出来ん以上、今使うのは悪手だ」

 

「もしここでツェズゲラかキルアに使って、ゲンスルー達を殺したら『大天使の息吹』も消えちまうからな。もう誰も『引き換え券』を持ってないから、呪文カード集め直しか、他のプレイヤーに独占されたら繰り返しだしな」

 

「そういうことだ」

 

 ゴレイヌの言葉にツェズゲラも頷き、ゴン達も納得する。

 

「俺の負傷や修行不足を抜きにしても、奴の足元にすら及ばない。それがお前達からゲンスルーの能力を聞いて得た印象だ。ラミナも言っていたしな。間違いなくゲンスルーはクモと同じ穴の貉だ。根本的に戦闘に関する心構えが違う」

 

 その時、ツェズゲラの本が具現化した。

 

「「「「!!」」」」

 

『他プレイヤーがあなたに対して、『交信』を使用しました』

 

 本からアナウンスが聞こえ、緊張感が走る。

 このタイミングであることに、全員が嫌な予感を感じ、それは的中する。

 

『……久しぶりだな。誰だか分かるか?』

 

 ゲンスルーの声が聞こえて、全員が反射的に身構えて周囲を見渡す。

 もちろん、姿は見えなかった。

 

「……何の用だ? ゲンスルー」

 

『嬉しいね。覚えててくれたのか。さて、まずはおめでとうと言っておこうか』

 

「……なんのことだ?」

 

『とぼけても無駄だぜ。『一坪の海岸線』をゲットしたんだろ? たった今『名簿』で確認したしな』

 

「くっ……」

 

『単刀直入に言おう。『一坪の海岸線』を寄こせ。代わりにお前達の命は保証しよう』

 

「……ふざけるな」

 

『くくくっ。声がおかしいぞ? 対決でダメージでも受けたか? まぁ、こっちは別にガチンコでもいいぞ? もし取引に応じるなら、一時間後にお前1人でマサドラの入り口まで来い。来なければ力づくでカードを頂く』

 

(くそっ! 何故こんなに早くバレた……!?)

 

『アスタ、アマナ、マンヘイム、――、――……』

 

 突如ゲンスルーが名前を読み上げ始める。

 ツェズゲラは訝しむが、その名前にゴンやゴレイヌ達は目を見開く。

 

『お前達の15人の仲間だった連中……。そうだろ? 本で確認してみな。もうここにはいない。……この世にもなぁ』

 

「なっ!?」

 

「ブック!!」

 

 ゴンが本を具現化して、プレイヤーリストを確認する。

 そして、告げられた者達全員がゲーム不在であると表示されていた。

 

 その事実にゴンは一瞬で頭に血が昇り、

 

「ゲンスルー!!」

 

『……だれだ? お前』

 

「ゴン・フリークスだ! 俺が相手になってやる!!」

 

「なぁ!?」

 

「バッ!!」

 

 突然の宣戦布告にキルア達は慌てる。

 

『……ゴンか。3人組のガキだなっ!?』

 

 突如ゲンスルーの声が驚愕の色へと変わった。

 それにゴン達は訝しみ、声を掛けようとしたが、

 

『誰だ!?』

 

『やっぱお前らやったなぁ』 

 

「えっ!?」

 

「ラミナ!?」

 

 何故かラミナの声が本から聞こえてくる。

 

『お前――』

 

 そこで『交信』が切れた。

 

 

 

 時は少し戻る。

 

 ゲンスルー達はゴン達がいる灯台の近くの崖の上から単眼鏡を覗きながら、『交信』していた。

 

『ゴン・フリークスだ! 俺が相手になってやる!!』

 

「……ゴンか。3人組のガキだ――」

 

 ゴンの声に答えていると、突如ゲンスルー達に殺気が叩きつけられて、3人は弾かれるように立ち上がる。

 

「誰だ!?」

 

「やっぱお前らやったなぁ」

 

 森から現れたのは、紅い髪の女。

 

「お前は……!?」

 

 ゲンスルー達はもちろんラミナのことを忘れているわけもなく、目を見開いて驚愕する。

 ラミナは薄ら笑いを浮かべながら、ゲンスルー達と向かい合う。

 

「ゲスな視線を感じたでなぁ。タイミング的にお前らやろなぁて思てたんや」

 

「ぐっ……!」

 

 ゲンスルーは少し前に単眼鏡で1人灯台から出てきたラミナの姿を捉えていた。

 しかし、こっちに気づくわけはないと思っていたのでスルーしたのだ。

 まさか気づかれており、ここまで来るとは思ってもいなかった。

 

「ゴンの声が聞こえたっちゅうことは、『一坪の海岸線』を寄こせとでも脅しとったんやろ?」

 

「……」

 

「まぁ、ぶっちゃけお前らがプレイヤーからカードをどうやって奪おうが知ったこっちゃないんやけどなぁ」

 

「……だったら、何の用だ?」

 

「あいつらから奪われると、うちに報酬が入らへんねん。流石にタダ働きにされるんは……」

 

 ラミナの顔から表情が抜け落ち、同時に全身を押さえつけるかのような膨大な殺気がラミナから発せられる。

 

「今すぐ殺したなるわ」

 

「「「!!?」」」

 

 ゲンスルー達は空気が重くなったかと錯覚するほどの殺気に、冷や汗を噴き出しながら【練】を発動する。

 

 ラミナは無表情のままゲンスルー達を見据える。

 

「ったく……人のこと言える立場やないけど……。こんな小さい島の中で粋がんなや? 小物共」

 

 ゾクリと背筋に怖気が走るサブとバラ。

 ゲンスルーも息苦しさを感じて、本能的に足がにじり下がる。

 

(……マズイな。確実に俺達よりも場数を踏んでやがる……。ここ最近一方的な戦いばっかだったし、ニッケスのところに数年いたせいで鈍ってるのもある)

 

 ツェズゲラのような実力者とは出来る限り戦闘は避けていた。

 ゲンスルーもツェズゲラ同様にこのゲームのやり方に長く浸っていたことで、実戦から遠ざかっていたツケが回って来ていた。

 

(こんなところで死ぬわけにはいかない。どうにかして隙を見つけて、『同行』で逃げないとな……)

 

 しかし、それすらも簡単ではないことは前回の戦いで思い知らされている。

 また『大天使の息吹』を使わされることを覚悟しなければならない。

 

 そう考えたゲンスルーは構えをとる。

 それを見たサブとバラも覚悟を決めて構えるが、ラミナは相変わらず無表情で突っ立っている。

 

「お前の能力は聞いた。キーワードを言いながら体に触る必要があるんやろ? もう1個も触る必要があるみたいやな」

 

「っ……!」

 

「残りの2人はお前の能力の強化に能力を費やしとるんやろ? 前回なぁんも能力出さんかったし」

 

「ぐ……」

 

「っちゅうことは、雑魚共から殺すべき、やな」

 

 そう言った瞬間、ラミナの殺気が完全に消える。

 それにゲンスルー達が戸惑った瞬間、

 

 ラミナが一瞬でサブの目の前に拳を構えて立っていた。

 

「「!?」」

 

「ちぃ!! (こいつ、殺気を完全に抑え込みやがった!)」

 

 サブとバラは目を見開いて反応が遅れ、ゲンスルーは反射的に左手にオーラを集中させながら左腕をラミナに伸ばす。

 ラミナは上半身を反らしながらゲンスルーの腕を躱し、【打蠍】で右脚をしならせてサブの鳩尾に叩き込む。

 更に両手にスローイングナイフを具現化して、左脚だけで後ろに跳び下がりながら3人に向かってスローイングナイフを投擲する。

 

「がぁ!?」

 

「ぐっ!」

 

「くっそっ!!」

 

 サブはくの字に後ろに吹き飛び、ゲンスルーは顔を顰めてギリギリでスローイングナイフを叩き落として躱し、バラも頬や腕にスローイングナイフを掠らせながらサブの腕を掴んで、無我夢中で引っ張る。

 顔面や急所に向かって飛んでいたナイフは何とか外れたが、1本が左上腕に突き刺さる。

 

「でぇ!?」

 

「サブ!」

 

 ラミナは最初の位置まで下がりながら、スローイングナイフを消す。

 そして、ファルクスとレイピアを具現化する。

 

「っ! マズイ……! バラ!」

 

「分かってる!」

 

 ゲンスルーはレイピアを見て、2人の前に出ながらバラに呼びかける。

 バラも流石のコンビネーションで本を取り出す。

 

 ラミナがレイピアを構えた瞬間、

 

 ラミナの横に本が出現する。

 

『他プレイヤーがあなたに対して、『交信』を使用しました』 

 

『フィンクスだ……。見つけたぜ。これからそっちに行く』

 

「! ……」

 

 ラミナはフィンクスの言葉に動きを止める。

 ゲンスルー達はそれに訝しむも、その隙に距離を取る。

 

「……5分後で。今、取り込み中でな」

 

『分かった。じゃあな』

 

 『交信』を終えたラミナは、武器を消して構えを解く。

 

「……前といい、運がええこっちゃ……」

 

「……」

 

「……はぁ~。ムカつくが……流石にこれ以上は我儘言えんか……」

 

 ラミナはため息を吐いて、ゲンスルー達に背を向ける。

 ただでさえ除念師探しを押し付けて、ゴン達と行動を共にしていたのだ。

 これ以上私情で動けば、流石にマチ達は怒るだろう。

 

 ここでゲンスルー達を見逃すのは業腹ではあるが。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「残念ながら、時間切れや。見逃したるから、さっさと失せぇ」

 

「……バラ」

 

「ああ」

 

「お前、何者だ?」

 

「幻影旅団」

 

「っ!」

 

「『同行』オン! マサドラへ!」

 

 ゲンスルー達は呪文で飛んでいく。

 それを見送ったラミナは、ため息を吐いて歩き出す。

 

「……今のキルア達が勝てるとは思えんし、阿呆なことしよったゴンをぶん殴りたいところやけど……。流石にそこまでうちが面倒見ることちゃうか」

 

 ラミナは森の中に歩みを進めながら短刀を具現化して姿と気配を消し、フィンクスとの合流に備えるのだった。

 

 

 

 ゴン達は恐ろしい殺気を感じて、崖の方へと目を向けていた。

 そして、呪文による移動と思われる光が崖から飛んでいくのを見て、どちらかが逃げたことを理解する。

 

「キルア、今のって……」

 

「ああ。ラミナの殺気だ……。逃げたのは、多分ゲンスルー達……だと思う」

 

「……ここまで殺気が届くなんて……あいつは本当にどれだけ強いんだよ」

 

 ゴレイヌが冷や汗を拭いながらボヤく。

 ゴンが本を取り出して、『交信』を使う。

 

「『交信』オン! ラミナ!」

 

 しかし、カードは発動せずに消失する。

 

『対象者が見つかりません。『交信』は破壊されます』

 

「え!? なんで!?」

 

「恐らく指輪を外したのだろう。指輪を装着した状態でなければ、本は使えない。他の呪文カードの対象にはなるし、『同行』などでも選べるがな」

 

「じゃあ……」

 

「待ちなさい、ゴン。ラミナがそうしてるってことは、あたし達と話す気はないってことだわさ」

 

「けど、怪我してるかも……!」

 

「だとしても、行ってどうするの? 治療も出来ないのに」

 

「それは……」

 

「まずはゲンスルー達をどうするかが先だ。俺達が危険な状況であることは変わらない」

 

 ツェズゲラがゴン達に声を掛ける。

 ゴレイヌも頷いて、

 

「ゲンスルー達も無傷じゃないかもしれん。だから、今のうちに作戦を決めるぞ。今のでゲンスルー達も精神的に追い込まれた可能性もある」

 

「ゲンスルーはゴン達の実力を知らない。恐らくオリジナルの『一坪の海岸線』は俺達が持っていると考えるはずだ。だから、奴らは俺が回復する前に決着をつけたがるはずだ」

 

「ラミナが今後、どう動くか次第ではあるが……。あいつが俺達と行動してたのは知ってるはずだから、ツェズゲラとラミナが組む可能性も考えているはず。それを利用して、出来る限り時間を稼ぐ」

 

「だから、ゴン、キルア。その間に身体を治せ」

 

「「!」」

 

「倒せる実力を秘めているのは、お前達だ。俺達が時間を稼ぐから、お前達はその間に『この条件ならゲンスルーを倒せる』という条件を整えてくれ。ゴレイヌと協力してもらい、今の状況を最大限に利用して……恐らく3週間が限度だ」

 

「3週間……」

 

「こっちからも攻撃を仕掛けて持久戦に持ち込めば、俺達の方が分があるはずだ。それでもキルアの回復は厳しいだろうがな」

 

 ツェズゲラとゴレイヌの提案に、ゴン達は頷く。

 

「だが、ゴン」

 

「?」

 

「先ほどのお前の行動は、最も愚かな行為だ! もしも奴らが挑発に乗り、ここへ来ていたら負傷しているキルアはどうなる!? 最悪全滅していた可能性もあったのだぞ!!」

 

「っ!!」

 

「ラミナが運よく介入してくれたから、良かったものの。お前とてオーラを限界まで使い、明日になれば恐らく身動きすらとれまい! 一時の感情で自分のみならず、仲間の命まで危険に晒したのだぞ!! これはハンター以前の問題だ!!」

 

「……ごめんなさい」

 

「ラミナだったら、間違いなくブッ飛ばしてるな」

 

「だわね」

 

 ツェズゲラの説教にキルアとビスケも頷く。

 恐らく指輪を外したのも、今ゴンの声を聞けば怒りを我慢出来ないと考えたからだろうと2人は思っていた。

 

 その後、ツェズゲラとゴレイヌは作戦を考えて、ゴン達と別れる。

 ゴン達もすぐさまゲンスルー撃破に向けて、動き出すのだった。

 

 

 

 

 ラミナはフィンクスと合流し、シャルナーク達の元に『同行』で飛んで合流する。

 

「ん? 随分と消耗してないか?」

 

「ついさっきまで暴れとってな。中々面倒なイベントやったわ」

 

「ほぅ?」

 

 フェイタンが興味を持つが、ラミナは肩を竦める。

 

「残念やけど、カード化限度枚数MAXや。今、行ったところでなんもないやろうな」

 

「それは残念ね」

 

「で、目標は?」

 

「マチ達が尾けてるよ。早く行ってやってくれ。ノブナガとカルトが可哀想だからな」

 

「大分、たまってるわよ」

 

「……ま、今回はしゃあないか」

 

 シャルナークの指に結ばれた念糸の先を見ながら、マチが苛立っていることを告げられたラミナはため息を吐く。

 それにシャルナークやパクノダが苦笑して、フィンクスやフェイタンは愉快気に笑う。

 

「まぁ、そこは頑張れよ。で、交渉もお前に任せるぜ。成功させろよ」

 

「わぁっとる」

 

 ラミナはフィンクスの言葉に手を振って、念糸の先へと向かう。

 10分ほど歩いた先の森の高台に、単眼鏡を構えたマチ達がいた。

 

「あ、来た」

 

「やぁっと来やがったかよ」

 

「……」

 

 カルトとノブナガがラミナに顔を向けるが、マチは黙ったまま不機嫌オーラを纏って単眼鏡を覗いている。

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、マチの横に立つ。

 

「あの町におるんか?」

 

「ああ。あんたが遊んでる間に、カルトが見つけたよ。あんたが、遊んでる間にね」

 

「……」

 

 明らかに当て付けなマチの言い方に、ラミナは黙り込むしかない。

 その後ろでノブナガとカルトは疲れた顔で呆れていた。

 

「一週間も遊んでやがって。宥めるの大変だったんだぞ」

 

「主にパクノダとボクがね」

 

「……悪かったって……。もうあいつらと会うことも、つるむ理由もないでな。ちゃんと仕事は果たす」

 

「あっそ」

 

「……はぁ。ほれ」

 

 マチの横にしゃがみ込んで、ラミナは自分の指輪を差し出す。

 

「これで『交信』を使われても話すことは出来ん。『同行』とかで来たら、対応はマチ姉とカルトに任せる」

 

「……ふん」

 

 マチは横目で指輪を見て、不機嫌な顔のまま指輪を手に取って懐に仕舞う。

 少しだけ不機嫌オーラが弱まり、ラミナに単眼鏡を渡す。

 ラミナはずらさないように気を付けながら、覗き込む。

 

 見えたのは町の大通りだった。

 

「露天の飯屋にいる全身フードで覆ってる奴だよ」

 

「……ああ。あいつか」

 

「名前は間違いなくアベンガネだったぜ。カルトの紙を貼り付けてあるが、まだ除念師とは判断出来てねぇ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「妙な念獣を連れてる。あの服の下に隠してるんだけど、絶対に離れないんだよ」

 

「……念獣を使って除念するタイプっちゅうことか……」

 

「多分な」

 

「……やから、まだゲームにおるんやな。まだ完全に除念出来とらんっちゅうことか」

 

「どういうこと?」

 

 カルトがラミナの言葉に首を傾げる。

 

「除念したい念を念獣に喰わせたとしても、念獣を消すには条件があるっちゅうことやな。恐らく除念した能力の使い手に対して、なんかクリアせなあかん条件があるんやろ。殺すのは当然として……触れる、相手の身体の一部や体液がいる、再び能力を使わせる、とかな」

 

「なるほど……」

 

「ってこたぁ、協力してもすぐに団長の除念は頼めねぇかもしれねぇってことか?」

 

「そん時は旅団全員でボマーを捕まえに行きゃええだけやろ。ま……まずは交渉を成功させんと話にならんけどな」

 

「それもそうだね」

 

「カルトとマチ姉、うちで町に行こか。ノブナガはシャル達の所に戻って、報告待っとって」

 

「おう」

 

「ほな、行こか」

 

「ああ」

 

「うん」

 

 ラミナ、マチ、カルトは勢いよく飛び出して、猛スピードで町へと向かう。

 

 10分もせずに到着したラミナ達は、アベンガネがまだ食事をしているのを確認する。

 

「さて、行ってくるわ。2人はここで待っとって。複数で行くと、警戒されるやろうし」

 

「あいよ」

 

 そう言ってラミナはアベンガネに近づいて行き、アベンガネの隣に座る。

 フードを被ったアベンガネは一瞬だけラミナを見て、すぐに食事に戻る。

 ラミナは適当に料理を頼んで、料理が届くのを待つふりをしながら、アベンガネに声を掛ける。

 

「なぁ」

 

「……なにか?」

 

「兄さん、この辺の人?」

 

「いや、違う」

 

「そうかぁ……。アンタの知り合いに、お祓い、得意な人とかおらん?」

 

「……お祓い?」

 

「そうそう。うちの祖国でな、悪魔に憑りつかれた仲間がおってなぁ。お祓い出来る人を探しとるんよ」

 

「……」

 

「ええ人知らん? アベンガネさん」

 

「……」

 

 アベンガネは食事の手を止め、顔ごとラミナに目を向ける。

 ラミナも顔を向けており、2人はまっすぐに目を合わせる。

 

「依頼したいんやけど」

 

「……こっちの依頼を受けてくれるならな」

 

「もちろん、ええで? 金でも、殺しでもな」

 

 ニヤリと笑うラミナに、アベンガネは頷く。

 2人は金を支払って町を出て、森へと向かう。その背後をマチとカルトが【絶】で付いていく。

 

 5mほど距離を取って、互いに樹を背にして向かい合うラミナとアベンガネ。

 

「さて、まずは除念の報酬を訊いとこか? あんた、バッテラのところからの参加やろ?」

 

「……ああ」

 

「なら、500億。こっちは支払う用意はある。それとも、ゲームクリアが目的か?」

 

「いや、金で十分だ。金額もそれでいい」

 

「なら、こっちは文句なし。でや、次はそっちの話やな。あんたのその念獣……それが除念能力なんやろ?」

 

「……そうだ。それで協力をしてもらいたい」

 

 アベンガネは簡単にではあるが、フードを取って念獣を見せて自分の能力の説明をする。

 そして、今の念獣を消す方法も伝える。

 

「その能力って体の中に埋め込まれた念でも除念可能か?」

 

「可能だ」

 

「で、解除するには、ボマーを殺すか、奴自身の能力の解除方法を満たせばええんやな?」

 

「その通りだ」

 

「ちなみに他の方法は? 念獣を殺せばどうなるんや?」

 

「この念獣は他の方法では消えない。殺すこと自体が出来ない」

 

「言い方を変えよか。その念獣を()()()()()()()()()()()? ボマーの能力も消えるんか? それとも、またお前の身体にボマーの能力が発動するんか?」

 

 ラミナの問いかけに、アベンガネは目を見開く。

 

「!! ……試したことはないが……恐らくボマーの能力も消えるはずだ。ボマーの能力自体はすでに念獣が吸収・同化しているはずだからな。あくまで

条件は念獣を消すためのものになる」

 

「……なるほどなぁ。……なら、試してみる価値はありそうやな」

 

「なに?」

 

 ラミナの呟きに、アベンガネは訝しむ。

 そして、ラミナは右手にソードブレイカーを具現化して、一瞬でアベンガネに詰め寄る。

 

「なっ……!?」

 

「【脆く儚い夢物語(フラジャイル・ホープ)】」

 

 ラミナは念獣にソードブレイカーを突き刺して、能力を発動する。

 

「ギュイイイイイ!!?」

 

 念獣は不気味な悲鳴を上げて、大きく身体をうねらせる。

 アベンガネは慌てて離れ、ラミナは更に深くソードブレイカーを突き刺す。

 

 そして、念獣は塵のように砕けて消える。

 

 ラミナはアベンガネに目を向け、アベンガネは自分の左肩を見る。

 

 しかし、特に何も変化は起こらない。

 

「成功みたいやな」

 

「……焦らせないでくれ」

 

「すまんすまん。ま、これでそっちの懸念は無くなったっちゅうことやんな?」

 

「ああ。……だが、その能力があるなら……そうか。それは刺す必要があるから、体の中に埋め込まれた能力に使い辛いのか」

 

「そういうこっちゃ」

 

 ラミナはソードブレイカーを消して、肩を竦める。

 

「さて、これでうちの依頼でも、念獣に困ることはなくなったな」

 

「そうだな。出来れば、時々組んでもらいたいくらいだ」

 

「やめときぃ。うちはあんたが思っとるより悪人やからな。さて、じゃあこれから病人の所に行こか。港に行ったことは?」

 

「ある」

 

「そこからカバル港に転移してもらう」

 

「確か……ヨルビアン大陸の左端の国にある港街だな。分かった」

 

「ほんなら……出てきてええで」

 

 ラミナは後ろを振り返って、呼びかける。

 すぐ後ろの木陰からマチとカルトが姿を現して、アベンガネは目を見開く。

 

「安心しぃ。仲間やから。カルト、『再来』のカードちょうだい」

 

「うん」

 

「アベンガネは持っとるか?」

 

「あ、ああ。問題ない」

 

「ほな、さっさと行こか。2人は向こうに合流して、ゲームを出て金の準備しとって」

 

「了解」  

 

 マチは頷いて、カルトがカードを渡す。

 

 そして、ラミナとアベンガネは港へと移動して、クロロがいる港街へと向かうのであった。

 

 

 幻影旅団完全復活の時は、すぐそこまで迫っていた。

 

 


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