暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#78 メンドウ×ナ×ヒッコシ

 ラミナとマチは一週間ほどかけて、カゴッシの家へと戻る。

 

 理由はまっすぐ帰ると、家がバレる可能性があるからだ。

 ラミナは旅団関係者で一番顔バレしている存在とも言える。なので、迂回するように飛行船を乗り、変装を変えながら家へと帰っていた。

 

 と言っても、マチはほとんど変装せずにジャージ姿と着物姿を交互に着ていただけなので、あまり意味はないかもしれないが。

 しかし、そこを怒る度胸はラミナにはない。

 ただでさえ、ここ最近マチをないがしろにする状況が続いていた。

 

 クロロの復活で機嫌が直っているだけで、それを忘れるマチではない。

 なので、埋め合わせを忘れると後で厄介なことになるのだ。

 

 ということで、移動の間、ラミナはマチの要望を出来る限り叶えて、機嫌を取ってきたのだ。

 

「団長達は?」

 

「まだジョイステ動いとるみたいやから、遊んどるんちゃうか?」

 

「ふぅん」

 

「おかげで何の武器がいるんか判断出来んわ」

 

 夜になってから家に帰ったラミナとマチは、荷物を下ろしながら話す。

 マチは前回家に置いて行った服に着替えて、ソファに寝転ぶ。

 

 ラミナは先に地下室へ行って、【アロンダイト】を収納する。

 予備のケースに収めて、さっさとリビングに戻る。

 夕食は空港で食べてきて、冷蔵庫にはほとんど食料はないので、今夜は帰りに買ってきたツマミと酒を広げるだけである。

 

「団長達がゲームから出るまではここ?」

 

「そのつもりやな」

 

「……それはそれで暇だね」

 

「先にクカンユ王国にでも行くか? それとも別んところか」

 

「……それもそれで時間がかかりそうだね」

 

「まぁ、のんびりしてもええと思うで?」

 

 1人用のソファに座って、缶ビールを開けて飲み始めるラミナ。

 マチもソファに寝ころんだまま、缶ビールを開けて飲み始める。

 

「それにしてもクロロの奴、除念早々仕事とは。何だかんだで、ストレス溜まっとったんやろなぁ」

 

「まぁ、念が使えなかったしね。アンタがいたとしても、それなりに不安だったんじゃない? 特にゲームに入ってる間はさ」

 

「ヒソカはもちろん、ゾルディック家がなぁ……。あの家は全員が信じられへんから厄介やでなぁ」

 

 カルトが入団したからと言って、ゾルディック家からすればクロロを狙わない理由はない。

 シルバやゼノは断る可能性はあるが、イルミは一切戸惑うことなく依頼を受けて、クロロを狙っただろう。

 しかも、ジンまで現れれば、ハンターさえ現れる可能性があったのだ。

 

 流石のクロロも気が気でない時があっても仕方がないだろう。

 頼みの綱の念能力も仲間も頼れなかったのだから。

 

「今回の仕事は溜まったストレスの解消っちゅうわけやな」

 

「それとアタシ達への償いってところね」

 

「パク姉やフィンクスもギリギリやったからなぁ」

 

「フェイタンも結構際どかったね。正直、ゲームで殺しが駄目だったら、あそこまで大人しくしてなかったと思うよ」

 

「やんなぁ……」

 

 パクノダはクロロへの負い目。

 フィンクスとフェイタンは、クロロがいないことで自分が好きなように動けないこととなんだかんだでクロロと会えないストレスが、溜まっていたのだ。2人とも分かりにくいが、クロロへの思いは他の団員にも負けていない。

 それは『クロロが定めたクモの掟を命を賭して順守する』という姿勢からも窺える。

 

 なので、クロロは生きているが、団長として動けない。団長として動けないが、生きているクロロ以外で団長を選ぶのも心情的に無理。という状況が非常にストレスだったのだ。

 

 

「全く……愛され過ぎな団長っちゅうんも厄介やな」

 

「アンタだって人の事言えないでしょうが」

 

「マチ姉達ほどやないわ。……多分」

 

 流石に旅団の中では、そこまで激しく『クロロ愛』に溺れていないはずだとラミナは思う。

 もちろん殺されたりすれば、その相手に怒りを覚え、クロロの死を悲しむのは間違いない。しかし、『刺し違えてでも殺す!』とまではならないだろうと、ラミナは考えている。

 

「大して変わらないよ」

 

 マチはジト目を向けながら、缶ビールを傾ける。

 

「ところで、カルトは後どれくらい鍛えるつもりなの?」

 

「ん? ん~……何とも言えんなぁ。前も言うたけど、あいつの身体がどう成長するか次第やし。それにそもそもアイツがずっと旅団におるんかも分からんしなぁ」

 

 シルバに頼まれ、クロロが認めたから面倒を見ているだけなので、ラミナはカルトが考えている最終目標を知らないのだ。

 【発】が完成している以上、念を教えるのも限界があり、肉体を鍛えるにしても体の成長を待たなければ方針を決めようもない。

 

 なので、今カルトにしてやれることは、少しでも実戦経験を増やしてやることくらいなのだ。

 

「旅団が復活した以上、うちばっかが面倒見る必要もないやろ。フェイタンとかノブナガにも付かせたらええんちゃうか?」

 

「なるほどね」

 

 ラミナとマチはその後も酒を飲み続けて、その日はマチに引っ張られてダブルベッドの部屋で一緒に眠ることになったのだった。

 

 

 

 翌日。

 ラミナとマチは食料の買い出しに出かける。

 もちろんマチは手伝うことなどなく、ひたすらにラミナの後ろに付いて、『あれ食べたい』『これ食べたい』を言い続けただけである。

 

 ラミナは諦めているので、最初からマチの要望に応える形で買い物を進めていく。

 一週間分の食料と酒を購入して、さっさと家に帰る。

 

 すると、家のポストに手紙が挟まっていた。

 

「ん?」

 

「手紙?」

 

 ラミナは両腕に食材を抱えているので、マチが手紙を手に取り勝手に封を切る。

 そして、2人で覗き込んで素早く中を読む。

 

「……アルケイデス?」

 

「……みたいやな。あのクソ爺……」

 

 アルケイデスにこの家について話したことなどない。

 なので、この家に手紙を送ってきたということは、

 

「……警告か……。この家のことが怪しまれとるみたいやなぁ」

 

「だね。鼠の歯が届きそうだってさ」

 

「まぁ、最近目立ちすぎたからなぁ。流石に気づく奴くらいおるわな」

 

「どうすんの?」

 

「他にも用意しとる隠れ家はあるけど……。地下倉庫の荷物がなぁ……」

 

「あれ全部運び出すの?」

 

「流石に放置できんやろ。クロロの本とかもあるし」

 

 ラミナは顔を顰めて、引っ越しスケジュールを考える。

 手紙であることから、まだ猶予はあるだろうと推測できるが、クカンユ王国の仕事に行けば、帰ってくる頃にはこの家は襲撃された残骸が残っているだけだろうことは間違いない。

 

 とりあえず、食材をキッチンにしまって、ラミナとマチはすぐさま地下室に向かう。

 

「ここって隠し通路とかないの? シェルター作っといて」

 

「あるで」

 

「……あっそ」

 

 サラリと答えるラミナにマチは呆れるしかなかった。

 ラミナは奥側の壁に歩み寄り、壁にかけている武器を下ろして棚を退ける。

 

 そして、シェルターを開ける時と同じように壁の一番下に窪みがあり、そこに手を差し込んで奥にあるスイッチを押す。

 

 壁の一部が下がって、隠し通路が出現する。

 

「遊びすぎ」

 

「安全考えたら、これくらいになるんやって」

 

「で? どこに通じてんの?」

 

「少し離れたところにある貸し倉庫。そこにトラック置いとるから、これら運び出すわ」

 

「時間かかりそうだねぇ」

 

「それはもう諦めるしかないわな。早速始めるわ」

 

「手伝うよ。暇だし」

 

「悪いけど、まずはシェルターのあの3本から行くわ。ケースごと運び出すでな」

 

「……面倒だね」

 

 ラミナとマチは早速武器を運び出していく。

 倉庫の端に繋がっていた地下への入り口を開けて、そこに置かれていた6トントラックにドンドン武器を運び込んでいく。

 お宝の3振りのケースをトラックの奥に設置して、ロープで固定する。

 その後は、ドンドン長物の武器から運び出して、刀剣類、短剣類は箱に仕舞ってドンドン運び出していく。

 

「集め過ぎだよ」

 

「しゃあないやろ。うちの生命線なんやから」

 

 2時間経っても、まだ終わらない作業にマチはうんざりした顔を浮かべる。

 ラミナは申し訳ないと思うが、隠れ家にする以上武器を貯めておかないといけないのだ。

 

 更に1時間かけて全ての武器を運び出し、その後は書斎の本や団員が気に入っていた家具を放り込む。

 

 必要な荷物を運び終えた頃には、夕暮れを迎えていた。

 

「明日の朝に引っ越ししよか」

 

「どこに?」

 

「まぁ、お楽しみっちゅうことで」

 

「……まぁ、いいけど。で、誰が狙ってるのか予想はついてるの?」

 

「一番可能性が高いんは賞金首ハンターやろな。その次にハンターを雇ったマフィアンコミュニティー。大穴で仲介屋が雇った殺し屋」

 

「どいつにしろ、念能力者ってことね」

 

「まぁ、せやろな」

 

「透視系の能力者とかがいたら、アウトじゃない?」

 

「うちがそこを考えとらんとでも? この家の壁には神字を張り巡らせて、念能力じゃあ覗けんようにしとる」

 

「そんなこと出来んの?」

 

「まぁ、あくまで念能力の効果を外側から弾くだけやけどな。機械類使われたら、どうしょうもないけど」

 

「ふぅん」

 

 準備を終えたので、ラミナとマチは余裕のディナーを迎えていた。

 正確にはマチの、であるが。

 ラミナはいつも通りマチのリクエストに応えながら、つまみ食いしながら調理を進めていく。

 

 買い込んだ食料が半分ほど余ったが、無理に食べても()()()()()()()()()()()諦めることにした。

 

「全く……最近散財ばっかやな」

 

「次の仕事で今回分は取り戻せると思うよ?」

 

「次の仕事は盗むもんが中々売りにくい代物やからなぁ。金としては微妙な気ぃするんよなぁ」

 

「じゃ、諦めるんだね」

 

「はぁ……。まぁ、殺し屋で旅団員なった以上、ここは近いうちに放棄することになるとは思とったけどな」

 

 料理を食べ終えたラミナはため息を吐きながら、ワインの栓を抜いて直接口を付ける。

 マチは苦笑しながら缶ビールを傾けていると、僅かに目を細めて玄関側に視線を向ける。

 

 ラミナも顔を引き締めて、庭側の窓に目を向ける。

 

「……いくつ?」

 

「……はっきりしとるんは表に4匹。裏に3匹」

 

「じゃあ、倍は覚悟しとくべきだね」

 

 ラミナはコインを弾いて、手で隠す。

 

「どっちや?」

 

「裏」

 

「……表やな」

 

「ちっ」

 

「包丁とかいる?」

 

「いらない」

 

 ラミナは包丁を右手に持ったまま、ワイン瓶片手にリビング側に歩いていく。

 マチは缶ビールを飲み干して缶を握り潰し、玄関側に立つ。今のコイントスはどっちが狭い玄関側を受け持つかというものだったのだ。

 

 その直後、庭に通じる窓とカーテンを突き破って、念弾と思われる光弾が大量に飛び込んでくる。

 更に黒い覆面を被った傭兵のような男が右手にコンバットナイフを構えて、ラミナに迫ってくる。

 

 更に玄関側からもドアが蹴破られる音が響き、数人の気配が駆け寄ってくるのを感じた。

 

 ラミナは念弾を避けながら、【周】で包丁を強化して飛び交う念弾よりも高速で投擲する。

 包丁は迫ってくる男の顔の横を掠めながら飛んでいく。

 

 傭兵の男は外したと思ったが、自分の背後に誰がいるのかを思い出す。

 

「!?」

 

 男は背後に顔を向けると、ショットガンを構えていた同じく傭兵風の男の眉間に包丁が深く突き刺さっていた。

 

「っ! おのれ! なっ!?」

 

 男はラミナに顔を向け直すも、目の前にワイン瓶が飛んできていた。更にラミナの姿が消えていた。

 男は反射的にワイン瓶を左手で払い退ける。

 

 しかし、ワイン瓶が男の真横で制止する。

 それを視界の端で捉えた男は、目を見開いて顔を向ける。

 

 直後、男の喉に鋭い衝撃と痛みが走り、目の前にはいつの間にか、左手でワイン瓶を掴み、右腕で短刀を振り抜いているラミナの姿があった。

 

「がっ……!?」

 

「突攻役が後ろの仲間やられたくらいで、目ぇ逸らすんはあかんやろ」

 

 倒れて行く男に呆れながら言い放って、ワインを煽るラミナ。

 すると、背後を振り返りながらワイン瓶を振り被り、オーラを籠めて投げる。

 

 マチが最初に飛び込んできた男の首をへし折っているところに、続いてマチに迫って来ている男の顔面にワイン瓶の底がぶつけられる。

 

「ぶぇっ!?」

 

 男が怯んだ瞬間、ラミナは短刀をレイピアに変えながらマチの元に駆け寄り、能力を発動して素早く男の額と左胸に風穴を空ける。

 マチはワイン瓶をキャッチしながら後ろに下がり、ラミナと入れ替わる。

 ラミナは左手にスローイングナイフを具現化し、風穴を空けた男の死体を蹴り飛ばして、後続の敵を牽制する。

 

 スローイングナイフを投擲して、更にレイピアを連続で突き出す。

 

「があ!!」

 

「ぎぇ!!」

 

 悲鳴が廊下から響き渡り、ラミナはマチの傍に下がる。

 マチは呑気にワイン瓶を煽っている。

 

「後は?」

 

「……【円】に引っかかったんは3人。けど、気づいて逃げられたわ。そこそこ慣れとる連中やな」

 

「見た目は傭兵っぽいね」

 

「まぁ、こいつら全員がプロハンターかどうかは分からんけどな。トップ、または雇い主だけがプロハンターなんかもしれんし」

 

「なるほどね」

 

 その時、庭の方から何かが家の中に投げ込まれる。

 

 目を向けた2人が捉えたのは、オーラを纏う手榴弾だった。

 それに対処しようとした瞬間、ラミナの背後に巨大な蟷螂のような化け物が出現する。

 

「蹴とばせ!」

 

「分かってる!」

 

 ラミナは左手にソードブレイカーを具現化して、念獣に向き合う。

 マチは素早く左脚を振り抜いて、手榴弾を蹴り飛ばす。

 

 手榴弾は勢いよく窓から飛び出し、裏手の一軒家に叩き込まれた瞬間爆発して家が吹き飛ぶ。

 更に念獣はソードブレイカーに斬りつけられて、その身体を霧散させる。

 

「あらら……。こら、とっとと逃げんと警察やら他のハンターも来よるな」

 

「どうせ、バレるんだし。今更でしょ」

 

「まぁな。さて……ほな行くかって……漫画みたいな登場やなぁ」

 

 ラミナは呆れた表情を浮かべて玄関側を見て、マチはめんどくさげに庭に目を向ける。

 

 満を持した感を纏って玄関から現れたのは、黒い丸刈りで柔道着を着た40代くらいの男。

 

 そして庭から現れたのは、2mくらいで筋肉質な浅黒い肌を持つ女。

 前半分をコーンロウにして、後ろ半分を肩まで無造作に流している茶髪に、チューブトップにハーフパンツとアマゾネス感全開である。

 

 もちろん2人ともオーラを纏っている。

 

 マチはワインを飲みながら、

 

「アンタがさっきの手榴弾投げた奴?」

 

「はっ! そんなわけないだろ? あんなチマチマした戦い方なんざするかい」

 

 アマゾネス女は嗤い飛ばして、ゴキゴキと指を鳴らす。

 それにマチとラミナは「強化系か……」と、分かりやすい性格に呆れる。

 ラミナも柔道着男に目を向けて、

 

「アンタもあの傭兵共のボスっちゅう感じやないなぁ」

 

「無論。我らはただ雇われたのみである」

 

「賞金首ハンターか?」

 

「うむ。悪名高き幻影旅団。殺し合うには不足なし」

 

「そっちも?」

 

「そうだね。まぁ、噂ほどじゃなさそうで、ガッカリだけどね。こんなヒョロい小娘があのクモの一員だなんてさ」

 

 アマゾネス女は肩を竦め、マチを見下ろして鼻で笑う。

 マチは小さくため息を吐いて、ワイン瓶をラミナに放り投げる。

 ラミナは目を向けることなく、ワイン瓶をキャッチする。

 

「そのままでええの?」

 

「問題なし。そっちは?」

 

「聞くまでもなし」

 

「じゃ、さっさと終わらせるよ」

 

「へいへい」

 

「……言ってくれるじゃないか」

 

「甘く見ておると、痛い目に遭うぞ?」

 

 アマゾネス女と柔道着男は目を鋭くして、オーラを強める。

 ラミナは肩を竦めると、手首の力だけでワイン瓶を柔道着男の顔を目掛けて投げる。そして、スローイングナイフを左手に数本具現化すると、ワイン瓶を目隠しにして続けて投擲する。

 

 柔道着男は全く驚くことなく素早く右腕で払い除け、続けて迫ってくるスローイングナイフを全て両腕で弾いたかと思うと、

 

 全てのスローイングナイフが爆発して砕かれる。

 

「ほぉ……」

 

「無駄ぞ。その程度のものでは我には届かん」

 

 柔道着男の両腕には、武骨な黒い手甲が出現していた。

 

(あれに触れたモンを爆破する能力か。攻防一体の武闘家らしい能力やな。けど、そこまで威力はない。油断は出来んけどな)

 

 ラミナは右手にファルクス、左手にブロードソードを具現化する。

 

「……多種多様の武器を具現化する能力。情報通りだな」

 

 ラミナはその言葉に答えず、小さく【円】を発動して柔道着男をオーラ内に捉える。

 柔道着男は滑る様に前に出て、右拳を鋭く突き出してラミナに殴りかかる。

 ラミナは一歩下がりながら、右腕を弾くようにファルクスを振り上げて【狂い咲く紅薔薇】を発動する。

 

 ファルクスの刃が手甲に触れた瞬間に爆発が発生し、ラミナの右手に連続で衝撃が叩き込まれる。

 

「っ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 ラミナは僅かに目を見開いて後ろに跳び下がり、柔道着男も左肩と右脇腹から血が噴き出して動きを止める。

 

 ラミナはファルクスに目を向けると、大きく刃毀れしており、剣身にヒビが入っている。

 ファルクスはラミナの意志に関係なく、右手から消滅する。

 

「……なるほど。対象に触れ続ける間爆発する能力か。相手に触れた時間が長いほど爆発の威力が上がるっちゅうところか?」

 

「ごほっ! ……その通りだ。我が【鐵拳断風(てっけんたちかぜ)】は、相手に触れている間常に炸裂する」

 

「確かにうちの能力と相性が良い……て考えるやろなぁ」

 

 ラミナは頷くと、一瞬で柔道着男の背後に回る。

 

「!?」

 

 柔道着男は目を見開くも、左裏拳を素早く繰り出す。

 しかし、

 

「遅い」

 

 【一瞬の鎌鼬】を発動して、柔道着男の左腕が肩口から斬り飛ばされる。

 更に背中からも血が噴き出し、ラミナが再び一瞬で正面に移動する。

 

(っ!! は、速すぎ…る……!)

 

「その能力を活かすんやったら、受けに回るんは悪手やぞ。老いぼれ」

 

 柔道着男は右腕を動かそうにも、すでに右腕は男の肩から斬り離れ始めており、気づいた時にはラミナの右手には心臓が握られていた。

 

 男は目を見開いて己の胸に目を向け、胸からジワリと血が滲み始めているのを見て、それが己の心臓だと気づいた時には、男の意識は永遠の闇へと落ちていった。

 

 ラミナは心臓を放り投げて、ブロードソードを消す。

 

「……これでスローイングナイフとファルクスもストック0。はぁ……まぁ、仕事で使えんくなるよりはええか」

 

 ラミナはマチの方に顔を向ける。

 

 マチは特に怪我もなく立っており、

 

 その足元には、何やら呻きながら蠢く肉玉が転がっていた。

 

「うー!! うぅ! うぅお゛ぉ!!」

 

「ふん……」

 

「相変わらずえげつないこって……」

 

 肉玉はアマゾネス女だった。

 

 四肢は折り畳まれた状態で固まっており、左目と口を閉じて、右目だけが大きく見開かれて血走っている。

 全身に汗が噴き出しており、太く血管が浮かび上がるほど力を籠めているように見えるが、全く姿勢が変えられていない。

 

 アマゾネス女の身体中には、マチの念糸が縫い付けられていた。

 脚はふくらはぎと太腿、太腿と腹部で縫われており、腕は交えるように胸や脇腹に縫い留められている。

 

 もちろん左目と口も念糸で縫われている。

 

 全ての念糸の先はマチの両手に握られていた。

 

(両腕は殴りかかって縫われ、両脚はまずふくらはぎと太腿を縫いながら引っ張られてバランスを崩したところに、太腿と腹を縫われて固定されたか……。切り離された念糸ならともかく、まだマチ姉が握っとる状態じゃあまず引き千切れんわな)

 

「終わったんなら行くで」

 

「ああ」

 

 マチはラミナの言葉に頷いて、窓際に落ちているナイフを拾う。

 握っている糸をナイフの柄に縫い付け、最後にアマゾネス女の首に念糸を巻き付けて、その念糸の先もナイフの柄に縫い付ける。

 

 ラミナは首を傾げていると、マチはアマゾネス女を右腕のみで掴み上げ、左手に握っているナイフを天井深くに突き刺した。

 

「ラミナ、ちょっと()()持ってて」

 

「……まぁ、ええけど」

 

 ラミナはマチが何をする気なのか気づいて、頬を引きつらせながらアマゾネス女を抱える。

 

 マチは念糸でナイフが抜け落ちないように天井に縫い付ける。

 

「もういいよ」

 

「あいよ」

 

「う゛ー!?」

 

 アマゾネス女もようやく何が起きるのか理解して体を揺するが、もちろんその程度で念糸から逃れるわけはない。

 

 そして、ラミナが手を離した瞬間、アマゾネス女の首に巻きついた念糸が勢いよく締め付け始め、更に体を縫い付けている念糸も引っ張られて力強くなる。

 

「う゛……お゛ぉ……! う゛ぉー!!」

 

「千切れへんの?」

 

「この長さと本数なら、しばらく保つと思うよ」

 

「ふぅん。ほな、さっさと行こか」

 

「ああ」

 

 ラミナとマチはすでにアマゾネス女から興味を無くして、地下室へと向かう。

 

 アマゾネス女は必死に念糸を引き千切ろうとするが、そうすればするほど首の糸が締まっていく。

 

「ぐ……ご……!?」

 

 口が開かないので呼吸がし辛く、意識が遠のいていく。

 

 どうしようもない状況に、アマゾネス女はただただ必死に暴れるのみ。

 

「う゛ー!! う゛ー!! う゛お゛お゛お゛〝ゴギッ〟げっ――――――!」

 

 鈍い音と共に呻き声も途切れ、残ったのは振り子のように揺れる肉玉と死体のみとなった。

 

 

 

 ラミナはマチと地下室に下りると、階段の壁に設置されている機器を操作する。

 

「なにしてんの?」

 

「ここの入り口を閉じとるだけや。まぁ、時間稼ぎにしかならんやろうけど」

 

「意味あんの?」

 

「他にも仕掛けがあるし、さっさと行こか」

 

「だね。雑魚の相手も面倒だし」

 

 マチとラミナは隠し通路から倉庫へと移動する。

 隠し通路の扉も閉めて、倉庫のシャッターを開ける。

 

 マチはさっさとトラックの助手席に乗りこんでおり、ラミナも運転席に乗り込む。

 

「で、新しい隠れ家ってどこ?」

 

「こっから2,300km北の山ん中の別荘地帯」

 

「ふぅん。じゃあ、さっさと行こ」

 

「もうちょい待って。多分、そろそろやと思うんよなぁ」

 

「は?」

 

 マチは椅子を少し倒して、両脚を投げ出しながら訊ねる。

 そして、出発を促すも、ラミナは意味深な言葉を言ってエンジンをかけない。

 

 そのことにマチが訝しむと、

 

 

ドオオォォン!!

 

 

「!!」

 

 少し離れた場所で巨大な爆発が起こる。

 マチが目を見開くと、今度は周囲の家や街灯の明かりが全て消える。

 

 それと同時にラミナはトラックのエンジンを始動させる。

 

「よっしゃ、行こか」

 

「……これもアンタの仕業?」

 

「おう。あの地下への入り口を無理矢理開けると、家中に仕掛けてあった爆弾が弾ける仕掛けや。さらに発電施設も連動して爆発して、街中を停電させることで監視カメラとか止めて、その隙に悠々自適に逃げ出すっちゅうことやな~」

 

「……」

 

 ラミナはトラックを走らせながら説明し、マチはただただ呆れるしかなかった。

 

「家は跡形もなく吹き飛ぶやろうから、死体もまともに残らんやろ。地下室も埋まるように仕掛けたから、掘り出すだけでも時間かかるやろな。あの隠し通路と倉庫に気づくんもだいぶ先やろうしな」

 

「……だから、遊びすぎ」

 

「家を荒らしよった奴に、仕返ししたいだけや。結構気に入っとったし、金掛けて改築したんやで?」

 

 ラミナはハンドルに顎を乗せて不貞腐れながら運転する。

 それにマチは苦笑し、後部座席に置いてあるジョイステに目を向ける。

 ジョイステは未だオーラを纏って起動中だった。

 

「団長……目的忘れてんじゃないだろうね?」

 

「っちゅうか、クロロとかシャルは出とるんちゃうか? カルトとかフィンクスとかが残っとるだけで」

 

「……なるほどね」

 

 マチは携帯を取り出して、シャルナークにメールを送ってみる。

 数分もすると着信があった。

 

「……団長はまだゲームの中で勘を取り戻してるってさ。今、外にいるのはシャルにパク、コルトピ、フラン、シズクだってさ」

 

「なるほどな。あ、ついでにこっちの状況も軽く伝えとって」

 

「了解」

 

 マチは頷いて返信する。

 

 その後はひたすらラミナが運転して、新しい拠点を目指すのだった。

 

 

 

 

 その頃。

 吹き飛んだラミナ邸。

 

 消防車、救急車、パトカーなどがひしめき、捜査関係者や野次馬やらが大勢動き回っていた。

 

「あ~あ。こりゃひでぇ」

 

「随分と派手にやったわねぇ」

 

 顔を出したのはモラウとメンチ。そして、ナックル達弟子組だ。

 

 ナックルは盛大に顔を顰めており、コロロルクとザーニャも険しい顔で悲惨な現場を見つめている。

 

 ラミナ邸は跡形もなく、地面が窪んでいる。

 その両隣の家も半壊状態だった。

 

 停電しているせいで明かりが少ないので、未だに被害状況の全容が見えない。

 焦げた臭いと、僅かに匂う肉が焼けたような臭いが立ち込めている。

 

 モラウ達はハンター証を見せて、規制線の中に足を踏み入れる。

 すると、ラミナ邸の前に牛を思わせる白黒の服を着た男が立っているのに気づいた。

 

「あいつは……」

 

「ん? あら、十二支んじゃない」

 

「ん? お前達は……」

 

 モラウ達の声に気づいて、振り返った男の名はミザイストム。

 ネテロが選んだ12人の優秀なハンターの1人で、ミザイストムはその見た目同様『丑』の称号を与えられている。

 もちろん実力があるだけではなく、それぞれ得意分野を持っており、星持ちハンターばかりである。

 

 ミザイストムは『クライムハンター』を名乗るダブルハンターで、弁護士の資格を持ち、警備会社を経営している。

 賞金首ハンターとは少し毛色が違うので、ここにいることにモラウ達は自分達を棚に上げて首を傾げる。

 

「何でアンタがここにいるんだ?」

 

「……たまたまこの近くで仕事をしていたんだ。そしたら、あの爆発で、この現状だ」

 

「なるほどね」

 

「お前達はどうしてだ?」

 

「ここの家の持ち主が、俺達の顔見知りでな。襲撃するって情報を聞いて、駆けつけたんだが……」

 

「間に合わなかったってわけ……」

 

「……ふむ」

 

 ミザイストムはモラウとメンチの言葉に、顎を手に当てて考え込む。

 ナックルとコロロルクはラミナの家に近づくも、警察の鑑識に止められる。

 

 ミザイストムはモラウ達に顔を向けて、

 

「こっちで話そう」

 

 ミザイストム達は警察からも野次馬からも離れた場所に移動する。

 そして、モラウ達から詳細を聞き、盛大に顔を顰める。

 

「クモとゾルディック家に関りが深く、ハンター証を持つ凄腕の暗殺者か……」

 

「しかも、最近アンタのお仲間の〝猪〟が一ツ星にしたけどな」

 

「……ジン……!」

 

「今はそんなことどうでもいいのよ。ここを襲った連中の生き残りはいないの?」

 

「今の所、見つかっていない。あの現場だ。身元が分かる状態の死体なんて残ってないと思うべきだろうな」

 

「だよな……」

 

 モラウは頭をガシガシと掻いて、ため息を吐く。

 すると、苛立ちがマックスに達したナックルが、

 

「あの女も吹き飛んだんじゃないっすか?」

 

「あん――!」

 

「それはないな」

 

 メンチがすかさず怒鳴ろうとしたが、その前にミザイストムが力強く否定する。

 

「おかしいと思わないのか? この停電」

 

「は?」

 

「たかが家一軒、しかもこんな郊外の場所で爆発したくらいで、街全体が停電になると思うか?」

 

「確かにな」

 

「発電所でも原因不明の爆発が確認されている。恐らく、その女だな」

 

「なんでそんなところに?」

 

「今も街の中心部以外はまだ停電したままだ。信号や監視カメラも含めてな」

 

「っ!! 追跡を逃れるためってわけかい?」

 

「そう考えるべきだ。しかも、あの家の床の崩れ方……」

 

 ミザイストムはラミナの家の床が窪んでいるのを思い出す。

 

「あの崩れ方は地下室があった可能性が高い。ここまで用意周到な奴だ。地下通路があってもおかしくはない」

 

「……つまり、今頃は余裕綽々でこの街を出て行っていると?」

 

「ああ。止めようにも、この状況じゃあ警察は停電の対処で間に合わんだろうな。それに運良く見つかったとしても、捕らえるには相当の被害を覚悟すべきだな。ヨークシンやクヘンタの二の舞を起こすわけにいかん」

 

「そもそも幻影旅団はヨークシンで団長達の死体が見つかったのでは?」

 

 シュートが動画で首を晒されていたことを思い出す。

 それにミザイストムが腕を組んで鼻でため息を吐く。

 

「あれは念で造った偽物の死体だ。あの動画の後、死体が消えたそうだ。マフィアンコミュニティーはかなり焦ったが、連中が流星街出身であることと十老頭が殺されていたことで手出しを止めた。しかも、首の動画を晒したその日に、ホテルや街で暴れている旅団の姿が目撃されている。……まぁ、欲をかいてタラチュネラファミリーを動かし、酷いしっぺ返しにあった奴らもいたがな」

 

「つまり旅団はピンピンしてるってことね」

 

「ああ。マフィアンコミュニティーは立て直しで手一杯だろう。立て直したとしても、ゾルディック家と繋がっている可能性がある以上、もはや手出しできないだろうがな」

 

「で、今回はハンターが手を出して、返り討ちにあったと……」

 

「誰がやられたのか分からないのが何ともな」

 

「1人は分かってるぜ。賞金首ハンターのドルドーって奴だ」

 

 モラウが呆れながら、ハンターの名前を挙げる。

 

 ちなみにドルドーは蟷螂の念獣の使い手で、地下室への扉を無理矢理開けて、爆死している。

 そして、手榴弾を投げ込んだ部下とこの家を見つけたハッカー担当の部下も一緒に吹き飛んでいる。両隣の家にまで被害が出たのは、この部下の手榴弾もまとめて爆発したせいである。

 

 メンチは盛大に顔を顰めて、

 

「あ~もう! だから、あたし達が行くまで手を出すなって言ったのよ!」

 

「まぁ、来てもどうにか出来たか分からんがな」

 

「こんな被害出すくらいなら、とっとと逃がしてやった方がマシだったわよ」

 

「まぁ……そりゃあな」

 

「手柄に焦って全滅。しかも、どこ逃げたかも分かんないって最悪じゃない。これだったら、放置して監視してた方がよっぽどマシよ」

 

「まぁ……そうですね」

 

 ザーニャもメンチの意見に賛同する。

 メンチ達もようやくラミナの手がかりを見つけ、余計なことをしようとしている連中を引き留めようと急いできた結果がこれである。

 完全に手がかりを失ったことで、また調査は振り出しだ。

 むしろ、メンチは今もよく我慢しているとすら思っている。

 

 しかも、一年足らずでシングルハンターになっているのだから尚更である。

 

「メンチさん。流石にこれ以上は無理だよ。依頼が溜まって来てる」

 

「……分かってるわよ。手がかりもなくなったしね」

 

「俺らもだな」

 

「俺が調査を続けよう。何か分かったら、連絡してやる」

 

 ミザイストムの提案に、メンチとモラウは頷いてホームコードを交換する。

 

 そして、メンチ達はそれぞれの仕事に戻ることにして、ミザイストムを残して去る。

 

 ミザイストムはその背中を見送って、大きくため息を吐く。

 

「旅団員の可能性があるシングルハンターの暗殺者、か。会長はもちろん、パリストンも興味を持っていてもおかしくはない。いや……もしや、今回の襲撃も奴が煽った可能性があるか……。何にしても、厄介な存在だな」

 

 ミザイストムはラミナの脅威を決して過小評価せず、まずは徹底的に情報を集めるために動き出すのだった。

 

 




柔道着男の能力はもちろん、BLEACHの六車隊長の卍解が元ネタです。

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