暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#79 ホウモツコ×ノ×セイリ

 翌朝。

 

 ラミナが運転するトラックは【フィンメス】という街から10km離れたところにある別荘地に到着する。

 ここに来る前に食料などの買いこみは終えている。

 別荘地とあって人気はなく、トラックが走ろうとも大して注目は集めない。

 

 ラミナはその別荘地の更に外れにある洋館の前で、トラックを止める。

 

「ここ?」

 

「おう」

 

「……前の家より大きいじゃん」

 

「デカすぎて管理が面倒やねん。しかも、移動に不便やしな。ちょっと待っとって」

 

 ラミナはトラックから降りて、門を開ける。

 すぐに運転席に戻って、敷地内にトラックを入れる。

 屋敷の裏手に回ると大きめの倉庫が設置されており、そこのシャッターも開けてトラックを入れる。

 

「到着っと」

 

「また荷物運ぶの?」

 

「先に屋敷の中、確認しよか。しばらく使うてなかったし」

 

 ラミナとマチは倉庫から出て、屋敷の中に入る。

 屋敷は2階建てで、昔貴族が使っていたと言っても納得する造りだった。

 

「……前の家よりも金かかってんじゃないの?」

 

「いや、こっちは軽くリノベーションしたくらいやな。地下室は元々あった奴を弄っただけで、新しく建てたんはガレージとトラック停めた倉庫くらいや」

 

「ふぅん」

 

「一階はリビング、食堂、キッチン、応接間、風呂、物置。二階は書斎と各自の部屋」

 

「アンタの部屋は?」

 

「前同様、部屋の扉にプレートかけとる。他の部屋は空いとるから、好きに選んで使い」

 

「了解」

 

 マチはさっそく二階へと上がっていき、ラミナは一階の各部屋の設備を確認をして回る。

 

「……問題なく使えそうやな」

 

 ラミナはガスや電気が問題なく使用でき、テレビなども動くことを確認して一息つく。

 冷蔵庫に食料を仕舞った後、ジョイステを30畳ほどあるリビングのソファに放り投げて、ラミナは次にガレージへと向かう。

 ガレージには車が一台置かれており、ラミナはエンジンやバッテリーなどの確認をする。

 

 車も問題ない事を確認すると、今度は物置に向かう。

 物置には清掃道具などが置かれており、ラミナはそれらに目もくれず部屋の奥の壁に歩み寄る。

 そして、前の家同様レンガ状の壁を順番に押していく。

 

 すると、壁が下がり始め、地下への階段が出現する。

 

「問題なしっと」

 

「だから、遊びすぎ」

 

 後ろに振り返ると、マチが呆れた表情を浮かべて入り口にもたれていた。

 ラミナは肩を竦めて、

 

「やから、しゃあないやろ? 悪党の隠れ家が普通な方が無茶やって」

 

「ま……そうかもだけどさ」

 

「部屋は決めたんか?」

 

「ああ」

 

「ほな、先に本とかを運びこもか。武器はゆっくりやるわ」

 

「はいはい」

 

 ラミナとマチはトラックに戻って、武器以外の荷物を下ろして屋敷へと運ぶ。

 書斎の空っぽの本棚に本を詰めていく。

 

 それが終わったら、マチはジャージに着替えて風呂へと向かい、ラミナは倉庫へと向かう。

 

「……カラーリングは流石に無理か……」

 

 ラミナは小さくため息を吐きながら軍手を嵌め、ナンバープレートとタイヤを交換する。

 タイヤはタイヤ痕を変えるためだ。もちろん新品ではバレるので、ある程度使い古したタイヤである。

 出来れば塗装まで変えたいが、流石にめんどくさかった。

 

「まぁ……この辺りは監視カメラなんぞないし、警察やハンターがここを嗅ぎつけるにゃ早くとも数週間はかかるやろ。州も跨いだし」

 

 外したタイヤを棚に仕舞い、ナンバープレートを手で丸めて潰す。

 ゴミ箱に放り込むと、倉庫の端にある棚に向かって歩く。 

 棚を開けて奥板をずらすとスイッチがあり、それを押す。

 

 すると、床の一部が開いて、地下通路の入り口が現れる。

 前の家と同じ仕掛けだ。

 

「ん~……お宝に関しちゃ、別の隠し場所探した方がええかもなぁ……」

 

 トラックの奥に置かれている聖剣を見ながら呟く。

 この屋敷とて、いつまでも隠し通せるとは思えない。発覚するたびに聖剣を運び出すのは厳しいだろう。

 今回はアルケイデスがわざわざ知らせてくれたから、対応出来ただけなのだから。

 

「けどなぁ……。手頃な場所で防犯がしっかりしとる、または改造できる場所となると……少ないわなぁ」

 

 武器を入れた箱を抱えて、地下通路を歩きながらボヤく。

 この屋敷の地下室は前の家の2倍以上の広さがあり、武器の収納数も多い。

 

 数回往復して、聖剣以外の武器を全て運び終える。

 ラミナは素早く倉庫に安置されている武器を見渡して、

 

「……何本かはこの箱から出さんとあかんか」

 

 ラミナは箱を開けて数種類の武器を取り出し、部屋の中央に置かれているテーブルに並べる。

 そして、今度はゆっくりと並べられている武器を見て回る。

 時々、武器を手に取って【凝】でオーラの量と質を確認していく。

 

「ん~……【朧霞】も後1個……。バトルアックスも銃剣も造り直しておくべきか……」

 

 バトルアックスや銃剣も手に取って、テーブルに置く。

 今度はナイフなどの短剣類や投擲を目的とした短剣を置いてある棚に向かう。

 

 一通り目を通すも、

 

「……【妖精の悪戯】に適したんはなさそうやな。さて、どうしたもんか……」

 

 似たような能力は出来るだろうが、その微妙な違いは一秒を争う戦いでは大きく影響する。

 

「【執着する雀蜂】を諦めれば、スローイングナイフでも良さそうやけど……。そうなると迂闊に数を増やして投げれへんなぁ。箱の中のも似たようなもんやし……」

 

 腕を組んで唸る。

 【妖精の悪戯】はかなり使い勝手がいいので、出来れば改めて創っておきたい。

 しかし、それに適した武器が見当たらない。

 

「……【執着する雀蜂】は諦めよか。んで、スローイングナイフの代わりになる武器で、なんか能力考えればええか」

 

 ということで、スローイングナイフを手に取り、他に投擲系の武器を探す。

 10分ほど悩んで武器を選び、テーブルに並べる。

 

 ラミナは地下室から出て、リビングに入る。

 

 すると、中にキョロキョロとリビングを見渡しているカルトの姿があった。

 

「あ? カルト?」

 

「あ」

 

「なんで、こっちに戻って来てん? クロロ達は?」

 

「……団長達はクカンユに行った。ボクはラミナ達のところに戻れって言われただけ」

 

 眉を顰めながら答えるカルトに、呆れの表情を浮かべるラミナ。

 

 恐らくはラミナとマチを揶揄うためにフェイタンとフィンクス辺りに送り出されたのだろうと推測したラミナは、ため息を吐いて機能を停止したジョイステに目を向ける。

 

「ところで、ここどこ?」

 

「新しい隠れ家。前の家は昨日ハンターに襲われて木っ端微塵や」

 

「……」

 

「ま、出来る限り追跡できんように逃げたでな。ゾルディック家でも、まだここは見つけとらんやろ」

 

「ふぅん……」

 

 カルトは窓からの景色を眺めながら頷く。

 その時、ラミナの携帯が鳴る。

 

 クロロからのメールで、中にはクロロが知ってる限りのラミナの能力名が記されていた。

 

「……これを用意しとけってことか。……何とかなりそうやな」

 

 携帯を仕舞い、ソファに座って創る能力を考えていると、頭にバスタオルを乗せたマチが入ってくる。

 

「あ? カルト?」

 

 ラミナと全く同じセリフとリアクションをするマチに、カルトは呆れながらもラミナにした説明をもう一度する。

 マチは呆れた表情を浮かべながら、

 

「あいつら……面倒になったから、こっちに押し付けたわね」

 

「やろなぁ。で? クロロはどうやった?」

 

 ラミナは苦笑しながら、カルトに顔を向けて訊ねる。

 カルトは盛大に顔を顰めながら、

 

「……手も足も出なかった。ラミナと同じくらい厄介で意味わかんない能力だったし」

 

「あいつの能力はなぁ。うちも細かく知らんし」

 

「それは他の団員もそうだけどね」

 

「……仲間なのに能力知らないの?」

 

「知らんな。パク姉みたいな能力者おったら困るやろ? やから、うちやってお前に能力の全容聞いたことないで?」

 

「……そう言えば……」

 

 ラミナもマチに全ての武器について話したこともないし、マチもラミナに全部話していない。

 他の団員よりはお互いの能力は知っているだろうが、一番重要な部分は話さない。

 

 信頼していないからではなく、『何よりも重要なのはクモの存続』という掟に従って。

 情報を引き抜かれて、仲間に危険が及ぶ可能性を少しでも減らすために。

 

 ラミナはずっと旅団員ではなかったが、だからこそ『知らないし、聞かない』を徹底したのだ。

 

「ま、そういうことやから。能力を開発する時は、うちらに隠れた所でやりや。カルトやったら、実家に帰ったらええだけやろうけど」

 

 ゾルディック家ほど、カルトにとって安全な場所はない。

 カルトは頷いて、ソファに座る。

 

「2階で好きな部屋選んでこいや。うちの部屋はプレートが下がっとるし、マチ姉の部屋は……」

 

「ラミナの隣」

 

「らしいから」

 

「うん」

 

「うちもちょっと着替えてくるわ」

 

「ん」

 

 カルトとラミナは2階に上がり、ラミナは自室に入って、カルトはマチの2つ隣の部屋を選ぶ。

 ラミナはタンクトップにジャージのズボンとラフな格好に着替え、髪紐を解いて髪を下ろす。

 

 着替え終えたラミナはノートパソコンを持ち出し、キッチンで飲み物とコップを持ってリビングに戻る。

 マチはソファに寝転びながらテレビを眺めていた。

 ラミナはマチの分の飲み物も用意して、1人用のソファに座ってノートパソコンを開く。

 

「団長から。準備が出来次第、こっちに来いってさ」

 

「……やったらカルトも連れて行けっちゅうねん」

 

「弟子は師匠といるもんだろってさ」

 

「言うたんかい」

 

「そりゃね。で、準備は?」

 

「……明日の夜にでも出よか。今晩中に仕度するわ」

 

「ん」

 

 マチは寝転んだまま返信を打ち始め、ラミナはノートパソコンでカゴッシの情報を集める。

  

 停電からは完全に回復したらしいが、まだ家の調査は続いているらしい。

 手榴弾の爆発に巻き込まれた裏手の家の住民は死亡。半壊した両隣の家の住民は死者はいないが、重傷者が数名出ているらしい。

 全壊したラミナ邸に関しては、死者が出たのは確実だが、誰が死んでいるのか、何人なのかは依然不明らしい。

 

 周辺住民はもちろんラミナ達の正体など知らないし、滅多に帰ってこない存在なので、インタビューにまともに答えられる者などいない。

 せいぜい『何をしてるか分からない怪しい人』くらいである。

 

 しかし、メディアにもハンター証を持っている人間もいるので、ラミナが暗殺者であることはすぐに報道された。

 だが、実名や幻影旅団であること、そしてハンターであることは、報道していないようだった。

 

(……クモやゾルディック家からの襲撃を恐れたか? まぁ、死体が全部ハンター関係者っちゅうことを広めたないんもあるかもしれんが……)

 

 しかし、その判断は正解だった。

 ラミナは実名が報道されていたら、確実に報道したテレビ局や記者を狙った。

 報道した内容によってはゾルディック家も動いた可能性もあっただろう。

 

 この手の凶悪犯の情報は、下手に開示すると逆に追い込んで被害を広めるだけになる可能性がある。

 情報を扱うプロハンターならば、その辺りは弁えていたようだ。

 

 ちなみにこれにはネテロ、ミザイストムを筆頭とするハンター協会からもストップがかかっていた。

 ハンター協会会長まで出張ってきたことで、一般の報道関係者も『これ以上の深追いはヤバい!』と悟ったのだ。

 

(……この辺りはネットカフェみたいなんはないし……。どっかで情報収集せんとな)

 

 この屋敷を使わなかった理由がこれである。

 非常にネット環境が使い辛いのだ。情報屋サイトも下手をすると、場所を特定される可能性もあるので、拠点では滅多に見ない。

 一応サーバーを特定されないように処置をしているが、ハッカーに勝てる程腕はないので使わないに越したことはない。

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、ノートパソコンを閉じる。

 

 そして夕食の準備のために、キッチンへと向かうのであった。

 

 

 

 いつもの通りの理不尽なオーダーが飛び交う夕食を終えたラミナは、聖剣を地下室の奥に運び込み、風呂も終えてリビングでのんびりとしていた。

 

 マチももはや定位置と言い張るかのようにソファで寝転んでおり、カルトはリビングの端っこで【纏】【練】などの修行をしていた。

 ラミナはコーヒーを飲み終えると、ソファから立ち上がる。

 

「地下室の整理してくるわ」

 

「あいよ」

 

 ラミナは地下室に下りて明かりをつけるが、明かりは部屋の角当たりだけ点け、武器が並べてあるテーブル周囲は薄暗くしている。

 暗闇に目を慣らせたラミナはテーブルに歩み寄る。

 

「まずは……」

 

 ラミナは右手に短刀を具現化すると、刀身に左手を添える。

 

「っ!」

 

 左手に素早く掌底を叩き込んで、バキン!と折り砕く。

 残った柄は消滅し、ラミナは次にバトルアックス、銃剣。薙刀を具現化して殴り砕く。

 

「なんで砕いてんの?」

 

「ん?」

 

 背中から声が聞こえて振り向くと、マチが入り口にもたれ掛かって首を傾げていた。

 

「ストックが後1個やったからな。先に砕けば、新しく造り直せるんよ」

 

「なるほどね」

 

「で、見ていくんか?」

 

「暇だしね」

 

「ま、ええけど」

 

「……いいの?」

 

 少し前に能力は見せないようにと話したばかりだというのに。

 マチはそう思いながら呆れ、ラミナは肩を竦める。

 

「別にここ見られたくらいじゃ困らんしな」

 

「ふぅん……。そのテーブルに置いてある奴を入れるの?」

 

「そ。まぁ、後は見てのお楽しみっちゅうことで」

 

 ラミナは笑みを浮かべて、その瞳を金色に輝かせる。

 

 オーラを体から噴き出して、右手を横に掲げる。

 

「現れ、開き、整えろ【刃で溢れる宝物庫(アルマセン・デ・エスパダ)】」

 

 ラミナの右手からオーラが噴出し、ラミナの右横に広がっていく。

 オーラは徐々に形を変えて、黄金の三日月の紋章が刻まれた両開きの銀の扉が出現する。

 

 扉は左右にスライドして開いていく。

 扉の中身は白く光っているだけで、どうなっているかは分からなかった。

 

 完全に開ききるとラミナが立っている反対側に、扉から刃が折れ砕けている短刀やナイフ、バトルアックスなどの残骸が排出されていく。

 

「それがストックがなくなった武器の本体?」

 

「そ」

 

 ラミナは頷きながら、テーブルに並べている武器を無造作に放り込んでいく。

 

「そんな適当でいいの? 確か似てる形の武器って入れられないんでしょ?」

 

「あかん奴は向こうに放り出されるでな。まぁ、入れた奴くらい覚えとるから、大丈夫な奴しか選らんどらん」

 

 ラミナの宣言通り、テーブルに置いてあった武器全てが問題なく扉の中に納まる。

 

「納め、閉じ、消えろ【刃で溢れる宝物庫】」

 

 再び唱えると、扉が閉じて虚空に消える。

 それを見届けて、ラミナは【月の眼】を解除し、大きく息を吐く。

 

「はぁー……。しんど」

 

「それで武器は出来たの?」

 

「出来たで。まぁ、能力はこれから付けていくけど」

 

 ラミナはそう言うとスローイングナイフを具現化する。

 それにオーラを籠めて、1分ほど見つめ続ける。

 

 すると、ラミナはスローイングナイフを山なりに前方に放り投げる。

 

パチン!

 

 指を鳴らした直後、ラミナとスローイングナイフが入れ替わる。

 

「よし。上手く出来た」

 

 満足げに頷いたラミナはスローイングナイフを消す。

 

「今のは前にも使ってた奴だね」

 

「おう。【妖精の悪戯】やな。今ここにあるナイフ系の武器やと、スローイングナイフしか付与できなさそうやったんよなぁ。上手く出来てよかったわ」

 

「なんか、今まで使ってなかった変な武器もあったけど。大丈夫なの? 捻じれた角みたいな剣とかあったけど」

 

「ん~……多分」

 

「ちょっと」

 

「しゃあないやろ? 能力はそれぞれ考えとるけど、こればっかりは能力を付与してみんと分からんのやから」

 

 【刃で溢れる宝物庫】は【月の眼】の使用時間とストック管理をしっかりしていれば、使うだけならば実はそこまで面倒ではない。

 一番厄介なのは、武器を入れた後の『能力付与』である。

 付与する能力と設定する制約によって、普段使いが出来るか切り札的になるかが決まる。

 大鎌のように【月の眼】を使わなければ、能力を使えないかもしれないのだから、非常に面倒である。

 

「……そこらへんが使い辛そうで、あんまり羨ましく思えないんだよね」

 

「マチ姉の念糸に比べたら、大抵の能力は面倒やで……。それにクロロやフェイよりは、まだ使いやすいと思うけどな」

 

「……まぁ、そうだね」

 

「さて、うちは外で試行錯誤に没頭するわ。適当に寝とってや」

 

「あいよ」

 

 2人は地下室を出て、ラミナは屋敷を出て裏山へと向かい、マチはリビングに戻って、カルトの修行が終わるまで待ってやることにした。

 

 ラミナは屋敷からは見えない場所に移動し、新しく納めた武器に順番に能力を付与していく。

 1時間ほど試行錯誤した結果、

 

「……ん~……やっぱ実戦で試さんと何とも言えんなぁ。試し撃ちも出来ん能力も出来てしもたし。なにより……やっぱ【月の眼】やないと使えん能力も出来てしもたわ……はぁ~」

 

 ラミナは大きくため息を吐いて項垂れる。

 基本的に武器を振ったり、相手を斬りつけて効果を発揮する能力が多いのがラミナの能力の特徴である。

 新しい能力の場合、木や人形を斬りつけるのでは発動しない能力や、【敬愛する兄の剛腕】のように一度発動する度に壊れてしまう能力もあるので、試すに試せないのだ。

 そして、能力を発動しようとしても、うんともすんとも言わない時は【月の眼】状態でなければ使えないということだ。

 

「使えんわけやないやろうけど……。どこで試すかも判断し辛いんよなぁ」

 

 どの能力も暇な時に考えていたものばかりだ。

 数か月単位で構想を練っているので、全く役に立たないわけではないはずだ。

 しかし、ストックを無駄遣いできないので、雑魚に使うのもためらってしまう。

 

 そのため、10回も使わずにストックを使い切る武器も時々存在する。

 

「ここらへんが面倒なんよなぁ……」

 

 同じ能力を使い回したくても、それが自分が思い描いた武器に付与できるか分からない。

 なので、少しでも選択肢を増やしておく必要がある。

 

「まぁ……今まで入れられんかった武器も入れられたし。能力も少しは成長しとるみたいやから、それはそれで収穫か」

 

 ラミナは携帯を取り出して、クロロのメールを見返す。

 必要とされる能力はちゃんと創れたことを確認して、ホッとする。

 

「最近、人の面倒ばっかで身体の方が疎かになっとるしなぁ。この仕事終わったら、そこらへんも引き締めんとなぁ。……ちょっと、ここで体動かしとくか」

 

 ラミナは小さくため息を吐いて、旅団員やヒソカを想定したシャドーを始める。

 

 1人で集中出来るのは久しぶりだったからか、軽くのつもりが2時間ほどやり込んでしまい、中々戻ってこないことに我慢の限界を迎えたマチが様子を見に来て、

 

「終わったんなら、さっさと戻りな」

 

「ぐぇ!?」

 

 と、念糸で首を絞められて強制終了となり、そのまま運ばれて風呂に放り込まれるのだった。

 

 カルトはすでにベッドの中で、聞こえるマチとラミナの喧騒に呆れながら、巻き込まれないようにと眠りについた。

 

 


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