暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
翌日の夜。
ラミナ、マチ、カルトはクカンユ王国に向けて、出発する準備を整えていた。
「ここから空港って近いの?」
「車で30分くらいやな」
「車で行くの?」
カルトが首を傾げると、ラミナが顎に手を当てて考え込む。
流石に空港に車を置いておくのはリスクでしかないし、走っていくのも面倒だ。
そこで思いついたのが、
「ゲームで行こか」
「「は?」」
「いや、やから。グリードアイランドを通れば、簡単に行けるやん。見つかるリスクもないし」
偽名で移動できるし、好きな国に飛べる。
向こうから帰ってくる時は大変だが、ここから行く時はある意味これほど安全な移動手段はないだろうとラミナは思う。
「メモリーカード抜いとるで、うちも偽名で登録し直しになるやろうから、前に会うた連中にバレることはないやろうし」
「まぁ……そうだね」
「っちゅうわけで、物置から行こか」
そう言ってラミナは、リビングの明かりを消して物置に向かう。
マチとカルトはその後に続きながらも、何か納得しがたい感情に襲われていた。
マチは久しぶりの仕事、カルトは初めての仕事なのに、その出発がゲームと言うのは何か締まらないと思っていたのだ。
ラミナは2人の複雑そうな顔を見て苦笑する。
しかし、これが一番手軽で安全かつ金もかからないので譲る気もない。
物置に入ったラミナは、乱雑に置かれているジョイステに歩み寄る。
「あ。扉閉めとってな」
「……分かってる」
カルトは憮然とした顔のまま頷いて扉を閉める。
ラミナはさっさと【練】を発動して、ゲームの中に入り込む。
マチはため息を吐いてラミナの後に続き、カルトも続いてゲームに入る。
適当に名前を登録した3人は、駆け足で港へと向かう。もちろん街には寄らず、人気のない場所を走る。
「ふむ。なんだかんだで便利なもんやな。フィンクス達が奪ったんはホームにあるんか?」
「ああ」
「ん~……いや、もう1個持ったところで、結局誰かが持ち運ばないかんから意味ないか……」
「もういらないよ。ホームとアンタの家にあれば十分だろ?」
呆れながら言うマチに、ラミナは苦笑しながら頷いて港を目指す。
2時間もせずに港に到着したラミナ達はさっさと3回所長を倒して、船に乗ってゲームの出口へと向かう。
ラミナ達はクカンユ王国の港町に転移する。
最後のカルトが転移したのを確認したラミナは、クロロにメールを送る。
すぐに返信が来て、メールを確認すると住所のみが記されていた。
「……【スリパ】の郊外やな。またどっかの空きビルか?」
「だろうね」
「スリパはこの港から……150kmほどやな」
「……走るの?」
「「夜
「……」
カルトはラミナとマチの即答にうんざりする。
もちろん師匠とその姉は、カルトの心情など一切無視して歩き出す。
そして、3人は再び目的地に向かって、ひたすらに走るのだった。
翌朝。
スリパの郊外にある工場地帯の空きビルに到着したラミナ達は、地下への階段を見つけて下りる。
地下は広い倉庫のような部屋になっており、そこにクロロを筆頭に全員が揃っていた。
「来たで~」
「早かったな」
「ゲームを使ったでな」
「ふっ。なるほどな」
「んで? 準備は?」
「ほぼほぼ終わった。後は詳細を詰めるだけだ」
「了解」
「ところで、そっちは大丈夫なのか? あの家、ハンター達に見つかったんだろ?」
シャルナークが両手に腰を当てて、心配そうに訊ねる。
パクノダも頷き、
「シャルナークが調べてくれたけど、かなり派手にやったみたいじゃない。新しい隠れ家は大丈夫なの?」
「しばらくは大丈夫やろ。監視カメラに映らんように移動したし、家や倉庫とはちゃう偽名使うとるしな。まぁ、備えはせないかんけど」
ラミナは肩を竦めて、クロロの方を見る。
「お前の本も移したでな。次は持ち出せるかどうか分からんし、残しときたい本は自分で管理せぇよ。後で住所教えるから」
「すまんな。この仕事が終わったら、一度顔を出そう」
「じゃあ、仕事の話に戻ろうか」
シャルナークが話を戻して、資料を取り出す。
ラミナ、マチ、カルトは床に置かれている廃材に腰掛ける。
「美術館の下見とお宝の場所は団長、俺、パクノダで調査済みだ。警備室や監視カメラの位置が書いてある地図も手に入れた」
「じゃあ、もう盗むだけじゃねぇかよ」
フィンクスがつまらなげに呟く。
しかし、シャルナークは呆れを浮かべながら、
「まぁ、そうなんだけど、そう簡単にもいかない。流石に国が守ってる場所だ。ヨークシンのマフィア達とは設備も練度も比べるまでもない」
「そりゃそうだな」
どっしりと座り込んだフランクリンがシャルナークの言葉に頷く。
「マフィア達に比べれば警備員の人数はそれほど多くないけど、念能力者は多いと考えた方がいいと思う」
「あの……なんだったっけ? あの鎖使いを追う時に邪魔しに来た連中」
「陰獣ね」
「そうだっけ?」
「シズクに言うだけ無駄ね。忘れたら思い出さないよ」
パクノダに教えられても、シズクは一切思い出せずに首を傾げる。
それにフェイタンが呆れながら言い、シャルナークに顔を向ける。
「で、そこにいる連中は陰獣より強いね?」
「流石にはっきりとは分からないけど、弱いということはないだろうな。分かっているだけでも元軍人や元傭兵が小隊レベル。プロハンターも数人雇われてるみたいだ」
「ほぉ……そりゃあ楽しめそうだな」
「久しぶりに遊べそうね」
フィンクスやフェイタンがニヤリと凶暴な笑みを浮かべる。
ノブナガもニヤけており、明らかに楽しそうに思っている。
それにクロロやシャルナークたちは苦笑し、ラミナやマチ、パクノダは呆れる。
「そんで、どうするんや? その感じやとお宝の場所に到着するだけでも厄介そうやないか。お宝を持ち出す時間とか、逃げる時間とか稼げるんか?」
「そこがお前の仕事だ」
「あ?」
「姿を消して警備室に忍び込んで、警備システムを全て掌握してくれ。監視カメラと警報装置を止め、俺達を裏倉庫へと入れてもらう」
「結構な賭けやなオイ」
「お宝の持ち出しは? シズク?」
ラミナがクロロの作戦に呆れ、マチが一番重要な部分を訊ねる。
それにシャルナークが首を横に振る。
「いや、トラックを使う」
「トラックぅ?」
「あの美術館の品は全てトラックや車で施設内に搬入され、そこから展示室や倉庫に運ばれる。裏倉庫も例外じゃない。パクノダの情報だと、裏倉庫はトラックの駐車場と直接繋がっている。もちろん、そこまでに二重三重の防犯システムがあるがな」
「そこをラミナにクリアしてもらいたいってこと」
クロロとシャルナークの言葉に、ラミナは納得はするが流石に顔を顰める。
「念能力者の警備員全員誤魔化せるとは思えんぞ?」
「分かっている。そこもちゃんと考えてるよ」
「駐車場以外から裏倉庫に行くにはエレベーターを使わなければならないんだが、そのエレベーターはたった1つしかない。そして、そこに向かうにはラミナに押さえてもらう警備室がある通路と、他に3つのルートがある。その3つのルートを、ノブナガ、フィンクス、フェイタンにそれぞれ任せる」
「それはつまり……」
「お前達4人で、大暴れして、殺せ」
クロロの指令に指名された3人は、更に笑みを深める。
そして、クロロはラミナに顔を向けて、
「お前達が暴れている間に、残りのメンバーでお宝をトラックに乗せて脱出する」
「クロロ、下手したら他の美術品壊すかもしれんけど、それはええんやな?」
「構わない。別に展示されてるモノに興味はないからな」
「了解」
「それじゃあ、各自準備を始めてくれ」
クロロの言葉にラミナはシャルナークに歩み寄って、見取り図を見せてもらう。
ノブナガ達も覗き込んで、どこのルートで暴れるのかを選ぶ。
「……中に入るんは? どこから入るにしても防犯装置あるやろ?」
「休みの警備員を捕まえて、パスワードとカードキーは手に入れてある。それを使えば入ること自体は簡単だ」
「俺達は?」
「ラミナが警備システムを止めた直後に、こことここ、ここから侵入してくれ。そうすればすぐに所定のルートに入れるから」
「地図、コピーしといて。ノブナガとフィンクスは迷うと思うわ」
「「んだとぉ!!」」
「大丈夫。もうしてあるから」
「「おい!!」」
「じゃあ、この地図見て、どこがどうとか分かるんか? ほな、正面入り口から第一保管室へのルート示してみぃ」
「馬鹿にすんなよぉ!」
「そのくれぇすぐに……!」
フィンクスとノブナガはラミナの挑発に乗って地図を見るが、
「「……」」
「おいおい、そこは階段だぞ。上がってどうするんだよ」
「「っ……!」」
「阿呆。そこは展示スペースで行き止まりや」
「「…………!!!」」
「残念だたね。そのエレベーターじゃ保管室には行けないね」
「分かったやろ? 大人しく地図持っとき」
「「ちくしょーー!!」」
ノブナガとフィンクスは地図を放り出して叫ぶ。
それにクロロ以外の全員が呆れ、ラミナとシャルナークは作戦会議を再開する。
「で、うちはここから入ってまっすぐ行くとしても、流石にその間にバレんとは思えんのやけど」
「そこは俺が捕まえた奴と適当な奴を操って、注意を引く予定だよ。全員は無理だろうけど、ある程度は引き付けれると思う」
ラミナはやや不安が残るも、これ以上詰めようがないのも事実なので諦めることにした。
「そういえばトラックはどしたん?」
「ん? 美術館のを盗む気だけど? ナンバープレートだけは用意してあるけどね」
「……」
「コルトピの能力でトラックをコピーすれば、時間稼ぎ出来るよ」
「まぁ、お前らがそれでええならええか……」
ラミナは本当に色々と諦めて、準備することにした。
そして、深夜。
いよいよ作戦開始である。
美術館は柵で囲まれており、景観の問題で周囲に美術館より高い建物はない。
そのため、アパートなども離れた所にあり、厳しい警備もあって夜には人気がなくなる。
「まぁ、ある意味狙いやすいなぁ」
「だろ?」
「それにしても、クロロの奴。待っとる間、ずっとここのこと調べとったとは……」
「よっぽど暇で、早く復活したかったんだろうね」
美術館の少し離れた建物の屋根にラミナとシャルナークが、双眼鏡で美術館を眺めながら話している。
「さて……さっさと行かんと、ノブナガとフィンクスが飛び込みそうやな」
「そうだな。じゃ、よろしく」
「ま、やるだけやるわ」
ラミナは肩を竦めて、右手に柄の両端に10cmほどの片刃の剣身を持つ緩やかなS字状の短剣ハラディと言う武器を具現化する。
そして、屋根から飛び上がるのと同時に姿が消える。
【
短刀の能力を、そのままハラディに付与したものである。
ラミナは姿と気配を消して、素早く5mもある柵を乗り越える。
(ここに赤外線センサーでもあったら、もうちょっと手こずったけど……。念能力者を雇っとるし、ホンマに盗みに来るとも思とらんのやろなぁ)
ラミナは素早く周囲を見渡して、警備員や監視カメラなどの警備システム、そして念能力が仕掛けられていないかを確認する。
はっきりと確認出来なかったので、ラミナは駆け出して所定の入り口へと向かう。
しかし、その道中でも特に念能力が仕掛けられている様子はなかった。
(……監視や【円】代わりの能力を使う奴くらい1人はおると思とったけど……)
ラミナは訝しみながらも高速で駆け、入り口を見つける。
ラミナは渡されたカードキーとパスワードを使い、扉のロックを開ける。
それと同時にシャルナークに1コールだけ電話をかけ、中に入り込む。
30秒ほど入ったところで足を止めるも、誰も来る気配はない。
ラミナは再び駆け出して、警備室へと向かう。
すると、
『正面玄関にて暴徒確認! 数、2! その片方は一般警備員のガリアス! こちらに向けて発砲中!!』
「ガリアスだと!? どういうことだ!?」
「分からん! とりあえず向かうぞ!」
無線からの声と通路を掛けていく警備員達の声が聞こえる。
下手に【円】を使うと悟られるので、周囲の気配に最大限警戒する。
(感じ取れる範囲の気配はシャルの囮に引っかかった。動いとらん気配は警備室辺り。……念能力者もおるな)
警備室の中に2つほど強い気配を感じた。
流石に警備の要に念能力者が1人もいないのは楽観的過ぎるかと、心の中で自虐しながら猛スピードで警備室の前に辿り着く。
警備室のドアの前には拳銃を握っている警備員が2人立っていた。
ラミナは一気にスピードを上げて、手前側にいた警備員の頸動脈をハラディで切り裂き、左腕で【蛇活】を繰り出して奥側の警備員の心臓を爪で抉り潰す。
悲鳴を上げる間もなく、意識を闇に落としてゆっくりと倒れて行く警備員2人を放置して、左手に新調したファルクスを具現化しながら警備室のドアを開けて、中に飛び込む。
「!!」
「誰だ!?」
警備員達が気付いた時には、ラミナは一瞬で部屋の真ん中まで移動していた。
しかし、念能力者と思われる2人の警備員はしっかりとラミナの姿を目で捉えており、【練】を発動していた。
(けど、遅い!!)
ラミナは【円】を発動して、警備室を完全にオーラの内に囲う。
そして、ファルクスを素早く振って、【狂い咲く紅薔薇】を発動する。
室内にいた警備員約10人の身体から血が噴き出し、首や腕などが斬り離される。
ラミナはもう一度ファルクスを振り、再び能力を発動する。
更に周囲から血が噴き出し、体の部位が舞う。
念能力者と思われる警備員2人の首も、体から斬り離されて血だまりが出来た床に転がっている。
もちろん周囲の機器も血で汚れてしまった。
「……まぁ、ええか」
ラミナは武器を消し、シャルナークに再び1コール電話をして、警備システムをコントロールしている端末に歩み寄る。
操作して監視カメラや警報装置を止め、更に裏倉庫へのロックを全て開ける。
更に監視カメラのデータを全て消して、ラミナは警備室を後にする。
すると、シャルナークが駆けつけてきた。
「あ? シャル?」
「お疲れ。ここは俺が受け持つよ」
「……まぁ、ええけど。文句は受け付けんで」
「は? どういうこと?」
「中見ればわかるわ。ほな、うちは行くで」
「……ああ」
ラミナは肩を竦めて早足に歩き出し、作戦に戻る。
シャルナークは首を傾げて、警備室に入ると、
「うお!? ちょっと汚し過ぎだろ!?」
血で汚れた惨状を見て、シャルナークは思わず叫ぶ。
その声が聞こえたラミナは頬を掻いて、1人なのにそっぽを向く。
「まぁ、言わんかったお前が悪いっちゅうことで」
ドオォォン!
どこかで何かが崩落する音が響いた。
「……まぁ、フィンクスやろな。警備室と連絡も取れんこともすぐにバレるやろうし」
ラミナは左手にハラディ、右手にブロードソードを具現化して姿を消す。
すると、通路に隔壁が下り始めて、ラミナ達のルート以外の道が全て閉ざされる。
(なるほど。これで敵の足止めと、うちらが迷わんようにすると。……けど、これってうちの通路に敵が集中せんか?)
どう考えても、この時点で警備室に敵が侵入したことがバレたも同然だろう。
そうなると、警備室奪還に全力を注ぐことになるのが普通だ。
(少し急ごか。合流予定の広間で迎え撃った方がやりやすそうや)
ラミナは駆け出し、敵が雪崩れ込んでくる前に戦いやすい場所を目指す。
すると、銃を構えた警備員数人が前方から走ってくる。
もちろんラミナに気づいた様子はなく、警備室へと急いでいた。
ラミナもスピードを落とすことなく、警備員達の中に飛び込みながら【一瞬の鎌鼬】で剣を高速で振り、全員の首を刎ね飛ばす。
首を無くした体は数メートルそのまま走って、ダイブするように倒れる。
ラミナは再び姿を消しながらそのまま走り続け、続々と向かってくる警備員達をどんどん殺していく。
(あぁ、もう! 面倒やな!)
ラミナは苛立って、床に転がっていた人の頭部を前方に蹴り飛ばす。
突然目の前に転がってきた人の頭と姿を現したラミナに、向かってきていた警備員達は慌てて足を止める。
「ひぃ!?」
「だ、誰だ!?」
ラミナはそれに答えることなく、ハラディを消してファルクスを具現化しながら、一瞬で警備員達のど真ん中に飛び込んで【狂い咲く紅薔薇】を発動し、更に【一瞬の鎌鼬】で首が斬れなかった者達の首を刎ねて、返り血を浴びる前に集団を抜ける。
その様子を目撃した後続の警備員達は顔を真っ青にして、震える腕で拳銃を構えていた。
「な、なな、な、なんだよ……あれ……!?」
「俺が分かるかよ……!」
「い、一瞬であの人数の首を……」
「お前ら、下がりな」
震えている警備員達の背後から声がかけられる。
そこに立っていたのは軍人を思わせる戦闘服を着た、茶髪坊主頭の男。
右頬には一筋の傷痕があり、二振りのサーベルを両手に携えていた。
男はオーラを纏いながらラミナを鋭く見据え、道を空けた警備員達の間を歩み出る。
「ワイグさん……!」
「こいつはただの盗人じゃねぇ。お前らじゃ天地がひっくり返っても敵わねぇよ」
「そんな……!」
「巻き込まれねぇようにホールまで引き返せ。そこに隊長達もいる」
「わ、分かりました。おい、行くぞ!」
「りょ、了解」
念も使えない警備員達はワイグの指示に従って、来た道を走って戻っていく。
ラミナは両手の武器を消して、邪魔者がいなくなるのを待ってやることにした。
そして、通路にはラミナとワイグのみとなった。
「……何者だ? ここがどこか分かって、襲撃したんだろうな?」
「そらもちろん」
ラミナは肩を竦めながら、右手に剣を具現化する。
切っ先は平で刃はなく、両刃の剣身を持つ120cmほどの剣。新しく追加した武器の1つである。
「……それは……」
「斬首剣やな。処刑で使う奴や」
「……」
ワイグは先ほどと武器が違うことに警戒を強める。
ラミナは右手で斬首剣を回して、感覚を確かめる。
「ほな、やろか」
「……舐めるなよ、小娘」
「そっちこそ舐めんなや、軍人崩れ」
「っ!!」
ワイグは殺気を噴き出して、サーベルを構えて一息にラミナに詰め寄る。
ラミナはその動きを完璧に捉えており、すでに斬首剣を構えていた。
「つああああ!!」
ワイグは両腕を高速で動かして、二振りのサーベルを華麗に操って鋭い斬撃を繰り出す。
ギギギギギギギイィン!!!
しかし、その全てをラミナは斬首剣で打ち払う。
ワイグは目を見開いて、追撃を中止して距離を取る。
しかし、ラミナはニィと口を吊り上げて、
「もう手遅れや」
そう呟いた直後、ワイグが握る二振りのサーベルが異常なほど重くなった。
「!!?」
ワイグは目を見開いて、すぐにサーベルから手を放して更に距離を取る。
ズガァン!
ズガン!
サーベルは尋常じゃない重量を感じさせる音を響かせて、
「なん……!?」
ワイグは戸惑いを浮かべるも、腰からコンバットナイフを抜く。
「……その武器の能力か?」
「そうやで。1回斬りつける度に、その物の重さを倍にする」
「っ……!」
ワイグはラミナの言葉に顔を顰めて、コンバットナイフを仕舞う。
たとえ元々が軽量とは言え、さっきの斬撃を全て打ち払われた以上、ナイフ1本で太刀打ちできる能力ではない。
(くそっ……! まさか同じタイプの能力者だったとは……!)
ワイグの能力も相手を斬りつけることが条件だった。
ラミナと違ったのは、物体に作用するタイプではなかったことだ。
相手の身体を斬りつけなければ、能力は発動しない。
「そっちは能力使わへんのん?」
「……」
「だんまりかいな。この場合は適当にはったり言うた方がええと思うけどなぁ。まぁ――」
ラミナが肩を竦めたかと思うと、
一瞬でワイグの目の前に現れた。
「あんま意味はないけどな」
「!? ぐっ!!」
ワイグは目を見開きながらも、反射的に右フックを繰り出す。
しかし、再びラミナの姿がブレて消え、直後ワイグの右前腕と左脇、左太腿から血が噴き出す。
「がっ!! っ!?!?」
痛みに顔を顰めた瞬間、ワイグは全身が何かに押さえつけられたかのように重くなる。
両足を踏ん張り、何とか倒れるのを防ぐが、それでも体の重さは変わらない。
「これ……は!」
「もちろんこの剣の能力やで? 別に生物に効かんとか言うてないで」
「ぐっ!」
「生き物の場合、対象を3回斬らなあかんのが難儀でなぁ。まぁ、その分……重さは3倍に出来るんやけど。ただ、一緒に斬りつけた服や装備は2の3乗倍や。水に濡れたように重くなったんちゃう?」
ラミナは面倒気に斬首剣を見ながらボヤくも、最後は揶揄うような笑みを浮かべてワイグを見る。
ラミナの言う通り、ワイグは体や身に着けている服が重くなり、滝の中にいるかのように動き辛さを感じていた。
「終わりにしよか」
「がぁ!?」
ラミナが再びワイグの身体を3度斬りつける。
ワイグの身体は更に重量を増して、遂に重さに耐えきれなくなって崩れ落ちてしまう。
その瞬間、ワイグの首と両手に木製の枷が、両足には鉄球付きの鎖を嵌められて固定された。
「なっ!?」
「うちの前に崩れ落ちたな? つまり、
ワイグは背筋に悪寒が走って、上を見上げる。
そこには全身黒ずくめで斬首剣を両手で握って掲げている人の形をした何かがいた。
「!?」
「そいつはこの能力で斬りつけられたモンが、うちの前で膝をついた時に現れる念獣や。お前のオーラを使うて具現化し、弱さを認めたお前を処刑する働きモンや」
「俺の……オーラを……!?」
「オーラも消費して、重みと枷で逃げることも出来んやろ? ぜぇんぶお前がうちより弱かったせいや。うちより強ければ、この能力は発動せんかったでなぁ」
「……!!」
「【
ラミナはそう言いながら、ワイグの横を通り過ぎる。
念獣はゆっくりと、斬首剣を振り被る。
もちろん、その足元には縛られているワイグ。
「ぐっ!? く…そ……!」
「恨むなら、弱かった自分を恨みや。ほな、さいなら」
別れを告げた直後、念獣が斬首剣を力強く振り下ろす。
鈍い音がして、何かが転がる音と液体が床にこぼれる音が通路に響いて、念獣が消える。
ラミナは斬首剣を消して、通路を進む。
「ん~……微妙な感じやなぁ。具現化系には意味ないし、実力が拮抗しとる相手やったら3回斬るだけでも簡単なことやないしなぁ。雑魚やったら、ここまでせんでも勝てるし」
悪くない能力ではあるが、武器の選択を誤ったか。もしくは、まだ能力に改良の余地がありそうだと考えながら、ラミナは通路を進む。
ワイグとの戦闘は長引いたわけではないが、すぐに終わったわけでもない。
なのに、誰も増援に来ないことに首を傾げるラミナ。
誰かがやって来る気配もない。
訝しみながら気配を読むと、
「……フェイ達か……」
どうやらすでにフェイタン達が、この先のホールに到着しているようだった。
その事から、恐らくこの通路に行きたくても、ノブナガ達を無視することが出来ずに睨み合いになっているのだろうと推測する。
ラミナは小さくため息を吐きながら、通路を歩く。
そして10分ほど歩くと、吹き抜けになっている広いホールに出た。
ラミナはそこに広がっている光景を見て、思わず感嘆の声を上げる。
「おぉおぉ。これまた大漁やなぁ」
ラミナから見て、ホールの真ん中から奥側にワイグと同じ服装の者達が10人ほどおり、その背後に私服の者や制服警備員達が数十人と集まって、こちらを睨んでいた。
「やっと来やがったか」
「遅刻にもほどがあんだろ」
「そろそろ我慢の限界だたよ」
横に目を向けるとノブナガ、フィンクス、フェイタンが待ちくたびれていた。
ラミナは肩を竦めて、
「別に3人で食べ尽くしてくれてもよかったんやけど」
「バカ。新入りに活躍の場をやろうっていう先輩の優しさだよ。気づきやがれ」
フィンクスが顔を顰めながら言い、ラミナはそれにマジ引きする。
「……きんもぉ……」
「てめぇ……!!」
「やめるね。変に先輩面するからよ。それに、これでもう我慢の必要なくなたね」
「そういうこったな。ようやく暴れられるぜ」
フェイタンとノブナガの言葉に、ラミナは首を傾げる。
ノブナガはニヤリと笑いながら、
「ようやく旅団が復活したからな。せっかくだから4人全員で暴れようって、フィンクスがよ」
「団長の命令は『4人で暴れろ』ね。11番継いだなら、切り込み隊長やらなきゃ駄目よ。じゃないと、ウボォーが化けて出てくるね」
「そういうこった。ま、ウボォーなら1人でやるとか言うだろうが、新人のてめぇにそこまで譲る気はねぇがな」
3人の言葉にラミナは苦笑する。
「ほな、新人は先輩の優しさに感激しながら、暴れさせてもらおか」
ラミナ、ノブナガ、フィンクス、フェイタンは不敵に笑いながら、オーラを強めて前方に群がる『餌』を見る。
「一番殺した数が少なかった奴は他の3人に飯を奢るってのはどうだ?」
フィンクスが指を鳴らしながら提案し、
「面白れぇ。乗った!」
ノブナガが左手を鞘に添えながら乗り、
「それじゃあラミナが雑魚しか狙わないね。念能力者は1人10点。最低1人は念能力者を狩らないと負けにするね」
フェイタンが笑みを深めながらルールを付け加え、
「さっき殺した奴はカウントされん?」
「するかよ、バァカ」
「やんな~」
ラミナは肩を回しながら冗談を言う。
10倍以上の人数差があるのに、怖気づくどころか、笑って話している4人に、警備員達は否が応でも目の前の連中は異常であることを理解する。
能力紹介は次回に!