暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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お待たせしました。

旅行に行ってましてね。
充電完了です!

まぁ、お陰で年末年始の休みは無くなりましたがね!


#84 サイアク×ノ×マモノタチ

 翌日。

 ラミナ、マチ、カルトは【トルシア】郊外にやってきた。

 

 ありがたいことにマチも文句を言わずに付いてきた。

 

「仕事中はどうするんや?」

 

「……暇だし、見学でもする」

 

「遠足か」  

 

「雑魚くらいなら相手したげるよ。金はもらうけど」

 

「そこはイルミに言いや」

 

 マチの言い分に呆れながら、ラミナ達は待ち合わせ場所に到着する。

 そこは街外れの森の中で、周囲に人気はない。

 

「それにしても、イルミやったら人手くらい問題ないんちゃうか? 操作系能力やったやろ?」

 

「そうだけど……。念能力者が複数人相手にいるなら、微妙かも」

 

「そういうこと」

 

 悩まし気に眉間に皺を寄せながら話すカルトに、別の声が参加する。

 顔を向けると、木陰からイルミが姿を現した。

 

「久しぶり。カルトが世話になってるね」

 

「お前が置いて行ったんやろが」

 

「おかげで親父達も喜んでるよ。ところで、そっちのが言ってた団員?」

 

「そうや。まぁ、参加するかどうかは依頼内容と報酬次第やな」

 

 マチはイルミを鋭く見据えている。

 ラミナがキルアと婚約するはめになった原因でもあるからだ。

 

 イルミはそれを無視して、早速本題に入る。

 

「で、仕事なんだけど。ちょっと厄介なことになったんだよね」

 

「あ?」

 

 眉間に皺を寄せるラミナ。

 カルトも首を傾げて、イルミに訊ねる。

 

「そんなに厄介なターゲットなの?」

 

「いや、ターゲットは新しい十老頭の1人だから、ターゲット自身は問題じゃない」

 

「十老頭やと? ちゅうことは護衛に面倒なんがおるんか?」

 

「昨日連絡した時はそれだけだったんだけど……」

 

「いい加減はっきり言いな」

 

 しびれを切らしたマチが睨みつけながら言い放つ。

 それにイルミはお道化たように両手を上げる。

 

「はいはい。他にも同じターゲットの暗殺依頼した連中がいてさ。ブッキングしたんだよ」

 

「げ……。他にもっちゅうことは、マフィアンコミュニティー内は内乱状態か……」

 

「クモが大暴れしたからね。選ばれたばかりの十老頭の株は下がったどころか、マイナスさ」

 

「粛清と成り上がり戦争が始まったんか……」

 

 昨日調べて考えていたことが、すでに始まっていたことに顔を顰める。

 まさか旅団と繋がっている可能性があるゾルディック家に依頼するほど、なりふり構っていられない状況とまでは思っていなかった。

 

「それでそれぞれ後釜になろうとしてる連中が、殺し屋を投入してきたって感じ。昨日はまだ誰か分からなかったんだけど、さっき判明したのがコイツら」

 

 メモ用紙を取り出して、ラミナに放り投げる。

 キャッチしたラミナは紙を開いて目を通すと、盛大に顔を顰める。

 

「【捩魔】に……【ロストマン】……。しかも、ターゲットの護衛に【アバズレ】ぇ? ……マジか?」

 

「大マジ。参っちゃうよね」

 

「有名な殺し屋なの?」

 

「全員が旅団員レベルの実力者や。【アバズレ】は殺し屋っちゅうより傭兵に近いんやけど、実力はホンモンやなぁ。1人でも厄介やのに……」

 

 うんざりとした表情を浮かべて、近くの樹の根元に座り込む。

 そして、イルミに顔を向けて、

 

「護衛は【アバズレ】だけちゃうんやろ?」

 

「もちろん。数人の念能力者と手下のマフィアがたんまりと」

 

「それを相手に【捩魔】と【ロストマン】に先越されんように始末しろって? もはや笑い話にしか聞こえんでな。報酬が割りに合わんのちゃうか?」

 

「そうなんだよね。正直、どうしようか悩んでる。今、依頼者に報酬の上乗せを交渉してるけどさ」

 

「いくら?」

 

「ブッキング状態でやるなら300億。解消してくれるなら100億。ちなみに元は70億だよ」

 

「……分け前は?」

 

「6:4で、そっちが6」

 

「阿呆言え。【捩魔】と【ロストマン】相手やったら400億はもらわんと割りに合わんわ」

 

 ラミナはもうやる気をなくしている。

 殺し屋同士で競うということは、確実に殺し合いになるからだ。

 

 【捩魔】【ロストマン】はラミナよりも長く殺し屋世界で生き延びてきた強者達だ。

 ヒソカやクロロと同時に戦うのと変わらないとラミナは考えている。

 

 そして【アバズレ】もラミナやマチにも劣らない実力者である。

 意識を他に向けて戦える相手ではないのだ。

 

「そんなに強いの?」

 

「……【ロストマン】は昔コンビを組んどったこともあるから、その能力はよう知っとる。あいつの能力はここにおる全員と相性が悪い」

 

「あんたも?」

 

「あいつの能力は『弾丸』。……うちの能力と同じく、弾丸ごとに様々な力を付与することが出来るんや」

 

 【無限の弾倉(アンリミテッド・バレット・ワークス)】。

 

 それが【ロストマン】の能力である。

 ある『制約』を支払うことにより、具現化した弾丸に様々な能力を付与して撃つことが出来る。

 

 自分の能力と似ているため、その厄介さをラミナは理解している。

 そして、マチやカルトも顔を顰める。

 

「【捩魔】の方は?」

 

「あいつは変化系能力者。オーラをドリルにしたり、触れたモンを捻じ曲げることが出来る。ヒソカやマチ姉と同じく汎用性が高くて、対抗手段が少ないタイプや。ちゅうか、もう実力的にヒソカと戦うようなもんや」

 

「護衛の方は? 【アバズレ】とかよく分かんない仇名だし」

 

「【アバズレ】は金と人の血を流せる場所を提供してくれる奴なら、喜んで敵に寝返るんや。それで混乱した戦場や勝敗がひっくり返った事件もギョーサンある。別に戦い方にプライドがあるわけでもないから、戦い方は不意打ち、騙し討ち、暗器とか使いまくるから、【アバズレ】って呼ばれるようになったんや。見た目は美人やしな」

 

 ある意味でカルトに近い存在かもしれない。

 

 カルトは寝返ったりなどはしないが、見た目で油断させて相手をいたぶるのが好きなのだ。

 【アバズレ】も同じく、見た目で油断させたところをブスリと刺して、いたぶるのが好きだと聞いたことがある。

 

「ゾルディック家に寝返らないかな?」

 

「……やめとき。強い奴の血を流すんが特に好きっちゅうんも聞いたことがあるわ。間違いなくゾルディック家と殺し合うんを選ぶやろうな」

 

 打つ手なしに等しい状況に顔を顰めるカルト。

 ラミナとマチはうんざりとした表情を浮かべており、イルミは表情を変えずに腕を組む。

 

 答えは出ず、とりあえず依頼者の返答を待つことにしたラミナ達。

 

 しかし、結果ブッキングは解消されず、報酬は350億しか支払われないこととなった。

 

「執事共は呼べんのか?」

 

「流石に間に合わないよ」

 

「呼んどけや。うちらに連絡する暇があるんやったら」

 

「普段頼まないから忘れてた。悪かったって」 

 

「……はぁ。んで、どうするんや?」

 

「俺とカルトでターゲットと雑魚をやるから。厄介な連中は任せてもいい?」

 

「……四つ巴にすれば……時間も稼げるたぁ思うけど……。んな、上手く行かんと思うけどなぁ」

 

「アタシも雑魚狩りに参加してやるよ。流石に面倒そうだからね」

 

 マチは呆れた表情で参戦を告げる。

 ラミナはありがたいとは思うが、結局面倒な相手を自分がするのは変わりない事に顔を顰める。

 

(【月の眼】はもちろん、とことんストック大放出せな厳しいやろなぁ。せめて【ロストマン】がおらんかったら、まだやりようがあるんやけど……)

 

 間合いは圧倒的に【ロストマン】が有利。

 しかも、ラミナの場合は振るうことが前提とされているので、銃撃と比べるとやはり攻撃動作が増える。

 

 普通ならばラミナの身体能力が上なので、銃など恐れるに足りないのだが、相手が同等以上であるならばむしろ脅威でしかない。

 更に厄介なのは『弾丸』なので、剣以上に見た目では能力を見極めにくい。

 恐らく『物体に当たる』ことが制約である可能性は高いので、弾丸を弾いたり、斬り落とすのも容易ではない。

 

(ただ……今の【ロストマン】が()()()()()()()()……)

 

 ラミナの【刃で溢れる宝物庫】同様、【無限の弾倉】も制約と誓約は厳しいものとなっている。

 その内容をある程度知っているラミナは、複雑な表情を浮かべる。

 

 それに気づいたマチは、

 

「どうしたの?」

 

「……いや。……またエラい疲れる仕事やなって。はぁ……カルトの修行成果を見る気軽なもんやったはずやのに……」

 

 ラミナはため息を吐きながら、立ち上がる。

 

 夕暮れを迎えるトルシアを見つめながら、ラミナは目つきを鋭くしていく。

 

 潜んでいる強敵達を見透かすかのように。

 

 

 

 

 トルシアのスラム街。

 

 ボロイ平屋のボロイソファに、【捩魔】は寝転んでいた。

 

「……ゾルディック家に、他の殺し屋だとぉ。おいおいぃ、本気で言ってんのかよぉ」

 

『本気だ。だが、ここで日和るわけにはいかん!』

 

「そっちはそれでいいかもしれねぇがよぉ。現場はそんなんで動けるわけねぇよぉ。報酬が絶対的に足りねぇなぁ」

 

『ぐっ……分かっている。前金で最初の提示金を払う! 成功すればその3倍だ!』 

 

「……5倍だなぁ」

 

『ふざけるな!!』

 

「こっちだって調べてんだよぉ。ターゲットの護衛に【アバズレ】。ライバルに【ロストマン】。もしかしたら【リッパー】がいるかもしれねぇんだぜぇ」

 

『なっ……!?』

 

「【リッパー】はゾルディックと繋がってる可能性があっかんなぁ。そうなれば、ターゲットどころじゃねぇんだよぉ」

 

『……わ、わかった……。前金で2倍、成功報酬で6倍だ……』

 

「……まぁ、それで手を打つしかねぇかぁ……。一番は手を引くことだろうがよぉ。今回ばっかりは失敗しても苦情は受け付けねぇぜぇ」

 

 捩魔はそう言って通話を切って、携帯を握り潰す。

 残骸を放り投げて、ソファから起き上がる。

 

「あ~あ……厄介な仕事になっちまったなぁ。放り投げるにゃあデカすぎる山だしなぁ」

 

 捩魔もマフィアンコミュニティーが一番のお得意様だ。

 ほぼ全ての大陸にあるマフィアの元締めだ。

 大抵の主要都市にいるマフィア連中相手が、どうしても商売相手になってくるのだ。

 

 仲介屋も裏の住人だ。

 マフィアとの繋がりも深い。

 落ち目のマフィアンコミュニティーとは言え、状況が見えない中で切ることも難しいのだ。

 

 そして、そのしわ寄せは殺し屋に来るのも当然の流れだ。

 

「【アバズレ】【ロストマン】【リッパー】……。まぁ、【アルケイデス】の爺がいねぇだけマシかねぇ」

 

 捩魔は気だるげに頭を掻いて、酒瓶を手に取る。

 

「……最後の晩酒……かよぉ。はっ、似合わねぇなぁ」

 

 自虐的に笑って、酒瓶を放り投げる。

 そして、ポケットに両手を入れて猫背姿でボロ屋を出ようとするが、その瞳は気だるげな雰囲気とは真逆でとても鋭く、冷え切っていた。

 

 

 

 同じ頃、トルシアの安ホテルの一室にて。

 

 部屋に据え置きのパソコンの画面を見つめて、男は小さくため息を吐く。

 

 赤茶の短髪に、引き締まった身体。

 黒い外套とズボン、黄色の刺繍をした黒い腰マントを身に纏った目の鋭い男。

 

 【ロストマン】である。

 

「もはや暗殺などという話ではないな。派手な殺し合いになる……。ターゲットどころではない、か……」

 

 ロストマンも他の実力者達のことを調べており、その名前に捩魔同様死を覚悟していた。

 

「……【リッパー】、か……。会うのは、いつ振りになるのだろうな……」

 

 ロストマンは椅子から立ち上がって、ベッドの上に置いていたトランクから一冊の本を手に取る。

 本を開き、その中身を読む。

 

「……()()()、か」

 

 何か納得するように呟いて、時間をかけて中を読み込んでいく。

 

「……手練れの()()だな」

 

 まるで他人事のように呟き、本を閉じてトランクに仕舞う。

 

「今回だけは……感謝すべきかもしれんな」

 

 そう呟いて、ロストマンは部屋を後にする。

 

 死地へと赴くために。

 

 

 

 そして、深夜。

 

 満月が妙に爛々と輝いている。

 

 トルシアの郊外にある屋敷風のホテル。

 その一室に設けられた和室にて、1人の女性が正座していた。

 

 黒い長髪を後ろで結び、薄赤の着物に真っ赤な袴、黒帯を身に着けており、女性を挟み込むように抜身の刀が二振り横たわっていた。

 

 その顔は巫女のように清純そうで、今は目を閉じて瞑想をしていた。

 

 すると、その小さな口がニィ~と、突如大きく三日月型に歪んでいく。

 一瞬で清楚は消え、淫靡と狂気に顔を染める。

 

「なぁんや……うなじがピリピリしはるなぁ。こらぁ……殺気、やろかねぇ」

 

 女性、【アバズレ】こと『ツマベニ』はこのホテルに向けられた僅かな殺気に本能的に気づく。

 

「どうやら、死体予定の旦那様に媚びとった価値はありはったようやねぇ」

 

 刀の柄を掴んで立ち上がり、引き戸を開けて廊下に出る。

 

 ツマベニの姿を、警備についていたマフィアの部下達が捉える。

 

「なっ!? お、お前、用もないのに出てく――!」

 

「お敵さんが来はるえ。お出迎えの用意しなはれ」

 

 ツマベニの言葉に、部下の男達は目を見開く。

 

「ボ、ボスを逃がせ! 急――ぎゃっ!?」

 

 慌てて指示を出した男の首が斬り飛ばされる。

 

「何言うてはるの? お出迎えて言うてるやないの」

 

 ジャポン人形のような綺麗な顔の頬に返り血をつけ、ただただ顔を冷酷に染めて倒れる男の死体を見下ろしながら言い放つ。

 

「ひっ……!」

 

「下手に逃げはるより待ち構えなはれ。血に飢えた虎が獲物を定めはった以上、逃げたところで無駄無駄」

 

 ベロォと頬についた血を舐めとって言うツマベニに、部下達は慄きながら命欲しさに頷くしかなかった。

 慌てて身を翻して走り出して、ボスに報告に行く。

 

「無粋は堪忍やよって。わての一番の楽しみを邪魔するんは誰やろうとさせまへんえ」

 

 強烈な殺気を隠すこともせずに、廊下を歩き出す。

 そして、ホテルは10分もせずに銃や刀を構えたスーツ姿の男達が走り回り、一気に物々しくなっていった。

 

 

 

 

 ラミナ達は物々しい雰囲気のホテルの様子を少し離れているビルの上から眺めていた。

 

「……完全に武装してるね。バレてる?」

 

「かもね」

 

「他の殺し屋を雇ったマフィアが裏切ったんじゃないの?」

 

「……その可能性はないやろ」

 

 腕を組んで鋭い目つきでホテルを睨みながらカルトの言葉を否定するラミナ。

 

 それにカルトは訝しみながら顔を向ける。

 

「なんで?」

 

「……ホテルの真ん中に隠れる気もない獣みたいな殺気が1つ。その殺気に引きつけられるように、東から捩じ曲がった殺気、西から鉄みたいに揺るぎがない殺気が近づいて来とる。……ピンポイントでうちらとホテルにおる獣に伝えるようにしてな」

 

「それって……」

 

「お互いに隠すだけ無駄っちゅうんは理解しとる。やから、むしろ挑発しとるんや。先に決着をつけようや、ってな」

 

「どうするの?」

 

「……まぁ、うちは行かないかんやろ。多分、連中が一番引っ張り出したいんは、イルミやろうけどな」

 

「だろうね。けど、流石に俺は参加出来ないかな。悪いけど、頑張って」

 

「……はぁ。うちはもう生き残るだけで頭一杯になるでな。手助けは期待すんなや。仕事終わったなら、早めに合図せぇよ」

 

「分かってる」

 

 ラミナは疑いの目をイルミに向けるが、すぐにため息を吐いてサングラスを取り出して掛ける。

 

 そして、ビルの屋上から飛び出し、ホテルを目指す。

  

 イルミ達もすぐに移動を始め、ターゲット暗殺へと動き出した。

 

 

 

 ホテルは3階建ての四角状に建てられており、中心は開けた中庭になっている。

 普段はビアガーデンなどが行われているのだが、マフィア達が暗殺者が紛れ込まないようにと全て撤去させていた。

 

 そして、北側の屋根にツマベニが刀を携えて立ち、周囲に殺気を放出して待ち構えていた。

 

 薄く笑みを浮かべていたが、向かいの屋根に人影が見えた瞬間に、口角がつり上がり狂喜の笑みへと変わる。

 

 南側に現れたのはラミナだ。

 

 サングラスをかけ、後ろで束ねている紅い髪を夜風に靡かせながら、両手をポケットに入れている。

 

 ツマベニの正面で立ち止まった直後、東西の屋根に2つの人影が現れる。

 

 東からは猫背で気だるそうにポケットに両手を突っ込んでいる男、捩魔。

 

 西からは右手に白い刃と銃身の銃剣を持ち、左手には黒い刃と銃身の銃剣を持つ男、ロストマン。

 

 4人の殺人鬼が揃った直後、中庭の中心に四方向からの殺気で逃げ場を失った風が木枯らしのように渦巻く。

 

「久しぶりじゃねぇかよぉ、リッパー。聞いたぜぇ。クモに入ったんだってなぁ」

 

「まぁな」

 

「そして今はゾルディックの手先か? 随分と節操がなくなったものだ」

 

「うっさいわ。そっちこそ、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「さぁ……どうだかな」

 

「ふふふ♪ これはこれは胃もたれしてまいそうやわぁ」

 

「相変わらず気持ち悪い顔しとんなぁ、【アバズレ】」

 

「そらもう。最近は味が薄いモンしか食べとらんさかい。飢えに飢えてもうてるんよ」

 

「それでわざわざ落ち目のマフィアにってかぁ? 狂ってんよなぁ」

 

「我々も人の事は言えないと思うがね。隠すか隠さないかの違いというだけで、結局は同じ穴の貉だろう。やることは何も違いはない」

 

 張り詰めていく空気を無視するように、軽口を言い合う4人。

 

 もはや空気が揺れているのではないかと、錯覚しそうなほどに殺気がその場を満たしている。

 

 ホテル内にいる者達のほとんどは、その殺気で呼吸困難に陥っており、まともに動けているのはもはやイルミ、マチ、カルト、そして護衛の念使い達だけである。

 

 しかし、カルトや護衛の念使い達も、気を抜けば一瞬でこの殺気の滝に圧し潰されると理解して必死に体に活を入れる。

 

「なぁ、リッパーよぉ。ゾルディック家の刺客ってお前だけかぁ?」

 

「いんや。長男が中におるでぇ」

 

「はぁ……やっぱなぁ。こりゃあ……早く終わらせねぇとなぁ」

 

「何だったら逃げてくれてもいいんだぞ? その方が仕事が楽になる」

 

「そうしてぇけどよぉ。引き受けた仕事を俺から放りだすのは、流石に気に食わねぇなぁ」

 

「このまま睨み合いで終わろうや。正直、うちはお前らとやり合うつもりで来たわけやないし」

 

「それはあきまへんえ。あきまへんよ、リッパーはん。A5ランクの霜降り肉を目の前にぶら下げられて、獣が我慢出来るわけないでっしゃろ? もう構へん? 始めても構へん??」

 

 コテン、と狂喜の笑みを浮かべたまま首を傾げ、ゾワリと禍々しいオーラを噴き出すツマベニ。

 

 ラミナは右手にソードブレイカー、左手にブロードソードを具現化してオーラを纏う。

 

 ロストマンも両腕を僅かに広げて、捩魔も両手をポケットから出してコキコキと指を鳴らしながらオーラを強める。

 

「ああああ、もう我慢出来まへん。血ぃ見せてぇな、浴びさせてぇな、舐めさせてぇな、啜らせてぇな、飲ませてぇな、満たさせてぇな。今宵のわては、もう血に飢え過ぎやよってなああ!!」

 

「吸血鬼か」

 

「勘弁しろよぉ。んなもん、殺し辛くてたまんねぇぜぇ」

 

「なっていてもレッサーだろう。心臓を刺すか、抉るか、撃ち抜くかすれば、死なずとも止まりはする」

 

「それも楽しそうやなあ!! 試してみてやあ!! せやけど、その前に死なんでおくれやすう!!」

 

 ツマベニは目を限界まで見開いて笑い叫びながら飛び出す。

 

 それと同時にラミナ、ロストマン、捩魔も飛び出す。

 

 

 魔物の狂宴が、始まった。

 

 

 


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