暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#85 ジンガイ×ノ×タタカイ

 東西南北の屋根から、同時に飛び出す殺人鬼達。

 

 しかし、空中でぶつかり合うわけではなく、中庭の地面に飛び降りてから中心に向かって駆け出す。

 

 そのままぶつかり合うのかと思ったが、ロストマンが銃剣を構えてツマベニとラミナを狙って発砲する。

 

 それを読んでいたかのようにラミナは【肢曲】を使って、分身を複数生み出して躱す。

 

 ツマベニは迫る弾丸を見向きもせずに、空気を切る音だけで位置を把握して刀を振り上げて弾丸を両断する。

 

(ロストマンの能力はアバズレかて知っとるやろうに。よぉやるわ)

 

 知ったことかとばかりに弾丸を斬り落としたツマベニに呆れるラミナ。

 そのラミナは捩魔の背後に回り込もうとしており、捩魔は一切スピードを落とさずにまっすぐツマベニに詰め寄っていく。

 

 ツマベニは口を吊り上げながら、左手の刀を横薙ぎに振って捩魔に斬りかかる。

 すると、捩魔は走りながら屈んで斬撃を躱して、右手をツマベニの膝に、左手をロストマンに向ける。

 

 その背後からラミナがブロードソードを振り上げて斬りかかる。

 だが、そこにツマベニが右脚だけで跳び上がって、右手に握っている刀でラミナに突きを繰り出し、身体を捻る様に左手の刀を切り返して足元の捩魔を狙う。

 その一瞬をロストマンは見逃さずに、再びラミナとツマベニを狙って発砲しようとするが、ツマベニの斬撃を躱すついでにロストマンに飛び掛かってきた捩魔に左手に握る銃剣を振って斬撃を繰り出し、もう一方の銃剣でラミナに発砲する。

 

 ラミナは【一瞬の鎌鼬】で剣筋を無理矢理変えて、ツマベニの刀と打ち合わせて防ぐ。

 

「ちっ」

 

 しかし、それにより数m先で放たれた弾丸を躱すのは不可能と判断し、【脆く儚い夢物語】で弾丸を斬りつけて除念する。

 

 ラミナはそのまま南に跳び下がり、ツマベニは斬りかかった勢いのまま東に、ロストマンは捩魔を躱すように北側に避け、捩魔も突っ込んだ勢いのまま西側に走って、それぞれに仕切り直しとばかりに距離を取る。

 

 位置を変えて再び向かい合う4人。

 

「はぁー……しんど。イルミの奴、早よ終わらせてほしいわ」

 

「嫌やわぁ。もうちょっと楽しみなはれ」

 

「無手の相手に武器を振り回しやがってよぉ。もうちょっとフェアにやろうと思わねぇのかよぉ」

 

「殺し屋に殺し屋がフェアを求めるとは笑わせる」

 

「銃とか使うお前に言われたないわ」

 

「お前だって飛び道具があるだろう?」

 

「あかんなぁ。殺しはちゃんと実感せんとぉ」

 

 それぞれに再び仕掛けるタイミングを探りながら、会話をするラミナ達。

 

 ラミナは内心盛大な舌打ちをする。

 

(ちっ。全員、近づくんも斬りかかるんも一苦労な連中やな。こうなると【月の眼】も使えん)

 

 【月の眼】の能力は1人のみを対象とする。

 手練れが2人以上揃うと、どちらを視界に捉えるかが難しくなり、逆に隙が出来かねない。

 

(【不屈の要塞】やったら、ロストマンと捩魔の攻撃は躱せるが……アバズレの刀は厳しいか)

 

 ツマベニの刀は具現化した武器ではない。

 もちろんオーラで強化した斬撃は弱体化させられるが、それでも強化した身体能力で振るわれる斬撃は馬鹿に出来ない。

 

 ツマベニは強化系能力者である。

 

 そして、能力は単純。

 身体能力と刀をオーラで強化するだけ。

 

 旅団で言うならば、ノブナガとウボォーギンを足して2で割った戦い方。

 

 小細工無しの身体能力、我流の剣術、経験と本能のみで、戦い抜く生粋の戦闘狂だ。

 

 だからこそ、恐ろしい。

 

 強化系は六系統の中で一番戦闘においてバランスがいいと言われている。

 四大行とその応用技のみで戦闘が出来、回復力や体を強化できるからだ。

 

 戦闘において、強化という能力は単純故に強い。

 

 精神が大きく影響する念において、ただ強化するだけの能力は、余計な雑念がないだけに強い。

 

 そして、ウボォーギンやツマベニは、戦闘において一種の『覚悟』と言えるほどの『こだわり』を持っている。

 『誓約』と言えるほどに。

 

 ウボォーギンは『拳で砕く』。ツマベニは『刀で斬る』。

 戦いにおいて、ただそれのみに全てを捧げている。

 

 それによって、ツマベニの身体能力と斬撃は恐ろしいほどに強化されている。

 

(頑丈さはウボォーほどやないとしても、素早さや攻撃の鋭さは上。まともに斬り合えば、うちの武器なんざ簡単に斬られる。アバズレは素でも鉄を切るほどの剣術の腕前。【不屈の要塞】の鎧ごと斬られると考えるべきやな)

 

 そうなると、今度は捩魔とロストマンが面倒になる。

 

 捩魔の能力は【捻くれ者の意地(スクリューボール)】。

 

 オーラに『捩れ』の性質を加えることで、オーラが触れたモノを捩り、オーラの先端を尖らせて捩ることでドリルのようにすることも出来る。

 

「さぁて……様子見をしてられる相手じゃ、ねぇよなぁ」

 

 捩魔はそう言うと両手を貫手に構える。

 直後、両前腕を覆っていたオーラを高速で回転させる。更には両脚の脛部分のオーラも勢いよく回転を始めた。

 

 それを見たロストマンとラミナは僅かに顔を顰め、ツマベニは更に笑みを深める。

 

(勘弁してぇや。余計に近づけんくなったやないか……)

 

「……これは油断出来んな」

 

 今度はロストマンが動きを見せる。

 なんと、銃口を自分の胸へと向けたのだ。

 

「……まさか!」

 

「【アクセル・バレット】」

 

 ラミナが何をする気か悟った瞬間、ドパン!と銃弾を自分に撃ち込んだ。

 

 しかし、血が溢れることも風穴が空くこともなく、ロストマンは平然と立っていた。

 

「なにしはったん?」

 

「なに、大したことじゃない。ただ俺の身体能力を倍にしただけだ」

 

「十分大したことだろうがよぉ」

 

「ホンマ……厄介な能力やで……」

 

 ラミナはソードブレイカーを消して、ククリ刀を具現化する。

 

 それと同時に猛スピードで駆け出す4人。

 

 しかし、ラミナは飛び出すと同時にククリ刀を投擲して、僅かにスピードを落として、次にウルミを具現化する。

 ククリ刀は炎を纏って勢いよく飛翔し、ぶつかり合う予定だった中庭の中心に迫る。

 

 だが、ロストマン、捩魔、ツマベニは誰一人迫るククリ刀に驚くことはなく、

 

 ロストマンは連射して、ククリ刀に弾丸を浴びせて勢いを弱める。

 続いてツマベニが左手の刀を振り下ろして、炎を纏ったククリ刀を両断した。

 

 ラミナはそれを気にすることなく、ウルミを振るって能力を発動する。

 

 ウルミは地面に潜って掘り進み、捩魔の足元から勢いよく飛び出す。

 迫るウルミを軽やかに躱した捩魔は、突如地面に跪く。

 

 直後、回転するオーラを利用して、疾走し始めた。

 

「はぁ!?」

 

「舐めんじゃねぇ、よぉ!!」

 

 目を見開くラミナに向かって、右貫手を突き出す。

 

 捩魔の腕で回転していたオーラが、うねりながらラミナの心臓目掛けて伸びた。

 

「!! ぐぅ!」

 

 ラミナはブロードソードを盾にして、受け流すように横に跳ぶ。

 

 バキン!とブロードソードは半ばから折れて消滅し、ラミナはウルミも消してスローイングナイフとブロードソードを具現化する。

 

「伸びるとかアリか……!?」

 

「誰も伸びねぇなんて言ってねぇよぉ」

 

 飄々と言いながら捩魔は左手を開くと、オーラも五指に分かれて指先で細いドリルのように回転する。

 それを見て、何をしてくるのか悟ったラミナは頬を引きつかせる。

 

 捩魔が左手をラミナに向けると、推測通り5本の細いドリルが伸びて襲い掛かってきた。

 

 ラミナは歯を食いしばって体を捻るも服に掠って破れ、ギリギリで躱しながらスローイングナイフを投擲する。

 捩魔は首を傾げるだけで避けるが、指を鳴る音が聞こえた瞬間、ラミナが捩魔の背後に現れた。

 

「!!」

 

「しぃ!!」

 

 【一瞬の鎌鼬】を発動して高速の斬撃を繰り出すが、捩魔は体を捻じって左腕を掲げて回転させたオーラでブロードソードを受け止める。

 

 嫌な予感がしたラミナはブロードソードを消して、後ろに跳び下がる。

 

「ちっ」

 

(やっぱ、あのままやったら剣が捩じ折られとったか)

 

 ラミナがそう考えていると、背中に怖気が走る。

 ブロードソードを具現化しながら振り返ると、ツマベニが凶悪な笑みを浮かべて両腕を振り上げながら斬りかかって来ていた。

 

「ひゃあ!!」

 

「こんくそがっ!!」

 

 ラミナはもう一振りブロードソードを具現化して、ツマベニと嵐が如き剣戟を繰り広げる。

 

 ギギギギギィン!!と、まるでマシンガンでも撃っているかのような金属音が響き渡り、時折2人の間に火花が散る。

 

 ラミナは高速の斬撃で真正面から斬り合うのではなく、ぶつけてはすぐに引き、ぶつけてはすぐに引きを繰り返して細かく連打することで、ツマベニの斬撃を弾いていた。

 

 そこにロストマンが再び銃口を向ける。

 

「【バースト・バレット】」

 

ドドドドン!!

 

 4発の弾丸を撃ち出し、銃声にラミナ達も目を向ける。

 それと同時に弾丸が破裂したかと思うと、大量の念弾が雨のように襲い掛かってきた。

 

「いっ!?」

 

「おやまぁ」

 

「おいおい……!」

 

 捩魔もラミナ達に攻め寄ろうとしていたため、慌ててブレーキをかけて後ろに跳び下がる。

 ラミナとツマベニも剣戟を止めて、念弾の雨の中を縫うように避けようとする。

 

 しかし、そこに一条の閃光がラミナとツマベニへと飛んで来た。

 

「っ!!」

 

 ラミナは二振りのブロードソードで防ごうとしたが、閃光は容易くブロードソードを貫いて僅かに軌道を変え、ラミナの右脇腹を掠って血を噴き出す。

 

 ツマベニも身を捩るも躱し切れずに掠り、背中を横一文字に抉って血を流す。

 

 顔を顰めながらラミナはハルバードを具現化しながら壁ギリギリまで下がる。

 そして、ロストマンを睨みつける。

 

「……【レーザー・バレット】」

 

「ほぉ……覚えていたのか」

 

「そらな。お前の必殺弾の1つやろ」

 

「見事に躱されたがな」

 

「ギリギリやったわ阿呆。(ブロードソードがストック0にされたしな。流石に厳しいか……)」

 

 【天を衝く一角獣】は動きが鈍ってしまうので、同時に3人倒すタイミングでもない限り使えない。

 【弱さは罪】ならばツマベニに有効だが、他の2人には有効打にならない。

 

(ロストマンと捩魔は一撃で仕留めんと無力化は無理やな。けど、今のうちの武器であの2人を仕留められる可能性があるんは、【天を衝く一角獣】くらいか……)

 

「ところでロストマン」

 

「なんだ?」

 

「あと()()()()()()()()()()()んや?」

 

「……」

 

「うちとお前が組んどったんは3年前。……もうお前、うちのこと覚えとらんやろ?」

 

「……さぁな」

 

「ほれみぃ。そう答えるんが証拠や。うちはお前に言うたぞ? お前は誤魔化す時は『さぁな』って言う癖があるてな」

 

「……」

 

 ロストマンの【無限の弾倉】は銃剣と弾丸の具現化能力である。

 それだけならば制約はないが、問題は『特殊能力を付与した弾丸』だ。

 

 その制約は『1つの弾丸に能力を付与する度に、一番古い記憶が消えていく』こと。

 消えていく記憶は能力の強さに比例して増える。

 

 最低で1時間。最高で30日。

 

 【バースト・バレット】が1発3時間。

 【アクセル・バレット】が1発12時間。

 【レーザー・バレット】が1発15日。 

 

 この戦いだけですでに1か月分の記憶を失っていた。

 

 古い記憶から失っていくので、戦えなくなることはない。

 重要な記憶は迅速に本やデータに記録している。もちろん、見直したからと言って、思い出すことはないのだが。

 

 そして、ラミナの推測通り、ロストマンはすでにラミナと組んでいた頃の記憶も失っていた。

 

 記憶を失うのは、それまでの自分を失うことに等しい。

 なので、命を懸ける制約と誓約と同等の威力を発揮するのだ。

 

 ロストマンはすでに自分が何故殺し屋になったのかも覚えていない。

 何故かその記憶については、どこにも記録されていなかった。

 

 しかし、もう殺し屋になる前の記憶もない。

 自分がどのような子供時代を送っていたのかも分からない。

 

 もはや今の自分は、記憶を失う自分と同じ人間なのかどうかも分からない。

 

 だからと言って、今更他の生き方も選べそうにない。

 

 殺した者達すら忘れていったのだから。

 

「お前がここに来たんは、殺してほしかったからちゃうか?」

 

「……さぁな」

 

「おやまぁ。ほなら、わてが殺してあげますよって」

 

 ラミナとロストマンのやり取りに、ツマベニが横槍を入れる。

 

 背中の傷など気にもせず、ゆらりと前に出てくる。

 

「やれやれ……そろそろ潮時かもしれねぇなぁ」

 

 捩魔がため息を吐いて、膠着状態になりつつある戦況に引き際を考え始めていた。

 

 そこにホテル内から拳銃や短刀を携えた黒服の集団が、東西側から中庭に駆け込んできた。

 

「そこまでだ、殺し屋共!」

 

「大人しくしやがれ!」

 

 ターゲットの部下達が叫びながら銃を構えた瞬間、4人の殺人鬼は弾かれたように黒服集団に向かって飛び出す。

 

 一瞬で黒服に詰め寄ったラミナはハルバードを横薙ぎして、3つの頭を宙に飛ばす。

 同じ集団に攻め込んだロストマンは数人の眉間に銃弾を撃ち込んで、ラミナの視線がこっちに向いた瞬間に黒服集団に紛れるように黒服に斬りかかる。

 

 その反対側では、ツマベニは先ほどまで浮かべていた笑みが消え、無表情になっていた。

 

「全く……力量も分からんのに出て来たらあきまへんえ」

 

「な……なんで……俺らを……」

 

 足元で袈裟斬りに倒れた男が意識が遠のきながら言う。

 ツマベニは冷たい瞳で見下ろして、

 

「食事しとる時に、目の前で虫がウロチョロされたら不快やない? それと同じやよって。虫に邪魔されて、隙を作りたぁないんよ」

 

 そう言いながら、ツマベニはずっとすぐ近くで戦っている捩魔に意識を向けていた。

 

 捩魔は一瞬で男達の背後に回り、男達の首に右手で触れていく。

 触れられた瞬間、男達の首がギュルルルと独りでに捩れ、首が勢いよく絞められたせいか舌と目玉が飛び出して死んでいく。

 

 そして、ツマベニに慄いて、捩魔に背中を向けている男の背中に向けて、右貫手を繰り出しながらオーラをドリル状にして伸ばす。

 

「がぼっ、ぼががああああぁぁ――!?」

 

 男の胴体に大きく穴を空けて、ツマベニに勢いよく迫る。男の身体はオーラに引きずり込まれるように回転しながら潰れていく。

 

 ツマベニは横に跳んで躱し、着地と同時に飛び出して一瞬で捩魔の左横に移動する。

 

「あはっ♪」

 

 刀二振りで袈裟斬りを繰り出し、捩魔は左手刀で刀を弾こうとするが、直前で刀が止まり、ツマベニが屈んで左足払いを放つ。

 

 捩魔は反射的に後ろに跳び下がるも、ツマベニは二刀を突き出して右脚だけで飛び掛かってきた。

 刀の切っ先にオーラが集中しており、捩魔は防げないと判断して、両足から地面にオーラを広げて能力を発動する。

 

ガガガガ!! 

 

 地面が抉られて凹み、捩魔の身体を下げる。

 それによって、ツマベニは捩魔を飛び越えてしまうが、腹筋と背筋に力を籠めて二刀を突き出した体勢から、二刀を全力で振り下ろした。

 

 すぐさま横に跳んで斬撃を躱した捩魔は、振り返りざまに右膝蹴りを放ち、そこからドリル状のオーラを伸ばす。

 未だ空中にいたツマベニは全身に力を籠めて、身体を捻って迫ってくるドリル状のオーラにオーラを集中させた二刀を叩きつけて、その反動と勢いを利用して方向転換する。

 

「げぇ。(【硬】で俺のオーラを押し飛ばしやがったのかよぉ)」

 

 【硬】で集中させた膨大なオーラで捩魔のオーラを押しのけ、刀に触らせなかったのだ。

 

「厄介な能力でんなぁ。捩れたオーラに触れてしもたら問答無用とは」

 

「力技で切り抜けた奴に言われたくねぇよぉ」

 

「おや、座布団一枚」

 

「上手くねぇよぉ」

 

バリィン!!

 

 ガラスが割れた音に2人が目を向けると、ラミナの姿はなく、ロストマンはホテル内に向かって連射していた。

 

 すでに中庭には黒服集団は誰も生き残っていなかった。

 

 それからホテル内に逃げ込んだのはラミナだと判断したツマベニは、ロストマンに向かって踏み込む。

 その隙を見逃さなかった捩魔が攻めかかろうと構えた瞬間、

 

 ツマベニが手首と指の力だけで、右手に握っていた刀を捩魔の眉間目掛けて投げた。

 

「っ!!?」

 

 完全に虚を突かれた捩魔は、目を見開いて大きく仰け反る。

 

 ツマベニはニタァと笑みを深めるが、投擲した刀が勢いよく壁に突き刺さったのを見て、笑みが固まる。

 

 仰け反っていた捩魔が上半身を跳ね起こして、両手を突き出してオーラを伸ばしながらツマベニに飛び掛かる。

 

 ツマベニは屈んで躱すが、後ろで結んでいた髪がオーラに触れて引き千切られる。 

 しかし、そんなこと気にもせずに左手に握る刀を逆手に持ち替え、豹のように背を低くしたまま飛び出して、捩魔の脇をすり抜ける。

 

 ツマベニはそのまま壁に突き刺さった刀の元に走り、刀を抜きながら壁を駆け上がる。

 

 捩魔は振り返ってツマベニを目で追うも、左脇腹に痛みが走って思わず顔を顰める。

 

 左脇腹は深く斬りつけられており、血が流れていた。更に額からも血を流しており、口元に流れてきた血をペロリと舐めとる。

 

「ちっ……今のはちょっとヤバかったなぁ……。まぁ、奴の刀を一本潰した代償と考えりゃあしゃあねぇかぁ?」

 

 ロストマンに向かって屋根を走るツマベニを見て、ニヤリと笑う捩魔。

 ツマベニの左手に握っている刀は、中ほどから螺旋状に捩れてしまっていた。突き刺すならともかく、もはや斬るのは不可能だろう。

 

「さてぇ……どうしたもんかねぇ。ぶっちゃけ、もうここからターゲットを狙いに行ったところでなぁ。ゾルディックがいやがるだろうしよぉ」

 

「もう逃げへん?」

 

「んあ?」

 

 後ろを振り向くと、ラミナがうんざりした顔で窓際にもたれ掛かって頬杖をついていた。

 

「正直もう時間稼ぎは十分やろうから、うちのお役目終わっとると思うんよな」

 

「けどよぉ、ロストマンがさっきの速ぇ弾丸使っちまえば、分かんねぇぞぉ? 他にも念能力者の護衛がいただろぉがよぉ」

 

「他にも動いとる奴おるし」

 

「あぁん? 他ぁ?」

 

「ゾルディック家五男と旅団員1人」

 

「……お前の弟子って噂のかぁ?」

 

「お~、よう知っとんな」

 

「……はぁ~。そりゃあ無理だなぁ。引き上げるとするぜぇ」

 

 捩魔は大きくため息を吐いて、撤退を決める。

 

 流石に負傷した状態で、これ以上敵が増えるのはリスクしかない。

 しかもそれがラミナの弟子と言われているゾルディック家五男と、旅団員だと言うのだから絶対的に報酬が割りに合わない。

 

「そうだなぁ。お前がいるんだから、ゾルディック家だけじゃなくてクモもいる可能性を考えとくべきだったよなぁ」

 

「報酬が釣り合わんやろ? うちかてお前ら相手に4人で350億とか割りに合わんわ」

 

「ひでぇ依頼主だなぁ。あ~あ、こりゃあ俺もマフィアンコミュニティーを見限らねぇといけねぇかよぉ」

 

「考えた方がよさそうやな」

 

「だよなぁ。じゃ、俺ぁ行くぜぇ」

 

「おう」

 

 捩魔はジャンプして、一息に屋根まで飛び上がる。

 そのまま闇へと姿を消していく。

 

 それを見送ったラミナは、ため息を吐いてロストマンとツマベニの戦いに目を向ける。

 

 ツマベニはロストマンに間合いを詰め続けることで、発砲する隙を与えないように戦っていた。

 捩魔にやられた刀はいつのまにか捨てており、黒服の男達が持っていた短刀を握っていた。

 それでも全くロストマン相手に隙を作らないのだから、本当に恐ろしい実力だ。

 

 しかも、2人はラミナを巻き込もうと、斬り合いながらこっちに向かってきていた。

 

「もう終わっとると思うんやけどなぁ。……正直、ちょいとヤバいんやけどなぁ」

 

 ラミナは左腕へと目を向ける。

 

 実はロストマンの連射の1発が当たり、左上腕からは血が流れていた。

 

 力が入らないわけではないが、右脇腹の傷を合わせるとあの2人を相手にするには不安なコンディションである。

 

 警察もそろそろ到着するだろう。

 正直、逃げ出したい。

 

 ラミナはそう考えていた。

 

 しかし、ロストマンとツマベニが同時にラミナがいる場所に飛び込んできたことで、思考を中断して斬首剣とソードブレイカーを具現化して構えるのだった。

 

 




捩魔のドリル攻撃は、ティッシュを捻じってこよりを作るイメージですかね。
紙を捻じることで伸ばす。その先を鋭く捻じることで貫通力を上げるというわけですね。

ちなみに両前腕、脛で回転させ、移動に利用するのは【GEAR戦士・電童】という作品が元ネタです。

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