暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#88 ヨソウガイ×ナ×ジョウキョウ

 ガスラベスはサヘルタ合衆国一の観光都市だ。

 

 多くのカジノが存在しており、合法非合法を合わせると数える気にもならないほどになる。

 カジノと言えばマフィアが裏で関わっていそうだが、合法カジノでは国とプロハンターが関わっているため、マフィアは地味に非合法の方に追いやられている。

 特にヨークシン事変以降のゴタゴタで合法側で気張っていた組の多くも、寄親や寄子への対応で資金難に陥って潰れていった。

 

 今ではマフィアンコミュニティーの合法カジノは中規模の店しかなく、経営しているマフィアはずっと前に十老頭争いに負けて、ヨークシンにも顔を出さなかったために生き残ったなど、随分前に落ちぶれてカジノ経営で手一杯で今のコミュニティー内の抗争に巻き込まれていない運がいいのか悪いのか分からない組である。

 

 カジノ以外でも他の国の観光名所を模した建物があったり、劇場があったり、無料ショーなどが24時間どこかで催されているなど『眠らない街』として有名である。

 

 ラミナ達は夕方に到着して、安宿に泊まる。

 

「カジノでも行くんか?」

 

「この格好でもいいんだっけ?」

 

「行けるところはあると思うで。まぁ……」

 

「まぁ?」

 

「カルトが入れるかどうかは知らんけど」

 

「……」

 

 どう見てもカルトは子供にしか見えない。なので、基本的に入店を止められる可能性はある。

 

 ラミナとマチだけで行くならば全く問題ないだろうが、その場合カルトは1人で暇つぶしをしなければならない。

 

「非合法カジノやったら行けるかもしれんけど、確実にカモ扱いされて絡まれるやろな」

 

「……面倒だね」

 

「まぁ、そもそもの話、非合法カジノはマフィアンコミュニティーの連中が仕切っとるところばっかやから、うちらが行ってバレたら大騒動やけどな。特にうちとカルト」

 

「変装すれば行けるんじゃないの?」

 

「まぁ、行けると思うで。カルトの問題は変わらんけど」

 

「とりあえず行こ。変装してさ」

 

 という長女の号令で向かうことにした3人。

 

 ラミナはピンク髪を一本結びの三つ編みのカツラ、上は黒のジャケットに白のシャツ、下はスキニージーンズに着替える。

 マチは肩ほどの長さの黒髪のカツラに、上は黒のライダースジャケットに赤のTシャツ、下は黒のレギンスパンツにショートブーツという、ラミナ風の着こなしをしている。

 カルトは茶髪ストレートロングのカツラをうなじ部分で団子に纏め、赤の着物に黒の帯を選んだ。

 

「殴り飛ばすはアリやけど、殺しはナシな」

 

「「分かってる」」

 

 ということで、ラミナが子供でも入れる場所を調べて、3人はそこそこ大きい見た目ホテル風の非合法カジノに向かう。

 15階建てのビルで、11階より上がスイートルームと偽ってカジノを経営している。

 ラミナは合言葉をロビーで話して、カジノに入るためのカードキーをもらいエレベーターに乗って上がる。

 

 カジノに入って、ラミナが換金してマチとカルトに渡す。

 

「何するの?」

 

「アタシはポーカーでもしてくるわ」

 

「ん~、うちはまずスロットでも行こか。カルトは好きな方について行き。ただ、1人になるんはやめとけや」

 

「分かった」

 

 カルトは頷いてマチの後について行き、ラミナはスロットに向かう。

 

 スロット用のコインに換金したラミナはスロットに座り、早速一回回す。

 しばらく回転するリールを見つめ続け、ボタンを押していく。

 

タッタラー♪

 

 初っ端から柄が揃い、コインがジャラジャラと排出される。

 

「ふぅん……特に弄っとらんみたいやな。……どれくらい()()()……」

 

 ラミナは腕を組みながら、再びコインを投入する。

 

 すでにラミナはスロットの回転と反応の速度を見切ってしまったのだ。

 なので、むしろ運営側から睨まれない程度に外す方に意識を向けることになる。すでにスリーセブンを当てるなど百発百中だと確信しているのだから。

 

 とりあえず、喧嘩を売られる前に稼げるだけ稼ごうと思い、ボタンを押してスリーセブンを揃える。

 

パンパカパーン!!

 

 大当たりを引き当てて、抱えきれない量のコインが排出される。

 ラミナは周囲から向けられる視線を無視して、近づいてきたスタッフからコインの入れ物を受け取って入れていく。

 

 ラミナは隣の台に移動して、再びスロットを回してスリーセブンの次に大きい当たりを揃え、またコインが大量排出される。

 頬を引きつらせて近づいてきたスタッフから、また入れ物を受け取ってコインを入れて、また台を変えて今度はしばらくわざと外す。

 

 それにスタッフがホッと息を吐き、周囲の者達も興味を無くした瞬間、

 

パンパカパーン!!

 

『!!?』

 

 再び大当たりを出して、大量のコインを獲得するラミナ。

 スタッフは顔を真っ白にして、震えながら入れ物を渡し、ラミナは涼しい顔でコインを入れていく。

 そこで一度換金所に向かい、20枚ほど残して他のスロットコインをベット用のコインと交換する。

 

 ラミナは一度ポーカーの席に向かうと、大勢の人が集まっているのが見えた。

 まず間違いなくマチだろうと人垣をすり抜けて最前列に出ると、退屈そうなマチが頬杖をついてカードを持って座っており、その隣に小さく眉間に皺を寄せながらカードを見つめるカルトが座っていた。

 ディーラーは顔を青くして頬を引きつらせており、同じく席についていた裕福そうな男2人も頬を引きつらせてカードを睨んでいた。

 

 そして、マチの前には大量のベットコインが積まれていた。

 

(おぉおぉ、マチ姉の独擅場か。カルトじゃ、まだマチ姉の表情を読んだり出来んやろうし、マチ姉の勘には勝てんやろ)

 

「降りる」

 

 マチは表情を変えずにコインを掛ける前にカードをテーブルに投げる。それにカルトはしばらく唸るが、同じくベットせずに勝負を降りる。

 他の2人も勝負を降りてお流れになり、ディーラーがカードを集め始めると、

 

「勝負すれば良かったのに。カルト、多分勝ってたよ」

 

 と、マチがカルトに声をかける。

 カルトは眉間に皺を増やし、

 

「……まだそこまで読めない」

 

「そんな難しいことじゃないと思うけどねって、来てたの」

 

 マチはラミナに気づいて、声をかける。

 ラミナは苦笑しながらカルトに近づいて頭を撫でる。

 

「やめときやめとき。マチ姉の勘には勝てんわ」

 

「……勘であれだけ勝てるのおかしいよ……」

 

「仲間内じゃマチ姉の勘はかなり重要視されるくらいや。ポーカー自体初めてのお前が勝てる相手ちゃうわ」

 

「そっちはスロットどうだったの?」

 

「儲けたで。イカサマ疑われそうやったから、一度抜けてきたんよ」

 

「ふぅん。じゃ、アタシも飽きたし、ここまでにしとく」

 

 マチが立ち上がって、コインをラミナに押し付ける。

 ラミナは近くのスタッフからまた入れ物をもらってマチのコインを入れる。カルトもそこでやめて席を立つ。カルトのコインはすでにマチにほとんど取られていた。

 

「あんま面白くないね」

 

「正直、マチ姉にはカジノって向かん気ぃするわ」

 

 負けたら負けたで不機嫌になって殺気を撒き散らしそうだから。

 もちろん、そんなことは口にしないが。

 

 その後は適当に色んなゲームを冷やかして、マチが満足したところでカジノを後にする。

 ちなみに換金した金はもちろん持ち運べる量ではないので、口座に振り込まれることになった。

 

 建物から出たラミナ達は無料ショーを数か所見て回って、初日は終了した。

 

 

 

 翌日。

 カジノはもう満足したのか、マチは「食い物巡りがしたい」と言い、ラミナとカルトも文句は言わなかった。

 昨日と同じ変装で街に繰り出し、色々と食べながら無料ショーを見て、街を散歩していた。

 

 大通りから一本外れた路地に入って、次はどこに向かうかと話しながら歩いていると、

 

 細い路地から小さい影が飛び出してきて、ラミナの脚にぶつかった。

 

「ん?」

 

 目を向けると、そこにいたのは水色のロングウェーブヘアに、白のシャツに青いフリルスカートを着た少女だった。

 

 少女は両目に涙を溜めており、何故かラミナの左脚に力強くしがみついていた。

 

「なんやチビッ子。迷子にでもなったんか?」

 

 マチもカルトもめんどくさげな表情は浮かべても、流石に攻撃的な発言はしなかった。

 少女はラミナと目を合わせるが、身体を震わせて上手く言葉に出来ないのか口を開いては閉じるを繰り返す。

 

 その様子にラミナは、

 

(……迷子にしては怯え過ぎやな。うちらを怖がっとるわけではなさそうやし……)

 

 違和感を感じていると、

 

「見つけたぞ!!」

 

「もう逃がさねぇ!!」

 

「ひっ!!」

 

 少女が飛び出してきた細い路地からスーツを着たいかつい男2人が、駆け寄ってくる。

 それに少女は小さく悲鳴を上げて、ラミナの背後に隠れる。

 

「おい女ぁ!! そのガキ寄こしな!」

 

「渡さねぇと痛い目見っぞ!!」

 

「……はぁ」

 

 ラミナはため息を吐いて、少女に顔を向ける。

 

「チビッ子、あれはお前のお守りか?」

 

「!!」

 

 少女は勢いよく首を横に振る。そして、またラミナの脚にしがみつく。

 何故ラミナが守ってくれると思っているのか分からないが、やはり怯えている子供を明らかにマフィア関係者であろう連中に渡すのは気が引けるラミナだった。

 

「……はぁ。ちょっとだけ脚放してくれるか?」

 

「……」

 

 少女は不安げだが、動き辛いというのは分かったのだろう。大人しく手を放す。

 ラミナはそれに小さく頷いて、男達に顔を向ける。

 

「白昼堂々人攫いたぁ度胸あるやっちゃなぁ……」

 

「おい!! さっさと渡せ!!」

 

「そう言われてもなぁ……知り合いちゃうってチビッ子が言うてんねんけど」

 

「あぁん!? んなことお前が知る必要ねぇだろうが!!」

 

「ほな、お断りしとくわー」

 

 棒読みな感じで言いながら、右脚を素早く2回振り上げて男達の股間を蹴り上げる。

 

 男達は一瞬両足が地面から浮き上がり、何が起きたのか理解できないまま股間に走ったあまりの衝撃に口から泡を噴いて崩れ落ちて失神する。

 突然崩れ落ちた男達に少女は涙を目尻に溜めたまま呆然とする。

 

「さて、なんか倒してしもたけど」

 

「その子、どうすんの?」

 

「まぁ、警察に迷子っちゅうことで連れて行くんがええんちゃうか? あんま事情は聞きたぁないし」

 

 明らかに面倒事であることに呆れながら、ラミナは早々に少女をある程度安全な場所に連れて行くことに決める。

 マチとカルトもそれに異論はなく、移動を始めようとしたが、少女は腰が抜けたのか座り込んでしまっていた。

 

 それにラミナはため息を吐いて、左腕で抱え上げる。

 少女は特に抵抗せず、それどころかラミナの首に両腕を回して強く抱き着いてきた。

 

「なんでアンタにそんなに懐いてんのかね」

 

「さぁ?」

 

 子供の考えなど分かるわけもなく、ぐずるよりはいいだろうと考えることにして歩き出すラミナ達。

 

 しかし、数m歩いたところで、また人影が目の前に現れた。

 

「ここか!?」

 

「無事!?」

 

「お嬢様!!」

 

 現れたのはサングラスをかけたリーゼントの男、ハットを被った小柄の人物、そしてスーツを着た金髪ショートカットの女性の3人。

 

 ラミナはその内1人、小柄の人物に見覚えがあった。

 

(こいつ……確か……)

 

 とてつもなく嫌な予感がしたラミナだが、変装のおかげかまだバレていないようだった。

 

「お嬢様!!」

 

 金髪の女がラミナに抱かれている少女に気づく。

 恐らく本当に保護者なのだろうと推測したラミナはとりあえず早く渡して離れようと思い、少女を下ろそうとしたが何故か少女は腕を放さない。

 

「……お~い。お迎え来たぞ~」

 

「……!!」

 

 ラミナは少女の頭を撫でながら声をかけるが、やはり少女は腕を放さずむしろ更に力強くしがみつく。

 

「……なんでやねん」

 

「お嬢様。私です。ルシラです。さぁ、こちらに。もう大丈夫ですから」

 

「や!!」

 

「なんでやねん」

 

 何故か全力で拒否する少女。

 ラミナは素でツッコみ、ルシラは崩れ落ちて落ち込んだ。

 

 マチとカルトも呆れていたが、そこに小柄の人物―センリツがラミナに歩み寄ってきた。

 

「悪いのだけど、少しいいかしら? お嬢様を安全な場所に連れて行きたいの」

 

「……はぁ」

 

 ラミナはため息を吐いてマチ達に顔を向け、付いてくるか?と視線で問うた。

 

 マチは肩を竦めて頷き、カルトは無表情で頷く。

 それにまた小さくため息を吐いたところで、ラミナはあることを思い出した。

 

「あぁ……このチビッ子追いかけてきよった連中は、そこで寝転んどるで」

 

「……あの者達はどうせ下っ端だ。放っておけばいい」

 

 ルシラが復活しながら言い放つ。

 ラミナは少女を抱っこしたまま立ち上がる。センリツを見ると、彼女は僅かに目を丸くして顔を青くしていた。

 それに気づかれたことを悟ったラミナは小さく舌打ちをして、少女にも聞こえないほど小さな声で、

 

「バラしたら殺す」

 

 と呟いた。

 センリツは小さく頷いて、僅かに震えながら先導を始める。

 

 ラミナ達はその後に続いて歩き出す。

 

(さぁて、こいつらも問題やけど……マチ姉にバレるんも厄介よなぁ)

 

 センリツがいる以上、クラピカも来ている可能性は高い。

 

(ヨークシンで啖呵切ってもうたしなぁ。それにマチ姉は間違いなくクラピカの仇で、クラピカも間違いなくウボォーとクロロを害したマチ姉の敵)

 

 どう考えても出会った瞬間、殺し合いが始まる。

 

 いや、始めなければならない。

 

 それがマチとラミナにとっては『当然』であるからだ。

 

 だが、今は面倒でしかないのも事実だ。

 そろそろ一度周囲の目を旅団からズラしたいのもあるし、自分ばかり狙われるのもそろそろ鬱陶しい。

 

 小声で相談しようにも、センリツに聞こえるので話も出来ない。

 今のところ、マチ達は空気を読んでくれているのか黙って付いてきてくれているが、近いうちにラミナの態度に疑問を持つだろう。

 

(……面倒やなぁ)

 

 未だに強くしがみついている少女の背中を撫でながら、ラミナはどんよりとした気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 移動した先は、喫茶店にある個室。

 ラミナは椅子に座って、少女を隣の椅子に降ろそうとしたがやはり嫌がって離れない。

 

「……だから、なんでやねん」

 

「それについても説明させて頂きます」

 

「……え~……」

 

 ルシラの言葉に嫌そうな声を上げるラミナ。その間に少女はラミナの膝の上で姿勢を変えて、後頭部をラミナの胸に預けた。

 それにラミナは更に呆れた表情を浮かべる。

 マチはそろそろ不機嫌さを隠しきれなくなっており、カルトもめんどくさいオーラを隠さない。

 

 センリツは顔を強張らせており、バショウはこの状況に呆れている。

 

「改めて自己紹介を。私はルシラ。契約ハンターで、そちらのジョアナ・ナダメジマお嬢様の護衛です。こちらは同じく護衛のセンリツとバショウです」

 

「ナダメジマ……?」

 

 ラミナはノストラードではないこと、そしてナダメジマの名前に聞き覚えがあったことに眉間に皺を寄せる。 

 

「ガスラベスには依頼主である御父上と共に来られたのですが、お嬢様は少々特殊な才能があるのです」

 

「特殊な才能?」

 

「非常に直感が鋭いのです。それによって危険な場所や人物を予感したり、信頼出来る人物や最も頼りになる人物を見抜いたり、いる場所を探し当てます」

 

「……つまり、この状況は」

 

「お嬢様があなたの傍が今一番信頼できて安全だと、思っているからかと」

 

「……」

 

 普通ならば「何言ってんの?」と言われるだろうが、ラミナにはとても身近に似たような能力を持つ姉がいる。

 更には念能力でもある可能性があるので、否定する言葉が出なかった。

 

「じゃあ、あの男共は?」

 

「そこは少々厄介な事情がありまして……。お嬢様の能力を知っている者や、御父上の失脚を狙う者達が雇った者だと思います」

 

(……十老頭関係の抗争か? それにしては随分と大雑把な……。ナダメジマファミリーはそこまでデカい組やなかったはずやけど……)

 

 ナダメジマファミリーは、マフィアンコミュニティー内ではノストラードファミリーと同じくらいの立ち位置で、十老頭には程遠かったとラミナは記憶していた。

 

(ヨークシン以降のドタバタで力をつけた? いや、それにしてはチビッ子の護衛が中途半端や。契約ハンターしか護衛におらんとかありえへん。これだけの能力があるんやし。ノストラードの娘ほどではないけど、上手く使えば十分脅威を回避できるやろうに)

 

 ラミナは色々と考えるが、問題はそこではないということをようやく思い出した。

 

「まぁ、チビッ子が狙われとるんは分かったけど、この状況はどうしたらええのん?」

 

 ジョアナはラミナの両腕を自分の腰に回さして、しっかりと固定している。もちろんラミナの腕も放さない。

 

「チビッ子がうちを信じてくれとることと、うちが今後もチビッ子を守るんは話が違うやろ」

 

「そうなんですよね……」

 

 ルシラはラミナの言葉に項垂れる。

 

「っちゅうわけで」

 

 ラミナは立ち上がって、ジョアナの両脇を抱えて持ち上げてルシラに渡す。

 脇を抱えられたせいでラミナにしがみつけず、簡単にルシラへと手渡された。

 

「やー!!」

 

 ジョアナは暴れるが、ルシラはしっかりと抱き抱える。

 ラミナはその隙にとマチ達を伴って、出口へと向かう。

 

「ほな、後は頑張りや」

 

「おねえちゃん!! やー!!」

 

 ジョアナの叫び声を無視して、さっさと外に出るラミナ達。

 喫茶店から大分離れたところで、ラミナが大きく息を吐き出す。

 

「はぁ~、疲れた……」

 

「アンタって子供に懐かれんのかね?」

 

「嬉しないわ。……ちょっと情報収集しよか。逃げるルートも考えときたいし」 

 

「仕方ないね。ところでさ」

 

「ん?」

 

「アンタのこと、バレてない? 特にあのちっこいのに。アンタも知ってそうよね。なんか、凄いイライラしたんだけど。もしかしてヨークシンのことでなんか関係ない?」

 

「……ホンマに厄介やなぁ。勘っちゅうんは……」

 

 やはり勘に引っかかっていたことに、項垂れて右手で顔を覆うラミナ。

 睨んでくるマチの不機嫌オーラにラミナは両手を上げて降参を示す。

 

「はぁ……あのちっこいのと男の方は、ヨークシンの時にノストラードファミリーにおった奴らや」

 

「ノストラードって……鎖野郎の?」

 

「仲間やな。今は知らんけど……」

 

「会ったことあったの?」

 

「ちっこい方はクロロを助けた時にクラピカの傍におったんや。耳が凄く良くてな。心音とかで嘘を見抜いたり、盗み聞きするんや。どうやら、うちの声や心音とかで気づかれたみたいやな」

 

「ふぅん……」

 

「やから、情報収集したいねん。クラピカがおるなら、敵に回ってもおかしない。流石にあいつの能力は馬鹿に出来んでな。また除念師探しは嫌やろ?」

 

「まぁ、ね」

 

「やから、殺すにしてもまずは情報がいる。……多分この会話も聞かれとるやろうしな」

 

「ちっ……」

 

 盛大に舌打ちしたマチに、ラミナは苦笑して肩を叩く。

 そして、3人はパソコンがある場所に向かい、情報を集めることにした。

 

 

 

 センリツとバショウは喫茶店の出口でラミナ達の姿を見送った。

 

「変な連中だったなぁ」

 

「……」

 

「ん? どうした? センリツ」

 

 バショウは黙り込んでいるセンリツに顔を向ける。

 センリツは顔を盛大に顰めながら、背後を振り返ってルシラ達が来ないかを確認する。

 

「おい、本当にどうしたんだ?」

 

「……あの人」

 

「あ?」

 

「お嬢さんに懐かれた人……。例のラミナっていう暗殺者よ。クラピカと同期で、クモの仲間で、私達と戦った……」

 

「なんだと!?」

 

 バショウは目を丸くして、ラミナ達が消えた方向を見る。

 まさか仲間の仇が目の前にいたとは考えもしなかった。妙に隙が無い連中であることは見抜いて怪しんではいたが。しかし、ジョアナが懐いていたことでそこまで悪人だとは思わなかったのだ。

 

「ってこたぁ、他の2人も……」

 

「クモ、でしょうね……。あの小さい子はゾルディック家の子じゃないかしら? もう1人は多分地下競売を襲った団員の1人ね」

 

「……ブールブ美術館を襲って、まだ一月も経ってねぇんだぞ? それがこんなところで観光かよ。変装してるとはいえ……」

 

「変装もブールブ美術館を襲ったからっていうより、カゴッシであの子の家が壊されたからじゃないかしら? 私の事に気づいた時は少し焦ってたみたいだけど、ここに着いた頃には平常だったわ。他の2人に関しては、退屈だったり、苛立ったりって感じだったけど。多分……いちいち追手を相手にするのが面倒ってくらいなのよ」

 

「バレたらバレたで構わねぇってか……」

 

「ねぇ、バショウ」

 

「ん?」

 

「クラピカにはこの事は報告しないでおきましょう」

 

 センリツの提案にバショウは目を見開くが、すぐにその理由を理解した。

 

「まぁ……今のクラピカや俺達に、あいつらを相手にしてる余裕はないわな。嬢ちゃんや依頼人を狙われたら、とてもじゃねぇが守り切れねぇ」

 

「ええ。幸い、向こうも私達を相手にする気はないみたいだから……クラピカさえ会わせなければ……」

 

「クラピカはカジノの方の商談でまだ数日は動けねぇはずだからな。最悪の事態は避けられるか」

 

 クラピカは現在大手カジノ経営会社と商談だ。

 合法カジノの経営者との商談でホテルに缶詰め状態なので、よほどのことがない限りラミナ達と出会うことはないはず。

 

 2人はそう考え、そう願っていた。

 

 クロロにかけた念が解除された後から、再びクラピカは余裕がなくなったように見える。

 【緋の目】を探し始めたこともあるだろうが、それでもまた笑わなくなった。

 

 今の状況でラミナ達と遭うのはリスクが大きいとセンリツとバショウは考えたのだ。

 命もそうだが、クラピカの精神面への影響が特に。

 

「幸いルシラは名前も聞かなかったし、変装しているからすぐにバレることはないはずよ。けど……」

 

「あの嬢ちゃんは怪しいな。かなり離れるのをグズってたし……まぁ、今も大泣きしてるが」

 

「それだけ不安なのよ。あの子はネオンお嬢様と違って、本当に子供なのだから。不安や不満はああやって表出するしかないわ」

 

「まぁな。ったく……なんで俺達が会うマフィアの御令嬢は妙に厄介なのばっかなんだろうな」

 

「あの子達が厄介というよりも、その親側が厄介なんだと思うけどね」

 

「それもあるけどよ。ま、デカい子供よりは、本当に子供の方がまだ気持ち的にはマシだがな」

 

「ふ、2人ともー!! いつまでそこにいるのですか! は、早くこちらを!!」

 

「やー!! やー!! やー!!」

 

「……前言撤回だ。ああなった子供のあやし方は分からねぇ」

 

「私もあそこまでとなると自信はないわね。フルートでも落ち着いてくれるかしら?」

 

 センリツとバショウはため息を吐いて、ルシラの援軍に向かい必死に大人3人でジョアナを泣き止ますのに手を尽くすのだった。

 

 

 

 

 そして、その夜。

 

 翌日にはガスラベスを離れることにして、夕食を食べてホテルに帰ろうとしたラミナ達の元に、

 

「見つけた!! おねえちゃん、いっしょ!!」

 

「なんでやねん」

 

 と、ジョアナが何故か1人で突撃してきたのだった。

 

 

 


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