暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#9 オジイチャン×ハ×カイチョウ

 なんと二次試験合格者はラミナ1人という結果となり、会場は異様な空気に包まれる。

 そんな中で審査委員会に報告の連絡を入れているメンチの声が響き渡っている。

 

「だからぁ仕方ないでしょ、そうなっちゃったんだから! ……いやよ! 結果は結果! やり直さないわ!」

 

 どうやら審査委員会からも問題ありと判断されたようだが、メンチは全く意思を変えようとしない。

 

(審査委員会に雇われた身なんやから頷こうや。正直、ヒソカやら針男やらの殺気がどんどん強なってきて、めっちゃここから離れたいんやけど……。他の連中も殺気立ってきとるし)

 

 ラミナは徐々に笑みを深めていくヒソカの気配に眉を顰める。針男からも禍々しいオーラを感じて、誰かが動けばそれに乗じる気配がビンビンである。

 

「報告してた審査規定と違うって? なんで!? 始めから私が美味しいって言ったら合格にするって話になってたでしょ?」

 

「メンチ。それは建前で、審査はあくまでヒントを逃さない注意力と――」

 

「あんたは黙ってな!!」

 

 流石にブハラが注意しようとしたが、メンチは怒鳴って黙らせる。

 サラッと凄いことを言ったことにラミナは更に眉間に皺が寄る。

 

(審査委員会と試験官の審査基準に差異があったんかい。思いっきり私情で動いとるやないか、この姉ちゃん……)

 

「こっちにも事情があんのよ! 受験生の中にたまたま料理法知ってる奴がいてさ~! そのバカハゲが他の連中に作り方バラしちゃったのよ!」

 

「ぐ……」

 

「とにかく、あたしの結論は変わらないわ! ちゃんと合格者も出てる以上、この二次試験は合格者は1人よ!!」

 

 メンチはまくし立てるように言い切ると、通話を切って電源も切る。

 携帯を投げ捨てると、足を組んで両手をソファの後ろに回して「ふん!」と不機嫌そうにする。

 ブハラとラミナはそれにため息を吐く。

 レオリオ達不合格者とされた者達は徐々にざわめきが大きくなり、殺気立ち始める。

 

「マジかよ……」

 

「まさかこれで本当に試験終了かよ?」

 

「冗談じゃねぇぞ……!」

 

(やろうなぁ。うちかて調理法知っとったから出来ただけやしなぁ)

 

 ラミナも受験生の気持ちがよく分かる。

 流石に理不尽が過ぎる気がするので、不満が噴出するのは当然だと思っている。自分が合格してしまったせいと言うのもあり、尚更居心地が悪い。

 

ドオオォン!!

 

 その時、何かが砕ける音が響き、目を向けると恰幅の良いレスラーの男が苛立ちを露わにして拳を握り締めていた。その目の前には大きくひしゃげたシンクが見受けられ、先ほどの音は彼が拳を叩きつけた音だったようだ。

 

「納得いかねぇな。とても『はい、そうですか』と帰る気にはなれねぇな」

 

 男は青筋を浮かべてメンチを睨みつける。

 

「俺が目指しているのはコックでもグルメでもねぇ! ハンターだ! しかも賞金首ハンター志望だぜ! 美食ハンター如きに合否を決められたくねぇな!!」

 

「それは残念だったわね」

 

「……何ぃ!?」

 

「今年は試験官運がなかっただけよ。また来年頑張れば~?」

 

 メンチは涼しい顔で男に言い放つ。

 それに男は我慢の限界を迎え、拳を更に握り締めて殴りかかろうとする。

 

「こ……ふざけんじゃ――!!」 

 

 その男の目の前をスローイングナイフが2本横切った。

 男はギリギリで足を止める。スローイングナイフは壁に突き刺さって止まる。

 男が飛んで来た方向に目を向けようとした時、

 

ブゥオォン!!!

 

 男の目の前を巨大な手が猛烈な勢いで通過した。巻き起こされた突風で男は尻餅をつき、近くにいた受験生達も風に煽られて耐える。

 

「っ!?!?」

 

「お?」

 

「……ちょっと399番。何の真似?」

 

 男は何が起こったのか理解出来ず、手を振り抜いたブハラは空振りしたことに僅かに目を見開き、メンチは鋭い目つきでラミナを睨みつける。

 ラミナは肩を竦める。

 

「いやぁ、流石にこれ以上打ちのめされるんは可哀想やと思てなぁ。それに姉さん殺す気やったやろ? やから、そっちの兄さんがブッ飛ばそうとしたんやろうけど、それも十分重傷になりそうやったでな」

 

(それにヒソカが動きそうやったし)

 

「おー」

 

「……ふん。まーね」

 

 メンチはソファから立ち上がる。その両手には四振りの包丁が握られていた。

 男はメンチの武器に目を見開く。

 

「賞金首ハンター? 笑わせるわ! 今のナイフとブハラの張り手も見切れず、あたしの殺気にも気づかないくせに。どのハンター目指すなんて関係ないのよ。ハンターたる者、誰だって武術の心得があって当然!!」

 

 メンチはジャグリングをして、包丁の扱いになれている様子を見せる。

 

「あたしらも食材探して猛獣の巣の中に入るのだって珍しくはないし、密猟者を見つければもちろん戦って捕らえるわ。その中には賞金首の奴だっている!! 武芸なんてハンターやってたら嫌でも身につくのよ! あたしが知りたいのは、未知のモノに挑戦する気概なのよ!!」

 

 メンチの気迫に男は肩を震わせる。

 その時、

 

 

『それにしても合格者1人と言うのは、ちとキビシすぎやせんか?』

 

 

 突如、外から声が響き渡る。

 その声に、ラミナ達は外に出て上を見上げる。上空には飛行船が停まっていた。

 飛行船の側部にはハンター協会のロゴが描かれていた。

 

「審査委員会か!?」

 

 すると、飛行船から何かが飛び出してくるのが見えた。その影は徐々に大きくなっていき、それが人であると理解したときにはドォーン!と音を響かせて地面に着地していた。

 

 飛び降りてきたのは白髭を蓄えた和装に高下駄を履いた老人だった。

 数十メートル上から飛び降りてきたのにケロリとしており、負傷した様子もない。

 

(……なんちゅう研ぎ澄まされた【纏】や……。隙だらけやのに、全く殺せる気せぇへん……!)

 

 ラミナは目の前の老人の実力が読み切れず、背中にジワリと汗が噴き出してくる。

 

「な、何者だ? このジイさん……」

 

「審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ」

 

 受験者の呟きにメンチが答える。

 突然の最高責任者の登場に受験者達は、驚きとこの状況が好転するかもしれないという期待が湧く。

 

「ま、責任者と言っても所詮裏方。こんな時のトラブル処理係みたいなもんじゃ。さて、メンチくん」

 

「は、はい!」

 

 ネテロに声を掛けられて、メンチはピシィ!と背筋を伸ばし気を付けをして返事をする。

 流石にメンチもネテロに対してまで強気に出れないようだ。

 

「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、1人を除いてその態度に問題ありと、つまり不合格と思ったわけかの?」

 

「……いえ。受験生に料理を軽んじる発言をされてついカッとなり、更にはその際に料理方法が受験生達に知られてしまうトラブルが重なりまして……。頭に血が昇っているうちに腹が一杯にですね……」

 

「フムフム。つまり自分でも審査不十分だと分かっとるわけじゃな?」

 

「……はい。スイマセン。料理のことになると我を忘れるんです。審査員失格ですね。私は審査員を降ります。試験の無効かどうかに関してはお任せします。ただ……合格にした受験生に関しては認めて頂きたいと思います」

 

「ちなみに何故その1人だけ合格にしたのかの?」

 

「はい。それは――」

 

 メンチはかしこまった姿勢のまま説明を続ける。

 ラミナが魚を確保に行く際から質問してきたこと、魚だけでなく果物を採ってきて工夫しようとする様子が見られたこと、用意した材料を使い切るギリギリまで試行錯誤を繰り返していたことから好印象を抱いており、鮨も素人にしては十分なレベルだったので合格にしたことを語った。

 

「フム……。なるほどのぅ。確かにその者の合格は問題なさそうじゃな。よかろう」

 

「ありがとうございます」

 

「しかし、選んだメニューの難度が評価するにはお互いに少々高かったようじゃの。よし! こうしよう。審査員は続行してもらう。ただし、新しいテストにも審査員である君にも実演と言う形で参加してもらう、というのでいかがかな?」

 

『!!』

 

 ネテロの提案にメンチや受験生達は僅かに目を見開く。

 

「その方が受験生達も合否に納得しやすいじゃろ」

 

「……そうですね。では……『ゆで卵』で」

 

 メンチは新しいメニューを告げる。

 そして、遠くに見える岩山を指差す。

 

「会長、あたし達をあの山まで連れて行ってくれませんか?」

 

「なるほど。もちろん、いいとも」

 

 ネテロは意味を理解したのか笑みを浮かべて快諾する。

 そしてラミナ達受験生は飛行船に乗り込んで、山へと向かう。

 

 山に到着した一同はメンチの案内の元、山の中央を走る崖に歩み寄る。

 

「さぁ、ここよ」

 

 メンチは崖下を指差す。

 受験生達は下を覗き込んで唾をのむ。

 崖の底は見えず、落ちたらそう簡単には助かりそうになかった。

 

「下は……どうなってんだ?」

 

 先ほどメンチに殴りかかろうとしたレスラー男は青褪めながら下を見る。

 メンチはブーツを脱ぎ始める。

 

「安心なさい。下は深ーい河よ。流れが速いから落ちたら数十km先の海までノンストップだけど」

 

 そう言いながらメンチは崖際に歩み寄ると、

 

「それじゃ、お先に」

 

 軽やかにジャンプして、崖へと飛ぶ。

 

『はぁ!? なああああ!?』

 

 受験生達が驚く中、メンチは崖下へと落ちて行く。

 そこにネテロが口を開く。

 

「マフタツ山に生息するクモワシ。その卵を採りに行ったんじゃよ。クモワシは陸の獣から卵を守るために崖の間に丈夫な糸を張り、卵を吊るしておる。そして、今回の試験はその糸に上手く掴まり、1つだけ卵を採って岩壁をよじ登って戻ってくることじゃ」

 

 そしてメンチが戻ってきて、茶色の殻の卵を受験生達に見せる。

 

「よっと、この卵でゆで卵を作るのよ」

 

 簡単に言うメンチにレスラー男を始めとする一部の受験者は青褪めて足踏みをする。

 しかし、そこに明るい声が響く。

 

「あー、よかった」

 

「こういうの待ってたんだよね!」

 

「走るのやら民族料理よりよっぽど分かりやすくていいぜ」

 

 キルア、ゴン、レオリオは一切戸惑うことなく崖へと飛ぶ。

 クラピカや他の受験者達も続き、どんどんと飛び降りて行く。

 ラミナもゆっくりと崖へと歩み寄る。

 

「あら、あなたはいいのよ?」

 

「いやぁ、それもそれで居心地悪いでなぁ。ぶっちゃけスシ知っとったから、ちょっとズルした感じしとってん。まぁ、簡単そうやから行ってくるわ」

 

「ま、好きにしなさい」

 

「はいな」

 

 ラミナもトン!と飛び降りて行く。

 メンチはレスラー男達に顔を向けて声を掛ける。

 

「残りは? ギブアップ?」

 

「「「「……」」」」

 

「やめるのも勇気じゃ。試験は今年だけではないからの」

 

 ネテロはギブアップすることを肯定し、結果ラミナが最後の挑戦者となった。

 崖を登り終えた受験者達は卵を用意してくれたお湯に入れて茹でる。

 

 クモワシのゆで卵はとても濃厚で味付けもしていないのに、それだけで立派な料理として成立するほどの美味さだったそうな。

 

「それじゃ!! 二次試験合格者は42名!!」

 

 こうして今度は後腐れなく、合否が決定したのだった。

 

 

 

 

 合格した42名は再び飛行船に乗って移動する。

 その頃には夜になっていた。

 

「次の目的地は明日の朝8時に到着予定です。こちらから連絡するまでは各自自由に時間をお使いください」

 

 番号プレートを配っていた豆顔の男の言葉に、受験生達は解散し飛行船内を移動する。

 レオリオとクラピカは漸くの休息時間に一気に疲れが襲ってきた。

 

「俺はとにかくぐっすり寝てぇぜ……」

 

「私もだ。恐ろしく長い1日だった……」

 

「ゴン! 飛行船の中、探検しようぜ!!」

 

「うん!」

 

「元気やな」

 

「お前もな」

 

 キルアとゴンはテンション高く走り出し、その後ろ姿をラミナは呆れながら見送る。しかし、全く疲れていない様子のラミナにもレオリオは理不尽を感じてツッコむ。

 ラミナは肩を竦めるだけで答える。

 

 裏の仕事をしていると数日寝れないことなど珍しくないし、今回は激しく動き回っていたわけでもないので体力を消費する前に回復していただけのことだ。

 調理中や山に行く間は【絶】で過ごしていたので、体力回復も早かったのもある。

 

「うちはメシ食うてくるわ」

 

「あ~……俺も先になんか腹に詰めとくか」

 

「そうだな。朝に食べられるか分からない」

 

 レオリオとクラピカも食堂に移動する。

 そして、料理を頼んだのだが……。

 

「ラミナ……お前って大食いなんだな……」

 

「ブハラと言う試験官といい、お前達の胃はどういう構造をしているんだ?」

 

「ん? ふぉうは(そうか)?」

 

 ラミナの前にはステーキ、ピラフ、ローストビーフ、カルパッチョ、サラダの盛り合わせ、スパゲティなどが置かれている。

 それらが一定のスピードで消費されていく。

 レオリオとクラピカはもちろん、周囲にいた受験者達も唖然と見つめていた。

 ラミナからすれば、今後いつ食べられるか分からないので食い溜めしておきたいだけだ。もちろん本当に腹が減らないわけではないが、『腹いっぱい以上に食べた』という事実を実行することで、数日間満足に食べられなくても大丈夫という自己暗示をかけるのだ。

 もちろん限界はあるが、それでも3日ぐらいは意外といけるとラミナは実体験で理解している。

 

「……やっぱハンターってどっか異常なところがねぇと厳しい世界なんだな」

 

「全くだな」

 

 常人枠にいる()()()のレオリオとクラピカの言葉に首を傾げながら、ラミナは食事を続けるのだった。

 

 

 

 

 その頃、試験官達も食事をしながら盛り上がっていた。

 

「ねぇ、今年は何人くらい残ると思う?」

 

「合格者ってこと?」

 

「そ。中々の粒ぞろいだとは思うのよね。料理はセンスがない連中ばっかだったけど」

 

「でも、それはこれからの試験内容次第じゃない?」

 

「そりゃまぁ、そうだけど~。それでも結構いいオーラ出してた奴いたじゃない? 念って意味じゃなくてさ。サトツさんはどぉ?」

 

「ふむ。そうですな……。ルーキーがいいですね、今年は」

 

「あ、やっぱりー!?」

 

 メンチは我が意を得たりとばかりにテンションを上げる。

 

「私は399番と294番がいいと思うのよね~。片方ハゲだけど」

 

(スシを知ってたからね。まぁ、399番は確かに分かるけど)

 

「私は断然99番ですな」

 

「えー!? あいつ、きっとわがままでナマイキよ! 絶対B型! 一緒に住めないわ!」

 

(似てるもんね)

 

 ブハラは料理を食べながら内心で呆れる。

 

「私も399番は注目してます。しかし、彼女はすでに念を使えるようですから、ルーキーと呼ぶには少し特殊と思いますね」

 

「あ~……そういうことか」

 

 もちろんメンチとブハラも、ラミナやヒソカ達の【纏】には気づいていた。

 

「正直、念に関してはあたしより上かもね。あのナイフ投げからすれば賞金稼ぎか、殺し屋ってところね」

 

「殺し屋だと思いますね。足音を全くさせませんでしたから」

 

「ふ~ん……。けど、偏屈そうじゃなさそうだし、合格したら仕事一緒にしてもいいかもね。即戦力だし」

 

 メンチは随分とラミナを気に入ったようだ。

 あの時レスラー男を止めた手腕も気に入ったのだろうとブハラは推測する。

 その後はサトツが少しずつ説教にシフトして、再びメンチが荒れるという出来事があったが、もう受験生に被害が及ぶことはなかった。

 

 

 

 食事を終えたラミナは通路を歩いて寝床を探していると、目の前にヒソカが現れて胡散臭い笑みを浮かべて手招きしてきた。

 それに全力で顔を顰めるが、無視したらどんなストーカーをされるか分からないので渋々付いて行く。

 案内されたのは倉庫と思われる一室で、中にはヒソカの他にもう1人いた。

 そのもう1人を視界に捉えたラミナは、更に顔を顰める。

 

 そこにいたのは針男ことギタラクルだった。

 

 口がカタカタと震えており、不気味さしかないその風貌としぐさが得意な人間はいないだろう。

 

「……なんのつもりや?」

 

「紹介しておこうと思ってさ♠」

 

「変装中なんやろ?」

 

「見せてあげなよ♦ 素顔♥」

 

「まぁ、いいけど」

 

 ええんかい、と内心ツッコんでいると、ギタラクルが顔に刺さった針を全て抜いていく。

 抜き終わった直後、ギタラクルの顔が変形を始め、髪が急激に伸びて色が変わっていく。その様子をラミナは全力で引きながら見つめている。

 変形が終わったのか、ギタラクルは長い黒髪の端麗な男となっていた。

 

(……見た目は普通っぽいのに、不気味さはこっちの方が上やな。あんま関わりたぁないんやけどなぁ)

 

 感じるオーラの禍々しさはヒソカに勝るとも劣らない。

 殺し屋としては一流なのだろうが、流儀は合わなさそうだと直感的に理解した。

 

「ふぅ。すっきりした」

 

「名前も偽名か?」

 

「そうだよ。本名はイルミ・ゾルディック」

 

「ゾルディック? キルアの兄貴か親戚か?」

 

「兄だよ。で、そっちは?」

 

「【リッパー】で通じるか?」

 

「リッパー……。ああ、親父達が逃したって言う女暗殺者か。へぇ、君が……」

 

「逃げてへん。旅団メンバーに依頼者始末してもろただけや」

 

「でも、一度は逃げたって聞いたよ? それだけでも十分凄いから」

 

 淡々と語るイルミ。まったく表情が動かないのが不気味さを煽る。間違いなく暗殺者の性なのだろうが。

 思考が読みにくく、ラミナは警戒が解けずに落ち着かない。

 

「弟と全く似てへんな。で、変装してハンター試験受けたんは弟がおるからか?」

 

「俺は母親似で、キルは父親似だからね。いや、それは偶然。仕事の関係で必要でさ。変装はそうだね。まぁ、あんまり顔バレしたくもないってのもあるけど」

 

「ふぅん。で? なんで会わせたんや?」

 

「ただの交流さ♥ 同じ穴の貉のね♦ 共通点も多いし♠」

 

「共通点?」

 

「彼女は旅団と親しいのさ♣ 僕以外のメンバーとね♦ で、君と同じく凄腕の殺し屋♥」 

 

 全く嬉しくない共通点で同類扱いされたことにラミナは全力で否定したかったが、悔しいことに間違っていないので耐えるしかなかった。

 

「へぇ、面白いね。ところでキルと話してたけど……」

 

「あん?」

 

「キルのこと、どう思う?」

 

「ん~……才能は恐ろしいと思うで? あの歳で一流レベルなんは凄いと思うわ」

 

「だろ? 俺達家族もそう思ってる。けど、精神面がまだ不安定なんだよね。だからさ、遊んでないで家に戻って欲しいんだ」

 

「念を教えてないんもそれか?」

 

「そ。無駄に才能とスペックが高いからね。今の状態じゃ変な力にしそうだし」

 

「まぁ、そこらへんは家庭の事情やし、かまへんけど。別にハンター証くらい取らせてええんちゃうか? 自分かて仕事で取りに来とるんやろ? キルアかて必要になったら二度手間やろ。キルアだけあかん理由ないんちゃうか? ハンター証取ったからって、別にハンターの仕事せないかんわけやないし」

 

「けど、別に今じゃなくてもいい。まだ一人前とは言い難いから、ちゃんと完成してからでもいいとも思うんだ」

 

 きっぱりと言い切るイルミに、ラミナは何とも言えなくなる。

 他者から見れば異常な価値観ではあるが、暗殺家系からすれば別に珍しくない価値観である。

 そして、時々現れるのだ。キルアのようにその価値観から逃れようとする才能豊かな者が。

 その場合、大抵衰退か躍進かのどちらかに家は傾く。

 あの父親からすれば逃したくない逸材だろう。

 

「それにあの子供と仲が良いのも困るんだよね」

 

「ゴンのことか?」

 

「そう。暗殺者に友達はいらないだろ?」

 

「相手次第としか言えんわ。仕事の時に割り切れれば、別におってもええやろ」

 

 そう言うラミナも流星街や旅団以外とは非常にドライな関係である。

 流星街の者でも全員と顔見知りなわけではないし、顔見知りであっても互いのポリシーがぶつかり合えば殺し合うこともある。

  

「それが出来るなら、こんな話してないよ」

 

「せやろな」

 

 ラミナは肩を竦める。

 ヒソカにとっては今のままでも、暗殺者となっても、戦えば面白そうだから口を挟まない。

 

「まぁ、人の家庭に口を挟む気はないで。暗殺の流儀はそれぞれやからな」

 

(正直……キルアに殺し屋は向かん気ぃもするけどなぁ)

 

 そう思ったがイルミに通じるわけもないと思っているので黙っておく。

 

「そう言えば、ヒソカ。ゴンの近くにおる金髪の奴には気ぃ付けや」

 

「と言うと?」

 

「クルタ族の生き残りらしいわ。まぁ、お前はそん時は旅団におらんかったやろうけど。復讐する気満々やから、巻き込まれんようにしぃや」

 

「ふ~ん♦ クルタ族、ね♥」

 

「……変なこと考えんなや?」

 

「はいはい♠」

 

「はぁ……もう行くで」

 

「あ、これ。俺の依頼用のホームコード」

 

 イルミが名刺を投げ渡す。

 ラミナは受け取る。

 

「悪いけど、うちは名刺ないねん。後でこっちから送るわ」

 

「構わないよ。流石に試験中は連絡しないだろうし」

 

「ほな」

 

「ばいばい♠」

 

 ラミナは倉庫を後にして、素早く離れると小さくため息を吐く。

 

「類は友を呼ぶって奴か? あの2人、並ばれると心臓に悪いわ……」

 

 時計は既に12時を過ぎている。

 寝床を探そうと思っていると、何やら上半身裸で汗だくのキルアが歩いていた。

 汗だくなのも不思議だが、纏っている空気もかなり物騒なものだった。

 ラミナは嫌な予感がして後をつけると、キルアが受験生2人とぶつかる。

 その瞬間、キルアの手が鋭く変化したのを見て、ラミナはキルアに一瞬殺気を飛ばす。

 

「っ!!!」

 

 キルアはぶつかった2人から跳ねるように離れて、ラミナに向く。

 2人はキルアとラミナの一触即発の雰囲気を感じ取って、顔を青くして足早に逃げていく。

 ラミナは2人が離れたのを確認して、キルアに声を掛ける。

 

「ったく……。何があったんか知らんけど、あんま不必要な殺しはお勧めせぇへんぞ? 殺し屋と殺人鬼は紙一重とはいえ、混同したらホンマ戻れんようになるで」

 

「……そう……だな」

 

「ゴンはどうしたんや? 探検しとったんちゃうんか?」

 

「今は会長の爺さんとボール遊びしてる」

 

「会長とボール遊びぃ?」

 

 何がどうなったらそうなるのか分からないが、試験に関係ない所で随分と遊んでいたようだ。

 

「で、キルアは途中で抜けてきたんか」

 

「そ。ちょっと実力差が大きすぎてさ。あのまま続けてたら殺したくなりそうだったんだ」

 

「やからって、雑魚殺そうとすんなや。危なっかしいやっちゃな」

 

「だよなぁ……。あ~! やっぱ染み込んじまってるよ……」

 

 キルアは苛立たし気に唸りながら頭を掻く。

 ラミナは苦笑して、キルアに近づいて頭をぐしゃぐしゃと左手で撫でる。

 

「な、なにすんだよ!?」

 

「変に誤魔化そうとするから辛いねん。殺しに関わることなら、うちが相手したる。うちも依頼された相手以外は襲われん限り殺さんようにしとるしな。その代わり、もうちょいゴンやらレオリオとかと戯れて遊びや。あいつらなら変な悩みでも聞いてくれるやろ」

 

「……うっせぇよ」

 

 キルアはラミナの手を払い退けて、照れたようにそっぽを向く。

 ラミナは歩き出して、ひらひらと手を振る。

 

「友達は大事にしときや~」

 

「……母親かよ……」

 

 キルアはラミナの背中を睨みつけて見送る。

 

(……なんか妙に頭がすっきりしたな。ゴンの奴、まだやってんのかな?)

 

 キルアは急に思考がクリアになったことに首を傾げ、妙にゴンが何してるのか気になった。

 来た道を戻り、先ほどまで暴れていた部屋に戻る。

 

 ラミナはその気配を感じ取りながら、左手に目を向ける。

 手のひらの上には、血に濡れた小さな針があった。キルアの額に妙なオーラを感じたので、素早く引っこ抜いてみた。キルアは撫でられたことに動揺してくれたようで気づかなかったようだ。

 

「……こんなもん埋め込まれとったら、そりゃ変な歪み方するわな。こりゃあ、イルミの奴か? こりゃあすぐにバレるかもしれんなぁ。はぁ……家庭事情に首突っ込まんって言うたばっかやなのになぁ」

 

 ラミナはため息を吐きながら、針を放り捨てる。

 

 この行為がキルアにどう影響を及ぼすのか、それは誰にも分からない。

 

 


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