暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#89 ニゲラレ×ハ×シナカッタ

 ラミナは夜空を仰ぎ見る。

 

 そうでもなければ、脚にしがみつく存在を否定できないからだ。

 

「いい加減現実を見な」

 

「……やんなぁ」

 

 呆れているマチの言葉に、ラミナは大人しく現実を直視する。

 

「♪♪」

 

 上機嫌にラミナの太ももに頬をこすりつけているジョアナ。

 このままでは歩けないので、小さくため息を吐いてジョアナを抱っこする。ジョアナは一切抵抗せず、むしろ「もう離さない!」とばかりに首に力強く抱き着いてくる。

 

「……おいチビッ子。お守りの3人はどうしたんや?」

 

「知らない」

 

「待てやコラ」

 

「どこから来たの?」

 

 もはや苛立つのもバカバカしいとばかりに、マチは気だるげに腕を組みながらジョアナに声をかける。

 するとジョアナは素直に「あっち!」と指差した。

 その方向には建物があったが、恐らくそのビルと言うわけではなく、純粋に方向だけを示したのだろうと考えるラミナ達。

 

 その方向の気配を探ると、そこそこの強さを持つ気配が複数走り回っている。

 

「……2人はどうするんや?」

 

「待ってたって暇なだけでしょ。アンタが帰ってこないのに、街を離れたってしょうがないんだしさ」

 

「別にボクは困ることないからいいよ」

 

 他人事の2人にラミナは渋々頷いて、走り回っている気配に向かって歩き出す。

 

「チビッ子。お前、なんでうちのところに来たんや?」

 

「ここが一番あんぜん。()()()()()()()()()()()()」 

 

「……やっぱそういうことかい……」

 

 一度ジョアナ達と別れた後、適当なホテルのパソコンルームに入って情報収集をした結果、非常に厄介なことが判明した。

 

 ナダメジマファミリーの内紛である。

 

 ナダメジマファミリーのボスであるジョアナの祖父と、若頭であるジョアナの父が敵対関係にあるのだ。

 しかし、クーデターとかではなく、ジョアナの父が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが原因である。

 

 ジョアナの父は若頭とされているが、マフィアとしての活動は全くしていない。

 ナダメジマファミリーの収入源の1つである輸入業を取り仕切っており、それが成功してナダメジマファミリーの後ろ盾などなくともやっていけるほどの規模になったのだ。すでにジョアナの父は商売の8割をナダメジマファミリーから独立させており、完全に堅気として経営している。

 他のジャンルにも手を出して始めており、そっちでも成功の兆しが見え始めているため、ジョアナの父からすれば『マフィアでいるメリットがない』と思うに至ったのだ。

 

 ジョアナの祖父はその動きを知って息子の商売を邪魔しようとしたが、息子ゆえに父が何をしているのかを熟知しているため、悉く妨害に失敗して、むしろ反撃を受けて構成員の多くが捕まるか死んでしまった。

 

 ジョアナの父は組を辞めることを通告したのだが、子供は息子一人なので認めるわけにもいかず、結局どちらも引っ込みがつかなくなり遂にジョアナを巻き込んでの内紛に至った。

 

 祖父はジョアナの『直感』と血筋を求め、父は純粋に親愛を持って娘をマフィアの世界から遠ざけたい。

 

 他の組はジョアナの父の商売をわざわざ潰す利点がなく、ナダメジマファミリーが衰退するのはむしろ『どんとこい』なのでどちらにも手を貸さなかった。

 ジョアナの父は商売を展開する土地のマフィア連中の商売をしっかりと調べてから、潰し合いが起こらないように調整していたので、むしろウェルカム状態で。

 ジョアナの祖父に敵対して、もしジョアナの父が死んだらその後に報復が来るリスクが高いので、邪魔もしないが味方もしないというスタンスを表明したのだ。

 

 故にジョアナの護衛にはルシラ達しかいなかったのだ。

 下手に一般の警備会社から人を雇っても、マフィアの苛烈さや人質手法に負ける可能性がある。それ故にプロハンターを雇ったのだ。

 

 クラピカに依頼が来たのは、ノストラードファミリーは現在用心棒と賭博のみを収入源にしており、用心棒でも暴利な報酬を求めることも無いという情報からだ。

 ナダメジマファミリーと関係も無く、睨まれてもナダメジマファミリーでは手を出せない土地に縄張りがあることも理由だ。

 そして、組を仕切っているクラピカは契約ハンター。

 

 なので、ジョアナの父はクラピカに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という依頼をしただけなのだ。

 その結果、やってきたのが()()()()ノストラードファミリーにいたプロハンターだったというだけ。

 

 堅気、というにはグレーではあるが、クラピカ達はあくまでノストラードと契約しているプロハンターなので、アウトと言い切れるものでもない。

 

 ということで、ラミナが倒した男共はジョアナの祖父の部下だったというわけだ。

 ナダメジマファミリーは小さいがガスラベスでカジノを経営しており、この街にも拠点がある。

 

 ジョアナの父はこの街で商談があったので、護衛を雇ったのだ。

 家にジョアナを残しておくのも危険だと判断したから。

 

 それにラミナは見事に巻き込まれたということだ。

 

「ナダメジマファミリーから仕事受けたことは?」

 

「ないない。ナダメジマファミリーはショボい組やから狙われることもないし、殺し屋雇って狙う相手もおらんかった思うで。そうやなかったら、チビッ子の親父さんの商売がここまで成功しとるわけないし」

 

 ノストラードのように十老頭にすり寄ったり、急激に影響力を持ったわけでもないので目の敵にする組などいなかったのだ。

 

「けど、そんな組の構成員ならここまでして逃げてくる必要ないんじゃ?」

 

「それはチビッ子がどう感じとるかやろ」

 

「……おじいさまはすごくコワい。ここに来てからずっと誰かにみられてるの」

  

「それはあのお守りの3人やなくて?」

 

「ううん。もっと気持ちわるいかんじ」

 

「今もか?」

 

「うん。むこうから」

 

 ジョアナが指差した方向に顔を向けるラミナ達。

 そっちはナダメジマファミリーが経営するカジノや事務所がある方向だった。

 気配を探れば、確かにこっちを見つめている視線を感じ、囲い込もうとしている動きも感じた。

 

「……あかんなぁ。ショボすぎて見落としとった」

 

「だね。最近なんだかんだで狙ってくるのは念使いばっかだったし。まぁ、弱かったけど」

 

 念使いでもなく、殺し屋でもないので、ラミナとマチには『雑魚』とすら認知されないほどの連中となっていた。

 つまりラミナ達の最低ラインにすら達していなかったのだ。

 

 カルトは気づいていたが、襲われなければどうでもいいので無視していた。

 そもそも視線を感じ取る修行をさせたのはラミナなので、ラミナは気づいていると思っていたのもある。

 

「……マジで修行し直さなあかんなぁ」

 

 と言いながらも、一度感じ取った気配を見逃すことはない。

 それに言われるまで気づかないほどの存在なので、奇襲されても問題などあるはずもない。

 

 なので、ラミナ達は悠々と歩き続ける。

 

 そして、そこに駆けつけてきたのは、センリツとルシラだった。

 

「やっぱり!!」

 

「よかった!!」

 

「とりあえず、そっちの拠点行こか。周りに集まってきよる」

 

「!! わかりました。こちらです」

 

「センリツ」

 

「っ!! なにかしら?」

 

「クラピカはおらんよな?」

 

「……安心して。こちらにはいないわ」

 

「っちゅうことは街にはおるんやな」

 

「……ええ。けど、この仕事には関わっていないわ。だから、連絡は来ても顔を出すことはないと思う」

 

「まぁ、そんならええわ」

 

 センリツの言葉にとりあえず頷いて、ルシラの後を歩くラミナ。

 マチは少し不満気だが、流石にこの状況は面倒だと思っているので口出しはしなかった。

 

 周囲の気配は一度動きを止めた。

 どうやらルシラの姿を見て、様子を見ることにしたらしい。しかし、ラミナは逆にそれが気になった。

 

(……妙に統率されとるな。昼間はあんな大雑把やったのに。誰一人抜け出そうとも、暴走する気配もない)

 

 傭兵にすら通用しそうな統率力だった。

 しかし、情報ではナダメジマファミリーは武力は普通以下だったはずだとラミナは眉間に皺を寄せる。

 

(もしチビッ子の爺もプロを雇ったんなら……チビッ子がセンリツ達も信用出来んのに納得は出来る)

 

 ジョアナは直感で戦力差を理解したのだろう。無理矢理抜け出してでも、ラミナに会いに来た理由も理解は出来る。納得はし難いが。

 

 思っていたより厄介事であることにラミナは顔を顰める。

 そして、恐らくこの情報をルシラ達は知らない。

 

 これ以上仲間がいるようには思えないこともあり、ラミナは今後の対応を考える。

 

「今から行くとこは防衛に向いとるんか?」

 

「……正直あまり向いていないと思います」

 

「むしろ普通なら選ばないわね」

 

「……けど、そこに行かんとあかんのやな……」

 

「ええ」

 

 嫌な予感しかしないが、行かなければ話は進まないので諦める。

 

 そして、30分ほど歩いた先で車に乗り込んで移動した先は、流石に予想外の場所だった。

 

「……孤児院?」

 

「孤児院って書いてるね」

 

「孤児院だよ」

 

「コジインだよ」

 

 未だにジョアナを抱っこしているラミナが、建物の門にかけられた看板を見て眉を顰める。

 マチ、カルト、ジョアナがラミナの違って欲しいという希望を打ち砕き、ラミナは天を見上げる。

 

 孤児院は街外れの住宅街の更に端っこにあった。

 周囲の気配を探ると、やはりこちらを伺っている動きをしている者達の気配があった。

 

 門の前にはバショウが立っており、明らかに護衛をしていることが伺えた。

 

 中に入ったラミナ達は応接間に通される。

 そこには施設の管理人の老年の男性もおり、やや困惑気な表情で壁際に立っていた。

 

 ラミナは3人掛けのソファに座り、右側にマチ、左側にカルト、ではなくジョアナが座り、ジョアナを挟んでカルトが座る。

 ここではジョアナも落ち着くのか、大人しくラミナの隣に座ったようだ。

 

 それでもラミナの傍からは意地でも離れないのだが。

 

 ルシラ達は未だに複雑そうだが、ラミナ達はもうツッコむ気持ちすら湧かない。

 

「んで? この孤児院がナダメジマファミリーの親子喧嘩にどう関わっとるんや?」

 

「っ! ど、どうしてそれを……!」

 

「昼にお前らと別れた後に調べたに決まっとるやろ。一応うちかてハンターやしな。この街にはナダメジマファミリーのボスのカジノあるし、数日前にボスがこの街に来とる情報もあったでな」

 

「「えっ?!」」

 

「なんだと?」

 

 ラミナからの情報にルシラ達は目を丸くする。

 ちなみにジョアナの祖父が来たのが分かったのは、裏の情報屋サイトで集めた情報だ。

 

「それにさっきチビッ子を追いかけとった連中、妙に統率力があった。多分傭兵かなんか雇っとるで」

 

「そうだね。昼間に倒した男達とは動きが違ってプロっぽかったね」

 

 ラミナの言葉にマチも頷き、ルシラ達は想像以上に事態が悪い事を理解する。

 

「んで、ここは一体どう関係しとるんや?」

 

「……お嬢様の父君がこの施設のスポンサーとなられたのです。今回この街に来たのは、ナダメジマファミリーとの関係から拠点を移すことも含めた今後の孤児への対応を話し合うためです」

 

 ルシラが眉を顰めながら事情を話し出す。

 

「お嬢様は家に残しておくのも危険だと判断されたため、我々を雇ったのですが……」

 

「裏目に出た、いや、向こうの備えが一枚上手やったか」

 

「……はい。実力で言えば、我々3人でも十分なのかもしれませんが、やはり敵の数が多く……」

 

「向こうの手下と雇った連中にええように踊らされたわけか。まぁ、荒事はチビッ子の爺の方が上やわな」

 

 ラミナは腕を組んで小さくため息を吐く。

 

(やっぱチビッ子はこいつらでは守り切れんと思ったわけやな。自分と()()()()()を守るための戦力を引き込もうとしたわけか……)

 

 悔し気に俯いているルシラに、ラミナは天井を見上げる。

 

(こいつの実力は見た感じヨークシン時のゴンくらい……後は能力次第か……。センリツと男も能力までは知らんけど、男はルシラと同等、センリツはそれよりも下……。論外やな。向こうにプロレベルがおったら、数で押し負ける)

 

「雇い主はチビッ子の父親やな?」

 

「はい」

 

「その商談が終わるんは?」

 

「……まだ数日はかかるかと」

 

「つまり耐えきるか、向こうが諦めるようなことにならんとチビッ子は解放されんっちゅうことやな」

 

「そうですが……しかし」

 

「まぁ、わざわざ喧嘩を売りに行く必要はないわな。()()()()

 

 ラミナは被っていたカツラを脱ぎ捨てて、ポケットから髪紐を取り出して結ぶ。

 それを見たマチとカルトもカツラを脱ぎ捨て、マチも髪を纏める。

 

 ルシラ達は目を丸くしているが、それを無視してラミナはマチに顔を向ける。

 

「ええか?」

 

「面倒だけどね。流石に孤児まで巻き込まれるかもしれないなら、少しは手を貸してもいいよ」

 

 流星街出身故に身寄りを無くすことの辛さは分かっている。

 旅団も時々クロロやパクノダなどが主体で動いて、身寄りを無くした人を保護したり、孤児院に寄付したりなどの慈善活動をすることもある。

 

 今回は無関係な子供が巻き込まれる可能性があり、解決しなければジョアナがまた追いかけてくるかもしれないので、さっさと解決した方が心残りがなくなるのだ。

 

「マチ姉とカルトは、一度ホテルに帰って着替えてきぃ。その間にナダメジマファミリーの拠点をリストアップして、携帯に送るわ」

 

「アタシとカルトで潰せばいいの?」

 

「おう。うちは連中を挑発して、囮になるわ。その間に頭始末してんか?」

 

「あいよ。行くよ、カルト」

 

「うん」

 

 マチとカルトは止める間もなく部屋を出て行き、ラミナはルシラに声をかける。

 

「パソコン何処?」

 

「え、あ、え? あ、そ、そこのノートパソコンを使ってもらって構いませんが……」

 

「おおきに」

 

「いや、そうじゃなくて! 何をする気ですか!?」

 

「んなもん、突っかかってくる阿呆を潰すに決まっとるやろ。うちらは別に依頼されたわけでもないし。ナダメジマファミリーが消えてなくなろうが、知ったこっちゃないねん」

 

 ラミナは素早く操作して情報を集めながら答える。

 ルシラはそれでも、まだ口を開こうとしたがセンリツが止める。

 

「無駄よ、ルシラ。この人達は動き出したら、止められないわ」

 

「しかし……危険では?」

 

「……彼女達はクモなのよ」

 

「「ク!?」」

 

 ルシラと管理人の老人は驚愕に限界まで目を見開いて、ラミナを凝視する。

 ラミナはそれを無視して、情報を集めてマチにメールを送る。

 

「……やっぱ傭兵雇っとるな。聞いたことも無い名前の連中やけど」

 

「規模は分かるか?」

 

「ハンターサイトの記録では23人。ハンターの情報はないから、念も知らんかもしれんな」

 

「なら、なんとかなるか……」

 

「その分、銃火器はたっぷり持ち込んどるみたいやけどな」

 

 ラミナは情報を記憶して、椅子から立ち上がる。

 

「さて、まずは周りを片付けよか。ここの事はバレとるやろうし、監視が近くにおるやろ」

 

 ラミナは左肩を回しながら扉に向かう。

 ジョアナの方に顔を向けて、

 

「ええか? ここで大人しくしとけや。流石にここから先は連れて行けんでな」

 

「……うん」

 

 不安そうだが、しっかりと頷いたジョアナ。

 それを見て、やはり一番の目的はラミナ達を巻き込むことにだったのだと理解する。恐らくジョアナ本人はそう思ってはいないだろうが。子供ゆえに直感に従って動いているので、嫌な予感がしたら今も抵抗しているはずだ。

 

 ラミナはセンリツに振り向いて、

 

「最低限の防衛は出来るやろ?」

 

「多分ね。私なら近づいてくる足音や声に気づけるし、戦いならルシラやバショウで行けると思うわ」

 

「まぁ、問題があったら、そこの机にメアド書いとるから、そこに連絡せぇ」

 

 そう言ってラミナも部屋を後にする。

 

 ルシラはやはり心配そうにセンリツを見る。

 

「本当に大丈夫なのですか?」

 

「それはどっちの意味かしら?」

 

「……両方です」

 

 無事に戻ってくるのか。そして、本当に信用できるのか。

 相反する質問だが、ルシラにはどちらも判断できる材料がほとんどない。

 

 あるのはジョアナの直感と、センリツの言葉だけだ。

 

「あの人はまだ信用できると思うわ。騙すような音でもなかったし、不安を抱えている音もしなかった。それに、どっちにしろ私達じゃ束でかかっても勝てないのだから疑ったところで無駄よ」

 

「だな」

 

 バショウは性格までは知らないが、実力に関してはウボォーギンと戦っている姿を見ていたので勝てる気がしなかった。

 

「あの着物を着た子供はどうなのですか?」

 

「カルトって呼ばれたから、あの子はゾルディック家の人間だと思うわ」

 

「ゾルディック!?」

 

「……あぁ、確か一緒に行動してるって情報があったな」

 

「ええ。クモの2人と一緒にいるのだから、実力もクモに近いと思うべきよね。……とても静かで残酷な音だったしね」

 

 センリツはずっと無関心か呆れているカルトの心音の冷たさを恐れていた。

 しかも、

 

「……暴れるって話が出た時、とても嬉しそうな音に変わったの。それまでは退屈そうで、どうでもいいって感じだったのに」

 

「……確かに表情も明るくなってたな。マフィアの拠点に2人で仕掛けるのに嬉しい、か……。まさに暗殺一家でクモの同類ってわけだ」

 

「けど、そんな人達をお嬢さんは頼った。あの子の勘では、私達じゃ荷が重かったってことね」

 

「……そう、ですね。……私も外で待機しておきます。お2人はお嬢様を」

 

「分かったわ」

 

「ああ」

 

 ルシラは覚悟を決めた表情を浮かべて、部屋を後にする。

 

 それを見送ったセンリツとバショウは、気を引き締めて警護に当たるのだった。

 

 

 

 

 ラミナは孤児院から少し離れた小道にいた。

 

 その足元にはスーツを着た男が横たわっている。

 

「さて、これで3人。次はあっちか」

 

 ラミナは音も無く走り出して家屋の屋根に跳び上がり、猛スピードで飛び移っていく。

 孤児院を出る前に視線を向けてきた場所はある程度把握していた。

 

 それを考えると、今いる連中は【絶】も出来ないレベルということだ。

 今のところはマフィアの下っ端と思われる連中だけだったので、傭兵連中はいないのかもしれない。

 

 そう考えていると、少し先に樹々で覆われた小さな森のような場所が見えてきた。

 感じた視線の気配はそこから感じていた。

 

「あれは傭兵か? 随分とお粗末やな」

 

 ラミナは森の手前で地面に下りて、出来る限り音を立てないようにして突入する。

 孤児院側の森の端付近に、軍服チックな服装を身に纏った男が3人。茂みに身を隠すようにして潜んで、双眼鏡や望遠鏡を覗き込んでいた。

 ラミナは両手に柳葉飛刀を3本ずつ具現化する。

 

 そして、男2人の後頭部を狙って、柳葉飛刀を投擲する。

 男達はラミナや柳葉飛刀に気づくことはなく、双眼鏡と望遠鏡を覗いていた男2人の後頭部に3本ずつ柳葉飛刀が突き刺さる。

 

「か……」

 

「う……!」

 

「なっ!? がっ!」

 

 ラミナは残った男をうつ伏せに倒して背中に乗り、首筋にスローイングナイフを当てる。

 

「さて、色々聞かせてもらおか」

 

「ぐっ……だ、誰が話すか」

 

「まぁ、もう知っとんねんけどな。生き残るチャンス捨てるとかアホやな。さいなら」

 

「っ!? ま、ぎゃ!?」

 

 ラミナは容赦なく首を斬り裂いて殺す。

 

 男達の死体を森の中心部に運び、機材も通信機以外は死体の傍に放る。

 

「感じた視線はこれで全部やな。さぁて」

 

 ラミナは通信機の電源を入れる。

 

「もしもーし」

 

『ザザッ…………誰だ? 何故この通信機を持っている?』

 

 通信機からは渋い男の声。

 ラミナはそれを無視して、話を進める。

 

「孤児院を監視しとった連中は全員殺した。ナダメジマファミリーの下っ端も含めてな。これ以上孤児院に関わるなら……潰す」

 

『……誰だか知らんが、調子に乗るなよ。我らを舐めると痛い目を見るぞ』

 

「はっ! そんなんは戦果出してから言うべきやな。え? 傭兵団【ヘリファルテ】」

 

『っ……!』

 

「前回の戦場で随分と痛い目に遭うたらしいなぁ。それでショボいマフィアの下っ端か。後20人、しっかりと狩らせてもらうわ」

 

 宣戦布告をして通信機の電源を切り、放り投げる。

 続いて、携帯を取り出してマチに連絡する。

 

『……もしもし?』

 

「そっちはどない? こっちは監視しとった連中を始末したところやけど」

 

『ボスがいないショボい拠点を潰したとこ。やっぱ念使いはいなさそうだね。拷問した奴の話だとボスの護衛は、腕が立つ程度の連中だけで、外部からは傭兵しか雇ってないってさ』

 

「その傭兵も念使いはおらなさそうや。戦場崩れの雑魚みたいやから楽に終わると思うで」

 

『了解。こっちは適当にやるよ』

 

「へいへい」

 

 電話を切り、ラミナは街の中心部から孤児院に通じる大通り近くに移動する。

 

 孤児院から連絡は何もないので、街から来る可能性がある増援に備える。

 

「やれやれ。あの挑発で怖気づいてくれたらええんやけど……」

 

 既に閉店しているレストランの屋根の上で【隠】で気配を消して、のんびりと待とうとした時、

 

 背後から殺気を感じて、スローイングナイフとレイピアを具現化して振り返る。

 

 そこにいたのは、

 

「やっと見つけたわよ!! もう逃がさないからね!!」

 

 

 不機嫌全開で仁王立ちするメンチ、そしてコロロルクとザーニャの3人だった。

 

 

 


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