暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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題名の意味『NGLよ、Good Luck!』

NGLとNGの組み合わせはアニメで使われていたのでw


#94 NGL×ヨ×GL!

 ヨルビアン大陸南方、【バルサ諸島】。

 

 その最南端にある島には、5つの国で構成されている【ミテネ連邦】がある。

 

 その西端の国が【ネオグリーンライフ自治国】―通称【NGL】―である。

 

 NGLは『機械文明を捨てて自然のままに生きる』を絶対の掟としている国だ。

 携帯やカメラなどの機械類はもちろん、プラスチック、石油製品、ガラス製品、化学繊維などが使われた製品も持ち込めない。

 治療などで体内に埋め込まれたボルトや人工弁、インプラントに金歯銀歯ですら認められず、入国を拒否される。

 

 無断で持ち込んだ場合、極刑か終身刑など過剰とも言える処罰が与えられる。

 

 国内の通信手段は主に手紙で、移動は徒歩か馬。

 病気や大怪我をしても他国に頼ることはなく、『自然のままに』の一言で死を受け入れる。

 

 自然と共に生きるため、動物達も当然その一部。

 故にNGL内の者達ならばキメラアントを見ても、警戒はしても国の上層部に報告をしたりはしない。

 

 それが最悪の結果を招いてしまったのだが。

 

 そして、入国に厳しい理由がもう1つあった。

 

 通称【裏のNGL】。

 麻薬、武器の密造・密売を行っているNGLの裏の収入源にして、真の姿である。NGLはこのための隠れ蓑でしかなかった。

 

 もちろん、他国は【裏のNGL】の存在に気づいていたが、証拠を手に入れることが出来ないため数年間イタチごっこを続けて来ていた。

 

 

 

 ラミナはそんなNGLの国境前に到着していた。

 

 NGLの国境は崖と河で区切られており、入るには橋のように崖の上を渡っている2本の大樹を通らなければならない。

 大樹の中は検問所兼大使館になっており、中では金属センサーや監視カメラ、X線検査、超音波検査などの機器が存在する。

 

 ラミナは【朧霞】で姿を消して、足音を出さないように最大限警戒しながら悠々と検問所を通り過ぎる。

 

 すでに国内にはネテロ達がいるはずで、大使館の者達も事態は知っているはずだが余計な足止めは面倒だったので、無視することにした。

 

 ラミナは姿を消したまま猛スピードで駆け出し、奥へと進む。

 昨日、ジンから連絡を受けたのか、ネテロから位置情報が送られてきていた。

 

 大使館から離れたところで【朧霞】を解除し、周囲を警戒しながらもスピードを緩めずに走り続ける。

 

 しばらくして、見晴らしがいい崖に出た。

 周囲を見渡すと少し先の森の一角に煙が充満しているのが見えた。

 

「あ……? あれって、もしかしてモラウか?」

 

 火事にしては煙が白く火の手が見えない。更に風も吹いているのに、全く流れる様子もない。

 そこから思い浮かぶのは、前に戦い、メンチと共に仕事をしたモラウだった。

 

「ってことは、もう1人はナックルか? いや、サポート要員やったらシュートの方か? けど、ナックルが大人しく我慢するタイプちゃうやろうし……。なら、違うハンターか」

 

 そう結論付けたラミナは崖から飛び降りて、煙の方角へ向かう。

 

 するとその途中、前方から複数の気配を感じ取った。

 

 ラミナはハラディを具現化して【朧霞】を発動する。

 姿を消して、枝の上を跳び移りながら気配の元に近づく。

 

 気配の主の姿が見えた瞬間、足を止める。

 

 そこにいたのは、蜂の頭にゴリラのような上半身にズボンを履いた異形の人。

 

 その周囲にも、二足歩行になったカミキリムシ、トカゲの顔に蝙蝠のような翼の腕を持つ異形の獣、テントウムシの模様を持つカブトムシのような角を持つ虫、猫の頭に蜂の身体を持つ異形がいた。

 

 その全てが人と同等以上の大きさで、二足で立っている。

 

(あれがキメラアントか……。完璧に全員が人の特性持っとるな。それに念も使える、か……)

 

 ズボンを履いている蜂頭のキメラアントは、間違いなく力強いオーラを纏っていた。

 

(……服を着とるっちゅうことはそれだけ人間の因子が強いっちゅうことか? まぁ、戦うてみれば分かるか。さて……)

 

 ラミナは勢いよく枝から飛び出し、まずは一番近くにいた猫顔キメラアントに迫る。

 

 しかし、姿が見えないはずなのに、全員が間違いなくラミナに顔や耳を向けた。

 

(っ! 音と匂いか!!)

 

「なんかいるぞ!!」

 

(虫頭の癖に流暢な口調やな!!)

 

 ラミナは全力で地面を蹴り、猫顔キメラアントの頭部を掴んで引き千切って握り潰す。

 姿が露になったことでハラディを消し、ブロードソードとレイピアを具現化する。

 

「っ!? 誰だテメェはぁ!!」

 

 リーダーと思われる蜂頭キメラアントが殴りかかってくる。

 

(こいつは最後)

 

 ラミナは一瞬でカミキリムシキメラアントの背後に回り込んで、ブロードソードで頭部を両断する。

 そして、【啄木鳥の啄ばみ】でトカゲ頭キメラアントの額に穴を空けて殺す。

 

 最後にカブトムシキメラアントに飛び掛かって、右脚蹴りを顔目掛けて繰り出し、【流】で右足先を強化する。

 

 カブトムシキメラアントの顔面は吹き飛んで、体が仰向けにゆったりと倒れる。

 

 一度距離を取ったラミナを、蜂頭キメラアントは苦々しそうにギチギチと口を鳴らしながら睨みつける。

 

「テメェ……!」

 

(確かに人より手応えが重いし硬い。けど、まだ余裕で殺せる。問題はこいつらがどれくらいのレベルか。まぁ、こんなところで群れとるんやし、あいつが兵隊長、殺したんは最下級の戦闘兵やろな)

 

 ラミナは武器を消して、軽く脚を開く。

 それを見た蜂頭キメラアントは、ギチギチと口を鳴らし、

 

「なんだぁ? テメェ、手品師か? 念も使えるみてぇだしよ」

 

「……ほぉ、虫も手品とか知っとるんか? お利口さんやな」

 

「俺を馬鹿にすんじゃねぇよ、テメェ!!」

 

 簡単に挑発に乗った蜂頭キメラアントは勢いよく駆け出して、ゴリラの右腕を筋肉で膨らませながら振り被る。

 

 それにラミナは【練】を強めて僅かに腰を据えたかと思うと、【肢曲】で残像を生み出す。

 

「なぁ!?」

 

 蜂頭キメラアントは驚いて、動きを止めてしまう。

 

 その瞬間、ラミナが蜂頭キメラアントの懐に姿を現し、蜂頭キメラアントが視線を向けた時にはすでに背後にいた。

 

「このっ! チマチマしやがっ――!」

 

 振り返って殴りかかろうとしたが、胸から勢いよく血を噴き出して膝から力が抜けた。

 

「んな……!?」

 

「ふむ……ちょいと硬かったが……。お前レベルなら問題なさそうやな。体の造りも人間に近いみたいやし」

 

 ラミナの左手には人間のより一回りも大きい心臓が乗っていた。

 それに蜂頭キメラアントは自分の血が止まらない胸に目を落とし、ラミナが握る心臓に目を戻す。

 

「それは……お、俺の……!?」

 

 直後、ラミナは心臓を握り潰す。

 

「っ!! テ、テメェエ!! このクソアマがああ!!!」

 

 蜂頭キメラアントは叫びながら両腕を振り上げて、ラミナに飛び掛かる。

 

「心臓潰した程度やと鈍らせるくらい、か」

 

 両腕が振り下ろされる瞬間、ラミナは一瞬で背後に回って頭を引き千切る。

 そして、近くの樹の幹に勢いよく頭を投げて叩きつけて潰した。

 

 今度こそ蜂頭キメラアントの身体は動きを止めて、うつ伏せに倒れる。

 

 ラミナは左手の血を払う。

 

「瞬殺するんやったら確実に頭を潰すしかないか……。それに兵隊長でこのレベルやと、確かに厄介やな」

 

 眉間に皺を寄せて、今の戦いを振り返る。

 しかし、留まっていると仲間が来る可能性があるので、再び駆け出しながらだが。

 

 【朧霞】はあまり意味がないと分かったので、もう使わない。

 すでに血の臭いがはっきりと付いているはずだからだ。

 

(戦闘兵でも一般人じゃ無理やな。念を会得しよった今では銃器でも殺すまでに時間がかかり、武器では傷もつかんやろうな。兵隊長以上は素の身体能力でもそこらへんのハンターよりも上。オーラを扱えるようになったことで、戦闘特化の能力でもないかぎりハンターでも勝率は五割以下。師団長となるとコルとパク姉では無理やな。カルトでも混ざった生きモンによっては厳しい。ゴンとキルアはまだ勝てるやろうけど、消耗は大きいやろうな)

 

 さっきの兵隊長がどれくらいの実力に位置するのかは分からないので正確なことは言えないが、それでも極端に差が出るわけはないはずだ。

 

(……気になるんは『念』という名前を知っとったこと。オーラの存在は分かっても、その名称を知る術はないはず)

 

 念の会得・修行方法を書物等で残すことは、暗黙の了解ではあるが禁忌とされている。

 気軽に手を出せるようになってしまえば、世界のバランスが崩れる可能性が高いからだ。

 

 特にこのNGLでは、念を知る術などゼロに等しいはず。

 

(裏のNGL? いや、そいつらやって変な奴に念を知られるリスクは避けたいはずや。つまり……やられたハンターの誰かが命乞いで話しよった……。最悪やな)

 

 ラミナは顔を顰めて、内心で盛大に舌打ちする。

 

 そんな事を考えながら煙の境目に到着したラミナ。

 ネテロにメールを送ってみると、すぐに位置情報が送られてきた。

 

 すぐ近くの岩山を示しており、ラミナはすぐさま移動を再開した。

 5分もせずに到着し、人の気配を感じる洞穴に入る。

 

 そこにはネテロ、腕を組んで眉間に皺を寄せているモラウ、そして黒スーツに眼鏡の男―ノヴがいた。

 

「久しぶりじゃのぅ。わざわざご苦労じゃったな」

 

「ま、報酬をしっかりもらえればな」

 

「……会長、何故この者を?」

 

「ん? いや、こ奴は儂が呼んだのではない。ジンから依頼されたようでな。それをジンが知らせてくれてのぅ」

 

「……なるほど」

 

「久しぶりじゃねぇか。あの後から随分と落ちぶれたみてぇだがな」

 

 モラウが挑発してくるが、ラミナは肩を竦めるだけで、すぐにネテロに顔を向ける。

 それにモラウが前のめりになるが、ノヴが肩を掴んで止める。

 

「随分とちんたらやっとるみたいやけど。状況は?」

 

「うむ、今は兵隊蟻を減らしておるところじゃな。2人の能力で孤立させ、儂が仕留めて回っておる。今ぁ2つ隊を潰したところじゃ」

 

「ちんたら過ぎるやろ。狙いは?」

 

「例のジンの弟子を倒したと思われる蟻の【円】が恐ろしく広ぅてな。近づこうにも近づけん。故に周りを消して、誘き出すつもりじゃ」

 

「……一隊の構成と数は?」

 

 ラミナは顎に手を当てて考え込んで尋ねる。

 それにネテロが顎髭を撫でながら、

 

「そうじゃのぉ……。大体60~70匹じゃな。師団長1匹に一隊と言ったところか」

 

「……戦闘兵が50~60匹、兵隊長が4~6匹、そんで師団長っちゅう感じか……。戦闘兵が千匹おるとしたら、兵隊長が約百匹、師団長が約30匹、護衛軍が3~4匹くらいが統率に理想やな」

 

「うむ」

 

「ジンの弟子を倒したんが護衛軍の一匹やったらええけど……。師団長やったら最悪やな。ちなみにジンの弟子ってどれくらいの強さなん?」

 

「ジンの話ではモラウやお主に匹敵するレベルじゃの」

 

「……なら、護衛軍が妥当か。姿とか見れたんか?」

 

「一度な。正直、厳しいかもしれん。少し前から巣に閉じこもっておる」

 

「……」

 

 盛大に顔を顰めるラミナ。

 

 どう考えても戦力が足りていない。

 

「来る可能性が高い援軍は?」

 

「モラウの弟子、ノヴの弟子、そしてキルアとゴンじゃな」

 

「……ナックル達は知っとるけど、もう1人の弟子の実力は?」

 

「戦闘力はナックル達より低いのぅ。今、最寄りの街でゴンとキルアと組ませて、ナックル達と戦わせておる。割り符を渡し、勝った方が1か月後ここに来れる」

 

「……悠長過ぎるし、2,3人増えた所で微妙なところやな」

 

 ラミナはゴンやナックル達を戦力に数えるのを止めた。

 流石に1か月も待つ気はなかった。

 

「正直、時間はそこまでないと思うで?」

 

「専門家の見解では王が生まれるまで、最短で2か月。まだ時間的余裕はある」

 

 ノヴが眼鏡を直しながら言う。

 

 それをラミナは鼻で笑う。

 

「はっ! その2か月はいつからの計算や?」

 

「……なんだと?」

 

「女王がここに現れた具体的な日付は分かっとらん。すでに護衛軍も生まれとるから、恐らく兵隊蟻は十分な数産んだんやろ。ほな、女王はいつから王の誕生に力入れたんか正確に分からんやろ」

 

「まだ生まれてはいないはずだぜ。毎日せっせと人間を運んでんだからな。これまで確認されているキメラアントの情報から考えると、王を産むためにまだ栄養がいるはずだぜ?」

 

「その専門家の計算は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「それは……」

 

「ジンの弟子は今も見つからんのやろ? 念を使えるキメラアントがおる以上、念能力者は最高の餌として食われた可能性は高い。他にもプロハンターが数人おったんやろ? そいつらも食われとったら、一般人数百人分の栄養は楽に摂れると思うで」

 

「……確かにのぅ」

 

「しかも連中、『念使い』っちゅう言葉を知っとった。【円】を使うとることからも、蟻はすでに四大行はもちろん、六系統の知識も得とるはずや。後はどんな能力を創れるんか理解すればええだけの可能性がある。あれだけのバケモンや。キメラアントの【発】がうちらの常識を覆す可能性は高い。全員が特質系でも驚かんぞ、うちは」

 

 ラミナの言葉にネテロは顎髭を撫で、モラウとノヴも考え込む。

 

 ラミナはネテロ達が結論を出す間に、一度巣を見に行くことにした。

 モラウから単眼鏡を借り、方角と距離を聞いて洞穴を飛び出す。

 

 30分ほど移動して、教えられた岩山に登る。

 空にキメラアントがいないことを確認して巣の方向を見ると、数km先の森のど真ん中に周囲の岩山よりも高い超巨大な蟻塚がそびえ立っていた。

 

 そして、その巣を中心にアメーバのように歪に蠢くオーラが広がっていた。

 

(……生まれて1か月程度のキメラアントが使う【円】ちゃうやろ……。1kmは楽に広がっとるぞ)

 

 もちろん【円】の広さだけで実力が決まるわけではない。

 だが、あの広さを長時間維持出来るだけでも十分脅威であるのは間違いない。

 

 【円】は【纏】と【練】の応用技だ。

 つまり、同じ【纏】と【練】の応用技である【堅】も凄まじい硬度を持つ可能性もあるのだ。

 

 しかし、それ以上に、

 

(【円】以前に、あそこに近づくんは嫌な予感しかせぇへんなぁ……。ここからでも不気味な気配が臭うてくるわ)

 

 ツマベニ達との戦いの時以上の凶悪さと不吉さだ。

 

 流星街、そして闇の世界に住む者達でさえも理解できない気配。

 

 恐らくは『人の欲望』と『蟻の本能』が溶け合った結果なのだろう。

 人間みたいな仕草はあるのに、絶対に相容れない何かが混ざっている。

 

 キメラアント全てがというわけではないのだろうが、理解し合うのは絶望的だとラミナは思った。

 

 単眼鏡を覗いて巣を見る。

 特にキメラアントの姿は見えないことから、空中や周囲の警戒はあの【円】のみであることが窺える。

 

 巣の周囲も観察してみると、今いる場所と巣の中間辺りの森の木々が折れて倒されているのが見えた。

 地面も抉れていることから激しい戦闘の跡だと理解した。

 焦げた跡がないから爆弾ではない。考えられるのは念での戦闘によるもの。

 

 そして、キメラアントの【円】のギリギリ範囲内。

 

(あそこがジンの弟子が戦った場所やな。そこそこ派手にやったみたいやけど、数日で……いや、ネテロ達が来たのはその翌日。つまり、半日足らずで【円】が万全に使えるようになる程度のダメージしか負わんかったっちゅうことか)

 

 それだけの者が少なくとも、あと最低2匹。

 モラウは直接戦闘タイプではない。ノヴもサポート要員であり、モラウとの連携で動いているため同じく直接戦闘タイプではないだろう。

 

 故にネテロ、ラミナ、モラウとノヴの3組に分かれることになると推測される。

 だが、それでは女王を仕留める手が足りない。

 

 キルア達が来たとしても、師団長以下多数を同時に相手にしながら女王を狙うのも現実的ではない。

 何より護衛軍が4匹だったら、破綻確定である。

 

 現作戦を続けて師団長以下を出来る限り数を減らそうにも、その前に王が生まれかねない。

 

(……ネテロを女王に当てるなら……手練れが後2人欲しいところやな。捨て駒になる覚悟で動ける奴が)

 

 そうなると、やはりクロロ達は呼べない。何一つ旅団へのメリットがないからだ。

 

 『生かすべきはクモ』。

 

 絶対の掟からすれば、この仕事に旅団員を呼ぶのはありえない。

 

(同じ理由でゾルディック家も微妙なところやな。害虫駆除をやるくらいなら、他の奴を暗殺する方が金になる。他の暗殺者連中を呼び寄せるにも、うちと同じ条件やないと使えん雑魚しか来んやろうし。ネテロの爺がそこまで金を出してくれるか……)

 

 ハンター協会はすでに期待していない。

 

 この状況でもネテロが援軍を要請する様子がなかったからだ。

 ジンの推測通り、要請しても却下される可能性が高いのだろう。

 

 なので、ネテロ個人で金を出してもらうのがベストになる。

 

「……はぁ~。あのデカさやと【天を衝く一角獣】じゃ女王にピンポイントで当てるんは無理やし、【死を呼び寄せる死(グラウンド・ゼロ)】でも護衛軍総出で庇われたら生き残りそうやし……。まぁ、そもそも巣に届く前に壊されそうやけどな」

 

 【死を呼び寄せる死】はキーワードを唱えれば遠隔爆破も出来る。

 その代わり、爆破範囲は直径500mほどで威力も普通の爆弾と変わらない。そして、ストックもどんなに残っていようが必ず0になってしまう。

 あくまで相討ち用の能力で、『死後強まる念』を利用することを想定しているので、普通に使えば当然威力は下がってしまうのだ。

 

 それで殺せるならばネテロも困らないし、ジンも依頼などしてこないだろう。

 

 なので、やはり護衛軍をどうにかして巣から誘き出さないといけないという結論に戻る。

 

「NGL……いや、ミテネ連邦を見捨てれば、手はいくらでもあるけど……。ハンター協会がそこまで決定権はないやろうし、それやったらハンター総動員の方が被害は少ないわな。あ~メンドクサイ」

 

 ラミナはため息を吐いて項垂れる。

 

 短期間での【円】の会得は流石に想定外だった。

 しかも、ラミナでも見たことも聞いたことも無い規格外の範囲。

 

(確実に産まれる王は護衛軍以上の強さ。念能力者なんは、まず間違いない。そうなれば、女王は殺せるかもしれんけど、結局王と護衛軍も追いかけなあかん。兵隊蟻達も人間の特性を持っとるから、女王やなくて王に付いて行く可能性もある。下手すれば、女王と王の両方からも離れるかもしれん。くそっ……! 最悪を考えれば考えるほど、全部終わらせるには『今が絶好の機会』っちゅう結論になりよる……!)

 

 ラミナは顔を顰めて、ネテロ達の元に戻る。

 

「結論出たか?」

 

「うむ。と言うても、これまでと変わらんかったがのぅ。今の儂らではこれ以上踏み込むにはリスクがちと大きすぎる。お主はどうじゃ? 妙案はあるかの?」

 

 ネテロの言葉にラミナはため息を吐いて、

 

「攻撃手段はある。が、確実に殺せる保証は出来ん。せめて、女王が巣のどこにおるんか分かればええんやけどな」

 

「……場所が分かれば、あの【円】を無視しても仕留められると?」

 

 ノヴが訝しみながら口を開く。

 

「五分五分の確率やけどな。けど、やっぱ護衛軍の数と実力がネックやわ。もし護衛軍全員で身を挺して守られたら、女王に届く前に止められる可能性はある。やから、そっちの周りから削る作戦も重要なんやけど……。どうも時間が足りん気がしてならん……」

 

「弟子達の結果が出た後では遅いと、感じておるのかの?」

 

「……ギリギリやな。直前か、直後か」

 

 王が産まれる。

 

 ラミナが言わなかった言葉をネテロはもちろんモラウ達も正確に読みとった。

 

「キルア達は遭遇した護衛軍について、なんか言うとったか?」

 

「うむ。キルアは今まで会った誰よりも薄気味悪いオーラで、儂らでも勝てる気がしない、と言うとったのぅ。ゴンはキルアに気絶させられて寝ておったから聞けてはおらん」

 

「ふぅん……」

 

「そういやぁ、あのガキ共はお前の弟子だったな。念能力者同士の戦いで『勝ち目』なんて言ってるようじゃ、まだまだだな」

 

「まぁ、キルアは暗殺者寄りの視点で敵を観察するでな。念での戦闘経験もまだまだ少ないやろうから、しゃあないやろ。それに、あいつは親父や兄貴のせいで敵のMAXを常と考えてまう癖が染み込んどるんよ。そろそろ直ってきたと思うたんやけどなぁ……。まぁ、今回は相手が相手やったけど。あぁ、後今あいつらの師匠はビスケな。うちはあくまで念の基礎を教えただけや」

 

「だとしても、あの時の彼はパニック状態に近かったと考えられる。その見立てに信憑性はない」

 

「うちは信じる。本人にその気はないけど、ゾルディック家の跡継ぎ筆頭や。パニックであっても、敵の実力を見誤るほど未熟やない。やから、奴らの潜在能力がうちらより上なんは間違いない。勝てんとも言わんけどな。潜在能力だけで勝てる程、念能力は甘くない。経験と熟練度は間違いなくこっちが上。これが覆る可能性はまだ低い。まだな」

 

「ふむ……つまり、今こそ全戦力を投入すべき時と言うわけじゃな」

 

 ラミナははっきりと頷く。

 

 しかし、ネテロは困ったとばかりな表情を浮かべて、

 

「じゃが、弟子達では不安が大きいしのぉ。他の援軍も選別に時間がかかるじゃろうて」

 

 今回は国から()()()()()()()()依頼である。

 故にハンター協会審査部で選別する必要がある。ジンがラミナへの依頼を裏技呼ばわりしたのが、これが理由である。

 

 ハンター協会会長だからこそ、ネテロは審査部を無視するわけにはいかない。

 

 そして、ハンター協会会長であるネテロが、今回の依頼の指揮官だ。 

 モラウ達がネテロを飛び越えて援軍を求めるわけにもいかない。これはラミナも同様である。もっとも、ラミナにNGLに絶対に呼べと言えるほどのハンターの知り合いなどほとんどいないのだが。

 

 恐らく2か月の猶予があるという専門家の見解を理由に時間をかける。

 

 故にハンター協会の援軍は期待できない。

 

 結局、今のメンバーでやるしかないのだ。

 

「はぁ……。お友達の爺連中、動かせへんの?」

 

「……まぁ、声はかけてみようかのぅ。ただ、命の保証が出来んし、正確な敵の情報を伝えられぬ以上、断られるやもしれんぞ?」

 

「声もかけんよりはマシやろ。護衛軍1匹でも引き付けてくれるだけでも御の字やでな」

 

 アルケイデスかゼノ。どちらかだけでも参加してくれれば、ぶっちゃけキルア達を待つ必要はない。

 ネテロならば2人より力関係が上の可能性もあるので、引っ張り出せるかもしれない。

 

 ラミナはそう考えていた。

 

 ということで、ラミナ達は師団長率いる部隊を削りながら援軍と機会を待つことにした。

 

 

 この決断を後悔することになるなど、誰も知る由はなかった。

 

 


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