暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん 作:幻滅旅団
その日の朝、ラミナ達は異変を感じた。
「……おい。連中、急に大部隊で動き出しよったぞ」
標的を決めるために巣の様子を単眼鏡で監視していたラミナの目に、これまで見たことも無い数のキメラアントが巣より出てくる様子が映った。
それにモラウとノヴが、ラミナに顔を向ける。
「どのくらいの数だ?」
「……少なくとも三倍は楽に増えとる。しかも、空を飛ぶ蟻も多い気ぃするで。昨日話した『餌』と『網』の2隊1組とかいう予想外れたみたいやぞ。……反対側からも同じ規模の部隊が出よった。……なんや? 中途半端に統率性を感じさせる動きやな……」
ラミナは何とも言えない気持ち悪さを感じながら、モラウに単眼鏡を投げ渡す。
モラウも覗き、ノヴも能力で双眼鏡を取り出して覗く。
「……確かにこれまで潰した隊の三倍はあるな。飛行能力がある連中を入れたからなのか、それとも単純に3隊編成になったのか……。確かに妙な気持ち悪さを感じさせやがるな」
「……飛んでいるキメラは全方位を警戒している……。中心付近に飛んでいるのが指揮官と考えるならば……約3匹が指揮官、ですか。どうやら、3隊編成でそれぞれの隊が飛行部隊を抱えた可能性が高いようだ」
ネテロ達は昨晩。アモンガキッドの推測通り、これからキメラアント達は2隊1組で動き、片方が囮役となって動くと予測していたのだ。
そして、今後は網役の部隊も含めて不規則に襲い、敵の数を減らしていく作戦を考えていた。
上手くいけば、これで3、4隊を潰せると狙っていたのだが、それが外れたことになる。
「……しかも、真逆の方向にそれぞれ出て行きよったな……。流石にあの規模となると会長チームはともかく、うちは取り逃がす可能性が高いで」
「それにあの飛んでる連中も厄介だな。俺の煙で閉じ込めるにしても、あれだけ広範囲に展開されてると囲いきる前に逃げられちまう。ノヴの能力も通じねぇし……」
ノヴの能力は【
念空間を創り出して、そこに人や物を転送させることが出来る能力だ。ただし、その入り口は壁や地面にしか設置できない。
つまり、飛んでいる者に関しては、別手段で地面に落とす必要がある。
モラウの【監獄ロック】であれば閉じ込めることは可能だが、煙である以上囲いこむ前に隙間から数匹は確実に逃げ出される。
その場合、テレパシーで連絡を取り合って、こちらの手の内がバレることはほぼ確実だろう。
「ちっ……思い切った手で来やがったな」
「一手、出し抜かれた感じやな。厄介な参謀がおると考えるべきか……。しかも、戦略を熟知しとる奴が……」
「言葉を話せる以上、本や何かしらで知識を得ていると考えるべきでしょう。裏のNGLの連中が戦術書でも持っていたか、それとも一部の人間を生かして尋問でもしているのか……。まぁ、どちらにしろ、作戦を練り直す必要がありそうですね」
「だな」
ノヴが眼鏡を直しながら言い、モラウが携帯を取り出してネテロに連絡を取ろうとする。
ネテロはノヴの念空間の中で体を解している。
その時、ラミナがすぐ下の森で何かの視線を感じた。
「なんかおるぞ……! 警戒せぇ!」
「「!!」」
ラミナの警告にノヴはしゃがみ込んで地面に手を当て、モラウはパイプを咥えて煙を吸う。
ラミナは【円】を発動して、視線の正体を全力で探る。
そして感じ取ったのは、異常な数の動く球体だった。
「っ!! こっち見られとる!! 球体の飛行物体、約50体!! 敵の念能力の可能性が高い!! 能力見せずに走って下がれ!!」
ラミナは形と数からキメラアントではないと判断し、ファルクスとブロードソードを具現化して、モラウ達に伝えると囮になるべく敵に向かって飛び出す。
モラウとノヴは躊躇なく、ラミナと反対側に走り出して岩場から飛び降り、森の中に飛び込む。
ラミナは【円】を狭めて、球体のみを捉える。
そして、ファルクスを振って【狂い咲く紅薔薇】で捉えた敵を攻撃する。次の瞬間には気配が消えるが、ラミナは警戒を解かずにすぐにまた【円】を発動する。
やはり、少し離れた場所にまだ10体以上の球体を感知して、ラミナは一度その姿を確認するためにファルクスを消してハラディを具現化して【朧霞】で姿を消す。
そして、茂みに飛び込んで球体の敵がやってくるのを待つ。
(血の臭いも、肉片もない。つまり、殺したんは念獣。なら、【隠】で姿も気配も分からん可能性は高い)
ラミナは最大限警戒しながら【凝】を使う。
すると視界に映ったのは、口だけの球体と一つ目の球体の群れ。
一つ目の球体の方はギョロギョロと忙しなく瞳が動き回り、口だけの方は鋭い牙を覗かして、いつでも飛び出せるような気配で一つ目の周囲を飛んでいる。
(……間違いなく念能力。しかも、探索型と攻撃型の2種類かいな。厄介やな……)
機能を制限していることで、それぞれの念獣の能力を向上させていると考えられる。
それはよくあることだが、問題はその数だ。
大きさを考えれば、複数具現化することを想定しているのは間違いない。
だが、それでも先ほど倒した数と合わせれば、60体以上一度に具現化していることになる。
(モラウみたいに『核のオーラ』と『煙のオーラ』を使い分けて構成しとるならまだ分かる。やけど、それでも複雑な動きをするもんは数が減るし、形が違うもんは同時に作り出すのも限界があるはずや。これはどんな念獣でも同じ。問題は……あの目玉)
一つ目念獣に攻撃機能はなさそうだった。
ならば考えられるのは、あの口だけ念獣とワンセットであるか、あの一つ目が見ている視界を術者も見ている可能性が高い。
前者であれば数が多いのもまだ頷けるが、そうなると使いどころと先ほどまでの動きに違和感がある。
考えられる命令は『視界に捉えた動くモノを、口だけ念獣に襲わせる』というもの。つまり基本的に自動型ということになる。ただ、そうなると先ほど視線を感じた時に何故襲われなかったのかという疑問が生まれる。なので、口だけ念獣と繋がっているわけではないと考えられる。
そして、この手の能力は一定範囲の専守防衛で効果を発揮する。巣の外ではなく、巣の中でこそ使うべき能力なのだ。
だが後者となると、術者はあの大量の一つ目念獣の視界を全て見ていて、それに並行して口だけ念獣を操作していることになる。
それでは術者への制約がとてつもなく多くなるはずだ。まともに動くことなど出来ないだろう。
何より数が多すぎる。
常時遠隔操作するならば、集中力もオーラの消費量も多くなる。半自動・半遠隔操作であっても、大した差はないというのがラミナの経験則だ。
(……相互協力型か? けど、そうやとしたらエラい中途半端な姿やな……。わざわざ目と口を分ける意味はない)
ラミナは術者の正体が掴めず、眉間に皺を寄せる。
その時、一つ目念獣がラミナが隠れている茂みをギョロリ!と視た。
(!! 【凝】も出来るんか!? 生まれたばかりの蟻が【朧霞】の【隠】を見破れるほどの!?)
ラミナは驚くも、反射的に茂みから飛び出して一つ目念獣に斬りかかる。
ブロードソードを振って横に真っ二つに斬ると、一つ目念獣は霧散した。
ラミナはそのまま走り抜いて一度茂みに飛び込んでハラディを消して、飛び出しながらファルクスを具現化する。
(モラウの煙人形同様、脆い! 後は口だけの奴!)
ラミナに向かって、口だけ念獣達が口を大きく開けて飛び掛かってくる。
(そこまで速ない!)
動きを見切ったラミナは一瞬で先頭の口だけ念獣に詰め寄って、【一瞬の鎌鼬】で縦に両断する。
一つ目念獣より硬くはあったが、問題なく殺せるレベルであることを確認したラミナは、【円】を発動してファルクスを振る。
球体であるため全ての一撃が致命傷となり、身体が霧散する念獣達。
ラミナは【円】で警戒を継続しながら、モラウ達が逃げた方向に全速力で駆け出す。
(あの口だけの奴……見た目のわりに脆かったっちゅうことは面倒な能力がありそうやな。それにしても、あの【円】だけでも厄介やのに、遂に能力も使ってきよったか。それも想像以上の完成度やった。こらぁ下手に師団長達も攻めかかれへんぞ……)
走りながら携帯でメールを送り、すぐに位置情報が返ってくる。
スピードを一切緩めずに知らされた場所に向かい、裏のNGLが使っていた穴倉の1つに飛び込む。
そこにはノヴが待っており、ノヴが地面に手を翳すと念空間への入り口が開く。
ラミナは素早くそこに飛び込み、続いてノヴも入って入り口は閉じる。
中は扉が1つあるだけの殺風景な部屋で、ネテロとモラウもそこで待機していた。
「ご苦労じゃったの。で、どうじゃった?」
「厄介なことになりよったでぇ。1隊分の念獣の群れや。球体で口だけの奴と、同じく球体で一つ目の奴の2タイプ。両方とも【隠】で姿を隠しとって、一つ目の方はうちの姿を消す能力を【凝】かなんかで見破られたわ」
「お前の【隠】を見破ったぁ……!?」
「幸い視線の気配は隠せんみたいやし、倒すんも難しないけど……口だけの奴の方はまだ能力を隠してそうやな。しかも、あくまであの場におったんは、や。巣の周囲に散らしとるとしたら、半端ない数になりよるで」
「ふむ……」
「浮いとるからノヴの罠は使えん。モラウの煙は【円】にもなりよるから、奇襲には備えやすいけどな。問題はそんな能力を連中が創り出せたっちゅうことや。いきなりあんな念獣を創り出すとか、もう師団長共も何かしら能力を覚えたと考えるべきやろな」
ラミナは座りながらペットボトルを手に取って、親指の力だけでキャップを開けて飲む。
「3隊編成に飛行部隊の整備、そして大量の念獣……。どうやら、思考を読まれたのは我々の方だったようですね……」
ノヴが眼鏡を直しながら苦々しく口を開く。
「念獣ってのが厄介だな。今の話からすれば、キメラアント並みに見た目や能力が変わる可能性がある」
「しかも、弟子が来たとしてもや。ナックルとシュートは一対一の制圧型の能力者やから、念獣の相手は向かん。ゴンは強化系やから言うまでもなく、キルアはまだ能力を知らんけど、あいつの性格からして一掃型の能力にゃせんやろ。何よりゴンとキルアには、蟻を相手にしながら【隠】を使う念獣まで警戒する器用な真似はまだ厳しいと思うで」
「俺の【紫煙機兵隊】は攻撃能力は低い。流石に囮にはなっても、倒すまでは厳しいな」
「出来れば倒しておきたいが、十中八九能力者は巣の中か、あの【円】の中じゃろうな。となると、結局儂らに出来るのは今までと変わらんと言うわけじゃな」
「やっぱ時間も手も足りなさすぎるやろ。この状況ならもっとベテラン連中呼べるんちゃうか?」
「だと、いいがな。期待はしない方がいいぜ」
「……はぁ。それが天下のハンター協会かいな」
ラミナはため息を吐いて、立ち上がる。
「うちはお前らとは違う隊を狙う。二手に分かれれば、念獣も分散するかもしれん。ま、あんま期待は出来んけどな」
「大丈夫か?」
「この部屋で戦うよりも、森の中で1人の方がうちは戦いやすいでな。少しこっちも踏み込まんとな。ノヴの能力は出来る限り隠したいやろ?」
「そうじゃの。今後の事を考えると、まだ詳細を知られたくはないのぅ」
「なら、うちが派手に暴れるしかないやろ。その代わり、かなり連中を刺激するで。覚悟しときや」
ラミナはそう言って扉に向かい、1人出て行った。
それを見送った3人は、
「俺達は今まで通りでいいんで?」
「それしかなかろう。お主の煙がなければ、ノヴの能力を隠せぬしな」
「それにしても……やはり協会本部からの応援は厳しそうですか?」
「……うむ。選定に時間がかかりそうじゃのぅ。その間に敵の能力をもっと情報を集めてほしい、とのことじゃ」
「ふんっ! んな悠長なこと言ってる場合じゃねぇことくらい分かってるだろうによ。前情報がなきゃ動けねぇとか、あのキルアってガキと同じじゃねぇか。むしろ、今の段階でも十分すぎるくらいだろ」
「……こうなれば弟子達を全員呼び寄せますか? 例の念獣や兵隊長以下の相手は出来ると思いますし、人が増えれば私やモラウの能力も少しは術者を攪乱できますが……」
「うむぅ……そうじゃのぉ……。もう少し、様子を見よう。ラミナがどう蟻達を刺激するのかを見てからの方がええじゃろう。下手をしたら、一気に勝負に動かねばならぬやもしれん。そうなれば、弟子達では流石にまだ荷が重いじゃろうて」
ネテロの言葉に頷いて、モラウ達もすぐに動く準備を始めるのだった。
同じ日の夜、NGLの隣国である【ロカリオ共和国】。
最もNGL国境に近い【ドーリ市】でゴン達とナックル達は、NGLに行く権利を手にするために勝負をしていた。
と言っても、ゴンとキルアはノヴの弟子であるパーム、そしてパームが呼び寄せたビスケに修行をつけてもらっている段階で、まだ本格的な戦いは仕掛けていなかった。
ゴンとキルアは現在【練】の継続時間を3時間以上に延ばしながら、ナックルと組み手レベルの戦闘を行う毎日を過ごしていた。
「ナックルに勝つには、それくらいしないと勝負にもならないわさ」
と言う、ビスケの能力とパームの援助をフル活用しながら、ヘロヘロの状態でゴンとキルアはナックルに挑んでいた。
ナックルも一度ゴン達と話をして、情に絆されてゴン達の特訓に付き合っていた。
ちなみにシュートはビビりが抜けずに、近くでナックルとの戦いを見ていたが手を出すことが出来なかった。
今日もゴンとキルアは【練】の持続延長の特訓を行っていた。
と言っても、残り約16日の段階で課題をされていた3時間維持に成功した。
「よし! 3時間経過だわさ!」
ビスケの号令と共に、ゴンとキルアは【練】を解いて軽く息を吐く。
「ふぅ……。なんとか3時間出来るようになったね」
「ああ、こればっかりはラミナに感謝だな」
「こればっかりはって。ラミナの教えは全部役に立ってるよ」
「ま、そうだけどな」
2人はヨークシンでラミナに「最低2時間」と言われてたことを真面目に続けていたのだ。
グリードアイランドを出る時点で、すでに2時間は維持できるようになっていた。
それでもやはり1時間も延ばすのは時間がかかった。
だが、それでもラミナに言われてなかったら、期間内ギリギリか間に合わなかっただろうとビスケも言っていたので、2人は心底実戦を想定して教えてくれたラミナに感謝しかなかった。
「さて、じゃ、30分休憩しなさい。体調を万全にしたら……ナックルを倒しておいで」
ビスケの言葉に顔を引き締めて頷くゴンとキルア。
しかし、次の瞬間にはいつも通りの雰囲気に戻って、体を休めながら談笑を始める。
(けど、それでもまだナックルの方が上手。ま、ナックルも流石に今のこの子達相手じゃ全力を出さざるをえないと思うけど)
ビスケは微笑みを浮かべて、2人を見ながらそう考える。
(今日であと半月。今日の戦いで自分にないもの、足りないものに気づければ、十分可能性はあるわさ。けど、未だにもう1人は姿を見せない。恐らく今日はゴンとナックルの一騎打ちだわね。今日の本気具合を見て、向こうもその気になれば。……一カ月経つ前に結果が出るかもしれないわね)
ビスケもナックル達の能力は知らないが、流石に全力での勝負になると結果次第ではNGLに行ける状態ではなくなる可能性もある。
特にゴンの能力は直撃すれば、ナックルとてただではすむまい。
ゴンも未熟さ故に何かしら大怪我を負う可能性はある。
しかし、全力勝負でなければ当人達は納得しないだろうし、キメラアントと戦って生き残れるわけがない。
「そういえば、知ってるかい?」
「「え?」」
「ナックルとシュート、それに師匠のモラウはね、ラミナとハンターの仕事したことがあるらしいって話」
「「えぇ!?」」
「時期はヨークシンのオークションの前だから……あんた達と天空闘技場で別れた後だわね。メンチってグルメハンターとも仕事したらしいわよ」
「メンチって……あの試験官やってた?」
「ああ……あのスシとか意味分かんねぇお題出して、ラミナだけ受かった奴か……」
メンチのことを思い出した2人。
「あの後、そんなことやってたのかよ」
「じゃあ、ナックルさん達もラミナの事を知ってるんだ」
「だわね。旅団と一緒に動き出したって広まった後からは、ラミナを探し回ってたみたいよ」
「あぁ~……少なくともナックルとラミナって相性最悪だよなぁ」
「あはは……」
ナックルは敵であろうと殺す必要はないと考える男である。
今回もキメラアントを問答無用で討伐することが気に入らないと、参戦を希望した。
そこがナックルの一番の長所でもあり、一番の短所でもある。
そして、その考えは暗殺者であるラミナとは絶対に相容れないのは、キルアはもちろんゴンでもわかる。
だがナックルからすれば、一度でも共に仕事をした以上無視することも出来ないのだろう。
「ラミナって、今どうしてるのかな?」
「そりゃ旅団の連中と一緒にいるに決まってんだろ。少し前もド派手に暴れたみたいだしさ」
「だわねぇ。ブールブ美術館とかよく狙うわさ」
流石にゴン達もラミナや幻影旅団の情報は集めていた。
ハンターサイトの情報料があまりにも高いため、あくまでネットニュースの類ではあるが。そのため、ラミナがジンによってシングルハンターになったことも知らない。
それぞれの情報料がヨークシンの時より倍以上跳ね上がっていたので、それらが事実だろうと理解した。
それでもラミナの家やブールブ美術館などのことは衝撃的で、クロロの除念が完了したことは嫌でも分かった。
それがグリードアイランドでレイザーと戦った直後であることから、ゲーム内で聞いた話は嘘だったこともやはり少なからずショックだった。
「さて! そろそろ時間だよ。行っておいで!」
「「押忍!!」」
気持ちを切り替えるように2人は気合を入れて、拠点を後にする。
向かった先は夜の広い公園。
ナックルは以前のように、その公園や周囲に住んでいる野良犬や捨て犬達に餌を食べさせて面倒を見ていた。
「……!」
そこに気迫に満ちた気配が近づいてきて、犬達も本能で気付いて慌てて逃げ出す。
「……ようやく本番みてぇだな……」
ナックルも顔を引き締めて、腕を組んで仁王立ちする。
ゴンが前に出て、キルアは少し後ろで足を止める。
「……戦う前に聞きたいことあるんだけど」
「あ?」
「ラミナの事と、シュートの居場所」
ラミナの名前が出たことにナックルは僅かに目を丸くする。
「なんでテメェらがアイツの名前知ってんだぁ? コラ」
「俺達に念の基礎を教えてくれた人なんだ。俺はハンターの同期でもあるけど。一緒に仕事したんでしょ?」
「……なるほどな。じゃあ、メンチのことも知ってんのか」
「うん。ねぇ、ナックルから見て、ラミナはどうだった?」
「……」
ゴンの問いにナックルは盛大に顔を顰め、歯をむき出しにして、
「……強ぇのは認めるぜ。俺やシュートはもちろん、師匠ですら勝つのは厳しいだろうぜ。今のテメェらの5倍は強ぇ」
「そっか……」
「だが、俺はアイツの生き方も、ハンターであることも認めねぇ!!」
今まで溜め込んでいたラミナへの怒りが爆発した。
「ああ、そうだよ!! アイツがスゲェのは疑いようもねぇ!! 殺しを楽しむような生粋のクズじゃねぇこともな!! 殺してきた奴らにも向き合ってるのも分かった!! だからって殺し屋のままで良いわけがねぇ!! 幻影旅団のメンバーが家族みてぇな存在だかなんだか知らねぇが、犯罪者集団に入って派手に暴れ回って、何人もハンターや警察、警備員を殺してる! いくら強かろうが、信念があろうが、ハンターとしても優秀だろうが関係ねぇ……。俺はあの女をぜってぇ認めねぇ!!」
右拳を握り締めながら、力強く宣言するナックル。
その叫びを聞いたゴンとキルアは、すでにラミナと一通りぶつかり合ったのだと理解した。
そして、返り討ちにあったのか、無視されたに違いないことも。
ナックルはビシィ!とゴンを指差して、
「テメェらがアイツをどう思おうが勝手だが、俺はいずれアイツをぜってぇ捕まえて豚箱にぶち込んでやっかんなコラァ!!」
((無理だと思う……))
2人は何故かそう思ってしまった。
実力的というわけではなく、結局どこかで手を緩めてスルリと逃げられそうなイメージが浮かんでしまったのだ。
「俺達もラミナの現状にはいろいろ思うこともあるから、ナックルがそう考えることには怒る気はないよ。まぁ、俺達じゃラミナにも旅団にも敵わないのは嫌ってほど理解してるしね」
(って言いながら、いざ目の前にしたら忘れて挑むんだろうけどな)
キルアはゴンにそう呆れながら、両手を腰に当てる。
そして、話を本題に戻すことにした。
「で、シュートって奴はどこ?」
「んなこと聞いてどうすんだ? コラ。今から俺にぶちのめされちまうのによぉ」
「割符は2枚必要だからね」
「笑わせるじゃねぇーか。俺を倒せたら、教えてやるよ。まぁ、ありえねぇがな」
ナックルが拳を合わせて不敵に笑う。
ゴンも【練】を発して、構える。
それと同時にキルアはナックルの背後の森に目を向ける。
そこにはシュートが潜んでいた。
いよいよ弟子同士は本格的な勝負が始まったのだった。
その頃、NGLでは。
「はぁ! はぁ! はぁ! クソが……!」
ボロボロなラミナが左肩を右手で押さえながら、森の中を全力で駆け抜けていた。