暗殺者のうちが何でハンターにならなあかんねん   作:幻滅旅団

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#98 ススンダサキ×ハ×シンエン

 ゴクマキを倒したラミナは回復を図りながらも、近くの岩山に登って周囲の気配を探っていた。

 

「念獣はやっぱうちの【円】の範囲の外か……。んで……他のキメラアント達は撤退しよると……」

 

 朝と同じねちっこい視線を感じるも、ラミナの【円】では気配を感じ取れなかった。

 恐らく前回の戦いでラミナの【円】の範囲を推測されたようだ。

 

 だが、逆に言えば今は朝とは違い、監視と観察に留めているということだ。

 

 そこから考えられることは、

 

「3隊編成を決めたんは、この念獣の術者と考えるべきか。んで、奔放型が多かった連中が言うことを聞いとるっちゅうことは、護衛軍による命令の可能性が高い……」

 

 先ほどの戦闘でも残りの2隊は加勢に来ず、勝負がついたと確認するとすぐさま巣へと引き返して行った。

 

「……フラコック達は勝手に飛び出したんか、当て馬にされたんか……。前者であれば付け入る隙はある。後者であれば狡猾な指揮官。……両方やったら最悪の支配者。念獣の動きから考えると、後者か両方やろなぁ……」

 

 ラミナの能力や実力を観察することに終始していた。

 もし、ここで倒すつもりだったならば、残りの部隊も投入して念獣でも襲い掛かればいい。

 

 それをしなかったということは、朝の戦闘から戦力分析に徹することにしたのだろう。

 

「つまり、護衛軍にとって師団長以下はある程度死んでも構わんレベルの存在っちゅうこと……。そうなると、今の作戦はやっぱ雲行き最悪やな。進行方向は大嵐の海、か」

 

 ラミナはため息を吐きながら、離れていくキメラアントの飛行部隊を眺める。

 

 恐らくネテロ達の方も大した成果は出ていないだろう。

 こちらと同じく、1隊を相手にしている間に残りは撤退している可能性は高い。

 

「あの編成はモラウの能力を観察することを目的としとるか……? あれだけの飛行部隊や。確実に囲う前に逃げられるやろうしな。上から見て、どうやって始末されるんか知ることが一番の狙い。見れんかったなら見れんで、対策を考えとるんやろうなぁ……。それに今頃新しい部隊が餌の調達に出とるやろうし……」

 

 ラミナ達は完全に陽動に引っかかったことになる。

 もちろん、ある程度それを予想してはいたが、ここまで手堅くやられるのは少しだけ予想の上だった。

 

 どれか1隊が襲われた時に、残りの2隊が加勢に向かう程度に考えていたのだ。

 そして、それでも奔放型が痺れを切らして、結局ガタガタになるとも。

 

「けど、なんで護衛軍が急に出しゃばってきよったんや? 少なくとも2週間以上前には産まれとったはず……。最近、産まれた奴が指揮を始めたっちゅうことか? まぁ、それやったら念獣が急に出てきたんも納得出来るか」

 

 つまり護衛軍も役割や性格に違いがあることが分かる。

 当然のことかもしれないが、性格が違うということは考え方に違いが生まれるということ。つまり、作戦立案の幅が広がるということだ。

 それに護衛方法も多種多様になる可能性がある。

 

 念能力がある以上、どんなにこちらが挑発しても女王の傍から離れない可能性もあるのだ。

 念獣を創る能力がある以上、その可能性は非常に高いと考えるべきだろう。

 

 だが、先ほどの戦闘の感じからすると、護衛軍は師団長が全員死ぬまで今の状態を継続するかもしれない。

 

「やっぱ、ここらで巣にちょっかい出して引っ張り出さんとあかんか。護衛軍を残しても意味はないしなぁ。ぶっちゃけ師団長クラスなら、まだ念能力を得ようが殺せるやろうし……」

 

 ラミナは森に戻って、新しく出立したであろうキメラアントの大部隊がいると思われる方向に走る。

 

 ネテロにメールを送って状況を聞くと、やはりこちら同様1隊を煙で覆っても残りの2隊は加勢せず、敗北濃厚になったら一目散に巣に戻っていったらしい。

 飛行部隊も仕留めきれずに、モラウの能力の概要はある程度バレたと考えるべきだとネテロ達は推測していた。

 

 ノヴの能力も遅くとも数日中にバレるだろうとラミナも考え、やはり対策を立てられる前の今のうちに仕掛ける必要があると確信した。

 

 ラミナは果物などを収穫して腹ごしらえをし、途中で見つけた洞窟に入って【絶】で体力回復に努めた。

 念獣を警戒していたが、向こうも警戒しているようで洞窟内に入ってくることはなかった。

 

 そして、日が暮れた頃。

 

 ラミナはほぼ万全に回復したことを確認して、行動を再開する。

 

 ネテロに「仕掛ける。隙を見て動け」と連絡し、勢いよく洞窟から飛び出す。

 

 巣に向かって一直線に走り、護衛軍の【円】の500mほど手前で、螺旋剣を具現化して全力でジャンプする。

 

 森から飛び出して、右腕を振り被る。

 

 バヂヂヂヂ!と螺旋剣が回転しながら帯電し始める。

 

 ラミナは巣を見据え、全身に力を籠める。

 

 それを見ていた念獣達が一斉にラミナ目掛けて飛び迫る。

 

 そして、巣の中では、

 

 

ピトオオオオオ!! 10時の方角だああ!!!

 

 

 と、アモンガキッドが叫びながら猛スピードで駆け出す。

 途中で、待機していた兵隊長2匹の頭を掴んで、抵抗させる暇もなく連れ去る。

 

 アモンガキッドの叫び声に、他の師団長達も目を丸くして思わず身構える。

 

 そして、ラミナは、

 

「くぅたばれやあああ!!!」

 

 叫びながら全力で右腕を振り抜いた。

 

 

ドッッッパアアアアァァン!!!

 

 

 轟音が轟き、流星の如き閃光がNGLの夜の闇を切り裂いて、高速で巣を目指して飛ぶ。

 

 念獣達はラミナから閃光に狙いを変えて、進行方向を塞ごうと群れる。

 だが、念獣達では全くスピードを緩めることすら出来ず、迅雷に焼かれて消滅する。

 

ドドオォォン!!

 

 巣の2か所の壁が吹き飛んで、猛スピードで人影が飛び出してきた。

 

 ネフェルピトーとアモンガキッドだ。

 

 2匹は砲弾のように一瞬で閃光の前に飛んだ。

 

「逸らすぞおお!!」

 

「ニ゛ャアアア!!」

 

 アモンガキッドはネフェルピトーの足元に足場となる念獣を出し、自身は両手で掴んでいた兵隊長2人にオーラを無理矢理流し込みながら、重ねて盾にする。

 

 もちろん、それで止まる【天を衝く一角獣】ではない。

 

 だが、先頭にいた1体目が蒸発しかけたその時、アモンガキッドはもう1体を少しナナメにずらして、そこを両手を組んで【硬】を発動したネフェルピトーが全力で飛び掛かりながら兵隊長の身体ごと、閃光に両手を叩き込んだ。

 

 そこに更に、アモンガキッドも全力で右脚で【硬】を発動しながら、念獣を盾にして閃光に蹴りを叩き込む。

 

 【天を衝く一角獣】は僅かに軌道が逸れて、巣の外壁を抉るだけで通り過ぎて行った。

 

「!? くそったれがぁ!!」

 

 ラミナは恐れていたことが現実となり、全力で悪態をつく。

 

 しかし、ラミナですら背筋に怖気が走る凶悪過ぎる殺気が2つ、ラミナに突き刺さったのを感じた瞬間、スローイングナイフを具現化して、地面に向かって投げて【妖精の悪戯】で入れ替わって、地面に着地する。

 

 それにネフェルピトーが両脚に力を入れて飛び出そうとした時、

 

「ピトー!!」

 

 アモンガキッドが呼び止める。

 

 視線だけを向けたネフェルピトーに、アモンガキッドは親指を立てて背後を指差す。

 

「残念だが、ありゃ陽動だ。本命はおいちゃん達がここを離れた時に来る。あっちはおいちゃんが行くから、ピトっちはプフっちと女王様を宥めてくれないかい? 【円】もお願い」

 

「……ニャア~」

 

「じゃ、任せたよ」

 

 不服そうに鳴くネフェルピトーをアモンガキッドは無視し、念獣を踏み台に猛スピードでラミナが降りた場所目掛けて飛び出す。

 

 ラミナは高速で迫ってくる凶悪な気配に、左手にフランベルジュを具現化する。右手はまだ痺れていて、武器を扱うのは厳しかった。

 

 その直後、ラミナは弾かれたように真横に跳んだ。

 

 そこにアモンガキッドが一瞬で現れて、直前までラミナがいた場所が地面ごと抉れる。

 

 ラミナはアモンガキッドの姿をしっかりと捉え、【練】を発動しながらも足は止めずに走り続ける。

 

「護衛軍か?」

 

「どうだろうねぇ」

 

「よう言うわ。あれを止めれるんが師団長なわけないやろ。覗き見しとった癖に」

 

「そうかねぇ」

 

 猛スピードで走るラミナの横を、楽々並走するアモンガキッド。

 

 その周囲には同じ速度で付いてくる念獣達がいた。

 

「念獣はお前の能力か。視界を塞ぐことが制約っちゅうところか?」

 

「やっぱ人間には見抜かれちゃうねぇ。残念だけど」

 

 そう言いながら右手を振り、口だけ念獣数匹をラミナの左右と上から嗾ける。

 

 ラミナはスピードを落とすことなく、左から迫る念獣に詰め寄って両断し、上から来る念獣も素早く切り捨てて、右から来た念獣は左脚を振り上げて蹴り上げる。

 その瞬間、アモンガキッドが背後に回り、両手で掴みかかってきた。

 

 ラミナはその両手が蛇の頭のように見え、

 

(掴まったらあかん!)

 

 と、直感して跳び下がって躱す。

 

 樹が2人の間を横切るが、アモンガキッドの右手が樹の太い幹を全く抵抗を感じさせずに抉った。

 

 ラミナは【肢曲】で残像を生み出して、アモンガキッドと念獣を困惑させようとしたが、アモンガキッドが迷うことなく本物のラミナに詰めかかり、右手を伸ばす。

 

 僅かに目を丸くするラミナはフランベルジュで斬りかかるが、アモンガキッドの右腕が蛇のようにうねって斬撃を躱した。

 

「っ!?」

 

 更に目を見開いたラミナだが、アモンガキッドの右手を躱しながら右脚を振り上げる。

 それをアモンガキッドは左手で掴もうとしたが、ラミナの右脚も蛇のようにうねって、アモンガキッドの左手を躱して顎に迫る。

 

「おっとぉ」

 

 アモンガキッドは余裕の声を出して、顔を仰け反らして躱す。

 

 そこにラミナがフランベルジュで突きを繰り出すが、念獣が横からアモンガキッドを押し飛ばして身代わりになる。

 ラミナは舌打ちしてフランベルジュを消し、右手にブロードソード、左手にファルクスを具現化する。

 

 具現化された剣を見たアモンガキッドは、離れるどころか距離を詰める。

 

 ラミナは【一瞬の鎌鼬】を発動して高速の斬撃を繰り出す。

 しかし、アモンガキッドはその斬撃の嵐を紙一重で躱して、蛇のように両腕を動かして斬撃を逸らし、完璧にいなした。

 

 更に左脚を鞭のようにしならせて、ラミナの右脇腹に叩き込む。

 

「がっ!?」

 

 ラミナは横に吹き飛んで、樹を圧し折って6m近く飛ぶ。

 

 ギリギリ【流】で防御力を上げたため骨折まではしていない様だが、それでも鉄球を叩きつけられたような衝撃があった。

 

「くっ……! (身体能力はうちより上! しかも【蛇活】を使えるせいで隙が見つけにくい……!)」

 

 だが、それでアモンガキッドの特性はある程度推測することが出来た。

 

(蛇の蟻やから、『ピット器官』を持っとるっちゅうことか。つまり、【肢曲】は無意味!)

 

 『ピット器官』は蛇などが持つ熱探知センサーだ。

 大きさ、形、距離までも測定できるので、体温を追われれば残像では誤魔化せない。それに加えて、一つ目念獣による視界もあるため、俯瞰的な視点もあるので速さだけでは勝てそうにない。

 

 そして、向こうの方が力が強く速いため、隙が作り辛いのだ。

 

(少しでも情報を集めるしかないか!)

 

 ラミナは【円】を発動して、一帯を覆う。

 

 その瞬間、アモンガキッドの髪が蠢いて、オーラと相まって大蛇が出現する。

 

 そして、猛スピードでとぐろを巻いてアモンガキッドを覆い隠し、凄まじいオーラを纏う。

 

 直後、ラミナがファルクスを振って【狂い咲く紅薔薇】を発動する。

 範囲内の念獣達は全滅したが、大蛇は僅かに皮膚が切れただけだった。

 

「ちっ!」

 

「怖いねぇ。お嬢ちゃんの能力」

 

 とぐろを緩めた大蛇の隙間からアモンガキッドが飛び出してラミナに詰め寄り、高速で両腕を動かして掴みかかる。

 ラミナはブロードソードとファルクスを連続で振って、アモンガキッドの両腕を弾こうとしたが、

 

バギキィン!!

 

 ブロードソードとファルクスの剣身が、いきなり潰れて砕ける。

 

(!? 握り潰された!? こいつの握力、いや、能力か!?)

 

 ラミナは歯軋りして、迫り来るアモンガキッドの手を素手で弾く。

 

 ラミナも【蛇活】を使い、4匹の蛇が2人の間を目にも止まらぬ速さでぶつかり合う。

 

 

パァン!!

 

 

 破裂音がしたと同時に、2人は猛スピードで駆け出す。

 

 夜の森をほとんど音も出せずに、紅い女豹と黒い蛇が駆け抜けていく。

 

 時折2人の両腕が霞んだかと思うと、空気が弾けるような音が響き、2人の間を横切った樹や茂みが掻き消されたように抉れる。

 

 ラミナは左頬、右前腕、左上腕、左脇腹から血を流して汗を流している。

 

 対して、アモンガキッドは口元の布と左袖が僅かに切れているだけで、怪我はしておらず汗もかいていない。

 

「驚いたねぇ。ここまで凌がれるなんて、残念なことにおいちゃん自信無くしそうだよ」

 

「よう言うわ。自信もくそも、そもそもお前ら護衛軍が全力で戦ったことや無いやろ」

 

「おや、残念。バレちゃってるねぇ。けど、自信が無くなりそうなのはホントだよ。これでも師団長達に化け物って言われてたんだけどねぇ」

 

「バケモンやろが十分」

 

「その化け物と戦えてるお嬢ちゃんに言われたくないねぇ。こりゃ師団長じゃ敵わないわけだ。もう一方の人達も同じレベルかい?」

 

「知るかい阿呆ッ!!」

 

 ラミナは体で隠しながら具現化したスローイングナイフを投擲する。

 もちろん、ピット器官で気付いていたアモンガキッドは顔を傾けるだけで躱す。

 

 直後、ラミナは指を鳴らして【妖精の悪戯】で入れ替わり、アモンガキッドの背後に移動する。

 

 そして、爪を尖らせた右貫手を全力で繰り出して、後頭部を狙う。

 

「そりゃ残念だねぇ」

 

 しかし、アモンガキッドは驚くこともなく、また頭から大蛇を具現化してラミナの右手に巻きついて縛り付けて受け止める。

 さらに関節を外して両腕を背後に伸ばして、ラミナに掴みかかる。

 

「このっ!!」

 

 ラミナは再び指を鳴らして、拘束から抜け出す。

 スローイングナイフは砕かれ、ラミナは左肩に痛みが走り、目を向ける。

 

 左肩が少し抉れて出血していた。ギリギリ躱し切れずに掠ったらしい。

 

「ぐっ!?」

 

 ラミナは顔を顰めるが、そこに口だけ念獣が5体ほど出現して襲い掛かってきた。

 

 更にその後ろから大蛇がうねりながら迫って来ていた。

 

 ラミナは右手にガンソードを具現化し、一振りで念獣達を倒して大きく後ろに跳び下がる。

 そして、銃口をアモンガキッドに向けて、戸惑うことなく引き金を引く。

 

 巨大な念弾が発射されて、アモンガキッドに迫る。

 

 ラミナは発射の反動を利用して、背後を振り返って全速力で走る。

 

 直後、背後で大爆発が起こり、爆風が背中に襲い掛かる。

 それも利用して【円】を使いながら、振り返ることなく走り続ける。

 

 アモンガキッドを倒せたとは欠片も考えてはいない。

 むしろ、これで僅かばかりダメージを負ってくれていれば僥倖にも程がある。

 

「はぁ! はぁ! はぁ! クソが……!」

 

 ラミナは悪態をつきながら、森の中を走り続ける。

 

 そして、背後から猛スピードで迫る気配を感じ取った。

 

「ちぃ!」

 

 舌打ちをして、背後を振り返る。

 

 その直後にアモンガキッドが目の前に現れて、右手で掴みかかってきた。

 服や髪が少し汚れているくらいで、やはり怪我を負った気配はない。

 

 ラミナは紙一重で躱し、続けて迫る左手も躱しながらすれ違う様に背後に回る。

 

 そして、手を握り締めながら両腕を引っ張る。

 

 すると、ガクン!とアモンガキッドの動きが止まった。

 

「げっ……」

 

 近くに飛ばしていた一つ目念獣から送られる視界に、ラミナの両手指から伸びる念の糸が、自身に絡みついているのが視えた。

 

「シィ!!」

 

 ラミナは念糸を引き寄せて、全力で鈎爪を振るう。

 

 アモンガキッドは体を回転させながら吹き飛び、念糸が引き千切られる。

 

 アモンガキッドは即座に右足を地面について、滑りながら体勢を立て直す。

 ラミナは追撃せずに、再び全速力で駆け出してアモンガキッドから距離を取る。

 

「ホント、恐れ入ったねぇ」

 

 アモンガキッドもすぐさま追いかける。

 その背中、左前腕、右上腕には3筋ほどの引っ掻き傷があり、青い血が流れていた。

 

 アモンガキッドは無理矢理体を回転させて、念糸を引き千切って距離を取ろうとしたのだ。

 それでも流石に躱し切れずに、遂に傷を負った。

 

 しかし、アモンガキッドもただやられたわけではなかった。

 

「あの距離と状況から、残念ながら掠っただけとはねぇ。結構消耗してると思ったんだけどなぁ」

 

 回転して離れようとした直前に、両腕を蛇のようにうならせてラミナの心臓と右腕を狙ったのだが、ものの見事に弾かれて左脇を掠っただけだった。

 

「さて……こっちもそろそろキツくなってきたねぇ。ずっと念獣を出してたツケが出てきたか……」

 

 かなりの数をラミナに倒されたのもあり、アモンガキッドもかなりオーラを消耗していた。

 【天を衝く一角獣】や【敬愛なる兄の咆哮】などを防ぐにもかなりのオーラを使い、ラミナなどであればすでにスッカラカンになっているくらいのオーラを使っている。

 

 しかし、【天を衝く一角獣】という脅威の攻撃手段を持つラミナを逃がすわけにもいかない。

 

 ラミナは確実に迫ってくる限界を感じながら、必死に勝つ方法を考えていた。

 

(もうオーラは無駄遣い出来ん! 武器に回す余裕はない! 【無垢村雨】が切り札やな……。【月の眼】は念獣や蛇には有効やけど、あの体術は一瞬の隙が致命的になってまう……!)

 

 【月の眼】で相手のオーラと同質化した場合、相手の能力を無効化できるが、体術に関してはお互いに【絶】状態で殴り合うことに等しくなる。つまり、速さや力、体術が上の者が相手の場合、諸刃の剣になるのだ。

 

 アモンガキッドの身体能力はラミナより上。

 お互いに【絶】状態で殴り合ったとしても、ラミナが不利なのは確実だ。

 

 元々の頑丈さも違うし、すでに体力の消耗率も差が開いている。

 

 なので、現状【月の眼】は使えない。

 

(あと長くても10分が限界……! また接近戦になれば、5分も保たん! この5分が勝負!)

 

 大太刀を具現化して、能力を発動し、斬りかかるまで約0.5秒。

 だが、それはラミナですら万全であれば十分躱すことが出来る時間だ。アモンガキッドであれば余裕で躱せるだろう。

 

 一瞬でいい。

 隙を作らねばならない。

 

 しかし【肢曲】は通じない。目潰しも意味はない。

 他の攻撃では十分な隙は作れない。

 

 武器を具現化する余裕もない。

 

 完璧にジリ貧である。

 

(ピット器官やなかったら、まだやりようがあんのに……! 暗殺者みたいな戦い方と能力にしよってからに! ホンマ、同類系は碌な縁がないわ……!)

 

 そんな事を考えていた時、

 

 突如、進行方向に煙が出現する。

 

「!! (モラウか!)」

 

「お? お仲間かねぇ」

 

「っ! 出てくんなボケェ!! コイツはピット器官持っとる!! 目くらましは効かん!!」

 

 恐らくノヴもモラウのすぐ傍にいるはず。

 モラウはともかく、ノヴだけはここで見られるわけにはいかない。

 

 そう叫びながらも煙の中に入るラミナ。

 アモンガキッドも戸惑うことなく煙の中に入ってきた。

 

 もちろんアモンガキッドのセンサーには、ラミナと少し先に立っている男1人をしっかりと捉えていた。

 

 しかし、突如ガン!と額に衝撃を感じて、たたらを踏む。

 

「イッタァ!? おぉ? なんだぁ?」

 

 特に障害物は感じ取れない。

 アモンガキッドは手を伸ばすと、明らかに壁のようなものに触れた。

 

 モラウの【監獄ロック】である。

 

 ならば一つ目念獣で追いかけようと思ったが、そっちは煙で何も見えず、ラミナが何かを投げた動きを見せた直後に視界が見える。

 一つ目念獣を潰されたのだ。

 

「……やられたねぇ。こりゃ、もう残念ながらダメかな」

 

 そして、10分ほどすると突如ラミナ達の近くで強力な熱が弾けて姿を見失った。

 その直後に【監獄ロック】が解除されたのだが、その時にはラミナ達の姿はアモンガキッドのセンサーから完璧に消えていたのだった。

 

「爆弾、かねぇ。まいったなぁ……。ピトっちやプフっちに怒られそうだ」

 

 アモンガキッドは項垂れて、トボトボと巣へと足を向けるのだった。

 

 

 ラミナはモラウと合流し、近くの洞窟に潜んでいたノヴがラミナ達の背後に閃光弾を投げて、その隙に念空間の中に飛び込んだ。

 中ではネテロが胡坐を組んで座っていた。

 

 ラミナは念空間の部屋に入った瞬間崩れ落ちて、四つん這いで荒く息を吐く。 

 

「はっ! はっ! はっ! はっ! はっ!」

 

「ギリギリ、だったな」

 

「はっ! はっ! はぁ……スマン、助かったわ」

 

「結局【円】が消えなかったからな。もし消えてたら間に合わなかったぜ」

 

「敵はかなり手ごわかったようじゃのぉ……」

 

 ネテロが顎髭を撫でながら口を開く。

 

 ラミナは未だ肩で息をしながらも体を起こして座り込む。

 

「最悪やな。距離は離れとったし、予想はしとったけど、あの一撃を逸らされたんはやっぱショックやわ。アレ、うちの最速の飛び道具やったんやけど……」

 

「そうじゃのぅ。それでもアレの対処には、護衛軍2人がかりでなければならんということが分かったのは僥倖じゃの」

 

「その後の追撃を考えれば微妙なところやけどな。あれを防いだ後でも、一方的に追い詰められたでな」

 

「ふむ……お主でも厳しかったか」

 

「相性が悪すぎるわ。暗殺術がほとんど効かんし、向こうも同じような技使うてくるし、身体能力もオーラ量も上。もし、もう1匹もおったら、死んどったな、無理無理」

 

 ラミナは上着を脱いで、傷の確認をしていく。

 

 モラウはラミナの怪我を見て、腕を組む。

 

「護衛軍と師団長以下はレベルが違う、か」

 

「レベルっちゅう言葉すら合わんわ。次元がちゃう次元が。師団長壊滅させても戦力は大して変わらんと思うで?」

 

「ふむ……」

 

「殺せんことはないで? 万全に体調を整えて、戦い方をもっと考えればな。まぁ、一対一で、その後のこと考えんかったらやけど」

 

「ただ、もう同じ手は通じないでしょう。確実に向こうもこちらを最大限警戒するでしょうし、それに1人であるならば護衛軍が出てくることも判明しましたしね」

 

「だな……。正直、俺とノヴじゃ、あの護衛軍の速さにはついて行けねぇ」

 

「まぁ、少し様子を見ようかの。ラミナは一度手当てに戻るとええ。回復に2日あればいけるかの?」

 

「この程度やったらな」

 

「モラウ、ノヴ。一度外の様子を見て来てくれんか?」

 

 ラミナは肩を竦めて立ち上がる。

 モラウとノヴはネテロの指示に従って、扉から外に出る。

 

 2人を見送ったネテロはラミナに顔を向ける。

 

「何か、言いたいことがあるようじゃのぉ」

 

「……この仕事、弟子連中には厳しい思うで。実力的にも、精神的にもな」

 

「……かも、しれんのぅ」

 

「あいつらの中に、人間の記憶を持っとる奴がおった」

 

「……」

 

「兵隊長やったから、師団長にもおるやろうな。もちろん、個体によって差はあるやろうし、それがどの程度性格に影響出とるんか知らんけど……モラウと弟子連中やと、下手に同情して見逃しかねんで? そっちがそれでええなら、うちは構わんけどな」

 

「そうか……。そりゃあ……ちと厄介、じゃのぅ」

 

「やと思うわ。……冗談抜きでアルケイデス辺り呼んどけや。情緒に流されやすい奴やと、一瞬の隙で殺されるだけやぞ」

 

 ラミナはそう言って、扉へと向かい念空間を後にした。

 

 

 これがネテロ達が女王を仕留められたかもしれない、最後のチャンスだった。

 

 

 




連投はここで限界ですm(_ _)m
明日からはまた出勤。コロナで色々とピリピリしてますけどね(ーー;)
なので多分、仕事後に書く精神的余裕はないと思います(_ _)

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