憑依したらドズル以外が壊滅して居た件【完結】   作:ノイラーテム

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そして誰も居なくなった

●サイド3強襲!? 最終防衛線!

 ジオン軍は緒戦を勝ち抜いた後、ルナ・ツー攻略に向けて艦隊を再編。

 

大きく傷ついた艦をグレートデギンらと共に後方に下げ、残りの艦隊を進発。

 

これに対して連邦軍はルナ・ツーで待ち構え、要塞に頼って疲弊した艦隊を迎え撃つものと……思われていた。

 

それが幻想に過ぎないと、中立の筈の各コロニーから伝えられたのは、せめてもの僥倖だっただろう。

 

 絶対防衛線であるア・バオア・クーを動かしたのに、連邦が反応しないわけはない。

 

もし使うならば、もっと手札を揃えてから連邦を躊躇させねばならばなかったのだ。ある種、自業自得と言えた。

 

「大尉。みな配置に付きました」

 

「そう畏まらずとも構いませんよ。正規の任官ではないのです。中尉、貴方の方が指揮官に相応しいでしょう」

 

 青白い顔をした中尉が年老いた大尉に報告を述べた。

 

親子以上に離れた歳の部下に、大尉は苦笑せざるを得ない。

 

「それでも大尉殿は大尉殿です。……それに、自分もあまり正規とは呼べませんから」

 

「ははっ。みな同じ様な物ですか」

 

 同じ志願兵であっても、経歴に寄って上下が振り分けられる。

 

老人は商船大学を出ており、船長経験も長かった。

 

正規兵だけの部隊ならまだしも、士官も含めて志願兵だらけな艦を任されるには、丁度良い折り合いだったろう。

 

 

 そんな時、不意に大尉が胸元のメダルを握り締めた。

 

時折、老人がそうする事と、中に孫娘らしき姿があるのを何人かは知って居た。

 

おそらくは留守部隊である彼らが、間も無く戦闘に突入することで不安を紛らわせようとするのだろう。

 

「お孫さんですか? 機会があればご紹介していただきたいものです」

 

「そう……ですね。そういえば中尉、貴方はなぜ前線を志願されたのです?」

 

 老人は顔に皺を増やした後、話しを打ち切るべく新しい話題を振った。

 

青白い顔の青年が、軍籍だけは登録してある後方勤務のお偉いさんだとくらいは察して居たからだ。

 

「自分は遺伝子病でそう長く生きられないのだそうです。ですのでせめて、仲間の為に知識なりと生かそうと思いまして」

 

「そうですか……。これは孫と再会した時に話す事が増えました。『その時』には丁度良い年齢差になっておるでしょう」

 

 孫娘と言う少女はとっくに死んでいた。

 

あの日、ズムシティに毒が撒かれた時の事だ。

 

いつか死ぬ時に、孫に対して胸を張って墓へ入る為に、老人は言い訳の様に志願したのである。

 

そして青年の方も、ソレに気が付いて、話しを合わせてくれたのだろう。

 

 よくよく考えればだが、生き残った名族の子弟たちは、悪く言えば疎開……。

 

良く言っても、人質として各コロニーに留学させられていた。

 

青年も名族の出だというならば、本来ならばどこかのコロニーで幽閉でもされていただろう。

 

いや、同じ様に毒で死んでいたかもしれないな……と不思議な縁を感じていた。

 

「大尉殿。前衛旗艦のグワメルより入電。間も無く戦闘が始まるとのことです」

 

「了解しました。中尉、よろしく頼みます」

 

 老人は気を引き締める為に帽子を被り直す。

 

離れた場所に居る者の中には、青年よりも更に年下、孫よりも若い兵士たちが居るのだ。

 

うろたえた姿を見せられないな……と思った時。

 

そんな恰好良いことができない、直ぐにうろたえる自分の情けなさに直面するのである。

 

●絶体絶命、赤い花の恐怖!

 

 前衛艦隊……と言っても、十隻にも満たない船の幾つかが、赤く照らし出された。

 

打ち放たれたミサイルをアンチ・ミサイル粒散弾で迎撃した時のことだ。

 

「まさか、あれは核か!?」

 

「馬鹿な。我軍でさえ使って居らんのだぞ!」

 

「ですが別に取り決めがある訳ではありません。……連中、なりふり構わず俺達を殺す気なんだ……」

 

 そんな会話を数少ない軍籍にある者たちがして居る間に、ムサイが一隻吹き飛んだ。

 

できあいの艦隊運動にしては対空防御の精度は高かったが、それでも完全とは言い難い。

 

いや、それほどまでに多くの核弾頭が撃ち込まれたのだろう。

 

 もちろん連邦の方にも事情はあった。

 

本来はここまで果断に攻撃を行う気はなかった。

 

だが、もしかしたらア・バアオ・クーが地球に向かうかもしれないと言う恐怖と怒りがそうさせた。

 

それに連邦軍はコロニー駐留部隊の寄せ集めでもある。

 

キエフやバクーと言ったロシア系の隣に、タイコンデロガやスプルーアンスと言ったアメリカを祖とする系統の船が並んでいる。

 

そして……何より、この弾頭はコロニーが一斉蜂起した時の為に備えられたモノだった。

 

コロニーの指導者に見つかった場合は面倒なことになるが、ここで使い切れば、悪いのは全てジオンと言う事に出来る。

 

「ザミエルならびにタンホイザー爆沈!」

 

「ムサイ改級では歯が立ちません! 通常弾頭だけでも数が……」

 

「黙れ! 喋って居る暇があったら手を動かせ! 一発でも多く撃ち落とせ!」

 

 中には洒落者が名付けたのか、オペラの名前が付けられたムサイの改良型もあった。

 

対空砲座の数も増設され、使い方を覚えたばかりながらも志願した砲手が驚異的なスコアで撃ち落としている。

 

しかしながら核の前には一瞬だ。それでなくとも無数のミサイルが迫って来る。

 

 それでも何とかしようと前衛旗艦のグワメルは突出。

 

メガ粒子砲が敵艦では無くミサイルの射線を薙ぎ払い、貴重な流散弾が射出されて行く。

 

だがその決断は、当然のように引き裂かれたのである。

 

「直撃、来ます!」

 

「戦隊旗艦を引き継がせろ。我に指揮能力なし、だ!」

 

「我、操舵不能。我、操舵不能」

 

 クルーは死に際して、恋人や親の名前を叫んだりはしなかった。

 

最後まで最善の指示を送り、残された仲間達の為に言葉を送る。

 

なにしろ逢いたい人々はみな死んでいる。この世が地獄だと言うならば、逢いに行くまでである。

 

もちろん最後の最後に情けなくも泣き叫んだ者もいるだろう。覚悟が完了して居る艦橋クルーで無い者は、特にそうだろう。

 

だが、誰がそれを咎めると言うのか。少なくともこの場には居なかった。

 

なにしろ控えめに言って死地、どこへ逃げてもあの様子であれば、連邦軍は生かして逃さないだろう。

 

「グワメルが、グワメルが真っ二つに!?」

 

「旗艦が沈みます。まだの筈ですが、もう数隻やられたら我が艦が戦隊旗艦です」

 

「覚悟しておけと言う事だね? 判った。その時は最後まで立派に戦おう」

 

 結論から言おう、その時は来なかった。

 

志願兵上がりの指揮官に旗艦は任せられないから? いいや違う。

 

ではでは連邦軍が急に紳士に目覚めたから? そんな筈はない。

 

そのつもりがあるならば最初の時点で降伏勧告と核の使用を忠告して居たはずだ。

 

では何故か? もっと最悪で、もっと悪辣な理由があるからである。

 

「何故だ!? なぜ連中はまだグワメルに撃ち込んで居る? それにタンホイザーにまで……」

 

「なぶり殺しにして居るんだ……」

 

「そこまで俺達が憎いか!? 俺達が何をしたっていうんだ!」

 

 メガ粒子砲が沈み行くグワメルに吸い込まれて行き、高性能だったとはいえ駆逐艦でしか無い船に追い討ちを掛けている。

 

老人は理解できず、青年将校は呆然とし、兵士たちは怒りの声を挙げた。

 

 もっとも連邦軍にも言い訳があるだろう。

 

レーダー連動射撃でもないのに脅威的なスコアでミサイルを落とし続け、そして驚くほどの精度で迎撃もやって来る。

 

もちろんこの時の為に、レーダーに頼らぬ方法で対空システムを組んで置いた事もあるだろう。

 

しかし、もしかしたらニュータイプなどという異常者が、生きて居る限り襲ってくると恐怖したのかもしれない。生き残った銃座が逃げもせずに最後まで戦った事も影響している。

 

 そんな兵士を宥め、しかりつけるのが士官や将官と言う者だが、彼らには彼らで予定があった。

 

早々に決着をつけるつもりが無い、いや、ついてもらっては困る理由があるのだ。

 

だからこそ、問題にはならない程度に兵士たちを見逃して居たのである。

 

 

 だからこそ、間にあってしまった。

 

戦場に大きな花火が打ち上げられ、ソレが特大の信号灯であったことに、誰もが気が付いた。

 

決して間に合ってはならない人物が、ジオン将兵が心待ちにしている人物が。

 

この絶望的な戦場に、間にあってしまったのだ。

 

「増援です! あれは……」

 

「あれはドズル閣下です! 間に合った、間にあってくれたんだ!」

 

「そんな事は言わんで判る。……しかし、これはしまった。そういうことか」

 

「どういうことですか大尉殿。これは朗報だと思うのですが」

 

 喜びに沸くクルーの中で、大尉だけが苦い顔をしている。

 

温厚な老人の急変に、青白い顔の青年将校はなお顔色を悪くした。

 

「判らんかね? 連中の目的は最初から、ドズル閣下だったのだよ」

 

●仕組まれた罠、我らに逃げ場なし!

 

 急報を受けた後、ドズルは高速仕様に改装した艦だけを伴った。

 

残りの艦には追撃する連邦軍を待ち構えるように指示して、自身はUターンしたのだ。

 

「艦隊指揮の委譲、来ました!」

 

「なんと、指揮系統が残っているのか……良く保たせてくれた!」

 

 残存艦は後衛を合わせても少なく、最上位がドズルであることは言うまでも無い。

 

だが、これほどまで無残に打ち崩された状態で、指揮系統が残っているのは奇跡に等しい。

 

ドズルはそれを褒めてやりたかった。そのことを、他のクルーにも知らせてやりたかった。

 

お前達は良くやったと言いたいのを我慢して、全軍に通達する。

 

「我に秘策あり! 別命あるまで各個に判断せよと伝えろ!」

 

「はっ! みな奮戦するでしょう!」

 

 そんな都合の良い作戦があるのか?

 

その疑問は後にして、戦場に居る誰もがこの言葉をありがたく感じた。

 

死地にあると覚悟しても、絶望に折れそうなことはある。

 

だからこそ指揮官は士気を挙げる為に、花も実もある嘘を吐かねばならない。

 

同時にその嘘を自分だけは信じてはならないのだ。

 

「グワリブを先頭、アサルムを後ろに付けて突入しろ。中央を突っ切って構わん!」

 

「はっ! 無傷のグワリブを前に出します!」

 

 高速仕様に改装したグワジン級の二隻は、先の迂回攻撃に使用した物だ。

 

アサルムの方が被弾が多く、戦力としてあてに成るから連れて行ったが、出来る限り前に出したくはない。

 

それと、彼は気が付かなかったが、指揮官の位置を誤魔化すことには意味がある。

 

敵は総指揮官であるドズルを捉え、ジオンの士気をへし折る為に時間を掛けていたのだ。

 

何処にドズルが居るか判らないことは、それなりに意味があった。

 

(無駄死にするなよ……と言ってどうなるものでもないか)

 

 味方は残存艦艇も含め二十隻にも満たない。

 

対する敵は殆ど減っておらず、この時の為に、むしろサイド3への攻撃を避けていた(ふし)すらある。

 

今もこちらを包囲しようと展開しており、前後左右何処にも逃げ場があると思われなかった。

 

「ふん。何処を向いても敵ばかりか。良いじゃないか、狙いをつける必要もなさそうだ」

 

「それは良いですな」

 

「ハハハ!」

 

 気の良い叩き上げの参謀たちは、ドズルの笑えないジョークに反応してくれる。

 

天頂方向、天底方向からも迫っており、三次元的に逃げ場がないのに良くも笑えるモノだ。

 

「敵艦載機の発進を確認。補給に戻って居た部隊と思われます」

 

「待ってください……未確認の機影アリ!」

 

「なぁにぃ? 望遠倍率を最大限にあげろ! モニターに映し出せ!」

 

 モニターに謎の機影が映し出される。

 

その姿を見た時、参謀たちは絶句し、なぜ無視しなかったのかとさえ思った。

 

それだけは絶対に、仲間達に見せてはならぬ姿であった。

 

「手足が……ある?」

 

「いや、この姿は……。色こそ違えど……」

 

 ザクじゃないか?

 

その結論に達した時、秀才の筈の参謀たちがポカーンと口を空けていた。

 

平然としていたのは、むしろ素人のドズルただ一人だ。

 

「まさか……裏切って……」

 

「誰だ、誰がそんな事を……」

 

「くそっ。連中、私達を追い込むのにそこまでやるのか。いや、それが戦争か……」

 

 参謀たちが唖然とするなか、ドズルだけが訳も分からずに落ち付いて居た。

 

正確には、そう思おうとしていた。

 

(ジオンで裏切りや情報を渡すなんざ、いつものことだろ。それに、ガンダムじゃねえんだな。安心した)

 

 アニメで知っているからこそ平然としているフリが出来た。

 

本当ならば素人の彼が、味方の裏切りを知って演技できる訳が無い。

 

今ばかりは劇中におけるザビ家の酷さと、ガンダムの恐ろしさに感謝する。

 

「閣下……いかがいたしましょう?」

 

「敵にまでモビスルーツがあるとなると、わが方の優勢が崩れ去ります」

 

「閣下」

 

「閣下!」

 

 さしもの出来ごとにうろたえる部下達に、ドズルは大きく息を吸い込んだ。

 

「うろたえるな! あの程度に何を慌てるか!」

 

 ドズルだってどれほど大変な事か判って居る。

 

平然と見せているだけで、対策なんて思いつけやしない。

 

後はもう、劇中のドズルっぽいことを言ってその場しのぎで誤魔化すしかない。

 

 

「敵は何機おるか? 数はおるまい。では錬度はどうだ?付け焼刃で我らに勝てるものかよ!」

 

「そ、そう言われてみれば確かに……」

 

「失礼しました、閣下!」

 

 本当に落ち付いたわけではないだろう。

 

だが参謀たちとしても、自分達の指揮官が平然としているのに慌てる訳は行かない。

 

「戦いは数だ! その意味に置いて乗った事も無い元エースなんぞよりも、セイバーフィッシュを指揮する百戦錬磨の部隊長の方が余程怖いわ!」

 

「その通りです!」

 

「さっそく、対策部隊を編成します!」

 

 しかし士気が回復したとしても現状はまるで変わって居ない。

 

士気が減らないだけで、……例え気力十分でも、精神論では二十と五十の差は覆らない。

 

だが絶対的な窮地に対して、奇跡的にジオンの士気は保たれたのである。

 

●敗北へのカウントダウン

 士気が瓦解しなかっただけで、苦戦は免れない。

 

一見、史実のルウムよりはマシに見える。

 

だがミノフスキー粒子で統制が出来ないと連邦は驚いては居ないし……。

 

何よりもエースパイロットどころか、熟練のパイロットすら居なかった。

 

「駄目です! 敵の数が多過ぎます」

 

「前衛、依然として突破・合流できません!」

 

 現在、なんとかなっているのは単純に敵が包囲網を築いて居るからに他ならない。

 

七割で厚く塞ぎ、残りの艦は補足する為に後ろへ回して居るからこそ、絶対的な火力で破られていないのだ。

 

「このまでは敵中に取り残され、包囲殲滅されます!」

 

 もしこのまま推移すれば、それこそ後ろから撃たれるだろう。

 

どうにかして戦力が増えない限り。敗北するのは変わらない。

 

そして城下の盟を誓わされるか、敗死するのみ。

 

いずれにせよ、遠くない未来に隷属させられる運命が待って居るだろう。

 

どうにかして、一時的にでも、戦力が増えない限りは……だ。

 

「やむを得ん。俺が直卒してこれに当たる。できる(・・・)奴を可能な限り集めろ」

 

「駄目です閣下!」

 

「それだけは、それだけはなりません!」

 

 可能な方法の中で、この状況を打破するには一つしか無い。

 

戦闘訓練を行う時間のあった……比較的初期からモビルスーツに注目してたメンバー。

 

その生き残りであるドズル他、なんとか精鋭と呼べるメンバーを集めて投入するしか無い。

 

「ここで閣下に何かあったら全軍が瓦解します!」

 

「それに総帥とのお約束をお忘れですか!?」

 

「ぐっ……。奴めそれを話したのか」

 

 他に方法が無いからこそドズルが出撃しようとした。

 

だが、それを止めたのはキャスバルとの約束だった。

 

キャスバル・レム・ダイクンに戻ることを決めたあの日、彼はドズルにこう約束したのだ。

 

『私は死にたくないので、始めた責任は全て取ってから死んでいただきましょう』

 

『それは……俺に死ぬな。ということか?』

 

『死んだフリをして逃げてもいけない。ということですよ』

 

『こやつめ。言いおるわ』

 

 それは売り言葉に買い言葉の様な物だった。

 

必要ならば己の生命すらさし出すと言う男に、そんなものは要らないと付き返したのだ。

 

あれはその場の流れであり、お互いの立場を確認しただけだと思っていたのだが……。

 

「そうか……みな知っておるのか」

 

「はい。どのようなおつもりかは知りませんが、少なくとも閣下の心配を総帥はなされています」

 

 真意はともかく、キャスバルが死ぬなと言ったのは確かだ。

 

まさかソレを参謀たちにまで知られているとは思わなかったが、これで出撃と言う方法は封じられてしまった。

 

「だが、どうする? 敵中を突破する判り易い方法……。……。あと1時間。いや、あと30分もあれば戦局が変えられると言うのに」

 

「それは……」

 

「しかし、アレを使う以上。何としてでも突破せねばなりません」

 

 ドズルは救援に戻って来た時、決して口から出まかせを言ったのでは無い。

 

非常手段として、前もって打ち合わせている最終手段がある。

 

だが、それも、味方と合流せねば使いたくても使えない。

 

今頃は『向こう』でも、策が動き出しているはずだった。

 

 是が非でも抜かねばならないのに……。

 

悲しいことに、現実はタイムリミットを突きつけて来たのだ。

 

「閣下! 敵が包囲網を完成しました!」

 

「……囲まれました。後方では既に砲撃が……」

 

「くそっ。あと少し、あと少しの余裕すらないのか! ジオンはここまでだと言うのか!?」

 

 もし出撃して風穴を開けるのであれば、先ほどが最後のタイミングだっただろう。

 

だが参謀たちの制止でその貴重な時間は失われた。

 

間断ない射撃とはいかないが、その分だけ統制された射撃で、ジオン軍は少しずつ敗北のカウントダウンを刻んで居たのである。

 

●過去と未来の呉越同舟

 

 高速仕様化というのは、決して良いだけの言葉ではない。

 

燃料を増やして加速し続けるだけだったとしても、その分だけ武装が失われる。

 

まして軽量化の為に、装甲などを犠牲にして居ればなおさらだろう。

 

「アサルム中破!」

 

「核弾頭は使われていませんが、物凄い弾幕です!」

 

「おのれえ!」

 

 マゼラン以上の大戦艦であるグワジン級があっという間に追い込まれる。

 

数の暴力とはそういう事であり、後ろを取られると言う事は為すすべなくやられるということだ。

 

かろうじて士気は保っているが、それも長くはないだろう。

 

やはり参謀を説得し、無理してでも突破すべきかと思った時のことである……。

 

「高速で飛行する機体を発見! さらに後方、大型巡洋艦が現われました!」

 

「どっちの所属だ! はやく艦影を照合しろ!」

 

 場が一瞬、騒然となる。

 

ただでさえ限界なのだ、これ以上の増援が敵に加わっては勝ち目など無くなってしまうだろう。

 

だがしかし、高速で飛行する戦闘機の類であれば、連邦の増援ではないかと思われた。

 

「ミノフスキー粒子が濃くてこの距離では判りません! ……あ、未確認機が発砲!この熱源はメガ粒子砲です!」

 

「高速移動する飛行物体にメガ粒子砲だと……? まさか敵の増援か!?」

 

 ましてや母艦が大型の巡洋艦である、こんな組み合わせは現在のところジオンには存在しない。

 

ホワイトベースを知るドズルが驚いても仕方あるまい。

 

だがしかし、その驚きは別の意味で裏切られたのだ。

 

「待ってください、発光信号! 味方です。識別はジオン軍……所属は……宇宙攻撃軍!?」

 

「敵の欺瞞工作じゃないか? モビルスーツをコピーできるんだ。識別だって……」

 

 人間は自分の知識と判断に縛られる物である。

 

高速宇宙戦闘機と大型母艦という組み合わせが無いことで、ドズルはホワイトベースだと判断してしまった。

 

宇宙攻撃軍にそんな組み合わせが存在しないからだ。

 

それならばまだ、敵が識別用の発光信号をスパイに盗ませたと思う方があり得る計算だった。

 

 そう……その組み合わせが単一の部隊であるならば、の話だ。

 

「更に発光信号! 母艦は別の所属……これは編成が途中で遁座した突撃機動軍……?」

 

「ようやく艦影が判別できる距離に入りました! あれは……ザンジバル級です!」

 

「高速飛行隊、我艦に並びます!」

 

 全てが見えた時、疑問は一瞬で解決された。

 

特徴のあるリフティングボディと翼のあるシルエットが確認され、グラナダ攻略に向かったザンジバルの一隻と判明。

 

更に横並びしたことで、高速で接近して来た飛行物の正体が判明した。

 

ヴァルヴァロ……いやビグロの試作型に良く似た形状であった。

 

「機影確認! あれはMIP社のX-1です!」

 

「302……ソロモンに配備した連中です!」

 

「まさか……。途中でザンジバルに乗り変えたと言うのか!?」

 

 それこそまさかの発想だった。

 

いや、言われてみれば理屈はわかるのだ。

 

他のコロニーが密かに、駐留軍出撃したと情報をくれたのだ。

 

そしてソロモンはサイド1や4を抑える位置にあった。

 

情報を受け取った、あるいは出撃を見たソロモンの部隊が戦力をこちらに送り……月で高速艦を捕まえたのかもしれない。

 

「ありえん……連中は派閥意識を乗り越えたと言うのか」

 

「ですが閣下も総帥との対立意識を乗り越えたではありませんか」

 

「ジオンの危機に立ちあがらぬ有志はおりません!」

 

 それはドズルが無意識に計算から外して居た事だった。

 

なにせ原作ではいがみ合ってばかり、宇宙軍と機動軍の仲は最悪だった。

 

正確にはギレンの親衛隊ともっと仲が悪かったのだが、その印象が強過ぎたのだろう。

 

「くそっ。あいつら……。持ち場を離れるのは重罪なんだぞ。……だがよくぞ、良くやってくれた」

 

「はい、これで間に合います! 間に合ってくれます!」

 

 ドズルは上を向いて怒鳴り、涙が見えない様に苦労した。

 

参謀たちはわざと明るい声を出し、周囲のクルーを励まして行った。

 

「もはや遠慮はいらん。総員突撃!! 囲みを破って合流を果たせ!」

 

「ザンジバルの支援砲撃が始まりました! 着弾にタイミングをあわせます!」

 

「しかし……これで勝てるのでしょうか?」

 

 ドズルはその厳つい顔を戻し、無理して笑いながら励ます行為に参加した。

 

どうみても鬼が笑ったようにしかみえないが、牙を向いたこの男がガハハと笑えばそれはそれで見ごたえがある。

 

「問題無い。時間を稼げば最終決戦兵器が俺達を助けてくれる」

 

「最終決戦兵器でありますか?」

 

「そうだ。最終決戦の為に用意された……兵器が、今立ち上がる」

 

 笑うドズルとは逆に、参謀たちは顔だけが笑って居た。

 

目は湿っぽくなり、声は低くなるのを何とかしてかくしている。

 

「最終決戦兵器……。そんな物がジオンに……」

 

「あるんだ。そう……あるんだよ」

 

 もう、それ以上は話せなかった。

 

心を鋼鉄で武装して居る筈の参謀団が啼いて居る。

 

それは絶対に、使ってはならない、本当の意味での最終兵器だったのだ。

 

 

 

 やがて、おびただしい光の列が彼方より飛来する。

 

ドズル達が囲みを破り、残存艦隊と合流したころに、ソレはやって来た。

 

「なあ。なんでこんなにサイド3が近いんだ?」

 

「そりゃあ、あそこを守る為だったんだし、知らずに後退してたんだろ?」

 

 兵士たちのうち、余裕ができた者からソレに気が付き始めた。

 

「違うぞ! 本当に、本当に近くに居るんだ。だって……あれって、コロニーからの砲撃じゃないか!?」

 

「砲撃だからじゃないのか? 対海賊用に長距離砲があるって……」

 

 みな、最初はソレを信じなかった。

 

おびただしい光の列が、コロニーに設置された超長距離メーザー砲だったと知って、なお。

 

だって、彼らはこの都市を守る為に奮起したのだ。

 

守るべきモノに守られるだなんて、悲し過ぎるじゃないか。

 

「待ってください。まさかまさか……最終兵器って」

 

「そうだ。お前の思っている通りだ」

 

 あれは……あれこそが……。

 

●その名は……最終決戦兵器『ムンゾ』

 

 サイド3の1バンチ、基部であるズムシティ。

 

もはやその名は過去のものであり、住民は既に死に耐えた。

 

首都機能や工場群は移築され、バンチ1つが丸ごと市庁舎や工場として機能して居た。

 

だからといって、コレはない。

 

誰もがそう思い、涙し、そして現実を受け入れた。

 

「オレ達の、オレ達の故郷が……」

 

「ズムシティが、ムンゾが動いて居ている……」

 

「見ろ! 遮蔽扉が開くぞ……あんなの爺さんだって見たこと無い筈だ」

 

 毒の混じった空気が取り除けないと、誰かが啼いて居た。

 

もう何十年かは住めないのだと嘆いて居た。

 

そのズムシティが、動いているだけでは無く、毒混じりの空気を捨てるべく底部の遮蔽扉を何十年振りかに開いて居た。

 

 そこに隠れていたのは大型の砲撃艦。

 

そして……内壁に張り付いた、無数のモビルワーカーや試作モビルスーツだった。

 

中には修理中であったり、新造される途中で引っ張って来られた物まである。

 

全ての機体はカノン砲やバズーカを持ち、あるいはその体で砲撃を支えていたのである。

 

 

「閣下。砲撃が始まります。もはやこれまでかと」

 

「そうか。今までよくぞ支えてくれた。ここがジオンの最終決戦だ」

 

「艦隊放送を掛けます。ホログラフ……間も無く」

 

 漢泣きに参謀たちが啼いている間、ドズルは静かに出番を待った。

 

そして精一杯、息を吸い込み、あまり上手くも無い演説に向きあう事にした。

 

「聞こえるか!? 聞こえるだろう。我がジオン軍の勇敢なる将兵たちよ!」

 

「奴らがここに来た時点で、俺達の勝利は決まった。地球連邦のモグラどもは残らず出て来た!」

 

「だが勝とうが負けようが、もはや我らに余った空気も食料も無い! 残った全ては明日を生きる若者達のものだ」

 

「一人一殺。血の畑を耕せ! 隣で戦友が役目を果たせぬ無念ならば、二人を倒して肩代わりしてやれ」

 

「この戦いを生き残った者はキャスバル総帥の作るネオ・ジオンを再建せよ! 死せる者は地獄への先駆けの誉れを担え! 全ての兵士の二階級特進を至当と認める」

 

 兵士たちが啼いて居た。

 

最早、過去に戻れぬと知って居ても。

 

まさか故郷がこんなことになろうとは、思いもしなかった。

 

確かにコロニーからの長距離砲撃があれば戦力は逆転する。要塞代わりに盾にもできるだろう。

 

だが、代わりにもはやサイド3の国民とは、ジオンの兵士だと胸を張って言えない。

 

最悪、ズムシティが核で砕け散れば、明日から難民である。

 

これから生まれて来る子や孫に、どう誇れば良いのだろうか。

 

だが、それだけにこの戦いは勝たねばならない。

 

ほぼ全員が血の涙を流し、涙をふきながら、明日へと向かう決意をした。

 

全ての攻撃手段を許可する(オール・ウェポンズ・フリー)

 

「その持ち得る全ての手段で地球連邦を倒せ! 銃火の祭りに参加しようではないか!」

 

「総員抜刀! 総員突撃!」

 

 堰を切ったかのようにみな動き出した。

 

もちろん演説の間も砲撃はして居た、モビルスーツでも戦っては居た。

 

だがしかし、全ての兵士達の心が一つに成ったのは、今この時だろう。

 

上はキャスバル・レム・ダイクンの指揮するプラズマ砲が敵艦を粉砕し、下は子供達の操るトラック・ボールが対空砲座を動かして行く。

 

灼熱のプラズマ雲が発生し、僅か一撃でマゼランを砕く。

 

一発ごとにモビルスーツが製造できる融合炉が消費され、一発ごとに敵戦艦が砕け散った。

 

コロニーから発射されるビームは次々と連邦軍に放たれ、近寄るセイバーフィッシュは次々と撃ち落とされて行ったのである。

 

 

 結果から見れば大勝であろう。

 

だが何とも苦い勝利ではないか。

 

もはやジオン軍と名乗る何者も居らず、誰も居なくなった。

 

新たにネオジオンが立つのかもしれないが、ジオン軍の栄光の軌跡は全て消え去る。

 

我らただ、明日の為に終わる今日と成ろう。




 後編を追加してみました。
前編で作戦とか最終決戦兵器があると書いて居たので、少し拍子抜けだったかも知れません。

本当は三部構成にして、もう少し増やそうとは思ったのですが……。
モビルスーツの他、ゼナ様とかシーマ様とかの話題書いても蛇足なので、いっそのこと全部省きました。

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