ポーンギルドの付与術師   作:キョウさん。

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執筆中のヒトに恋した怪物たちへの設定をすっかりうろ覚えにしたので、思い出しついでにリハビリで書いてるものです、更新不定期です。


プロローグ~たすけて~

 

 

 

『何よりも前に、まず軍備を整えなさい』

            ニッコロ・マキャベリ

 

 

 自分は、礼儀というものは武装してこそ通るものだと思っている。

 

 小さな、まさにマジカルチックな工房といった場所で目の前の剣をいじくりまわしながら、自分はかつて自分がこれでもかとやりこんでいたとあるネットゲームのことを思い出していた。タイトルはマイナーゲームに分類されるものであったそれは10年以上の月日を経て古くなれど、愛着をもった一部の熱心なユーザーによって維持されていたものだ。

 

 そしてそのゲームのスキルに限りなく近い、“自分の能力”も。

 

「懐かしいなあ」

 

 ふとつぶやき、目の前の“魔力のこもった剣”をしっとりと見つめる。

 素晴らしい、自分ながらいい仕事をしたものだ、もともとアイテム収集家であった自分にとって、新しいものを作るというのは本当に心が躍る。名前をつけるときなど身震いがしてついつい手元の手帳をまるまる1ページ使って設定を作り出してしまうほどだ。

 

 自分によって“エンチャント”のされた剣を鞘におさめ、ふと疲れたと水を一杯、そして横になる。ひと仕事終えるといつも眠くなるから目を閉じて、そして自分がこの世界に来たそのときも、こうだったなあと想いをまぶたに馳せていった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 付与術師、“エンチャンター”というものを知っているだろうか。

 

 それは媒体によってさまざまで、とあるゲームでは武器への能力付与ができる鍛冶じみたものだったり、とある漫画では味方の能力を強化するエンチャント(強化魔法)を付与できるものであったりする。自分がプレイしていたネットゲームにおいてはおおむね、それらが複合されたものと言ってもいいだろう。

 

 ネットゲーム、されどネットゲーム、たかがネットゲームである。レベルはもちろんカンストさせ、しかしマスタリーしたのはただひとつの付与術師、時間や資金をつぎこんで無数のアイテムを手にしてもそれは虚構であり、しかしながらその虚構を集めることは自分の生き甲斐だった。集めたアイテムは無数、数知れず、とはいえゲームで人に覚えられるほどではなかったと記憶に残している。

 

 明日はアプデ日だ、と思うと眠りの前のひとときも大変に心が跳ね、まぶたを閉じるのが気づけば明け方だったのだろうか、空は明るくああしまった、起きた瞬間遅刻を確信したとはこの瞬間だろうか。問題点としてあったのは周囲はレンガ造りの建造物ばかりで住み慣れた白い天井ではなく、おまけに下にしかれていたのも砂利道で飛び込めば優しく受け止めてくれる母のようなおふとんではない。

 

 母に先立たれたかのような感情を胸に砂利を触り、それが実物そのものの感触とともに指先を白く汚したのを見て、身体にまとった衣服に染み付いた寝汗の感触もあわせていまいるこの場所が、ほかでもない現実なんだろうと考えた。というか直感した。

 

「ヒエーッ……」

 

 口癖だ、これで心を落ち着かせるのだ。

 

 ふと気がつけば自らの着ているこのやけに装飾のついた割に茶色の、地味な色合いの衣服は明日のアプデを待っていたネットゲームの自キャラが着ていたものではないか、なんということか寝てるあいだにコスプレまでさせられてしまったのだろうか、はてそれにしたってここの場所に心当たりがない。どこかの袋小路ということはわかるのだが近所にレンガ造りの場所というとショッピングモールの隅の喫煙所の壁くらいしか思い当たらず、なぜ自分がここにいるのかというのかにまた疑問符を浮かべることになった。

 

「しょうもない、歩いてみなきゃだ」

 

 しょうもない。

 五・七・五。

 

 開けたとおりに出ればどんな場所か、せめて地名くらいはわかるだろう。おまわりさんには笑われるだろうが事情を話せばキッと真面目な顔をしてとりあってくれるはずだ。我被誘拐者ぞ、我事件被害者ぞ。

 そうして歩いていたらああ、すいませんそこを通してくれませんか。大柄な男と小柄な取り巻き一人が道をふさぐように現れたではないか。ここは人類世紀末、もはや我らに救いはないのか……いや、もしかすると心配してくれて声をかけにきてくれたお兄さんかもしれない。

 

 だがおっと失礼と横を抜けようとしてもとおせんぼ、反対側も通せんぼで埒が明かない。とはいえ自分、臆病である、ヒエーッと言いつつ一歩後ろに下がれば一歩踏み込まれ、それが続けばもう一歩、気がつけば壁際に追い込まれてしまっていた。

 

 うう、すいません持ち合わせはないんです。

 

「だったらその服よこせよ!貴族のぼっちゃんのなら金になる」

「そうだそうだ!アニキは賭けに負けて腹が立ってるから早くしろ!」

「それを言うなよポンド!」

 

 ンマー貴族なんて古風な煽り文句を使うなんて珍しいチンピラだこと、と心にしまいつつ、しかしちょっと風が肌寒い、勘弁してくれないですかと一礼する、そしたら選択ミス、大柄な男は腕を軽くふりかぶり自分を殴りつけたではないか。

 

「やめ、やめてくださ……」

「だったらはよ脱ぎ!!」

 

 痛い……布の服では防御力はこんなものか、というか実際のゲーム中におけるこの服、“付与術師のリュミエール”だったか、それも確かエンチャント能力特化で防御力はほぼなかったなと思い返しつつ、痛みに震える肩をおさえる。そしたらもう一発今度は反対側の肩を殴られるものだからたまらず自分は壁際に追い詰められて、たちまち尻もちをついて小石の転がる地面に座り込んでしまった。

 

 痛い、なきそう、ないてる。

 

「どこのぼっちゃんだか知らんけどよ、スラムの横道に入るなって教わらなかったのか?あぁ?」

「そーだぞ!アニキの言う通り脱げよ金持ちの!」

「一般人だし……」

「あ゛ぁ?」

「ヒーッ」

 

 脅迫めいた声に自分の心も身体も膀胱も結界寸前だ、どうにかならないか、のぞき見に着ている貧相な身なりの子供たちに助けてくださいと目線を送ったら無視されて逃げられた。神は死んだのだ、神はいなかった。

 では何か身近にはなにかないだろうか―――小石だ、小石が見える。目潰しにでもできるだろうか?見られている状況で?? ……されど自分、臆病である、わらにもすがる思いというものはあるのだ。

 

 とっさに小石を手に取り、願いでも込めるように握った瞬間。

 

 ―――異変が訪れた。

 

「おや」

「小石なんて今更持っても……!」

 

 握った小石に、見慣れた画面が現れる。

 ああ、毎日楽しみにプレイしていたネットゲームで勝手見知ったエンチャント画面ではないか。

 

 システムは単純であり、あらゆるアイテムには“スロット”がある、エンチャントを付与できる枠というわけだ。この小石はスロット2であるわけだが、そこにプルダウンメニューから選んだ付与(エンチャント)を挿し込むことができる、効果はまちまちで攻撃力をほんの5%増しにするものから、絶対に壊れない属性を与えることまで可能だ。

 

 これは死の前の幻覚か、いやはやそれなら付き従ってみるのも悪くない。

 エンチャントは完璧に覚えた専売特許というもの、自分は手慣れた手付きでプルダウンメニューを操作しすぐさまふたつのエンチャントを取り付ける。武器によって取り付けられる付与は異なるゆえ、今回取り付けたのは遠距離武器に該当するものとなった、どうやらこの小石、“遠距離武器”の特性を持つらしい。

 

 その瞬間、小石が黄色く、そして黒く、それぞれに対応した色に一瞬輝いた。それを見たこの大男と連れの小さいのは、「魔法か!」とまたふぁんたじっくなことを申し上げたと思うと打って変わって早急(さっきゅう)に自分を止めようとつかみかかってくる。だから自分がその大男に向かい小石を放り投げると――― 

 

「はずれェ!!残念っ!!!」

「バーカ!」

 

 ―――見事に外れた。

 この自分、運動能力はからっきしである、とくに球技が苦手だ。

 体力テストのボール投げは下から数えればまっさきに名が上がったし、ストラックアウトは届かない。いかんせんコントロールもパワーも足りないのである。それを今更思い出すとはなんたる失態と考えるがしかし、自分の目に映るのはそれが覆される瞬間であった。

 

 天をめがけて放たれた小石はぐんぐんと重力に逆らい進むと、隣にならびたつ家の二階の窓あたりまで進んで重力に従い落ちてくる、だが違うのはその軌道だ。急激に進行方向を変えた小石は重力以上に加速し落下し、そして大男の脳天を捉えるのだ。

 

「いてッ」

「アッ」

「……?」

 

 あからさまに自分に当たらない軌道をとった小石が自分の頭を小突いたのが気に入らなかったのだろう、彼は後ろを向いてまた戻ってきたギャラリーが首を振るのを見て誰かが石を投げたんじゃないことを確認すると、またこちらを振り向こうとするのだ。

 

 だが―――

 

「あっ、れッ」

 

 戻そうとした首は戻らない。

 

 なるほど、と痛む肩をおさえながら自分は思う、まるでゲーム世界のようだがたしかに、少なくとも自分の仕掛けた付与効果(エンチャント)が発動していると。“的中の”は文字通り投擲武器の命中率を+100%させる付与であり、そして今もうひとつの付与が発動しているのを目にして自分はこの世界の法則が目を覚ます前にいた場所と異なっていることを確信した。

 

「……アニキ?アニキ!?」

「ポンド、ポンド!!俺はいったい……!?」

「あわわわわ…」

 

 ふたつめの効果は“硬化の”。

 さしずめ“硬化の小石”となっているのだろう、文字通り命中対象に行動不能状態を与える付与だが欠点として、硬化状態の相手は尋常でなく防御力が向上するという諸刃の剣である。相手のエンチャントや持続魔法、召喚は継続するしスキルも射程内なら使えるので逃げのための付与だ。

 

 大男は首を後ろにまわしたまま口だけを動かし、完全に身動きがとれなくなっていた。

 取り巻きの小さいのがゆさぶっても解ける気配がなく、しかし、自分が立ち上がるとその視線はこっちを見た。

 

「お前、魔法使いだったのか!!」

「使えればいいなとは常々……」

「使えてんじゃん!!」

 

 突っ込まれるのに視線をそらしつつ、自分はそろそろと固まったまま呪詛を吐く大男の脇を抜けてこっそりと逃げるのだ。三十六計逃げるに()かず、行動不能の効果時間はそんなに長くなかったはずだし逃げるしかない。長距離走の苦手なこの身だが少しばかり距離を引き離して隠れるくらいはできるだろう。

 

 走って、転んで、もっかい走って。

 ギャラリーが見えなくなったところまで行ったところでどっと疲れが押し寄せてくる。

 なんという日だ、暴力とは無縁の生活だったから痛む肩がなお痛い。

 

 

 天を見上げれば太陽、地を見れば―――四本脚のニワトリが歩いている。

 ふと周りを見渡せば耳長の少女やら、角の生えたおじさんまでもが跋扈しているではないか。一様にこちらを見ているものだからいたたまれなくて、とりあえずとまた歩き出す。おっちゃん肉まんひとつ、悪い金はない、ダメ?そっかぁ……。

 

 さてはてどうする、まるで世界が変わったようだ、実際そうなんだろう。

 考えるのはまたあの男が追ってこないかと、どこへ行けばいいのかと。

 

 ―――明日のアプデに間に合うか、だった。

 

 

 

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