ポーンギルドの付与術師   作:キョウさん。

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(´・ω・`)なんやブクマふえとるってみてたらランクインしてたのねあへぇ

6/13 誤字報告適用!**たすかる**


11話-メイリオの短剣~魔王剣~

 

 

 ストーリーイベント、というものはネットゲームプレイヤーなら誰もが体験するものだろう。

 

 というより、操作方法を覚えたりクエストの流れを学ぶチュートリアルがストーリーに組み込まれているネットゲームがほとんどだ。その過程でネットゲームにおける“物語”に足を踏み入れたプレイヤーはそのままストーリーを追ってもいいし、横道に外れて世界を楽しむ、ハウジングに勤しむ、ガチャ課金による商人プレイに入る……エトセトラ、やまほど楽しみ方はある。

 とはいえ昨今のゲームは最高のレベリング法がメインクエストのクリアであったりするのも事実であったり、はては特定レベルまで機能が解禁されないなどは日常茶飯事なもので、そうでなくともメインクエストの進行には何かしらの“特典”がついていたりすることはよくあるものだ。

 

 ―――この“魔王剣”も例外なく、その特典であった。

 

「ストーリーイベのクリア特典でありふれたものだけど、性能は折り紙付きだ。自分はあいにくと使うにはステが足りなかったからお蔵入りしてたんだけどまあ……ソードマン系列のジョブ持ちはこの中にもいるし、誰か使えるだろ、なんと業魔爆炎剣なんていうすごいのがつかえる」

 

 ある時、レアドロップによるドロップ武器がMob狩りやボス狩り、PvPを席巻したころの流れとして、“これを持たない者は人間にあらず”のような論調―――つまり“人権装備”といったものが自分のプレイしていたネットゲームにおいてあふれるようになった。

 

 割とどこでもよくあることだがこれの面倒なところはそこに至るまでの過程、低確率のボスドロをひたすら狙う、マーケットに流れる高額の装備を買う、といった点において入手難度が跳ね上がっていたことで、重課金者とそうでない者に大きな格差を生んだとともにこれを持っていないとまともにPTを組んでもらえない、などの事態が発生することにもなった。

 おまけに、これを手に入れた者がその装備を生産するボスを狩り続けるなんてのもあったわけだから未入手者は本当に手に入らなくなるわけで、批判が続出しその対策として生み出された“基準点”の産物がこの魔王シリーズの装備である。

 

ストーリークエストのクリアによって手に入るこの装備の取得を基準にしてエンドコンテンツが設定されたといういわくつきなのだ。

 

「最高の性能、最強の見た目、さいつよの入手難度……あのネットゲームにおいて必要だったのは、どこに基準を置くかだったんだ。それを置かないまま人権装備なんてものを実装しちゃったからステに乖離が発生しちゃうのも当然だったわけで、じゃあ、ここに最高レアの基準を置こうって生み出されたのがこの魔王剣だったんだよ。

 だからこれ以降の装備に関しては魔王剣が基準になされたからインフレも起こさなくなって、人権装備も鳴りをひそめて成功したのさ。まあ新規実装スキルでインフレしたんだけど……あれ、みんな」

 

 興味のあることだとついつい長く語ってしまうのは悪い癖かもしれない。

 だがはてさて、語っているのに誰も止めないのでつい語りきってしまったところで、自分が口を止めたことによって場が静止しているのに気付くのだ、誰もが静まり返りそして、もはや自分などに目が向いてないことに気付く。

 

 皆、魔王剣に目が釘付けである。

 

 禍々しくも洗練され、ゴテゴテとしない程度に装飾が施された運営のデザインセンスを感じさせる逸品。ステータスも最高ランクの登竜門であり申し分なく、自分に適性がないという点を除けば欠点という欠点の見つけられない武器だろう。

 

 見つめるのも仕方ない。

 そんなふうに内心で笑っていると、はて、ニッサがフードをまた深被りしたではないか。

 そんなにこわいの。

 

「……オルカ、これをどこで?いや、これは……“何”?」

「メインクエ報酬の魔王剣」

「あなたに聞くとそうなるのはわかってたけれど……はぁ、いや、はぁ……うん、持ってみても大丈夫?その……呪い装備じゃないわよね?」

「見た目は闇っぽいけど無属性だから大丈夫だし、なんなら呪われてもないしデメリットもないから大丈夫」

「おっけー」

 

 最初に口を出したメイリオの頼みを承諾し、ほら、と手渡す。

 ちょっと武器にしては雑で危なかっただろうか?皆が一歩後ろに引いたので悪いことをしたなと思いつつ、今度は丁寧に両手に乗せて手渡す。黒煙のエフェクトが立っているが別に熱くも冷たくもないようで、なるほどこのあたりは雑だなとちょっとだけ内心笑った。

 

 メイリオはその右手に魔王剣を持つと、はぁ、と一息つく。

 その顔は単純に言えば見惚れているようで、武器というよりは芸術品やあこがれの人物に出会った、憧憬の目といった表現が近いだろう。あの店主ちゃんですら周りをぐるぐる回って四方八方、あちらこちらから穴の空くほど見ているものだから、なるほどこれは確かに価値のあるものである、ということを自身も認識する。

 

 ―――メイリオは少しだけ自分たちから離れると、試し斬りのように一振り、空を切った。

 

 

「すごい、この剣すごい、あたしがついていけない……振ってるのに振り回されてる、そんな感覚。今まで見たどの剣よりもすごくって、強い―――あたしが持ってちゃいけないんじゃないかってくらいに、すごい」

 

 感嘆するメイリオは新しいおもちゃを手にした子供のように手を震わせている。

 

 そういえば装備にも当然、装備可能Lvといったものがあるはずなのだがクリスタルナイフといい魔王剣といい、どうやらここにはそれがあてはまらないらしい。ただメイリオが言うように剣にふりまわされるということは、Lv110装備の魔王剣に対してメイリオのレベルは乖離していると言っていいだろう、レベルが低ければ装備できても、武器についていけないのである。

 

 その理論で行けば自分はLv上限、あらゆる武器を使いこなせるのだが―――このオルカ、STR1である。強烈な攻撃力減衰がかかるせいで草刈りにしか使えないのだ、この強烈な草刈り性能でお値段なんと無料、メインクエストクリアで手に入る優良芝刈り機である

 

「それにしても、またァ……もう、驚かなくなってきたって思ったケド、とんでもないモノばかり持ってるよネ……はぁ、いや……ほんとにこれはホントにもう、なんて言ったらいいか、その、ああっ、ごめん語彙が出せないからニッサ、解析お願いネ!」

「や、やらなきゃダメ……?」

 

 フードを深被りしていたニッサがおずおずと顔を出し、店主ちゃんに聞く。されどやってみなけりゃ先にも進めない、これがなにかも知っておかなきゃいかんどんもんと店主ちゃんが言うものだから、ニッサは名残惜しそうに剣を何度も振っていたメイリオから魔王剣を受け取った。

 

 ここからでも、ニッサの目がまんまるくなって冷や汗が垂れるのがわかる。

 悪いことさせてるな、やっぱりあとでペット用キャンディをあげよう。

 

「……“解析(スペクタクル)”!」

 

 いつものように魔法陣が展開し、魔王剣を調べる。

 

 そういえば気になるのは、こちらでの解析はどこまで調べるのだろう。Lv、名称、攻撃力や防御力、おまけにフレーバーテキストまで調べるのが解析スキルであったものだが、現実的なこの世界だと勝手が違う可能性もありありのありである。

 

「………ほんもの、の、魔王の、剣……?」

「ホンモノって、そんなことはさすがにないでショ……って思いたいケド……」

「いや、いや……!“前の魔王”とは違うかもだけ、ど……!本当に、魔王が、使ってた…!剣だって、わかる……!それに武器としての質も、すごく、すごくて……メイリオがいうとおり、これ、ただの剣じゃない」

「だとしたらァ、こんなモンがここにあるッテのは、とんだ問題な気がするケドなぁ……」

 

 店主ちゃんが苦い顔をして、頭を抱える。

 はてさて、そこまで問題があるのだろうか、強力すぎるといった点であろうか。

 

 なにぶん魔王はもとのネットゲームにおけるラスボス的存在であったのだが、ストーリー上の存在だからカンストプレイヤーにはゆるめの相手だ。はたしてこちらにもいるのだろうかと頭を悩ませつつ、そうしているとカツカツと、上から音が聞こえるのを感じ振り返る。

 

 カツカツ、というよりはガシャガシャであったか、白銀の全身鎧が階段を伝って降りてくるさまは、ああ、アーリン団長のお出ましであった。

 

「実に威圧的な気配を感じて降りてきてみればなるほど、オルカ君がまた何かしてくれたみたいかな?」

「アーリン団長オッスオッス!」

「オッス……ああ、うん、とりあえずは」

 

 またも歩を進めて寄ってくるアーリンは、魔王剣のすぐそばまで寄る。

 そうすると、ほう、とヘルムの下からでもわかる感嘆の声をあげるのだ。

 

 メイリオよりもずっと、思い入れのある声だった。

 

「魔王剣か、私の知っているものと違うが……いや、それよりも遥かに強力だ、実を言うと王都の地下に厳重に保管された先々代魔王の剣があるんだが、それもこれと打ち合わせればポッキリ折れてしまうだろうね……私にはわかる」

「魔王?」

「そのあたりは生きていれば大抵は知ることだと思うんだが……本当に知らないんだねオルカ君は。いいよ説明役を買って出よう」

 

 ほう、この世界のメインクエストの履修というわけだ。

 アーリンはそのまま手頃な椅子を探そうとするものの、テーブルや椅子を軒並み片付けられていたからか適当な樽を転がしてそこに座る。されどさすがに全身鎧、重くて樽が悲鳴を上げだしたので、仕方ないと立ったまま話を続けた。

 

「私が現役……ああ、まあぶいぶい言わせてた頃の話なんだけどね、もう何十年前かなあ……それはそれはひどい戦争があったんだ、それはひどかった」

「ぶいぶい?いくつなんです?」

「女に歳を、と言う歳でもないからね、私はもう70越えてるんじゃないかな」

「はえーすっごい……」

 

 この全身鎧の下にはものすごいおばあさんがいるのだろうか、素顔が気になる。

 でもそれにしたって声は若々しい、何か秘訣があったり。

 

「当時の名残でまだ魔族……が通称かな、彼らはエビリアンとも呼んでいるみたいだが、そんな彼らの首魁が“魔王”だったんだ、当時は平和な時代が続いていたものなんだけどそれまで不干渉を貫いていた亜人や魔族、人類の間に彼らが侵略戦争を仕掛けてね。その魔王が持っていたのが通称“魔王剣”だったんだよ」

「なるほど」

「一度私もあれが振るわれるのを見たことがある。万物を両断するとはあのことを言うんだろう、マナを無尽蔵に吸い込み周囲の命を刈り取り、そして強大な一撃を放つさまは剣というよりもっと、理不尽な存在が近かった。魔王という存在自体後世になってわかったことだが、もともとマナに適正の大きい魔族のなかのいわゆる規格外(イレギュラー)が擁立される存在だったみたいでね、政治に長けているとかそういうわけじゃなかったらしいんだが……なるほどしかし、個の存在がここまで強大になれるものかと思ったよ」

 

「亜人に人類に、魔族に、いろいろやっぱりいるんだなあ、でもなるほど、魔王の設定はあんまり変わらないんだな」

 

 プレイヤーが選べるのは三種のみだったがしかし、人類種(ヒューマン)魔族(ドミニオン)、亜獣人《ミケ》と亜人に連なる存在は確かにいた。自分のこの姿も人類種のアバターであり、なんの変哲もない初期髪である。

 

 ラスボスである魔王も確かに、魔族のイレギュラーであるという設定があり、侵略の末最後にはプレイヤーの手で討たれるシナリオだった。

 

「ふふっ、設定、だなんて面白い言い方をするね。でも本当にそうだった、物語で設定された存在だったってくらいに理不尽だった……それでもまあ私がここに生きているのは、私達にもそんな“設定された人間”がいたからさ、よく吟遊詩人が歌っている“英雄”達なんていう存在がさ……っと、魔王の話だったね」

「英雄も気になるけどでも、先を頼むよ」

「侵略戦争では魔族が“魔王”を、亜人達が“獣王”を、そして人類もまた“覇王”と呼ばれる英雄達を擁立して戦ったんだ、精神的支柱だったかもしれないけどそれが原因で”王立時代”なんて呼ばれ方をされててね、結局みんな死んで戦争が終わってしまったわけだがまあ……そんなわけで、後の世代の今になって彼らの遺した遺物もあるわけだよ」

「なるほど」

「それが魔王剣」

 

 バックグラウンドはある程度似通っているのが通づる物を感ずるが、なるほどこの世界にも魔王剣があるらしい。はてさてスロットはいくつか、売値はどうなるか、パッシブは?アクティブは?付与制限や呪いはあるのだろうか?

 

 そういったものばかり考えてしまうのは悪い癖だろう、このオルカ、付与術師である。

 

「侵略戦争をしていたあの魔王が使っていた魔王剣のはるか上の魔王剣……というと、これがいかにすばらしい性能をしていて、そしていかに危険かは分かってくれると思う。これには値千金の価値があるがしかし、これが表に流れることにより君や我々に降りかかる危険は計り知れないっていうことを先に言っておくよ。もちろん、私には君にお願いすることしかできない」

「もちろんよくわかった……けど、ギルド長なんだし命令できるだろ?お願いっていうのは」

「君、私より強いだろう?」

「えっ」

 

 こやつ、できる。

 

 はてさて、アーリン団長のレベルがいくつかは知らないが、自分のレベルはカンストだからそれを強さの指標にすれば確かに上ということになるのだろうか。事実INT(インテリジェンス)やPER《パーセプション》は上限突破済みなので誰にも負けないだろう。

 

 されどこのオルカ、STR(ストレングス)VIT(バイタリティ)も1である。

 おそらくそこのニッサとはたき合っても勝てない、情けない男である。

 

 フフ……しかし団長、さすが人を見る目はあるものよ。

 

「フフ……このオルカ、運だけなら誰より強いものよ……」

「ははっ!本当に君は面白いね。まあそういうことだから、それはしまっておくといい、歴史にはニッサが強いからほかのことも聞きたいならあとで彼女を頼るといいさ、でも部屋に上がりこんじゃだめだよ?」

「このオルカ、タンスを漁る趣味はないので大丈夫」

「それならよかった」

 

 ヘルムの下ですら笑っているのがわかるアーリン団長の顔を想像しつつ、魔王剣をしまいこむ。店主ちゃんとメイリオが、あっ、とちょっと名残惜しそうな顔をしていたのをていねいにスルーしつつニッサのほっとした顔を見て、これが正しかったんだと自分を納得させた。

 

 さてはて、全部出したらややこしそうなことになってきた。

 ここらでごまかしてもうちょっとでとどめておこうか、悩ましい。

 

 

 




設定わかるないあへぇなんであへぇ~~

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