ポーンギルドの付与術師   作:キョウさん。

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(´・ω・`)たびたびランクインしててヒエーッヒエーッ


14話-メイリオの短剣~夕暮れの写真は苦い~

 

 

 たんこぶを作ったのは多分高校生とか、それくらい以来だろう。あのときはもうちょっと人生が輝いていたかもしれないし、なんとなく平凡だったかもしれない。とりあえず言えるのは頭にときたまたんこぶを作るくらいには動的な人間だったということだ。

 

 写真部だったが。

 

「ごめん、ごめんなさいね?ついその……ちょっと、ああいう大きな音にはトラウマがあって、ね?」

「大丈夫だとも、誰しもトラウマはある……このオルカも小学校の音楽の発表会で笑われたのがトラウマになっていて……」

「はいはい、異常はなーし。大げさに連れてきたけどなんてことないわー……んじゃ、私戻るから」

 

「ありがとリリアナ、あとで飲み物買いに行く時なにかいる?」

「チュケケパブラのエール漬けひとつ~」

「チュケケ……」

 

 メイリオに頭のこぶを冷やされながら、リリアナが言ったチュケケ…に関してまた興味を惹かれる。一体なんなのだチュケケ……チュケケ。

 

「よし、腫れは引いたかしら。……ほんとにごめんなさいね?オルカ」

「気にしなくていい、こちらも派手にやりすぎた」

「あれはまあ……先に言ってくれたら良かったかな……」

 

 攻撃のテストとはいえどんなものかは言っておけばよかった、確かにそうだ。このたんこぶはその罰として受け取っておこう……しかしながら、あのド派手な攻撃はまあ、二度はやるまい、やるまい。

 

 メイリオにもう大丈夫だと言い、部屋に戻ろうとする。

 まだ少し引きずっているようだが本当に大丈夫だと言うと、安心したようだ。

 

 このオルカ、人を落ち着かせるのはそれほど得意ではない。

 

「もう少し器用に喋れればいいのだが……」

「オルカは不器用だからネ、わかるヨー」

「ウギーッ」

 

 単刀直入に言われるとダイレクトヒットが当たるというもの、事実結構苦労してきたし、人と話をするのは苦手なほうだ。テキストチャットなら素晴らしい弁舌を持つのだが実際の対話となるとこうもいかないらしい。

 

 どもるってわけではないが、言葉がうまく出てこない。

 口数が少ないというか不器用というか、まあそのとおりだ。

 

 うぎー。

 

 夕暮れ時ということで太陽は沈みかけており、そのころには皆も仕事を終え暇になるとともに、夕食の準備でこのギルドからも二人ほどいなくなる。いつものギデオン副長と今日はリリアナが補助を担当しているらしい、調理室で煙草吸ってないだろうか。

 

 そうなるとしばし暇ということで廃教会内をうろうろとしていたのだがはて、ところどころ掃除の行き届いているはずの廃教会内にひとつ、ちょっと汚れた感じの階段があるではないか。はてさてこちらはどこにつながっているのだろうか。

 

 好奇心は猫をも殺すが殺され覚悟なしには歩けまい、つかつかと階段を上がるのだ。

 階段は螺旋状になっているようで、しかしそれほど高さのないようですぐに自分を上の階層へと導いてくれる。しかしああ、なるほどこれは階層というほどではない、途中にある扉のひとつが屋根裏部屋へ通じてることから察したがどうやら教会の展望台へ通じる階段だったらしい。

 

 夕暮れが迫っているからもうそれほど遠くまでは見えないがしかし、この街の全貌を見るには十分なほどの景色が一望できるものであった。

 

 

 あたっ。

 

 

「……勝手に入るワルイコはおしおしだヨー」

「ヒエーッ!悪気はないんだつい足が」

「悪気のある脚はこうしてやろか……」

「ヒエーッ! ……店主ちゃんちゃんか」

 

「ちゃんちゃんは余計だヨ、まぁ別に登っても悪くないけどサ」

 

 展望台へ上り景色に感情を撫でられているとうしろからかけられた生意気声に驚きつつ、ああよかった店主ちゃんだあーよかった、とホウキで脚をぺしっと軽く叩かれる。

 

 いつもの赤紫のベレー帽じゃなく白い頭巾をかぶっているからお掃除ついでだったのだろうと思いつつ、しかしそうだ、せっかくいるなら聞いてみようとこの場所のことを彼女に聞いてみることにした。

 

「んまァ灯りつけたりもしてたんだケド、登ってく姿が見えたからサ。おどかしてごめんネー、ってわけでようこそ展望台へ、この場所唯一の自慢で心霊スポットだヨ。 ……大丈夫なん?オルカ付与術師みたいだケドなんもないノ?」

「今異常にかかった、ここを見てくれ鳥肌が……」

「怖がりなだけじゃないのヨ……いやまァね」

 

 店主ちゃんがあちらこちら、自分を見てくる。

 フフッ、そんなに魅力的だろうか。

 

「なーんか魔法使えるのがここ登ると酔うらしいのよネ。オルカは付与術師のはずだケド」

「レベルカンストだから低レベルな呪いの影響は受けないぞ」

「言うゥ~~」

 

 こいつめー、と腰を小突かれ、そのまま店主ちゃんは沈みかけの夕日がよく見える欄干へと移動するのだ。この世には組み合わせると美しいものがある、美女と太陽だ。あいにくと自分に美女の選別はちょっと慣れていないのでわからないが、夕日に店主ちゃんの赤い髪が照らされているのはなかなか映える。

 

 だからはてさて、こういうときは何を言うべきかと思索していると、先に口を開いたのは店主ちゃんだった。

 

「それでー、慣れた?」

「ここでの生活なら、まだ」

「だよねェ、オルカのいた場所がどんなだったかは知らないケド、ウチらのトコとはだーいぶ違うんだろなーってのだけわかるもん」

 

 そうじゃなきゃこんなに何も知らないのはないよね、と。

 

「どこからどうとか、ここにいる連中もそうだかラ詮索しないけどサ」

「……ここにいるのは、個性が強いのばかりに見える」

「控えめな表現にかけては詩人だネ」

「ありがとう」

「どうしたしましテ。まァそのへんは信頼勝ち取って聞いてみるといいヨ……なんならウチのことなら話してもいいケド」

「ほう」

 

 このオルカ、アーカイブ記録に関しては大好きである。

 ゲームにおけるストーリー、裏設定、NPCのエピソードに関しても結構な量を読み漁ったものだ――― とはいってもこの店主ちゃんが現実の存在であることは疑いようもないが、それでも人の秘密やエピソードを聞いてみたくなるのが人間の性である。

 

 自分に関しては……ややつまらないエピソードしかないが。

 

「お願いするよ、こう……親睦のために」

「手付きがいやらしい」

「ウギ……」

 

 仕方ないじゃないやい。

 

「んまァ、ウチの家はいわゆる貧民街、ここの区域でやってたちょっとした商店だったんだケドね」

「なるほど……じゃあ天職だったわけだ、ここは」

「ここに落ち着いたのは天職だったかもだケド、それまでがネ」

「?」

 

 白頭巾が夕日を照り返し、ちょっとだけ目がくらむ。

 それを察したのか頭巾を外していつもの姿を晒すと話を続けた。

 

 少し重そうで、少し吹っ切れたといったようで。

 そんななにげなさとは少し離れた話し方で。

 

「家を出て商業ギルドに入ったのヨ、ここの組合(ギルド)は大きいかラいい修行になるとか、ここでその……現金だけどコネを作って親を楽させよーってサ。でも現実は違ったのヨ、商業ギルドっていうかさぁ……金が好きな連中が集まるとロクなことないんだなって」

「ふむ」

「結局は利己主義(資本家)が作り上げた産業構造のひとつでしかなくって、でっかい権限で商業流通を派手に取り仕切ることで下を絞って上を太らす、そんなもんで……まァそれだけなら良かったんだけどネ」

「どこも資本家は一緒か、でもそれよりひどそうだ」

「まぁネ」

 

 資本主義に共産主義に、社会主義とこちらの世界にも色々出てきたけど。

 やっぱり最適解ってないのかもしれない。どこでも貧富はあるのだろうと、この街を最初に見て思ったことだ。

 

 でもきっと店主ちゃんはもっとこの世界のその側面を見ていたんだろうと、だから聞いてみたいと思い話を聞き続ける。

 

「自分と同期で二人いたんだけどサ……商業ギルドっていろいろ新しく入ってきた人間に”コース”を用意してるんだよネ。どういった道を進むとかサ、んで自分は先輩に弟子入りしてシゴかれるほうにしたんだけどサ、友達は『店舗出店のオーナー』って道を選ばされてサ」

「ああ…」

「よくやるもんだヨ、だまくらかして契約書書かせてオーナーなんて甘い蜜で誘っていったと思ったら実際は計画的にノルマを未達成させて契約違反させるって奴。そしたら契約上の罰金とか、上納金とか、いろいろ重なるわけで……使い潰して借金背負わせて、そしたら奴隷落ち、ハイってサ」

「……まるで中世時代だ、こちらにも奴隷が?」

「“奴隷(スレイブ)”として魔物を扱ってるトコもあるけど、人間だって奴隷に落ちるのサ。そりゃ人を攫って~なんてのはもちろん違法だよ?でも魔法なんて便利なものがあるからサ、犯罪者や借金者、捕虜なんかは隷属できるわけで……人権をいくらか剥奪して、借金を返すまでとか刑期を終えるまでとかそういうのでサ」

「よくないな」

「商業ギルドの欲しがる物ってなんだと思う?」

「給料のいらない従業員」

「大当たり」

 

 すべての資本家の夢、とどこかで聞いたことがある。

 受け売りだが効果的だ、誰だって欲しい。

 

「いまじゃナリを潜めたとか聞いたけど、三年でどこまで変わったもんだか……」

「三年、というと店主ちゃんが本格的にここで働いてもうってことかな」

「ギルドがまだ始まってそれほどまもないころだったかナ、んなのばっかだったから商業ギルドを飛び出してぶらぶらして、あー家にでも帰ろっかな……って思ってたところにアーリンに拾われたってことだねェ。まあ親父ィの昔なじみだったこともあったからサ……んまァ、苦い思い出ばっかりだったけど、ここにきてからは結構いいかなって」

「うむ」

「だから気に入ってくれるといいヨ、ここはいいトコ長くいなーってサ」

「……ありがとう、でもそこまで包み隠さず言っても、良かったのかな。自分のことでも話す?」

 

 話せるほどの話題があったかはともかくとして。

 

「そりゃ大歓迎~だけど、ウチの話をしたのはあれサ、ただ商業ギルドをイヤ~って取引禁止してても納得いかないでショ?なんてったってなんだかんだ彼らここらじゃ最大級なんだしサ。もったいぶって話さないよりも話して納得してもらったほうがいいかなッテ。なまじ自分の大嫌いなモノだったらなおさらさ」

「なるほど、つまり商業ギルドには」

「いっさいがっさい関わらない方がいいのは推奨しとくヨっと、関わったらウチの機嫌がちょっと悪くなるカモ」

「ヒエーッ……」

 

 とはいえ、自分から積極的に悪いものに関わりに行く理由もないだろう。

 店主ちゃんの話はためになるなあ、とともに、そういった悪意にも、やがて慣れていかねばならないのだとほんのりと、心で思う。どこにいたってやっかみから逃れることはできまい、だいたい最初にここで出会った人間ですらあれで――― そういえば彼ら、あれから大丈夫だろうか?そのうち見に行こう。

 

「んじゃ、ウチのことは話したしオルカのことでも話してもらおうかナ」

「面白い話ができないことを最初に宣言しておきます」

「つまんない話だったらウチが面白くしてみんなに伝えといてあげル」

「ヒエーッ……」

 

 あうん、下手な話はできないなこれは。

 といいつつ、はてさて自分が何か話ができるといったら何があるだろうか。

 

 現実における話に関してはううむ、どうやって伝えればいいだろう。故郷の話?実は伝説の場所から来た?遠いところから?ううむ、どれもどうやって来たとかいろいろと矛盾が発生する……このオルカ、話下手である。

 

 そうなるとネトゲだろうか、そういえば今までもネトゲ関係は問題なく話していたなと思いつつ、さてはてではここからどういう話を振るかといった話を考える。そういえばこのあたりの地理どころか、ここがどんな国家かすらまともに知っていなかった、その話をついでに振るのもいいだろう。

 

「じゃあ―――」

 

 自分の話をしよう。

 そう言いかけた言葉だった、それが何か大きな、つんざくような鐘の音に潰された。

 

 カンカンカンカンと、街の外壁上の物見櫓が音の発信源だった。

 

「……?」

「あっちゃァ~……」

「大丈夫だ、当ててみよう、あれは―――」

「緊急警報! ……あー、あー…!」

 

 店主ちゃんがとたんに焦りだし、ホウキをそのへんにほっぽりだすと展望台から身を乗り出して外を見る。外というのも外壁の外で、街の端にあるこの廃教会は街の衛兵が用意してる物見櫓かそれ以上には背が高いので外が簡単に見えるのだ。

 

 はて、肉眼では遠いな、それにもう日が暮れる……ここはふむむ。

 インベントリから出すはなんてことないアイテム、双眼鏡である。

 

「店主ちゃん使う?」

「ありがと! ……えーっと」

「こう、こんな感じ」

 

 望遠鏡しかない世界なのだろうか、ぱっとみ使いみちに戸惑ったのだろう、でもジェスチャーで使い方を投げかけるとすぐに使いこなし、遠方を見る――― ああ、見えてきた。肉眼の自分にすら見えてきたものがあった。

 

 群れだ。

 

「―――トロール」

「自分にも見える、あれは10や20じゃない」

「街にこんな数が……ッ」

「うむむ…」

 

 はてさて、どうしてこのタイミングでこうも間の悪い来客が山程来るのだろうか。

 いかんせんうぎぎとなりつつも、この自分が戦闘には不向きというのは心に刻んでいる。

 

 フードちゃんには特効のある装備を渡してあるが、とてもじゃないが足りないだろう。

 戦いは数とはよく言ったもので、それがリジェネ持ちとなると厄介以外のものではないのである。

 

 そうしているとタタタッ、と駆けてくる音が聞こえた。

 

「チャーニー!オルカ!」

「メイリオか」

「二人は避難の準備して!あんなのこの街じゃ防ぎきれない!」

 

 メイリオが切羽詰まった声で叫び、頼むわね、とだけ最後に残し階段を下っていく。

 見れば街のほうも慌ただしくなっているようで、避難をするのだろう、家財道具や風呂敷包みを持った人々が次から次へと夕暮れ時の家からひっきりなしに飛び出していた。

 

「……この街の兵力じゃあ止められないのか?」

「トロールは金等級の冒険者や狩人が仕留める生き物だヨ、この街には……えーっと確か6人しかいなかったハズ……とてもじゃないけどあの数は」

「そうか……うむむ」

 

 戦闘職でない自分にはトロールのまとめ狩りは正直なところ無理だ。

 自分にできるのは”誰かの背中を押す”、それだけ。

 

 付与術師はいつだって、誰かが戦ってくれるからこそ成り立つのだ。

 

 

「―――ここの人たちは戦うだろうか」

「アーリンもギデオンも、メイリオも、みんなそうする」

「そうか……わかった」

 

 なるほどな。

 

 自分がここに来た意味というものはまだわからない。

 だが降りかかる火の粉も直面する危機も、無視しろというお達しは受けた覚えもないだろう。

 このオルカ、無謀さは少々好きである。

 

「オルカ、そっちは」

「こっちのが早い」

 

 

 ふと下を見れば、皆が正門前に向かって出撃の準備をし走っていた。

 自分たちとその街を護るための戦いに赴くつもりなのだろう。

 

 自分は展望台から飛び降り、屋根を滑ってそのまま飛び降りるのだ。颯爽とした登場、そして時間の短縮、このオルカは戦闘職の皆に比べると足も遅いしなによりSPが足りず息切れしやすいので、こうするのが最適解である。

 

 どしん、と飛び降り、うつむいた顔は夕日の暮れに従って暗闇に落ちる。

 そして――― 微動だにしない。

 

 

 さすがに見かねたのか、店主ちゃんが上から声をかけてきた。

 

「オ、オルカぁ!?」

「フフ……」

 

 フフ……我ら高レベル者の最大の敵がこんなとこにあるなんてな…世界が”現実”になったことをすっかり忘れていた。そうだ、これは我らを大きく害する刃でそして覚悟を崩す必殺の一撃、そう、これは―――。

 

 

 

 

「落下ダメージ痛い……」

 

 

 ごめんしばらく動けそうにない。

 

 

 

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